前世の俺がすでに転生特典決めてました 作:ダイヤモンドリリー
最初だけ少し時間軸を巻き戻して、ライト視点です。
「……よく来たね。ずっと待っていたよ」
僕はとある場所に来ていた。ある男に会うためだ。
「ごめんね、一ヶ月以上待たせちゃって。今日しか安全だっていう確信が持てなかったんだ」
「なぜ今日安全なんだ?」
「魔力切れを起こしている。だから絶対に聞かれることはない」
「そうか...じゃあ、話を始めようか」
今日の用事...それは、アライブから全てを聞くことだった。
「まず何から話そうか...そうだな、魔族との出会いから始めようか」
特殊なガラスを一枚挟んだ向こう側にいるアライブは語り出す。
魔族と出会ったのは、人魔戦争が始まる二週間も前のことだった。夜道をプラプラと歩いていたら突然キネットとフロートが現れたらしい。そして、すぐさま記憶改竄の魔法を使われたのだとか。
だが、魔族たちにとって一つ誤算だったのは、魔道具によって記憶の改竄が無効化されてしまったこと。アライブは大量の魔道具を所持していた。その中の一つに、ギルドに仕掛けられていた認識阻害と幻覚ををもたらす魔道具があったが、その魔道具はうまく使えば自身に対する記憶の改竄を防ぐことができるらしい。
といっても完全に防ぐことはできず、改竄前と改竄後の記憶を両方得ることになるらしいが、これが功を奏した。魔族たちはアライブの記憶を改竄できたと思い込んでいるわけだが、それにわざとアライブは乗ったのだ。魔族の手先になったように見せかけて、その内情を調べるためのスパイになったわけだ。
そういうわけで、アライブは魔族の指示に従うようになった。フロートに自身を模倣させたり、神世界復興同盟を作ったのもそのためだ。その過程で、アライブは魔族から魔神についての話を聞いた。
そして、聞いたのはもう一つ。仮に魔王が負けてしまった時の話だ。
魔王は今回で最後の人魔戦争にするつもりで動いていたが、それは勝っても負けても同じ結果に行き着く算段がついていたからだった。魔族たちが神世界復興同盟の結成を促したり王を暗殺して偽物を作ったりなど、負けても何かしら傷跡が残るようにしていたのと同じだ。負けた時の第二プランが用意されていた。
「……で、その第二プランというのはなんなんだ?」
「単刀直入に言う。魔王はまだ生きている...神の使いの魂に寄生してな」
「カリヤの魂に...寄生...?」
……そういえば、魔王は聖剣に自身の力の一端を宿らせ、シレンの穴の土偶に移ったみたいな話を聞いた気がする。女神の山に乗り移ったのも、その寄生の力?長い歴史の中で幾度となく魔王を倒してきたのに復活してきたのは、ただ寄生先の器を破壊しただけで本体を滅することができていなかったから?
「……っ!合点がいった!」
カリヤの夢遊病。それはカリヤの意識が睡眠によって消えている間に魔王が身体を動かしていたために起こったこと。
魔力回復速度の異常。それは魔王が内側にいたために聖素ではなく魔素によって魔力を回復する体質に変わりつつあり、そのせいで聖域の中では魔力を回復しづらかったから。
魔域で体調不良を起こさなかったこと。それも魔王が体内にいたために魔素に対する拒絶反応が出なくなっていたから。
そして魔素を探知しようとしたら意識が遠のいたこと。それは速度探知によって体内に潜む魔王を魔素の流れに注視することで発見してしまわないよう、魔王が妨害をしたから。怪我をしたりなどよっぽどのことがなければカリヤは自身の体内の速度を全て無視してしまう。それどころか自分自身の魂なんて絶対に見ないだろう。だから今まで気づけなかった。
あれもこれも、全てが魔王の寄生という事実に結びつく。点と点が線で結ばれ確固たる事実を浮かび上がらせる。
「でもいつ寄生なんて...魔王を倒した時か?」
「魔王は勇者か神の使いどちらかに寄生するつもりだった。勇者に寄生すれば、必殺技とやらを撃った後、聖剣の力が弱まり勇者の加護も弱まった瞬間に意識を乗っ取りそのまま聖剣を使って正規の方法で魔神の封印を解く。神の使いに寄生したら、速度操作を使って封印の劣化を加速させる。どちらに寄生したとしても結果は変わらない。だから魔王がどちらに寄生するかわからなかった」
「なるほど、わからなかったからとりあえず魔王を倒した方に寄生していると考えて僕を先に呼び出したのか。本当はカリヤが倒したことは知られていないから勘違いしたと...」
「魔素を見る魔法を使えば、体内に異常なほどに含まれている魔素で寄生に気づくことができる。だから一目見て勘違いに気づけたんだ。すぐに事情を説明できれば一番だったんだが...」
「もし速度探知で聞かれていたらすぐに魔王が動き出してしまうから言うに言えなかったというわけだね?」
「そうだ。だから僕は一人で戦うことにした。隷属の印を使って略奪を発動し、速度操作ごと魂に宿る魔王の動きを縛り、その内に殺そうとした。結果的に脚を奪うことしかできなかったが、これは魔王にとってもかなりの痛手のはずだ」
とりあえず話すことは大体話したなとアライブは呟き、そして真っ直ぐ僕のことを見てくる。
「勇者ライト。君は最後の希望だ。神の使いのうちに潜む魔王を撃ち倒し、平穏をもたらすことができるのは君しかいない。魔力切れを起こしている今がチャンスだ」
「……話はわかった。だが、今話したこと全てが本当のことだという証拠はあるのか?疑いたいわけではないけど、改竄前の記憶を保つことができた、スパイになるために自ら魔族たちに協力したように誤認させられている可能性はないのか?」
「……疑われるのも無理はない。だが、さっき言った通り神の使いを魔素を見る魔法で見てみろ。少なくとも、魔王がうちに潜んでいることはわかるはずだ」
なんとなくだが、わかる。アライブは嘘をついていないし、嘘をつかされているわけでも無い。そういった悪い気配を微塵も感じないのだ。
だから、この話は全て事実...?
「……もしカリヤの中に魔王が潜んでいるのなら、本当に急がないとマズイ。今のカリヤの速度操作はたとえ世界...この空間の端にいたとしても全てを操作できるまでに広がってしまっている。その力を魔王が行使したならば...!」
そうか。カリヤが夢遊病を引き起こしているときにずっと速度操作を発動させていたのは、魔王が速度操作の制限を取っ払おうとしていたからだ。魂に寄生できるのなら、カリヤの魂に打ち込まれている楔もある程度弄れるかもしれない。早い段階で加減速の同時使用が一部解除されたのも、その影響か...?
「なら急げ勇者。それと...おい、アレを渡してやれ!」
アライブがそう叫ぶと、僕の斜め後ろに座っていた拘置所の職員が立ち上がり、何かを差し出してきた。
「これって...!」
それは一本の羽根ペンだった。あのギルドでの戦いで見た、隷属の印を記すための魔道具だ。
「俺...いや、僕からの贈り物です。それで記した者との接続はまだ途切れていない。きっと役に立つはずです」
今思えば、アライブは普段は丁寧語で、戦闘の時だけ口調が荒々しくなっていた気がする。それがここまでずっと戦闘モードの口調だった...それが今戻ったのは、肩の荷が降りたってことだろうか。
「……こんなふうな物の受け渡しを拘置所でできるわけがない。なのになんで...」
「知らなかったですか?神世界復興同盟のメンバーはどこにでもいますよ。まぁ今は、勇者を全力でサポートする集団に成り代わってますけどね」
ふ、複雑な気分だが、隷属の印の力を使えるのはとても心強い。とりあえず今は諸々の面倒ごとは水に流して、魔王という危機の対処に専念しよう。
「じゃあ僕は行くよ」
「最悪、神の使いを殺してでも魔王を討ち滅ぼす。そのつもりで行ってください」
「……悪いけど、僕はカリヤを殺すなんてしない。世界も救って、カリヤも救う。それが、僕の代わりに魔王を倒してくれたことへの恩返しだ」
「……気をつけてくださいね」
「わかってるよ」
僕は拘置所を後にした。
僕はあのギルドの戦いの中で、アライブは外道に落ちてしまったと思っていた。
それは間違いだった。
ただ一人真実を知り、誰にも話すことができず、それでもなおこの世界を救うために戦った。
勇者にはなれなかった彼だけど、その心は紛れもなく勇者だった。
「逃したか...!」
アライブの言う通りに魔素を見る目でカリヤを見たら、案の定大量の魔素の塊を抱え込んでいた。魔王がカリヤに寄生していることは明らかだった。
だが、ここで魔王だけを滅ぼすことは不可能だ。まず、聖域展開では魔王を消すことはできない。聖域が人体の内側にある魔素を反転させることはできないのは、アンデッドが聖域の中に入っても動ける事実から明らかだ。多少魔素を抑制することはできても完全に反転させることはできない。
そして聖杖を使っても、魔王は一瞬カリヤの身体の制御権を奪うだけで避けれてしまう。速度操作を使えば避けることは容易い。そして、聖剣の力が落ちるその瞬間を狙ってそのまま反撃されてしまうだろう。
だから、僕は聖杖を使わなかった。幻覚魔法を使うことで聖杖を使ったように見せかけ、避けて反撃してきたところを迎え撃つ...途中まではうまく行ったけれど、あと少しのところで聖剣の力が弱まっていないことに勘付かれて逃げられてしまった。
「世界全ての速度をゼロにする...まさか、こんなことをするなんてな」
周囲を見渡すが、誰も動いていない。止まっているステラの頬を突いてみるけど反応は無し。完全に止まってしまっている。
「僕だけは減速の力を受けないことを魔王が知らないはずがない...一対一で戦うつもりか」
見たところ、止まっているのは生物だけのようだ。軽く歩いて村の外に出てみたが魔物も止まっているのが確認できたからな。光は普通に見えるし音も聞こえる。動けるということは空気も止まっていない。ここら辺を止めてしまうと、魔王が乗っ取っているカリヤの身体が壊れてしまう恐れがあるからだろう。そして、無意味に人を殺してしまわないようにするためでもあるはずだ。
もし魔神を復活させるのが最優先の目的ならば、その障害となりうる人類は真っ先に滅ぼしたいはず。なのに、魔王は加速を使って全ての人間を蒸発させるといった行動を取っていない。それをしない理由が必ずあり、そのためにみんなは生かされている。
「魔神の復活...そして、人類の支配って感じかな。そんなことはさせない...!」
魔王を倒す。そのために、準備を始める。まずは移動しながら情報の整理だ。
先程、止まっているものは生物だけと言ったが、正確にはあと二つ止まっているものがある。それは、聖素と魔素だ。おそらくは、僕の魔力回復を防ぐため。聖素だけでなく魔素すらも止めているのは、聖剣による反転の力を使わせないためだろう。これでは聖剣展開はただ剣が伸びるだけの機能に成り下がってしまうし、聖杖も聖素変換装置そのものが生み出す微量な聖素でしか撃ち出すことができないから本来の威力は期待できない。そして、聖素による人体へのバフも無くなる。まぁ、それは魔王の方も同じだが。
「今の魔力がそのままタイムリミットになるのか...」
ありとあらゆる悪影響を跳ね除ける勇者の加護だが、微量の魔力を消費してしまう。それに必要な魔力が尽きた時...すなわち魔力切れを起こしてしまった時が全ての終わりだ。魔力切れを起こしてしまう前に魔王を倒さなければならない。
「対して魔王は、僕が魔王の元に辿り着くまでの間は回復できる...」
この辺りの聖素や魔素は動きを止めているが、魔王の周りもそうであるとは限らない。僕が近づけば反転に警戒して止めるだろうけど、それまではただ一つの加速枠を使って魔力を回復し続けるだろう。逆に言えば、近づいてしまえば魔王にもタイムリミットを設けさせることができるわけだ。全世界の速度停止なんて魔力消費が激しいに決まっている。そう長くは続けていられないはずだ。
まぁ、その近付くというのが一番の難点なのだが。魔王は僕の位置を速度探知で探知できる。近づかれそうになったら加速して離れるだけで、僕に何もさせずに魔力切れを起こさせることができてしまう。まずはその問題を解決しなければ...
「……喋るのはまずいか」
今思い出した。カリヤは速度探知を使って会話を聞くことができる。魔王もそれをできるのかはわからないが、喋らないに越したことはないだろう。
……情報の整理は終わった。やるべき準備も思いついた。少しずつ、一手ずつ魔王を詰ませにいこう。
魔王は無言で荒野を歩いていた。全てが止まり、何も音を発するものがない今、地面を踏み締める音がクリアに響く。
正直のところ、魔王も速度探知には難儀していた。神の使いの脳に流れ込んでくる情報量があまりにも多いために、意識を向けなければ欲しい情報を認識することはできなかった。だが、それでもただ一人動くことのできる勇者の位置だけは鮮明に認識できたし、近づいてくる勇者から離れることも容易かった。
だが、すぐに離れることはしなかった。いつまで経っても見つからないより、見つかって、あと少しで手が届きそうな瞬間に離れる方が精神にくる。遠くから魔法を撃ち込んできた瞬間に離れる方が魔力を浪費させられる。勇者に対して積極的に干渉することはせずとも、そういった試みで勇者の体力精神力魔力を削ることができる...そう考えたからだ。
そんな絶対的優位な状況から来る慢心が心のうちにあったから、魔王は痛い目を見ることになる。
光の速さを超えた雷が、カリヤの魂に巣食う魔王を貫いた。
「グゥッ...!」
「この攻撃は流石の速度操作でも避けれないみたいだね」
胸の辺りを押さえて苦しむ魔王に近づきながら僕は言い放った。
「その身体から出ていってもらうよ、魔王」
「ハッ...出来ると本当に思っているのか?」
「出来るよ。この魔法が有れば...な!」
雷霆の魔法を放ち、魔王を貫く。
周囲に聖素が一切存在しないという発動条件は、魔王が聖素の動きを完璧に止めているために満たしている。そして、体内に一定以上の魔素を保有する生命体という攻撃対象は問題なく魔王を貫く。それも、魔素そのものを貫くためカリヤの身体には傷ひとつつかない。聖杖と同じで、人間には一切害をなさずに魔を滅することができるのだ。
そして、この魔法は対象に近づけば近づくほど加速する。最高速度は光の速さを超えるため、流石の速度操作でも減速は間に合わない。一方的に攻撃することが可能だ。
「そんなもの...こうしてしまえば使えない!」
止まっていた周囲の聖素、その一部が僅かだけだが動き出す。聖素が一切存在しないという条件を満たさなくなり、雷霆の魔法が止まってしまう。前は魔物を大量に召喚することで対処していたが、この場所では聖素の減速を止めるだけで対処されてしまう...だが、それでいい。
「それを待ってたよ!」
聖素のバフが僅かではあるが僕の身体を支える力になる。そして、ほんの少しではあるが魔力回復も始まった。こんな微量な回復だとしても、勇者の加護による消費を賄うのには十分だ。
これで、ひたすら逃げ続けて魔力切れを待つという作戦を魔王は取ることができなくなった。雷霆を恐れて聖素を動かせばタイムリミットはいつまで経っても来ない。だが聖素を止めれば回避不可能な攻撃が飛んでくる。魔王に一対一で戦うという選択肢を強制的に取らせることができた。
あとは、戦って勝つだけ。
「それにしても、まさかこの場所で戦うことになるだなんてね...どうしてこの場所を選んだんだ?魔王」
この場所はカリヤが雷装を手に入れた荒野であり、僕と初めて会った場所でもある。別にそういうことを考えて魔王はここにいたわけでは無いだろうけど、何か運命的なものを感じた。
「この地は天の怒りの降る地なのだろう?忌々しき天の怒りを封殺出来た事実に愉悦するためにここに来ただけだ。貴様がこの地に運命を感じたのならば、それはただの妄言。自らの敗北というこれから起こる出来事の言い訳を先に作っているに過ぎない」
「面白いこと言うね...一つ訂正だ。運命なんてものは存在しない。たたえあったとしても、カリヤが僕たちの全滅という運命を変えたみたいに、自分の手で捻じ曲げることができるものだ。未来は自分で選択できる」
「運命は変えられない。ただ少し猶予ができただけで、最終的な勝利は変わらない」
魔王は自らの左腕に右手の爪を突き立て、一気に皮膚を切り裂いた。傷口から血が滲み出し、小さなナイフのような形に変形する。
「カリヤの身体をそんなふうに...って魔法⁉︎」
躊躇なくカリヤの身体を傷つける魔王に一瞬激昂しかけるが、すぐに異常に気がつき冷静さを取り戻す。なぜカリヤの身体を使っているのに速度操作と同時に魔法を使えるんだ?まさか、魂に干渉して楔を引き抜いたのか?それともカリヤがこれまでに一度も発動していない魔法?どちらもあり得るけれど、もし前者なら加速の制限も解けているはず。なのに光速で僕に攻撃してこないということは、その制限は解けていないはず。なら魔王しか知らない古代の魔法である可能性が高い!
「それ以上傷つけさせない...!」
血のナイフを聖剣で弾き飛ばしながら魔王に向かって走る。
「近づいたところで何ができる」
「っ⁉︎」
魔王は離れるどころか逆に近づいてきた。牽制のために聖剣を振りかぶっていた僕はカリヤの身体を切ることに躊躇して動きを一瞬止めてしまう。その隙を見逃すはずもなく、魔力を固めた剣を持った魔王が僕の首めがけて攻撃を仕掛けてくる。
「くっ...!」
魔力の剣を聖剣で受け流し、地面を蹴って魔王から距離を取る。
「近づいたところで何もできないよなァ?貴様は余を滅ぼすために神の使いを殺すなどということはできない。一切攻撃できず、ただなぶり殺されるのみ!」
魔王が弓を構えるような動作を取った。紛れもない、無心の弓の動き。魔王が手を離した瞬間に横に飛び、無へと変換する必殺の矢を回避する。
「貴様は何のためにシレンの穴を攻略したのだ?此奴の記憶によれば、最後の試練は仲間と戦う類のものだったのだろう?」
……そうだ。一番最後にやった試練は、共に戦う仲間たちと戦うものだった。あの時はフロートと戦っている時を想定して試練をこなしていったけど、今思い返してみれば、試練の穴は魔族を対策するものではなく魔王を対策するもののはずだ。今回偶然その能力を持って生まれた魔族への対策試練を、古代の人が用意しているわけがない。あの試練の本質は、魔王に乗っ取られた仲間と戦うための予行練習だったのだ。
フロートと戦う想定をしていた僕は、この本質を捉えることができていない。姿が同じだけで本物では無いという前提があったからこそ普通に戦えたのだ。その身体はたしかに本物で、殺してしまえばカリヤ自身も死んでしまうというのなら、僕は思うように動けなくなる。
「これが...カリヤが抱いていた葛藤か」
「此奴も難儀なものよ。意識を乗っ取ったというのに未だに精神の抵抗を続けている。それだけ仲間を傷つけたく無いようだな」
……今の言い方敵に、カリヤの精神は消えてしまったわけではない。何かの弾みで表に出すことができれば、あるいは...!
「……貴様を始末するには骨が折れそうだ」
魔王はそう言いながら弓を弾く動作をする。また無心の弓か...そう思ったが、微妙に動きが違っていた。
「贄の弓」
一瞬の詠唱。そして、魔王の矢を掴んでいる腕が粉々に砕け散った。肉が、血が、骨が、矢の形へと圧縮されて放たれる。
「ま...魔王!!!」
間一髪のところで矢を避けた僕は、怒りに身を任せて魔王に切り掛かる。魔王は超えてはいけない一線を超えた。絶対に滅ぼす!
「そうカッカするな見苦しい」
果たしてどんな魔法を使ったのか、魔王は一瞬で腕を再生させその腕で僕の聖剣を受け止めた。そして肉が流動して聖剣にまとわりつく。
「貴様のことはじっくりと嬲ってから殺してやる。時間にして...十分といったところか。それまで簡単に死ぬでないぞ?」
カリヤの声でそう言って、魔王は不敵な笑みを浮かべた。
この物語の主人公はカリヤくんですが、この世界の主人公はライトくんです。
なので、ちゃーんと主人公には活躍させてあげないとね。
誤字発見につき修正しました。