前世の俺がすでに転生特典決めてました   作:ダイヤモンドリリー

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8296字。

魔王戦続きです。


傷つき、治し、また傷つく二人

「くっ、肉が...!」

 

聖剣を一気に振り抜き、まとわりついた肉を振り払う。

 

「さて、まずは貴様の心から折ることにしよう」

 

魔王は魔力を固めて短剣を作り出すと、それを使って自らの首筋を切り裂いた。

 

「何度やるつもりだ...!」

 

魔王はカリヤの体を傷つけ、そこから漏れ出た体液や分断した肉片を使って攻撃を仕掛けてきた。攻撃自体は直線的で単調なものでいとも容易く避けられるが、肉片が辺りに散らばり周囲がどんどん血に染まっていく。そして、傷付けた部分は即座に再生...どう考えても僕を怒らせるのが目的だろう。だが、そうだと分かっていても、こんなことをされて怒らずにはいられない。

 

「何度でもやるさ。怒りは長く続かない。いずれ途切れ、集中を失う。喪失感のみが残り、何もできなくなる。さぁ怒れ。そして早々に狂え」

 

またしても贄の弓が飛んでくる。肉片が舞い散り、凶器と化して襲いかかってくる。

 

「もう二度とさせてたまるか!」

 

僕は羽根ペンを持ち、自らの左手の甲に紋章を描いた。あらかじめ刻まれている人たちと接続し、魔法の行使が可能となる。

 

「その紋章...隷属の印か!」

 

「ご名答...!」

 

たとえ動きを止められていようと、この魔力のつながりは止まらない。ワンナの魔力と接続し、彼女の魔法適性で略奪を発動させる。ほぼノーコストの略奪...その連続発動!

 

「贄の魔法...全て奪わせてもらった!」

 

己の身体を生贄に捧げることで発動する贄の魔法。その魔法を全て奪い、使用禁止にする。

 

「略奪で奪ったか。使っても構わんぞ」

 

「冗談...!」

 

僕がそうおいそれと贄の魔法を使ったら、出血多量で死んでしまう。そんなアホな行動はしない。

 

「まぁいい。奪ったところで、貴様は余に攻撃することは出来ないのだからな」

 

「……ああ、少なくとも殺すことはできないさ。でも、傷つけることだったら僕にだって...!」

 

「手が震えているぞ」

 

「だから...なんだ!」

 

魔法を使い、一瞬で魔王との距離を詰める。

 

「『雷装』!!」

 

聖剣は使わない。ただ撫でるように触るだけ。一点集中させた雷装が接地点から魔王に流れ込み、その身体を痺れさせる。

 

「最終的にカリヤが死ななければ何をしてもいい!雷装で内側にいるお前だけ焼き焦がしてやる...!」

 

「無駄だ」

 

「無駄じゃない!」

 

魔王は雷装を防御できない。というより、魔王は雷装を発動できないのだ。僕が雷装を発動させた瞬間に魔王も雷装を発動させていれば防げたはず。なのにそれをしなかったのは、魔王が雷装を発動させたらその電流で自らを傷つけてしまうから。

 

魔王はカリヤを乗っ取ったとはいえ、カリヤ自身になったわけではない。魔法やスキルの行使はカリヤの身体にさせているだけで、魔王自身が発動させるわけではない。だから、雷装発動者に与えられる電気への耐性を魔王は受けることができない。雷装で攻撃すれば、着実と魔王にダメージを与えることができるわけだ。

 

「穿て!」

 

手を前に突き出し、魔王に向ける。次の瞬間、雷が僕の手のひらから撃ち出され魔王の身体を貫く。

 

「づっ゛...勇者専用の魔法か。こいつの記憶にしっかり残されているぞ」

 

もう一度手を向けて魔法を発動させたが真横に飛ばれて回避される。続けて手のひらを上に向けて、空から雷を落とすがこれも回避される。魔王はカリヤの記憶と知識を有しているから、僕の手札のほとんどはバレてしまっている。魔王を出し抜くチャンスはほとんどないわけだ。

 

「なぜわざわざ予備動作を使う?それが無ければまだ当てられるものを」

 

「それは...」

 

僕は手のひらを魔王に向ける。魔王は横に飛び、雷を回避しようとするが...

 

「こうするためだ!」

 

魔王の真下から雷が放たれ、足元から魔王を貫...けてない⁉︎

 

「なるほど、ブラフにするためか。だが、こちらの方が一手上をいく」

 

「義足で受け止めたのか...⁉︎」

 

よく見ると、魔王の身体と義足との間に僅かな隙間が開いていた。なのに普通に動けているのを見ると、空気の層のようなものを間に咬ませているようだ。でも、普通だったら雷は空気を切り裂いて魔王の胴体まで向かうはず。空間拡張か、速度操作による減速、それとも異様なほどの帯電性を持つ義足に全て吸収させきったのか...?

 

「それなら...!」

 

予備動作なしの魔法の行使。多少狙いは荒くなるが、真上、正面、真横の三方向から雷を落とす。この速度だ。逃げ場はない。狙いは荒くともどれか一つは命中するはず...!

 

「今度こそ無駄だ」

 

三方向から襲い掛かる雷が、空中で何かに堰き止められたかのような挙動で弾け、そのまま霧散した。

 

「速度探知があれば、天の怒り...いや、雷だったか。その軌道を読むことは容易い。そして、空気や空間丸ごとを止めてしまえば簡単に止められる」

 

それなら壁の内側から放てばいいと思い魔王の足元から雷を放つが、それは義足で受け止められてしまう。前後上下左右どこからも攻撃が通らない。

 

「なら待つだけ...!」

 

減速による防御は完璧だ。どうやっても攻撃は通らない。だけれど、そんな壁を作っていては僕に攻撃することもできない。減速を解除して攻撃を仕掛けにきた瞬間を狙って攻撃すれば...!

 

「何を考えているか、魔法を使わなくてもわかるぞ」

 

そう言いながら魔王は腕を大きく振りかぶった...っ、なるほどその手が!

 

「なっ...⁉︎」

 

急いでその場を離れようとした。だが、運が悪いことに足がもつれてしまった。そしてよろめいた瞬間、魔王の作り出した空気の腕が僕の全身を叩いた。

 

「ぐっ...!」

 

伸びる空気の腕に突き飛ばされながら僕は魔法を発動させ、魔王の近くで爆発を引き起こさせる。止まった空気の壁のせいでダメージは通らないが、爆発によって一瞬視界を塞ぐことができたため空気の腕が消滅した。

 

「空気の腕なら壁を貫通して攻撃できるのか...!」

 

クミリアの使っていた魔法なら周囲に空気の壁を張っている状態でも攻撃が可能だ。何せ視界で塞いだ部分の空気を操るのだから、中にいたまま外の空気を操り攻撃することができるというわけだ。

 

……いや、そんなことはどうでもいい。今気になるのは、なぜ避けられなかったかだ。あの時足がもつれたのはただ運が悪かったからとかじゃ決して無い。何かに干渉されたような...そうでなきゃ僕が転びそうになるだなんてこと起こり得るはずがない。

 

「運が悪いなぁ勇者。まぁ、余がそうさせたのだがな」

 

「運を操る魔法...?まさかそんなものが...」

 

「ああ、違う違う。そうだな...教えてやるとしよう。せいぜい理解するといい」

 

ガクンッと僕の頭が揺れた。記憶の共有をここで...!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世の神とは別の神がカリヤに授けた力は速度操作だけではなかった。

 

もう一つの能力、それは不幸不運を回避する力。

 

カリヤに降りかかる災厄を嫌な予感といった形で事前に感知させ、かつその最悪の未来を運を捻じ曲げることで回避する力だ。

 

この力は、カリヤを死なせないために、そしてこの世界を救うために、カリヤの知らないところでその効力を発揮していた。

 

この世界に初めて来て、空から落ちた時もそう。木の枝がクッションになって肩の脱臼だけで済んだのは、運を捻じ曲げて怪我を和らげていたから。

 

魔物に襲われて森から出た時にステラに会ったのもそう。あの出会いがなければそのまま魔物に襲われていたし、会ったのがステラでなければそれ以降関わることはなく、結果的にフロートがカリスの英雄となっていた。

 

クミリアが雷装を手に入れるきっかけとなった事故もそう。あの瞬間に感じた嫌な予感はクミリアの死を予見したものだった。なのにも関わらず事故を回避するように運を捻じ曲げるようなことが起こらなかったのは、クミリアも雷装を使える必要があったから。運の捻じ曲げは、心肺蘇生の成功に使われた。

 

魔王の女神の山乗っ取りもそう。あの嫌な予感が無ければ対応が遅れ、女神ごと山を乗っ取られていただろう。

 

これまでのカリヤはこういった運の操作で守られていた。だが、魔王が寄生したことで、運の操作はその効力を失っていた。

 

ミルキーに刺されたのはそのため。アライブに足を切断されたのもそのため。運を捻じ曲げる力がきちんと発動されなかったがために、カリヤは危機に陥ることになった。

 

まぁそもそも、魔王に寄生された時点で運は最低レベルだったのだが...

 

……さて、この力は、運をマイナスからプラマイゼロに戻すための力だ。プラスに転ずることはない。だが、相対的に見ればプラスに運が傾いているのも事実。

 

ここで、だ。もし仮にこの運を捻じ曲げる力を自在に使いこなせたとしたらどうなる?プラスに直接運を捻じ曲げることはできない。しかし、相対的に、つまり相手の運を悪くすることで自らの運を擬似的に上げることはできるのでは...?

 

「  っ⁉︎」

 

どれだけ経ったかわからない。思考共有の荒波からようやく解放され、現実を知覚する。

 

目の前に、魔力の剣を持った魔王がいて、今まさに僕の胸に突き立てようとしている...⁉︎

 

「危なっ!」

 

雷装と勇者専用の魔法で身体に大量の電流を流し込む。それは僕の制御を離れて周囲に撒き散らされ、魔王の接近を拒む。

 

「あと少しだったか...まぁいい。まだまだ時間はあるからな。もう少し遊んでやるとしよう」

 

「あいにくこっちは遊びに来たんじゃないからね...さっさと終わらせる!」

 

雷を放ち、魔王に空気の壁を張らせる。そしてこちらの運を下げることで擬似的に運を向上させる隠されたカリヤの力を警戒しながら後ろに下がる。

 

「距離をとって何ができるというんだ?それに、せっかく使えるのだからもっと略奪を使ったらどうだ?」

 

魔王はそう言うが、明らかに罠だ。今略奪を使ったら、大量の魔法を同時に奪わせてくるだろう。そうしたら魔王の記憶と精神性が一気に僕の中に流れ込んできて自滅待ったなしだ。使うわけにはいかない。どうせ使っても速度操作を引っ張れるわけじゃ無いし、引っ張っても今のカリヤなら無理矢理速度操作を使い続けることもできるから、魔王も同じことをしてくるだろうしね。

 

「問題ない。これだけ離れていても攻撃できると、さっきお前が証明してくれたからな」

 

腕を大きく振りかぶり、魔王に向けて突き出す。

 

次の瞬間だった。

 

「あぐっ...⁉︎」

 

「空気の腕は完全静止の壁を貫通できる。これもお前が証明したことだ」

 

空気の腕を伸ばし続け、魔王を空気の壁にグリグリと押し付け圧をかけていく。

 

「馬鹿な...此奴はともかく、貴様がそれを使えるはずが...」

 

「カリヤの記憶だとそうだろうね。でも、実際のところは違う」

 

僕が空気の腕を扱えるのは、クミリアに隷属の印を書き込んだからだ。世界全てが止まったあと、僕は魔王と戦う準備をするためにみんなのいる場所を巡った。ステラにもニアにもレストにも同じように書き込んである。アライブが書き込んでいて元からあった分も併せて、全ての力を扱えるようになっている。

 

動けないみんなの代わりに、みんなの力を借りて僕が魔王を倒すのだ。

 

「……だが、その魔法はこうするだけで...!」

 

突如として、僕の視界から光が消えた。それに伴い、空気の腕も解除されてしまう。

 

「光の完全停止...⁉︎」

 

こんな早さで光の速度をゼロにするなんて有り得ない...いや、有り得ないからこそ速度操作ではなく何かの魔法だという可能性もあるか。

 

とにかく、完全に視界を塞がれたのは事実。魔王の位置はその有り余る魔素のおかげで把握できるから、このまま戦うだけ...!

 

「そんなことをしたって無駄だよ。魔力を無駄に浪費したいなら構わないけどね!」

 

魔王のいる場所に向かって、ニアの魔力を使って魔法を放つ。

 

「っ、この魔力はカイスの...!隷属の印か!」

 

「ご名答!」

 

避ける魔王に対して魔法を放ち続ける。そして僕も走って魔王との距離を不規則に変化させていく。速度操作があればここら一帯の光を全て止めることも出来るだろうけど、それは流石に魔力を使いすぎるからしてないはず。魔王は僕の近くの光だけを止めているに違いない。だから走って止まった光の領域から逃れようとすることで、魔王に光を止めさせ魔力を消費させることができるわけだ。

 

「これなら僕よりも先にカリヤの魔力が尽きる!勝負は...決まったようなもの!」

 

隷属の印を使い他者の魔力で魔法を発動させることができる僕と、常に世界を止めなければならない魔王とでは、時間当たりの消費魔力の差は桁違いだろう。いくら総魔力量に差があるとはいえ、これなら先にカリヤの魔力が尽きるはず。魔力切れ...カリヤを殺さずに魔王を仕留めるにはこれが一番なはずだ。

 

「まだ勝負はこれからだ。その判断は早計だな」

 

「なら逆にもっと早めてやる!」

 

聖剣を構え、魔法を発動させる。

 

「純白の色彩剣装...⁉︎」

 

「止めてみな」

 

白い光を纏っているであろう聖剣から放射状に刃が飛び出し、魔王に襲いかかる。

 

「光は...光で塗りつぶすのみ!」

 

周囲一帯が真っ白に光った。その場に止められ、集まり続けていた光が解放されて周囲に撒き散らされたことにより、真っ白な眩すぎる光で覆われたのだ。

 

「目が...!」

 

先ほどまで視界がゼロの真っ暗だったためその眩しさに完全に目がやられてしまった。なまじ暗くて見えなかった時よりも辛い。チカチカと脳が焼かれるような感覚がした。けど、聖剣から手を離してはいない。そのまま色彩剣装の刃が魔王を覆い、魔王は逃げ場を失うはず...!

 

「マニュアル操作だな?」

 

「っ⁉︎」

 

この光の刃は自動的に対象を追跡するものと自ら軌道を設定して操作するものの二種類が存在していた。僕が選んでいたのは後者、魔王が言った通りマニュアル操作だった。魔王を確実に囲い込み逃げ場をなくすため。そして、カリヤを殺さないために...

 

「なら、避けなくていい」

 

僕の意図を完璧に読めている...ように思ってくれたか?

 

たしかに当てる気はなかった。だって、囲むだけで十分なのだから。これからやることを妨害されなければ、それだけでよかった!

 

「使わせてもらうよ...カリヤ!」

 

僕は無心の弓を発動させた。ステラではなく、カリヤの魔力を使ってだ。それも一発だけじゃなくて何発も連射させる。魔王が行動を起こす前に、出来るだけ多く撃つ!!

 

「貴様、いつの間に...!」

 

ちょうど六発目を撃ち切った瞬間、カリヤとの魔力の繋がりが途絶した。無心の弓によって色彩剣装の光の刃が消え去り、それと同時に目も見えてくるようになったため、なぜ途絶したのか、その原因が見えるようになる。

 

「手を切り落としたか...」

 

魔王は左手を切り落としていた。だが、前にカリヤがやった時とは違い、本物の肉体を落としたようだ。そして失った手を再生して隷属の印の影響から完全に逃れた。

 

「……いつ仕込んだ?」

 

「さぁね。でもカリヤがそうだったように、自分のことは速度探知であまり見てないのはお前も同じだってことはわかったよ」

 

実は、一番最初に雷装を発動させて魔王に攻撃したあの瞬間に既に隷属の印を書き込んでいたのだ。なのにいつまで経っても速度探知で気付けなかったのを見るに、どうやら自分自身のことを速度探知で見ることは難しいらしい。もしかしたら作戦に組み込めるかも...?

 

「これでだいぶ魔力を削れたはずだ。ほら、もっと早まっただろう?」

 

「……遊びはやめにするか」

 

「次にやろうとしていることを当ててあげようか。膨大な熱量で僕を焼き焦がす...とかじゃないかな?」

 

先回りしてカイの魔法を発動させ、周囲の温度を絶対零度に、そして僕の体温だけ一定に保つ。

 

「たしか、元々速度ゼロのものは操作できないんだろう?カリヤ特効ってわけだ。そのまま氷漬けにできたら苦労しないんだけど...仕方ないな」

 

これで魔王は唯一の加速枠を使っての温度操作をできなくなった。さて、次は何をしてくる...?

 

「なら...こうするのみ!」

 

魔王がそう叫んだ瞬間、空気がガラッと変わった。何もかもが動き出していた。減速が一瞬だが解かれた。

 

減速が全て解除されたということは即ち、加速を自由に使えるようになったということ...!

 

「がふッ...⁉︎」

 

魔王が消えたかと思えば...一瞬で腹を貫かれていた。

 

「やはり、加速の方が楽だったな。先に殺してからやればよかったか...」

 

僕の腹に刺さっていた拳を引き抜きながら魔王は呟く。僕は地面へと倒れ込み、そして、また世界は動きを止めた。

 

「しばし遊びに興じてやろうと踏んで遊んでやったが、存外つまらぬものだったな」

 

魔王はすぐに僕への興味を失ったようで、背を向けてどこかへ行こうとする。隙だらけ...だけど、速度探知があるから最後の力を振り絞っての攻撃は意味がない。やるなら...これだけだ。

 

「……貴様、手ぐせが悪いな」

 

「褒め言葉として、捉えておくよ...」

 

カリヤの魔力を消費して、魔王が使っていた再生魔法を発動させ貫かれた腹を完全回復させながら立ち上がる。

 

魔王に腹を貫かれた瞬間、僕は魔王の手に隷属の印を書き込んでいたのだ。そうしていなければ、今頃僕は失血死していただろう。危ないところだった。

 

「まぁ良い。対策は済んでいるからな」

 

魔王はそう言うと、ゴトっと左手が落ちて、そのまま霧散した。そして先程までの肉が噴き出すような再生ではなく、少しずつじんわりと出現するような形で落ちた左手が現れた。

 

「魔力体か...」

 

わざわざ腕を切り落として再生するのは魔王も面倒だと思ったのだろう。アライブに対してカリヤがやったのと同じ方法で隷属の印を対策してきたか。これだと印を刻んでも一、二回しか魔法を使えないな...

 

「此奴の感覚は実に良い。まさか、余よりも魔力操作を上手く扱える者がいるなどとは夢にも思わなかった」

 

……そうか。カリヤの記憶を有しているということは、魔力が一切無い感覚を知ったということ。そのおかげで魔王もカリヤ並みの魔力操作の技術を会得したということか...そういえば、魔力の剣とかも作っていたか。魔力を消費してしまうとはいえ、武器を生成されるのは少し困る。

 

しかも、さっき減速を解除した時に魔力を全快まで回復されてしまっただろうから全て最初からもう一度やり直しだ。魔力切れを狙う戦法はなんとかして加速を封じなければ実現不可能だということが分かったのは前進だが、同時に魔王の討伐が恐ろしく困難だという事実も叩きつけられてしまった。

 

「……うむ、この身体気に入ったぞ。減速で肉体の老化を止めてしまえば永遠に朽ちることもないしな。貴様を殺した後は、さらに深くまで魂に侵食し、楔とやらを引き抜いて加減速も魔法も全て使用可能にしてしまおう」

 

「いい言葉を教えてあげようか。取らぬ狸の皮算用...ってね!」

 

ニアの魔力を使い閃光を放つ。しかも追尾性。魔王は減速で止めるしか無いはずだ。

 

「その言葉なら知っている」

 

魔王は...動かない⁉︎

 

「既に世界は取っているのでな。その言葉は余には当てはまらん」

 

……なるほど。高密度で編まれた魔力は物質と同じ性質を表す。カリヤの魔力操作技術とその性質を使って魔力の盾を生み出し、閃光を真っ向から受け止めたのか...

 

古代の魔法しか使うことのできない魔王にとって、汎用性がある魔力操作はとても扱いやすいことだろう。だから魔力消費量が多少多くともお構いなしに使ってくる。

 

だからこそ、カリヤから託されたこれが役に立つ。けど、それを使うタイミングは今じゃない。もっと多くの魔力を使って魔王が何かを作ったその時、これは最大の効力を発揮するはずだ。

 

だが、カリヤから託されたものはこれだけじゃない。もっと多くのものを託されている。

 

最後の最後に、魔王に乗っ取られそうになりながらも託してくれたんだ...使ってやらないでどうする!

 

「その驕り、僕が叩き切ってやる」

 

そう言いながら僕は次元収納の中からあるものを取り出した。

 

「『古代道具(アンティークギア) 起動(ブート)』!」

 

魔道具が僕の中に入ってくる。本来ならカリヤにしか使えないが、ニアの魔法の力を使って無理矢理接続する。カリヤの溜め込んできたもの全てが内包されている次元収納に繋がり、中から一本の刀を取り出す。

 

「ほう...それは余の物だ。返してもらおう」

 

「いいや、これはカリヤの物だ。その身体ごと返却させてもらうよ」

 

聖剣を腰に携え、僕は刀を握る。

 

戦っているのは僕だけじゃない。ステラだってニアだってクミリアだってレストだって、そしてカリヤだって力を貸してくれている。

 

たったの一人である魔王なんかに、負ける道理はない。




魔王の強さを表現しきれねぇ...ってか魔王よりもカリヤの速度操作が強いみたいになっちゃうし塩梅が難しい...

再生されたとはいえもう一度光速で攻撃したら余裕で勝てるだろうに、なんで魔王はやらないんだと思われる人もいるかもしれませんが、一応理由があるのでご都合主義ではないです、ええ全く。
……辻褄合わせが大変だった...
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