前世の俺がすでに転生特典決めてました 作:ダイヤモンドリリー
今回はカリヤくん視点。
スート以外にも、既存キャラが何人か登場します。
「お前は...スート⁉︎」
巨大化魔物を攻撃していたのは、かつて勇者候補として修行を重ね、しかし勇者に選ばれることはなくその力を奪われた、魔法使いのスートだった。
「……お?見たことある顔じゃねぇか」
そう言いながらスートは魔法を放ち、魔物に攻撃を浴びせていた。こりゃ、再開を喜んでいる場合じゃないな。加勢しないと。
「助太刀させてもらうぜ」
「そりゃ助かる。火力不足で困ってたんだ」
「じゃあ牽制は頼んだ!」
地を駆け、魔物の足元まで一瞬で移動する。
3780ページ上 黒のみ 筆記
魔物の足に直接魔法陣を書き込み、すぐさま離れて発動させる。抉り取るように足の腱をズタズタにし、歩行や立つことを禁ずる。これでもう魔物はこの場から動けない。
「次は腕!」
四肢を使えなくし、抵抗手段を無くしてからじっくり魔素を取り出す。そのために、俺はこちら側に倒れ込んでくる魔物を避けながら上半身側へと移動する。
『雷装』
1203ページ左下 黒のみ 水刃
すぐさま刀を手に持ち、帯電した水の刃を飛ばす。
「……チッ」
けれども、水の刃は魔物の腕に一切の傷を負わせなかった。雷装のダメージは少しあったみたいだが、図体がデカいせいで水刃程度に込められる電気量じゃ効果が薄すぎる。
「そいつには物理攻撃は効かねぇ!やるなら魔法使え!」
「水刃も魔法なはずなんだけどなぁ!」
やっぱり物理耐性持ちだったか。水刃が効かなかったことから、切断系の魔法もあまり効かなさそうだなと思いながら、次の手を考える。魔法かつ、あまり物理的攻撃な範疇に入らないような魔法は...
「っぱ閃光かな!」
4566ページ 黒のみ 閃光
とりあえず普通の閃光でどれくらい効くのか試してみるか...お、腕の一部が消し飛んだな。元からスートの魔法で削れてたのもあるが、やはり閃光は威力が高いな。
「この調子で吹っ飛ばす!」
4566ページ 黒のみ 閃光
5000ページ 黒のみ 魔法復唱
魔法復唱で閃光を大量に撃ち出し、腕を肘の少し上辺りから溶かして切断する。
「よーしもう片方も...!」
「ちょいちょい、なーに二人だけで戦ってくれてんのさ。クミさんたちも混ぜて...よっ!」
クミリアが急に飛び出し、魔物の胸辺りに思い切り拳を打ち付ける。
「うわめっちゃへこんだ⁉︎物理耐性あるはずなのに⁉︎」
「前に耐性持ちに拳だけで勝つとかいう縛りを付けて戦わせたのはどこの誰だったかな!」
そういやそんなこともあったが、だとしてもここまでダメージが通るとは...
「魔法がない私にだってできることはあるんだからね!」
パスパスっと魔物の両目に矢を撃ち込んで視界を塞ぐステラ。この技上手くなりすぎてて軽く恐怖だが...なんとも頼もしい限りだ。
「拘束完了。カリヤ!決めてやれ!」
気がつけば、魔物の全身に鎖が巻き付いており、地面と固く結ばれていた。これではもう抵抗など一切できないだろう。
そして、そんな魔物の前に、魔法陣が一つ浮かんでいた。その効果は、魔法陣を通った魔法の威力増大。これを使えということだろう。
9929ページ 黒のみ 閃光・改
「それじゃあ、魔力マシマシで...行け!」
大量の魔力を込め、閃光を放つ。極太レーザーは魔法陣を通ると、さらにその直径を拡大させ、魔物に襲いかかる。
結果、魔物の上半身は丸ごと消し飛び、魔素を出すまでもなく死に至った。
「……よし、戦闘終了...っと」
魔法図鑑に通している魔力を霧散させ、のびーっと腕を伸ばして体を休める。
「ふぅ...よぉスート。久しぶりだな」
近くに降りてきたスートに声をかける、
「ああ、一ヶ月ぶりくらいか」
「どうだ?調子の程は」
「そこそこだ。ここ一ヶ月頑張ってきたからな。少しずつ力も戻りつつあるよ。まぁ、あの時の力には遠く及ばないがな」
ライトが勇者に選ばれた時、スートは二年分の努力の成果を全て奪われた。その間に増えた魔力も、会得した魔法、スキルも全てだ。魔法使いにとって、二年という年月はあまりにも長い。それだけあれば、どれだけ魔力が増やせるだろう。それだけあれば、どれだけ魔法の熟練度を上げられるだろう。少なくとも、たった一ヶ月で取り返せる量ではないはずだ。
「やっぱり、その...力を奪われて、絶望したか?」
「そりゃな。だが、勇者に選ばれなければそうなると、あらかじめ伝えられてはいたから、覚悟はできていたさ。もし選ばれなかった時のために、色々準備はしていたしな」
「準備だと?」
「勇者になれなかった場合、持っていかれるのは魔力と、魔法の適性、スキルだ。スキルごと持っていかれるせいで、失った魔法を体が覚えているなんてことは起こらない。だから俺は、魔法を体ではなく頭で覚えた」
「……コツとか発動方とかを、頭で全部覚えてたってことか?」
「ああ。勇者候補の時、魔法を使うときは必ずスキルではなく頭で魔法陣を形成して発動させていた。そのおかげで、今も魔法が使えている。まぁ、適性はだいぶ落ちたからまだ練度は浅いけどな」
「魔力は大丈夫なのか?結構バカスカ魔法を撃っていたが、一ヶ月でそんなに魔力が増えたのか?」
「それもあらかじめ対策済みだ。勇者候補時代に、コツコツ魔力を魔道具に貯蔵していたからな。大量にあるから、あの調子で撃っていても年単位で持つはずだ。その頃には魔力もだいぶ戻っているだろうし、つなぎとしては十分だろう」
こうなることを予想して、色々と対策してきていたんだな...勇者になれなかったとしても、スートはスートだな。
「そういや、どうしてスートはここに?何か依頼でも受けてたのか?」
「その通りだ。ここら辺で最近暴れていて、周囲の生態系を崩している魔物がいるって話があって、それで来た。そいつを倒していざ帰ろうとしたら、あいつが現れたってわけだ」
「目的の魔物がこいつってわけじゃないんだな...スート一人で来たのか?」
「いや、まだ一人だと心許ないんでな。とあるパーティーに入れさせてもらった。まぁ、独断専行しちまったわけだが」
と、スートが言ったその時だった。
「おーい新入りー!どこ行きやがったー!」
「一人で行くとあぶないよー!」
近くの森の方から、そんな声が聞こえてきた。多分、件のパーティーの人たちだろう。
……なんか、聞き覚えがあるような...?
「いやでももしかして倒しちゃってたり...ってカリヤ⁉︎」
「お、おま、お前ら⁉︎」
森から出てきたのは、キース、チュチュ、ギブドの三人。ゼ○伝組だ。
「うおっ、カリヤじゃないか!ひっさしぶりだな!」
「何ヶ月ぶりだろ...」
「十ヶ月ぶりくらいだな。まさか、スートの入ったパーティーってのが、お前らのところとは...相変わらず、世界は狭いな」
「知り合いだったのか?」
「ああ。一ヶ月くらいの間、一緒に行動したことがあってな。懐かしいぜ...」
「なぁカリヤ。長い時間が経ったが、あん時よりどんだけ速くなったんだ?」
「そりゃあもう二倍以上速くなってんぜ。他の魔法も併せて使えば、アクセルにだって追いつける」
「アクセル...そういやギルドで聞いたんだが、あいつが魔族だったって本当か?」
「本当だ。既に何度も戦ってるよ。なんかライバル的なポジションに落ち着いてるけど」
「お前...スゲェな」
あー、話すの楽しい。こんなことしてないで次の巨大化魔物のところに行きなさいよってニアに言われそうだけど、せっかくの再会だしそりゃ話すよなぁ?
「……あっ、誰かと思ったらあの時の三人か!えーっと、名前は...」
「チュチュだよー。こっちはギブドで、あっちはキース。あなたは...ステラちゃんであってる?」
「あってるよ」
「えっ、ちょっと待ってキースいるの?うわ本当だ。キースー!」
流石に普通は一回会っただけじゃ名前覚えてないよなぁと、ステラとチュチュの会話を聞きながら思っていたら、ここでまさかの繋がりが判明した。え?クミリアとキースって知り合いなん?
「うげっ」
あ、キース逃げた。
「うげっ、とは良い挨拶だねキースくぅん!待て待てー!」
「キースってガネルの出身なんだっけ?」
キースを追いかけていくクミリアを遠い目で見ながら、チュチュに聞いてみる。
「たしかそうだったと思うよ。お互いのこと、そんな深いところまで知ってるわけじゃないけど、前に聞いたことあった...はず」
「じゃあその時にできた関係か...あっ、捕まった」
「いやー久しぶりだねぇ。元気してた?」
「さっきまではな。なんでこんなところで会うんだか...」
「あっ、そうだ。キース知ってる?まぁ知ってるか、そうだよね」
「まだ答えてないんだが?」
「クミさんねぇ、ガネルの英雄になったんだー」
「そりゃそうでなきゃカリヤと一緒にはいないだろうが」
「そっかそうなるとステラちゃんってカリスの英雄になったの⁉︎すごいじゃーん!」
ああもう左右で別々のこと話してるせいで頭が追いつかん。いつもならできるだろうけど頭痛が起きてる今は無理だから順番に話してくれ頼む。
「大会無敗で突破したんだよすごいでしょー」
「ああもうだる絡みすんなヘッドロックすんな!」
クミリアがこんなことするの初めて見たな...それだけ古い知り合いとみたね。
「おーいクミリア。ガチで首絞まりかけてるからその辺でやめておけ。ってか、二人はどういった関係なんだ?」
「弟でーす」
「弟⁉︎」
「ちげぇよこいつが勝手に俺の姉を自称してんだ!」
「えぇ...」
そりゃあんな広いお屋敷に住んでるんだし、兄弟姉妹の一人や二人普通にいるだろうなと納得しかけてたのに、嘘なのかよ。姉を名乗る不審者ってガチでいたんだな。
「もう姉と言っても差し支えないでしょ」
「差し支えあるわ!やめてくれよ...」
クミリアを振り解こうとするキースだけど...残念、筋力の差が大きすぎてびくともしてない。
「なんで姉を自称してんだよクミリアは」
「え?そりゃあこいつがちいーさなときから私が面倒見てやったからねぇ?」
「何がそりゃあなのかはわからないし、キースの反応を見るにその面倒を見るってのがどんなもんだったかある程度予想がつくな...大変だったな」
「そう思うなら現在進行形で困ってる最中だから助けてくれ...!」
「へいへい...そろそろ放してやれ」
「え、やだ」
「なんでさ...ほれっ」
『雷装』
「いた゛っ゛⁉︎」
クミリアの腕に軽く雷装を流し、筋肉を刺激してキースを抱える腕を強制的にバンザイさせ、キースを解放する。
「ふぅ...助かった」
解放されたキースはサササッと動いてギブドの後ろに隠れた。多分クミリアに本気で追いかけられたら何の意味もない行動だな。
「痛いなぁ...もぅ、何してくれてんのさ」
「放してくれって言われたら素直に放すもんだぞ。まぁ、なんだ。お前らがそういう関係性なのは十分わかったから...」
「おい待てなんて勘違いをしてんだお前⁉︎」
「冗談だ。あんま本気にすんな...ははぁ、そういうわけね」
やけに離れたがってたけど、キースの顔を見てなんとなく察した。嫌と言いつつも実際には...ヒュー!甘酸っぱくていいね。恋愛とかよくわかんねぇけど、こういうラブコメは普通に好きだぞ。まぁ、どうせクミリアは付き合うならクミさんより強い人がいいなーとか言い出してバトル物が始まるんだろうが。そもそも弟扱いされてるところからどうにかしないといけないし、なかなかのハードモードだな。頑張れ。
「……っと、なんだ?ギブド」
いつのまにかギブドが近くに来ていて、肩をチョンと叩かれた。なんだろういったい。
「レストが英雄になったって本当か?」
「え?本当だけど...そっか、ギブドはガルム出身なんだっけか。知り合いなのか?」
「一応。と言っても、ボーッとしてるあいつのことだ。俺のことなんて覚えてないとは思うがな」
「そうか?案外あいつなら覚えてそうなもんだが...」
「それで、レストはどこにいるんだ?勇者もいないようだが」
「ちょっと二手に分かれて巨大化魔物狩りをしていてな。ライトとレスト、あとカイスの英雄のニアは西側で魔物と戦ってるんだ」
「カリヤたちは東側ってわけね」
「そういうことだ。そっちも魔物を狩ってたんだっけか」
「そうだよー。ちょうど終わったところだから帰ってもいいんだけど...面白そうだしついて行ってもいい?」
「いいぞ。ちょいと戦力不足気味だったところだ。助かる」
「えぇ...」
「なーに嫌な顔してくれちゃってんのさキース。お仲間さんが行くって言ってるよついていってあげなよ」
「お前と一緒じゃなきゃ喜んで行くんだけどな...!」
まっ、ちゃんと着いて来てくれるようではあるんですけどね。
「スートもそれでいいか?」
「ああいいぜ。今から帰っても退屈なだけだし、なにより帰るのにも時間がかかるからな。カリヤがいれば一瞬で帰れるだろ?」
「俺なんか便利な足扱いされてる?まぁ別にいいけど。それじゃあ行くぞ。次の目的地はあっちの方角だ」
こうして、スート+ゼ○伝組の四人を加えた即席パーティーは、次の魔物のいる場所まで向かうのだった...
「ところで前あった時、左手にそんな紋章あったか?」
「ふぇ⁉︎じ、実はあったんだなこれが。まだまだ未熟だし、見えやすいところにあるこの紋章は隠しておこうと思って隠してたんだよー」
「そうなのか。というか、紋章って二箇所あったんだな」
「ははは...」
シレンの穴攻略前後にできた変化を指摘され、ちょいとビビったがなんとか誤魔化せた。ちなみに、神の使いはまことしやかに囁かれている伝説レベルの話であり、毎回魔王が復活するたびに現れているわけではないから、二箇所に紋章があるという話が広まっていなかったりする。そのせいで多分神様も左手の紋章を忘れたんだと思うが...どうして見えづらい方の紋章が伝承に残ってるんだろうな?
お互いの近況報告をしながら家族移動をすること五分。次の魔物がいる場所に着く。
「……おっ、運がいいな。あいつどっちの耐性もない普通のやつじゃん」
この森を出てすぐのところに魔物はいるため、木の影に隠れながら様子を伺う。
「デカい時点で普通じゃないけどねー。運がいいってどういうこと?」
「さっきまで物理耐性持ちばっかで俺とスートあたりしか満足に戦えてなかったんだが、ようやくみんなの出番が来た。やったね暴れられるぞ」
「頑張ろーねキースくん!」
「その声出すのヤメロォ!こんなん言いたかねぇがちょっと気持ち悪ぃ!」
「うわひっどーい。そんなこと言っちゃうんだー」
……なんかセリフだけ聞いてると、すっごいメスガキ感が...刺さる人には刺さるんだろうけど、クミリアが言ってると考えるとスン...ってなるな。
「まぁ全員で戦えるってのはいいけど...カリヤは大丈夫なの?」
「ぜんっぜんダメだよステラ。頭爆発すんわこんなん」
ただいまの天気。この世界で類を見ないほどのザーザー降りである。
「なんで雨降るかなぁ...能力使えないじゃん」
ただでさえ雨の時は能力を使うのを少し躊躇するのに、今使おうものなら一瞬で脳の許容量超えてバタンキューするだろう。
「ってなわけで、俺は速度操作を使えない。思考の加速もできないから周りを見ながら戦うのが難しいし、サポートもできないってことを頭に入れておいてくれ」
「りょーかい!」
「それじゃあ行くぞ。突撃ー!」
木の影から全員飛び出して、魔物めがけて走る。
「雨なら雨の戦い方が俺にもある!『雷装』!」
身体中に雷装が駆け巡る。それを速度探知無しで魔力とリンクさせ、指先に雷装を集める。
「雷撃弾...ってね!」
雷装が込められた魔力弾を指先から放つ。本来なら空気減衰により魔力弾は魔物に届く前に霧散してしまうが、空から落ちてくる水滴に魔力弾が触れた瞬間、電気的な性質と魔力的性質の両方が水に作用する。その結果、水滴から水滴へと電気のように移っていきながらも、水に魔力を通したときくらいしか減衰が起こらず、より遠くまで魔力弾が届くようになる。
「っし命中!ほら俺に続けェ!」
そう俺が叫んだ瞬間、無数の魔法が魔物の体を削り取る。今の動体視力だとどんな魔法が使われてるかわからんな...弓矢とかも飛んできてるんだろうけど、ちっさいしよく見えない。
「って俺が一番遅いですかそうですか!」
雷装があるとはいえ、みんなはバフもある。クミリアはもちろん、キースとギブドにも遅れをとる始末だ。
速度探知を使えないと魔法が使えないのそろそろどうにかしないとだな...素の感覚で魔法図鑑に魔力を流して狙った魔法を発動させる練習をしておかないと、こういった状況の時に困るなこれ。
「近づくまでは雷撃弾、近づいたら雷撃剣で...!」
三分の二ほどを足に回して走力を確保し、残りの三分の一で雷撃弾を放つ。魔力弾としての威力はそこまでだが、込められた雷装が着実とダメージを与えていく。
「遅いよカリヤ!ほら行くよ!」
「うわわっ!持ち上げるならもうちょい前に声かけて?びっくりするじゃん!」
急に後ろからステラに抱えられてビビった。襲われたかと思ったわ...
「そっか、いつもの感じでやっちゃった...」
「まぁ何にせよ助かった。ここでいいぞ。こんまま落としてくれ」
「おっけー!」
魔物のほぼ真上までステラに連れてってもらうことができた。そして今、魔物に向かって落下中...
「ってあっぶね⁉︎」
急いで雷撃剣を作り出し、魔物に突き刺して引っかけ、落下の勢いを殺す。いつもの感じで魔法を使うなり減速させるなりで着地しようとしてたけど、今はできないんだった。危ねぇ普通に死にかけた。
「よーし射程圏内だ。暴れさせてもらうぜ?」
足に回していた雷装を両手に集め、二本の雷撃剣を生成する。
「オラ行くぞォ!」
すぐ近くにあった足を雷撃剣で切り刻む...が。
「チッ、再生が追いつかねぇか...どれだけ能力に頼ってたかがどんどん浮き彫りになるな」
切断で消費した雷装の補充が微妙に追いついていない。剣としての形を維持するのが困難だ。これだと剣にするより普通に拳に宿して殴った方がいいか?
「っと、危ないな。考えるより手を動かせってんだ」
思考に気を取られていたら、魔物が触手のようなもので俺を薙ぎ払いに来ていた。咄嗟に雷装の壁を生成し、表面を焦がしながら斜め上に軌道を逸らせたが...この壁も再生成が追いついていないから少し脆いな。
『剣はやめだな」
『跳躍』
足に雷装を集めてから、スキルで跳躍を発動させる。雷装のバフもあるおかげで、一跳びで魔物の顔の目の前あたりまで跳躍する。
「ほれ雷撃拳!」
振りかぶった拳から雷装を放出、落ちてくる水滴を利用して拡散させ、一瞬だけ巨大な雷装の拳を生成。それで魔物の顔面を殴り飛ばす。
「うっわ見た目だけじゃん威力ねー」
「なんか楽しそうじゃん?」
「お前もだろクミリア。あと助けて落ちる」
「カリヤはなに?能力ないともしかして何も出来ない系なの?」
そう言いながらクミリアは落ちる俺をキャッチする。
「何も出来ないわけじゃないぞ?思考がいつもより遅いから咄嗟の思いつきを精査せずにすぐに行動に移しちゃうだけだ。こういう時の方が変な発想生まれるから、馬鹿には出来ないんだけどほぼほぼハズレなんだよなぁ...」
雨の日限定技とかこれ以上作ってもあんまり意味ないし、そろそろちゃんと考えて動こうか。
「ってか、魔素流出ができないから、普通に殺すまで終わらないんだよなこいつ。もっと致命的な攻撃を加えないと...」
みんなも精一杯攻撃しているけれど、それだけで死に至らしめるのは難しい。もっと質も量もある攻撃が必要だ。
「……それなら、ストックを使うか」
「ストック?」
「魔法を使わなくても魔法攻撃はできるんですわ」
魔道具を使い、次元収納にアクセスする。
「閃光・改...二割」
虚空から急に閃光が飛び出す。閃光は真っ直ぐ魔物に向かって飛んでいき...
その胸に巨大な風穴を開けた。
「最大魔力の二割を込めた閃光のストック。ちょっと威力過剰だったか?なら次は...氷槍だ」
五本十本と氷の槍が次元の裂け目から飛び出していき、先ほど開けた風穴の内側に刺さっていく。
「角度完璧っと。ステラー!あれに向かって雷装!」
「内側から爆破させるってエグいことするねぇ?」
「その方が手っ取り早い。よし次はスートだ!あそこに最大火力の炎をぶち込め!」
ステラが雷装の矢を撃ち込んだのをクミリアに確認してもらってから、スートに指示を出す。
「他のみんなは全員退避だ!」
「あの時のアレが来るってことだよね!」
「退避ってどこまでだ!」
「え?...わっかんね」
どれだけ酸素と水素の混合気体が生じているのかわからない。爆破の範囲はどれくらいだ?...最悪ギブドの後ろに隠れればいけるか。
「とりあえずこれで終わりだ!やっちまえスート!」
スートが青白く光る巨大な火球を放った。一万℃をゆうに超える火球はとても直視できるものではなく、思わず全員が(放ったスート自身を含む)火球から顔を背ける。
背後で爆発が起きた。衝撃波がこちらまで来るが、吹き飛ばされるほどではなかった。迫り来る熱も、ここにくるまでに雨で冷やされたためか、ぬるい風しか届かない。
「……哀れ、爆発四散」
内側から爆破された魔物が生き残っている可能性などほとんどなく、弾け飛んで死亡していた。次第にどの部位も傷口から魔素が漏れ出し、小さくなっていくことだろう。
「ふぃぃ...頭痛い。というか服ビッチャビチャだし、絶対ニアがこっちの方がいいから一旦カイスに戻らね?念話で連絡してニアたちを呼び戻そう」
「さんせーい」
「帰る...って、カリヤは今能力を使えないのでは?」
「んあ?あそっか、走って帰るって思われてんのか」
「違うのか?」
「便利な魔法があってだな...」
魔法図鑑を取り出し、後ろから開く。久しぶりに開いて使うな。
9936、9937ページ 次元転移
「よし帰るぞ。お前らも行き先はカイスでいいんだな?」
「問題ないが...その本といいこの魔法といい、相変わらずカリヤは規格外だな」
そっか、最後にキースたちと会ったのはカイスに来る前だったから、魔法図鑑を知らないのか。
これでびっくりされるのなんて久しぶりだなぁと思いながら俺はゲートをくぐり、雨のない空間でぐっと伸びをしてから能力を起動した。
ああ、やっぱりこれがないと落ち着かないな。
速度操作のないカリヤくんの戦闘を書きたかったけど...つくづく思考加速の設定が戦闘向きだなと思いましたね。
めちゃ長の思考をしても矛盾がなく、周りのみんなの戦闘描写もできるというのを考えると、下手に速度操作を使えない状況に陥りさせられないっていう制作上の難点が...
ってなわけで、次回はライト視点なんですが、集団戦の描写は期待せんといてください...
p.s.
句点と」をたまに間違えちゃうんですよね...見つけたんで修正しました。
反省します。
もしあるのを見つけたら、誤字報告してくださると泣いて喜ぶのでよろしくお願いします。