前世の俺がすでに転生特典決めてました 作:ダイヤモンドリリー
魔族との戦闘回です。
「頼む...間に合ってくれ...!」
巣穴の中を歩く。走らずに歩いているのは、スタミナ消費を抑えるためだ。下手に走ってスタミナを使い切り、いざ魔族と対面した時に一切動けないとかなったら最悪だ。
「戦闘音は聞こえてないから、まだ戦ってないとは思うけど...」
「奥の方で人が歩いている音はします。そんなに距離は無さそうです」
「二つ分かれ道を通った先にいると思います!」
フレアとミレアが、それぞれ魔法を発動していた。音の反響音や、地面の振動などを探知する魔法だ。魔物を探知するよりも簡単なようで、二人ではなく一人でそれぞれ発動させていた。
「わかった...やっぱり杭は刺さってないんだな」
分かれ道に辿り着く。そこには、帰り道を示す黄色の杭しか刺さっていなかった。調査中を示す赤い杭はなかった。
「俺たちが追ってくる可能性を考慮したんだろうな。まぁ意味ないけど」
「音はどっちから響いてる?」
「右から響いてます!」
「オーケー、進もう」
「…ちょっと急いだ方がいいかもしれないです。奥に別の足音がします」
「足音は一つか?」
「はい、ムカデじゃなさそうです」
「ふむ...人の可能性は低いな。ムカデ以外の魔物か、魔族で確定だろう」
「どうして?...ってそうか、杭を打ってないからか」
「そうだ。と言っても、最初の会議に参加してなかった野良の冒険者の可能性はあるがな」
最初の会議に参加していなければ、杖も持っていないはずだ。もしそんな人がいるとすれば、杭がないのに足音がしていることに一応の説明はつけられる。
「まぁどうせ魔族だろ」
歩いて音の発信源へと向かう。アクセルも常時マッハで動いているわけではない。逆に、普段の動きは若干遅いと言ってもいい。反動なのか制約なのかは知らないが、前にすれ違った時は結構遅めのペースで歩いていた。このままなら、普通に追いつけるはずだ。
「…奥の方に、やたら広い空間があります。ムカデと戦ったところよりも広そうです」
「その奥に通路は...ないです。あと、広場から足音がします。さっき言った別の足音です」
「なるほど、そこが決戦の地になりそうだな」
音速で動くことができる魔族なら、当然広いところで戦いたがるだろう。狭い通路で戦おうとするわけがない。
「できるなら狭い通路に追い込みたいところだけど...」
「無理だろうな。敵よりも遅いってのに、どうやって追い込むんだ」
「だよなー...アクセルならできるかもしれないけど、出来ないっていう想定でいた方がいいだろうな」
「俺とギブドはそのアクセルってやつのことを見たことがないんだが、どれくらい速いんだ?」
「秒速340メートル。音と同じくらいの速さだな」
「…だいぶ速いな。魔族はそれよりも速いってんだろ?どうやって倒す?」
「アクセルに頼ることになりそうだな。フレアやミレアに加速のバフをかけてもらえば、魔族にも追いつけるようになるだろ」
「あっ、多分ですけど、アクセルさんにバフはかけられないと思います...」
「どうして?」
「あんな速さを出すには、現存する魔法やスキル全てを使わないと無理だと思うんです。そして、同じバフを複数かけることは出来ないんです」
「なるほど、二人にはバフをかけることは無理...と」
「カリヤの速度操作は使えるんじゃないの?」
「多分できるとは思う」
この能力の加減速は、実は単純な足し算と引き算なのだ。もとの速度が1だろうが100だろうが、同じ分だけ限界を引き上げることができる。
『秒速28メートルまで加速する』のではない。『俺が走る時の最高速度に能力の加速を合わせたら秒速28メートルになった』だけなのだ。だから、雷装を使い自らの素の速度を上げれば最高速度が上がる。バフをかけても同様だ。
つまり、マッハ1だろうとプラスα、速度を上乗せすることは可能だ。
ちなみに、この能力には最低保証が存在する。さっき『秒速28メートルまで加速させるのではない』と言ったが、元の速度が遅い時は違うのだ。どんなに遅い物体でも、秒速28メートルまでは加速することができる。俺が走った時と同じ速さまでは加速できるのだ。俺より足が遅いチュチュや、重いハルバードを持ったギブドを加速させて俺と並走させることができるのは、このおかげだ。遅い物体に限り、足し算ではなくなる。
「でも、範囲内に入れ続けるのは難しいだろうな」
この世界には本来存在しない、速度操作による加速。それならアクセルにさらなるバフをかけることができるだろう。けれど、能力効果範囲である半径2.5メートルに入れ続けなければ、すぐに加減速の効果は切れる。マッハ1の速度に追いつけるわけないので、範囲に入った一瞬しかさせられないだろう。その程度じゃ微々たるものだ。やっても効果が出るかはわからない。
「そっかぁ...」
「まぁとりあえず、アクセルに攻撃強化とか防御強化系のバフをフレアとミレアがかけて、他の人が全員で魔族の動きを妨害してなんとか速度を落とす。これが一番いいだろうな」
「そのなんとかってのが一番難しいんだけどな...」
「あっ、いました!アクセルさんですよ!」
曲がり道を曲がると、青いポニーテールを揺らしながらのんびり歩くアクセルの姿が見えた。
「戦う前に追いつけてよかったな」
「…まさか追いつかれるだなんてな」
「そりゃそんだけノロノロ歩いてたら追いつける。散歩感覚で魔物がいる巣穴を歩くんじゃねぇよ」
「杭は打ってないはずなんだけどね」
「足音を辿れば追える...それはそうと、だ。アクセル、あんたの目的は敵討ちだろ?」
「…どうしてそう思う?」
「名前は聞き忘れたけど、あんたの仲間だった奴らから聞いたんだ。魔族にやられたんだろ?この先にムカデはいない。いるのは魔族だけだ。そんなところに一人で行くのは、どう考えても敵討ちしか理由がない」
「この先に魔族がいるだなんて初めて知ったねぇ」
「めっちゃ心理学振りてぇ...」
クトゥルフTRPGやってたら絶対心理学振ってるんだけどなぁ。
「嘘ですよね...それ」
ミレアがそんなことを言う。
「どうしてそう思うんだい、お嬢さん?」
「嘘ついたらわかるんです、私。わかるのは嘘をついたことだけで、どんな嘘なのかはわからないけど...」
何かしらの魔法だろうか。パッシブスキルとかいうやつかもしれない。
「なんだ、わかっちゃうのか...その通りだよ。私の目的は敵討ちさ」
「嘘じゃないです」
「そういうわけで、これは私の戦いだ。君たちがいても足手まといになるだけさ。帰った方が身のためだと思うよ?」
「いや、ついていく。足手まといになるかもしれないのは承知の上だ。そうしたいからそうするだけ。あんたが何と言おうと、俺たちはついていくぞ」
「そう、なら勝手にするといい」
アクセルはそう言うと、ゆっくりと歩き出す。
「みんな、さっき話した通りでいいな?」
「ああ」
「着いたらすぐにバフをかけます!」
「広場はそこの曲がり道を曲がった先だよ。準備してください」
キースがハルバードを、ギブドが大盾を、チュチュは弓を、フレアとミレアは杖を構える。アクセルは手にはめていた指抜きグローブをグッと引っ張って整える。
「魔族...何の武器がいいかな」
「無難にダガーでいいでしょ」
「だな...いや、こうしておこう」
ダガーの持ち手に、鞭の先端を結びつけておく。握った時に邪魔にならないような位置に結んだので、普通に振ることも鞭で振り回すこともできるだろう。
「よし、見えてきたな。戦闘準備!」
アクセル、俺、ギブドの順番で広場に出る。
「バフお願い!」
魔族の姿は見えないが、先にバフをかけよう。
「はい!まずカリヤさんに『威力増大』『頑健』『俊敏』!」
「次はアクセルさんに...」
フレアとミレアが交互に俺にバフをかける。そして今度はアクセルにかけようとしたその時だった。
左斜め前から超高速で人型の何かが飛び込んできた。速度は秒速340メートル。音速だ。
確実に魔族。急いで魔族の速度を落とし、自らの速度を最大まで加速させる。
そこまでやっても、左腕の盾でなんとか受け止めることしか出来なかった。秒速340メートルで2.5メートル進むのに必要な時間は、わずか0.007秒。左側から来てなければ、俺は一瞬でミンチだったかもしれない。
なんとか魔族の爪を盾で受け止めた俺。けれど、勢いを殺すことなど当然できるわけもなく、真横に向かって勢いよく吹き飛ばされてしまう。
「チッ!」
自分の速度をなんとか落とし、激突までの時間を稼ぐ。けど、このままじゃ激突して死ぬ運命は変えられない。俺だけの力だけでは変えられない。
「『重力操作!』」
フレアがすぐにアクセルへバフをかけるのをやめ、重力操作の魔法を発動させる。俺が吹き飛ばされている方の真反対に向かって重力が向く。重力での加速を速め、減速させる。
「くそっ、次はどこから来る!」
「『障壁』!」
ミレアが透明な壁を作る魔法を発動させる。その瞬間、何かがぶつかったような衝撃音が背後から響く。
「後ろかよ⁉︎」
十分減速しきったので、透明な壁を蹴ってみんなの方に飛んでもどる。
「やっぱ見えねぇ...!速すぎんだろ!」
「速すぎてデバフをかけたくても狙いが定まらない!」
「ほらやっぱり足手まといだ」
アクセルがそう言うと、瞬時にマッハ1の速度に達して広場内を駆け巡る。目に追えない速さで戦う音が響き、何度もソニックブームが発生する。
「完璧にドラゴン○ールの世界観じゃねぇか...」
「なにもできない...のか?」
「と、とりあえずアクセルさんにバフはかけてあります!だからあとはなんとかしてくれるはず...」
「一人でなんとかできるのか?魔族相手に?」
「俺だけでもいく。みんなは下がっててくれ」
「無理だよ!いくらカリヤでもあの速度には追いつけない!さっきだってやられるところだったじゃん!」
「なんとかしてみせる」
「なら俺たちもなんとかやってやる!カリヤだけ行かせるわけにはいかねぇ!」
「みんなはそっちを頼む」
後ろの、出口の方へと向かう道を指差す。
「あそこからムカデが来るのを阻止してくれ。多分だが騒ぎを聞きつけてくる奴らがいるはずだ」
「じゃあカリヤもこっちに来ればいいじゃん!」
「俺はこっちで残って加勢する」
「何か策はあるのか...?」
「ある」
「嘘...じゃない?」
ミレアがボソッとつぶやく。
「策ならある。まずフレア、俺にさっきの重力操作をかけてくれ。常に俺の足が向いている方に重力が向くようにできないか?」
「…やってみる」
フレアが杖を構える。無言で発動したのか、紫色の光が杖から放たれ、俺の足に付着する。
「多分できたよ」
「ありがとう。次にミレア、ここの境目に障壁を張ってくれ。魔族が外に出ないようにしたい。出来るだけ長時間...五分ぐらい張ってくれ」
懐中時計を見ながらミレアに言う。
「わかった、『障壁』」
通路と広場をつなぐ境目に、ミレアが透明の壁を作る。
「よし、あとはみんな頑張ってね」
「…あっ、カリヤあんた!」
チュチュが今更のように気付き、透明な壁を叩く。俺と、突っ込んでいったアクセル以外の人間はこの広場から追い出された。しばらくは入ってこれない。
「音は届くんだな、これ」
「ちょっとミレアちゃん!この壁早く解除して!」
「む、無理です!五分経つまで絶対に消えません!」
「そういうわけだ。そっちは頼むぞ」
意識を切り替える。さて、魔族は...やっぱり見えないな。
「反応速度を上げるしかないか」
反応速度を加速させる。少しだが、魔族とアクセルの姿を追えるようになってきた。ヤム○ャ視点からはなんとか脱出した。
「青い髪はアクセルで...魔族も髪青いな。紛らわしっ!」
アクセルはポニテで、魔族は髪を縛らずそのまま下ろしていた。
「よし、やるか。『雷装』」
雷装を発動し、秒速60メートルで走り出す。
「避けろアクセル!」
鞭を勢いよく振り、先端につけたダガーで攻撃する。すんでのところでアクセルが立ち止まって避け、避けきれなかった魔族の足を斬り裂く。
「っ、お前なぜ来た!」
「俺ならお前の役に立てる!足りない少しの速度を補える!」
「…わかった、やるなら勝手にやれ。こっちから合わせるのは無理だからな!」
アクセルが再度走り出す。超高速戦闘が再開される。先程足を斬りつけたことで魔族の速度が落ちているかもしれないと期待したが、すでに治っていたようで速度は一切落ちていなかった。
「まずは戦場を戦いやすく整えよう...『土流』!」
土流を発動し、高さ1メートルほどの土の壁を幾つも作り上げる。
「これで...!」
ひとまず場を整えた。次にすべきは速度操作によるアクセルの援護だ。アクセルと魔族の速度は互角。ほんの少しでもその均衡を崩せば、一気に有利になるはずだ。
フレアの重力操作により足が向いている方に重力が向くため、それを利用して壁を歩き、天井まで移動して二人の動きを注意深く観察する。今俺がこうやってあれこれできているのは、アクセルが魔族を引きつけているからだ。俺がさらに戦いに介入すれば、ここまで自由に動くのを許してくれなくなるだろう。そうなる前に、全ての策を考え出しておきたい。
「……よし、行ける」
こちらの手札は整った。作戦開始だ。
「ここ!」
二人の戦っている位置、戦い方、土壁の位置を考慮し、1秒後に二人がぶつかるであろう位置を予測する。そして天井から跳び、足を真下に向けて落下する。移動速度の加速に重力での加速を合わせ、1秒で地面に到達する。
その瞬間、二人が能力範囲内である半径2.5メートルに入る。即座にアクセルを最大まで加速、魔族の減速を開始する。
魔族の減速は、結果としてほとんど意味はなかった。一瞬だったため、ほんの0.5メートルしか秒速を落とすことができなかった。
けれど、アクセルは違う。加速は減速と違って一瞬で完了する。マッハ1+αの速度になったアクセルが、魔族の顔に思い切りパンチを叩き込む。
勢いよく吹き飛んだ魔族が、背後にあった土の壁を突き抜け、そのまま巣穴の壁に激突し突き刺さる。天井からパラパラと砂が落ちてくる。
「…お前、面白い力を持ってるね。いいね気に入った」
アクセルは魔族を見据えながら、こちらにやってくる。
「そりゃどうも」
「君とならこいつも楽に倒せそうだ。あいにく、私はあれこれと策を考えるのが苦手でね...君が司令塔をしてくれないかい?」
「わかった。確かにお前は見た感じ、速度に頼った肉弾戦しか出来そうにないからな。俺が使ってやるよ」
「…面白い。次の策はなんだ?」
「次は...『路面凍結』!」
地面に手をつき、魔族のいる方の地面をできるだけ広く凍らせる。
「凍らせて足を滑らせるつもりかい?」
「それもあるけど...目的は別にある」
魔族が壁からなんとか抜け出し、地面に落ちる。そして走り出そうとするも、氷で足を滑らしてしまい、なかなか動くことができない。
「悪いけど時間がない。そろそろあの魔族も動き出すはずだ。準備するから時間稼ぎを頼む!」
「え?...まぁ司令塔が言うなら仕方ない。やってやる」
俺は走り出す。それと同時に、魔族が壁を蹴ることで氷地帯から脱出しようとしていた。しかし、マッハ1にまで加速できていたわけではないので、最高速度のアクセルに思い切り蹴り飛ばされて氷地帯に逆戻りする。
『路面凍結』
位置を変え、路面凍結を再度発動させる。アクセルが魔族を食い止めている間に、何度も位置を変えながら路面凍結で地面を凍らせていく。
「何をする気だ!私の動きも封じる気か⁉︎」
「所々空きは作る!なんとかしてくれ!」
「無茶を言う...!」
所々空きを作りながら、けれど全ての氷がどこかで繋がるように凍らせていく。
「準備完了...!」
二つ目の策の準備は完了した。その場で逆立ちすることで重力を上向きにして落ち、天井に足をつける。
「アクセル!魔族を氷の所に蹴飛ばしてから俺に捕まれ!」
『雷装・矢』
拠点に戻ってからここに来るまでの間に、チュチュから一本だけ受け取っていた矢を取り出し、電気を流す。それをパッと手放して自由落下させると、すぐに逆立ちをして重力を下に向ける。落下速度を加速させ、矢を追い越して落ちる。
「ハァッ!」
アクセルが魔族を蹴飛ばし、俺の方を見る。ちょうどその時、俺は地面から一メートルくらいのところに対空していた。上半身を地面と並行にさせ、うまい具合に両足を開脚させることで、重力を打ち消して対空しているのだ。
「なに面白い格好しているんだい?」
「言ってる場合か!早く捕まれ!」
手を伸ばすと、アクセルが俺の腕を掴む。手を掴まなかったのには驚いたが、俺もアクセルの腕を掴む。その瞬間開いていた足を閉じ、上向に重力を向けて天井に逃げる。
それとすれ違うように、一本の矢が落ちてくる。さっき落とした矢だ。その矢は真っ直ぐ自由落下していき、俺が作り出したアイスリンクに突き刺さる。
魔族が立ち上がろうとしたその時、アイスリンクに突き刺さった矢から超高圧電流が氷を通して流れ出す。声にならない声を上げる魔族。感電したことで一切の体の自由を奪われてしまい、動くことができない。
「魔族も人体と仕組みはあまり変わんないみたいだな」
電流を流せば体を動かすための電気信号が阻害され、動くことができなくなる。気絶しないところはさすが人外といったところか。
「拘束は...1分は持ちそうだな。壁が消えるのは同じく1分後...よし」
アクセルを支えている手とは反対の手で懐中時計を見る。
「次の策はなんだい?」
「アクセル、俺の鞄から爆破用の魔石を取ってくれ」
「うわ、色々入ってる...いつもこんなに持ち歩いているのかい?」
「取ったら壁に投げ込め。間隔はどうでもいいから適当にばら撒いてくれ」
「わかった」
アクセルは鞄から魔石を取り出し、壁に投げ込む。
「あっ、10個くらい残しておいてくれ。最後に使う」
そうして50秒ほどかけて、10個を残した魔石全てを投げ込む。
「よし、撤退だ。急ぐぞ」
「君がそう言うなら。と言っても、私は動けないから君に連れられることしかできないんだけどね」
壁を歩き、唯一の出口の前に降り立つ。出口の周囲にはあらかじめ氷を作っていなかったので、アクセルが踏んでも問題ない。手を離し、両手を空ける。
「よし、あと5秒...」
残った10個の魔石をその場にばら撒く。あと3秒。
「ミレア!俺たちがそっち行ったらすぐに障壁を使え頼む!」
透明な壁の向こうにいたミレアにそう叫ぶ。その奥ではキースたちがムカデたちと戦っており、サポートのために後ろで待機していたみたいだ。そのおかげで、伝えることができた。
障壁が消える。アクセルを引っ張り、半ば倒れ込むようにして通路に身を投げる。
「『火球』!!」
「『障壁』!」
ミレアが障壁を発動する直前、火球を発動して広場に向かって投げ込む。
その時、魔族が動き出す。一度目の障壁が解除された瞬間、電気の矢により氷が全て電気分解されて拘束から解放されていたのだ。そして魔族は俺たちの方を見ると、逃すかとばかりにマッハ1でこちらに向かって走り出す。魔族は軽々と火球を避け、通路に入るまであと一歩のところまでやってくる。
しかし、魔族は通路には入れない。障壁が起動し、通路と広場を完全に封鎖したのだ。
「チェックメイトだ、魔族さんよォ。お前がそれを避けなければ、まだチェックで済んだというのに」
魔族は唯一の負け筋を、自らの手で作り出したのだ。
魔族が避けた火球が、空気中を漂っていた大量の水素と酸素の塊に接触する。その瞬間、大爆発を起こす。その爆発が魔石にも誘爆し、さらに巨大な爆発を生む。
「「『障壁』!『防御結界』!『物質強化』!」」
このままだとこの通路まで崩れかねないため、フレアとミレアが次々と魔法を発動し、周囲の物質を補強していく。
そうしている間にも、爆発がさらに別の魔石に誘爆していく。魔族はなんとか逃れようと、透明な壁を何度も何度も叩くが、障壁は破れない。
大きな地響きと共に、広場の奥から崩落が始まる。それと同時に、爆炎もこちらに迫ってくる。
爆炎が、魔族のすぐ背後にまで迫る。
その爆炎は魔族の背中を焼け焦がす
…前に、足元の魔石を着火させる。
魔族が全力の力を込めて透明な壁を叩いた瞬間、魔石が爆発を起こす。爆炎と衝撃波に、魔族が飲み込まれる。
「倒せた...のかい?」
透明な壁の向こう側が、粉塵と煙で見えなくなる。そのせいで死んだのかどうかが確認できず、アクセルがそう問いかける。
「死んだよ。魔族ってのが全身バラバラになっても死なないとかならわからないけどな」
けれど、俺は魔族が死んだことをはっきりと認識していた。爆炎と衝撃波を喰らい、魔族の四肢が吹き飛んでバラバラになっていく、その速度を能力が探知していたのだ。
「さすがの魔族も四肢を切り離されれば死ぬだろう。そうでなくとも、炎に焼かれて死ぬか、土砂に押し潰されて死ぬ。万に一つも生きている可能性はない」
「まぁ一応...フレア、ミレア、探知を頼む」
ちょうどムカデとの戦闘が終わったようで、フレアを含めたキースたちがこっちに戻ってきていた。そこでフレアを呼び出す。
「わかりました!」
フレアとミレアが魔物探知の魔法を発動させる。
…しかし、しばらく経っても光の球は一つも飛んでこない。
「効果範囲内に魔物は一体もいないみたいです!」
「魔族は魔物のうちに入らない...なんてことないよな」
そんなモンスターではない、神だ!みたいなことはないだろう。魔物探知に反応しなかったということは、魔族は死んだことを意味している。
ちょうどその時、障壁が解除されて透明な壁が消える。爆発によって軽い真空状態にでもなっていたのか、崩れた広場に向かって突風が吹き込む。
広場は完全に崩落していた。そのせいで死体確認をすることは叶わなかったが、俺たちはたしかに魔族を倒したのだった。
魔族こんな簡単に倒せていいの?と思った方。
アクセルがいたことと、立地が良かっただけなので、次別の魔族と戦うことになったら普通に負けると思います。
そして何より、今回は相手が弱かっただけなんですよね。
次魔族と戦うのはいったい何話後になることやら...