前世の俺がすでに転生特典決めてました 作:ダイヤモンドリリー
サーマル・キネット戦一話目です。
「この中にみんなが...」
山の山頂に辿り着いた俺は、魔王城の前に立っていた。ここに来るまでの間にみんなと鉢合わせしなかったから、この中でサーマルやキネットと戦っているのだろう。
「……入るか」
魔王城の扉、その取手に手を伸ばして...
「……いや、待て」
嫌な予感がして、俺は手を伸ばすのをやめた。この、ザクッと突き刺さるような嫌な予感。この世界に来てから、度々感じるようになった嫌な予感。これが来た時に、悪いことが起こらなかった試しは...今まで一度もない。
クミリアが事故で雷を喰らう前も、魔王が女神の山に侵攻しようとする前にも、この感覚はあった。この嫌な予感を信じるなら...この中に入ってはいけない。そういうことだろう。
「……だとしたら、みんなはどこに...?」
考えろ。もし魔王城の中じゃないとしたらどこだ?おそらく、キネットが作戦を考えているはず...転移も考慮して、あいつらの思惑を見抜く...!
「……もしかしたら...確認の価値はある!」
俺は踵を返し、今まで来た道を引き返す。山を降り、大空洞を一つ抜け...
「やっぱり!」
二つ目...麓から見れば一つ目の大空洞に入ろうとしたら、黒い壁のようなもので入口が塞がれていた。おそらく、この中で戦っているのだ。
キネットらの思惑はこうだ。本当はここで戦っているのに、俺に魔王城の中で戦っていると思わせることで中に踏み入れさせる。魔王城は魔王を倒すまで出られないから拘束に完全成功というわけだ。
もしそれがうまくいかずとも、山を降りる唯一の道を塞いでしまえば、山から出られなくなるから魔力を回復しに行くこともできなくなる。この場所で闘うことで、二つの有利が生まれるというわけだ。あっ、でも次元転移が...うん、対策されているものとしておこう。そうじゃないと推理が成り立たなくなる。
「……さて、どうやって入ろうか」
黒い壁に一度触ってみて、その後蹴ってみるがびくともしない。物理はダメそうだな。魔法だとどうなるかはわからないが...壁から数十センチくらいの位置まで魔法拡散が張られているな。おそらく、この中も魔法拡散で埋め尽くされているのだろう。ニアなら魔法拡散を上からかけて上書きするなんてこともできるんだろうが...俺の実力ではできない。魔法も意味がないってわけだ。
「侵入不可能か...?でも、この厚さでそこまでの強度の壁にできるものなのか?」
壁の厚さはおよそ数センチ。これで物理攻撃を全て受け切れるとは思えない。魔法耐性を落とすことで強度を上げているのだろうが、それにしてもだ。きっと何か抜け穴があるだろう。
「……ってか、この壁スゲェな。音も光も完全シャットアウトしてんじゃねぇか」
速度探知のおかげで、中でみんなが魔族と戦っているのがわかる。けれど、それを感知できるのは能力だけ。壁を隔てたこの場所では、五感で戦っていることを感知することはできなかった。
「そこに何かがありそうなんだよなぁ...」
普通の障壁では、音や光まで遮ることはできない。もちろん、それらに何かしらの攻撃性が付与されていた場合は別だが、基本的には光は通るから中の様子を見れるはずだし、音も聞こえるはずなのだ。
「うーむ...」
中の様子を出来るだけ多く知るためにも、壁にへばりつきながら考えていた、その時だった。
「……⁉︎」
思わず後ろに飛び退いてしまったが、今のは...
「ちょっとだけど...めり込んだ?」
ほんの少しだけど、壁の中に入れたような気がする。ってか入ってたな。ほんの数ミリだけど...
「なんでだ?」
壁に触れてみる。押してもびくともしないけど...押すのは違うのか?触れるだけ、とか...うわ、ちょっとめり込んだ!
「速度...か」
ある速度を下回ると、この壁を通り抜けられるようになるようだ。それ以上の速度のものは一切受け付けない。光や音を通さないのも、その性質が影響しているのだろう。物理的耐久力がすごいわけじゃなかったんだな...たしかに、俺の力をメタろうとするなら単純に硬くするよりも有用かもしれない。
「ただ遅くすりゃあいいってわけでもないしなぁ...」
減速もできるため、やろうと思えば壁を通り抜けられる速度を維持しながらゆっくり進むこともできるが...それをしたら、少し進んだ辺りで血管が破裂してしまうだろう。
血流の速度は壁を抜けるための速度を余裕で超えてしまっている。流石に血流速度の減速はデメリットが大きすぎて、やる気になれない。それに、そのデメリットを考慮せずに突入したとしても、ゆっくーり中に入ろうとしている最中に、魔族に集中砲火されてしまうだろうしな...それを考えると、この壁最強なのでは?入れないし入ろうとしたら殺されるわけだし。
「となると...方法は一つしかないか」
一応、中に入る方法はひとつだけ残されている。だが、その方法を取るには、この中で戦っているニアの協力が必須だ。なんとか中に干渉して、協力してもらう必要がある。
「干渉できる方法は速度操作のみ...か。頼む、ニア気づいてくれ...!」
少しでも中に干渉するために、壁にへばりつきながら俺は能力を起動した。
「っ...!」
キネットが放ってくる魔法を走って避けながら、次に使う魔法を頭の中で整理する。
「喰らいなさい!」
この空間全体に張られているキネットの魔法拡散を私のもので上書きしてから魔法を放つ。普通なら魔法拡散の中じゃ魔法は使えないけど、上書きした箇所だけなら魔法を使える。だけど馬鹿正直に魔法を放ちたいところだけ上書きしていたら軌道がバレバレだから、関係ないルートも上書きして心理戦を仕掛ける必要があるけれど...
「やっぱりそうなるわよねぇ!」
私が放った魔法は、更なる魔法拡散の上書きによって消え失せてしまう。
……でも、どうしてその方法をとったのだ?キネットはその場から離れるだけで自身の魔法拡散という絶対安全圏に入ることができるはずなのに、わざわざ面倒な上書きで対処したのはなぜ?消費魔力もバカにならないはずなのに...
「って、考えてる暇ない!」
キネットの魔法が飛んできていたため、思考を中断して走り出す。防御に魔法拡散は使わない。キネットが上書きするのにどれだけ時間がかかるかわからないためだ。上書きして身を守ろうとした直後にまた上書きされたら困る。上書きの危険があるため、走って避けるしかないのだ。
「空を飛べないって、ほんと面倒...!」
こういう時、魔道具で空を飛べるステラちゃんが羨ましくなる。飛べない私に代わって、空を飛んでいるキネットに攻撃もしてくれてるし、たまに矢で私の方に飛んでいく魔法を撃ち落としたりもしてくれている。ここまで戦えてるのはステラちゃんのおかげだ。
「なんとかして近づかないとなのに...!」
キネットに接近することさえできれば、上書きをする時間をも与えずに攻撃することができるはずだ。しかし、飛べない私にそれは難しい。ステラちゃんに抱えてもらう選択肢は無しだ。流石に重労働すぎる。
「それに...!」
「ぐっ...!」
レストが私の近くまでザリザリと地面を滑ってくる。痛そうな声を出しながら、けれどすぐに立て直してサーマルの攻撃を防ぐ。
そう、なぜかキネットもサーマルも、私だけを狙って攻撃してきているのだ。キネットは矢を放ってくるステラちゃんを無視して攻撃してくるし、サーマルは地上を走る私を狙って肉弾戦をしようとしてくる。レストやライト、クミリアと戦ってるにも関わらず、隙あらば私を狙ってくるのよね。その際に一度死のうがお構い無しだ。
おそらく、私が略奪を使えるから狙われているんだと思う。フロート経由で、私の力や記憶は魔族たちにもれてしまっている。そのせいで、シレンの穴での訓練で、私たちがキネットとサーマルをどうやって倒したのかも知られているのだ。
私とカリヤの同時略奪。これがなければ、この赤髪姉妹を倒すことはできない。そのためにカリヤを分断し、さらに保険として私を戦闘不能、最低でも略奪を使えないくらいには魔力を消耗させようとしているわけだ。略奪さえ使われなければ勝てる。そう思っているから私に集中砲火しているんだろう。
「……ったく!カリヤ来る前に終わらせるって言っちゃったのに何よこの体たらく!自分が情けなくなるわ!」
「言ったのは僕だけどね」
聖剣を振ってサーマルの首を切り飛ばしながらライトは言った...喋りながら魔族殺すのやめてくれない?何もできない私がますます惨めになる!
「……もうこうなったらお前と戦ってやるわよサーマル!ライトはキネットをやりなさい!」
「交代了解!」
カリヤからもらった鞭を取り出しながらライトに役割交代の指示を出す。飛べないのだから、さっさと交代して地上のサーマルと戦った方が良かったわねこれ。
「あーそういえばそんな武器持ってたんだっけ?」
「私が魔法だけだと思ったら大間違いよ!」
『雷装・鞭』
「ちょっ、何それ聞いてない!」
「そりゃそうよ!ついさっき山に入る前に貰ったもの!だからお前は知らない!」
魔力を流すことで自在に鞭を操りながら、サーマルに雷装を流し込む。
「でも、こんなに近づいて大丈夫かな!」
いつもの謎の急加速によってサーマルがこちらに近づいてくる。
「大丈夫だから近づいてんのよ!」
魔法拡散と障壁を同時に発動し、上書きしながらサーマルの突進を防ぐ。
「そして喰らいなさい!」
上書きが残っている間に、障壁越しに閃光を放って心臓を撃ち抜く。流石にこの速度じゃ上書きしなおすことはできないようね...もしかしたら、どうせ復活できるだろうってことで姉を見捨てた可能性はあるけれど。
「ちょっと!ちゃんと守ってよキネットちゃん!」
サーマルは再生しながら妹に向かって叫ぶ...けど、ライトの攻撃を避けるのに必死なようで完全に無視されている。
「全っ然慕われてないじゃない妹に何したのよ」
「変なこと何もしてないよ!」
「あっ、バカだからか」
「バカ言うな殺す!」
「そうやって戦闘中に会話に乗ろうとするのがまずバカなのよ」
「どっせい!」
バカと言えば簡単に注目してくれるという、実に便利な性質を利用して注意を逸らしたところに、クミリアが勢いよく突っ込んでサーマルの顔面を殴りつけた。
「まぁ、こっちには魔族と話そうとする大バカ者がいるんだけどね...それで情報を引き出すことに成功してるから、怒るに怒れないけど」
やっぱり感性が違うのかしらねぇ...魔法がない別世界から来たわけだし。まぁそこを追究しだすと、なんで一年でここまで戦えるようになっているのとかそういったことも考えたくなるから今はやめておくとして...
「いったいなぁ...もう!」
サーマルは殴られた箇所に触れ、苛立ちながら私に近づいてくる。殴ったのはクミリアなのに、それでも私を狙うのね...
「何度来たって無駄よ!妹の方はともかく、バカなあんたなら、しかも魔法が使えないあんたなんか敵じゃないのよ!」
サーマルも、キネットが張った魔法拡散の効力を受けているため魔法が使えない。カリヤみたいに固有能力は普通に使えるから、一応少し注意しているけれど...正直、三人がかりじゃなくてもいいくらいには余裕ね。急加速にさえ注意しておけばいいだけ。壁を貼れば問題無しだ。
ライトがキネットと戦い始めてから、こっちに魔法が飛んでくることも少なくなった。距離が離れているからなのか、魔法拡散の上書きも遅い。おそらく、同時に殺されそうにならなければ、キネットがサーマルを防御面でサポートするようなことはないだろう。
「けど...!」
そろそろ来そうだと思って身構えていたら、やっぱり来た。キネットの攻撃的なサポート。転移攻撃だ。サーマルが転移させられ、蹴りを放ってきた。
「合図があるね」
そう言いながら、レストはサーマルの蹴りを弾き飛ばす。それも、カウンターを使ってだ。
どういうわけか、普通の蹴りのように見えてめちゃくちゃな威力を内包していたらしく、サーマルは一瞬でグチャッとなって吹き飛んでいった。喰らっていたらああなってたってことよね...レストには助けられてばかりね。
「合図?」
「転移してほしい時に、魔法を使ってわざと拡散させてる。魔法拡散って、使ってる側はどこで何を分解したかわかるんでしょ?魔法の種類とかで位置も指定してるんだと思う」
「なるほど、念話できないのにどうやってタイミングを伝えてるのかと思ってたけど、そういうことね」
魔法拡散のせいで念話ができないのに、どうやって意思疎通を図っているのか謎だったけれど、事前にパターンを作っておくことで会話をしていたのね。そして、キネットからサーマルへは普通に念話を使えるから、一方通行で返事を飛ばすと...干渉するのは難しそうだけれど、少なくとも転移攻撃のタイミングは掴めそうね。避けるのが楽になった。
「もうその攻撃は通用しないわ。大人しく殺されておきなさい!」
キネットに切り掛かるライトの様子を見ながらサーマルに攻撃をする。それぞれ個別になら、殺すこと自体は簡単だ。同時に死ななければ再生できるが故に、一度死ぬことに抵抗がないんでしょうけど、その油断を突ければ...!
「消灯!」
広めに魔法拡散を上書きし、魔法でその内部の光を全て消し去る。これで魔族たちはお互いの行動がわからなくなる。死にそうになっているのかどうかもだ。
このタイミングなら、同時に殺せる...はず。相方が今死んでいるのかいないのかもわからないから、タイミングをずらすための自死もしづらいはず...憶測しかないけどこれがダメなら次を考えるだけ!
「……いない⁉︎」
私は魔法で暗闇の中でも見えるようにしていた。だからこそ、一瞬にしてサーマルの姿が消えたのがわかった。合図はない。というかそもそも私の魔法拡散の中だから合図は使えないはず。ということは、転移攻撃じゃない。サーマルを緊急回避させるのに転移を使ったんだ。
「でも!そこなら好都合!」
転移で回避させるにしても、すぐに殺されないために自身の視界内の安全な場所に飛ばすはずだ。そう考えながらキネットの方を見れば、おおむね予想通りだった。サーマルは、キネットに切りかかろうとするライトのほぼ真後ろに転移していた。そこなら、すぐに殺されない...そう思ったんだろう。
「ライト!!」
名前を叫び、決めきろとエールを送る。それに応えるようにライトは必殺技を発動させ、聖剣の柄を持ちながら縦にグルンと一回転する。前後を同時に聖素の塊で攻撃するためだ。
ビームが放たれ、魔族たちを飲み込...まない?というかそもそも必殺技が発動してない⁉︎これじゃまるであの時みたいじゃ...
「っ!そうかこの真上は...ライト避けなさい!」
この上は魔王城だ。必殺技は物質を透過する。あの軌道では真上にも必殺技が放たれるが、そうなれば山を貫通して魔王城に直撃することになる。しかし、魔王城は未来を重ね合わせることで破壊を未然に防ぐ機構があるため、そこに必殺技を放つことはできない。だから全てがキャンセルされた。それがなければ、魔族たちを一気に処理できたはずなのに。
そして、ずっと私狙いだったが、勇者を挟み撃ちにしている状況でそれを続けるわけがない。絶好のチャンスと捉えて、魔族たちはライトに襲いかかり始めた。
「避けろって言ったって...!」
とりあえずライトは今度こそ必殺技を起動し、確実に目の前のキネットを吹き飛ばす。が、空中にいる状態ではここまでが限界だ。まぁ、ここまで出来ていることが異常でもあるのだが...
「もらった!」
「そういうのはやってから言うもんだよ!」
ライトに拳を突き刺そうとしたサーマルの目の前を矢が通り、その拳を射抜いた。今度は蹴りを放とうとするが、そもそもサーマルは転移で空中に呼び出されただけ。飛んではいないので重力によって落下し、蹴りは空を切る。
「チッ!ちゃんと殺しておけよフロート!」
「姉さん一度死んで!」
必殺技を喰らっても普通に復活してきたキネットの指示に従い、サクッと自分の首を折って再生するサーマル。ほんと、死ぬのに躊躇がない...!玉砕覚悟が常にできるから何をしてくるか読めないのが辛すぎる!
カリヤがいてくれれば、もっといろんな動きができるようになるし、相手の動きを読むのもやってくれるから全員の負担が減る...カリヤに能力への頼りすぎを指摘していたのは私だったのに、私が依存してしまってるじゃない...!
というかそもそもここまでカリヤは来れるの?あの黒い壁は何も通さない。外から魔法を使えば壊せるのかもしれないけど、そんな簡単に壊れるようには作ってないはず。
……でも、私を優先的に殺そうとしているのは、私とカリヤの二人同時略奪を警戒しているからはず。ということは、中に入る方法はある...の?わからない。手元の情報が少なすぎる。そんなことを考えているくらいなら、この五人で倒すことを考えた方が...
「……ん?」
ほのかな風を感じた。けれど、これはおかしい。黒い壁に、空気が通るような穴があるとは思えない。今は風が起きるような速度で動いている人は近くにいないし、それは魔法も同じだ。空気の流れができているのはおかしい。
まだ自身にヘイトが向ききっていないのを確認してから、私は風が吹いてきた方向を見る。見た感じは何かがあるようには思えないけど...もしかしたら。
「……やっぱり」
魔法で熱を見れるようにしたら、風の原因がわかった。ある一部の箇所だけ、異様に熱くなっているのだ。地面も、黒い壁も、空気も...おおよそ、半径七メートルくらいの範囲だ。これは、カリヤの能力が及ぶ範囲と近似している。
あの壁の向こうに、カリヤがいるんだ。そして、カリヤは無駄なことはしない。自分がここにいるのだと、それだけを伝えるためにやっているわけでもないはず。ここに来いと言っているんだ。カリヤの力ならば、あそこに行けば意志伝達が可能かもしれない。
「クミリア!時間稼ぎお願い!」
「あいよ!...そうだったお前らキースの仇!」
狂化が起こらない程度に怒りながらクミリアがサーマルに突撃していく。キネットはステラちゃんとライトが抑えてくれるはず。今のうちにあの場所に...
「熱...くない?」
空気も熱されていたはずなのに、その空間に入っても熱くなかった。速度操作で、熱運動を完全に制御しているから...あっつ!
「ちょっ、なに⁉︎」
急に腕が熱された。魔力体ではあるけど痛いものは痛い...って、変色してるしこの模様は...
「文字...⁉︎」
変色部分は文字の形をしていた。しかし、普通の文字ではない。
「妙な動きはやめた方が身のためですよ」
「っ!」
いつのまにか真横に転移されていたみたいで、至近距離で放たれたキネットの魔法をギリギリで回避する。どれだけうまくステラちゃん達が引きつけていたとしても、キネットなら転移で包囲を抜けられる...厄介ね。
「その腕の...火傷跡?いったいいつから...」
……よかった、気づかれてはないようね。これが文字であることに...そうか、もし見られたとしてもその内容がバレないように、そのためにカリヤの世界の言語で書かれているんだ。
書かれているのは...「ゲートを開け」という文だった。
「なるほどね...!」
カリヤの意図を完全に把握した。しかし、キネットに見張られている今、怪しい動きをすれば即座に妨害されてしまうだろう。別のことに警戒させ、妨害を阻止する必要がある。
「それなら...隠し球を!」
私は魔法拡散で周囲の空間を上書きをしてから、集めていた魔力を使って魔法を練り上げ、キネットに向けて放った。
「そんな攻撃は無駄で...っ⁉︎」
キネットは身を守るために更なる上書きを行ったが、上書きされた空間に入ったにも関わらず、魔法は消えずに直進し、キネットの半身を貫き消失させる。
やったことは単純...というわけでもないわね。魔法拡散が分解するのは、発動者以外の魔力でできた魔法。つまり、発動者本人の魔力で作り上げた魔法なら、他人が作ったものでも問題ないわけだ。魔法拡散で分解した魔力を再利用できる私なら、普通に攻撃が可能なのだ。カリヤにやられた魔法拡散対策を私なりに改造したものだけど...できればもう少し温存しておきたかったわね。仕方ないけれど。
「なぜ消えない...!」
偶然同時に殺せていたらそれでよかったのだが、現実はそう上手くはいかない。しかし、魔法拡散が効かない魔法があるという事実に、キネットは強く警戒している。目的は達成した。
私はニヤリと笑いながら、魔法拡散で周囲を上書きし、次元転移を発動する。
「っ!逃がしませんよ!」
……やろうと思えばすぐに上書きすることもできるようで、次元転移を発動した次のタイミングには魔法拡散を上書きされ、時空の裂け目が消滅する。
「その中には入らせません。仮に入れたとしても、既にあなたの次元の座標は特定している。すぐに引き摺り出せるのですから、バカなことは考えないように」
「バカはあなたよ。ええ、大バカね。そもそも、私の目的を理解できていないもの」
私の次元の座標は特定されている。だから逃げられない。それは事実だ。私も無駄なことはしない。できないとわかってることはしない。私は逃げようとしたのではない。ただカリヤの指示通り、ゲートを開いただけだ。
「それに...既に事は終わっているというのに、防げたと思い込んでいるもの」
私は次元転移の発見者。研究し尽くしたからこそ、他人の次元転移の空間に干渉することもできる。
私は、カリヤの次元転移のゲートを開いたのだ。
「さぁ、来なさい!」
私がそう叫ぶと、何もない空間からいきなり人が出現し、そのまま高速移動して少し離れたところにいたサーマルの頭を蹴り飛ばした。
「よぉ!待たせちまったな!」
「十分早いわよ!カリヤ!」
「なっ...なぜ神の使いがここに!どうやって入った!」
「そんなんいちいち教えっかよ!...ニア、状況は?」
「見ての通り全体に魔法拡散。私はなんとか魔法を使えるけど、みんなはそうじゃないからなかなか攻め手がないわ。防御は間に合ってるから膠着状態ね」
「なるほど...じゃあ、その膠着状態を改竄してやっか」
カリヤはキネットの方に手を向けながら叫ぶ。
「逆転開始だ!赤髪姉妹!」
魔法拡散の上書き設定は、一応フロートに結界で閉じ込められた時にニアが魔法拡散で上書きしようとしていたシーンがあって、初出ではないんですが...ほぼ初出だし後出し設定と言われてもしょうがないよなぁ...