前世の俺がすでに転生特典決めてました 作:ダイヤモンドリリー
魔物と戦う描写って難しいんだな...
「落ちる落ちる落ちる落ちるーーーっ!!!」
死ぬ!このままじゃ地面に墜落して死ぬ!森に突っ込んで死ぬ!なんてところに落としてくれてんだあの神は⁉︎
「減速...減速しないと!」
森に突っ込む。
「いってえ⁉︎」
木の枝に勢いよくぶつかりながらどんどん落ちていく。
「枝を掴めば...うわっ折れたァ⁉︎」
なんとか枝を掴むも、左肩に激痛は走るわ折れてほぼほぼ減速できないわで踏んだり蹴ったりだ。そのまま地面に落ちる。
「うぐっ⁉︎い、痛え...」
思い切りケツをぶつけた。めっちゃ痛いが、それだけだ。なんなら左肩の方が痛いまである。より大きな痛みで塗りつぶされてる感がスゴイ。枝にぶつかって全身傷だらけだろうし。ほんとあそこから落ちてよく生きてるな俺。
「能力使えてなかったのかな...ほとんど減速しなかったぞ?」
実際には使えてたのだが、弱すぎてほとんど意味がなかっただけだ。
「ってかほんとなんて場所に落としてくれたんだあの神は...」
『すまんの。ミスっちゃった』
「うわ頭の中に声が...おい神、ミスっちゃったじゃないよ。死んだらどうしてくれんだ」
『すまんすまん』
軽すぎんだろ。
『本来なら村の近くの平原に出すつもりじゃったんじゃが、ちょっと座標を間違えてのう』
「これY軸も間違えてない?高すぎだろ」
『すまんすまん』
「すまんじゃないよ。そこミスって地面に出現とかなったらどうしてくれんだ」
うまく木がクッションになってくれたおかげで助かったのだと思うが、下手したら死ぬところだったんだぞ?怖いよ死にたくないよ?
「ってか話せるんだ」
『念話じゃ。ポケットに入ってる石を通じて話してるんじゃ。無くすんでないぞ?』
「ポケット...?あれ、いつのまにか服着てんじゃん。なんで気づかなかったんだ俺?」
いかにも旅人っぽい服がいつのまにか身に纏われていた。枝にぶつかりまくって傷だらけだが。ポケットを弄ってみると、確かに石が入っていた。さっきので失くしてなくてよかった。
『質問があればいつでも聞いてくれて良いぞ。ワシにもわからないことや話せないことはあるが、ある程度のことなら説明してやるぞ』
「なるほどなるほど。向こうで説明するってのはこういうことなのね。じゃあさっそくだけど、さっき言ってた村ってのはどっちにあるんだ?方角とだいたいの距離を教えてくれ」
とりあえず村に行きたい。村なら今さっきできた傷も治してくれそうだし。異世界に来て最初にすることが怪我を治すことってなんだかなぁ...
『太陽は見えるかのう』
「太陽?ああ、一応見えるね」
『そっちの方角にだいたい二、三キロといったところかのう』
「相当座標ズレてんなおい。歩かないといけないのか...」
石をしまい、とりあえず森の中を歩き始める。
「能力ってどう使えばいいんだ...?」
『イメージすればいいんじゃ。周囲の速さを意識して認識し、速くなったり遅くなったりするイメージをするだけで使えるはずじゃぞ。現にさっき使っていたではないか』
「使ってた?確かに減速しないととは思ってたけど、使ってあれだったの?まだ全然意味ないじゃん」
『減速は強すぎるから特に制限をかけるようにと前世のお主に言われておるでのう。加速は限界まで一瞬で加速できるが、減速は段階を踏んで減速するようになっておる』
…要約すると、最大速度を光速で最低速度をゼロだとして、加速は一瞬で光速まで加速することができるけど、減速は少しずつ減速してゼロに近づいていくような感じってことか?ダメだ、自分で言ってて意味わからん。減速の限界値がまだ全然なせいで実感が湧かない。
「まぁいっか。後で検証すればいいや。加速はどんな感じなんだろ。試してみよ」
頭の中で想像する。自分が速くなっているというイメージを思い描く。
「お、おぉ?速くなってる...のか?」
確かにちょっと速い気がする。具体的には普通の歩きのテンポで全力ダッシュと同じくらいの速度が出てる...ような気がする。
「まだこんなもんか。成長したらどれくらいまで速くなるんだろ」
能力の使用を止める。速度が元に戻る。
「村に着くまでの間にある程度実験しとこうかな」
傷だらけで痛いが村に着くまでしばらくかかるので、行き道で実験することにした。そんな時だった。
「…なにあれ。猪かなんかか?」
木の影から猪っぽい生物が出てきた。めっちゃこっち見てる。
「これ人に害なす感じのやつかな。魔物だったりする?」
見た感じは普通の猪と大差ないように思えるが、ここは異世界だ。こんなのでもやっばい力を持ってるのかもしれない。一応警戒を...あっ、なんかツノっぽいの生えてきた。
「なんかゆっくり近づいてきた。ツノ生えたけど魔物でいいのか...?」
警戒ついでに、能力をいつでも発動できるように準備しておく。しかし、猪っぽい生物は襲ってくることなく俺の足に擦り寄ってくる。
「意外と可愛い...?なんだこの生き物...っ⁉︎」
思わずしゃがんで撫でようとしてしまったその瞬間、俺の手を噛もうとしてきた。動く予兆のようなものを感じ取ったおかげでギリギリで飛び退くことができたが、下手すりゃそのまま噛みちぎられていたかもしれない。鋭い牙が開いた口から見える。
「撫でようとしたから噛んだのか?それとも普通に襲おうとしたのか?わからん」
しばらく猪っぽい生き物と目が合う。そして俺が瞬きした瞬間、その生き物は勢いよく地面を蹴ってツノを突き刺してこようとする。
「危ねぇ⁉︎」
思考速度が加速する。そして猪っぽい生き物をほんの少しだけ遅くし、俺の速度を加速してツノを右手で掴み取る。ギリギリで間に合った。
「こいつ完全に魔物じゃねぇか...どうしようこいつ」
魔物は後ろ足でなんとか俺を蹴ろうとするも、足が短くて届いていない。ジタバタしてる姿はちょっと可愛かった。
「一旦離すか。何もできないし」
左肩が痛くて動かせないので、魔物に何も出来なかった。仕方ないので加速させながら投げ飛ばす。
「おぉ、おお?そっか範囲一メートルって言ってたっけ」
魔物はしばらくは速い速度で飛んでいったものの、少しして速度が落ちる。範囲外に出て変化した速度が元に戻ったのだろう。魔物はしっかりと着地してこちらに向かって再度突撃する。
「どうやって倒そうかな...そうだ、加速して蹴ろ」
突っ込んでくる魔物を減速させ、自らを加速させて勢いよく蹴る。
「オラッ!ってこいつ噛みやがった⁉︎」
完璧に蹴ったはずだが、それと同時に足先を噛まれた。靴を貫通することはなかったが、靴に噛み付いたまま離れない。
「くそ...離れろ!」
近くにあった木に向かって思い切り蹴る。しかし、木に命中する直前に魔物は口を離して回避する。結果、ただ勢いよく木を蹴るだけになり痛いだけだった。
「畜生めが...ってか反射神経やべぇなこいつ。あの蹴りに反応して噛みついてくるなんてな...」
肉弾戦をしても反撃を喰らってしまう。かといって武器もない。なら、取る行動は一つ。
「に、逃げるんだよーーっ!」
前に見たことがあるアニメのワンシーンを思い出しながら森の中を駆け抜ける。幸い、能力を使えば一応追いつかれないくらいの速さは出せた。
「よしよし、これなら逃げ切れる...よね?」
地の利の差か、魔物が接近してくることが何回かあったが、能力の範囲内に入るたびに減速させることで付かず離れずの距離を保ちながら逃げる。でもこのままだと一回転んでしまえばジ・エンドだ。もう少し距離を取りたい。
「そうだ投擲なら...!」
魔物との距離が少し離れた隙をついて、走りながら地面に落ちていた小石をいくつか拾う。そして立ち止まる。
「頼む、当たってくれよ...!」
小石を握り込み、大きく振りかぶって投げる。能力を使い、小石ではなく俺自身の速度を加速させて投げたおかげで、小石は範囲の一メートルの外に出ても速い速度で魔物に向かって飛んでいく。
「チッ!当たんねぇ!」
投げられた小石は魔物に軽々と避けられる。一つは顔面に命中しそうではあったが、ツノで弾かれてしまった。
「くそっ、余計なことしないで逃げとけばよかった!」
そもそも左肩の痛みで体のバランスが崩れており、狙って投げるなんて不可能だったのだ。急いでだけど地面を勢いよく蹴って走る。もう少しで森の外に出そうだ。あと少し、あと少し走れば...!
「っ⁉︎」
能力で範囲内の速度を感知できるようになっていたおかげで気づいた。二体、同じような魔物が木の影からこちらに向かって飛び込もうとしていた。能力の効果範囲は一メートル。つまり、その二体の魔物は既に半径一メートル以内に近づいているのだ。
このままじゃ、避けられない。進めば前の二体にやられる。止まったり戻ったりすれば後ろの一体にやられる。まだ距離が開いていて数の少ない後ろに逃げれば、生き残る確率が高いかもしれない。自分の速度を能力で落として止まりやすくしたのち、すぐに斜め後ろに飛び退く。
「あっぶね⁉︎」
真後ろから魔物が突っ込んで来ているのはわかっていた。だから斜め後ろに飛び退いたのだが、そのおかげで前から来ていた魔物と後ろから跳んだ魔物がぶつかり合う。そのうち二体はお互いのツノでお互いを傷つけ合い、少し蠢いたのちピクリとも動かなくなる。
「死んだ...?あと一体か」
残った一体の魔物は俺のことをギロっと見る。まるで仲間の仇を見るような目だ。
「いやいやお前らが先に襲ってきてそいつらが死んじまったのもそのせいじゃんかそれで俺を恨むのはお門違いじゃねぇーか!」
俺の言葉を無視して魔物は突っ込んでくるが、ギリギリでツノを掴み、投げ飛ばして逃げる。
「森さえ抜ければ...村に着けばなんとかしてくれるはず!」
木の根のせいで走りにくい森の中を、能力による加速で駆け抜ける。スタミナを考慮しない全力疾走をさらに加速させ、人体には到底出せない100メートル9秒を切るほどの速さで駆け抜ける。
けれど、脅威はすでに背後に迫っていた。
「こいつ速え⁉︎」
さっきまで俺のことを追いかけていた魔物よりも速い。こいつ絶対素早さの個体値V行ってるって。これだけの全速力でも追いつかれそうだ。このままじゃ森を出る前にきっと追いつかれる。魔物の速度を遅くしても、範囲一メートルから減速させるのでは間に合わない。
横に避けることも考えたが、難しかった。足場が悪すぎる。下手に方向転換をすれば木の根に足を取られて転んでしまうだろう。それに、進行方向の両側は木が並んでいてそちらに逃げることはできない。
「まず...⁉︎」
能力のせいで、背中に向かって魔物が跳んできているのがわかる。恐怖がすぐそこにまで近づいてきているのがわかってしまう。一メートルなんてのがどれだけ短いのかをありありと感じられる。
思考速度が加速する。反射神経も加速し、周囲の全てがスローに見える。けれど、この背中に迫るツノから逃れる方法は一つも思いつかなかった。
あと50センチ。背中にツノが刺さるまで一秒にも満たないだろう。
その一秒が、とてつもなく長く感じた。
そして...
その一秒が経った。
「あべっ⁉︎」
ドンッという音がする。
ツノが背中に刺さった音ではない。
急に能力が切れて加速が切れた結果、足がもつれて無様に地面に倒れた音である。ちなみに魔物は転んで倒れてる俺の上を素通りしていって地面にツノが刺さりジタバタしている。転んだせいで体は痛いが、なんとかマジで死ぬ一秒前の状況から逃れることができた。
「それにしてもなんで能力が...発動もできないし」
そのおかげで助かったようなものだが、能力が使えないとこの後詰む。じきに復帰してくるであろう魔物に対抗する手段がなくなってしまう。どうして使えなくなったのかを考えなければ。痛みでイメージが崩れたか?でも今めっちゃイメージがはっきりしているのに使えないし...まさか。
「魔力切れ...か?もしかして」
能力が魔力を必要とするものだなんて説明は受けてないが、まぁまぁあり得そうな仮説だ。
『正解じゃ。魔力切れじゃの』
「正解じゃ、じゃねぇよ。先に説明しといてくれよ...!」
『回復にはしばらくかかる。今のうちに逃げるんじゃ』
「そっか、今なら逃げれるのか」
魔物はまだジタバタしている。ツノが抜けるまでは時間がかかるはずだ。それまでの間に逃げれるはずだ。そう思い、痛む体を動かして立ち上がり足を踏み出そうとする。
「あれ、体が動かない...?」
妙に息が荒い。体がなかなかいうことを聞いてくれない。
「スタミナ切れ...?」
さっき逃げる時に全速力で走った弊害が今来たみたいだ。後先考えずに走りすぎた。
「でもまだ間に合うはずだし、ゆっくり歩けば...ん?」
あれ?いつの間にツノを抜いたんだ?結構深く刺さっていたはずなのに。引っこ抜けるにはまだ時間がかかるはず...あっ。
「ツノ...引っ込むんだっけ」
こちらに振り返った魔物のツノが引っ込んでいた。それで脱出したのだろう。そしてまたニュッとツノが生えてきて戦闘態勢に入る。
どうしよう。体はまだあまり動かない。能力も使えないし、対抗手段がない。
「何か、何かないのか!」
手探りで辺りに落ちているものを探す。
「木の枝...心もとないけど武器にはなるか?」
尖っている方を魔物の方に向けて構える。ツノの長さよりも長いし、遠くから眼に突き刺せばなんとかなるかもしれない。
「………」
魔物がタイミングを図るかのように足で地面を踏み締める。
「………」
来るならこいよ。いや、後手に回っても反撃できる保証はない。ここは先手を取るしか...いやいや、それが狙いなのかも。
「………チッ!」
静寂に耐えきれず、枝を突き出す。けれどその攻撃は簡単に避けられ、反撃をしようと魔物は地面を蹴って跳ぼうとする。
あっ、死んだこれ。
思わず目を瞑ってしまう。
しかし、死は襲ってこなかった。
目を瞑った瞬間、ヒュンッという空気を切るような音が聞こえていたのだ。それを思い出し、目を開けてみる。
「これ...矢?」
魔物には矢が突き刺さっていた。即死だったようでピクリとも動いていない。
「いったい誰が...あいつか?」
刺さっている矢を見て、飛んできた方向を推測してそちらを見るとそこには一人の少女が立っていた。
「あの子がやったのか?ってか第一異世界人発見じゃん。というか言葉って通じるのかな。感謝の言葉通じる?」
『その心配は無用じゃ。お主が日本語で話しても相手には通じる言語になって聞こえるはずじゃ。逆に、相手の話すことも日本語として聞こえるようになっておる』
なるほど。用意がいいな。
「大丈夫ー?そこのおにーさーん!」
あっ、ほんとに日本語で聞こえる。でもなんか口の動きと声がずれてるから変な感じがする。慣れないと気持ち悪くなりそうだ。
「君が助けてくれたってことでいいのかな?ありがとう」
「礼はいいよ別に。結果的に助けたみたいになっちゃっただけだしねー」
私の目的はこっちとでも言わんばかりに、あの猪の魔物を掴む。ツンデレっぽいこと言ってるような気がするが、普通にそういう子なのだろう。本気で目的は魔物だったんだろうな。
「というか傷だらけじゃん。大丈夫?動ける?」
めっちゃ心配されてる。見た感じ小学生高学年か、中学生くらいの年齢っぽいけど、年下に心配されてるのはなんか変な感じがする。
「あー大丈夫大丈夫。一応動けるよ」
そうやって虚勢を張りながら歩こうとするも、少しよろけてしまう。
「全然大丈夫そうじゃないし...ほら、肩貸すから。村まで行くよ!」
「えっ、あっ、うん。ありがと...?」
背が小さいからめっちゃ歩きづらい。でもそのご厚意を無下にするわけにはいかないので、肩を借りて歩く。
「………歩きにくい」
君が言うのかそれ。
「それならわざわざ肩貸してくれなくてもいいのに」
「いいんだよ別に。途中で倒れられる方が面倒だしね」
大きな弓と矢筒を既に持っているのに俺まで支えて重くないのだろうか?逆に心配したくなる。
「この丘を越えれば...ほら、見えてきたよ」
「ほんとだ。なんて村なの?」
「えっ、知らないの?おにーさんどっから来たのさ」
「えーっと...」
どう答えればいいんだろ。
『山奥に住んでるとでも言ってみたらいいんじゃないかのう』
それでいっか。
「山奥からちょっとね」
「へー。よく生きてたね...あーそうそう、あの村はカリスっていうんだ。弓矢の村だよ」
「弓矢か。だから君も弓矢を持ってるんだ?」
「そうだよ。これでも私、村で二番目に弓上手いんだよ?凄いでしょ」
「えっ、すご」
そんな子に助けてもらったのか。運がいいな。
「こんな小さいのに凄いなー」
「小さくて何が悪いのさ。小さい方が魔物に襲われても避けやすいし身軽だから楽なんだよ?」
「…それもそっか」
弓を弾くのは大変そうだけど、体が小さければ被弾も少なくて済むのか。そういう見方今までにしてこなかったな。
「それで、一番上手い子はどんな子なの?」
それを聞いた時、少女は一瞬ムッとした顔をする。これ聞かない方が良かったやつだ。ミスった。
「一番はお兄ちゃんなの」
あー、なるほど。コンプレックスになってそうだ。あんま触れんとこ。
「ほら、着いたよ」
そんなこんなで、俺は少女の肩を借りながらカリスと呼ばれる村に着いた。
「衛兵のおじちゃーん!この人怪我してるから連れてくの手伝ってー」
少女が門の横に立っている衛兵らしき人物に声をかける。
「おーステラちゃんじゃないか。随分と早い帰りだね...ってすごい怪我じゃないか君!連れてきてくれてありがとうねステラちゃん」
ステラと呼ばれた少女が衛兵の人に俺を引き渡す。
「よし、診療所まで行くぞ。動ける...よな?」
「一応ですが」
「肩貸すぞ。少し歩けば着くからな。あと少し辛抱してくれ」
その言葉通り、ちょっと歩いたら診療所らしきところに着いた。
「トリさーん、居るかー?怪我人だ」
衛兵の人が中に入りながら人を呼ぶ。トリさんというのが医者なのだろうか。
「怪我人?全く面倒な...どこのどいつだ?」
飄々とした感じの男が出てくる。
「確かに怪我してるな。それも結構深い...お前、金はちゃんと持ってるんだろうな?」
えっ、なんで急に金の話?普通ならもっとちゃんと診察するかさっさと治療開始するかの二択じゃないの?
「トリさんそれはちょっと...」
「仕方ないだろ。治療は無料でするわけにはいかない。一度それを許してしまえば全ての人にそれをしなくちゃ筋が通らないだろ?」
「それは...」
確かにその通りなのかもしれない。でも俺今金持ってないんだよな...
『金ならある程度の量渡したはずじゃぞ?』
え?
『あの石を入れていた方とは逆のポケットに入れておいたはずじゃが...落とした?』
マジか。落としたんだとしたらこの世界に来て落下している時に落としたのだと思うが...どうしよう。
「すみません。お金持ってたんですけど落としちゃったみたいで...落とした場所は大体検討ついてるんで、治してくれたら後で絶対払います。なので治してくれると...」
「払ってくれるならいいんだよ別に」
トリさんが腕まくりをする。治療してくれるのだろうか。
「ひとまず真っ先に治すのは左肩だな。脱臼一歩手前といったところか。とりあえず自分の手で押さえてくれ。今治す」
言われる通りに左肩を押さえる。そこまで酷いとは思ってなかったな。
「これくらいなら...中級で事足りるか?」
トリさんが俺の左肩に手を添える。そして目を閉じ、超小声で何かを呟いている。
「トリさんそろそろ詠唱無しで使えるようにならないもんかねぇ。小声でブツブツ言うもんだから気にしちゃってるよこの人」
「黙ってろ集中してんだから。この方が俺にとってはやりやすいんだよ」
再度目を閉じ、呟き始める。もしかしてこれ、魔法か?
「っ、痛みが...?」
少しずつ、痛みが和らいでいく。一瞬緑色の光が見えたような気がしたが、回復魔法ってなぜか緑色のイメージがあるよな。次点で白。
そんなことを考えていると、左肩の痛みが完全に消える。魔法スゲェ。
「後は全身の傷だな。初級で問題ないだろ」
今度は俺に向かって手をかざす。そして再度ブツブツと呟くと、一瞬緑色の光が現れ、俺の全身を包んで消える。
「…すげぇ。痛みもないし傷も消えてる」
一つの回復魔法で擦り傷切り傷打撲やら全部一発で治るのって変な感じするが、まぁ異世界だしそういうモンだと思っておこう。
「これで治療は終わりだ。早く落とした金を拾ってこい」
「トリさんそういう言い方は...」
「あー、でも森の中で落としちゃったんですよね。こっから、えっと、西の方の森ですね」
「あそこか...見た感じ何も武器とか持ってないだろ?弱いとはいえ魔物は出る。一人で行っても死ぬだけだな」
「せっかく治したのに死なれちゃ損だ。誰かと一緒に行って金を回収してこい」
「それなら俺が」
衛兵の人が名乗り出ようとする。
「君が行ったら誰があの門を守るんだい?というか、早く警備に戻りなさいよ」
「でもこの人困ってるし...」
「話は聞かせてもらったー!」
バンッと扉を開ける音がした。
「ステラちゃん⁉︎」
俺を助けてくれたあの少女。ステラだった。
「衛兵のおじちゃんは早く持ち場に戻ってなよ。おにーさんには私がついててあげるから」
「いいのかい?」
「だってまだ一体しか仕留めてないしね。もう何体か狩りたかったところだからついでにボディーガードもやるよ」
「た、助かります!ありがとう!」
そういうわけで、俺とステラはあの森へと戻ることになったのであった。
人の名前、村や町の名前などはほぼほぼ適当につけています。
モブや重要人物問わず、本当に意味のあまりない名前をつけてます。
できれば他作品に出てる名前は避けようとは思ってますが、数が多すぎて把握しきるのは無理なので、被ったらごめんなさい。