前世の俺がすでに転生特典決めてました   作:ダイヤモンドリリー

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8008字。

ついにカリヤ復活...?


目覚め、戦い、生き残るは何人?

二度の電流。そして、聞き覚えのある声。

 

それらのおかげで、ようやく僕の意識が表に出てくる。

 

……喋れない。それどころか、何も見えないし聞こえない。というかこの感覚...腕?

 

俺、もしかして左腕になってる?左腕しか制御権を奪えていないのか...?

 

仕方ない。なんとか出来ることを考えよう。まず、雷装は発動できるはずだ。これは頭の中で唱えるだけでできる...頭はないんだけどな。意識さえすれば発動できるだろう。他の魔法は速度操作を使われているから無理だ。無心の弓も視塞空体も、左腕一本では発動のしようがない。

 

なんとかして速度操作の制御を取り戻したいところだけど、それは流石に難しそうだ。もう少し魔王の力が弱まっていたならいけるけど、今はまだ無理だ。タイミングを見計らって特攻しよう。

 

あとできることは...左腕を動かして喉を掴むとかか?どこの夏○だよ...他に何かないのか?というか、ライトとコンタクトを取りたい。それさえできれば、手っ取り早く終わらせられるのに...!

 

……あるかもしれない。アレに...翻訳の石に触れることさえできれば、ライトに声を届かせることができるかもしれない。

 

あの石はどんな言葉でも翻訳できる。送られてきた思考を翻訳することもできるし、記憶を別の言語に翻訳することもできる。同音異義語や砕けたニュアンスがあったとしても、俺が伝えたいと思った通りに翻訳してくれる。

 

ということはつまり、俺の意思を汲み取って翻訳し、相手に届かせられるということになるはず。もしかしたら、声に出さずともライトに俺の意思を伝えることができるのでは...?

 

出来るかはわからないが、やってみるしかない。右肩に包帯で巻き付けてある翻訳の石に触れ、ライトに指示を届ける。この場において最善の選択を取らせる。たとえ、その選択が死を伴うものだとしても。この世界を救うには、こうする他ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カリヤの姿をした者は、肩で息をしながら左腕を押さえていた。出来る策は全てやった。あとは、ライトが起きることを祈るのみ。

 

魔王とカリヤ、はたしてどちらが表に出てくるのか...

 

「なんの...」

 

体内の魔素が活性化した。魔王が口を開き、目をカッと開いてこちらを見てくる。

 

「これしき!」

 

そして魔王は世界全てを止めると、そのままこちらに向かって走り出してくる。

 

「った、失敗したか...!」

 

魔王の放つ右ストレートを、聖剣の鞘で受け止める。その瞬間、僕の身体を異常なほどに駆け巡っている雷装が、聖剣を通じて魔王に流れ込む。

 

「グゥッ...!」

 

「魔力もらうぞ!」

 

魔王が痺れている間に腕輪を掴み、魔王の脚に近づける。

 

「させん!」

 

だが、魔王は腕輪が触れる直前に脚を消し去ってしまった。腕輪は空を切り、脚の消滅によって自然落下した魔王が僕の目の前に来て、左手を伸ばし僕の目を潰そうとしてくる。

 

……が、突如として左手が魔王の右肩を掴んだ。

 

「な、なに...⁉︎」

 

魔王はたいそう驚いていた。まるで、魔王自分の意思と反して勝手に左手が動いたかのようだった。僕は何が起こるかわからないので後退し、様子を伺う。

 

独りでに動くその左手は、ガッと爪を立てて自らの服の一部を破り取ると、その奥にある包帯を引っ張り、縛り付けられていた小石を掴み取って握りしめた。

 

『ライトォッ!!』

 

その瞬間、僕の頭に声が流れ込んできた。聞き間違えるはずもない声。そして、魔王が話した時のような邪に満ちた声とは違う、紛れもない本人の声だった。

 

「その声は...カリヤ⁉︎」

 

意識を取り戻したのか⁉︎いやでも、表に出ているのは魔王だ。ほんの少ししか出てこれていないのか、それとも魔王が魔法を使って僕に幻聴を聴こえさせ、惑わそうとしているのか...?

 

『色々あって説明を省くが今俺は左腕しか制御できない!そして石を使って声を届かすことはできるが聞くことはできん!だから一方的に伝えるぞ!』

 

なるほど、左腕が勝手に動いたのはそのためか...ならこれは本当にカリヤなのか!

 

()()()()()()()()!!俺も全力でサポートしてやる!!』

 

「……は?」

 

なんで、カリヤがそんなことを...!

 

「命を諦めるなカリヤ!!僕は絶対に救うからな!!」

 

何が俺ごと殺せ、だ!ふざけるな!そんなこと、俺が許すわけないだろ!

 

「貴様...なにと話して...くっ!」

 

伸ばされた僕の手を魔王は身を捩って回避し、そのまま魔力を噴射し地面を叩くことで僕から離れた。

 

『……まぁどうせライトはふざけるなとか言ってるんだろうが...こっちこそふざけるな、だ!世界の危機だぞ!異世界から来た俺なんてほっぽり出してサッサと世界を救やがれ!!」

 

「そんなこと出来るわけないだろ!大切な仲間を手にかけるなんて出来ない!それはカリヤだってそうだろう⁉︎」

 

何を言ってもカリヤには届かないとわかっているのに、叫んでしまう。もはや、魔王は蚊帳の外だった。

 

『ライトならこんな奴を殺す機会なんていくらでもあったはずだ!なのに今も死んでいないのは俺の身を案じたからだろ!魔王も俺を殺せないとわかっているから余裕があるんだ!逆に言えば、俺を殺す気で攻撃すれば魔王も殺せるんだよ!』

 

「それ、でも...!」

 

『サッサとやれライト!!勇者が!!この世界を救わなくてどうする!!』

 

「それでも!!僕は世界も仲間も両方救う!!それが勇者だ!!」

 

あの時、魔王を倒して僕の命も救ったのはカリヤだ。今度は僕がする番。今度こそ勇者として、魔王を倒して世界を救いカリヤも救ってみせる!

 

「だから魔王!早く消え去れ!!」

 

魔王に近づき、雷装を纏った手を伸ばす。カリヤの身体を出来るだけ傷つけずに攻撃するならこれしか無い。ひたすら雷装を流し込んで魔王を弱らせ、カリヤに主導権を握らせて魔王を倒す。カリヤも助けるならそれしかない!

 

「消えるのは貴様の方だ!...なっ⁉︎」

 

「左腕が疎かだよ!」

 

魔王は左腕を制御できない。魔王は僕の手を回避したが、左腕は逆に僕の方に手を伸ばしてきていた。それに触れ、雷装を流し込む。

 

『……あれだけ言ったというのに、返事はこれか。仕方ない...あとはなるようになれだ。魔王を殺す結末は変わらない。しっかりサポートしてやるから、せいぜい俺が生きる未来を掴み取るんだな!』

 

カリヤの左腕から手を離すと、左腕は翻訳の石を握りしめた拳をそのまま自らの頭に叩き込んだ。

 

「何してんのカリヤぁっ⁉︎」

 

「まさか、この腕は...!」

 

『まだまだ行くぞ!』

 

カリヤがそう言うと、左腕に雷装が纏わりつく。そして雷装は左腕だけで止まることはなく、肩を通して胴体へと流れ込もうとする。

 

「神の使い!貴様は大人しく眠って居れば良いのだ!沈黙せい!」

 

魔王は右手から魔力の短剣を生み出すと、それを自らの左脇の辺りに滑らせて切り裂く。血が噴き出し、だらんと腕が力なく垂れ下がる。

 

『神経と腱を切られたか...!だが、それなら択はある!』

 

垂れ下がった左腕が急に動き出し、胸に手を押し当てる。そして、大量の雷装が流された。

 

『筋肉を雷装で動かせばいい!腱を切られようが問題ない!』

 

「ぐっ...!なぜ此奴は動けるのだ...!」

 

魔王はそう呟くと、左脇から吹き出した血が細い針のようになり左腕を貫こうと殺到する。

 

「させない!」

 

血の針をその空間ごと凍り付かせ、雷装を纏った蹴りを叩き込んで砕く。そしてさっきカリヤが拳を叩き込んだ頭に触れて雷装を流し込む。

 

「ぐ、ぬぅ...!!」

 

『このまま攻めるぞ!...あぐっ⁉︎』

 

急にカリヤの左腕が凍りつき始めた。魔王は雷装を流し込まれながらもニヤリと笑い、右の拳を凍った左腕に叩き込もうとした。

 

「クソっ、そういうことか...!」

 

僕は急いでカイの熱操作を解除した。即座に凍った左腕は元に戻り、右拳が命中したものの特に何も起こらなかった。

 

急にカリヤの左腕が凍ったのは、おそらく魔王がその箇所だけ体温の維持をやめたからだろう。加速を解除するだけで左腕は凍りつき、簡単に破壊できるようになる。そしてそれを回避するには熱操作を解除する他ない。

 

長い間体温の維持に使うしかなかった減速中唯一の加速枠が解放される。いったい何に使ってくるんだ...?

 

「……そこか!」

 

魔王が急に振り向いた。そこには遥か彼方から戻ってきた追尾性の魔法があった。僕自身も忘れかけていたあの魔法に気づけたということは、速度探知の精度が上がっていることを意味する。つまり、加速させているのは思考速度だ。

 

『あ゛っ゛!グウ゛ゥ...!』

 

魔王は胴体を動かすことで、制御下にない左腕を振り回して飛んできた魔法にぶつけた。左腕は大きく傷つき、悲痛な声が僕の頭に流れ込んでくる。カリヤは周囲の様子を何一つ知ることができない。唯一感じ取れるのは左腕の触覚のみ。カリヤからしたら、突然激痛が走って何が起こったのかは分からずじまいだろう。

 

『魔王の攻撃か...?だが、魔王が使った魔法なら俺も使える!』

 

傷ついた左腕が再生していく。魔王が使った魔法はカリヤの身体に全て刻み込まれている。詠唱が分からずとも、スキルで発動させれば再生は使えるのだ。

 

「くっ...言うことを聞かん腕など、こうしてくれるわ!」

 

魔力の短剣を手にした魔王は、再生し切った左腕に狙いをつけると、そのまま肩のあたりから丸ごと切り落としてしまった。

 

「か、カリヤ!!」

 

ゴトっと左腕が地面に落ちる。大量の血飛沫が切断面から溢れ出すが、出血はすぐに止まった。減速を使って無理矢理止血をしたのだろう。カリヤの体が死ぬことはない。だが、カリヤの意識は腕ごと外に放り出されてしまった。

 

「結果オーライ、といったところか。全くの偶然だが、ようやく神の使いの意識を追い出すことができた。感謝するぞ勇者よ」

 

「そんな感謝いらない!!」

 

僕は急いで落ちた左腕を拾いに行く。拾って魔法でカリヤの身体と繋げてしまえば何も問題ないはずだ。まずはカリヤの意識を戻すことが最優先...!

 

「……んなっ⁉︎」

 

腕を拾おうとした、その瞬間だった。腕が消滅したのだ。魔王がどこかへ消し去ってしまったのかと思ったが、どうやら違うようだ。魔王も目を白黒させていた。

 

「腕は...どこに...?」

 

そう呟いた次の瞬間、魔王の左肩の断面から肉が溢れ出し、左腕が再形成された。

 

何が起きたのかわからないが、僕は腕が落ちていた場所に残されていた翻訳の石を拾い上げ、手を広げて待ち構えている左腕に向かって投げつけた。その手がガッと石を掴み取ると、僕の頭にまた声が響いてきた。

 

『知らなかったか?神の使いの左腕は落とされても再生すんだぜ?』

 

そういえば、前にカリヤがそんなことを言っていたかもしれない。神の使いの能力は左腕の紋章に宿っており、そこを切り落とされると二秒間だけ能力が使えなくなる。だが、二秒後には驚異的な再生力で左腕と紋章が復活し、再度能力の行使が可能になる。カリヤの能力は魂に宿っているものだけれど、紋章自体は左腕にある。今までは魔王がすぐさま再生させていたからわからなかったが、カリヤの左腕もちゃんと神の使いと同じように再生するらしい。

 

『そして...返してもらったぞ速度操作!一部だけだけどな!!』

 

カリヤがそう叫ぶと、世界は一変した。止まっていた世界中の魔素が動き出したのだ。それなのに、魔王の魔力は回復していないように見える。

 

魂の宿る場所はおおよそ心臓の辺り。左腕からはとても近い。おそらく、左腕の再生のどさくさに紛れて魂に触れ、速度操作の権限を一部取り返したのだろう。そして、魔素の減速を解除して魔王の魔力回復速度を減速させたのだ。

 

「ありがとうカリヤ。あとは...僕が決める!」

 

魔素が動き出したということは、聖剣の力をフルに使えるようになったということだ。聖域展開も聖剣展開も聖杖も本来の力を取り戻す。聖素を止めてくれれば雷霆も使えたのだが、それは流石に高望みしすぎか。聖剣を使えるだけで十分だ。

 

「貴様ら...!揃いも揃ってどこまで余の邪魔をすれば気が済むのだ!!」

 

「『お前を殺すまでだ!!』」

 

カリヤと声がシンクロする。二人して目指す結末は同じ。最高の結末を得るために、魔王に向かって走り出す。

 

魔王が魔法を使って僕を止めようとするが、魔法は放たれた瞬間に動きを止める。不運を使い地面を滑らせて僕を転ばせようとするも、地面そのものが止まり、かえってグリップ力が増して地面に力が伝わり加速する。

 

速度操作を手にしたカリヤがサポートしてくれているのだ。位置の探知も音の探知もお手のもの。魔王なんかに好き勝手に使われてなるものかと言わんばかりに速度を操作し、最高のサポートをしてくれている。

 

僕も最高の攻撃をもって答えなければ。

 

「『聖域展開』!!」

 

魔王の目の前で静止し、地面に聖剣を突き刺す。周囲の魔素が全て反転し、魔王の力を奪う。

 

「そんなもので余が消滅するとでも思っているのか...!」

 

「無理だろうね!たとえ弱体化前の聖剣だとしても、人体の内側にある魔素を反転させることはできない!」

 

それがわかっているのに、わざわざ聖域展開を選んだのは...

 

「それでも!弱体化は受けてもらう!」

 

反転はせずとも、魔王の力は確かに弱まるはず。そして、魔王の力が弱まればそれだけ、カリヤも動きやすくなるはず...!

 

「貴様ら...もういい。この身体は切り捨てることにしよう」

 

魔王は魔力の短剣を右手に生み出し、自らの首筋にあてがった。

 

「これ以上抵抗するなら、此奴の肉体を殺す。それが嫌ならば、武装解除することだ」

 

「人質...!」

 

『おいおい、魔王が人質取るとかプライドねぇのかよ...』

 

「そんなこと言ってる場合か!カリヤの身体だぞ!」

 

『んなこと言っても、俺は既に覚悟してたからな...別に構わない。それよりも魔王を殺すことを優先しろ』

 

「でも...!」

 

「お喋りはそこまでにしてもらおうか。此奴の命と、俺の命。貴様の天秤はどちらに傾く?」

 

「……それは...もちろん、カリヤの命だ」

 

僕は聖剣を地面から引き抜き、聖域展開を解除する。

 

『ちょっ、ライト本気か⁉︎』

 

「本気だよ。だって、魔王がカリヤの身体を捨てたところで、必ず僕が勝てるわけじゃないんだ。魔王本体が飛び出してきて、戦闘継続になるに決まっている。どうせ続くのなら、僕はカリヤも同時に救う選択を探し続けるよ」

 

『っ!...そうか、俺、失念していたよ』

 

カリヤの意思が流れ込んでくる。

 

『俺ごと殺せとは言ったが、それは俺を殺せたら魔王も同時に死ぬと思い込んでいたからだ。俺が死んだところで、魔王が身体から抜け出して戦闘継続...そんなこと考えてなかった。完全に死に損じゃないか』

 

「ああそうだ。だから、カリヤを殺す選択肢はない」

 

『そうだとわかってたなら先に言ってくれればよかったのにな...俺も協力する。だから世界だけじゃなくて俺のこともしっかり救ってくれよ?』

 

「最初からそのつもりだ!」

 

地面を蹴り、魔王に近づく。カリヤの命を助けたいなら武装解除しろと言われたけど、流石にそこまではしてやれないな。

 

「言動不一致...残念だ」

 

魔王は短剣を動かして首を切り裂こうとする。だけど...

 

「カリヤなら止められるよな!」

 

『当然だ!』

 

カリヤの操る左手が魔王の右手を掴み、首への攻撃を一瞬止める。その間に近づいた僕は、腕輪を短剣に当てて魔力を吸収する。

 

「カリヤ!あと魔力どれくらい⁉︎」

 

『もうそろそろ魔力切れするよ。速度操作だけ使っても、あと数分も持たないはずだ。けど、それはライトもじゃないか?』

 

それは...そうだ。隷属の印でだいぶ魔力を節約してきたけれど、隷属の印の接続の時点でそれなりに魔力は使ってしまう。しかも略奪魔法で奪った再生魔法は僕自身の魔力で発動させていたのもあってかなり減ってしまっている。雷装もずっと使っているしな。腹を突き破られたときに血と一緒に魔力を失っていたりもしたし、魔力回復も最小限しかできていないから魔力はだいぶ底をつきかけていた。

 

お互いにほぼ限界の状況だ。どちらの魔力が先に切れるかの勝負になってしまいそうだ。

 

『そろそろ決着つけるぞライト。聖杖を使え』

 

「当てられるとは思えないぞ」

 

『俺が当てさせる。流石に止まっている相手になら当てられるだろう?』

 

止めるって...完全に速度操作の制御を奪えたわけでも無いのにどうやって...そう思ったが、カリヤは思いもよらない方法で魔王の動きを封じた。

 

「此奴!脚を...!」

 

カリヤは雷装魔力を操って脚を生み出して無理矢理魔王の体を持ち上げたのだ。魔王は動こうとしても雷装魔力を脚を動かすことができず歩くことができない。無理矢理地面に倒れ込んで転がろうとしても、すぐさま雷装魔力が全身の筋肉を刺激して体勢を元に戻させる。魔王の身動きを一切許しはしない。

 

『ほーら、縫いとめたぜ。魔力ギリだからさっさとやっちまいな』

 

「わかった。今すぐ終わらせる」

 

聖剣を腰の高さで構える。そして、必ず魔王を仕留められるように、詠唱は口頭で行い、最高の一撃を叩き込む準備をする。

 

「世界を分かち 魔を滅する剣 されど本質は光 聖剣は剣にあらず 光の奔流 魔を反転し浄化す 名もなき杖よ その姿を今取り戻せ!『聖杖』!!」

 

聖杖が発動し、聖素変換装置が周囲の魔素を取り込んで聖素を生み出す。もういつでも発射できるけど...カリヤがやったように、無理矢理発射を抑えて聖素を溜め続ける。僕の場合は減速ではなく魔力を使って無理矢理封じ込める形で聖素をためていく。この一撃が決まるかどうかで勝負は決まるのだ。魔力の温存なんてしている暇があったら全てつぎ込んでやる。

 

「……貴様がそれをするというならば、こちらにも考えがある」

 

身動きできないはずなのに、まだ何かしようというのか。いったい何をしてくる...?

 

『こうなったら、身体を捨てて回避してやろう。必殺技を撃った直後の、勇者の力が弱まっている状態ならば寄生も容易いだろう...だってさ』

 

魔王の思考を覗き見たカリヤからの密告が来た。僕の身体を乗っ取る算段か...それなら!

 

「これで...終わりだ!!」

 

光の奔流が放たれた。圧倒的な物量の聖素が、魔王を襲う。

 

魔王が、光に包み込まれた...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、光に飲み込まれる数瞬前、僕の目は確かにそれを捉えていた。

 

カリヤの身体、その首筋がバシュッと裂け、鮮血が飛び出した。それと同時に、黒いモヤのようなものも飛び出していた。モヤは一部分も光の奔流に触れることなく、完全に逃れていた。

 

「ふ、ふふ...!フハハハハッ!!!」

 

黒いモヤ...魔王は笑っていた。

 

「これで貴様らの命運は尽きた!余の勝利だ!」

 

そんな声を出しながら、魔王は僕の中へと入ろうとした。

 

しかし、魔王は動きを止めた。とあることに気付いたからだ。

 

「まさか、同じ手に引っ掛かってくれるだなんてね」

 

「また...幻覚⁉︎」

 

僕は、聖杖を放っていなかった。最初に僕がやったのと同じ。幻覚魔法で聖杖を放ったように見せかけていたのだ。

 

「クソが...!」

 

魔王はカリヤの身体に戻ろうとする。加速して聖杖を避けようという魂胆だろう。

 

けれど、それはカリヤが許さない。

 

「ようやく出て行きやがったなこの野郎...!遅すぎんだよ!」

 

魔王の身体が完璧に静止する。魔王が身体から抜けたことで完全に速度操作の制御を取り戻したカリヤが、首からの出血を止めながら魔王の動きも止めたのだ。

 

「さぁやっちまえライト!もう魔力が持たん!」

 

「わかってる...これで!本当の最後だ!!」

 

無理矢理聖素を堰き止めていた魔力を消滅させ、僕は流れに身を任せたまま腕を振り抜き、聖杖を放った。

 

その瞬間だった。魔王が動き出した。いや、魔王だけじゃ無い。世界の全てが動き出したのだ。

 

カリヤの魔力切れ。首からの出血が再開し、地面に倒れ込むカリヤの姿が見えた。

 

だが、結末は変わらない。

 

眩い光の奔流が、魔王の黒いモヤを飲み込んだ。




ようやく...ようやく全てが終わります。
次回、最終回。
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