前世の俺がすでに転生特典決めてました 作:ダイヤモンドリリー
魔王?戦二話目です。
シームレス視点変更を今回も取り入れましたが、混乱させてしまったらすみません。
「どうしてぶつかったんだ...?」
俺は立ち止まっていた。なのに、クミリアとぶつかった。そして、衝突の直前まで、速度探知の範囲内にはクミリアはいなかった。つまり、ほんの一瞬で俺たちは衝突したのだ。
「絶対に、経験したことがあるはずなんだ...」
シレンの穴で経験したことが、魔王がしてくる攻撃に対応していることは既に確認済み。必ず情報は得ているはずなのだ。しかし、衝突という現象を見た覚えはない。
「情報不足...まだ判断できない!」
一度傍に置いておき、一旦攻撃に戻る。似たような現象がまた起きたら考えよう。
7801ページ 黒のみ 未来跳躍
初期設定の一秒で未来跳躍を発動し、魔王の背後に飛ぶ。
「オラァッ!」
触手の剣で魔王に斬りかかる...が。
「届かない...⁉︎」
触手を限界まで伸ばしたのに、魔王には届かなかった。確実に魔王は俺から二、三メートルくらいのところにいるというのに、届かない。
「空間の拡張?...っ⁉︎」
急に斜め下へと吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「なるほどな...!」
5114ページ 黒のみ 思考共有
俺は起き上がりながら、俺の考察をみんなの頭に流し込む。
魔王がしているのは、空間操作だ。今俺たちがいるのは魔王城だが、入った直後に考えた通り、この部屋は空間が拡張されている。本来の広さよりも明らかに広くされている。
もし、この拡大された空間を元に戻したらどうなるだろう。当然、元の大きさまで空間は縮む。それが、一瞬にして俺とクミリアが衝突した理由。さっき俺が地面に叩きつけられた理由だ。
そして、俺の触手攻撃が魔王に届かなかったのは、さっきまでのとは逆。空間を広げることで、攻撃を魔王まで届かなくしたのだ。間に無限を挟むことで攻撃を止める、無下○呪術みたいなことだろう。
空間を操る階層もちゃんとあった。クミリアが事故にあった印象が強いが、あの階層は空間置換による人の位置の入れ替えや、空間拡張によって道中を迷路にしていたりしていた。対応する階層がある以上、ひとまず確定させていいだろう。
「わかったはいいけど...どうする!」
魔王が何をしているのかはわかった。しかし...わかったからと言ってどうにかできるものではない。こちらの攻撃は空間拡張で届かないし、俺たちは衝突を避けられない。
何か、方法はないのか...?
『悠長に考えてる暇はないわ』
ニアから念話が届く。
『ひたすら攻撃して有効打を探すしかないわ』
『魔法は誤射させられる恐れがあるぞ』
『わかってるわ。誤射しそうになっても、すぐに曲げるくらいわけないわよ』
大量の魔法陣を空中に描き出す。いつもは頭の中で済ませる作業だけれど、カリヤから常に記憶するべき情報が送られてくるため、それに邪魔されて脳内で魔法陣を描くことができなかった。
「ひとまず全パターンを試して、空間拡張と相性がいい奴を見つければ...っ!」
無理矢理脳内で障壁の魔法陣を描き出し、私の周りを囲い込む。
次の瞬間、空中に描き出していた魔法陣が一箇所にまとめられ、線が重なり合った魔法陣は干渉しあい誤作動を起こす。
そして、爆発する。
「そんなことまでできるのね...!面倒極まりない!」
こうなると、魔法陣を空中に描き出すのは厳禁だろう。無理にでも頭の中で魔法陣を描いて、魔法を発動させるしかない。
「ならやることは一つ...!」
今私に試せることは、魔法拡散ただ一つのみ。何度も何度も何度も使い続けてきたこの魔法なら、情報が流れ続けるこの頭でも描ける!
「ライト!」
魔法拡散を発動させ、魔王の周りを覆う。これで空間操作を無効化できているかはわからないけれど...攻撃は魔法拡散を受けないライトに任せる!
「任された!」
魔王に向かって飛ぶ。魔法拡散のおかげか、虚空から生えてくる腕も消えているから、真っ直ぐ魔王のところまで飛ぶことができた。
『聖剣解放』
「ハァッッッ!」
周囲の魔素を聖素に反転させる聖剣で魔王に切り掛かる。当たれば必殺。
「ぐっ...くっ!」
しかし、届かない。どうやら魔法拡散では空間操作を封じることはできないらしい。魔王に聖剣が届く寸前のところで止まってしまい、そのままさっきのカリヤのように叩き落とされてしまう。
僕自身に作用する力ではなく、空間に作用する魔法だから僕の行動を阻害できる...理屈ではわかるけど、そういうことをしてくる魔物はこれまでいなかった。それをしてくるのだから、魔王と呼ばれるだけはあるって感じだね。
「僕でも近づけないのか...!」
空気を蹴り、落下の勢いを殺してから着地する。
「近づけないなら、別の方法を取るまで...!」
声のした方を見ると、レストが魔王めがけて走り出していた。
「僕のカウンターなら近づかなくても攻撃できるはず!」
さっきからずっと腕の攻撃を魔法吸収で受け止めながら魔力を吸い取っていたから、既にカウンター用の魔力は溜まりきっている。魔王の攻撃に合わせて使えば、どんなに離れていても反射できるこの特性を使って攻撃できるはずだ。
[
僕が近づいたため、魔王が虚空から腕を出して攻撃しようとしてきた。その瞬間にカウンターを発動させ、全ての腕の攻撃を受け止める。
「自分の攻撃で潰れろ...!」
カウンターは無事に発動する。
しかし。
「腕だけ⁉︎」
カウンターで破壊できたのは腕だけだった。あの黒いモヤのようなものは一切揺らがなかった。
「腕は魔王本体じゃない...?魔物を召喚してるってことか」
カウンター対策はバッチリってわけだ。カウンターが効かないとなると、僕の役割は防御だけ。しっかり守って、みんなの被弾を無くす...!
「そっか近づかないで攻撃できればいいのね!」
レストが守りに戻ったのを見ながら前に出る。レストがやったように、魔王に近づかずにできる攻撃なら、普通に効くよね!
「クミさんのこれなら...!」
腕をグンと伸ばし、魔王の方に向ける。
「視界準拠の空気の腕!これならどれだけ空間を広げても手が重なってれば必ず当たる!」
肘をピンと伸ばした腕で遮られた視界、その箇所に空気の腕を出現させる。どれだけ空間を広げようと、横方向に空間を縮めるとかして横に逸らそうとしても、この目と腕さえあれば必ず当たるはず!
「なに解説しながらやってんだ!あとそれ絶対じゃねぇ!」
空気の腕で攻撃しようとした瞬間カリヤに叫ばれたが、構わず攻撃する。
「……えっ!受け止められた⁉︎」
「空間拡張の応用で真空を作ってんだ!その領域内では空気の腕は作れない!」
「何それありィ⁉︎」
そんな防がれ方されるとは...無念!
「悔しがってる場合かバカ!攻撃来てんぞ!」
「うわホントだ危なっ!」
『雷装』
飛んできた魔法を雷装のバフも使って避けていく。そういえばまだ自分へのバフを禁止されてないみたいだけど、いつ使えなくなるかわからないから警戒しておかないと...!
「ニアさん!」
そんなことを考えながら魔法を避けていたら、上の方からステラちゃんの声が聞こえた。だいぶ上の方にいるけど...よく声届くね。空間がおかしくなってる影響で普通に聞こえるのかな?
「矢を撃つからバフお願い!」
私は矢を一気に引き絞りながら、ニアさんに向かって叫ぶ。
「ステラちゃん⁉︎バフは付与できないわよ!」
「私じゃなくて弓矢に!まだ試してないし出来るかも!」
「……盲点すぎたわそれ!今やるわ!」
「俺も協力する!今のニアにはキツいだろ!」
ニアさんとカリヤ、二人の魔法がこの弓矢に次々とかけられる。
「これなら...いけるかも!」
限界まで弓矢を引き絞り、狙いを定める。あの黒いモヤの中にある、すごい小さい球状の何かに当たるように...最速で届くように!
「届いて!」
手を離すと、超高速の矢が魔王に向かって飛ぶ。
……飛んだと思う。あまりにも速かったせいか、魔法をいくつもかけたからなのか、反動がものすごくて手を離して矢が弓から離れた瞬間に後ろに弾き飛ばされちゃった。ちゃんと当たったのかな...?
「当たって...ない!惜しい!」
あとほんの少しのところで矢が堰き止められていた。空間拡張の防御がギリギリ間に合ったのかな。あともう少しだけ速ければ当たってたかもしれないけど...狙ってた場所からだいぶ外れてる。もう一回撃っても今度は普通に外してしまいそうだ。
「……なんだよ、速けりゃ当たりそうじゃねぇか」
カリヤがボソリと呟いていた。
「感謝するぜステラ。そのアイデアと視覚情報、貰うぞ」
カリヤが人差し指を魔王に向ける。多分、狙いはあの中にある球状の何か。私の視覚情報で捉えたそれを撃ち抜くつもりなんだと思う。
「空間拡張...宇宙の拡大より速ぇってんならお手上げだけどよ...さっきのがギリギリなら、コイツは止められねぇよなァ!」
カリヤの持つ切り札の一つ、超光速弾。光の速さで飛ぶその光弾なら、たしかにあの魔王の守りを突破できそう!
「喰らってもらうぜ...!超光速バレッ...」
突然、カリヤの頭が横にブレた。
「カリヤ⁉︎」
カリヤはそのままバランスを崩して地面に倒れ...
「チッ、このタイミングで新魔法出すんじゃねぇよ...」
倒れる直前、ガッと足で地面を踏み締めてなんとかバランスを取り戻すカリヤ。
「強制睡眠魔法...対応してるのは、精神入れ替えの時の強制入眠辺りか?感謝するぜ魔王よぉ...おかげさまで目ェパッチリだ!」
カリヤの言うことが本当ならば、今カリヤは、魔王の睡眠攻撃を速度操作での睡眠加速で無理矢理乗り越えて覚醒したのだ。ちょうど一昨日、路地裏で私の眼の前でやったように、一瞬で寝て起きた。疲れが取れたと魔王に向かって笑いかけながら、カリヤは人差し指を向ける。
「穿て!超光速弾!」
俺の中にある魔道具で次元収納の中にある光速の光弾を取り出し、魔王に向けて射出する。
魔王は空間を拡張させて防ごうとするが...もちろん光速の弾丸の前ではどれだけ広げたところで焼け石に水。射出とほぼ同時に魔王に命中する。
「……よし!砕いた!」
ステラの視覚で、魔王の中にあった球状の何かが砕けたことを確認する。あれがなんなのかはわからないけど...もしあれが、シレンの穴第九十四階層でクミリアが戦ったボスが持っていた能力を司る球体と同じようなものならば、空間操作は出来なくなるはず。そう信じたい。
「新技を出される前に叩き込むぞ!ライト!必殺技使え!」
「それは城が...何か策があるんだな?」
「もちろんだ!さっきステラが裏技を発見したように、何事にも抜け道はある!」
未来の城が今ここにある城と重なる形で存在するため、城を破壊することになる必殺技を撃てない。城の内部でも、それは変わらないだろう。けれど、それは城を破壊してしまうという前提ありきの話だ。
「必殺技が城に命中しなければいい!つまり!」
9930ページ 黒のみ 跳弾鏡射
「こいつで全て反射して魔王に全部ぶつけりゃあそれでいい!」
「忘れたのかカリヤ!これは魔素にしか反応しない!あの鏡なんて素通りするし魔法で軌道を逸らすなんてできない!聖剣の記憶もそう言ってる!」
「それは魔物や魔族が使った魔法だからだ!人が使った魔法ならできるはずだ!」
人があの必殺技を逸らすなんてことするわけないから、前例はないはず。まだ普通に魔法が効く可能性は残っている。
「つべこべ言わずにやれライト!逸らせないなら必殺技を撃てないだけ!なんもデメリットは無い!そん時は別の方法を試すだけだ!」
逸らせないならそもそも必殺技を撃てなくなる。ただそれだけだから、試す前に否定するよりもまず撃てるかどうか試した方がいい。撃てなかったら...魔王がやったような空間の拡張やらなんやらでも真似してまた試すまでだ。
「……わかった!」
ライトは聖剣を構える。
「ぶっ放せライトォ!」
「……いける...撃てる!」
そう言いながら、ライトは聖剣を鞘から外し、勢いよく振り抜く。
……そう、したかったのだが。
「なっ...床が⁉︎」
突然床が消え、重力が身体を支配する。
「城が...消えた⁉︎魔王の野郎城ごと消しやがった!」
足場が消えたことでバランスを崩したのと、単純に落下したのが合わさって狙いがズレ、ライトの必殺技は魔王のすぐそばを掠めていく。
それを俺たちは見届けながら、十メートルほど落下して山の山頂に着地する。空間が歪んでいる城の中で、いつのまにか入口から十メートルも高い場所に移動していたようだ。跳弾鏡射の鏡も、空間がおかしくなっていたせいでそれぞれ今は変な場所にある。どれか一つにでも当たっていれば、向きを修正して魔王に必殺技を当てられたんだが...
「ってか必殺技を避けるためとはいえ城消すなんて有り得なさすぎるだろ...!」
城はもはや魔王の一部と言っても差し支えないものだ。それをわざわざ手放すなんておかしい。絶対、回避のためだけではないだろう。何かしてくるはずだ。
「もしや、城を作ってた魔素と魔力を吸収して完全体に移行ってパターンか?黒いモヤから姿が変わる感じか...親切に待つ奴はいねぇ!畳み掛けるぞ!」
ライトの聖剣が必殺技を使った影響で三十秒ほど本来の機能を失っているが、今はそんなことを気にせずに攻撃しに行ってもいいくらいのチャンスだ。魔王が何かしようとしたその初動を全て潰し、三十秒後に必殺技でフィニッシュだ。
「詰みだ魔王!」
「詰みにはもう少し手順が必要なんじゃないかな」
「っ⁉︎」
魔王に向かって跳んだ瞬間、一瞬で真横に詰め寄られ対処せざるを得なくなる。
「ついに来たかアクセル...!」
「時が来たからな」
「時だぁ?完全体への移行と同時に魔族全員参加ってわけか」
「完全体の移行...か。それは正しいけど、君たちが考えているものとはだいぶ違うだろうね」
「よくわからんがお前の相手はしてやる!みんなは魔王を!」
「さっき自分で言っていたよな。魔族全員参加...と。一人はいないが、それも正しいぞ」
悟空から二人の女が出てきた。新たな魔族。いや、おそらくは転移と魔素操作の魔族なのだろう。俺が速度探知で得ていた身体の特徴と、見た目での特徴が一致していた。一致していたのだが...
「ま...じかよ...」
この魔族の姿をきちんと見るのは初めてだ。なのに、この容姿には見覚えがあった。二人とも赤髪。まるで血縁関係があるかのように、似通った容姿。その連携の良さ。全てが繋がってしまった。
「お前らだったのかよ!サーマル!キネット!...ふぐっ⁉︎」
「よそ見は行けないな。ちゃんと避けてくれないと」
あまりの衝撃的な魔族の正体への驚きのせいで、アクセルの攻撃をモロに喰らってしまう。なんとか崖のヘリの部分で踏み止まれたが、だいぶ吹き飛ばされてしまった。
「いいやまだ、フロートが作り出した偽物を魔族っぽく見せかけてるだけな可能性が...!」
「往生際が悪いよカリヤ。私たちは正真正銘の魔族だよずっと騙されてやんの!」
サーマルの煽る声が聞こえた。
「そんなわけ...お前が魔族なわけない!だってカイスの調査に引っ掛からなかったじゃないか!」
「そんなもん能力でチョチョイとよ」
「なに自分で考えてやったみたいな雰囲気出してるんですか姉さん。泣きついてきたから仕方なく案を出したのは私ですよ」
「魔素操作...いや、本質が違うなら、聖素を増幅させて身を囲んだ?ああもうクソ!なんでこうも一度信じた奴が悉く魔族なんだよふざけんなっ!!」
「そっかアクセルのことも人間だって信じてたんだっけ?ご愁傷様だねぇw」
「この野郎...!」
「カリヤ!しっかりしなさい!驚く前にやることがあるでしょう!」
……ニアの声でハッとなる。みんなも魔族の正体に驚いているだろうに、ちゃんと戦い続けていた。懸命に魔王に攻撃を仕掛けている。もっとも、全てサーマルとキネットの二人に止められてしまっているが。
「……クソッ!こうなりゃもうヤケだ!信頼を裏切った罰だ全員この場でぶっ殺す!!!」
サーマルとキネットは魔族。殺すべき人類の敵。それを頭の中に叩き込み、今までギルドの受付員として接してきた二人の記憶を上書きするように、上から塗りつぶす。こいつらに情はいらない。いろんなご飯を食べたいとかいうのも全て人の世に紛れ込むための嘘。全部忘れていい。ギルドに紛れ込み、情報を吸い取り、時には優秀な冒険者を自らが作り出した凶悪な魔物の退治に向かわせて殺した。大量の魔物をカイスやガネルにけしかけて戦争を引き起こした。巨大化魔物を作り出して大量の人を襲った。全てこいつらが元凶。こいつらがいなければ、死なずに済んだ人が大勢いた。こいつらさえいなければ...!
「……っ!狂化のスイッチが入りかけてる⁉︎落ち着いてカリヤ!今ここでそれは逆こぅ...」
意識が、沼に沈むように、奥底に沈んでいく。
「……んがっ⁉︎」
地面に叩きつけられた衝撃で、意識が戻ってくる。一体何が...?
「君、我を忘れると逆に弱くなるタイプだったんだな」
アクセルに...殴られたのか?そうだ、怒るあまり勝手に狂化のスイッチが入ってしまったんだ...普段の方が強いから、封印していたのに。
「今ので殺せたろうに、手加減しやがって...舐めてやがんな」
「今殺してしまっては勿体無いからな。後でに残しておきたい」
「後で、だぁ?後なんかねぇ!ライト!」
「わかってる」
ライトが聖剣を構える。城がない今、何の制限もなく必殺技を振るうことができる。魔王のそばにいるサーマルとキネットごと消し飛ばしてしまえ!
「ハァッ!!」
魔素を反転させる聖素の塊が解き放たれる。
「そんなの対策してないわけないじゃん!」
「なっ...防がれた⁉︎」
サーマルの前に現れた、巨大な白い壁のようなものに阻まれライトの必殺技が受け止められてしまった。全てを貫通して、魔素だけを反転させる必殺技が、何かに受け止められるなんてことありえないのに。
そして、必殺技を受け止められたことで、俺たちは窮地に陥ることになる。聖剣が機能を失う三十秒間。この隙を魔族たちが見逃すわけが...
「……なぜ、攻撃してこない?」
魔王もアクセルもキネットもサーマルも、誰一人として動かない。なぜか、攻撃してこない。
「今私たちがやるべきことは、戦闘では決してないので」
「時間さえ稼げれば十分だからね!」
「時間稼ぎ...?なんのだよ」
時間稼ぎをしてくるなら、こっちも同じように時間を稼ぐ。ライトの聖剣が力を取り戻す前に動かれることだけは防がなければ。
「さっき、カリヤが自分で言っていたじゃないか。魔王様が完全体になる、その準備のためさ」
「魔王様はついに完全体、本来の姿を取り戻す!」
「何百年も昔に自ら切り分けた半身と、一つになることで、ね」
そう、キネットが言った時だった。
「うわわっ⁉︎」
突然地面が揺れた。俺以外の地に足をつけていた奴はみんな尻餅をついて転ぶ。日本人特有の地震への耐性のおかげだな...とか考えている場合ではないな。何が起ころうとしているんだ?
「ま、魔素が...山から抜けてる?魔王に集まってるわ!」
ニアがそう報告する。けれど、山から魔素を抜いて、どうなるんだ?まだ、意図が読めない。
「では皆様方。私たちは行きますので、どうぞ終焉の時をお楽しみ下さいませ」
「ふぅーいい煽りしてんねキネットちゃん!」
魔族、そして魔王が南へと飛んでいく。
「まさか...王都に攻め入る気⁉︎」
王都に攻め入る。ありえるけれど、なぜか、そっちの方がまだ被害が少ないというか、終焉というには弱い気がする。
何か、別の目的がありそうだ。あの方角には何がある?
「まさか...⁉︎」
俺は思い出した。女神の力が二代前の魔王が倒された辺りから弱まっているという話を。大体三百年前の話だ。さっきキネットが話したことと、魔王たちが向かう方角から考えると...!
「ライト!聖剣の力で女神そのものに干渉することは可能か⁉︎早く答えろ!」
「で、できると思う」
「なら今すぐやれ!この山に女神を宿らせろ!!」
「わ...わかった!」
理由を問うことなくライトは俺の指示に従い、力を取り戻した聖剣を山に突き刺す。
純白の光が、女神の山から放たれた。純白の光は、北へと向かって飛んでいく。
闇と光が、シレンの穴の真上で交差した。
そして、魔王が南の山へ、女神がこの山へとそれぞれ宿る。
「せ...セーフ...」
「な、なにが...今起こったの...?」
「魔王は女神の山を侵略して乗っ取ろうとしていた。もしこっちに女神を移せなかった場合、魔王はそのまま女神を封印するなりして、勇者の力を失くしてしまうことができた。状況は最悪だが...かろうじて、希望は残せた」
女神の力は未だ健在だ。魔王と女神がそれぞれ鞍替えをしただけ。奴らの期待した終焉はまだ来ない。
「さぁ、あそこまで行くぞ。今度こそ、完全に魔王を討ち取り...ステラ、どうした?」
ステラが、空からヘロヘロと力なく落ちてきて、地面にへたり込む。魔力切れを起こしたわけではなさそうだが...何があった?
「ね、ねぇカリヤ...魔王が、あっちの山に移ったってことはさ...」
「……っ!まずい!今すぐカリスに向かうぞ!」
俺のその声を聞いたことで、この場にいる全員が気づいた。
魔王の本拠地が南の山に移ったことにより、一番近くにある町が変わった。元々は一番魔王城から遠いということで避難所となり、転移してきた魔物から村を守れる程度の冒険者しかいないカリス。そこに、魔王軍の本隊が攻め込めば...到底守り切れるわけがない。
流石にまだ魔王が山に移った直後だ。今から最速であそこに向かえば、まだ戦闘が始まる前に到着できるかもしれない。急がなければ。
「ニア!」
「ゲートを開いたわ!急いで向かうわよ!」
ニアが開けたゲートに入り、別次元を移動してカリスに向かう。
が。
「カリスには行かせません」
俺たちしかいないはずのこの空間に、キネットの声が響いた。
「また時間稼ぎさせてもらうよ!ガッツリ付き合え!」
続いてサーマルの声が響いたその時。
「なっ...現実空間に引きずり戻された⁉︎」
空間に亀裂が入り、そのまま元の世界へと戻されてしまう。
現在位置は、シレンの穴近く。
どうやら、こいつらをどうにかしない限り、俺たちはカリスには向かえないようだ。
「クソ...!さっさと黙らせてやる!みんな!戦闘開始!」
人魔戦争は、まだまだ続く。
四話時点でカリヤくんが冗談で言っていた、女神の山乗っ取られたらヤバそう発言を覚えていた人はいるんですかね?
一年半近く経っての伏線回収...言うほど伏線か?
〜〜本編で明かす機会のない設定公開コーナー〜〜
ちなみにカリヤくんの狂化は完全に意識が飛びます。
ですが一応ちゃんと戦えるようにはなっていて、狂化発動直前に強く憎んだ相手だけを狙って攻撃するようになっています。
速度探知で判別もできるので、味方を巻き込む心配は絶対にありません。
しかし、その対象以外には見向きもしないので、今回は対象に入っていなかったアクセルに攻撃されています。
意識が飛んでるせいで自発的に解除することができないので強制的に狂化を解く条件が決められており、解除条件は対象全員の死亡or対象外から攻撃を受けること、になっています。
なのでアクセルに攻撃されてる狂化が解除されたんですね。
クミリアに狂化を教わろうとしても、その性格のせいかなかなか会得することができず、ニアの暗示とかも色々組み合わせた結果この形になり、結局あんまり強くなかったので封印→感情の極度の昂りで強制発動してしまうようになる、といった経緯があり、かなりの厄ネタである。