前世の俺がすでに転生特典決めてました   作:ダイヤモンドリリー

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8160字。

サーマル・キネット戦三話目です。
今回は思考パート多めです。


死の違和感

「もう...うざったい!」

 

放たれる魔法を運動エネルギーの増幅による超加速によって回避するサーマル。紫電を纏い、そのままの勢いのまま突進してくるがそれをヒョイと避ける。直線的な動きしかできないし、アクセルのように慣れているわけでもないから避けるのは容易い。

 

「ほらほらどうしたよ。こっちも一人だってのに翻弄されっぱなしじゃねぇかサーマル」

 

キネットとみんなの戦いを横目で見て、うまくタイミングを合わせて攻撃しながら煽ってみる。だいぶイライラしているご様子だが、それでもちゃんと同時に死ぬことだけは回避しているのは流石といったところか。

 

さーて...優勢な今のうちに、一度勝利条件を整理しておこう。闇雲に攻撃していたんじゃいつまで経っても終わらないからな。

 

まず、絶対に必要なのはサーマルとキネットを同時に殺すことだ。

 

考えるべきはその過程だけど...方法は二つ。普通に自力で同時に殺すか、ニアの魔力回復を待ち、今度こそ略奪を発動させて固有能力を封じてから殺すか。

 

ハッキリ言って、前者も後者も厳しい。前者はこれまで幾度となく挑戦してきたが失敗している。後者はそもそも魔力の回復が難しい。

 

必殺技の発動後、一時的に聖剣の力が落ちるのを考えると一回で魔力補給を終わらせたいところだが、必殺技を単体で浴びても回復しきれないだろう。俺の速度操作が必須だが、今はニアと距離が離れている。それに、もしサポートできる距離にいたとしても、転移で妨害を受ける可能性が高い。ニアを必殺技の当たらない位置に飛ばすだけで妨害できてしまうから、成功の可能性は低い。

 

それにもし回復できたとしても、結局固有能力を強く意識させなければ略奪の効果を発揮できない。この二つの難関を超えられるかどうか...

 

他に方法はないか?考えろ。今の状況を全て場に出し、考慮しろ。出来ないことから出来ることをあぶり出せ。

 

俺一人じゃ二人に略奪を使うことはできない。どちらか片方のみならできるが...キネットの転移だけ止めればなんとかなる可能性もあるか...?いやでも、サーマルのエネルギー増幅能力もそれなりに厄介だ。それに、略奪は固有能力を封じるだけじゃなく、心臓の痛みによって動きを鈍らせる効果もある。シレンの穴じゃそのおかげですんなり殺せたところもあるから、片方だけ止める方法は賭けになるな。出来なくもないから一応選択肢には入れておこう。

 

他には...二人を一箇所に集めて、一撃で同時に殺す方法があるか。追尾する閃光をキネットに向かって撃てば、死んでもいい状況でなければサーマルのところに向かい、強化した障壁で身を守るはず。そうなれば、さっきみたいに一箇所に集まるから、そのタイミングで二人同時に殺せれば...離れたところでタイミングを合わせて殺しに行くよりも簡単かもしれない。

 

けどそれをするには、同時に殺すの「同時」がどのくらい許容されるのかがわかってないといけないな。本当にコンマ0秒のズレも許されないのか、それとも同時に死んでいるタイミングが一瞬でもあれば条件を満たせるのか...後者なら嬉しいけど、仮に前者だった場合一人じゃ達成は難しい。

 

こういう時、シレンの穴での経験は参考にならない。あれは俺たちの記憶をもとに作り出した魔族だからだ。あの時はほぼ同時だったけれど、コンマ0秒のズレもなかったなんてことはないはずだ。無意識のうちに甘い条件付けをしていたからズレがあっても許されたのか、それとももっとズレがあっても許容されるのか...

 

どちらにしても、結局誰かとタイミングを合わせることは重要だ。もし一人で同時に殺す方法があるならば話は別だが...

 

「もう!ずっと無視してるし!そんなんするならこうしてやるんだから!」

 

ずっとサーマルが喚き続けていたのを無視して思考をしていたのだが、何かしてきそうな気がしたので流石に意識を戦いに戻す。

 

「ハッ、いったいお前に何ができ...んなっ⁉︎」

 

急に次元収納と接続できなくなったかと思えば、体内に入り込んでいた魔道具が勝手に排出された。その影響で、魔道具を介して召喚していた装備が勝手に収納されてしまう。

 

「これは...略奪⁉︎」

 

「ありゃ、能力を引っ張りたかったんだけどなぁ...別のが釣れちゃった」

 

と、サーマルは箱型の魔道具を手の中で弄びながら言った。

 

ニアの記憶から略奪の魔法陣の情報が盗まれていたのか...そもそもフロートがワンナの力を模倣していたし、こいつらが使う可能性は普通にあったか。魔法陣もあるから知識だけじゃ使えない古代の魔法と違って簡単に発動もできてしまうし、警戒しておくべきだったな。

 

略奪の発動には適性値にもよるが、よっぽどの場合大量の魔力が必要だ。サーマルが略奪の適性を持っているとは思えないし、その量は絶大なものだろう。おそらく、固有能力で魔力を増幅させて無理矢理発動させたのだろう。

 

ゆえに、連発することはできないはず。固有能力による魔力回復がどの程度早いかはわからないが、すぐに二発目が飛んでくることはないはず。速度操作ではなく魔道具が対象に選ばれたのは幸運だった。速度操作が対象になるようなことがないように、別のものに注意を向けなければ...

 

「丸腰じゃんチャンス!」

 

武器が全てしまわれてしまったせいで、今俺が持っているのは魔法図鑑くらいしかない。こうなるならダガー一本くらいは普通に持っておくべきだったか...と、後悔している暇はない。好機と見たのかサーマルは距離を詰めてきた。早く対処しなければ。

 

魔法を使っての反撃は暴走させられるからダメ。次元収納を開いてストックで攻撃もできるが、いちいち発動させないといけないせいで魔道具を使ってる時よりも効率が落ちるし、魔法として発動させることになるから暴走の危険がある。次元収納の暴走で何が起こるかわからない。最悪、中身が一瞬で全て出てしまい、丸ごと吹き飛んでしまうかもしれない。それを回避するためにも、次元収納は一瞬しか使えない。そして紫電を纏ってるせいで肉弾戦もできないとなれば...!

 

9902、9903ページ 次元収納

 

「これしかねぇ!」

 

一瞬だけ次元収納を開き、その中からエアガンを取り出した。その動きはさながら、どこぞの指輪の仮面○イダーのように...

 

「なにそれ魔力銃?...っ゛⁉︎」

 

「喰らいやがれ!」

 

ひたすらに引き金を引き続け、サーマルの全身に風穴をあけていく。咄嗟のことで何が起こっているのかわからないサーマルは最後まで避けることができない。そして、一度死んだのか地面に倒れ伏す。

 

「リロードは...めんどいからこれで!」

 

サーマルに向かって走り、上を飛び越して着地し、周囲にへこんだBB弾が落ちていることを確認する。

 

『製作』

 

次元収納を開き、中の素材を使ってリロードするよりもこっちの方が安全だ。暴走の危険を無くすために、よっぽどのことがない限りはこの方法でリロードすることにする。

 

「いっつつ...なんなのその武器!」

 

「アクセルでも避けられねぇ代物さ。お前は肉体強化もできねぇし、どうやっても防ぎようがねぇなぁ?」

 

エネルギー増幅能力ではこのエアガンでの攻撃を防ぐことはできない。一方的な攻撃の再開だ。

 

「あっ、思い出した!フロートが作るの妨害したっていう銃じゃんそれ!もう完成してたのか!」

 

……違うけど、そういうことにしておこう。アクセルならともかく、サーマルにわざわざ説明してやる義理はない。

 

「やっぱり銃は最高だなァ!お前みたいな雑魚を蜂の巣にできる!」

 

「くっ、アクセルもこれで...!」

 

「は?アクセルは雑魚じゃないからこれくらいじゃ死なんが?舐めてんのか?」

 

「なんであんたがアクセルを擁護してんの⁉︎...あばっ⁉︎」

 

思わず動揺したサーマルの眉間を撃ち抜く。

 

「ヘッショ気持ちいぃ...こうも綺麗に決まると面白いもんだな」

 

「……そう言ってられるのも今のうちだよ!」

 

と、サーマルが言ったので能力を解除し、エアガンに意識を集中させる。

 

「……はい想定通り!」

 

略奪によってエアガンが奪われてしまう...が、全然オーケーだ。無言で略奪使われたら速度操作が対象になっていたかもしれないから、予告してくれて助かったぜ...これ、フロートだったら能力解除を誘うためのブラフだっただろうな。ほんと、サーマルがバカで助かるぜ。

 

「なにが想定通りか知らないけど、武器は奪ったよ!喰らえ!」

 

ハッ、そいつは加速させなきゃただのエアガン。避けずとも...いや待て。今ぞくっと嫌な予感がしたぞ。落ち着け冷静に考えろ。サーマルの性格なら...威力を求めて初っ端から能力使って撃ってくる!

 

「うお危ね⁉︎」

 

思わず身を捩ると、直前まで俺がいた場所にものすごい速さでBB弾が飛んでいった。運動エネルギーの加速によるものだろう。速度操作で加速したわけじゃないため、物理保護はかからない。発射の勢いによって自壊するBB弾は、破片を散らばらせながら飛ぶため、範囲小さめのショットガンのような軌道になっていた。

 

「クソ怖えなオイ!」

 

「もう一発!...あれ?出ない?」

 

「弾切れも知らんのかバカめ!」

 

9902、9903ページ 次元収納

 

別のエアガンを取り出し、引き金を引く。手を撃ち抜いてエアガンを手から落とし、そのまま肩脚と風穴をあけて動きを阻害させる。

 

「なにこれ使えないなぁもう要らない!」

 

「それならさっさと所有権返してくれませんかねぇ!」

 

所有権がサーマルに渡っている間は、俺は盗まれたものに触れることすらできない。本当だったらアクセル相手にやったように、製作スキルを使ってエアガンを取り返していたところをわざわざ別のを取り出したのはそのためだ。

 

「やだよーだ」

 

「うっぜぇなこいつ...って再生してんじゃねぇぞ!」

 

傷が治りつつある肩をまた撃ち抜き、そしてついでに片耳も吹き飛ばす。

 

「ほら、早く所有権を返してもらおうか。魔道具もな...あれ?」

 

ちょっと待て。おかしい。なんでまだ魔道具が盗まれたまんまなんだ?

 

略奪魔法で盗んだものは、十分経つか、発動者が返そうとすれば返却され、元の持ち主の元へと戻っていく。それが物なら、俺の手元へと独りでに動いて返却される。

 

しかし、この二つ以外にも返却される要因はある。それは発動者の死だ。というかそもそも、どの魔法も発動者が死ぬと解除されるのが普通だ。

 

だけど、俺は魔道具を盗まれてからサーマルを二回ほど殺しているというのに、魔道具は返ってきていない。死んだなら返却されているはずなのに...だ。

 

「まさかお前...死んでねぇのか?」

 

眉間を撃ち抜いたり色々したけど、死んでいない。いや、致命傷は確かに負わせたから、完全な死を迎える前に再生したためちゃんと死んではおらず、魔法の解除が起こらなかったってところか。

 

……そうだ。似たようなことはその前にもあった。キネットもサーマルも二人とも何度も殺しているはずなのに、黒い壁は一向に破壊されなかった。二人で共同発動しているから片方が死んだだけじゃ消えない...と解釈していたけど、そもそもサーマルは途中まで魔法拡散のせいで魔法が使えなかったんだから、キネットが一人で発動していたはずだ。

 

しかし、魔法拡散の改竄によって爆死した時に、壁が消えるようなことはなかった。ちゃんと死んでいなかったことの証だ。

 

それに、俺が乱入するまでの間に一度もキネットを殺せなかったとは考えられない。最低でも一度は殺せているはずだ。けれど壁はそのまま残っている。これもちゃんと死んでいないことの証明になりうる。

 

……そういや、サーマルもアクセルも、致命傷を負ったら身体が黒い塵のようになって崩れるように死んでいったな。塵になり始めることが魔族の死だとするならば、そこまで至らなければ死んでいないということになるのだろう。塵になる前に回復できれば死なない。

 

今思えば、俺はアクセルを充填器の電気エネルギーによる心肺停止で殺したわけだが、ほぼ同じ状況になったガネルでの戦いでは、サーマルが治療することで息を吹き返していた。やはり、塵になる前に治せば生き返れるのだ。

 

塵になる前に再生することで死から逃れる。それが二人の不死性の原理だとすれば...俺ならやりようはある。

 

「それなら死んで返してもらうとしよう!」

 

脳天に向けて引き金を引き、BB弾を貫通させて致命傷を負わせる。そこに速度操作をかけて...

 

「何企んでるかわからないけど無駄だよ!」

 

「チッ...失敗か」

 

再生し切ったサーマルの放つ蹴りをすんでのところで避け、一旦距離を取る。

 

速度操作で塵になるまでの速度を加速し、再生を遅くすることで死を早めようとしたのだが...塵になる速度に干渉することはできず、再生の方は干渉はできたものの減速には時間がかかるため失敗に終わった。

 

けれど、再生を遅くすることは少しだが成功している。同時に殺す条件を少しは満たしやすくなるはずだ。近づかないといけないから再生後の反撃が怖いが、できるだけ積極的に狙っていこう。

 

「さーて、あっちの様子はっと...」

 

「余所見だなんて余裕だねムカつく!」

 

「あーはいはいそういうのいいから」

 

サーマルの加速攻撃をひょいひょいと避けながら、キネットの戦いの様子を見る。そろそろキネットを殺せそうだというタイミングになったら先んじてサーマルを殺すためだ。

 

キネットはおそらく、致命傷を負ってからどれくらいの時間で再生が始まり、完了するのかを頭の中に入れているはず。そしてサーマルが死んだのを確認すれば、その時間をもとに動くだろう。再生が完了するまでの間は絶対に死なないようにだ。

 

逆に言えば、それを過ぎればキネットの警戒は解け、比較的殺しやすくなる。だから、再生を少しでも遅らせられれば、キネットの計算を崩して同時に死を迎えさせることができるかもしれない。

 

「……こっちも見られてるか」

 

俺がキネットの方を見ているように、キネットも俺の方を見ていた。そりゃそうだ。同時に死ぬことを回避するなら、こっちの動きを逐一見ておく必要がある。もしかしたら、さっきの再生が微妙に遅くなっていたのも見られていたか...?

 

……いや、もしそうなら、残り二回の楔を一度使って、減速の速度を早めてしまえば問題ない。見られていようが関係ない。キネットの策を上回る方法なんて、いくらでもあるんだから。

 

「余所見してると...こうだよ!」

 

やべっ!もう略奪の魔力が貯まりやがったか!速度操作を解除して、手元のエアガンに意識を集中...するよりもこっちの方が楽!

 

『雷装』

 

「ほらくれてやるよ!」

 

雷装の発動と同時に、勝手に解除される。略奪で盗まれたのだ。

 

「あっ、やられた!暴発の方が良かったじゃん!」

 

暴発させられるのだから、雷装なんかいらない。どうせ肉弾戦をする気がないのだから、奪わせてしまっても構わないのだ。

 

「そんなんで電気を纏うくらいなら、雷装を使いなよ。そうしたらスタミナ消費を加速してやるぜ?」

 

「そんなのするわけないじゃん!」

 

といいつつ雷装を使ってるのはなんなんだ...?固有能力で纏う紫電と雷装の違いに俺が気づかないとでも思ったのか?大方、雷装の身体能力強化が欲しかったってところだろうが...なんか、俺に隠し事ができると思われているのがすごいムカつくなぁ。

 

「……っと、危ない危ない。雷装使って速くなったからって、俺を捉えられるとは思わないことだな」

 

「えっ、バレてる⁉︎」

 

「バレねぇわけねぇだろ...っと、なかなかいいタイミング...!」

 

キネット戦の方で動きがあった。ステラとクミリアの攻撃を避けるために地上に転移したキネットに向かって、ライトが必殺技を放とうとしていたのだ。そして、その軌道上にはニアが...!

 

たとえキネットには当たらずとも、ニアは必殺技の直撃を受けることになる。その場に俺が立ち会えば、加速によってニアの魔力は全回復する。略奪による勝利が狙える!

 

もはやサーマルのことなんて無視だ。ここからニアまでの距離はおよそ40メートルほど。走れば0.5秒で着く距離。だけど、俺が動くのを見ればキネットに目論見がバレかねない。倍の時間がかかってもいい。移動の過程をこの世から無くし、一瞬でニアのもとまで移動する!

 

7801ページ 黒 青 未来跳躍

 

0.5秒のタイムラグののちに、俺は0.5秒先への未来へと飛ぶ。ニアの真横に立つように。必殺技を真正面から受け止められる場所に...!

 

「  ニアっ!」

 

予定通り、ニアの真横への跳躍に成功した俺は、名前を叫んだ。今から魔力を回復させる。全回復したらすぐさま攻撃だ。そう伝えるかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、必殺技は飛んでこなかった。

 

「は?...ライ、ト...?」

 

前を見たが、ライトの姿はなかった。そこにはキネットがいるだけだ。

 

「まさ...か...!」

 

急いで辺りを見渡した。ニアはいる。キネットもサーマルもいる。

 

だが、ライトにステラ、レストもクミリアも、どこを見てもいなかった。

 

「壁の外に転移させたというの⁉︎」

 

ニアが驚愕の声で叫んだ。俺も、この状況を説明するならそれしかないと思った。必殺技を撃つために立ち止まるライトを転移させるのは簡単だっただろう。俺が消えた0.5秒の間に、他の三人も含めて壁の外へと転移させたのだ。

 

「六人の中で、略奪を使えるのは貴方たちだけ。そして片方は未だ魔力切れで魔法を使えない...となれば、先に貴方たち二人から始末した方が、賢い選択ですよね」

 

……それできるなら、最初から一人ずつやれよと思ってしまうが、この土壇場で思いついたのか、ある程度消耗してからやると決めてたのかでだいぶ印象変わるな...

 

けど、これって言ってしまえば切り札だろ?これを超える更なる切り札を持っている可能性は低い。となれば、これを乗り越えさせすれば勝てる見込みは十二分にある!

 

「たしかにそいつは賢い!けどまぁ、その方法を思いつくなら、アレも思いつけよと思うがな...っと、これはお前らを倒してからネタバラシだったな」

 

と、喋って二人の意識を逸らしながら、俺はニアと会話をするために念話を発動させる。

 

5510ページ 黒のみ 念話

 

『なぁニア。魔法拡散がない今なら、あの壁分解できるんじゃね?多分みんなは山の下側に転移させられたはずだから、そこを開ければみんなを招き入れられるはずだ』

 

転移先は山の下側で確定だ。黒い壁で塞がれて、ここから上へと移動することが不可能になるためだ。先に魔王城に入られてしまい、ライトによって魔王が倒されるのを回避するのと、俺たちを倒し終わった後は一人ずつ壁の中に入れて倒していくっていう目的もあるだろうな。

 

『無駄よ。カリヤが来る前にもう魔法拡散は試したわ』

 

そうか。俺は上書きをできないから諦めたけど、ニアなら壁に魔法拡散を試すことができたのか。

 

『あの壁は、サーマルが強化した障壁みたいに魔力の密度が凄いことになっているわ。魔法拡散で分解しても、高密度の魔力それ自体が壁の役割を担ってしまう。もちろん、魔力は時間経過で拡散していくから長くは持たないけど、魔法拡散の更なる上書きと、壁の再生成のための時間は稼がれてしまうわ』

 

『なら速度操作で加速すれば...いや、賭けすぎるか。略奪されるかもだしな...なら、次元転移はどうだ?俺が入ってきたように、ライトの次元転移のゲートを開けてやれば...』

 

『……ごめんなさい。流石にライトの次元の座標までは覚えてないわ。それに、もしできたとしてもライトが気付けるかわからない。転移できる状況とも限らないわ』

 

……そうか。転移先で魔物と戦っている可能性もある。なんなら山の麓側に転移しているってのは俺の推測でしかない。遠い場所まで飛ばされているかもしれないし、ライトたちをここに呼び戻すのは無理だな。よくよく考えたら、呼べたとしてもまたすぐに転移されてしまうだろうし。

 

『二人でなんとかするしかないわ』

 

『そうみたいだな...』

 

と、ここまでの思考と念話を、思考速度の加速によって魔族たちが動き出す前に終わらせた俺たちは、魔族らを倒すために行動する。

 

『『まずは全力回避しながら策を練る!』』

 

俺たちはキネットの放った魔法を避けながら、一言一句同じ言葉を思ったのだった。




前回の後書きで、次回で魔族戦が終わると書きましたが...前々からやろうと思っていた展開があったことをど忘れしていることに気づき、そしてそれを追加するにはあまりにもカリヤたちが有利すぎてとても出す場面じゃないということになったが、そこで転移で人数を減らす流れをふと思いつき...というわけで終わりは次回に持ち越しになりました。

やっぱ書きながら戦闘の展開を考えていると、こうなるよなぁ...
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