前世の俺がすでに転生特典決めてました 作:ダイヤモンドリリー
展開めちゃはやで、少し長めです。
「『聖剣展開』!!」
聖剣を変形させるを発動させ、鞘から刀身を作り出す。楔を打った瞬間に身につけていたスキルや魔法が使えないだけで、それ以降で新たに習得したスキルや魔法は使うことができる。今後のために残した抜け穴を、まさかこんな形で使うことになるとは思ってもみなかった。
「全身切り裂いてやる...!」
魔王の動きを減速させて鈍らせたところに、聖剣で斬りかかる。魔王の身体に聖剣は当たらない。刀身から漏れ出す聖素によって、触れる前に身体を形成する魔素が反転させられるからだ。それゆえに抵抗が一切なく、最高速度のままに聖剣を振り抜くことができる。
「……チッ!再生早すぎだろ!」
雷装を発動させているため、音速の百五十倍は出ているはずなのにそれでもまだ足りない。全身を聖剣で削り取ろうとしても、全てを消し去る前にどこからか再生が始まってしまう。再生を減速させても、能力の解除によってリセットされてしまうから気休め程度にしかならない。聖剣の力を持ってしてもこれだとすると...何か根本的な対策が必要だ。
「ってか一人でやんの大変だな...やるしかねぇけどさ」
一人で戦っているため、魔王の攻撃は必然的に俺に集中する。レストのサポートが欲しくなるところだが、あんだけ言っておいて力を借りるとかあり得ない。それが俺の役割だとか、言いたくないことまで言って俺一人で行くことを強行させたんだからやり切るしかない。けど、使えるものは全てありがたく使わせてもらおう。
「でも閃光だから貫通されんだよなぁ」
いつのまにか、魔王の魔法攻撃が閃光だけになっていた。そのせいでニアが至る所に貼ってくれた障壁では攻撃を防ぐことができなくなっていた。足場としては使えるから十分すぎるほどに役立ってはいるのだが、魔法を止められないせいでどんどん行動可能範囲が狭まってしまっている。これもなんとかしなければ。
「クソッ、武器のストックは少ないってのに...!」
閃光は魔法では撃ち落とせない。そのため、製作スキルで作って保管していた武器を射出してぶつけて落とすしか今の俺には方法がない。けれど、武器なんてそんなに数はない。いずれ底をついてしまう。武器のストックが無くなるまで...これがライトの失血死とは別のタイムリミットになるだろう。それまでに魔王を倒さなければならない。
「……もうこれ、減速いらねぇんじゃねぇか?」
さっきも考えた通り、再生速度を減速させても意味はない。魔王自身の移動速度減速も正直あまり意味はないし、魔王が召喚した魔物の速度減少も、みんな普通に対処できてるから必要なさそうだ。閃光を減速させることも、実質的に俺の行動範囲を減らすことに繋がるから意味がない。
……どう考えても、減速は要らなさそうだ。ライトの出血を止めることもできない減速能力に意味はない。今必要なのは、更なる速度。マッハ150よりももっと速く、あの再生速度を上回る速度だ!
「となれば話は簡単!神様!!」
今使わない減速は捨てる。減速能力を糧にして、加速最大値を上げる楔を打つ!
「楔を打つ!内容は...」
神様の応答を待たず、聞いているものと考え捲し立てる。内容をしばし考え、そして決めた。
「加減速は同時には使えない!どちらか片方に制限する!永続的にな!!」
叫び終わった瞬間、魂に違和感を感じたが略奪対策の加速によって痛みを感じることはなかった。楔はきちんと打たれた。それも、速度操作という能力そのものに打ち込む楔だ。その他のものを代償に捧げるよりも、そのリターンは当然増えるはず...!
「キタキタキタ...!」
加速最大値の上限が大幅に上昇する。音速の160倍...雷装によって移動速度はマッハ240倍にまで膨れ上がる。能力適応範囲も275メートルになったが、こちらは今この状況ではほほ誤差だろう。大事なのは加速。この速度なら...!
「ハアァァァッッ!!」
最高速度で縦横無尽に動き回り、魔王の身体に聖剣を叩きつける。減速能力が同時に使えなくなったことで、ソニックブームが無制限に発生して周囲に暴風と爆音が撒き散らされる中、魔王の身体は削り取られていく。
暴風や爆音は空気の壁として圧縮されて周囲に撒き散らされる。これは俺にも予想していなかったことだが、撒き散らされた空気の壁に当たることで閃光が消滅していた。超高密度状態によって物質化した魔力に衝突して閃光が消滅するのと少し似ている。本来なら透過できるはずの空気が、圧縮されたことにより物理的な壁としての役割を担ったため消滅したのだろう。これはラッキーだ...俺にも危害を加えなければな。
「耳が...!」
爆音によって鼓膜がイカれた。速度操作による物理保護は、加速によって自らに降りかかる負荷を全て打ち消す程度のものが発動する。人体で音速を超えても問題なかったのはそのおかげだ。
しかし、物理保護がかかるのは、速度操作によって加速した分まで。雷装によって生まれる更なる加速に対応していない。ある程度余剰分があるし、雷装とリンクさせた魔力を全身に流すことで防御しているからすぐに全身がひしゃげるようなことはないが、全身全てをカバーすることはできない。鼓膜がイカれたのはそのせいだ。
だが、耳が潰れたところで問題はない。速度探知を上手く使えば、空気の振動数の情報を得ることで音を把握することができる。それができるからこそ、耳の防御が手薄になって潰れたと言うのもあるだろう。
「テメェが死にさえすれば...どうとでもなるんだよ!!」
聖剣で魔王をめった斬りにする。聖剣展開によって周囲に生まれる聖素によって魔力補給ができるため、身体を保護する魔力が尽きることはないが、それでもいつ俺の身体が潰れてもおかしくない状況だ。最大限限界を攻めながら魔王を攻撃し、最速での決着を求めて聖剣を振る。
「……っ、こいつさらに巨大化して無理矢理耐えようってのか⁉︎」
そうだ。魔王の最優先事項は勇者ライトを殺すことだ。無理矢理聖剣を操っている俺のことを警戒して対処はするだろうけど、結局のところ一番危惧しているのはライトなのだ。もしかしたら、ライトが死んだら勇者が不在になり、聖剣の力を発揮できなくなる可能性もある。無理して俺を倒す必要はなく、魔王はただ時間一杯まで耐えればいい。
「魔王が耐久してくるとかほんとふざけんなよ...!」
どうしてだ。どうしてなんだ。なぜここまで速くなれたというのに、魔王を倒せないんだ?やはり、俺一人で魔王は倒せないのか?俺は勇者ではない。勇者を、勇者パーティーをサポートする神の使いだ。だから、俺一人では魔王を倒せない。誰かの力を借りるか、俺がみんなに力を貸すか、それしか方法はないのか...?
「あぐっ...!」
未来からの斬撃が、俺の腹を切り裂いた。まただ。一切減速していなかったというのに、俺の腹へと正確に斬撃を飛ばしてきやがった。いくら魔王には俺らが今この瞬間にどこにいるのかわかるとはいえ、あの速さに当てるなんて不可能に近い。ってことはもしや色彩剣装とは別の魔法か...?俺の知らない魔法の可能性は全然あるな。
「いくら切られたところで...!」
俺には自然治癒速度加速がある。無理矢理傷を埋めることは可能だ。切られた傷をすぐに治癒させておく。
「クソッ、さっきのよりも傷が深くなってやがる...!」
加速を使えば治せるが、それはあくまで自然治癒の範疇内でだ。もし仮に腕や足などを切断されてしまった場合、アクセルがそうなったように傷口を埋めるような治癒になってしまう。腕や足が新たに生えてくることはないのだ。それだけは気をつけなければならない。
「けど、俺にはもう攻撃しかねぇ!」
回避は不可能。仮に避ける方法があったとしても、それを今から探すのでは、見つけるよりも前にタイムリミットを先に迎えてしまうだろう。回避は捨てて魔王を切った方がいい。
「……でも、どうする⁉︎こっからどうすればいい⁉︎」
このままでは魔王を倒せないのは先ほどから一切変わっていない。俺にできることは、魔王がサーマルの力を使い更なる巨大化をしようとしているのをなんとか食い止められるくらいだ。それが限界。聖剣展開によってできる攻撃の限界だった。
方向転換時に行うほんの一瞬の減速。それが積み重なって時間をロスしてしまうため、マッハ240でも魔王を倒し切ることができないのだ。障壁を使った三次元的移動のおかげでロスは小さくなっているはすなのに、それでもこれだ。この速度でもまだ足りない。
だが、これ以上楔を打つことはできない。これ以上は俺の魂が持たない。というか、先に打った楔が時間経過によって効果を失ってしまえば、俺は即座に魂の疲労によってぶっ倒れてしまうだろう。無理に打てば、それを誘発しかねない。
……やはり、みんなに頼るしかないのか?俺だけの力じゃ無理だってのはもう十分理解した。力を借りて、少しでもこの均衡を破壊できれば、そのあとはなし崩し的に魔王を倒せるかもしれない。逆にこっちが負ける可能性もあるが...どうせ失敗すればみんな死ぬんだからやるだけやるべきかもしれない。
……だとは、頭でわかっているつもりだ。けど、心が邪魔をする。自分で言った、みんなに頼らず自分だけで倒すという文言によって、自らががんじがらめに縛り付けられているような錯覚を覚える。
この感覚は...そうだ。仲間を傷つけられないのと似ている。たとえそれがフロートが模倣した姿だとわかっていても、ステラやニアの姿をしていたら攻撃できないのと同じ。
どちらも、その根底にあるのは自分のせいで仲間が傷ついて欲しくないという感情だ。元々この世界の住人ではない自分が原因で、みんなが傷つくことはあってはならないと言う思い。そのせいで、俺はみんなを頼れない。
「……は?なんだよこれ...魔王の仕業か...?」
今、気づいた。今俺たちには、思考が声に漏れ出るという魔法がかけられている。だから、先ほどの思考も声に出るはずだ。
なのに、「みんなを頼る」という文言だけは声に出ていなかった。
もしや...少し考えた後、俺はみんなに向かって叫ぼうとする。
「 ……やっぱり声に出ねぇ!」
どうやら、読みは当たっていたらしい。俺の口から、みんなへの助けの声は届かなかった。
仲間の協力を得る行為の禁止...といったところだろう。該当する言動をすることはできない。たとえ独り言だとしてもだ。魔王のこの魔法によって、俺はみんなの協力を得ることができなくなった。
「けど、まだ可能性はある...!」
魔王によって協力を封じられたが、俺たちは元々一人でも戦える者の集合体だ。誰に指示をされなくたって、自分で考え行動できる。
俺は信じるしかない。
俺が言ったことを無視して、自分の意思で俺を助けに来てくれることを。そうなれば、この状況下でも流れを変えることができる。
ステラなら、無心の弓で魔王の身体を削り取ってくれる。
ニアなら、妖精による雷撃やプラズマで魔王を消しとばしてくれる。
クミリアなら、雷装を込めたマッハ160の拳を放てる。
レストなら、魔王の攻撃を丸ごと跳ね返してダメージを叩き出せる。
誰か一人でもいい。欲を言えば全員来て欲しい。
誰か...誰か!
「なん、で...」
速度探知のおかげで、みんなが今何をしているかわかる。
だから、見なくても異常事態に気づける。
「お前が動くんだよ...なんで...!」
攻撃の手は止められない。止めてしまえば、魔王の更なる巨大化を許してしまうからだ。
だから、その行動を俺には止められない。
「どうして、そんな命を投げ打つようなことができんだ!ライト!!」
ライトは腹から血を流しながら、ゆっくり這うように進み、ニアの魔法拡散の領域から出た。
そして、ライトは魔法を使った。全ての魔力を注ぎ込む勢いで発動されたその魔法は、ゆっくりと見えないまま魔王に向かって飛んでいく。
水と雷、風...そして、最後に炎。
起こる現象は、爆発。
ライトは残る魔力全てを使い、起爆の複合魔法を発動させ魔王に攻撃したのだ。
「……クソッ、誰のために俺が一人で魔王を倒すつったんだと思ってんだあいつは...!」
ライトは魔法を放ったのち、意識を失って倒れた。先ほどよりも出血の勢いが増す。おそらく、血液中に含まれる魔力を操ることで出血をかろうじて少なくできていたのが、魔力切れによってできなくなったからだろう。タイムリミットがさらに早まってしまう。
「……でも、ナイスだよ...尊敬するぜ!勇者ライト!!」
ライトが最期に放った魔法は、魔王の身体をほぼほぼ消し飛ばした。
それもそのはず。
水素爆発は、どういうわけか周囲のマナを消し飛ばすことができる力を持っている。土偶のあった階層で、ニアが発見した現象だ。
そして、マナ...魔素を消し飛ばせるということは、魔素で身体が作られている魔王にとって、水素爆発は聖剣と肩を並べるほどの弱点になるというわけだ。しかも、再生能力を持っているはずのレジリスの下半身が消滅していたのを考えると、この爆発によって消し飛ばされた部位は再生能力では治せないはず!
ライトの決死の攻撃によって、完っ全に流れが変わった。
そのチャンスを、無駄にするわけにはいかない。ライトが掴み取った最善を、そのまま最高のエンディングに繋げてみせる!
『聖剣納刀』
俺は聖剣を鞘の状態に戻し、そのまま地面に突き刺して一度手放す。
そして、全ての加速を解除し、能力を切り替える。
「減速最大...!」
魔王の移動速度を、放たれる魔法の速度を、召喚された魔物の速度を、止めるべきものの速度を全て減速させ、ゼロにしていく。
「……ふぅ...これで、お前は終わりだ。もう再生はできない」
爆発によってレジリスの再生はできなくなったが、サーマルの魔素増幅による再構築はまだできたはずだ。もっとも、その速度もゼロになったため、再生はもうできないがな。
「はぁ...最初から爆発のことを思い出せていたら、ここまでの状況に陥ることはなかったんだろうな」
おそらく、魔王によって思考を歪まされていたのだろう。今にして思えば、最初は同調魔法による道連れも考えていたはずなのに、いつのまにかその選択肢も考えなくなっていたしな。魔王を倒しうる方法を、記憶操作や思考誘導によって全て封じられていた可能性は高い。
「……たらればを考えてる暇はないな。さっさとトドメを刺そうか」
魔王の速度を完全にゼロにした。魔王に逆転の余地はない。あとはトドメを指すだけだ。
「さぁ...まずはこっからだな」
まずやるべきことは、聖剣に触れることだ。先ほどとは違い、加速ができないため減速で聖剣の電撃を回避しなければならない。
「……まっ、加速よりも楽かこれは。略奪がいつのまにか消えてて助かったぜ」
先ほどの爆撃によってかはわからないが、魔王は俺への略奪を解除していた。そのおかげで減速の力を最大限に発揮することができる。
ゆえに、聖剣から流れ出る、俺の手を弾く電流の速度をゼロにすることは簡単だった。加速の時よりも簡単に聖剣を掴むことに成功する。
「よし、行こうか...必殺技!」
頭に情報が流れ込んでくる。必殺技を発動させる呪文の知識が詰め込まれる。
「へぇ...ライトも言ってたが、本当に剣じゃねぇんだな...」
前にライトが話していたことを思い出しながら、俺は頭の中で呪文を紡ぐ。
世界を分かち 魔を滅する剣
されど本質は光 聖剣は剣にあらず
光の奔流 魔を反転し浄化す
名もなき杖よ その姿を今取り戻せ
「『聖杖』!」
聖剣...いや、聖杖の必殺技が発動する。鞘の形を成していた聖素変換装置が聖素を生み出し、内部に溜め込む。このままチャージして、剣の柄を模した杖を振れば、狙った箇所に向けて反転聖素を放つことができる。
「……だが、まだだ!」
まだ、必殺技は放たない。爆発によって大部分が削り取られているとはいえ、魔王のサイズは巨大だ。縦にも横にも大きいため、この場所から普通に放つのでは全体を削り飛ばすことはできない。
「限界まで...持ち堪えてくれ...!」
魔王を完全に消し飛ばすために、俺は減速させる。必殺技が発動し切るまでの時間を無理矢理引き伸ばし、反転聖素をチャージし続けるのだ。
当然、聖素変換装置にも容量の限界は存在する。本来ならそれに達する前、もしくは達した瞬間に必殺技が打ち出されるわけだが、その限界を減速によって超える。
装置が圧倒的な量の聖素に耐えかね自壊してしまいそうになるのも阻止し、自動的に発射されるのも阻止し、俺の手で抑えていられる限界まで反転聖素を溜め続ける。
「……っし!これなら...!」
俺は杖を聖素変換装置から引き抜く。その瞬間、溜まりに溜まった反転聖素が漏れ出そうになるが、それを減速で止める。そして、反転聖素を杖に固定させ、そのまま完全に引き抜いた。
「反転聖素の剣!」
できたのは、反転聖素を刃とした剣。聖剣という偽りの姿を与え続けられていた聖杖が、ついに本物の聖剣となったのだ。
「さぁ...行きますか!」
魔王にトドメを刺してやろう。
狙うは魔王の中心。爆発によって抉り取られた傷口の中心部分だ。
だが、このままではどうやってもそこには辿り着けない。加速を使えないため、あそこまで跳躍する術がないのだ。落下速度減少によってある程度飛距離は稼げるが、雷装があるとはいえこの身体能力ではギリギリ届かない。
けれど、方法はある。
「これも、すっかり忘れてたぜ...前はこれでバフ禁止を乗り越えたんだったな」
俺は魔王に向かって走り出す。その際、俺は少し奇妙なステップを刻みながら走った。
そのステップによって、足音が響く。
足音は曲を紡ぎ、俺の耳に届き...
一瞬だけバフをかけた。
「これで届く!!」
特定の音楽を聴くことによって自らを強化する。前にもできたように、ミルキーの使うこの術はバフ禁止を乗り越えられる。爆発を見たことで一緒に思い出したこの技術が、魔王を倒す手がかりとなった。
「これで終わりだ!!」
反転聖素の聖剣を魔王に深々と突き刺す。
「消し飛べ!!魔王ッッ!!!」
俺は、反転聖素にかけていた減速を解いた。
聖杖によって指向性を与えられることのなかった反転聖素は、全方位360度に残らず撒き散らされ...
気づけば、俺たちは山の上に戻ってきていた。
「倒せた...のか?」
いつのまにか聖杖は聖素変換装置に突き刺さった元の状態、聖剣に戻っており、必殺技を撃ったことによるクールタイムに移っていた。ということは、俺が必殺技を放ったのは夢ではないってことで...ちゃんと魔王を倒せたことの証ってわけだ。
「……そうだライトは⁉︎」
俺は急いでライトのもとまで走る。
ライトの周りには、仲間たちがぺたんと座り込んでいた。それぞれ、悲しみに暮れた表情を浮かべ、泣いている者もいた。
「間に合わなかった...」
ニアが俯きながらボソボソとつぶやいた。
「ライトが魔法を撃ってからしばらくして、出血が止まったの。それで確認したら、呼吸も脈も止まってて...」
「撃ったら危険だってわかってたのに、ライトは最後の力を振り絞ってあの魔法を...!」
「御託はいい。早く治してくれ」
「……え?」
何を言っているのかわからないと言った表情をニアが向けてくる。
「治せと言われても...私でも死者を蘇らせることはできないわよ!」
「こいつはまだ死んでねぇ!まだ生きてる!俺が全部止めてるからだ!!呼吸も脈拍も代謝も全部止めて延命させてる!だから傷さえ治しちまえばライトは助かるんだ!!」
危険だとわかってて、それでも魔王を倒すために自己犠牲を惜しまずにあの魔法を使った?
それは逆だ。あいつは魔王を倒しながら自らも助かるためにあの魔法を使ったのだ。断じて自己犠牲ではない。あれが最高最善だったのだ。
「でも、ライトに減速は効かないんじゃ...いや、そうか!」
「気づいたかニア。こいつはあの魔法を撃つ時、全ての魔力を込めていたんだ。魔力切れになったことで、ライトの持つ勇者の力は効果を失う。結果、悪影響を跳ね除ける力が無くなり、俺の減速での延命ができるようになったわけだ」
魔力切れになってくれたおかげで間に合った。もし減速が出来なかったら、ちょうど今頃出血多量で死んでいたかもしれない。
「だからほら、早くライトを治してやれ」
「……できないのよ」
「……魔王は倒した。だからニアにも治療はできるはずだぞ?」
「あの呪いがまだ残ってるのよ!だから治せない!」
「ハァ⁉︎なんで死んだ奴の魔法が解除されてねぇんだ⁉︎」
「私にもわからないわよ!理由はわからないけどまだ呪いが残ってる!普通の治療じゃ弾かれちゃうのよ!」
嘘だろ嘘だろ嘘だろ?なんで治せねぇんだおかしいだろ...!
「クソ...!ひとまず移動だ!次元転移開けニア!北の山まで移動する!聖域に行くぞ!」
「っ、何か策があるんでしょうね...!」
ニアが次元転移のゲートを開く。俺がライトを抱え、みんなでそのゲートに入る。
「つっても俺にできるのは減速の延命だけだ!この傷を治すのはニアだ!」
「人任せ⁉︎私じゃ治せないわよ!」
「蘇生魔法があるだろ!あれ使えば治せない傷はない!そうだろう⁉︎」
「そうだけど魔力が足りない!魔力が満タンの時かつ聖域の中じゃないと無理なの忘れたの⁉︎」
「だから聖域まで移動すんだろ!」
「魔力満タンはどうすんのよ!カリヤが回復してくれるわけ⁉︎」
「それは無理だ!今の俺には加速と減速を同時に使えない!だからこうやって等速で走ってんだろ!」
今俺たちは、縮小された世界を普通の速度で走っている。いつもなら加速のおかげで一瞬で済む移動が、加速がないせいでとてつもなく長くなってしまっていた。この時間を無駄にしないためにライトの治療法を探る会話をするのだ。
「回復できないなら蘇生魔法は使えないわよ!一瞬でも加速させることはできないの⁉︎」
「無理だ!減速を解除してからどれだけライトの身体がもつかわからん!再減速するまでの時間で死ぬ可能性が高いからそれはできない!」
「ねぇカリヤ!ガネルに運ぶのはどう?あそこの闘技場で治療すれば時間をさらに稼げるはず!」
「それもできない!あそこはもう聖域じゃないから魔物が湧くし、闘技場の中じゃ魔力を回復できない!治療には不向きだ!」
「カリヤが延命し続けてる間にニアの魔力を自然回復させるんじゃダメなの?」
「無理だ!俺の魔力が尽きるのが先!」
「なんでも無理無理って却下だけしてんじゃないわよカリヤ!何か案はないの⁉︎」
「ならニアも無理って言うんじゃねぇ!魔力が足りないだァ?それならみんなから魔力を貰えばいい!それだと魔力の自然回復が止まるから発動できない?ならそれでも発動できるようにすればいい!やることは二つ!呪いの解除と腹の傷の治療だけだ!全身全て回復させる必要はねぇんだぞ!!」
「……ああもうわかったわよ!山に着く前に蘇生魔法のカスタムを組み直す!必要最低限までダウングレードして、必要魔力を発動できる限界まで削ぎ落とす!それでいいわよね⁉︎」
「それでいい!最っ高だ!!」
ライトを助ける算段がついた。あとは山にたどり着けばいいだけ...!
「魔法を組むのに集中したい!」
「じゃあ私が抱えて飛ぶよ!」
「ならクミさんはカリヤを抱えるよ!その方が速いでしょ!」
「ああ、助かる!」
ステラがニアを抱え、クミリアが俺を抱える。俺はライトを抱き抱えているため、クミリア二人分の重量を抱えながら走っているわけだが、それでも俺が普通に走るよりも速い。
そこからものの一分ほどで、俺たちは目的地へと辿り着いた。ゲートをくぐり、聖域となっている山へと出る。
「ニア!魔法はできたか?」
クミリアに降ろしてもらった俺は、次元収納の中から大きな布を取り出して地面に敷き、そこにライトを降ろしながらニアに聞いた。
「もうすぐできるわ!みんな魔力ちょうだい!」
みんなすぐにニアへと魔力を譲渡した。俺も少しでも魔力を渡そうかと、ニアの方へと一歩踏み出す。
その瞬間だった。
フッと力が抜ける感覚が襲ってきた。全身から力が抜け、そのまま地面に身を投げ出しそうになる。
「ここで来るか...!」
倒れ込みそうになるのをグッと堪えながら思わず呟いたが、声にならないか細い声でしか口から出なかった。
こんなタイミングで、楔の効果が切れたのだ。強化された能力が全て元に戻る。
そして、魂の疲労によって、意識が朦朧としてきた。
「できたわ!今治す!」
ニアがライトを治すまで、減速を解いてはいけない。
それはわかっているのに、魂の疲労に抗うことはできなかった。
尋常じゃないほどの眠気に襲われ、俺は後ろ側に倒れ込み、強く頭を打った。
その弾みで、能力が解除されてしまったことがわかった。
それはなぜか。
誰の声かわからなかったが、出血し始めた早く治してという怒号が、消えゆく意識の中聞こえたからだ。
ライト。生き残ってくれ。
それが、意識を失う直前の最期の思考だった。
カリヤくん結局無双らしい無双できてなくね...?
ちなみに、シレンの穴にあったバフ禁止の階層では雷装を使えなかったのに、魔王戦では使えたのにはちゃんと理由がありました。
それはズバリ、魔王が雷装の存在を知らなかったからです。
シレンの穴では、挑戦者自身の記憶を参照していたため雷装も禁止できましたが、魔王は知らなかったため禁止できなかったんですね。
魔力銃を武器破壊で破壊できなかったのも同じ原理だったりします。
……なんで魔王倒した記念すべき回なのに、こんな長々と解説してるんですかね?
次回からは魔王戦後のエピローグになります...が、完結はもう少し先になります。