前世の俺がすでに転生特典決めてました   作:ダイヤモンドリリー

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8250字。

カリヤ視点です。


隷属の印に縛られない

「どこだ...どこにいるんだ...!」

 

能力を発動し続け、無理矢理能力適用範囲を広げていく。ライトがどこで戦っているのかを探るためにやっているが、なかなか範囲は広がってくれない。このペースだともし町の外までライトが呼び出されていた場合、見つけるのにものすごい時間がかかっちゃう...

 

「カリヤ...無理しないでいいんだよ?」

 

「そこまで無理してるわけじゃ無いから大丈夫だ。それに、ライトが頑張ってるのに俺が何もしないわけにはいかないだろ?」

 

「カリヤあんた、自分で俺らはここに留まるべきかとか言っておきながら何また突っ走ろうとしてんのよ」

 

「別にライトのところに行こうとは思ってないよ。速度操作が届けばライトをサポートできるからな。俺はみんなと一緒にここに残るつもりだ」

 

よっぽどのことが起こらなければ...だけどな。

 

「絶対何かあったら行こうと思ってるでしょ」

 

「いやいや〜そんなことないですよステラさんや」

 

……絶対嘘だって目で見られてる...実際その通りだから何も反論できないけど、そんなにわかりやすいかな俺って...

 

「スートを向かわせてるし大丈夫でしょ」

 

「まぁアイツならだいぶ信頼できるけど...ライトがどんくらいの人と戦ってんのかわかんないからなぁ」

 

元々百対一だったのが百対二になったところで焼け石に水だ。相手の人数がどれくらいかによって、どうなるかは全然変わってくる。

 

「そもそも、本当に戦っているの?ああ言っておいて、単純に出かけてるだけとかは...まぁ無いでしょうね」

 

「速度探知のおかげでわかるけど、宿の周りに不審者何人もいるんだよな。ライトの忠告を無視して俺らが外に出たら即襲われそうだ」

 

「何人来ようとぶっ飛ばせば良いだけだけどね!」

 

「まぁ最悪それでも良いけど...うん、それも手の一つなんだよな。普通に全員で外出てライトを探すのも全然アリだ。どうする?」

 

「ほらやっぱり行く気満々じゃん!」

 

「やっべ墓穴掘った」

 

そんな話をしている間にも、能力の適用範囲は広がっていく。それに応じて頭痛もひどくなっていくが、一応我慢できる程度だ。そろそろ一キロ近くになるのによく頭パンクしないよな...物理保護様様だ。

 

「……っ!いた!」

 

やっと速度探知がライトを捉えた。建物の中で戦っているな。この位置は...ギルドか。中で飛び回っているのがスートだとすると、もう一人が敵か。流石に速度探知だけじゃ誰かわからないな。

 

「どこ!」

 

「ギルドの中だ!...ってヤバそう行ってくる!」

 

「ほらもうすぐに行こうとする!」

 

急いで宿を飛び出そうとしたら、ステラが扉の前に立ち塞がった。

 

「悪いステラそんなことしてる場合じゃ無いんだスートがやられる!」

 

空気の振動速度を探知することで、ギルド内での会話もある程度読み取ることができているのだが、会話内容的にスートはかなり危険だ。急いで行かないとマズイ。

 

「もう止めないから行くならこれ持ってって!」

 

バッと懐から取り出したのは...

 

「指...輪?」

 

「私の魔力でカリヤを守る。絶対に生きて帰ってきて!」

 

「あたぼうよ。アクセルとの約束を守るまで俺は死ぬつもりはないからな」

 

指輪を受け取り、繋がっているチェーンを首から下げる。

 

「……ありがとなステラ。行ってくるよ」

 

移動速度を限界まで加速させ、ギルドのある場所まで走り出す。マッハ1。この速度があれば、ものの三秒で到着できる...

 

「ってヤベェ撃ちやがった!」

 

加速を解除して、スートに向けて放たれた魔法を減速させて完全に止めてしまう。この距離なら普通に走ってもすぐに着く...!

 

「だいぶギリギリ、間一髪だったみたいだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とまぁ、これがギルドに来るまでに起こったことだ。速度探知を急成長させていなければ、今頃スートはひとたまりもなかっただろう。急いでやって正解だった。

 

「つーか、まさかアライブだったとはねぇ...なるほど、あの二人が組織に入ってたのはそういうことか。そして、ライトが魔道具にデジャブを感じてたのも勇者の記憶統合のせいってわけだな」

 

「理解が早くて助かるよ...」

 

「それじゃあサッサと終わらせるか。大人しく捕まってもらうぜ」

 

「それは御免だな」

 

「ゥ゛⁉︎」

 

走る心臓の痛み。何度も何度も感じてきたこの痛みは、間違いなく略奪によるものだ。

 

「ワンナにも隷属の印刻んでんのかよ...なぁライト、これまで分かってる限りでいい。どんな力使ってきたか教えてくれ」

 

「口頭じゃ時間かかるから記憶送るよ」

 

ライトの記憶が流れ込んでくる。

 

「へぇ...大会上位者の力は軒並み使えるんだな」

 

今のところ使えるとわかっているのは、フレアミレア二人のバフ魔法に、ワンナの略奪と雷装・剣、カノウの色彩剣装にゴモンの反撃流、ミュラーの罠の糸にネオンの未来予知くらいか。ひたすら強い奴から取ってきた感あるな...あれ?ミルキーいなくね?アイツも大会上位者なのに...あそっか、組織には入ってなかったんだっけ。え、ってことはワンナとかも組織入ってんのか?それとも組織には入ってないけど隷属の印だけつけられてるとかなのか?わからん...

 

「……なぜ、奪えない?」

 

「あっ、略奪じゃ俺の能力奪えないの知らないのか。まぁ、やり続ければ使用不能くらいには陥るけどな」

 

軽く嘘を交えながら、略奪を使っても無駄だと諭す。激痛が走るだけだからそれに耐えさえすれば能力を使うことはできるんだよな...あんまりやりたくは無いけど。

 

「……なら、普通に殺すまで」

 

「殺せるもんなら殺してみな」

 

略奪を解除したアライブが突っ込んでくるのを横っ飛びで回避し、変形して襲ってくる魔道具を刀の鞘で防ぐ。

 

「喰らいな!」

 

刀を鞘に押し込み、音速の抜刀を放ってアライブの魔道具を切断する。

 

「チッ、わざと分断させたのか!」

 

アライブは即座に二刀流に切り替え、ナイフ二本で反撃してくる。完全に切られる前に自ら魔道具を二つに切り離したのだろう。

 

「『九尾』!」

 

攻撃を左手で持った刀一本で捌きながら右手でキツネサインをする。

 

『九尾』

 ┠ 4571ページ 黒のみ 触手・水

 ┗『雷装』

 

「っ...!」

 

背中から生えてきた九本の水の触手の剣を見てやばいと悟ったのか、アライブはすぐさま距離をとって魔道具を変形させた。距離を取られている隙に刀を右手に持ち替えておく。

 

「なんじゃそりゃ。ボウガン?」

 

無言でアライブは引き金を引く。本物のボウガンのように高速で矢が飛んでくるが、高速飛翔物には目が慣れているので回避は容易だった。一応変形して攻撃範囲拡大とかされたら困るので少し大きめに避け、その後矢の通った軌道上に手を伸ばす。

 

「やっぱり、弓本体と繋がってるみたいだ...なっ!」

 

矢とボウガンとを繋いでいた細い糸のようなものを掴み取り、一気に引っ張る。

 

「よっしゃもらい!」

 

引っ張られてバランスを崩したところに近づき、触手の剣で襲い掛かる。

 

「あぶっ⁉︎」

 

アライブの魔道具が変形して短剣になり、俺の触手の剣をギリギリのところで受け止めてきた。ちゃっかりワンナの力を使って短剣に雷装を纏わせており、ノーダメージで対処されてしまった。

 

「脚の一本くらいは覚悟しやがれ!」

 

触手は九つある。一本受け止められたところで、また別の触手の剣を振るうまで。どうせ魔法を使えば腕や脚なんて取れてもくっつくんだから本気で切り飛ばしにかかる。即死さえしなければ問題なしだ。というか、本気で俺を殺しにきてんだからそれくらいやっても許されるよな正当防衛だ。

 

「くっ...なんの!」

 

魔道具の変形によって器用に触手の攻撃を受け止めていくアライブ。加速さえ使えれば一瞬なんだが、無いとギリギリ耐えられてしまうな...せめて探知だけでも使えれば操作性上がるし嬉しいんだがしょうがない。このまま攻撃を続けるしかないか。

 

「クソッ、なんで読み取れないんだ...!」

 

「俺の心を読めないとかもう聞き飽きたぜ!」

 

というか俺の心を読んで無いのにここまで攻撃捌けてんのか凄いなアライブ。流石は元勇者候補と言ったところか...

 

「それなら...!」

 

うわっ、背後からの攻撃だってのにライトの聖剣を見ないで避けやがった!ライトの心を読んでたか、それとも俺の視線でバレたか?

 

まぁいい。避けるために無理矢理飛び退いたからアライブは今後ろに倒れ込みそうになっている。バランスを崩した今なら...!

 

「させない!」

 

アライブの魔道具が剣の形になり、刀身が空色の光を纏い出す。確かこの魔法は切っ先から放射状に刃を伸ばしていくものだったはず。深追いは危険だな。触手を前に突き出して攻撃しながら後ろに下がって距離を取る。

 

「……なるほど、体勢の立て直しに使うのか頭柔らかいなお前」

 

アライブは光の刃を伸ばすことはせず、剣がその場に止まる性質を利用することで剣自体を障害物にして俺の攻撃を止めるとそのまま体勢を立て直した。攻撃に見せかけたブラフで俺の追撃を躱すか...なかなかやるな。

 

「勇者と神の使い相手によく戦えんなぁ魔族並みじゃねぇか」

 

「魔族並みとか、カリヤには言われたく無いね」

 

アライブは左手で羽根ペンのようなものをくるくると回しながら言った...ん?ペン?

 

「まさかさっき近づいた時に⁉︎」

 

左手の甲を見ると、そこにはフレアとミレアに刻まれていたものと同じ紋章が刻まれていた。心を読めないとか言ってそっちに意識を向かせている間に書いたってのか?触手の剣を捌きながらできることじゃねぇだろんなもん!

 

「やってることエッグゥ...」

 

「……なぜ使えない!」

 

「ん?あっ、やっぱり能力は無理か。魂に刻まれた能力までは隷属の印じゃ使えないみたいだな」

 

どうやら速度操作を使うつもりで俺に隷属の印をつけたみたいだが、なぜか使えなかったようだ。この速度操作は適性がどうとかも無いし、俺と精神を入れ替えでもしない限り他人が行使するのは無理だろうな。

 

「それならこうするまで...!」

 

「悪いが、魔法は使わせねぇぜ」

 

触手・水を解除して速度操作を発動させる。

 

「速度操作発動中は魔法を使えない。お前が俺の適性と魔力を使って魔法を発動させているなら、これだけで無効化できちまう」

 

「……それなら!」

 

アライブが手をコチラに向けてくる。速度操作を略奪で引っ張ることで隷属の印での魔法発動を正常に行えるようにするためだろう。

 

だが、その対策はできている。

 

「略奪するってんならいっそのこと全部持ってけ」

 

ワンナに対してやったように、速度操作以外の全ての魔法やスキルをわざと渡してやる。いくつかはアライブが一度使ったことがあるために弾かれてしまったが、大量の魔法とスキルがアライブに流れ込む。

 

そして、流れ込むのはそれだけじゃない。その魔法を使うための適性値や記憶なども一気に流れ込んでいく。

 

その結果、ワンナがそうなったように精神が持っていかれる...!

 

「あぐっ⁉︎」

 

後ろにヨタヨタと後退りながら頭を抱えるアライブ。略奪の制御を手放してしまったのか、奪われた俺の力が全て戻ってくる。

 

「ワンナは多少ハイテンションになるだけだったが、それは常日頃から略奪を使っていて多少精神汚染に慣れていたからそれだけで済んでいたんだろう。使い始めて日が浅いお前が大量に奪ってしまえば、そりゃ意識が押し流されるわなぁ?」

 

「ク...ソ...!」

 

「まぁそのまま気絶しなかっただけまだ耐えた方だな...っと、もう動けんのかすごいな」

 

よろめきながらもなんとか俺のもとまで移動してきたアライブが槍の形になった魔道具を振って攻撃してくるがこれを軽く避け、そのまま回し蹴りを放って側頭部を蹴り飛ばす。

 

「隷属の印つけた意味なかったな。速度操作は奪えず、魔法も使えず、略奪をしようとしたら精神汚染と来たもんだ。精神汚染に慣れたら流れは変わるかもだが...まぁ、そもそもの話なんだけどな」

 

俺は自身の左手首にチョップを打つ。

 

ゴトンっと左手が落ちた。

 

「いつでも無かったことにできるから最初から無意味なんだな」

 

「なん...だと...⁉︎」

 

地面に落ちた左手が魔力に戻り、俺の身体の中に吸収されていく。そして吸収した魔力を使って左手を作り直せば、はいこれで紋章を消せましたっと。

 

「なぁお前の勝ち筋はあとどんだけ残ってんだ?ハッキリ言ってもう無いだろ?さっさと降参して捕まってくれよ」

 

正直に言おう。こっちも攻め手があんまり無い。ライトと二人で攻撃したとしても、未来予知だったり自由に変形する魔道具を使って完璧に守りに入られたら、負けはないにしても勝つまでに時間がかかりすぎる。それでまた隷属の印を描かれたら面倒だ。まだライトには描かれてないらしいけど、もし勇者の力すらも引き出せるのだとしたらヤバいし、出来れば戦いは長引かせたく無い。

 

複合スキルをもっと改良できてたらよかったんだけど、実戦で試したのが昨日だったせいで手直しする時間がなくて改良できていない。マズいぞ本当に手数が少ないぞ。

 

火力的にちゃんと使えそうなのは九尾と鳳凰くらいだけど、九尾は受け止められてしまうと既にわかっている。そして鳳凰は九尾をさっきまで使っていたせいで使えない。辺りに起爆剤が多すぎて火を扱う魔法は厳禁だ。屋外だったなら今頃はもう使えただろうけど、ここはギルドの中だ。壁に穴が開いているとはいえ空気の出入りはあまり無いしまだ使えない。

 

あいにく次元収納に仕舞い込んでいる魔法は、対巨大化魔物用に威力を上げに上げまくったものしか入っていないから使ったら殺してしまうし、使える手札が少なすぎる。

 

だから、是非とも降参してもらいたい。こっちはお前なんかどうとでも出来るんだぞという雰囲気を出して、諦める方向に持っていく。

 

「降参...だと?」

 

「ああ。それとも首筋に雷装流して気絶がお望みか?」

 

「降参なんてするか!俺がみんなを救うんだ!お前を殺して、破滅から守るんだ...!」

 

「……なーんで俺を殺すことが破滅の回避に繋がるんですかねぇ...キネットから聞いた話をどう曲解したらそうなるんだ?」

 

「魔族は関係ねぇ!俺は俺の意志で動いてんだ!」

 

「はぁ?何言ってんだか...」

 

これ、ひたすら正論ぶつけて自分がしてきたことが間違いだったと認めさせたりできないもんかね?物理で戦うよりも口論で言い負かして勝つ方が簡単な気がする...

 

「あっ、そうだ。魔法拡散でお前にかけられた記憶改竄解いてやろう。そうしたら自分が何をしでかしたのか間違いに気づけるだろ」

 

「無駄だよカリヤ。さっきの戦闘中に僕が使ったけど、何も変化なかった」

 

「そうなのか?じゃあ不可逆の方でも使われてんのかねぇ?」

 

「記憶操作もされてねぇってのに勘違いしやがって...クソッ、言えたら何もかも早く終わんのに!」

 

「俺らが何をどう勘違いしてんのかは知らんが、間違ってんのが自分の方だと考えたこと一度でもあるか?」

 

「そっくりそのまま返してやるよ!カリヤ!お前は生きてちゃいけないんだ!お前の仲間も友達も関係ない赤の他人も全員お前のせいで死ぬ!それが嫌だったら自分の首でも切って死んでくれ今すぐに!!」

 

あまりの剣幕に一瞬ビビる。こいつ、マジでそうだと信じ込んでんのか...?

 

「……もういい。話は全部終わってから聞かせてもらおうか」

 

ここまでなっていたらもう話し合いなんて意味ない。さっさと気絶させて終わらせるとしよう。

 

「ああ話は終わりだ!お前を殺して全て終わらせる!」

 

「っ、なにっ⁉︎」

 

突如俺の立っていた床が抜け落ち、ほんの少しだけだが落下して地面に足がつく。急いで出ようとしたが、障壁が貼られてしまいガッチリと足をホールドされてしまった。どうやら逃すつもりはないらしい。

 

「来るなら来い!返り討ちにしてやる!」

 

刀を構えて臨戦体制を取る。魔道具を変形させて四方どこから攻撃してきても完璧に捌いてやる...!

 

「喰らえッ!!」

 

魔道具が変形し、剣の形になる。そして剣に黒い光が纏わりついて...ってそれはヤバすぎ!

 

「アグッッ⁉︎」

 

胸を横一文字に切り裂かれる。回避不能の未来からの斬撃を今ここで使ってくるのはヤバい。いや、まだそっちは良い。火力低いし、首とかの急所は魔力を固めて防御してるから致命傷にはならない。

 

何よりもヤバいのは、未来の確定によってアライブが絶対に気絶しなくなったこと。腕を切り飛ばすまで、何が起ころうとアライブは止められない...!

 

「チキショウ動けないってのに!ライト!!」

 

障壁で足を固められているせいで動けないため、このまま離れたところから攻撃され続けたら何もできない。だからライトになんとかしてもらいたい...えっ、どこだいないぞライト⁉︎どこいった⁉︎

 

「って近づいてくんのか⁉︎」

 

遠距離から攻撃できるのになんで⁉︎まぁいい考えている暇はない迎え撃つ!

 

刀を構えて待ち構える。さぁどこから来る?完璧に受け止めてその腕を切り飛ばしてやる!

 

「脚狙いか!」

 

アライブは体勢を低くしながら走り、横薙ぎに剣と化した魔道具を振り抜く。そこに合わせるように刀を動かし、滑らすように受け流せば...!

 

「ダメだカリヤ!」

 

どこからかライトの声が聞こえた。けれど、不思議と位置が特定できない。どこから聞こえているのか、それを考えることすらもなぜかできなかった。

 

「黒じゃ無い赤だ!!避けて!!」

 

速度操作を使っていたならば、その助言に反応して行動を変えるといったことができただろう。けれど、今の俺にはそれは出来ない。刀を一ミリも動かすことはできなかった。

 

次の瞬間、俺の持つ刀が斬り飛ばされた。何の抵抗もなく切断されたのだ。それだけではアライブの攻撃は止まらず、そのまま俺の足めがけて剣が振られる。

 

バツンッ!

 

俺の右脚が、膝の上から切断された。

 

苦痛で顔が歪み、思わず目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして目を開けば、俺の脚は元に戻っていた。

 

ステラが渡してくれた指輪の効力だ。一度だけだが攻撃を受けた過去を改変し、無かったことにしてしまえる魔道具。これのおかげでアライブの攻撃を受け止めて弾き返したことになった。

 

ありがとう。心の中で、ステラに向けて叫んだ。

 

バツンッッ!!

 

二度目は、防げなかった。

 

アライブの剣が俺の両脚を膝の上から切断してしまう。

 

ズルッと俺の身体がずり落ちて背中から床に叩きつけられる。

 

走る激痛と、脚の切断面から噴き出す鮮血。そして、とても俺の口から漏れ出したものとは思えない絶叫。

 

思考がぐちゃぐちゃになり、一切まとまらない。何も考えられない。ただ、痛いとしか思えなかった。

 

「なんの魔道具かは知らないが、二度は使えないみたいだな」

 

アライブが、倒れている俺に向かって近づいてくる。そして、剣を振り下ろして俺の首を刈り取ろうとしてくる。

 

「ッ゛!」

 

床を転がって回避するが、傷口が擦れてしまい更なる激痛に襲われる。早く治さないと...出血多量で死ぬ...なんとか俺の頭が動き出す。

 

無意識のうちに速度操作を発動させていた。出血速度を減速させ、完全に停止させて失血死をまず回避する。あとは、魔法図鑑のページに魔力を通して逆行再生を発動させれば、それで脚は治るはずだ。

 

「ちょこまかと逃げやがって...それなら、まずこうしてやるか」

 

「ァ゛、ガア゛ァァッッッ!!」

 

アライブは俺の近くにしゃがみ込むと、脚の傷口にグチュリと指を突っ込んだ。肉を神経を骨を内側からかき混ぜられるような感触。想像を絶する痛みに意識が飛びそうになる...いや、もう自分から投げ出してしまいたいくらいだ。なのに、気絶できない。耐え難い痛みによって無理矢理覚醒させられてしまう。

 

「治したいよなぁ?なら、俺が治してやるよ」

 

「グア゛ア゛ァ゛ゥッッッ!!!!」

 

更なる痛みが走ると同時に、奇妙な別の感覚が生まれる。それは、癒しの感覚。相反する二つの感覚が脚から脳へ伝達される。

 

痛みに耐えながら傷口を見ると、少しずつだが傷が埋まりつつあるのがわかった。だが、失った膝や足が返ってくるわけではなかった。最低限だけ再生し、それで傷口が埋められてしまった。

 

「これで、お前の足はもう治った。これ以上はもう治らない」

 

「……は?」

 

痛みが完全に消え、冷静な思考がやっと戻ってくる。いや、冷静などでは決して無い。状況を理解できず、逆行再生の魔法陣が刻まれているページに魔力を流し込んでいた。

 

8271ページ 黒のみ 逆行再生

 

しかし、足が生えてくることはなかった。何も起こらず、魔法が解除される。

 

「無駄だ。お前の脚は一生治らない」

 

その言葉で、やっと理解できた。

 

俺は、脚を失ったのだ。




……はい、カリヤくん両脚欠損しました。
魔法を使っていて速度探知が出来なかったために、幻覚魔法をモロに受けましたね...実際は赤色の色彩剣装を纏っており、黒く見えていたのは幻覚のせいでした。
ライトの姿が見えなかったのも幻覚のせいですね。
そして未来からの斬撃に見えていたのは、ただの鎌鼬という...魔王戦では運が良かっただけで、こんなことになる可能性は十二分にあったんですよねこれ。
今回なったのはひとえに運が悪かった...いや、良すぎた運が消えたせいですね。

戦闘はおそらく次回で終わりになると思います。
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