前世の俺がすでに転生特典決めてました 作:ダイヤモンドリリー
滅亡カリス編二話目です。
何気にカリヤ視点が一つもない、珍しい話だったりします。
紅い目をした、目にも留まらぬ速さで動く怪物は、町中を駆け回って複製体を殺し続けていた。
目に映る人型に近づいて速度探知で複製体を判別。人間なら放置し、複製体なら一瞬で首を切って殺していた。
障壁で封印されている者は、魔法拡散で拘束を解いて殺す。
気絶していた者を殺す。
人を今まさに襲おうとしていた者を殺す。
彼は、仮谷幸希は、複製体を殺すだけの怪物と化していた。
「数が多すぎる...!」
私は魔法で空から落ちてくる人を受け止めながらボソリと呟く。落ちてくる人の数があまりにも多すぎるのだ。
一瞬で減速させようとすると身体が耐えきれなくなってしまうため、ゆっくり減速させる必要がある。そのせいで一人一人に時間をかける必要が出てきてしまうため、落ちてくる人全員を救うほどの時間的余裕がない。
既に終端速度に達しているから、無重力にしてこれ以上の加速を防ぐ、なんてことも無意味。カリヤの速度操作があれば...とも思うけど、そもそも落ちてくる範囲も広いからカリヤがいてもどうにもならない。この村全てをカバーすることはカリヤでもできないからだ。
「これは...覚悟を決めるしかないわね...!」
命の選別をする覚悟...ではない。一人一人の減速を必要最小限に抑え、全員の救助を最優先にする覚悟だ。その結果、減速が不十分で多少怪我をしてしまうかもしれないけど、それは下にいるみんなや冒険者たちが治してくれれば問題はない。死ぬ人が出るよりかは当然マシだ。
「よし...やるわよ私...!」
そう私が意気込んだその時だった。
下から眩い光の奔流が飛んでくる。ライトの必殺技だ。
「でもなんで...って消えた⁉︎」
必殺技を浴びた、落下中の人たちの一部が消滅した。
「複製体も混じってたってわけ...?それを助けたら、下で人を襲い出すってことね。悪趣味すぎて反吐が出るわね...」
魔族たちはどれだけ悪趣味な所業を重ねるつもりなのだろうか。怒りで頭が埋まりそうになる。が、それをしっかり振り払って救助に集中する。
ライトが複製体を消しとばしてくれたおかげで、全員を安全に助ける余裕ができた。これなら...いける!
「集中...行くわよ私!」
これ以上死なせない!絶対全員を救ってやるんだから!
「これでニアが楽になるはず...」
聖剣を元に戻しながら、ひとまず安堵する。もしかしたらと思ってやってみたら本当に複製体が混ざっていて驚いた。いかにもフロートがやりそうなことだったからこそ、それを見逃さず最悪を回避することができたね。試しにやってみるものだ。
「……よし、しばらくは救助を...!」
必殺技を使うたびに、三十秒間聖剣は力を失ってしまう。段階的に回復していくけれど、力を失ってる最中は一般人の治療に集中して、三十秒経ったらまた必殺技を撃つのが一番効率が良かった。
「よいしょっ...と、大丈夫ですか?」
瓦礫を持ち上げ、下敷きになっていた人を救助する。
「ゆ、勇者様...?あ、ありが...っ!」
「足が折れてる...か。とりあえず回復させてから...」
簡易的な治療の魔法をかける。そしてすぐ近くにあった瓦礫の中から木の板のようなものと、カーテンの残骸だと思われる布切れを引っ張り出し、魔法でちょうどいいサイズに切断して添え木にする。
「多分治ってるとは思うけど、一応やっておくよ。あと、ここから絶対に動かないようにね。魔法で壁を作っておくから、この中なら絶対に安全だから」
「あ、あのっ、お父さんが外に...!」
「……わかった、探してくるよ」
少年の周りに障壁を貼ってからその場を離れる。
外にいる...か。ここらへんに既に人はいなかった。考えられる可能性は、既に誰かに救助されたり、避難しているか、複製体に襲われて既に死んでしまっているか...それとも、空から落ちてきている人たちの中に混ざっているかだ。生存と死亡の可能性は五分五分。あの少年には悪いけれど、そもそもどんな容姿かもわからないし、救えるなら救いたいけど必ずできるかどうかわからない。
「でも、探すしかないよね...見つけた人を助ける間に見つかってくれればそれでいいんだけど」
もう犠牲者が出てしまっているため、ここからはその数をどれだけ少なくできるかの闘いになる。聞いてあげたいのは山々だけど、一人のためだけに動くわけにもいかない。一人でも多く助けるのが勇者だ。もし僕が勇者じゃなかったら、あの少年一人のためだけに動けたのだろうか...
心の中で少年にごめんと謝りながら、僕は救助を再開する。まだ必殺技を撃っていない方向に向かって聖素を放ち、複製体の数を減らしながら倒れている人に治療の魔法をかけていく。
「っ...遅れてごめん」
手遅れの人に出会うたびに、そう思ってしまう。僕たちがもう少し早く来ていれば、この人も助けられたのかもしれない。そう思うと心が苦しくなる。なにもしてやることが出来ないのが心残りだ。そういった人たちには最低限の処理だけして次に向かう。
「せめて、あなたの家族友人は救ってみせる...!」
一人でも多く助けるために、進み続ける。炎も無しに、赤に染まっていく村の中を...
「……あれは...カリヤ?」
その目は紅に染まっていた。狂化を使っている...?この地獄の中で、怒りに呑まれてしまったみたいだ。
……けれど、この状況ならカリヤは狂化を使っていた方がいいのかもしれない。カリヤはあの性格だ。元々いた世界?も平和で人の死に直面することなんてそうそうないと聞いている。そんなカリヤがこんな状況に置かれ続けていたら、きっと精神を病んでしまう。
そうなるくらいなら、一旦精神を飛ばしてしまって無意識のまま行動するほうがいいだろう。複製体の中には当然カリヤの知り合いもいるだろうけど、狂化を使ってる最中なら普通に攻撃できるはずだし、理性を失っていてもカリヤなら速度探知で複製体かどうかを見分けられるから、間違って人間を攻撃することもない。
普通の状況で狂化を使えば弱体化と言っていいけど、今この場に限っては純粋なる強化、最適解だ。
「よし、複製体はカリヤに任せて治療に行こう」
複製体の処理はカリヤが一番早いし確実だ。あの速度感で、カリスの広さを考えると...全員倒すまで数分もかからないだろう。その間に、多くの人を治せるだけ治して...
「……って、魔物は対象外なのか!」
カリヤは近くにいた魔物を無視して走り去っていった。殲滅対象に魔物が入っていないのか、それとも狂化発動後に湧いた個体だけ対象から外れてしまうのかはわからないけれど、魔物の処理は僕たちがやらないといけないのは忘れないようにしないといけないな。魔物に気付けないカリヤが攻撃を喰らっては困る。
「怪我だけはしないでくれよ...?」
カリヤの心配をして...別の場所でそれぞれ頑張っているみんなのことも思い出し、同様に心配しながら魔物を切り払った。
「魔物が増えてきてる...!」
矢を魔物に向けて放ちながら呟く。多分だけど、周囲の魔素の量が増えてきているせいだと思う。魔素が増えたことで、魔物の自然発生が早くなってるんだ。
なんで増えているかは...複製体をライトの必殺技で処理してる影響かなと思う。魔素を聖素に反転させるのが必殺技なわけだけど、しばらくすれば反転した魔素は元に戻る。魔素の塊だった複製体は反転から元に戻った時に単なる魔素として散らばるから、周囲の魔素の濃度が濃くなってきているんだ。
「しかも何あれ...!」
空を飛んでいるおかげで気がついた。南の山からゆっくり、魔物の大群がこちらに向かって歩いていることに。あの感じだと...数十分あればカリスに辿り着くだろう。転移があるから必ずこの予測通りに来るとは限らないけど...あれが来る前にこの状況をなんとか収めて、立ち向かう準備をしないと...ああもうやることが多すぎる!
どうして私の故郷がこんな目に...!
「もう...もう!みんな消えちゃえ!」
下にいる魔物全てに矢を放ち、まとめて殺してしまう。
「お父さん!お母さん!どこにいるの!」
私は魔物を倒しながら、ずっとここを、私の家を目指して進んでいた。故郷を襲われたんだ。真っ先に家族の心配をするのは間違ってることじゃないはずだ。
家は奇跡的に無事だった。複製体や魔物にも襲われなかったらしい。隣の家は崩れていて、その瓦礫がのしかかってはいるけれど、私の家自体はどこも崩れてないみたいだ。
「す、ステラ!」
「無事だったのね!」
「お父さん!お母さん!」
よかった!本当によかった!無事で本当によかった...!
「無事だったって、それはこっちのセリフだよぉ...お兄ちゃんはどこ?」
お父さんとお母さんの安否は確認できた。あとはお兄ちゃんだけだ。
「お兄ちゃん探してくる!二人は家の中で待ってて!多分外よりかは安全だから!」
「気をつけるのよ!」
「何言ってんの。私カリスの英雄なんだから大丈夫だよ!」
家を飛び出し、魔道具を起動して空を飛ぶ。
「まだ探してないところといえば...あそこ!」
まだ誰も行っていないであろう、南側の門のところまで飛ぶ。
「……いた!」
門の近くで、カリスの外から入ってこようとしている魔物を矢で撃ち落としているお兄ちゃんを見つけた。魔物を攻撃してるし、複製体じゃない...はず!
「お兄ちゃん!」
「ステラ⁉︎ちょうどいいところに...手伝ってくれ!」
「了解!」
声で本物だとわかって安堵しながら、お兄ちゃんに加勢する。あの数なら...爆破でまとめて倒す!
『氷装・矢』
『雷装・矢』
少し先の地面に二種類の矢を放ち、爆破の準備をする。
「全員...吹っ飛べ!」
『火装・矢』
燃えている矢を放つ。矢は先ほどの矢が刺さっている地面の上を通り...そこにある空気に引火して爆発を起こす。
「その技は...英雄選定の時の!」
「魔物は...いないね。同じのあそこにもやっておこうかな...」
遥か彼方から迫りつつある魔物の軍勢を見て、弓を構える。
「……今はカリスを守る方が先か」
あっちは後でもなんとかできる。先にやるべきは、今いる複製体を倒すことと、怪我人の救助だ。
「ありがとうステラ。来てくれて助かった」
「感謝なんていいよ。それじゃあ私、みんなのこと助けてくるから行くね」
「ああ、行ってらっしゃ...ステラ、お仲間さんが来てるぞ」
「あっ、ほんとだカリヤだ...狂化してる?」
目が紅くなってるってことは、そうだよね?カリヤの性格からして、この状況で抑えられなくなったのはなんとなく想像できるけど...様子が変だ。
「こっちに向かって歩いてきてる...?」
見たところ雷装を使ってるみたいだから、スタミナ温存のために歩いてるのかな?...いやそうじゃなくて、そもそも狂化の攻撃対象は複製体だと思うんだけど、この近くにはいないからこっちに向かって来てるのがおかしいんだ。
「……近づいて判別しようとしてる?」
ここには私とお兄ちゃんがいる。どちらも本物だ。だけど、カリヤ目線だとそれがわからない。だからひとまず近づいて、複製体かどうか見分けようとしてるのかな。
「な、なぁステラ。狂化なんて使ってて、彼は大丈夫なのか?暴走したりとか...」
「暴走...」
あり得なくは...ないのか?狂化に詳しいわけじゃないし、クミさんが言うにはカリヤの狂化は普通と違うって話だし、攻撃対象がおかしくなってる可能性がないわけじゃないけど...
……そう思って見てみると、さらにカリヤの様子がおかしく見えてくる。
「止め...ないと」
そう思ったその時だった。カリヤが超高速で動き出した。カリヤの力の射程内に入ったから?いやそんなことよりも、お兄ちゃんが狙われてる⁉︎複製体じゃないのに!
止めないと止めないと止めないと...!多分攻撃対象に入ってない私ならカリヤを攻撃すれば狂化を止められる!けどこの速さ...もうタックルしか方法ない!
「やめて!」
ものすごい速さでこちらに向かってくるカリヤに、抱きつくような形でタックルし...
秒速80メートルで動くカリヤと衝突した私は、バラバラに吹き飛んだ。
「……っ!」
嫌な現実を見た。私の体が一瞬にしてバラバラになる、既に改変されて無かったことになった現実だ。カリヤからくれた指輪がなければ、今ので私は死んでしまっていただろう。
「す...ステラ!」
いつのまにか地面に横たわっていた私のもとに、カリヤが真っ青な顔のまま駆け寄る。
「よかった...正気に戻ったんだね」
「本当にごめんステラ!こんなことになってしまって...」
「私は大丈夫だよ。ほら、カリヤの指輪のおかげで無傷。だからそんな気に病まないで。顔色も戻す!」
「顔色戻すって、そんなすぐに戻せるもんじゃないだろ」
「そうそうその調子。やっぱりカリヤは笑ってる顔がいいね」
落ち込んだり、怒ったりしてる時よりも、笑ってる時の方が落ち着く。ニコニコ微笑んでる顔の方が好きだ。似合ってるしね。
「な、何を急に...ほらステラ、立てるか?」
「うん」
カリヤの手を借りて立ち上がる。
「あっ、そんなに気にしなくてもいいけど、私に感謝だけはしてよね。暴走しかかってて、お兄ちゃん攻撃しようとしてたんだから。ちゃんと本物なんだからね!」
「いまいち状況を理解できてないが...僕は本物のトルクだぞ」
「そう...だな。複製体じゃないのはわかった。こりゃ狂化は完全封印の必要あるな...」
「そうだね。普通の人を間違って攻撃しちゃうんじゃダメだし」
「……ところで、こんなところで話してて大丈夫なのか?今も複製体...?とやらが暴れているんだろ?」
「そうだった!早く行かないと!」
カリヤを引っ張って走り出そうとする...が、カリヤは動かない。
「 の ちが...」
「ん?何か言った?」
「……多分、複製体は全部倒したはずだ。うっすらとだが、狂化中の記憶が残ってる。一人残らず殲滅できたと思う」
「それ本当に⁉︎」
「ああ。残るは魔物だけのはずだ。これは自然湧きしてるから止めようがないし、倒しても意味がない。ニアの救出も終わったみたいだし...一旦みんなと合流して、次元転移を使って避難誘導をしよう」
「ねぇカリヤ。それ、どれくらい時間かかる?」
「結構人数多いし、だいぶ時間かかっちまうと思うけど...何かあるのか?」
「あそこを見てカリヤ」
「……なるほど、そういうことか」
魔物の大群を見たカリヤは少し考えて...
「一旦合流はするとして、二手に分かれるか。ライトに避難誘導してもらって、ニアに魔物の対処をしてもらおう。行くぞステラ」
「わかった!」
「あ、そうそう...トルク」
「なんだい?」
「お互い、約束破っちまったな」
「……そうだな。無かったことになったとはいえ君はステラを傷つけて、僕は村を守れなかった...そうだ、僕はここに残るよ。家財を残して逃げることになる人は大勢いる。その人たちのために、魔物にこれ以上村を荒らされないように守るよ」
「……そうか。なら、また後で話そう。カリスの代表として、この村をどうするか話し合いたい」
「了解した」
「じゃあ行くぞステラ。ニアには連絡済みだ。ひとまず北の門近くで集合するぞ」
「わかった!早く行こ!」
カリヤを引っ張って北の門へと向かう。
「……おっ、集合早いな」
門に着いた時には、もう既にみんな待っていた。カリヤがいるのに一番遅いなんてこと初めてかも?
「こっからやることは念話で既に伝えてるからいいとして...だ。とりあえず回復しよう。ライト、聖域を頼む」
「了解」
ライトが聖域を展開する。そしてカリヤが速度操作で魔力回復速度を加速させ、みんなの魔力を回復させていく。
「……そうだ。ステラ、矢の本数大丈夫か?」
「え?...あーちょっと少ないかな。後で回収してこないと」
「ほれ。これ使いな」
「ありがとー!」
カリヤが次元収納から出した矢を受け取る。
「こまめに本数は確認しておけよ。急になくなったら困るんだからなー」
「大丈夫だよ。矢なら作れるようになったし」
カリヤから製作スキルを習ったし、炎弓とかの魔法で矢を作ることもできるようになった。矢が無くなっても、すぐに戦えなくなるようなことはない。
「まぁでもちゃんと気にしておくね。ここから先は後戻りできない敵の本拠地なわけだし」
あの山の中に入ったら、もう魔王を倒さないと外には出られない。そんな気がしていた。そこで未来が全て決まる。残り本数の管理を間違ったせいで魔王に負けるなんてこと絶対やっちゃダメだから、気をつけないと。
「……よし、全員回復し切ったな。じゃあ二手に分かれるぞ。ニア、ステラ、着いてきてくれ」
ここで二手に分かれる。ライト、レスト、クミさんの救助避難誘導係と、カリヤ、ニア、私の魔物対処係の二つだ。クミさんにお父さんとお母さんが隠れている私の家を教えて二人のことを任せてから、南の門へと向かう。
「ステラちゃん...意外と冷静...よね?大丈夫なの?ほら、故郷が...」
移動中、ニアがものすごく様子を伺いながら私に聞いてきた。
「冷静...なのかな。まだどれだけ被害が出ちゃったのかちゃんとわかってないのと、少なくとも私の家族が無事だったからかな...悲しいんだけど、まだ取り返せるって思っちゃってる。これくらいって言うと被害を受けた人たちに対して失礼になっちゃうからちょっとアレだけど、カリスが襲われるって思った瞬間に思い浮かんだ光景よりかはだいぶマシだから、まだなんとかなるって思うんだ」
みんなのおかげで、多分最高に近い形でカリスを守ることができた。本来なら、そう、カリヤがいなかった場合、そもそもカリスに到着するのが大幅に遅れていて、もう完全に滅んでしまっていたカリスを目にすることになっていたと思う。それを考えると、あまり思い詰めなくてもいい、そう思った。
「そう...強いわね」
「……そうなのかな。まだちゃんと実感が湧いてないだけかもだけど...」
多分、魔王を倒していざ帰ろうってなった頃に、やっと実感が湧くんだと思う。カリスを守ることに成功したとはいえ、そこが聖域で無くなった以上、もうその地に住むことはできない。故郷を離れざるを得ないのだ。今はまだそういうことも冷静に考えられているけれど...帰る場所がないのは苦しい。きっと、私の心は崩れてしまうに違いない。
「まぁでも一番の理由は...いいや、なんでもなーい」
声に出すのはやめておこう。これを言ったら絶対また謝ってくるだろうし。
一番の理由は、カリヤが私の分まで悲しんでくれたから。狂化が発動してしまうくらい、村の人や冒険者が死んでしまったことを悼んでくれていた。その心で、弔いは既に済んでいる。私の代わりに怒ってくれたから、私は冷静でいられるのだ。これを言ったら絶対狂化で私を傷つけたから〜とかなんとか言ってくるから、心の中に秘めておこうね。
「……まぁ元気そうでよかったわ。で、ここでいいのよね?」
「ああ、ここらで頼む」
色々考えているうちに、カリヤたちの目的地についていたみたいだ。魔物の大群と、カリスのちょうど間らへんに私たちはいた。
「じゃあ...行くわよ」
ニアが魔法を行使する。私にはそれがどんな魔法かはわからないけれど...地面が迫り上がってきて、ものの一分で超巨大な壁ができてしまった。
「俺が頼んどいてアレだけど、すげーなこれ。万里の長城みてぇ」
ばんりの...っていうのは多分、カリヤの世界にこれと似たようなものがあるってことなのかな。めちゃくちゃデカい壁は東西に果てが見えないくらいの距離まで伸びていて、高さも二、三十メートルくらいはあると思う。魔法ってこんなことまでできるんだぁ...
「転移されちゃ無意味だけど、ただ歩いてくるだけならこれで魔物の進軍は止められる。まぁこれで、あの量の魔物にカリスが襲われるなんてことは起こらないだろ」
「早く終わったし、避難誘導に混ざってこようかしら」
「んいや、大丈夫みたいだぞ。もう終わったって連絡が来た。連れてくるからちょい待ってて」
カリヤがカリスまで走っていき...数十秒で戻ってくる。
「よし合流完了。それじゃあニアの魔力回復させたいから、またライト頼む」
「わかった」
ライトが聖剣を地面に刺し、聖域を広げる。カリヤは私たちの中央に立って魔力回復加速を一応全員にかけて...
……いたはずだったのに、急に消えた。
「えっ...?」
転移されたのかと一瞬思ったけど、聖域の中から外への転移は時間がかかるはずだから、予兆なく消えた今のとは関係ないはず。しかもなんなら、私の背後に気配が移動していた。一瞬で動いて、カリヤは私の背後に回っていたらしい。
「お前...なぁ...一応あれは、俺なりの温情でもあったんだぞ?」
その手には、一本の矢が握られていた。いや、飛んできていたのを掴み取ったというのが正しいのか。
「ステラもああ言ってたわけだし、目の前で倒すのはちとアレだから...あの場では見逃してやったさ」
その矢を放ったのは...
「お兄...ちゃん...?」
弓を手にした、お兄ちゃんがカリスのある方向に立っていた。
「後で一人で戻って、ステラにバレないうちにやるつもりだったのに...どうして!どいつもこいつも!魔族って奴は人の思いを踏み躙りやがるんだ!フロートォ!」
「えっ...フロー...ト?」
お兄ちゃんが...フロート?そんな...まさか...
「……ハッ、お行儀よく従ってくれると思い込んだお前が馬鹿なだけだろ。俺はアクセルとは違うんだぜ?」
どう見ても、どう聞いても、お兄ちゃんそのもの。
なのに、その内側は、どうしようもなく他人で、魔族だった。
そりゃフロートも紛れ込んでますよね...ってことで、次回はフロート戦です。
まぁ次回は戦闘前に会話挟むんで、二、三話くらい使ってじっくりやるかなと思います。
ちなみに聖域の位置が変わったのは他の町や王都も例外じゃないので、実はこの世界に住む人全員、故郷を去る必要があるんですよね...おそらく今頃、どこの町も自然湧きした魔物の対処でてんやわんやしてると思います。