前世の俺がすでに転生特典決めてました 作:ダイヤモンドリリー
フロートの勝利条件
・さっさと本気出してステラを殺す
・時間稼ぎをしながら耐え続け、ステラが消耗し切ったのちに殺す
どちらかといえば、カリヤたちをより深い絶望に沈めるために後者を狙っている。
ステラの勝利条件
・フロートの残機を自力で全て無くし、トドメを刺す
・なんとか耐え忍び、カリヤたちが結界から逃れるのを待つ
一応結界のトリックさえ見破れば、カリヤたちはいつでもステラの手助けに入ることができるんですよね...気づければの話ですが。
「ほらほらちゃんと避けなよ!」
フロートに向けて不可視の矢を放ちながら煽る。もちろんフロートもちゃんと避けようとしているのだけれど、それでも私の腕の方が上だ。弓の角度から矢の動きを推測しようとしたって無駄。これは魔法の矢なんだから、そんな小細工じゃ避けられない。
「っ...ぐぅっ!」
ザクザクとフロートの体に不可視の矢が刺さり、穴が空いていく。
「どうすんの?このまま諦めて死んじゃう?」
再生中のフロートにも攻撃し、その残機を減らしていく。この矢が見切られるよりも前にどれだけ多くの残機を減らせるか。これが戦況を大きく変える転換点だ。
この不可視の矢のトリックは極めて簡単。空気を固めて矢を作る。ただそれだけだ。魔法をあまり使えない私だけど、これと炎弓は何度も何度も練習したおかげでそれなりに使えるようになっている。魔力消費も、この調子ならいくら使っても問題ないくらいだ。
フロートがこの単純な技に対応できていないのは、私には魔法は使えないという認識があるせいだろう。フロートは私がどれだけ成長したのかを知らない。炎弓は既に一度見せたけれど、一回しか使ってないからあの状況を打開するために無理して使った、という認識になっているだろう。他に使える魔法があるのかどうかもわからないはず。
そういうフロートの私に対する更新されていない古い知識が真実を隠し、あらぬ可能性を幻視する。それは、未知の魔法を使っているという可能性。
ニア曰く、先天的な魔法の適性というのは全てが高かったり低かったりといったことにはならないそうだ。どれかが高ければ、別の何かが低くなる。どれだけすごい魔法使いがいたとしても、必ず何かの魔法の適性がへこむらしい。もちろん繰り返し練習するなどして後天的に適性を手にした場合は違うけど、基本的にこの原則は変わらず、全体で見れば平均になるようになっているらしい。わかりやすく言えば、カリヤの魔法適性みたいなことだ。
けれど、世の中にはニアみたいにほぼ全ての魔法の適性を得ている人がいる。となるとさっきの原則が崩れてるじゃないかと思っちゃうけど、実際には崩れていない。こういった場合、その人は現在発見されていない魔法への適性がほぼゼロになるといった感じでバランスが取られているらしい。知らないところがへこんでいるから、全てが高いように感じるだけなのだ。
……ここまで言ったら、フロートがなぜその可能性を幻視したかわかるだろう。私の普通の魔法に対する適性が異常に低いせいで、普通じゃない魔法、現在失われている魔法の適性が異常に高くなっているんじゃないかという風に、魔法適性の原則を知っていれば考えてしまうのだ。実際にはこの原則の例外となる後天的適性を得た魔法だというのに、見えない矢を使える特殊な魔法があるんじゃないかと疑ってしまう。余計に真実から遠ざかってしまう。
「魔法拡散でもさっさと使ったら?流石に私のこと舐めすぎだよ!」
最初の頃は煽ったらいけないと思っていたけど、今なら違う。煽れば煽るだけムキになり、本気を出すのは負けだと思わせられる。今やろうとしていることで事態を解決しようと考え、行動が遅れる。この矢の秘密を見破られるのが遅れる!
「チッ...そこまで言うなら...あガッ⁉︎」
本気を出そうとしてきたら、それはそれでチャンス。即座に脳天に矢を命中させて殺し、重要な能力を失わせることができる。これを一度されればフロートは警戒せざるを得ない。せめてこの矢の謎が解けてからでないと、勝負を決めに行くことはできないと考えるはずだ。
「っ...じゃあこれならどうよ」
フロートの姿が変わる。変身途中に空気の矢を放つけど...当たってない...かな?放った後のことは私にもわからないから、どうやって防いだのかわからない。魔法拡散で散らしたのか、それとも障壁で防いだのか...
「……その体...!」
フロートは女性の姿へと変化する。青い髪をたなびかせる女性。アクセルだ。
「やっぱりあの時既に温存していたか...!」
「いーや、そもそもあの時はアクセルは使ってなかったぜ?」
「そんなまさか...」
雷装の矢をなぜ使えるか聞いた時に、アクセル経由でって言ってたからあのタイミングでアクセルの力を使ってないわけが...いや違う!私がカリヤから雷装の矢を貰ったのと同じように、雷装を使えるアクセルから矢を受け取ったってだけだ!速く動いていたからってアクセルとは限らないのに勘違いしてた!
「……アクセルの力があったとしても!これが見えなければ無意味だよ!」
速射を使い、五本の空気の矢を放つ。フロートが今いる位置と、移動しそうな場所、移動中に当たりそうなところ全てに一発ずつ撃ち込む...が。
「見えなかったとしても、防ぐことはできるんだぜ?」
「複製体を盾に...⁉︎」
矢は見えなくても、私の手の動きは見える。それを見て避けることは難しいけど、放たれるタイミングはわかるから、手が弦から離れる直前に複製体を出せば盾にすることができる...けど、それって結局残機を一つ使ってるよね?いらない奴なのかもしれないけど、残機を減らせるならそれはそれでいいのかも。
「そして...防御も攻撃もこいつらに任せよう」
二つの光の結晶がフロートの体から出てくる。それを撃ち落とそうとしてみたけど...すり抜けてしまった。複製体として出現するまで、結晶に干渉することはできないみたいだね。
「……って、そっかあの二人模倣されてたんだっけ...!」
現れたのは、二人の少女。世代最強の補助魔法使いと呼ばれた、フレアちゃんとミレアちゃんだった。
「最速のアクセルに世代最強のバフをかけたらどうなるか...見せてやろう」
「っ!」
アクセルの速さに真面目に付き合う理由はない。急いで空まで飛翔し、アクセルから距離を取る。空中で一度跳べるとはいえ、空を縦横無尽に駆け回ることはできないはず。あの二人の使える魔法からしても、それは変わらないはず...
「いや待って!それだけじゃ...重っ⁉︎」
急激に体が重くなり、下に落とされそうになる。フレアちゃんの重力操作だ。なんとか重力に逆らって上に上がるけど...フロートが来ない?もしかして、さっき言った通り本当に二人に攻撃を任せるつもり?
フロートがアクセル以外の体も自身に組み込んでいたら、アクセルの力を得たまま空を駆け回って攻撃することもできるのに...そんなにこの不可視の矢を警戒しているの?
「なら...二人から倒す...!」
空気の矢をまずはフレアちゃんに向けて放つ。とりあえずこの重力が厄介だから先に処理しておきたい。けど...
「やっぱり防がれちゃうか...!」
ミレアちゃんが水の魔法を使ってフレアちゃんの周りを囲み、矢の勢いを落とすことで防いでしまう。
……って水はヤバい!矢が空気で作られてるってことが簡単にわかっちゃう!
「ほう...意外と単純だったな」
気づかれた!空気の矢だと分かれば対処のしようはいくらでもある!このままだとアクセルの力で一瞬で近寄られて攻撃される!
もうバレてるものだと考えようなりふり構ってはいられない!
『雷装・矢』
空気の矢に雷装を纏わせる。雷装が見えちゃうから不可視の利点は無くなっちゃうけど、これならあの水を突破できるはず...!
「いけっ!」
放たれた空気の矢は、重力の影響を受けて軌道がずれるけどそれは考慮済み。影響を受けながらもしっかりフレアちゃんの頭に当たるような軌道を描いていく。
そして、ミレアちゃんが水で守ろうとするけれど...電気分解によって軽々と突破して頭に矢が刺さる。
「よし重力脱却!」
体が軽くなって飛びやすくはなった...けど、フロートがこっち来てる!ミレアちゃんを倒している余裕は無い!
「来ないで当たれ!」
空気の矢を放つ...が、本来なら当たってもいい位置にフロートがいるのに傷ができてない。何が起こってる...?
『雷装・矢』
視認性を高めるために雷装を纏わせて放ち、様子を見る。
「……風で逸らしてるのか!」
矢はフロートに当たる直前にあらぬ方向へと逸らされていた。空気で作られた矢は、普通の矢よりも風の影響を受けやすい。けど、ただ下に逸らすだけなら最初から若干上目に放っておけば...って、そうしたら風を止めて対処されちゃうのか。
「でもそれならまだなんとかなる!」
風で妨害してくるなら、こっちも空気の特性を使ってそれを乗り越える!
『氷装・矢』
「これで...!」
氷装を纏わせた矢をフロートの上を通過するようにして放つ。最初から当たらない軌道なら、ミレアちゃんは風の防御をしてこない。何の妨害もなく、矢は飛んでいき...
「……んなっ⁉︎」
空気の矢は突如として急降下。咄嗟に防御したフロートだったが、防ぐのに使った右腕が完全に凍結する。
「冷えた空気の性質か...!」
氷装で冷やされた空気の矢は下へと軌道を変える。軌道変更を使えない私では、こうでもしないと矢の軌道を変えることはできない。タネが割れたから二度は通じないだろうけど、片腕を潰せたのは幸運だね。
「くっ...!」
片腕が凍ったことで左右のバランスが崩れ、なんとも走りづらそうだ。さっきよりも空中を駆ける速度が落ちている。走るために使ってる魔法の制約なのかは知らないけど、フロートは直線的にしか移動できないから速度が落ちたことでさらに逃げやすくなった。曲線を描いて自由に移動できる私の方が、空中戦に分があるだろう。
「よし今なら...先にミレアちゃんを!」
フロートを翻弄してほんの少し引き離すことに成功した瞬間に急降下し、ミレアちゃん目掛けて弓を構える。
『氷装・矢』
『雷装・矢』
『火装・矢』
三色の空気の矢を引き絞り、同時に飛ばす。氷装の矢は上から、雷装の矢は正面から、そして暖められて上昇する火装の矢は下からミレアちゃんを襲う。
水を使って身を守ろうとするミレアちゃんだったが...雷装の矢に貫かれて消滅する。どんな魔法を使っても必ずどれか一つは命中していただろう。そうなるように計算して矢を放った。
「あとはフロート...!」
二人のバフが無くなり、片腕が凍ったことによる速度低下も相まって、フロートの速度はだいぶ落ちたはず。アクセルの力を失わせる絶好のチャンスだ。
……フロートは、今の私の武器は炎弓か空気の矢しかないと思ってるはず。私に残された最後の、一度限りの切り札を切る時だ...!
「って腕治ってる⁉︎」
別の誰かの腕をツギハギしたんだろう。せっかくダメージを与えたのに回復されるの嫌だなぁ...けど、これでフロートは万全の状態で攻撃することができるはず。その瞬間を狙おう。
「さぁ...来い!」
フロートが真っ直ぐこちらに向かってくる。空気の矢を放って応戦するけど...なんか避けられてる。雷装を纏っているし、クミさんみたいに雷装による五感強化で空気の流れを読んで矢の軌道を読んでいるのかな?
「……今っ!」
ギリギリまでフロートを引きつけた私は、弦から右手を離し、魔力銃の入っているホルスターに手を伸ばす。ほんの少し前、ミレアちゃんを倒した直後に準備していた魔力銃。
それをフロートに向け、引き金を引く。
直後、閃光のようなレーザーが放たれ、フロートを飲み込んだ。
カリヤが作ってくれた、魔力弾の威力を極限まで増幅させるブースター。私の魔力の20%近くを持っていき、ブースター自らが耐えきれずに自壊するほどの威力を叩き出す最終兵器。
矢が尽き、油断しているであろう魔族相手を想定して作られたこのパーツ。見事にその役割を果たしてくれた。
……と、思っていた。
「なん...で?」
フロートは無傷だった。アクセルの姿のまま変わっていないのを見るに、擦りもしていないのだろう。放たれた私の魔力砲は、今は丸く固められてフロートの後方で浮いていた。
「その攻撃は、ニアの記憶で知っている。いつ使うかと警戒していたが、このタイミングとはな」
……そうだ。ニアを模倣されていた時点で、ニアが知っていることはフロートも知ってしまっている。シレンの穴の中で私がこれを使ったのをニアが見ていたから、最初から警戒されてしまっていた。
今思えば、私が炎弓を使った時、フロートはあまり驚いていなかった。ニアに教えられた魔法だから既に知られていたのだ。そして、製作や空気の矢はニアではなくカリヤから教えてもらったもの。だからフロートは知ることができなかったし、対処が遅れた。
情報は重要だと常日頃からカリヤが言っていたけれど、それを再認識する。相手の力を知っているのと知らないのとでは差があまりにも大きすぎる。私はフロートが後どれくらい残機があるのか知らないのに、あっちは私がもうそろそろ手札が尽きるのを知っている。どうすれば勝てるか、想像すらできなくなってきた。
「もう少し早くやってくれたら楽だったんだがな...利用させてもらうぞ」
フロートの背後にあった魔力の塊が動き出す。南の方角。ニアが作り出した壁がある方向だ。
「まず...!」
急いで動く魔力の塊の軌道上へと移動する。壁を破壊されては、それまで無意味だったフロートの時間稼ぎが意味を成してしまう。まだ魔物の大軍は壁まで達していないけど、無かったはずのタイムリミットが壁の破壊によって生まれてしまう。それだけは回避しなければならなかった。
「私の魔力なら...!」
受け止められる。そう思って壁との間に割り込んだ。
目論見は成功した。少しピリピリするような痛みはあったけれど、元は自分の魔力。じんわり馴染むように私の身体の中へと戻っていく。
しかし...
「受け止め...きれなかった...」
私の体では、全てを受け止めるには物理的に小さすぎた。私に当たらなかった魔力はそのまま壁へと突き進み、その一部を破壊してしまった。穴は小さい。けれど、その断面を攻撃すれば、すぐにでもその穴は大きくなり、崩壊していくことだろう。
「はい残念」
「っ、きゃぁっ!」
アクセルの脚力で思い切り蹴り飛ばされ、地面に叩きつけられてしまう。
「……?その指輪、二度使えたのか」
もう一つの切り札すらバレてしまった。
指輪は夜の間に魔力を貯めることで、昼間に効力を発揮することができる。しかし、夜には指輪の力を使えないとは言っていない。もし夜に防御の力を使えないとなれば、私はカリヤを止めようとして突っ込んだ結果、そのまま死んでいただろう。指輪の力は、夜でも普通に扱える。
よって、夜である今ならば、魔力を一定量流し込めばすぐにアクティブ状態に移行できて、防御に使うことができる。その一定量を流すのにはそれなりの時間がかかるから、そう何度も使えるものじゃないけど...だからこそ、最後の手段として使いたかったのに、こんなところで使ってしまった。
「まぁ、守れたのは蹴りだけか。落下の衝撃は受けきれなかったようだな」
そう。守れるのは一度だけ。地面に墜落した衝撃からは守ってくれず、全身に激痛が走っている。
「……ほう、まだ立つか」
「痛いけど...まだ諦めるわけには...!」
「これ以上戦ったところでどうなる?どうやっても俺を殺し切ることなんてできない。抗ったところで、コテンパンにされてただ死ぬだけ。余計に惨めで、絶望的で...アイツらはどう思うだろうなぁ?」
「私が死んだとしても、みんなの心は折れない!絶望するかもだけど、それすら乗り越えて希望を持って戦い続けるのがみんなだ!」
「そいつはどうだかな。あの中でちゃんと模倣できたのはニアくらいだが...その精神性まで俺は知っている。きっと絶望するだろうよ」
「知ってる?ニアの何を知ってるのさ。記憶を読んだくらいで、勝手に解釈して...人の気持ちを!思いを!語ってるんじゃない!」
「へぇ...なかなか面白いことを言ってくれるな。今の俺には何を言っているかまるでわからないが...お前を模倣すれば、それも理解できるんだろうなぁ?」
「ぐっ...!」
頭を鷲掴みにされて、持ち上げられる。弓を構えるけど...頭を握る手の力が強く、元々あった全身の痛みも相まって魔法を発動させることができない。空気の矢を生み出せない。
「10、9、8、7、6」
カウントダウン。おそらく、私の力を模倣するまでの時間なのだろう。
「5、4、3、2」
これが終わったら殺される?いや、フロートなら...
「1...ゼロ」
ポイと投げ捨てられる。地面でバウンドし、全身の痛みがさらに増す。
「……これが、お前が抱いている、人間の思いってやつか」
フロートの姿が変わる。私そっくりの姿へと変わる。
「くだらねぇ...人間ってのはどうしてこうも馬鹿ばかりなんだ?理解できねぇな」
「理解できない...?それは性根と解釈が捻じ曲がってるからでしょうが...!」
「俺からしたら、お前らの方がおかしいんだがな...」
弓を取り出して、手の中で弄びながら呟くフロート。
「……お前にもあるんだなこの記憶...なんなんだ?魔族が人の魂から生まれてるって奴ぁ?」
「そのまんまの意味だよ...もし貴方がちゃんと人として生まれていたなら、こんなこと起こらなかったのかな、戦わずに済んだのかな...人を殺させずに済んだのかな」
「気に入らねぇな。その可哀想なものを見る目...俺は魔族だ。人間なんかじゃねぇ。敵と一緒にされてたまるかよ」
私の姿になっているフロートが、弓矢を向けてくる。その姿で私を殺すことが、みんなを絶望させるのに一番良い...そう思っているのだろう。
「人間の思いってのは何一つ分かりゃしねぇが、お前の記憶を読んで一つ分かったことがある。これ以上対抗策がねぇってことをな」
「そんなことないよ...最後の最後まで!私は抗う!時間稼ぎでも負けるためでもない!勝つために!」
弓を握りしめ、空気の矢を番える。
「その最後ってのは今だぜ?」
……えっ?
「なぁ、聞かせてくれよ。どうして複製することができたってのに、本物の方をわざわざお前に渡さなきゃいけねぇんだ?」
私の弓が一瞬にして跡形もなく消え失せた。
最初から偽物の方を掴まされていた。
フロートはいつでも私から弓を取り上げることができて、けどより深い絶望を与えるためにわざと泳がせた。
最初から、手のひらの上で転がされていた。
「さぁどうする?炎弓で無駄な足掻きでもしてみるか?」
弓がないのに、弓を構えた状態で静止してしまう。頭が動かない。ここからどうすればいいのか、まるでわからない。
だけど、諦められない。
多分、きっと、活路はまだある。
落ち着けば、未来を切り開けるはず。
弓が、矢が無くたって、人の心までも消えてなくなったわけじゃない。
まだ、戦える...
逆だ。
弓の基本はそこにはない。
弓は心を落ち着かせ、無心になるためのもの。
今でこそ狩猟のためのものになったけど、原点はそこだ。
私にできることは、弓を使うこと。
ずっとずっと続けてきたことを、この瞬間に発揮すること!
「……おい。なんだ...それは...!」
いつのまにか、手に弓矢の感触があった。
「何をしようとしている!その弓矢はなんなんだ!」
怯えながらフロートが矢を放つけど、心が乱れきっている矢が私に当たるはずがない。傍を逸れて外れる。
「私にもわからない...けど、この力を貴方が使えないことだけはわかる」
頭の中に、情報が流れ込んでくる。まるで、自らを使ってくれと言わんばかりに、弓が心に共鳴してくる。
その呪文を、心の中で唱える。
弓の前に敵は無し
己の心こそ真の敵なり
弓は心の表れ
弓無かろうと
矢無かろうと
心宿れば弓矢有り
弓の極致には未だ至らず
果てなき道を望みて構える
「『無心の弓』」
射るは己の心
渇望を 羨望を 嫉妬を 怒りを
全て消し去り無の極致に至る
届くは無の心
世界は共鳴し 心と共に無に帰す
矢を握る手を離す。
「残心...」
そのままの姿勢を保ち続ける。
精神を酷使したことによる負荷でほんの少しよろめく。が、なんとか踏みとどまってフロートの方を見ると...
そこには、土手っ腹から心臓の辺りまでを完全に消し飛ばされたフロートが立っていた。
ニアがシレンの穴で見た、何もかもを消し飛ばすあの弓矢の魔法を、ステラが使うと予想できた人はどれだけいるんでしょうかね...
ワ○トリでハウンドの説明を事前にしていたようなノリで魔法適性の話を途中で盛り込んでみましたが、もしかしたらその時点で、ステラちゃんが原初の魔法を使うなと察した人いるのかも?
呪文を考えるの苦手なりに頑張ってみたけど、見返すと恥ずかしい...