前世の俺がすでに転生特典決めてました 作:ダイヤモンドリリー
相変わらず思考や説明パートが多いなぁ...もしや、実際の戦闘シーンって実はめっちゃ少ない?
「圧死を回避するには...増殖する肉体を丸ごと消し飛ばすしかないが、聖剣展開じゃ変換しきれないし...」
ストックしていた魔法を大量に放ちながら考える。こうやって撃ち続けて増殖している魔王の肉体を削り取り、少しでも考える時間を稼ぎつつ思考を回す。
「かといって必殺技は魔王の背中と融合してる魔王城を必ず削り取っちゃうからそもそも撃てないし...となるとステラの無心の弓が一番手っ取り早いか?」
思考が声として漏れ出ているのは魔王の魔法のせいではない。わざとこうやって声に出し、自分の耳で聞くことで思考の内容に間違いや変なところがないかを確かめているのだ。
「でも流石に無心の弓だけじゃ範囲が小さすぎる...魔素の再利用をさせないのは強いけど、これ一つじゃ無理だ何か他の手は...わからんひとまずステラ!無心の弓撃ちまくれ!あの肉を消し飛ばすんだ!」
「わかった!」
ステラが無心の弓を連射していく。どんな反動があるかわかっていないため、できれば連発は避けたかったところだが...そんなふうに俺たちが思っているのを承知の上でステラは応じてくれている。その覚悟を無駄にしないためにも、なんとかして起死回生の策を考えなければ...
無心の弓が魔王の肉を撃ち抜き、消滅させていくのを見ながら考える。
消滅された部位が再生によって治っていくのを見ながら考える。
無心の弓の射程距離の関係で撃ち抜かれた魔王城もサーマルの力によって直っていくのを見ながら...
「……あれ?」
なんで魔王城を撃ち抜けてるんだ?無心の弓って、未来から送られてきた魔王城が重なっていたとしても無視して撃ち抜けるものなのか?
……ってあれ?そういや俺、魔王城を完全に覆うように速度探知の領域が広がってるから魔王城は探知圏内のはずだけど、二重になってる瞬間を捉えたことないな。
というかこれ外どうなって...
「……ライト!必殺技を撃て!!」
「えっ、でも魔王の背後が魔王城だから撃てないぞ!」
「いや撃てる!俺を信じてぶっ放せ!あとみんなライトのとこ集合!」
全員の速度を加速させ、ライトのもとに集合する。
「ライト。全部を消し飛ばすのは無理だから、とりあえず真っ正面にぶっ放せ。そうしたら全員で正面に全力ダッシュだいいな?」
全員頷いたのを確認した俺は、ライトの背中を軽く叩いて必殺技を放てと合図を送る。
「……ほんとだ撃てる!いけッ!!」
「よしゴーゴーゴー!!」
必殺技を放った瞬間に走り出す。
必殺技によって消し飛んだ、元々触手があった場所を走り抜ても前進はやめない。
そして、本来なら魔王城の壁に行きつき、そのまま進めなくなるはずだが...俺たちを止める壁など無く、しばらく進んだのち自ら歩みを止めた。
「えっ...ここどこ⁉︎」
ステラがびっくりしながら辺りを見渡す。無理もない。出れないと思っていた魔王城の外に出ることができ、しかも出た先が何もない真っ黒な空間だったのだから。
「なんで魔王城を破壊できたんだ...?」
「守る必要がなくなったからだよ」
困惑するライトに、速度探知によって魔王城の外がこうなっていることをあらかじめ知っていたために冷静を保てている俺が答える。
「守る必要がなくなった?」
「ああ。魔王城への攻撃を封じていたのは、外から攻撃されるのを防ぐのと、俺たちを魔王城の外へと出さないためだ。ってことは、外に出たところで無意味な状況になってしまえば、守る必要がないってことになる」
「……その無意味な状況ってのが、この変な空間というわけね。ここに私たちを引き摺り込めた時点で、魔王を倒す以外に出る方法はもうない...と」
「そういうことだ。多分、レジリスがやってきて魔王に取り込まれ、巨大化した頃にはもう外はこんなんだったんじゃないかな。その頃からステラが放った無心の弓は普通に魔王を貫通していたけど、となれば背中に融合していた魔王城の壁も一緒に貫通していたはず。それなのに外の光が漏れてなかったわけだからな」
もっと早く気づくべきだった。魔王城の外の様子がおかしいことに早めに気づけていれば、もっと別の戦い方をできたかもしれない。
「まぁこうやって広い空間に出れたわけだし、圧死の危険は無くなったわけだ。しかも、必殺技を何の障害もなく放てることがわかった」
「いい状況に傾いてきたってわけね...今が攻めどきよ!あの大きさじゃ魔王は機敏に動けない!畳み掛けるわよ!」
「おう!一緒に行くぞライト!」
「わかった!」
ニアの号令で俺たちは一斉に動き出した。それぞれ自分のできることをしに走っていくなか、俺はライトと行動を共にすることにした。必殺技を普通に撃てるとわかった今、最高火力を出せるのはライトだ。必殺技を撃つまでのお膳立てをし、撃った後の三十秒間をサポートすればライトは心置きなく火力を出せる。俺にしかできない力を使って、ライトを徹底的に補佐しなければ...!
「守りは俺に任せて攻撃しまくれ!」
魔王が放ってくる魔法を、ストックの魔法を放つことで相殺しライトへの攻撃を防ぐ。そして守られているライトは聖剣展開を発動して刀身を作り出すと、そこから漏れ出る聖素を用いて魔王の身体を削り取って攻撃する。
「あっそうだニア!至る所に足場にできる壁設置してくれ!」
魔王城の中では城の壁を蹴ることで三次元的移動が容易だったが、この空間には地面だけで壁がないため移動が単調になってしまっていた。それをなんとかしたいのだが、自分は今魔法が使えないためニアに頼むことにした。
そんな唐突な無茶振りに、ニアは即座に対応してくれた。目に見え、かつ透けて見えるように半透明に色付けされた障壁が地上空中問わずばら撒かれた。これで移動が楽になるし、魔法を防げる壁としても使える。一石二鳥だ。
「サンキューニア!」
「ここまでやってんだから確実に仕留めなさいよ!」
「大船に乗ったつもりで任せ...ってこの表現通じないか!」
この世界に海はないからな...とか考えてる暇ねぇな。ライトを守るのに集中しないと...
ザクッッ!!
「……は?」
方向転換のために、空中にあった障壁で一度着地したタイミングだった。
腹に鋭い痛みが走ったかと思えば、浅めではあるがバックリと横一文字に切り裂かれていたのだ。
「減速のタイミングを狙われた...!」
原因を探る前にまずは治療だ。魔法が使えない今、俺にとれる回復手段は二つしかない。いや、正確には三つ目があるが、速度操作を解除する必要があるからできればやりたくはない。
俺は即座に次元収納の中から魔力銃を取り出し、マガジンを回復弾のものに差し替えてから腹に銃口を向け、そのまま引き金を...
「弾けない⁉︎」
故障しているわけではないのは速度探知でわかる。なのに、なぜ撃てない...?
いや、これも原因究明は後だ。出血が意外とひどい。すぐに治さなければ。
「チキショウめ...!」
さらなる追撃から逃れるために走りながら治療をしていく。まずは減速によって出血を抑え、細胞分裂速度や自然治癒の速度を加速させることで傷を埋めていく。無理矢理すぎる方法だが、一旦傷を埋めることはできる。全部終わったら、ちゃんとした回復魔法で治すことにしよう。
「よし治った...けど、さっきのはなんなんだ...?」
「魔力銃で回復はできない!僕の時もそうだった!」
回復弾が撃てなかった原因を考えていたら、レストが叫んできた。レストの魔力銃も撃てなかったとなると...
「……なるほど他者回復に引っ掛っちまったのか!」
魔王は他者から回復を受けることを封じる魔法を発動していた。封じられているのは他者回復のみだから、自分で自分を回復することはできるの。しかし、魔力銃は魔道具であり、回復魔法を代理発動することで回復弾を放っている。この代理発動というのが他者回復に引っかかってしまったのだろう。
ひとまず速度操作で傷を埋めれたから良いものの、手軽に回復できる回復弾を封じられたのは痛いな...まぁ仕方ない。次は謎の斬撃について考えよう。
「見えない斬撃つったら鎌鼬だけど、それは違うし...」
周囲の空気はソニックブームを発生させないために速度を掌握しているため、鎌鼬を発動させて俺を攻撃することは不可能なはずだ。仮にできたとしても、予兆に気づいて避けることができたはずだ。だから鎌鼬ではない。
「……ってあの光!色彩剣装か!」
魔王の触手の一つが鋭く尖っており、そこに黒い光が纏わりついていたのだ。俺を襲ったのは、未来から送り込まれた斬撃だったようだ。傷の深さ的にも納得...
……ってヤバくね?今の斬撃の辻褄合わせをさせないと、どうやっても魔王を倒せなくなる!!
「俺がどうにかするしかねぇ!」
なぜか明るいが地面も空もどこを見渡しても黒一色なこの場所で、色彩剣装の黒い光が纏わりついている触手を見つけることは困難だ。速度探知で探し出せる俺がなんとかするしかない。
『雷装』
「ぶった切れろ!!」
刀を取り出す合間にまた攻撃されないとも限らない。一瞬の隙をも見せずに攻撃するために、俺は走りながら雷装とリンクさせた魔力を操ることで魔力の剣を作り出し、そのまま最高速度で触手を切り飛ばした。
「良し!これで...って危ねぇっ!」
切り飛ばした触手は、魔王の魔素と魔力の塊だ。しかし、それも有限。しばらくすれば勝手に動き出し、辻褄合わせの斬撃を放ってくれる...それはわかっていた。
けど、まさかあんな速さですっ飛んでいき、そのまま斬撃を放って消えるとはな...あれ、速度的に当たったら普通に死ねる速度なんだけど、ヤバくね?
「切る時は気をつけねぇと...っと、必殺技撃つんだね今行く!」
ライトが必殺技を発動させようとしていたので、すぐに抱えて移動できるようにするために近くに駆け寄る。
その直後、ライトの必殺技が魔王の身体を消し飛ばす。
「チッ、球体は躱されたか...んで、触手一片でも残ってりゃ再生できるんだな」
上手いこと魔王の全身を九割がた消し飛ばすことに成功したのだが、魔族の球体を巻き込むことはできなかった。魔王は触手だけでさささっと移動して反転聖素がある場所から離れると、そこで魔素を増幅させることで全身を再生しきってしまった。
「最優先は球体の破壊。もしくは全身丸ごと消し飛ばすかって感じか...」
ライトを抱えて走りながら、俺は勝利条件を整理する。これが俺たちの勝ち筋。そして、ライトの戦闘不能が負け筋。なんとしてでも、それだけは避けなければならない。
「あと何秒だ?」
「まだまだあと二十秒!」
クッソ聖剣のリキャスト長すぎ...!思考速度加速のせいで余計に長く感じる!早く経てよ時間...!
「ガフッ゛...」
ライトの口から声が漏れた。その理由は、目で見るよりも前に速度探知がダイレクトに頭に叩き込んできた。
俺に対してやったのと同じだった。色彩剣装による未来からの斬撃によって、ライトの腹がバッサリ切られていた。
「この速度でどうして...!」
なぜこんなピンポイントでライトに攻撃を当てることができたのかはなぞだが、ひとまず回復だ。ライトを落とされたら俺たちの勝ち筋がなくなってしまう。さっき考えた負け筋を現実のものにするわけにはいけない。
「自分で治せるかライト⁉︎」
俺はライトを抱えて魔王の追撃を避け続けながら聞いた。自然治癒の加速は後が怖いから出来るだけ使いたくはない。ライト自身の魔法で治せるのならそっちの方がいい。
「今やってる...けど治らない!」
「クソ、自己回復もいつのまにか禁止させられてたのか...?でも、俺の能力なら!」
バフ禁止の中でも速度操作の加速はできるように、魔王へのデバフが禁じられているのに減速できるように、回復禁止の中でも自然治癒の加速ならばライトの傷も治せるはず...!
「……は?自然治癒が...加速できねぇ⁉︎」
なぜかはわからない。他者回復に引っ掛かっているわけではないはずなのに、ライトを治すことが、俺にはできない。
「なんだよこれ...呪いだと⁉︎」
そして俺の能力は、ライトの身体を蝕む未知なる呪いの速度を捉えていた。もしかしたら、ライトが自己回復することができなかったのはこれが原因かもしれない。けど、自然治癒を加速させることすらできない理由とは違うだろう。こいつはあくまで回復封じ。ならば、加速したのに回復しないというふうになるのが道理なはずだ。
「なんで勇者の耐性を無視して呪えてんだよ...!」
そう、それが一番の謎だった。聖剣の力が一時的に弱まっていたとしても、それは勇者の力とは別。勇者に与えられている、ありとあらゆる悪影響を跳ね除ける力は今も有効なはず。それなのに、なぜこんな回復を封じるだなんて呪いが効いているのか、訳がわからない。
「せめて勇者の力が消えてるとかなら良かったのにそうじゃないし!」
呪いが例外なだけで、悪影響を跳ね除ける力はそのまま残っているようだった。そのせいで、俺が自分自身にやったような、出血の速度を減速させて止血する方法を取ることができなかった。ライトに対する減速は全て弾かれてしまう。たとえ、それがライト自身に対して有益なものだとしても、無慈悲に弾いてしまう。
……まさか、自然治癒の加速が出来なかったのもこのせいか?自然治癒の加速は、癌細胞を生み出しやすいという、超回復薬と似たデメリットが存在する。それがライトに対して悪影響をもたらすものだと判断されて弾かれた...クソッ、あり得る!
「チクショウクソ女神!もうちょい融通効かせろよ!」
回復阻害の呪いがあり、減速による治療もできない。つまり、この場でライトの傷を治すことは不可能だ。
俺に取れる選択肢はただ一つ。ライトがいなくてもできる勝ち筋をなんとかして探し出し、魔王を最速で倒してライトを治療すること。これしか方法はない。
「ニア!!みんな集めて魔法拡散で身を守れ!」
ライトを抱えてニアのもとまで走る。ちょうど辿り着いた時には魔法拡散が貼られていたので、その中に入り抱えていたライトを地面に下ろし横たわらせる。
「その傷は...⁉︎」
「色彩剣装の未来からの斬撃だ!この中ならもう攻撃されない!」
魔法拡散を使わせたのは、ライトにこれ以上攻撃させないためだ。最高速度で走っている最中にライトは攻撃を受けた。となると、どれだけ加速したとしても攻撃を避けることはできないとみた方がいい。走って避けられないなら、絶対安全圏に入れるしか方法はない。
「謎の呪いがあるせいでライトの治療は不可能だ!だから俺が魔王を最速で倒して回復できる状況に持っていく!みんなはこの中で魔王の召喚する魔物からライトを守ってくれ!」
「それって...⁉︎」
「カリヤだけで魔王を倒すなんて無茶だよ!」
「んなもんわかってる!けど、ライトを助けるにはこれしかねぇんだ!!」
俺への攻撃と同じように、腹の傷はそこまで深くはない。だが、出血はしてしまっている。長引けば、それだけ危険な状態に近づいてしまう。早く行動を起こさなければいけない。
「だからってそんなことしちゃったらカリヤが!」
「今魔王を倒す必要はないわ!次元転移で脱出すればいいだけよ!」
「無駄だ!この空間に引き摺り込まれた時点で次元転移は無意味!使っても元の空間と地続きになっている保証はない!」
次元転移はその空間を何千分の一縮尺にした空間を作り出し、その中を通ることで移動時間を短縮できる魔法だ。よって、この黒い空間と、本来俺たちがいたはずの空間が地続きになっていなければ、この空間内しか移動することはできない。地上からシレンの穴第七十四階層のあの空間に次元転移で移動できないのと同じように、ここから地上に出ることはできない。
「それにもし移動できたとしても、この呪いがある限り回復は不可能だ!魔王を倒すしか方法はない!」
可能性が潰されていく。魔王を倒すしか道はないと、みんなが気づき始める。
「……でも!カリヤにだけ任せるなんてできない!」
「任せてくれよッ!!」
いつのまにか、俺の目に涙が浮かんでいた。
「嫌なんだよ!誰かが死ぬなんて嫌だ!大切な仲間が死ぬなんて嫌だ!だから魔王を倒さないといけないんだ!ここで動かなかったらみんな死ぬ!それだったら俺が動いて魔王を倒してみんなを救う!たとえ俺がどうなったとしても!!」
「でもカリヤ一人で行かなくったて「じゃあ動かずにみんなで死ねってのか⁉︎」
ステラの言葉を遮って叫んだ。行くのは俺一人だけだ。みんなに行かせるわけにはいかない。
「……そうじゃないじゃん...ならみんなで行けばいいだけじゃん!なんで一人で行こうとするの!」
「それが!!俺の役割だからだ!!!」
俺がこの世界に来た理由はなんだ。
勇者パーティーが敗北するルートを回避するためだ。
それさえ回避できれば、俺の目的は達成できるんだ。
別の世界から来た俺が死ぬ分には何の問題もない。みんなが死ななければそれでいい!
「……わかってるよ、無謀だってのはさ。でも、やるしかないんだ。ここで魔王を倒せなければ、俺たちはどうあがいても全滅だ」
涙を腕で拭いながら俺は言う。言い続ける。
「俺は、勇者パーティーを救うためにやってきた。だから、みんなを死なせるわけには絶対にいけねぇんだ。わかってくれよ」
みんな、各々言いたいことはあっただろう。けれど、それを声に出すことはしなかった。口を開きかけ、何かを言おうとしてそれを止め、閉じるのみ。俺を説き伏せるのは無理だと悟ったのだろう。
「ステラ、レスト、クミリア、ニア、ライト。みんなに、これだけ言っておく」
「わ...別れの挨拶は、い、嫌...だよ?」
ステラの口から、恐怖と共に声が漏れ出した。
「……ちげぇよ。むしろ真反対だ」
ステラの頭を撫でながら、俺は言った。
「必ず帰ってくる。俺だって死にたかねぇよ。死にに行くつもりなんてさらさらない。魔王を倒して、絶対に生きて帰ってくる。魔王を倒して、ライト含めみんな生き残り、俺も生き残る...そんな、最高なグッドエンディングを目指してやるよ」
「カリヤ...!」
「ライト。お前を絶対に救ってやる。だから、今はじっとして体力を温存してろ。回復封じはあるけど、自己治療はまだできるはず。布でもなんでも使って傷口を押さえて少しでも出血を抑えるんだな」
他者回復禁止のせいで、アン○ラのアンリペアのようにみんなはライトの傷を止血することすらできない。だが、ライト自身には止血は可能なはずだ。
「カ、リヤ...」
「喋んな大人しくしてろ。あっ、あとこれ、借りるぞ」
「なにを...⁉︎」
俺はライトの手にある聖剣に手を伸ばした。
「んぐっ...!」
しかし、触れた瞬間に手が弾かれてしまう。勇者の資格を持つ者以外には聖剣を持つことは許されない。勇者候補の証を失ったスートとアライブが弾かれたように、俺も弾かれたのだ。
「けど、触れることはできる...!」
弾かれるが、触れること自体はできる。レストの盾はレスト本人以外には触れることすらできないが、聖剣は触れることは一応できるのだ。
「弾く力は、電流によるもの。筋肉に電気信号を送り込むことで、強制的に手を離させているだけ...!」
『雷装』
弾かれる原因を分析した俺は、雷装を発動させて聖剣に触れた。
「っ...これでも弾かれる...!」
だが、弾く力は弱まった。これなら、無理矢理触れることは可能!
そのまま掴んで、持ち上げ...て!!
「融通効かねぇクソ女神!勇者が緊急事態だ俺に力を貸せ!!」
聖剣はこの世界にいる女神と繋がっているはず。翻訳の石の力があれば、神の言語に翻訳されて俺の意志が届くはずだ。語りかけろ。
「俺が魔王を倒す!そのために制限を解きやがれ...!」
……いくら待っても、弾く力は弱まらない。それどころか、強くなっているまである。こんな状況だってのに、勇者以外は受け付けないとかふざけるな...!
「だったらこっちだって手はある!こうなったら...無理矢理にでも使ってやらァ!!」
俺に対して流される特殊な電流。その流れる速度を、最大まで加速させる。
「これでもう...俺を弾くことはできない!!」
略奪対策と原理は同じ。筋肉が認識する前に電流を流しきってしまい、消費してしまうのだ。だが、これだけで乗り越えることはできないので、自身の雷装を操って逆位相の電流をぶつけることで相殺し、弱めることで対処する。これで、俺は聖剣を持つことができる...!
「あ゛...ガァッ...!」
突如、頭の中に何かが流れ込んできた。
「これは...情報?」
頭に流れ込んできたのは、この聖剣の使い方だった。
「……はは、使いたいなら無理矢理使ってみろってことか」
俺に流れてくる電流は止まってはいない。不本意ながら情報開示はしてやるが、やるなら電流を我慢しながらやれってことなのだろう。あいにく、もう無効化できちまってるんだがな。
「よし、これで戦える...!」
「カリヤが...聖剣を⁉︎」
驚くみんなをよそに、俺は前へと進み、魔法拡散の領域から出る。
「よぉ、魔王。直接追撃をかましてこなかったのは、俺らのことを舐めてるって解釈でいいんだな?」
ライトの腹を掻っ捌いた後も、やろうと思えば攻撃できたはずだ。それに、さっきまで俺らが揉めていたタイミングもそうだ。魔法は魔法拡散があるから無意味にしても、直接殴り込みに行くなり、魔物を召喚して襲わせるなり、なんでもできたはずだ。
それをしなかったのは、勇者を戦闘不能に陥れることができ、もう勝ちを確信していたからだろう。要するに、残りの俺たちと戦っても負けないと高を括り舐めていたってわけだ。
「その判断が命取りだ」
俺は聖剣を構え、魔王を睨みつける。
「勇者に代わり、神の使い...いや、ただの人間仮谷幸希がテメェの相手をしてやる...さっさとトドメを刺さなかったことを後悔させてやるから覚悟しやがれ!!」
俺は魔王に向かって走り出した。
真の最終決戦。
大切な仲間の命がかかった、死ぬか生きるかの戦いが始まる。
……はい、後半すごい急展開になりましたが、これはアドリブではなくプロット通りです。
今までメリットしかないと思っていたもののせいで悪い状況に陥ったり、実はヤバい側面があってそのせいで苦しむ、みたいな展開好きなんですよね...多分これ、ゆ○ゆの精霊バリアに影響されたんだろうな。
……それにしても急展開すぎですよねすみません。
実力不足がモロに出てますねこれは...カリヤくんの加速のせいで展開も早くなってるということで許してつかぁさい。
さて、勇者ではない仮谷幸希は、果たして聖剣を使いこなし、魔王を打ち倒すことができるのか...