前世の俺がすでに転生特典決めてました 作:ダイヤモンドリリー
今回で依頼編終わりです。
「君、名前は?」
それは魔族を倒した後のこと。拠点に戻る最中、アクセルにそう尋ねられた。そういえば名乗っていなかったな。
「仮谷幸希だ」
「カリヤコウキ...カリヤ...そうか、君が噂に聞く神の使いか」
俺の名前も随分広まってきているみたいだ。速度操作の時点で気づいてほしい感じはするけど。
「あんな力を持っているのも納得だ」
「こっちとしては音速で動ける方がすごいと思うんだけど...」
「まぁ私も特別だからな。けれど、君がいなければあの魔族を倒すのに、もっと長い時間がかかっていただろう。君のおかげで助かったよ」
「…一人でも倒せたってか?」
「できるさ。あの程度の敵、倒すことなど造作もない。あんなの理性のない獣と同じだ」
…あれ?魔族って人間と同レベルの知能を持つって話だったような。そういえばだけど、あの魔族、戦闘中一言も喋ってなかったよな。ただ無口なだけなのかもしれんが、戦闘も力任せだったしな。速さで敵を圧倒し、ただ殴るだけだった。まるで理性がないかのようだった。
それに、だ。火球を避けたのはわかる。水素爆発のことなんて知らないだろうし、目先の攻撃は避けておくに越したことはない。でも、爆発にそのまま飲まれたのが気になる。足元に魔石があるのはわかっていたはずなのに、壊せもしない障壁を壊そうと何度も殴っていた。それが、とても不自然だった。
もし人間並の知能を持っているなら、一回障壁を叩いた時点で障壁を破ることを諦める。そしてすぐに近くの壁を掘り始める。フレアとミレアが強化をかけているので、すぐに掘ることは難しいだろう。けれど、音速で動けるのなら強化なんて意味がないはずだ。もし破れずとも、すぐに別の場所に移動して穴掘りでも始めれば、あの爆発から逃れることくらいできただろう。
なぜそれをせず、障壁を叩き続けたのか。その謎がわからない。
「あの感じだと、狂化でも使っていそうだね。そうでもしないとあの領域に辿り着けない、って修行が足りてないと思わない?」
「きょうか...強化?」
「イントネーションが違うね。その強化じゃない。狂う方の狂化さ」
「…なるほど、それなら理性がないのも納得だな」
「正直な話、狂化を使っていなかったら逆に厄介だっただろうね。速度は遅くなるとしても、正常な意識を持ち、策を考えて動く敵。できれば戦いたくない」
「厄介ってだけなのがすごいよな。倒せる自信があるんだろ?」
「当然だ」
随分な自信家だ。でもそうでなければ、ここまで戦えないだろう。自分を信じているから、無茶な戦いにも身を投じることができるのだ。
「ここらでお別れといこうかな」
さっきまで話していたアクセルが、急にそんなことを言う。
「お別れってどこに行くつもりだ?」
「なに、先に拠点に戻るだけさ。さっさと戻って、治ったあいつらと巣穴に潜るんだ」
「なるほどね...いやちょっと待て。ストローグさんに魔族のことを報告しないといけないから、アクセルにもいて欲しいんだけど...」
「…それ、私がいないとダメか?」
「魔族を倒した立役者でしょー?いないとダメでしょ」
「面倒なことになったな...」
「最初は一人で倒そうとしてた奴が何言ってんだ」
「仕方ない。いた方がいいならついていってやる」
よかった。一緒に来てくれるみたいだ。
「すみませんカリヤさん。ちょっといいですか?」
ミレアがちょちょいと俺の服の裾を引っ張ってくる。
「なに?」
「できれば周りの人には聞かれたくなくて...」
「なになに?」
耳打ちをしたそうなジェスチャーを取っていたので、少し屈んでやる。
「あの人、さっき嘘をついてました」
「嘘?アクセルが?」
「どれが嘘かはわかりませんけど...」
「…多分、一人で倒せるってとこだろ。そんなに気にすることじゃないと思うぞ?」
「そうです...かね?」
「嘘っていうか見栄だな。人間誰しもそういうことあるだろ」
「何話してるのー?」
少し気になったようで、チュチュが話しかけてくる。
「いや、なんでもない」
一応誤魔化しておく。
「なんでもないは嘘じゃないー?あっ、そうだ。ミレアちゃんなら嘘がわかるんでしょ?カリヤ嘘ついてない?」
「か、カリヤさんはう、嘘なんてついてませんよ?」
「なんで動揺してるの...?」
ミレアが嘘をついても、誰にも確かめる術はない。だから騙し通せる...訳ないんだけどな普通。なんでチュチュは俺と話してたミレアに確認を取ったんだ?そんなの誤魔化すに決まってんじゃん。アホの子なの?
「まぁいいや。早く拠点帰ろー?今日はもう寝てたい」
「だな。ムカデの大群倒して、魔族も倒して...これ、一、二時間でやっていいことじゃねぇな」
「今更だね」
「でもその前に報告しないといけないし...あぁ、どう説明すればいいんだ...」
絶対びっくりされるだろうなぁ。ストローグのことだから、報告なしに勝手に行ったことを怒られるかもしれない。最終的に、生きて帰ってくれたから不問にするとか言われそうだけど。
「まぁいっか適当で。ノリと勢いとアドリブで行けんだろ」
考えるのが面倒になった。下手に台本を作ってから行くよりも、その場で聞かれたことを答える方が楽だし、上手くいくだろう。
そう思っていたのだが、ストローグに報告する時、普通に緊張したのとストローグの剣幕に押されてしどろもどろになってしまうのだった。
結局、最初は面倒臭がっていたアクセルの方がうまく説明をしてくれたので何とか乗り切ることができたのであった...ちょっと悔しかった(小並感)
「諸君!この五日間、ご苦労であった!」
ストローグが高台に立ち、大きな声で叫ぶ。
そう、今日はこの依頼が始まって五日目。そして、依頼が終わった日でもある。
魔族を倒したのは二日目。そこから三日で巣穴の探索が全て終わったのだ。
「皆の励みのおかげで、予定よりも早く探索が完了した!本当に感謝する!」
予定より早く終わったのは、もともと人員が多かったのもあるが、俺たちの活躍が大きい。
魔族と戦ったのだ。ムカデなんかに遅れをとるはずがない。そんなわけで、俺とアクセルはムカデをちぎっては投げちぎっては投げ...アクセルは文字通りちぎって投げてたがな。高速で動ける俺たちは、探索中ムカデが現れた瞬間に倒し、ほとんどロスなく探索を続けることができたのだ。
キースやチュチュたちも十二分の活躍をしていた。俺とアクセルが魔族と戦っている間、迫り来るムカデを殺し尽くしていたのだ。そのおかげでムカデの動きに慣れ、効率よく倒すことができるようになったらしい。
ストローグから聞いた話だが、俺たちは巣穴の三分の一を探索したらしい。めちゃくちゃ感謝された。そして、報酬が一律なことを謝られた。こんなことなら歩合制にしておくんだったと後悔していた。そんなこと気にしなくてもいいのにな。
「これより、一斉爆破を行う!ミツヤ、頼む」
「はい」
「諸君、巣穴の方を見るがいい!これが諸君らの働きの成果だ!」
皆が一斉に巣穴の方を見る。その瞬間だった。
とてつもない爆音が響く。なんらかの魔法が使われていたのか、本来なら訪れるはずの衝撃波はこなかった。
巣穴内部に設置された魔石が全て起爆されたことにより、一斉に崩落する。山の一部が崩れ落ちる。
その日、山の地形が変わった。
「こりゃすごい。巣穴を潰すのにここまでやるのか」
隣に立っていたアクセルがボソッとつぶやく。
「…よし、ありがとうミツヤくん。さて、諸君!これにて今回の依頼は完了だ!明日まで拠点はここに残すので、休む者は残るといい!帰るものは王都に寄り、報酬を受け取れ!」
「どうする?みんな」
「さっさと帰ろー」
「だな。王都に直帰しよう」
「それではこれにて解散とする!」
依頼は終わった。やっと解散だ。
「帰るか」
キースが言う。
「だな...あっ、そうだ。フレアとミレアはどうすんだ?あとアクセルも」
俺たちは王都に戻るが、予定が合うなら一緒に帰ろうと思ったのだ。
「私たちは王都に戻ります」
「じゃあ一緒に王都に行かないか?」
「わかりました!一緒に行きましょう!」
「よし。で、アクセルは?」
「私は...今日は休もうかな。君たちだけで帰るといい」
「そっか、じゃあ帰ろう。帰り道はどこだったっけ?」
行きに一回通っただけの道だ。覚えてるわけがない。
「帰りなら私たちに任せてください!」
「魔法でひとっ飛びです!」
ひとっ飛びか。テレポート的な魔法かな?
「なら任せようかな」
「行くよミレア!」
「うん!フレア!」
「「『長距離移動用術式』設置!」」
二人が唱えると、少し先の地面に魔法陣ができる。
「複合魔法か。あの魔法を合わせてるとなると...」
ギブドがつぶやく。魔法の心得があるから、どんな魔法なのか多少はわかるのだろう。
「もう行ってしまうのか。なら、これだけ伝えておこうかな」
アクセルが俺の方を見て言う。
「なんだ?」
「今度、また君と会ったら手合わせしてくれないかい?君のその能力、成長するんだろう?私ももっと速くなってみせるから、戦ってみないかい?」
「……機会があったらな。次会う時はお前を追い越してみせるよ、アクセル」
「期待してるよ。神の使い、カリヤくん」
それだけ言うと、アクセルは踵を返して近くにあったテントに入っていった。
「次か...次会う時はいつになるのやら。下手すりゃ会わないなんて普通にあるよな」
「いつかは会うでしょ。同じ冒険者なんだしさ」
「カリヤー早く来ーい。帰るぞー!」
「おう。この魔法陣に乗ればいいんだよな?」
「はい!全員乗ったら起動します!」
「ほら、ギブドさんも乗ってください」
「…俺は自分の足で戻ろうかな」
「何言ってるんだ?ギブド」
「ほら乗れって」
キースに引っ張られて無理矢理魔法陣に乗せられるギブド。めちゃくちゃ抵抗していたけど、なんでだろう。
「全員乗ったよ」
「わかりました!行くよミレア!」
「うん、フレア!」
「「『長距離移動用術式』起動!」」
足元の魔法陣が光り出す。
「距離調整完了!」
「着地点に人、魔物なし!」
「角度調整完了!」
交互に喋りながら調整していくの見ると、うみ○このシエ○タ姉妹兵を思い出すな...ん?なんか変なこと言ってたような...着地点?転移点じゃなくて?それに角度ってなんの角度だ...?
「「全調整完了!『長距離射出』発動!」」
「おいちょっと待ていまなんr
吹っ飛んだ。俺たちの体が一瞬浮き上がったかと思えば、王都に向かって勢いよく射出された。
「転移じゃねぇのかよっっっ!!!」
速度探知を発動させる。○ァ!今(時速)何キロ!?
…504キロ⁉︎秒速140メートルとか速すぎる死ぬうっ!
「おいこれ減速どうすんだよ俺の能力じゃ絶対間に合わねぇぞ!」
「私たちがやるので大丈夫です!」
「舌だけ噛まないように気をつけてくださいね!」
そのまま秒速140メートルで、三分ほど飛んでいった。なんらかの魔法のおかげか、空気抵抗がなく一切の減速なしで飛ぶことができ、すぐに王都の近くまで飛んで来れる。
「減速します!」
「『俊敏』解除!『浮遊』解除!」
ゆっくりと速度が落ちていき、保たれていた高度も落ちてくる。
「『鈍足』発動!『重力操作』発動!落下開始!」
さらに速度が落ち、重力操作によって落下速度が調整される。
「もう到着か。五分も経ってないぞ」
「いつかカリヤも自力でこれくらいの速度を出せるようになるのかな?」
「出来るだろうけど...いったいいつになることやら」
ここまで成長するのに三ヶ月近くかかっている。成長度合いは日を追うごとに良くなってはいるが、今の四倍以上の速度を出すにはもう数ヶ月かかるだろう。アクセルに追いつくとなると、さらに時間がかかる。せめて勇者たちと合流する前には、雷装なしで音速くらいは出せるようになりたいな。
「落下地点に不審物なし!」
「『弾性付与』発動!...あれ?」
「あれ?じゃないよ怖い!どうしたのさ⁉︎」
医者が手術中に「あっ」って言った時くらい怖い。今、俺たちの命はフレアとミレアにガッチリと握られている。その二人がなにかミスったら俺らは何もできないぞ怖すぎる!
「ミレアどうしたの⁉︎」
「発動しない...なんで⁉︎」
「まさか魔力切れ...!」
その瞬間だった。フレアがかけた魔法の効果も切れてしまい、重力が元に戻ってしまう。地面へと加速し始める。
「間に合え...!」
能力を発動し、全員の速度を減速し始める。
「くそっ、やっぱ追いつかない!」
やはり、能力での減速よりも重力での加速の方が速い。このままだと地面に落ちる頃には...時速100キロほどになる。地面に激突すれば、まず耐えられない。
「こうなったら...!」
地面に着く直前まで、減速を続ける。それでもやはり加速は止まらず、みるみるうちに速度は上がっていく。
「みんな、落ちる時は絶対に足から入るんだ。いいな!」
「えっ、カリヤなにを...」
「いいから!」
地面に落ちるまであと三秒。俺は激突して死ぬ運命を回避するため、逆に自らを加速させる。
「なにとち狂って...⁉︎」
「土よ、流動しその形を変えよ!」
詠唱しながら地面に向かって手を伸ばし、触れる。地面を十メートル下まで完全に流動化させ、そのまま飛び込む。
そこから一秒後。他の五人も流動化した地面に落ちていく。そして能力範囲内に入った瞬間、すぐに全員を減速させる。
「……ぷはぁっ!生きてる〜!」
「な、なんとかな...」
キースが水面まで浮き上がり、そうつぶやく。他の面々も、次々に水面から顔を出す。
「まさか魔力切れになるなんて...」
「人数が増えたから消費魔力も増えるってのになんで気づけなかったんだろ...」
「こうなるとわかってたからギブドは一人で行こうとしたのか...」
「さすがにこうなるとは思ってなかったけどね...単純に飛ぶのは嫌だっただけさ」
「そもそも俺てっきり瞬間移動でもするもんだと思ってたんだけどな...」
「人間を瞬間移動させるなんて人にはできません。それが常識ですよ?」
「長距離移動自体は魔法でできるんですけどね。私たちはこの方法しかできなかったです」
「従姉妹は一人でもっとすごい転移ができるんですけど...私たちにはこれが限界で」
「こんな方法なら事前に教えてほしかったな...」
「…なぁ、そろそろ出ないか?いつまでも浸かってるわけにはいかないだろ?」
「それもそうだな」
沼から這い上がる。持っていた荷物や服が全て泥だらけになるも、土流の効果はまだ続いているので、操作して取り出す。
「ほんと便利だなそれ」
「それにしても、よく生きてるよね私たち。あんな高いところから落ちてさ」
「土流が間に合ってよかったよ」
地球には、こんな競技がある。27メートルの高さからプールに飛び込む、その競技の名はハイダイビング。入水時の速度は時速100キロにもなると言われており、入水の時はダメージを防ぐために必ず足から入ると言う。
その競技のことをなぜか知っていたおかげで、土流を使って即席のプールを作ることを思いついたのだ。
「指は絶対に折れてそうだけどね...」
地面に手をついた時の衝撃だけは受け止め切ることができず、明らかに曲がってはいけない方向に曲がっていた。今はアドレナリンドバドバで痛みがあんまり感じないが、少し経てばすぐに激痛に襲われることだろう。
「こりゃさっさと王都に戻って医者にかからないとやばいな」
「すみません...」
「私たちの魔力が残ってれば...」
「ならこれ飲めこれ」
鞄からポーションを取り出して渡す。
「…いいんですか?」
「悪いと思ってるなら早く治してくれ。できるんだろ?」
「は、はい!ん、ん、ん...」
ミレアがポーションを飲み干す。
「『限定時間遡行』...はい元通りです」
「おぉ、すげぇ。一瞬で治った」
時間遡行の名の通り、指が逆再生のようにグリンとなって治った。SANチェック入りそうな治り方でちょっとだけビビった。
「色々あったが...全員無事だったわけだし、あれこれ考えるのはもうよそう。ギルドに行って報酬をもらうとするか」
「だな。俺も治ったし、もう何の文句もねぇわ」
とりあえず今は全員生き残ったことを喜ぶことにしよう...なんで依頼とは関係ないことで死にかけてるんだって話だけど、そんなことはそこらに置いておく。
俺たちはゆっくりと王都の入り口まで歩いていった。
「いやー、がっぽりがっぽり」
「やっぱりあれくらい規模の大きい依頼だと報酬も多いねー」
ギルドで報酬を受け取った俺たちは、とりあえずギルド内にある休憩スペースの椅子に座り込んでいた。
「さて、最初の予定通り...」
「渡すとしますか」
「だな」
キース、ギブド、チュチュの三人が報酬の入った袋を渡してくる。
「ありがとな、ほんと...ほんとに全部もらっていいんだよな?少しぐらい自分の分として置いといてもいいんだぞ?」
「決めたことだからね。そういう取り決めはちゃんと守らないと」
「「えっ、報酬全部渡しちゃうんですか?」」
フレアとミレアが綺麗にハモりながら言う。
「ああ、依頼を受けた時に決めてたことだからな」
「報酬は全部カリヤに渡して、カイスでの活動費用にするって決めてたんだよ」
「カイスに行くんですか?」
「そうだよ。明後日の朝イチに出発するんだ」
「何をしに行くんですか?」
「魔法を習いに行くんだよ。今使える魔法って両手で数えられるくらいしかないしさ。色々覚えられるだけ覚えておきたいんだよね」
攻撃系の魔法に、バフをかける魔法、回復魔法なんかも欲しいところだ。カイスでなら魔法を学べるので、まずはそこで魔法を覚えようという算段だ。
「…行くあてはあるんですか?」
「魔法を学べるところは無数にありますよ?それぞれ専門分野もありますし...あっ、あらかじめ調べてるなら大丈夫ですけど」
「いや、特に何も調べてないぞ?あっちに着いてから探しても何とかなると思ってたわ」
無数にあることなんて知らなかったし、専門分野とかあるのも知らなかった。考えてみれば当然なんだけどな...
「無計画...」
ミレアがボソッと呟いたのが聞こえてしまう。ちょっとヘコむ。
「そもそもカイスにはどれくらい滞在するつもりなんですか?」
「んー...大体三ヶ月くらいかな。カイスの次はガルムに行かないといけないしね」
「さ、三ヶ月...」
「短いですね...」
「厳しいってのはわかってる。でも、これくらいの過密スケジュールじゃないと勇者選定とかもろもろに間に合わないんだよね」
「そうなんですか...」
「あっ、そうだ。二人ならいいところ知ってたりしないか?二人はカイス出身なんだろ?」
俺なんかが調べるよりも、地元の人に聞いた方が何倍もいいだろう。
「三ヶ月で学べる場所かぁ...」
「んー...どこならいいかなぁ」
「…あっ、あそこならいいんじゃない?ミレア」
「あそこって?」
「リヒトおじさんのところだよ!」
「たしかに!おじさんならなんとかしてくれそう!」
お、おじさん?
「えっと、そのリヒトおじさん...?って誰?」
「私たちの叔父です。カイスで魔法を教えてるんですよ」
へぇ、そんな人が叔父にいたのか。そういえば従姉妹がもっとすごい転移魔法が使えるって言ってたけど、その叔父の子供なのだろうか。
「でもリヒトおじさんって自分が認めた人しか教えないんじゃなかったっけ?カリヤさんが認められるとは限らないよ?」
「神の使いなんだから教えてくれるでしょ!」
「そうかなぁ...」
「なら推薦状書いてあげようよ!私たちの頼みなら聞いてくれるかもよ?」
「たしかにそれなら教えてもらえるかも!書こう書こう!」
フレアとミレアがたたたーっと駆けていき、ギルドの人に紙を借りて凄い勢いで書いていく。
「はいカリヤさん!推薦状です!」
「お、おう、ありがとな」
とんとん拍子で話が進んでいった。行動力すごいなこの二人。
「リヒトおじさんすごいんだよ!カイス最強の魔法使いに教えてたんです!」
「しかもその最強の魔法使い、従姉妹なんです!ニアっていうんですけどね!ものすごい強いんです!」
「私たちも一回しか一緒に戦ったことないんですけど、もうすごいんです!魔力量もすごくて、一瞬で光がバーってなって魔物がバンって弾けて!」
「回復魔法もすごくてですね!カリスで死にかけの人を蘇生したって言ってました!死んでさえなければすぐに治せちゃうんです!」
「わかったわかった。そのニアって人がすごいのはわかったよありがとう...というか、なんか聞き覚えのある話があるような...」
カリスで死にかけの人を蘇生した?それ俺やん。死にかけの人って俺やん。マジかよ知らない間に将来仲間になるだろう人に命救われてるじゃん俺。
「ありがとな二人とも。カイスに行ったらそのリヒトさんに頼ってみるよ」
「はい!カリヤさんもすごい魔法使いになってくださいね!」
「杖持ちましょうよ杖!ダガーなんていりませんから!」
「いやダガーは手放す気ないよ俺⁉︎」
「いい機会です!剣とか盾とかよりも魔法の方が優れてるってことを教えて差し上げます!」
「全員魔法使いに鞍替えさせてやります!」
「おっ、言ったな?物理職全否定したね今!」
「いいね戦争だ!逆に物理に染めてやるぜ!」
「今からでも間に合う!杖なんて捨てて筋肉を!」
「えっ、ちょっと何が始まるのさ!戦争⁉︎」
第三次大戦でも始まるってのか⁉︎なんで急に魔法物理戦争が始まるのさ!
「ちょっ、ここは穏便に暴力で...」
「何言ってんのさカリヤ」
急に真面目な顔してツッコむんじゃないチュチュ!
「ってかカリヤはどっちなの!当然物理だよね!」
「カリヤさんはこれから魔法を習うんですよ?当然魔法ですよね!」
「何でこんなことに...ほらギブドだって盾も魔法も両方使うでしょ?ってか魔法戦士でいいじゃん。両方使えるでいいでしょ」
「「器用貧乏!」」
「えぇ...」
結局、この論争は周りにいた人も巻き込んで陽が沈むまで続いた。
そして最終的に、どっちともそれぞれいいところあるよね、ということに落ち着いた。
「何だったんだろこれ...」
この論争に意味があったのか、それすらも不明だ。
本気で暴力で勝者を決めた方が、この不毛な戦いを収めるにはいいんじゃないかと思った。
毎回終わらせ方がわからなくて変な感じになってしまう...
次回、カイスに向かいます。