前世の俺がすでに転生特典決めてました 作:ダイヤモンドリリー
先に言います。
カリヤくん無双です。
「へ?」
……なんか、元いた場所とは別の場所に飛ばされた。
でも、見た目は一緒。シレンの穴の底だ。
別の場所だと断言できたのは、みんながいなかったことと、ここに聖素しか存在していなかったからだ。
「ってなに⁉︎」
急に上向きに引っ張られ、勢いよく空へとフライアウェイする。
「ほんと何が起こってるのかわかんないけどとりあえずなんか来たね!」
上へと引っ張られた俺は、そっから南側へと勢いよく引っ張られる。そのまま女神の山辺りまで引っ張られ続け...山の頂上にいる人と目が合う。
「お前の仕業か?見た感じそうだよなァ!」
とりあえずこいつに襲われているのだと断定し、意図的に口調を荒くして戦闘モードに意識を切り替える。
引っ張られそのまま地面に叩きつけられそうになったところを、速度操作でタイミングをずらして足を下に持ってく時間を作って着地する。
「……そのうなじの紋章...まさか、マジモンの神の使い?」
俺を襲ったのは、うなじに紋章を持った人間だった。すなわち、神の使い。一瞬だけ近づいた時に紋章を速度探知で捉えることができた。
だが、それよりも気になることがあった。左手にも、別の紋章があったのだ。うなじにあった紋章とは少し模様が異なるが...なるほど、紋章が偽物とか言われたのは、これが原因か。神様ミスりやがったな。
「……なるほど、大体理解したぞ」
ここに飛ばされる直前に聞いたアナウンスは、こう言った。「最終訓練を改変。目的。魔族抹殺。時空間移動開始」と。つまり、もともと訓練としてあった、歴代神の使いとの戦闘をガチ仕様に変えて、魔族だと疑われている俺を抹殺する機能に仕立て上げたわけだ。
そう考えてみると、これは実に理にかなっている。どうやらここは聖界と呼ばれる場所のようで、シレンの穴の中とは真反対に、聖素が全てを覆い尽くしている。もし俺が本物の魔族だったならば、完全に弱体化を喰らっていただろう。そして、聖素で強化された歴代神の使いにボコボコにされて殺されていたはずだ。
誤算なのは、俺が本当は人間であること。神の使いと同じように、聖素のバフを完全に受け取ることができる。強化幅は同じだ。つまり、元の実力差が勝敗を握ることになる。
「ってことで、まずはお前からだ!『
装備を取り付け、ダガーを握りながら目の前の神の使いに向かって走る。
「さっきのでお前の力がなんなのか全てわかっている!」
こいつの能力は、見えない手のようなものを作り出す力。もっと正確に言うと、手の形をした力場を作り出す力だ。さっき引っ張られている時に速度探知を起動したら、周囲の重力の向きがおかしなことになっているのに気づいた。引力と斥力を使い、あそこからここまで引っ張り上げたわけだ。
わかっていることは、引力と斥力の力場を作れること。電場や磁場まで作れるのかはわからない。磁場は作れそうだけど、電場は電気に対する知識が少ないから作れなさそうだ。
射程はめっちゃ長い。腕の長さは自由だろうから、近距離でも普通に使えるだろう。腕の数は不明。幾つ出せるのかはわからない。
ここまでの思考を、走り出してから二歩までの間に済ませ、神の使いに近づく。所々に斥力で作られた手の壁があるが、それをあらかじめ察知して避けていく。こんな守り、簡単に抜けられる...!
「甘い甘い!ブランクあんじゃねぇかァ?」
背後から迫ってくる引力の手からも逃れつつ、針を通すように地を駆け力場の守りを走り抜けていく。
「いつの時代の使いか知らねぇが、ちったぁ弱すぎねぇかァ!その腕もらうぞ!」
神様が前に教えてくれた。神の使いの能力は、紋章に宿っている。そこを切り落とせば、少しの間力を使えなくなる。そしておそらくは、能力が宿っている紋章はうなじではなく左手の方。それを切り飛ばせれば...!
ギリギリまで近づくことに成功した俺は、スパッとダガーでその腕を斬り飛ばす。その直前に引力の腕に捕まってしまい、後方に引き寄せられたがもう関係ない。とっくに腕は切っている。
ここから二秒。能力を使えなくなる時間はたったの二秒だけだ。二秒経つと、驚異的な再生力で腕が生えてきて、紋章が復活すると同時に能力の使用が可能になる。どこの○条さんだよと言いたくもなるが...二秒あれば十分だよな?
引っ張られて着地までおよそ0.3秒。離された距離は五メートル。で、俺の速度は秒速70メートル。走り始めて0.1秒もかからずに神の使いに再接近、ダガーが首筋に突きつけられ...
「あばよ」
文字通り、一瞬で首が飛んだ。
「……んで、倒したけど、これどうすればいいんだ?」
とりあえず襲ってきたから倒したが...俺がすべきことはみんなのもとへ帰還することだ。神の使いを倒すことは最優先ではない。
「どうやったら戻れるんだろう...そもそも、戻る方法あるんだろうな?」
何一つわからない。ならば、以前の経験から、やることは一つ。
「とりあえずシレンの穴に戻ってみるか!」
元の世界に酷似した空間に放り出されたって状況は、前にもあった。あの時は、シレンの穴があった場所に行けば攻略完了となった。そもそもここに来た時、初めにいた場所はシレンの穴だった。入り口があそこなんだから、出口もそこと考えるのが自然だろう。
「これが訓練の改変だとすれば、あの場所に戻ることが本来の終了条件のはず。そこに向かう間に、歴代神の使いが襲ってくるわけか...」
ここで待っていたら向こうから襲いかかってくるのではなく、移動するのを待ち構える形で遭遇することになるだろう。
「そりゃ好都合だな...全力ダッシュで駆け抜けてやるぜ」
俺の走りについてこれるやつはそうそういない。大抵のやつは戦わずして突破できるだろう。
「それじゃ行きますか...!」
加速を最大にして、北に向かって飛び出して...
「へ?」
山から飛び出したら、いつのまにか頂上に戻っていた。
「……ああ、そういや女神の山って順路通りに通らないと戻されるんだっけ?」
ならなんでここに来るときは大丈夫だったんだって疑問が出てくるが...まぁアイツらに都合のいいようにルールを変えられるってことにしておこう。
「ってことは絶対待ち構えてんじゃん...しゃーないなぁ」
仕方なく、普通に順路を走る。カーブだからほんの少しだけ速度を落とす必要があるが...神の使いが出てきたとしても、そのまま無視して走り抜けよう。
「……っぱここで出てくるよなァ!」
女神の山の中腹内部に存在する大空洞。そこで神の使いが二人待ち構えていた。
「ちょっと通らせてもらうよお勤めお疲れさん!」
二人の上を飛び越え、そのまま出口に...
「チッ、結界か何かか?面倒な...」
見えない壁のような物で出口が塞がれてしまっていた。どうやら、こいつらを倒さないと先には進ませてくれないらしい。
「面倒いなぁ...ってそうか、魔力回復できるし、さっさと本気出していいのか」
4571ページ 黒のみ 触手・水
『雷装』
『色彩剣装 無彩・黒』
背中から水の触手を生やして剣の形にし、ダガーに黒い光を纏わせる。
「少なくとも片方は結界使い、もう片方は不明だな。両方結界使いの可能性はあるけど、一旦それらしい方だけ倒すか」
あの壁さえなければ、こいつらと戦闘する義理はない。壁を作ってる方をさっさと倒して、先に進みたい。
「じゃあ...右のお前、お前からだ」
一瞬で神の使いに近づき、未来からの斬撃と触手の斬撃を与える。
「……お前じゃねぇな。左だったか」
攻撃が普通に当たり、右の神の使いの胴体が切断された。結界使いの方なら能力で身を守るはずだ。だから結界はこっちじゃない。
「ほら、耐えてみろ」
触手を振り回し、神の使いに攻撃する。
「……自分で言っててなんだが、意外と耐えるな...」
大ぶりの切断攻撃は、いくら速いとはいえ軌道を先読みさえできれば、あらかじめ壁を作ることで受け止められるし、実際そうなっている。だが、動きの小さい突きの動きは見えた時にはもう遅い。的確に動体を貫き、動きを鈍らせる。未来からの斬撃も織り混ぜ、少しずつ傷を増やしていき...!
「腕もらったァ!」
ついに触手が左腕を捉え、一瞬で切断する。このまま二秒で脱出できなくもないが、一応トドメを刺しておこう。
「これで二人目...⁉︎」
腕を切り飛ばした流れでそのまま首も持っていこうとしたその時だった。
神の使いの全身を結界が覆い、触手を完全に防いでしまった。
「なん、で...なるほどお前か!」
背後から、最初に切断したはずの神の使いが襲いかかってきていた。傷が完全に塞がっているのを見るに、おそらくもう片方の能力は治癒系の能力だったのだろう。
トリックはこうだ。最初に切断した方が、結界使いだった。そこでわざと切られることで俺の意識から外れ、もう片方の治癒で復活。離れたところから結界を貼ってもう片方が攻撃を受けるのを防ぐ。これで、俺の中で能力の持ち主が反転する。
「面白いことするなぁ...」
だが、もう認識は戻った。結界使いを集中攻撃することができる。でも超再生が厄介だから、二人同時に一撃で仕留めておこう。
「全身囲ってるようだけど...足元がお留守だぜ」
二人の身の回りを結界が完全に覆っていたが、地面まで覆うことをしていなかったために、地面から生えた雷撃剣が腕を切断する。
「これで終わり...!」
結界使いの方に近づき、その胸にダガーを突き刺す。そして引き抜くと同時に蹴り付け、超再生の方へと跳んで触手の剣で首を切断する。
「ふぅ...先に進むか」
結界が消えたのを確認してから先に進む。
「なんで足元覆わなかったんだろ...制約でもあるのかな?」
走りながら考える。さっきの攻撃、足元まで完全に結界で覆っていれば受け止められたはずだ。移動が出来なくなるとかあるのだろうか...まぁ、完全に覆っていたとしても、どのみち結末は変わらなかっただろう。速度操作で結界中に干渉して、空気の温度を変えて攻撃すればいいだけ。死ぬことに変わりはない。
「まぁいいや。もう二度と会わないだろうし」
そんなことを考えている間に、女神の山を抜ける。
「町は...どうせ待ち伏せされてるだろうし迂回するか」
普通なら、何時間もかけて歩くことでシレンの穴まで戻ることになるだろう。その最中にある休憩スポットの町。そこに待ち伏せがないはずがない。避けるのが無難だろう。
「迂回してもそんな時間かかんないし...妨害無しで十五分かな」
頭の中で地図を思い浮かべ、ルートを大体で決めてから走りだした。
「やっぱどっかしらで来るとは思ってたよ!」
走り出してから三分。上から飛んできた何かを左腕の盾で弾き飛ばしながら叫ぶ。
「魔物?んなわけないよな...変身能力か?」
聖素で満たされてるこの世界に魔物はいないはず。だから、空から飛来してきた異形の鳥は、神の使いが能力で変身したものだと推測する。
「空なら攻撃されないとでも思ったか?甘いぞ!」
刀を構え...懐かしの必殺技を!
1203ページ左下 黒のみ 水刃
「『雷装』水刃!」
雷を纏った水の刃が放たれ...鳥を切断する。
「……消えた⁉︎」
切断した瞬間に鳥が消滅した。変身能力じゃないのか?まさか野良魔物なわけないし...
「ってことは召喚系か?使い魔とかその類...っぽいな」
空から大量に同じ鳥の魔物が襲いかかってくる。回避と同時にダガーで切り付けて消滅させていくが...かなり数が多いな。切っても切っても来るな。
「こりゃ元を叩くしかないか...」
神の使いを倒して召喚を止める他ない。空から魔物が襲ってきてるのだから、裏をかかれてさえいなければ、神の使いは空にいるはず...
「見つけた。でもだいぶ遠いな...」
遥か彼方空の向こうに、魔物の背中に乗った人影を見つける。
「弓矢は...届くけど避けられるなこりゃ」
弦の戻る速度を加速させれば、速度のある矢を放つことができ、あの場所まで届かせること自体は可能だが、相手も馬鹿じゃない。避けるに決まっている。
弓矢がダメだとすると、あそこに俺自身が行くしかない。だが、俺は飛行魔法が少し苦手だ。魔力もそれなりに使うし、何より制御が難しい。跳んだり走ったりする方が向いている。無理して使ったとしてもあの高さまで飛ぶことは難しいし、そこから戦闘となると少し大変だ。
となると、取れる行動は後一つ...
「荒技するしかねぇよなァ!」
無数に飛んでくる鳥の魔物。その背中を踏みつけ、空に躍り出る。落ちる前にすぐ別の鳥を踏んでさらに上へと駆け上がっていく。
「敵の攻撃を利用しての移動とかあるあるだよなァ!ほーらもう着いたぞ!」
一瞬で神の使いの上まで移動する。そして刀を鞘に押し込んで...!
「終わりだっ!」
音速の斬撃が神の使いの首を一太刀で切断する。
「……これ、どうしよ」
神の使いを殺したことで鳥が消滅する。ってなわけで、足場を失った俺は落下していく。
「……このままシレンの穴近くまで降下していくか」
落下速度を落とし、斜め下へと降下していく。このままいけば、王都を超えて少し先くらいのところで着地できるはず...
「お、落下地点に一人いやがるな。何の能力かは知らんが、ここは利用させてもらうぞ...!」
落下しながら、俺は構えた。
『反撃流』
神の使いとの衝突直前に反撃流を発動、落下エネルギーや衝突の衝撃を全て拳に移し、そのまま神の使いを殴り飛ばす。
「ふぅ...着地完了っと」
頭蓋が陥没した神の使いを横目に見ながら呟く。障害を取り除きながら安全に着地できたからよかったよかった。
「よし、もう一走り行くか」
走り出そうとしたその時だった。
走り出そうとした体勢のまま完全に動けなくなってしまう。空気を固定してるわけじゃなくて、俺の体だけを止めてるみたいだ。呼吸だけはできる。だけど、目を動かすことができないからどんどん眼が乾燥してすごい痛くなってくる。
さっき倒した奴の能力じゃないはずだ。こいつは完全に死んでいる。別の神の使いの能力だ。どこかにいるはずだ。半径六メートルにさえ入ってくれれば場所がわかるようになる。隠れてないで出て来い。
……来た。というか、真正面に来たぞ。はっきりとこの目で姿を捉える。
おう、いい度胸だな...そう心の中で呟いていたら、急に俺の体が意志と反してゆっくりと動きだす。ダガーを引き抜いて、俺の首元まで持ってこようとする。
なるほど、身体の制御を乗っ取る力か。これで自殺させようって、神の使いがやっていい攻撃じゃないと思うんだが...
これで俺を殺せるだなんて、甘く見られたもんだな。
『雷装』
「どうやら、あんたの能力は雷装と相性悪いみたいだなァ?」
おそらく、こいつの能力は神経の信号を操作する能力。それによって俺の身体を自由に動かしていたわけだが...雷装という信号で俺が直接筋肉を動かせば、身体の制御を奪い返すことができる。俺に体を乗っ取る系の能力は通用しない。
「他に力もないみたいだし?そのまま死んでもらおうか」
手に持たされていたダガーで神の使いの首を飛ばす。
「ふぅ...スタミナ回復も早いけど、何より魔力回復が早いな。あっという間だ...」
空間全てが聖域だから、いつでも魔力回復速度最大だ。そうなると、生半可な魔法は使ってもすぐに回復し切る。魔力切れが起こる可能性は億万一もない。
「……ってことは、もしかして略奪とかもホイホイ使えるのでは?次会ったらやってみっか」
再度シレンの穴に向かって走り出した。
「……ゴール目前に一人はっけーん」
シレンの穴の入り口付近に一人立っているのを目視で確認する。こっちに気づいてるかわからないけど...さっさと始末しよう。
この距離だと、一秒後には射程距離に入る。ダガーを構えて、神の使いの首を...
「んぐっ⁉︎」
突如、心臓を鷲掴みにされたような痛みが走る。痛みに耐えかね、能力が解除されてしまう。急な減速に対応できず、足がもつれて地面を転がる。
「略奪...みたいなことか」
能力が使えなくなっている。ただ、魂を引っ張ろうとする略奪とは違い、どちらかと言えば握りしめられている感覚に近い。
これまでの神の使いたちの能力は、何を目的とした能力なのか分かりかねたが、こいつはハッキリとしている。魔族の固有能力封じだ。
「……ハッ、魔法拡散まで使ってくるか...」
初めて能力以外の力を見せたな。普通の魔法も使えたのか...いや、使わせる前に俺が倒してただけか。
「魔法も能力も使えない、ねぇ...魔族ならそれだけで終わりだったろうよ」
魔法拡散も使われたし、略奪はお預けだな。速度操作も魔法も無しでこいつを倒さないといけない。
「だが、俺は人間だ。魔族じゃない」
転がった体勢から、ゆっくりと立ち上がる。
「それに...この痛み、もう慣れた!」
神の使いのいるところまで走って距離を詰める。
「『雷装』!魔力同期!」
走りながら雷装と魔力をリンクさせる。前は速度探知を使わないと出来なかったけど、一発で習得してそのコツを言語化することまでできたクミリアのおかげで、能力無しでもリンクできるようになっている。
そして、一度リンクできれば...!
「雷撃剣!そのチャチな武器ごと切り裂いてやる!」
神の使いの武器は小さなナイフ一本のみ。おそらく、無力化した魔族にトドメを刺すためだけの武器だ。封じ込められていない俺相手では、そんな武器に何の意味もない。
「さっさとこの手を放しやがれ!」
雷撃剣が音もなく神の使いの胸を真っ二つに切り裂く。そのまま紋章のある左腕も、武器を持つ右腕も切り落とし、流れるように首にも突き刺す。
「……よし、やっとゴールだな」
能力が使えるようになったのを確認してから、シレンの穴に向かう。
「……チッ、底に一人いやがんな...上から直で行くか」
次は略奪を使おうと考えながら、俺は底めがけて飛び込む。
減速を使ったシレンの穴への不法侵入。どうせ普通に降りたら途中の横穴に引き摺り込まれて、神の使いと戦わされるのが目に見えてるからな。こっちの方が安全だ。
「よぉ、まさか上から来るとは思わなかったか?」
無事に着地し、神の使いに声をかける。
「どんな能力を使うんだろうなァお前...見せてくれよ。奪うのはそれからだ」
突如、周りに人影が増える。
「んあ?これは...幻影の類か?」
増えた人影、黒いシルエットばかりで判別しづらいが...なんとなく察しはついた。
「なるほどな、対象が今までに殺した人間を具現化する...ってことか」
ここを守っているのだから、対魔族に特化している能力のはずだ。シレンの穴の入り口にいたのがそうだったからな。
対象が殺した人間を具現化する能力は、対魔族にはもってこいだ。魔族なら大量の人を殺しているはず。そうなれば、己が殺した無数の人間に襲われることになる。数の暴力で魔族を殺す...そういう力なのだろう。
「お前にも言っておくが...悪いな、俺は人間なんだ」
おそらく、俺に反応して現れたこいつらは、俺がこの空間で殺した神の使いたちだ。本来はもっと多く現れたんだろうが...大半を無視してきたはずだからほんの数人程度で済んでいるんだろう。
「面白い能力だが...相手が悪かったな」
9931ページ 略奪
「さっきの奴に掴まれる前に、奪わせてもらう」
略奪を神の使いに向けて発動させる。
「……腕?」
いつのまにか、俺の手に奴の左腕があった。となると、奪えるのは十分じゃなくて二秒だけ。すぐに殺す必要がある。
一瞬。ほんの一瞬で近づき、首を折る。
たったそれだけで、最後の門番の息の根は途絶えた。
「これで終わり...だよな?実はここがゴールじゃないとかはやめてくれよ...ん?これは...空間の裂け目?」
さっきまでは気づかなかったが、穴の中心、その真下数センチのところに何かがあるのを速度探知が捉えた。
「元の世界に繋がる穴...か。そう信じるからな!」
俺は地面に穴を開け、裂け目に腕を伸ばした。
「……戻っ...てきた?」
気がつけば、元の世界に戻ってきていた。みんなも、変わらずここにいた。戻ってきた俺を見る目は、ほんの少し変わっていたが...
「よかった、帰ってこれた...」
「動かないでちょうだい」
みんなに近づこうとした時、ニアにそう言われた。
「……そっか。飛ばされる前、魔族がなんたらって言われたもんな」
「武器をしまって、膝をついて手を頭の後ろに」
「それで信用されるならいくらでもやりますよっと」
武器を一旦、魔道具を通して次元収納にしまう。
と、同時にだった。
『訓練突破を確認』
「またあのアナウンス...?」
『対魔族用改変の突破も確認。推測...魔族ではない?』
『断言は不可。暫定、叛逆し人間側についた魔族』
『神の使いでない者の訓練突破は異例』
『判断協議中』
矢継ぎ早にアナウンスが流れるが...俺含め、みんなポカンとしながら聞いていた。
『……決定』
『偽造刻印を破棄。刻印開始』
「こ、これは...?」
俺のうなじにあった紋章が掻き消える。そして、ピリッとした痛みと共に、全く同じ形の紋章が刻み込まれていく。
「神の使いの...紋章」
前のものとは輝きが違う。オーラというか、神々しさというか...見た目は同じなのに、何か雰囲気が違う。そして、模様は違うが、似たような紋章が左手にも刻まれていた。
『名を名乗れ』
「……仮谷幸希...だが?」
『認定。カリヤコウキ、を正式に神の使いとし、加護を与える』
「……は?」
……理解が追いつかないが、とりあえず、なんか、さらにややこしいことが起こった、ってことだけはわかった。
「……何が起こったのかまるでわからないけれど、とりあえず武器をしまいなさい」
「あっはい」
とりあえず今何が起こったのかは一旦傍に置いといて、弁明釈明から始めないといけなさそうだ。
この雰囲気の中話すの嫌だなぁ...
歴代神の使いが弱いわけじゃないんだ...カリヤくんのスペックが高すぎてどうしてもこんな展開にならざるを得ないんだ...!
あと、神の使いが左手に紋章を持っているという設定が出てきましたが...すみません、紋章の設定が勇者と混ざってしまい、位置がうなじから変わってしまっていました。
略奪で左腕ごと奪う描写もあり、修正が厳しいと判断したので、『神の使いと女神が保証するための紋章はうなじに、特殊な能力を司る紋章は左手にある』という設定にしました。
こういったミスはしないようにしていたんですが...気が抜けてましたね。
投稿前に気づくことができたと前向きに捉えて、今後こういったミスをしないように尽力します。
紋章が偽物だとバレた理由にもなるし、これはこれで良かったのかも...?