前世の俺がすでに転生特典決めてました   作:ダイヤモンドリリー

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8491字。

魔王城突入回です。


魔王城突入(再)

「……よかった。今回は即魔王との決戦じゃないんだな」

 

魔王城の中に入った俺たちだが、今度はちゃんとしたエントランスホールっぽいところに出た。まぁ、もう既に後ろにあったはずの扉と壁はもう消え去っていて、後ろにも空間が広がっているがな。

 

「ってか広いなぁ...空間拡張エグすぎ」

 

「これ、私たちが小さくなってるとかはないよね?」

 

「ないぞ。もしそうなったとしても、俺の能力の範囲は変わらないだろうから流石に気付けるぞ」

 

「そうだよねぇ」

 

「それじゃあ探索開始するか...ちゃんとみんな近くに寄っとけよ」

 

能力を使って罠などがないか探知しながら、俺たち五人は前に...あれ?おかしいな。後ろにもう一人誰かがいるぞ。まさか人型の敵...いや、魔族か⁉︎

 

「誰だ!」

 

俺はバッと後ろに振り向き、ひとまずみんなから遠ざけるために突き飛ばす。

 

「……あれ?いない...いや、目に映らない敵か!」

 

みんなも後ろを振り向いたようだが、どうやら敵には気づいていない様子。俺の能力でしか知覚できない敵らしい。

 

そしてソイツは口を動かして何か言っているようだが、俺の耳には届かない。バレないと思っていたのに突き飛ばされたから、大方「なぜバレた!」とか言ってんだろう。どうせ聞こえないだろうと思って喋ってんだろうが...速度探知で空気の振動を探知すれば、聞こえるはずだ。慌てふためき様を見せてもらおうか。

 

「……魔王はもういる。気をつけろ...だと?」

 

何を言っているんだ。魔王なんてどこを見渡してもいないじゃないか。ってか今現在お前が一番怪しいし、というかなんでそんなことを言ってるんだよ。お前誰だ。

 

「どうしたのよカリヤ。何かあった?」

 

「変な...魔物?それとも魔族?よくわからんが、怪しい奴がいんだよ。誰なんだテメェ。戦いてぇってんなら俺が相手してやる」

 

また正体不明の敵は話し出す。

 

「勇者を思い出せ...?変なこと言ってねぇでさっさと答えろ。お前は何者...」

 

ふと違和感を覚え、みんなの方を向く。

 

ここにいるのは俺を含めて五人。カリスの英雄のステラに、カイスの英雄ニア、ガルムの英雄のレストに、ガネルの英雄のクミリア、そして神の使いの俺...あれ?勇者いなくね?

 

……目の前にいるこいつ、剣を持ってるな。しかも、その内部に聖素が大量に詰まっている。魔物や魔族がこんなものを使えるとは到底思えない。というかこれって聖剣...?

 

「……ニア、俺たち全員を取り囲むように魔法拡散を使ってくれないか」

 

「どうして?」

 

「既に俺たちは魔王の術中にハマっている可能性がっ⁉︎」

 

後方から何かが飛んできているのを速度探知が捉えた。なんてことない魔法のようだけど、レストが動いてないのをみるにこれも探知不能の攻撃なのだろう。俺は急いで左手の盾を突き出して魔法を弾き飛ばす。

 

「ニア早く!」

 

「よくわからないけど了解!」

 

もう一度魔法が飛んできたが、ニアの魔法拡散が着弾よりも前に発動され、魔法は分解される。そして...

 

「……ライト!」

 

魔法拡散によって、封印されていたライトの記憶が戻り、知覚できるようになる。

 

「えっ、何が起こってたの⁉︎」

 

「どうやら、初っ端から記憶と知覚を弄られていたようだ。まさか俺の脳にこびりついてる長期記憶まで弄ってくるなんてな...」

 

魔王城に入った瞬間に、勇者であるライトの記憶が封印され、五感では認識できなくなるようにされていた。速度探知のおかげで早めに気づくことができたけど、これがなかったらどうなってたやら...触れること自体はできるから、本来ならそれでどうにかするんだろうけど、キツすぎる。

 

「こびりついてるって表現はどうなのよ...」

 

「つーか魔王もういるんだっけ⁉︎」

 

慌ててさっき魔法が飛んできた方向を見る。さっきの魔法もそうだが、認識できなくなってたのはライトだけではない。おそらく魔王も...

 

「……うわいるっ⁉︎」

 

おそらく魔王なのであろう怪物が、そこに立っていた。

 

上半身は人に近い形をしているが、腕は六つあり、眼は三つ、一つある口からは長い舌がダランと垂れ下がっている。

 

そして、かろうじて人っぽい上半身とは違い、下半身は完全に異形。足というか...触手のような感じのものが大量に生えており、永遠と蠢いている。

 

この人を冒涜するかのような見た目は、おそらく魔神とやらが女神の作り出した人間を参考にして作ったためにできたものなのだろう。人と戦うには人...魔族が人の魂を使って生まれ、なおかつ人型なのもその思想が反映されているからかもしれない。

 

……あれ?前に神様から教えてもらった情報と違うな。手足がちゃんとある人型だって教えられたはずだが...まぁ本数に言及しなければちゃんと手はあるしそこはいいが、足はどこだ?あの触手の中にでもあるのか?人型なのは上だけじゃねぇか...もう幻覚はないはずだし、これまでの魔王とは形が違うってことなのだろうか?魔王城ごと山を乗り換えたり、半身が女神の山に取り憑いて長い間経ってたりと姿が変わりそうな事象がいくつかあるから、その辺が関係しているのだろう。

 

「……もう幻夢から醒めるか。此度の刺客はこれまでとは段違いのようだな」

 

……喋れるだろうとは思っていたが、まさか本当に喋ってくるとは...認識を封じながら攻撃してくるくらいだから、そのまま無言で襲ってくると思っていたのに、普通に会話してくれるんだな。魔王ならこっちが口を開く隙も与えずに攻撃してこいよ。

 

「……む?なぜ魔族が勇者と共にいるのだ?しかも、神の使いとは驚いた」

 

「ああまたそういう勘違いかよ...つーか余裕かましすぎだぞ早々に死ね!」

 

9934、9935ページ 全力疾走

『雷装』

 

刀を手に持ちながら音速で移動する。わかりやすい真正面でも真後ろでもなく、斜め後ろの死角から一撃で...!

 

「速いな」

 

「なっ、受け止め...⁉︎」

 

音速の刃を受け止めただと⁉︎というかこいつ、音速で動く俺を目で追いやがった!

 

「まるでアクセルのようだな。速度は劣るが、小回りは効くようだ」

 

「チッ!」

 

反撃される前に飛び退き、みんなのもとまで戻る。

 

「この速さでも足りないのか...!」

 

攻撃を受け止めたのは、ただ腕が硬かったからではない。空間拡張によって刃を届かなくさせたのだろう。もし腕に触れていたならば、少なくとも雷装がダメージを与えていなければおかしいからだ。速度探知でもギリギリわからない程度の距離を、無限にまで拡張させる...既に一度経験しているから、対処法は立てられるだろう。

 

ってか一度目の戦闘で結晶みたいな奴破壊したよな?あれが空間操作を司る核のようなものだと思っていたんだが...違ったのか。あれはブラフで、実際には魔王城そのものの構造変化による擬似的な空間操作だったのだろう。

 

……いや待て。既にニアの魔法拡散は解除している。また改めて幻覚を見せられている可能性も...?

 

「一人で突っ込むのはやめなさいカリヤ。全員で行くわよ」

 

「……了解。先走って悪かった」

 

全員戦闘体制に入る。気づけば、エントランスホールっぽかった内装は何処へやら、だだっ広い空間が広がるのみ。一度目の戦闘の時と同じような景色だ。障害物は何もない...これも、そう見えているだけの可能性はあるが。

 

「じゃあ...行くぞ!」

 

6401ページ 黒のみ 五感共有

5114ページ 黒のみ 思考共有

 

唯一正常に知覚することができるライトの五感情報を受け取り、俺たちの認識と齟齬があった場合はその情報をいつでもみんなへと送りつけられるようにしておく。

 

「まずはクミさんが!」

 

最初にクミリアが飛び出した。右腕を伸ばして空気の腕で攻撃し、同時に魔王からの魔法攻撃を受け止めながらしながら近づき、飛び蹴りを放つ。

 

「貴様がガネルか。随分とまぁ野卑な武闘家が選ばれたものよ」

 

魔王は腕の一つでクミリアの足を掴むと、そのまま握り潰そうとする。

 

「今掴んだね!痺れろ『雷装』!」

 

「ぬぅ⁉︎」

 

クミリアが発動した雷装が魔王に流れ込み、思わず手を離してしまう。さっきは効かなかったのに今のが通るとなると、攻撃の時には空間拡張の防御はしてこないってことか...?

 

「なぜ武闘家が天の怒りを...?」

 

「消えろ魔王!」

 

一瞬思考に耽った魔王の背後を取ったステラは、無の矢を番えてそれを放った。

 

触れるものを無に変換する矢は空間を切り裂きながら魔王へと飛んでいった。拡張されていた空間もその軌道上は元に戻り、何者にも邪魔をされることはない。よって、空間拡張の防御も意味をなさず魔王の腕を一本消し飛ばすことに成功する。

 

「無心の弓か。古代の魔法を復元するとは、流石は弓矢しか能のないカリスだな」

 

魔王は古代から生き残っている生物。古代の魔法を使えるのかはわからないが、少なくとも知識は持っているだろう。だから腕一本で済まされてしまった。

 

……しかも、消し飛ばしたはずの腕が治っていくではないか。存在ごと消したはずなのに再生できるのか...となると、普通の攻撃ならすぐに治されてしまうだろう。また一撃で致命傷を叩き込む必要があるか...?

 

「……幻覚が効いていないようだが、貴様の仕業か?カイス」

 

「ご生憎様、私より凄いことする奴がいるもんでね。攻撃に専念させてもらうわ!」

 

幻覚をライトの視覚を使って修正し、ニアが魔法を放つのをサポートする。

 

「っ、全て同じ魔法をぶつけてきた⁉︎しかも出力負けしてるし!」

 

ニアの魔法を食い破って突き進む魔王の魔法をニアは飛んで避ける。魔王だし、魔法の適性はずば抜けているんだろうが、ここまでなのか。

 

「となると、幻覚を防いでいるのは神の使いのようだな。まずは貴様から...」

 

ずっと最初の位置から動いていなかった魔王が、ゆっくりとこちらに前進してくる。どうやら俺狙いのようだが、こんなすっとろい動きじゃっ⁉︎

 

「ふんっ!」

 

「ぬ、これを防ぐとはやるなガルム」

 

あ、危なかった。空間の縮小によって急接近してきた魔王の攻撃をレストが防いでくれなかったら今頃どうなっていたかわからない。油断は禁物だな。

 

「此度の盾は珍しい形をしているな。この形状は...魔法吸収と反射のハイブリッドか」

 

まずいこいつ結構頭脳派だ俺たちの戦力をどんどん解析してやがる!何回人魔戦争が行われたか知らないけど、こいつにはその全ての経験が乗ってるから情報アドバンテージがエグい!!

 

「なら初撃で殺す...!」

 

さっきまでの口ぶりからして、魔王には元魔王の山で戦闘した時の記憶はないと思われる。そして、魔族たちの力がどの程度のものかは知っているけど、俺たちのことは戦闘前まで何一つ知らなかったようだ。魔族から報告されるようなこともなかったのだろう。だから、この攻撃も初めて見るはずだ。

 

「喰らえ!」

 

魔王に向かって超光速弾を放つ。光の速さを超える弾丸はたとえ無限の空間だろうと一瞬で通り抜け、魔王へと突き進む。

 

パンッ!

 

魔王の頭が弾け飛んだ。

 

「え?」

 

「そんなので魔王が死ぬわけない!さっきみたく復活するよ!」

 

ライトがそう叫ぶと、魔王の頭がジワジワと再生していく。

 

「カリヤが前に言ってたけど魔王は魔素で出来てる!僕が聖剣で消さなきゃいくらでも復活できる!」

 

「っ、そういうことか...!」

 

思い出した。魔王の身体は魔素で構成されている。つまり、いくら攻撃して身体を傷つけたとしても、それは魔素を周囲に散らしただけ。散った魔素を集めれば何度でも再生が可能ということだ。ステラの無心の矢で魔素を完全に消し飛ばしたとしても、魔王城を構成している魔素を利用して再生することができるだろう。俺たちでも消耗させることはできるが、魔王を完全に殺すのはライトにしかできないようだ。

 

「ライトを守るのを最優先!そして確実に必殺技を当てれるようにお膳立てするぞ!」

 

魔王を殺すには、もはやこれしか方法はない。

 

「必殺技は魔王城の中じゃ使えない!聖域展開も無理!お膳立てしても無駄だよ!」

 

「無駄じゃない!無心の弓があればいける!」

 

おそらく、魔王をこれまで完全に殺すことができなかったのは、魔王城の中のために必殺技も聖域展開もできず、聖剣展開によって生じるわずかな聖素を利用して魔王を削り取っていったからだろう。

 

しかし、無心の弓があれば話は別だ。あれを使えば、おそらくだが必殺技によって生じる反転聖素すらも消し飛ばせるはず。魔王城に衝突しそうな反転聖素を無心の弓で消し飛ばせば、未来の存在重複によって傷付く要因を片っ端から阻害する魔王城に一切の影響を及ぼすことなく必殺技を使うことができる...はずだ。

 

だが、それをするにしてもお膳立ては必須だ。もし必殺技を使っても魔王を殺しきれなければ、必ず魔王はライトを集中砲火するだろう。必殺技使用後の、聖剣の力が衰える三十秒のうちに決着をつけようとするはずだ。守り切れる保証はない。守れるかどうかの賭けをするくらいなら、必ずしも殺す努力をする方がいい。だから、最高のお膳立てをして、ライトに決めさせる。

 

「ふむ、どうやらお前が司令塔のようだな。役割分担ができている...先代のような、勇者ワンマンチームとは違うというわけか」

 

「そういやテメェは前回、聖剣解放も必殺技もない勇者に負けたんだっけか?ってことは俺らなら余裕でぶち殺せるなァ!」

 

刀を抜いて斬りかかり、魔王の空間拡張防御の発動タイミングや距離を探りに行く。

 

「なに、前回はわざと負けてやっただけだが?貴様らが強いからといって、また私が負けるなどという道理は存在しない」

 

「ほざいてろ。そんなに勝ちてぇんならさっさと魔族の力でも使うんだな」

 

「……アクセル辺りが口を滑らせたか?まぁいい。まだその時ではない」

 

「出し惜しみしてたら死ぬぜ?」

 

「それ以外ならいくらでもしてやろう。まずは...その珍妙な武器から壊そうか」

 

魔王の身体から放射状に波動が放たれる。似たような攻撃を前に見たことがあるが、その時のは短期記憶の阻害だったはず。けどこの状況じゃそんなの使わないよな...?

 

「なっ...刀が⁉︎」

 

波動に触れた瞬間、持っていた刀が砕け散った。その他にも、腰につけているダガーや左腕の盾、鞭も弓矢も粉々に破壊されてしまう。

 

「装備破壊か...!」

 

7801ページ 黒 青 未来跳躍

 

装備を失った俺を仕留めようと、魔王が空間縮小を利用した移動で詰めてきていたので未来跳躍で回避する。

 

「ってみんなの装備も壊れてんのか...!」

 

魔王から距離を取ったことで気づく。ステラのダガーに、ニアの鞭、レストのナイフも破壊されていた。けれども、ステラの弓やレストの盾、ライトの聖剣はそのままだ。おそらく、英雄や勇者の証である武具は破壊されないのだろう。

 

「だが、武器はいくらでも作れんだぜ!」

 

『製作』

 

破壊された武器を、砕け散った破片を素材にして再生成する。ステラたちの武器も、投げ渡す。これで元通りだ。

 

「まさか戦闘中に武器を作る者がいるとはな。なんとも珍しい」

 

まだ魔王には戦闘中に感心できるほどの余裕がある。その余裕をどう崩してやろうかと考えながらも、俺はシレンの穴での出来事を振り返っていた。

 

破壊とは違って取り上げられる形だが、武器を使えない状況は既に体験している。あの時は聖剣ももれなく取り上げられていたり、魔法図鑑や魔力銃も取られていた。

 

しかし、今回は魔法図鑑も魔力銃も破壊されていない。シレンの穴では俺たちの武器の認識を利用して没収されたが、今回は魔王自身が武器だと認識したものだけを破壊したからだろう。

 

聖剣も使えなかったところから考えるに、あの訓練は本番以上の状況に俺たちを置き、慣れさせるのが目的。一度目の戦闘でもそうだったが、シレンの穴の記憶は重要だ。あの時の記憶をうまく使えば、魔王と渡り合えるはずだ。

 

「これでは武装破壊は無意味か...なら、その速度を殺すとしよう」

 

またしても魔王から波動が放たれる。何が起こるかわからないため、走って魔王から距離をとっておく。

 

「……っ、速度が...!」

 

急激に速度が落ち、こけそうになるのをなんとか踏みとどまる。おそらくはバフ禁止。前回は魔王城に入る少し前から発動していた効果だが、今来るか。

 

「カサカサ動き回る羽虫は、サッサと潰すに限る」

 

一瞬で魔王は距離を詰め、腕を振るってくる。

 

「ふっ、来るのを待ってたぜ!」

 

バフが解除された直後、俺は能力での加速を切っていた。バフ無効が速度操作に適用されないことを悟られないように、魔王が来るまで待っていたのだ。

 

そして思惑通り誘き寄せられてきた魔王に、雷装を纏わせた蹴りを放つ。

 

「っ゛⁉︎固有能力の無効化は無理か...ならば!」

 

魔王は痺れながら足代わりの触手を動かして...

 

「なっ...⁉︎」

 

俺の左手を切り落とした。

 

「クソっ!」

 

急いで魔王に当てていた足を離し、地面を蹴って距離を取る。魔力体に変換していなければ酷いことになっていただろう。

 

「……なぜまだ力を使える?女神の加護は紋章を切り落とせば消えるはず...」

 

「さぁ、なんでだろうな」

 

地面に魔力を流して先程切り落とされた腕まで魔力を繋ぎ、腕と接続。腕として切り落とされた魔力を回収していく。魔王城の中では魔力を回復させることはほぼ不可能だ。回収できるなら、少しでも回収しなければならない。

 

「ほら、来いよ」

 

回収した魔力で腕を作り直し、俺は魔王を挑発する。

 

「……なるほど、余と似た仕組みか。そこのカイスも同じと見た」

 

……こいつ表情から読もうとしているな。まだカマをかけただけだ。顔に出して悟られてはいけない。

 

「だが貴様は腕だけのようだな」

 

チッ、普通に見抜いてくるかよ。日本語の思考を読めるわけないし、普通に洞察力で見抜いてきたってのか。

 

「本物の腕は...別次元にでも移しているのか。それを破壊せねば、力は消えぬというわけだな」

 

速度操作は女神由来の能力じゃないから、実際は左手を切られても問題ないのだが...逆にここはヤバいという顔をしておこう。僅かなことでも誤解を積み重ね、致命的なズレを作ってやる。

 

「潰される前に、逆にお前の腕の一本でももらっておこうか」

 

『色彩剣装 無彩・黒』

 

「ほぉ、懐かしい魔法だな。だが、それだと腕を切るにはちと火力不足だ」

 

「だろうな」

 

仲間たちの攻撃を軽くあしらう魔王の腕に、ズバッと未来からの斬撃で傷をつける。魔王が言った通り、未来からの斬撃では腕を切断するほどの切れ味は出せない。だが、使い用によっては...!

 

「だから、こう使う」

 

俺は左手の小指一本で刀に触れると、そのまま小指だけ魔力体から切り離した。これにより、刀に供給される魔力は小指を形成していた魔力分だけになる。よって、辻褄合わせが早急に行われることになる。

 

「逃さないわよ」

 

魔王は動いて回避しようとするが、ニアが障壁を貼り、動きを阻害する。そこに刀が襲い掛かり、未来から送られてきた斬撃と寸分違わない軌道で魔王の腕を切りつける。

 

「そして追撃ィ!」

 

辻褄合わせは強制的に行われ、妨害は不可能。ゆえに、空間拡張による防御は意味をなさない。だから魔王に当たった。

 

そして、刀は今魔王に触れている状態だ。俺は全力で走って刀に追いつき、掴み取った。すぐさま刀を動かし、滑らすように引いて切る。

 

バツンッ!と腕が飛ぶ。

 

「テメェの防御も完全じゃねェ。もう五本取らせてもらうぞ」

 

「無駄なことを...聖剣でなければ余を倒せないことはわかってるだろう?」

 

斬り飛ばされた魔王の腕は、クルクルと回って地面に落ちると、そのまま溶けるように消えた。そしていつの間にか、切ったはずの断面から腕が生えていた。おそらく、俺がやったのと同じような再生方法だ。魔王城を通して腕を形成していた魔素を回収したのだ。

 

「なら、斬り飛ばしてすぐ消せばいいだけのことだ」

 

俺が腕を斬り飛ばして、地面に落ちる前にライトが聖剣展開によって生じる反転聖素を使って腕を消滅させればいい。そうすれば、魔素の回収は出来なくなる。

 

「ふむ...ならば、先に弱体化した英雄から始末するとしよう」

 

魔王が俺から目を逸らし、別の奴に狙いを定める。バフ禁止の中でも速度操作によってある程度動ける俺を無視して、バフのないみんなを先に片付けようとしているのだ。

 

「させるかってんだよ!」

 

狙いはクミリアだった。雷装は使えるとはいえ、その他のバフ系魔法は使用することができない。この中で一番平常時と実力が乖離しているのはクミリアだ。そこに魔王も気付いたのだろう。

 

「レストついて来い!」

 

魔王が空間縮小によってクミリアに近づく前に、俺はレストを回収してから走って先回りする。

 

「遅いな」

 

「遅くねェ間に合う!」

 

レストを全速力で走らせ、なんとかクミリアに放たれた腕を盾で受け止めさせることに成功する。

 

……が。

 

「あがァッッ‼︎⁉︎」

 

そんな声を上げ、腕をひしゃげながらレストは吹き飛ばされた。それに巻き込まれる形で、クミリアも後ろに薙ぎ倒される。

 

レストの防御を...貫いた...だと⁉︎

 

「やはり、基礎性能は以前と変わらぬようだな」

 

まるで貫けるのが当然であるかのように、魔王は呟くのだった。




……本当はちゃんと魔王城攻略させようと思っていたんですよ。
でも城ってどんな構造してるの?描写むずくね?罠とかあってもカリヤの探知で見つけられるし、隠し通路も同様だし、面白くすんの無理じゃね?と思いまたしても即決戦にしてしまいました。
記憶認識操作で一悶着あったんで、それで良しということに...ならないかな?

はてさて、魔王戦がどれだけ続くのかは作者自身も未知数です。
面白く書けることを祈るしかねぇや...

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