前世の俺がすでに転生特典決めてました 作:ダイヤモンドリリー
前回の続きです。
クミリアの心肺機能は、停止していた。
……それがなんだ!まだ心臓と呼吸が止まっただけ!雷の直撃のショックで止まってるだけ!まだ死んだわけじゃない!
考えろ...クミリアの命を救うための最善を!
まず、クミリアを救うにはここから出る必要がある。この場でできる回復魔法ではクミリアは助からない。外に出て、どこか適当な町に入ってニアの完全回復魔法を使うしかない。
ここから出る方法は二つある。ボスを倒して出るか、ボス部屋を出て引き返すかだ。だが、後者は論外。あの空間置換迷路をもう一度切り抜けている間に時間切れだ。さっさとボスを倒す他ない。
ボスを倒しにいくのは誰だ?ライトしかいない。俺もクミリアの治療に関わらないといけないから戦えない。一人でいけるか...?
思考を回せ。最善を突き詰めろ。そして動きが止まっている皆に伝えろ。
「ライト!こいつ倒せ!早くここを出るためになるはやで頼む!」
クミリアを抱え、ニアのところに向かいながら指示を飛ばす。
「ステラは弓矢は逆効果だから待機!もしくはボスの近く飛び回ってヘイト買い!どっちがいい!?」
「サポートしてくる!」
ステラがボスの方へと飛んでいく。ステラがボスの周りを飛び回れば、ボスのヘイトがステラとライトを行き来して攻撃の頻度が落ちてくれるはずだ。それが結果的に早期討伐に繋がるはずだ。
「レストは後方待機!クミリアが喰らった空間置換は多分ボスから一番近い人と一番遠い人を入れ替えるものだから後ろに下がってこれ以上の事故を防げ!」
「わかった」
クミリアが雷に打たれた瞬間、入れ替わるように転移したライトはボスから一番遠いところにいた。おそらく、本来は一番後ろにいるであろう魔法使いを引き摺り出すギミックだったのだろう。それがまさかこんなことになるとは...ニアのサポートを受けるために下がっていたせいだ。運が悪いとしか言いようがない。
けど、ここからは運が悪かったじゃ済まされない。運関係なく、確実に命を救う必要がある。
「ニア、呼吸が止まってるから魔法で肺に空気を送り込んでやれ。俺は心臓マッサージしておく」
「わ...わかったわ」
「あと、事故防止のために雷雲晴らしておけ」
「そ、そうね...」
クソ、ニアが動揺しすぎているな。魔法の制御が甘い。一応空気を送り込めているけど、効率が悪い。
だけど、それを気にしている場合でもない。俺もやるべきことをやらなければならない。
小中高と、何度もこう言った心臓マッサージの講習を受けさせられた経験をフル動員する。
真上から、腕をまっすぐ伸ばして、手の付け根に体重を乗せるようにして、胸が五センチ沈むくらいまで押し込み、一分間に百回ちょいくらいのペースを維持する...よし、ちゃんと記憶しているな。
けど、ペースの部分だけ今回はいじる。
今、俺は速度操作をクミリアにかけている。代謝の速度を減速させることで、必要な酸素の量を減らし、身体の衰弱を出来るだけ抑えているのだ。このおかげで、血液を送り出す頻度も少なく済むため心臓マッサージの頻度も減るのだ。
この減速はクミリアをキャッチした瞬間から始めている。完全に代謝の速度をゼロにすることができれば、治療の時間を永遠に確保することもできるのだが...流石にそこまで減速させるには時間がかかりすぎる。早く処置をするしかない。
「ニア。一応聞くが、魔法で止まった心臓を動かすことはできないんだよな?」
「そ...そうよ。傷は治せても、止まった心臓を動かすことは難しいわ」
「難しいってことはできるのか?」
「常に魔力を流し続けてないと死ぬみたいなことになるなら」
じゃあダメだ。ニアの回復魔法でも心臓を動かすことはできない。そうなると、どうにかして止まった心臓を動かす必要がある。
「ひとまずニアは空気を送り込みながら出来るだけ外傷を治してやってくれ。俺は心臓を動かす方法を考える」
と言ってもだ。どうやって心臓を動かす?このまま心臓マッサージをし続けていても、延命にしかならない。心臓が動き始めるわけではない。AEDのようなものがなければ、心臓は動きださな...
AED?
AED...自動体外式除細動器は電気ショックを心臓に与え、心室細動を解消して心臓を正常に動かすためのものだ。
心臓は本当に止まっているのか?正常に動いていないから止まってると勘違いしただけでは?速度探知は、僅かな心臓の動きを検知しているぞ!
これが本当に心室細動ならば、電気ショックを与えれば治るかもしれない。AEDはないが、俺には雷装がある。俺自身がAEDとなれば、クミリアを救えるかもしれない。
……本当に?そんなことできるのか?雷の直撃を受けて止まった心臓を、そんな電気ショックなんかで動かせるのか...?
「……あっ」
蘇ってきたのは、二つの記憶。
一つは、俺が雷装を手に入れるきっかけとなったあの時のこと。
俺はあの時、雷の直撃を受けて今のクミリアのように気絶した。もしその時、俺も心臓が止まっていたとしたら?そして、目覚めるキッカケとなったもう一度の雷の直撃が、もし奇跡的にAEDのような役割を果たしていたとしたら...?
けれど、これは仮定に仮定を重ねていて、さらに奇跡的な状況が起きていないと有り得ないから、実際にはただ気絶しただけなのかもしれない。
けれど、もう一つの記憶は確証がある。
もう一つの記憶は、アクセルが雷装を手に入れた時の記憶。俺の充填器の電撃を喰らって倒れたアクセル。その後、魔素操作の魔族が来てアクセルを回復させた。
その、回復させる直前。あの魔族、たしか「止まってる」とかなんとか言っていたはずだ。もし、それが心臓が止まっているということを意味していたとしたら?
今思い返すと、あの魔族がアクセルを回復させた時、光が走ってアクセルの身体がビクンと跳ねていた。魔素操作の魔族は、今日の朝の戦闘で電気を扱うこともわかっている。止まった心臓に電流を流して蘇生させたのだろう。
全て繋がった。AEDの要領で、心臓に電流を流せば助かるかもしれない。
けれど、まだ不安材料がある。
一つ、雷装の威力の調整が難しいこと。たしか、電圧が1200から2000ボルトで、電流が30から50アンペアほど、電気が流れる時間は数ミリ秒から十数ミリ秒程度とかだったはず。それを再現し切れるかわからない。
アクセルの蘇生は、少し乱暴でも良かったはずだ。魔族の素の耐久力が高いため、多少電圧が高かったり流す時間が長かったとしてもダメージにはならないだろう。
そのいい加減さを今持ち込むわけにはいかない。ただでさえ衰弱している状態に、そんな電撃を加えてしまえば追い討ちにしかならない。下手すればそれだけで死んでしまうかもしれない。
もう一つは、後遺症が残る可能性があること。的確な処置ができて、たとえ命が助かったとしても、後遺症が残ることは大いに考えられる。白内障などの目の病気や、体が痺れて動きづらいなどの後遺症が残る恐れがある。
……いや、これは雷装でクミリアを救わない理由にはならない!後遺症なんて気にしてられるか!今は命を救うことだけを考えろ!命さえ救えば、ニアの完全回復がある!俺だって今健康体なのだから、クミリアだってそうなる!もし目が見えなくなったって、俺が目の代わりをしてやればいい!体が動きづらくなったって、魔法でサポートすればいい!テトラを使って体を動かせばいい!
今は!命を救うことだけ考えるんだ!できるできないじゃない!やるんだ!
「助ける算段がついた。雷装で心臓に電流を流して、心臓の動きを正常化させる」
心を燃やし、けれどミスをしないよう燃える心を内に秘め、冷静にニアに指示を出す。
「っ...カリヤが言うならできるんでしょうね!」
「ああ。俺ならできる。けど、それをするにはできるだけ直接肌に触れる必要があるんだが...」
「さっさと服を破くわよ。後で直すから気にせずやりなさい」
……何か言われるかと思ったが、流石に人命救助の状況で言うわけないか。俺が速度探知で既に色々見えてしまっているからってのもありそうだが。
ニアの了承を得たので、服を一部分破り取る。そして右の鎖骨の下に左手を、左の脇腹の辺りに右手を当てる。
「空気送り込むのは離れててもできるよな?危ないから少し離れてくれ」
AEDの手順をそのまま再現する。パッドを貼る位置と手の位置を合わせた。AEDとなった俺及び心肺停止者であるクミリアからニアを遠ざけた。あとは、電流を流すだけ。
雷装と魔力を同期させる。少しでも成功率を上げるため、魔力操作の要領で正確に電流を流せるようにする。
これで全ての準備は完了した。あとは、出来るだけ思考速度を加速させ、数ミリ秒だけ電流を流すだけ。
深い、深い深呼吸をする。精神の集中。無駄な思考を捨て、必要なことだけ考える。
一度で成功するとは思っていない。心臓が動き出すまで、何度も何度も電気ショックを与える。クミリアが戻って来るまで...!
「寝てねぇでよォ...戻ってこい!クミリアァッ!」
雷装が走り、心臓を貫く。クミリアの体が跳ねた。
「ライト!こいつ倒せ!早くここを出るためになるはやで頼む!」
カリヤから指示が飛んでくる。
……そうか、クミリアはまだ死んでないんだね。すぐに外に出るために、僕にボスを倒せと...
「やるしか...ない!」
クミリアが傷ついたのは僕のせいだ。僕が早くボスを倒せなかったから。そして、トドメを刺すには過剰なほどの電気を聖剣に纏わせてしまったから。そのせいで空間置換を許してしまい、雷が暴発してクミリアに落ちてしまった。
だから、クミリアを救うためにも、こいつは一瞬で殺さないといけない。
『聖剣展開』
鞘を展開して、バフを解放する。そして既に発動している雷装を聖剣に纏わせる。天の怒りは過剰になるからもういらない。これだけで決着をつける。
まずは近づき、手を狙う。ボスの前側はもう歯車を射出することはできなくなっているけど、手のひらからはまだできる。あと足先もだ。そこを潰さないと、クミリアを治療しているであろうニアとカリヤに攻撃が飛んでいってしまうかもしれない。それを防ぐために近づいてヘイトを買い、手と足を潰そう。
ボスの手のひらから歯車が飛んでくる。雷装を纏わせている聖剣で弾こうとすれば爆発してしまうので、走って避ける。
「っ、ステラ⁉︎」
後ろからステラが飛んでくる。矢は空間置換があるから危な...飛んでるだけ?カリヤの指示か。ヘイトを買ってくれてるんだろう。助かるけど危なくならない程度にやってほしい...けどありがとうおかげで近づけた!
「ぶった斬れろ...!」
まずは片腕を斬り飛ばすことに成功する。爆発が起き、傷口から大量の歯車が溢れ出す。これを使えば...!
しばらく歯車が出るのを待ってから電流を流す。それにより、腕から足のあたりにかけて爆発が起こった。今ので左足を失ったため、あとは右腕だけなんとかすればもうクミリアたちのところに向かって飛んでいくことはないだろう。
そして、ステラがボスの気をひいてくれているためそっちに近づくのももはや容易だ。
地面を蹴って腕に向かって跳び、聖剣を振る。刃は一度も止まることなく腕を斬り飛ばし、すぐに爆発を引き起こす。
これで四肢はもいだ。次は首。それでも死なないなら細切れにして完全に破壊してやる。
「さっさと消えてくれ...!」
首に向かって跳び...⁉︎
クミリアの時みたいなことをされた!入れ替わったのは...レスト⁉︎なら安心!すぐに戻る!
一瞬でボスのところまで近づく。それと同時に、ステラがクミリアたちのいる方向へと飛んでいく。
「あの空間置換は一番近いのと遠いのが入れ替わるように起こるからステラが下がった!僕が攻撃を引き寄せるから早く攻撃を!」
なんでステラが下がったのかの疑問を質問するよりも前にレストが解消してくれた。なるほどそういう理屈か。
「それならちょっと乱暴するけど許して!」
ぐっとレストの服を掴み、ボスの首辺りを目掛けてレストをぶん投げる。そしてその後ろを追うように跳ぶ。
さっきレストが説明した空間置換が発動するのは、おそらくボスに一定以上の距離に近づいた時だろう。僕やニアの魔法が喰らった空間置換とは発動条件が違うんだろうけど、なぜ今こんな条件になったのかはわからない。ボスのダメージ量とかそんなとこなんだろうけど、今は関係ない。
重要なのは、近づいたらというところ。そして、一度発動したらしばらくの間発動しなくなるはず。そうでなきゃ、永遠と二人で位置を入れ替え続けることになるからだ。
だから、この戦法が通用する。レストを投げたことにより、レストと一番遠くにいたステラが入れ替わる。そしてステラはすぐにその場から飛んで離れてくれた。これでもう妨害がない。
「終わりだ...!」
ザクゥッとボスの首に聖剣が突き刺さる。電流がボス体内に撒き散らされ、全身が内側から爆発していく。
「よし、これで出れる...!」
扉が現れたことを確認してから、カリヤたちのところまで向かう。
「ボスは倒した!クミリアは...」
「応急処置は終わった。急いでカイスに戻るぞ」
カリヤがクミリアを抱えていた。よかった...とりあえずは治せたんだね。あとはカイスでニアが完全回復させるだけ...
「これに掴まれ。最高速度で突っ走る」
カリヤは水の触手を出したけど...これに掴まるの?掴まるというか捕まるじゃない?...あっ、意外と硬い。
「いくぞ。衝撃に備えな!」
全員が触手に掴まったのを確認してから、カリヤは走り出す。最速でボス部屋から出て、横穴を抜ける。
「目ぇ回んないように閉じときな」
穴の外に出るために登る必要のある、螺旋状の坂。僕達に配慮してから登り始めてくれる。緊急事態なのに、こういうところ優しいよねカリヤって...
……たしかに、これ目を開けてたら酔ってたかも。それに加えて遠心力が辛い。内臓が揺れる感じがする。なんなら目を閉じていても辛いかも...ある程度は触手で振動を抑えてくれているけどね。それでもまだ揺れてる。
けど、この感覚だともうそろそろで外に出れるはず...っ⁉︎
びっくりした...急に横っ飛びした?いったい何が...目を開けてみよう。
「……嘘でしょ。こんな時に...!」
「魔族...アクセル!」
目を開けると、そこにはアクセルがいた。攻撃を避けるために、横っ飛びをしたのだろう。
こんな時に...どうしてこのタイミングで来るんだ!今日の朝にも魔族が襲ってきた。示し合わせていたのか...?急がないといけないってのに...!
「カリヤ...足止め頼めるかしら?クミリアは私が連れていくわ」
ニアが小声でカリヤに言う。たしかに、アクセルはカリヤに固執している。カリヤを差し出せば...って、それでいいのか?
「たしかにそれも手っ取り早いけど...もっといい方法がある」
カリヤはニアに答えてから、真っ直ぐアクセルの方を見る。
「悪いなアクセル。今ちょっと立て込んでいてな...戦ってる暇はないんだ」
「……何があったんだ?」
「仲間が負傷しててな。すぐに治さないとやばいんだ。ってなわけで、勝負は後でってことで...頼む」
魔族相手に交渉...⁉︎そんなの通るわけが...いや、カリヤなら...?
「……しょうがないな。行け」
「マジありがとうアクセル...!」
まさかこの要求が通るなんて...カリヤがいないと無理だったね。
急いでカイスに向かうために、カリヤは次元転移を使ってゲートを開く。後ろを見ると、なんか手を振ってる魔族がいた。なんでカリヤの言うことを聞くんだこの魔族は...関係性がいまだにわからない。同じ速度で戦える相手だから...というのが一番理由としてありえそうだけど、魔族の考えることはわからないな。
「カイス着くぞ!どこで治すんだニア!」
「宿に連れて行きなさい!そのまま寝かすわよ!」
「了解!」
ゲートを抜け、カイスに入る僕たち。そのまま人にぶつからないようにカリヤは走り抜け、宿に入る。
「着いたぞ!ニア頼む!」
「始めるわ!」
ベッドに寝かせたクミリアに、ニアが魔法を行使する。
白い光が、クミリアを包み込んだ。
「これで...大丈夫なはずよ。ひとまず、傷は全て治したわ」
ニアの完全回復は無事成功した。俺の雷装での心肺蘇生も二回目で成功しており、心臓はきちんと動いている。呼吸も正常だ。
「傷は全て治した...けど、内臓機能だとか、神経とかまでちゃんと治ったかはわからないわ。もしかしたら後遺症が残ってしまうかも...」
「それは大丈夫なはずだ。俺だってライトだって、ニアの魔法で助かったんだ。後遺症も無しにだぜ?それに、あの時よりもニアの魔法も上達してるだろ?ちゃんと治ってるはずさ」
「そう...かしら。もしクミリアが治らなかったら、私...」
「心配すんな。自分の実力を信じろ。そして、クミリアも信じてやれ。クミリアは起きるさ」
「信じる...ね。そうね。信じなきゃね」
「まぁ、いつ起きるかはわからないけどな。俺の時だって、一週間寝込んだし」
「なんで不安にさせること言うかな...?」
「ライトはどれくらい寝込んだ?」
「僕は翌日には動けるようになったよ」
「あら強い。勇者候補だからか...?まぁクミリアもそれぐらい早く起きるだろ。心配なら隣にいてやりな。どうせ一日町から出られないんだしな」
「カリヤ...どこに行く気?」
部屋を出て行こうとしたら、ニアに呼び止められる。
「ちょっと、罪滅ぼしにな...」
部屋を出て、そのままの足でカイスからも出る。
「お前なら、ここで待ってると思っていたよ」
門から少し離れたところで、アクセルが待っていた。
「来たってことは、戦ってくれるんだよな?」
「ああ、戦うよ。けど、場所を変えよう。あとちょっと話に付き合え」
「……?わかった」
アクセルと歩いて移動する...冷静になって考えてみると、魔族と横並びになって歩くなんていう貴重な経験してるな俺。まぁそれは置いといて...だ。
「それで、話とはなんだい?」
「さっき、仲間が負傷したつったろ?一時は本当にヤバくてな。雷に打たれて、心臓も呼吸も止まってたんだ」
「私と同じだな」
やっぱりあの時心臓止まってたんだな...いや、それも今は関係ないか。
「そうなった原因は色々あって、色々な不幸と偶然が重なって起きたことだった。けど、元を辿れば俺のせいだ。もっと早くボスを、この手で倒せていればこうはならなかった」
ああなる前、俺は余計なことを大量に考えてしまっていた。やれ俺がでしゃばる必要はないだとか、やれみんなに戦ってもらいたいとか、今回はサポートに徹しようとか...そんなことを考える前に行動しろってんだ。
ああ、このトドメを刺せないこの体質が恨めしい。俺があのボスを殺せていれば、クミリアが雷に打たれることはなかったはずだ。
「でも、誰が悪いって話、あそこじゃできるわけないだろ?それに、俺が悪いんだって言えば、みんな優しいからそんなことはないって言うはず。そして自分が悪かったんだって話をしだす。そういう雰囲気にさせたくなかった」
なら罪滅ぼしだなんだってのも言うなよって話なんだがな...
「そんな話を、なぜ私にするんだ?」
「……敵同士だからかな、多分。敵だからこそ、味方には見せられない姿を見せれるんだ」
「そのために魔族に相談ねぇ...フロートだったら大笑いだ」
「だろうな。けど、お前ならちゃんと聞いてくれると思ってな」
「やけに信頼されているんだな私」
「そりゃお互い様だろ」
ほんと、この奇妙な信頼関係はなんなんだろうな...
「お前が仲間だったらどれほど良かったことか...」
「敵だからこそ話せると言ったばかりじゃないか。変なことを言うんだな」
「……だな。やっぱまだ動転してるのかな俺も」
心の中では、まだクミリアがちゃんと起きてくれるか心配なのだろう。
「……さて。ここまでも本題だが、こっからも本題だ」
「なんだい?」
「これから俺たちは戦うわけだが、今回は別に殺し合いをするわけじゃない。なんていうか...俺の俺に対する苛立ちを晴らしてほしいんだ」
「……戦って気分転換がしたいということか?」
「端的に言えばそうだな」
「人間が魔族に頼むことじゃないぞ...わかった、それでいい。元からこっちだって、暇つぶしに来ただけだしな」
「雷装無しのカジュアル戦でいこう。アクセル、俺の心を晴らしてくれ」
「お安い御用さ!」
お互いの拳同士がぶつかる。
今ここに、人間対魔族のケンカごっこが勃発した。
なんか、アクセルが心の支えになってませんかね...どうしてこうなった?
あっ、ちなみにアクセルとのケンカごっこの描写はしません。
次回は普通の日常回になる予定です。