前世の俺がすでに転生特典決めてました 作:ダイヤモンドリリー
お久しぶりです。
この二週間ほどでできた新しいストックの数...2。
勉強だったりソシャゲのイベントなりが重なって書く時間が削れに削れたせいっすね。
ちなみに、この話書いたのが三週間近く前のことなんで内容ほとんど忘れかけてます。
ただ一つ言えるのは、今回戦闘少なめってことです。
「じゃあ行くぞ。全員戦闘態勢!」
ムカデたちが拘束から逃れ、俺たちに襲い掛からんと動き出す。
「バフ行きます!」
その声を聞き届け、俺はすぐに走り出す。
「『威力増大』『頑健』『俊敏』『耐毒』!」
「チュチュさんには『貫穿』に『追尾』!それと『増殖』!」
フレアとミレアが俺たちにそれぞれバフをかけていく。俺は俊敏によって得た速度を能力で上乗せし、雷装なしで秒速40メートルに達する。そして手始めに一番近くにいたムカデの足を切り飛ばす。紫の血が噴き出し、その一部が俺の皮膚に触れる。しかし、毒は体の中には入ってこない。耐毒の魔法のおかげだろう。
「フレアちゃん!カリヤには頑健いらない!別のつけてあげて!」
チュチュが矢を撃ちながらフレアに言う。頑健はおそらく防御力アップ系の魔法だ。攻撃は全て避けるので、防御力はいらない。
「なら...火はダメだから...これだ!『頑健』解除!そして『氷結付与』!」
俺の体から何かが外れると同時に、ダガーに冷気がまとわりつく。
「これ...!ナイスだフレア!」
ぐっと地面を踏み締め、一気に方向転換してムカデの胴体をダガーで斬り裂く。その瞬間、傷口が凍り出す。
「氷装キタコレ!」
ついにダガーで氷装を使えるようになった。嬉しい誤算だ。この戦いが終わったら盾でもできるようにしてもらおう...もう戦い終わった後の話を考えてるな俺。仲間が来て心に余裕ができたのだろうか。油断だけはしないようにしよう。
「チュチュ!氷だ!氷装を使え!」
ムカデを斬り刻みながら叫ぶ。
「あいよ!『氷装・矢』!『三の矢』!」
チュチュは三本の矢を取り出して弓につがえ、氷装を発動して発射する。前と斜めに一本ずつ矢が飛んでいくが、このままだと前に真っ直ぐ飛んだ一本しか当たらない。しかし、それは通常時の場合。そんなこと、チュチュもわかっている。
氷の矢が、突然軌道を変えてムカデたちに殺到する。三本だった矢はいつのまにか九本に増えており、深々とムカデに突き刺さってその肉体を凍らせる。
ミレアの追尾のおかげだ。追尾があったからこそ普段使う機会のない三本の矢を使えたし、貫穿や増殖のおかげで威力も増した。俺たちのパーティーにはいなかったバッファーがいるおかげで、俺とチュチュだけでも十分に、いやそれ以上に戦えていた。
「悪い一体そっち行った!」
比較的他の個体より小さいムカデが二体、俺の視界外から回り込み、矢の雨をくぐり抜けてチュチュたちのもとに走っていく。
「『過重』!」
「『渦潮』!」
しかし、接近を許すわけがない。フレアが重力で一体を押さえ込み、ミレアがもう一体を渦潮を作り出して閉じ込める。
「カリヤ!」
「了解!『雷装・矢』!そして土よ、流動しその形を変えよ!」
渦潮の方に電気の矢を撃ち込み、重力の方には、頭上の土を一瞬流動化させて大きな氷柱のような形に圧縮し、解除することで土の針を落下させる。重力による加速も相まって土の針はムカデの頭を貫き、絶命させる。
「おっと危ない危ない」
意識をチュチュたちの方に集中させていたため気づかなかったが、背後からムカデが迫ってきていた。
『雷装』
俺はわざと避けずにムカデに触れ、超高圧電流を流し込む。ムカデの体がバチンッと一度大きく跳ねたのち、痙攣したように体をビクビクと振るわせる。
「直接流す方が間接的に流すよりも威力が高いのか...」
考えながら、右から吐かれたムカデの唾を首を傾けて避ける。毒は効かないとはいえ、唾には当たりたくない。普通にばっちいし。
「お前も痺れなァ!」
右にいるムカデの方にジャンプし、そのままの勢いで空中回し蹴りを直撃させる。秒速60メートルの速さと雷装、威力増大のバフにより強化された蹴りは、ムカデを軽々と吹き飛ばし壁に激突させる。壁一面に紫色のシミが出来上がる。
「ちょっ、カリヤそれやめて怖い!崩れるって!」
巣穴が崩れるのを怖がったチュチュが叫ぶ。さっきのムカデの壁への激突で、天井の土がポロポロ落ちてきたのだ。怖がるのも無理はない。
「そんなもん今更だろ!もう二回も天井土流で崩してんだぞ!」
「だからって何度もやらないでね!絶対だよ!」
「崩れそうになったら私たちが防ぎますから!」
「け、喧嘩はダメ...!」
「そうだぞチュチュ。それに今戦闘中だぞ?戦いに集中しろ」
「理不尽!」
軽口を叩いている間も、戦いは続く。軽口を叩けるぐらいの余裕が出てきている、というのはいい状況だ。残るムカデは、今のところあと三体。実は倒し切れていなかったとか、追加で新手がやってくるとかいったことがなければ、おそらく一分以内に終わるだろう。
「『氷装・矢』!『三本の矢』!」
九発の矢が飛び出し、ムカデのうち一体の足や口、目に突き刺さっていく。
「もうそいつ何もできない!残りの二体をお願い!」
「あいよ!」
残り二体は俺の位置から少し遠いが、秒速60メートルで動ける俺にとってこの程度の距離はあってないようなものだ。一瞬でムカデのもとにたどり着き、胴体をスパンと斬り飛ばす。
「もう一体!」
『投擲』
ダガーをムカデに向かって投擲する。しかし、その軌道が急に逸れる。今さっき俺が斬り飛ばしたムカデがまだ生きており、唾を吐いてダガーに当て軌道を変えたのだ。
「『軌道変更』!」
軌道が逸れたダガーが再度その軌道を変え、ムカデの胴体に突き刺さる。
「死んでなかったのかお前...!」
高圧電流をムカデに流し込み、確実にその命を絶つ。
「武器は鞭だけ...フレア!付与を頼む!」
「わかった!『氷結付与』!」
鞭に冷気がまとわりつく。ムカデに近づき、ヒュンッと鞭を振るう。音速以上の速さで鞭の先端が動き、軌道上の水分が凍りつく。凍りついた水分は鞭の先端にくっついていき、ムカデに命中するまでの間に大きな塊となって強力な打撃を与える。
「チッ、やっぱ打撃じゃ厳しいか」
ダガーはムカデに突き刺さっていて手元にない。暴れているから引き抜くのも難しいだろう。矢も撃ち切っているため持っていない。
「ならこうするだけ!」
凍りついた部分に思い切り蹴りを叩き込み、高圧電流を流し込む。
「ふぅ、やっぱり物理は全てを解決する...」
「変なこと言ってないでそいつ締めちゃってー」
「り」
チュチュが無力化したムカデに高圧電流を流して殺す。
「やっと倒し切れたー...」
雷装を解除する。スタミナはあと20秒で切れるくらいのギリギリだったが、なんとか持ってくれた。
「新手は...来てないみたいだね」
「一応あれやっておこうか、ミレア」
「だね、フレア」
フレアとミレアが互いの持つ杖を重ね合わせる。
「「『魔物検知』」」
目を閉じた二人がそう言うと、杖の一部が光り出す。よく見るとそこには魔法陣のようなものが彫り込まれており、二つの杖を合わせることで一つの印を結んでいた。
「勘合貿易みたいだな...」
おそらく、二人でないと発動できないような強力な魔法なのだろう。魔物を検知する魔法が一人で簡単に使えるんだったら、俺が今まであった人が誰も使っていないのは不自然だからな。それに、かなりの魔力を食いそうだ。
「うわっ、何だこれ」
しばらくすると、光の球のようなものが辺りから三個現れる。その光の球は二人の前まで移動すると、そのま弾ける。
「周囲300メートルに魔物は三体」
「そのうち二体はあっちの方にいるけど、一切動いてない。多分寝てる」
二人が報告をしていく。
「残りの一体はあれ。微かだけどまだ息がある」
フレアが指差したのは、一番最初にチュチュが凍らせたムカデだ。本当によく見ると、凍っていない部分の体がピクピクと動いていた。
「ありゃ、死んでなかったのか」
「そういえば確かに凍らせただけで何もしてなかったな」
「でもほんとに虫の息だよ。ほっといてもちょっとしたら死ぬと思う」
「まぁ万が一ってこともあるし...ちょっと待ってろ」
ダガーを回収し、生き残ったムカデのもとに歩く。
「さーて。どう調理しようかなー」
「あっ、少し待ってくださいカリヤさん!耐毒の効果が切れます。やるならかけ直してからに...」
「あー...ならコイツ使わなくてもいっか。フレア、耐毒使わなくていいよ」
「え?やっぱり放置するんですか?」
「いや、こうする」
ムカデを能力の効果範囲内に入れる。
「こうするっていっても何が起こったかはわからないだろうけどね」
能力を発動し、俺はとある速度を操作した。10秒ほど経つと、わずかに動いていたムカデが止まる。
「…何が起こったの?」
「生き物なら全てのものが一律に死に向かって歩みをすすめている。不死じゃなきゃ寿命はある」
「それがなんなの?」
「つまり、だ。死に向かう速度を加速させた」
「……えっ」
三人が、ヤバいものを見る目で俺のことを見る。
「………悪い、冗談だ。驚かせて悪かった、ごめん」
「えっ?」
今度はポカンとした目でこちらを見る三人。
「流石にそんな寿命が減る速度を加速させるだなんてことできるわけないじゃないか...今は」
「今は⁉︎『今は』って言ったね今!」
「うん、言ったね。今は能力が未熟だから出来ないけど、例えば老化する速度を加速させることができれば一瞬で老いて死ぬことになるだろうし、代謝の速度を加速させられればすぐにエネルギー不足になって衰弱死することになる。減速させればその逆もできると思う」
今の俺では、全ての速度を弄れるわけじゃない。光のように、速すぎて操作する前に能力範囲外に出てしまうため弄れないものもあれば、細かすぎたり概念だったりして能力の制限に引っかかり弄れないものもある。前世の俺は、能力で操作できるものにも制限を加えていたようだ。
「それって若返れたりするってこと?」
「若返りは無理だな。速度はマイナスにはできない。ゼロにはできるから老化を完全に止めることはできるとは思う。代謝の方も、ゼロにすれば飲まず食わずで過ごせるようになると思うよ。多分だけど、能力解除直後に死ぬことになりそうだけどね」
速度がゼロになった。けれど、動いている以上エネルギーは消費していないとおかしい。おそらく、能力を解除した瞬間帳尻合わせをするためにエネルギーを消耗する羽目になる。どこぞの固有○制御みたいに反動を受けるはずだ。
「…ならどうやってムカデの息の根を止めたんですか?」
少し考え込んだのち、フレアが質問してくる。
「ん?ああ、それはね。体温が下がる速度を上げたんだよ。あのムカデが死にかけてたのだって、多分氷の矢を喰らったことによる低体温だ。加速させればさらに体温は下がり、じきに死ぬ」
「あぁ、なるほど...」
「もし血が出てたなら、出血を加速させて殺してたんだけどね」
血の流れる速度は今の俺でも操作できる。魔素の流出速度を加速させた時のように、出血速度を加速させて一気に出血させることもできるのだ。遅くすれば細胞を壊死させることもできると考えると、やっぱりこの能力強くね?と思った。前世の俺が制限をかけていなければ、なにもかもが一瞬で終わっていただろう。マジでGJ。
「ってか、話をするなら外に出ないか?近くにいないのはわかったけど、いつまた襲われるかわからないだろ?」
「だねー。戻ろっか」
「ちょっと待ってて、ロングソード回収してくるから...よし行こう」
ロングソードを回収し、巣穴の出口に向かう。
「あっ、そうだ。フレア、この盾に氷結付与してくれない?」
「どうしてですか?」
「氷装のスキルが欲しい」
「断ってもいいんだよ?」
「なんでお前が言うんだよチュチュ」
「良いですよ」
「ほら、フレアもこう言ってるしさ」
フレアが氷結付与を盾にかけてくれる。
「助かる」
そんなことをしながら歩いていると、青い髪をポニーテールにまとめた女性が向こうから歩いてくる。まだ一回も分かれ道に出ていないので、行き先はさっきまで俺たちがいた方だろう。
「ちょっと君たち、いいかな?」
その女性が話しかけてくる。
「なんですか?」
「この先って探索済みかい?」
「いえ、まだ奥の方は未探索です...だよな?」
一応フレアとミレアに確認を取る。
「そうです。あそこで襲われたので、それより先には行ってません」
「だそうだ」
「やっぱりね。あの石を置いてないからそうだと思ってたよ」
そっか、爆破用の魔石を置いてないってことは、未探索箇所があるってことになるのか。
「教えてくれてありがとう。では」
女性は一人で奥に向かって歩いて行く。
「…一人?」
おかしい。本来なら三人以上のパーティーで巣穴に入ることになっているはずだ。一人で行くなんて自殺行為。一瞬見ただけだが武器も持っていないみたいだったし、本当に死にに行っているようにしか思えない。
「ち、ちょっと待ってください!なんで一人で来てるんですか!」
「あっ、たしかにそうじゃん!危険ですよ!」
チュチュも気づいたのか、女性に声をかける。
「ん?ああ、大丈夫大丈夫」
そう言って女性は手を振ると、すぐに歩き出す。
「待てって!なんで一人なんですか?」
心配だし、このまま一人で行かせるわけにもいかない。
「一人の理由?そんなの仲間がやられちゃっただけだよ。わかった?」
「なら別のパーティーについて行けばいいだけじゃないですか。一人でいる理由にはならない」
「いいんだよ。それに私、こう見えて結構強いんだよ?気にせずに行った行った」
「いや、でも!」
「あなたと私は何も関係ないでしょう?わざわざ踏み入らなくていいこともあるのさ」
「関係なくたって心配ぐらいしてもいいだろ。一人で行くなんて死にに行くようなもんだ」
「さっきまで一人で戦ってた人のセリフとは思えないねぇ...カリヤ?」
「うるさいちょっと黙っとけ」
確かにチュチュの言うことは的を得ているけど、とりあえず棚に上げる。
「人の心配するなんて結構なお人好しなんだね、君。そういう人好きだよ...嫌いでもあるけど」
「ひとまずここに居てくれ。今から俺たちは一度拠点に行って、準備を済ませてからここに戻る。一緒に動くからそれまで待ってくれ」
「嫌だね。私は先に行くよ」
女性は動こうとする。
「死にに行かせるわけにはいかない...!」
女性の腕を掴みにかかる。この距離なら逃げられても加速で簡単に追いつける。逃げられるはずもない。
そのはずだった。
「じゃあね」
その声を発した瞬間、女性はものすごい速度で駆け出していく。瞬間移動ではない。音速に近い速度で動いたのだ。今、俺が自力で出せる速度は秒速40メートル。追いつけるはずもなかった。
「うわっ⁉︎」
ついでといった感じに、爆音と共に放たれた衝撃波で軽く吹っ飛ばされる俺たち。鞭が起こすソニックブームも、人の大きさで音速の速度で動けば、ものすごいことになる。
「は、速すぎんだろ...」
「なに今の速さ...カリヤよりも何倍も速かったよね?」
「どれだけバフを積んだらこうなるんだろう...」
「詠唱での魔法と一緒に魔法陣を使えばできるかもしれないけど...あんな速度を出すんだったら、服とか靴だけじゃ足りないよ。体に直接彫るくらいはしないとあんな速度出せるわけがない」
「それに、音速に耐える魔法も必要だから...」
「つまり、人間業じゃないってわけだな」
まさかあんなことをできる人がいるだなんてな...加速して動けるの俺だけだと思ってたから、ちょっとビックリだ。
「それで、カリヤはどうするの?」
「どうするって?」
「あんな力を持ってるってわかっても、まだ心配?」
「…ああ」
「それはどうして?あの人が女性だったから?」
「それは違う。強さと性別に関係はないってのは既に知ってるからな」
ステラやチュチュだって普通に強いし、フレアやミレアもバッファーとはいえ自衛手段は持っていた。強さに年齢も性別も関係ない。俺が心配しているのは、別の理由からだ。
「じゃあなんで心配しているの?」
「考えてみろ。あれだけ強い人がいて、どうして仲間だったやつは『やられた』んだ?音速で動けるなら、ムカデにやられる前に助け出すことなんて簡単なはずだ」
「…確かに、ちょっと変かも」
「おそらくだか、あの魔法には制限があるんだと思う。一日に何回しかできないとか、使える秒数に制限があるとか、魔力量的に連発できないとかさ。発動に少し時間がかかるとか、制御が難しいとかも考えられるな」
「それで助けられなかったってこと?」
「多分。まぁ他にもいくつか可能性はあるが...それは拠点に戻ってからだな」
話し合いをやめ、巣穴の外、拠点へと向かう。途中、魔光石付きの杖を持っていたフレアの魔力が尽きかけたが、チュチュが杖を持つことで解決した。速度操作で魔力回復速度を加速しておくのを素で忘れていた。
「うっ、やっぱ太陽光は眩しいな...」
中に入ってからそんなに時間は経っていないはずだが、太陽が異様に眩しく感じる。巣穴の中だと魔光石の光は十分明るく感じたが、やっぱり自然の光は眩しいな。
ってか太陽光とは言ったけど、太陽じゃないんだよなあれ。太陽みたいなただの恒星なんだよな。何なんだろあれ。というかこの世界、宇宙ってあるのか?この世界では空が回ってるって神様も言ってたし、ただの絵が回ってる可能性も...いや待て、何を考えてんだ?今はそういうことを考えてる場合じゃないってのに。
「まずは見舞いに行かないとな。どこにあるんだっけ...っと、探す必要はないみたいだな」
「おーい、カリヤ!」
キースとギブドがやってくる。
「加勢できなくて悪かった」
「いや、問題ない。二人が運ぶのが最適だったし、フレアとミレアもよくやってくれた。それはそうとあの男はどこだ?どこにいる?」
「あそこのテントだ」
キースがテントを指差す。
「「エランさん!」」
フレアとミレアがテントに向かって駆け出す。
「俺たちも行こう。エランとやらの安否も心配だが...もう一つやることがあるしな」
俺たちもテントに入る。目に涙を浮かべた少女たちがベッドで起き上がっていた童顔の男に抱きついているのを横目に見ながら、奥で寝ていた二人の男の方に歩く。
「すいません、ちょっといいですか?」
「…なんだ?」
男二人が起き上がる。
「貴方達のお仲間って、青い髪をポニテにした女性であってますか?」
「アクセルのことか。そうだが...それがどうした」
やっぱり生きてたか。あんな軽い言い方だったから、死んでるとは思ってなかったけど、予想が当たっていてよかった。
「さっき、そのアクセルさんに会ったんです。その時に貴方達のことを聞いたんですけど...貴方達を攻撃した魔物って、ムカデじゃないですよね?」
「……なぜそう思う?」
「正直に言うと勘です。まぁ、ムカデのあのサイズでアクセルさんに気づかれないように二人に攻撃するというムーブは出来ないだろうなという推理はありますが」
「なるほどな...こいつを見てみろ」
服をまくり、背中を見せてくる。
「こいつは...爪痕?」
背中の傷はほとんど治りかけていたが、痛々しい傷跡が残っていた。
「その通り、爪痕だ。俺たちは爪で攻撃されたんだ」
「つまり、ムカデじゃねぇってわけだな」
「やられた時の状況を教えてもらえませんか?」
「そうだな...あの時、俺たちは勇み足をしちまったんだ。仮パーティーとしてアクセルと組んだんだが、戦闘はあいつが一人で全部片付けちまった。女に全部やってもらっちゃ男として立つ背がねぇってんで、次の戦闘は任せてくれつって前に出たんだ」
「そうして前を歩き、丁字路に杭を立てて、さてどっちに曲がろうかと考えていたその瞬間だった。人型の魔物が現れたんだ」
「人型の魔物...魔族ですか?」
「おそらくな。まぁ影しか見えなかったんだが、それは確実に人の形をしていた。二本のツノと、大きな爪は生えてたがな」
「…影?」
「俺が杭を打ったんだが、そのあとすぐにアクセルに杖を持たせたんだ。だから、影は俺たちの前にできていた。つまり、俺たちとアクセルの間に魔族がいたわけだな」
「いたと言っても、ほんの一瞬だがな。爪で俺たちを切り裂き、すぐに消えた。吹っ飛ばされて頭を打ったからその後はあんまり覚えてないが、その後を追ってアクセルが走り出したのは見たな」
「まぁ逃げられたみたいだがな。あいつから逃げられる魔族ってどれだけ速いんだよ...」
「ふむ...」
少し考えるような仕草をとったのち、口を開く。言うのは最初から思ってたことだがな。
「その傷、アクセルがやった可能性はありませんか?」
「いや、それはないだろうな」
「杖を持っていたのはアクセルだ。それに、あの杖は自立しない。杖を置いて俺たちの後ろに立とうとすれば、杖は倒れて影がブレる。それがなかったから、アクセルのはずがない」
「ならなぜアクセルは吹っ飛ばされていない?貴方達が吹き飛ばされるほどのソニックブームが発生していたはずだ。でも、貴方達はアクセルがすぐにその魔族を追ったのを見たんだろ?アクセルがその魔族で、ソニックブームを生み出した本人なら吹き飛ばされないことの説明がつく」
「俺たちの影はアクセルに杖を渡してから一切動いていなかった。それがアクセルが動いていないことの証明だ」
「そんなもん、地面にあらかじめ突き刺しておけば問題ない。硬い地面でも、魔族の力があれば簡単に刺さるはずだ」
「それは...」
「状況証拠は揃ってる。貴方達とアクセルは即席の仮パーティーなんだろ?庇う必要なんてないじゃねぇか」
「でも...」
「魔族が魔物を殺すわけねぇ!」
「その先入観は捨てた方がいいと思うぞ。せっかく人型なんだから、人間に紛れてる可能性は大いにある。冒険者に紛れれば、魔物だって殺すだろ。その先入観を利用して、人間側だと思わせて接近してくるかもしれない」
「……」
二人とも黙り込んでしまう。
「……そんな落ち込むなって。今話したのは全部可能性の話だ」
「可能性...?」
「全部状況証拠だ。物的証拠は何もない。人間離れした速度も、バフを積みまくれば不可能ではないって言う証言もあるしな。アクセルが魔族だと断定はできない。まだ野良の魔族Xの可能性があるってわけだ。怪しいことには変わりないがな」
「……」
「それに、わざわざ一人で巣穴に潜った理由も野生の魔族Xで説明できるんだよな」
「どうして?」
「敵討ち。それだけで説明がつく」
「一人で行った理由にはなってなくない?」
「俺たちの同行を断ったのは、一人の方が戦いやすかったから。自分より速い魔族と戦うのに、自分より遅い奴がいても邪魔なだけだろ?」
「…確かに」
「仮パーティーのやつの敵討ちなんて考えにくいが...フレアとミレアがそうだったからな。ないわけじゃない」
「…俺たちの敵を取るために、一人で...?」
「なんて無茶を...」
「そうだ、あいつは無茶をしている。だから助けに行きたい」
「それなら俺たちも!」
「貴方達はここにいてください。まだその怪我、治りかけでしょう?」
「うっ...」
「俺たちが行きます。絶対助けに行きますから、待っててください」
「…そうか」
「アクセルを頼むぞ」
「はい、頼まれました」
テントを出る。
「みんな行くぞ。魔族のもとに」
「その魔族ってのは、アクセルのことか?」
「わからん。アクセルかもしれないし、Xかもしれない。でも、魔族がいることには変わりないからな」
そう、どっちだとしても、魔族はいるのだ。
「行くぞ。早く行かないと、手遅れになるかもしれん」
「あ、あの!」
「私たちも行きます!」
ちょうど巣穴に入ろうとしたとき、テントからフレアとミレアが現れてついてくる。
「死ぬかもしれんぞ?」
「大丈夫です!」
「私たちがみんなを守って、みんなが私たちを守る。絶対に殺させない...!」
「わかった。その覚悟があるならついてこい...いや、その前に一応みんなに聞いておくぞ」
「なんだ?」
「今から俺がやることに、みんながついてくる必要はない。名前もついさっき知ったばかりの人間を助けに行く。それだけのことを、魔族と戦うかもしれないリスクを抱えて行くことになる。フレアとミレアはついてくるとハッキリ言ったが、お前たちはどうなんだ?キース、チュチュ、ギブド」
「……はぁ...」
キースが大きなため息をつく。そして...
「あ痛っ⁉︎」
軽いデコピンを俺の額に当てた。
「なに今更そんなこと聞いてんだお前。カッコつけてるつもりか?」
「『俺たちが行く』って自分で言ったよね?まさか私たちがなんて返すかわからないなんてことないよね?」
チュチュに頭をわしゃわしゃされる。
「早く行くんじゃなかったの?ほら行くよ」
ギブドに巣穴の方へ無理やり方向転換させられ、背中をパシっと押される。
「…だな」
巣穴へと入る。
足手まといになるかもしれない。
けれど、何もできないのも嫌だった。
「待ってろ...魔族!」
全て救えるだなんて思ってない。
だからといって、みすみす死なせるわけもないのだ。
俺たちは、巣穴の奥へと歩き続けた。
カリヤくんは怪しいと思ったら不審な点を全て挙げて考えます。
そして証拠が見つかれば、ルークを締めた時のようになります。
まぁなんでそんなことをするかと言うと、その人を信じたいからなんですがね。
信じるために、まず疑います。
なので、実はアクセル本人が魔族だという説よりも、野良魔族Xがいるっていう説の方を最初から信じてるんですよね。
それなのにあそこまで言うなんて...もしかして人の心ない?
ちなみにエランとフレアミレアはこの依頼のために作った即席パーティーです。
それなのにめっちゃ心配されて抱きつかれるとかマジでうらやま。