前世の俺がすでに転生特典決めてました   作:ダイヤモンドリリー

35 / 213
8096字。

魔法の練習を少しして、戦闘シーンに移ります。


蠢く水の触手

「この二ヶ月、私は君に魔法を教えてきた」

 

「ですね」

 

適当に相槌を打つ。なんだろう急に改まって。

 

「君はなかなか優秀だ。魔法の呪文の覚えがいいし、応用力もある。誰も知らないようなことを知っているし、その知識を活かした突飛な魔法の運用ができる」

 

すごい褒めてきた。なんか逆に怖くなってくる。

 

「というわけで、だ。そろそろ次のステップに行こうと思う。より実践的なことを教えていこう」

 

「今までのでも結構実践的だったと思うけど...それ以上ってなんだ?」

 

「魔法陣の脳内生成」

 

「あー...」

 

ニアが魔法を使うときにやっているというやつだ。

 

「これができるのとできないのとでは大きな差がある。今のところできるのはニア一人だけだが...試してみる価値はある」

 

確かに、脳内で呪文を詠唱するのと、脳内で図形を描き魔力を通すのだと、練度にもよるが極めれば後者の方が早い。パッと図形が頭に浮かぶなら、一瞬で魔法を発動することができるようになる。

 

「できるかな...」

 

「できなければ普段通り呪文詠唱すればいいだけのことだ。まずはこれを見ろ。三秒で覚えるんだ」

 

リヒトが紙を取り出す。最初は何も書かれていなかったが、筆記の魔法によって魔法陣が描かれた。円や楕円、複数の多角形の他、図形を突っ切るように引かれた線に、いくつかの文字。魔法陣はそれらによって構成されていた。

 

思考速度の加速で体感時間を伸ばす。そして何度も魔法陣を見る。脳内に叩き込む。記憶速度を加速させ、長期記憶を大脳皮質に記録させる。

 

「終わりだ」

 

三秒が経過した。紙に書かれた魔法陣が消滅する。

 

「どうだ、覚えられたか?」

 

「ああ、一応な」

 

「じゃあ今ここで発動してみろ。周囲の水を操る魔法だから、被害は出ない。何も気にせずにやってみてくれ」

 

「なら遠慮なく...」

 

目を閉じて、先程覚えた魔法陣を頭に思い浮かべる。大丈夫だ、忘れてない。形はハッキリ思い出せる。それを頭の中で描き出す。

 

………

 

………

 

………なんとかできた...とてつもなく時間がかかった気がする。体感一分。目を開いて壁にかかっている時計を見ると、一分が経っていた。体内時計正確すぎる。でも一分は遅いな。練習したらもっと早くなるだろうか。

 

さて、あとは今作った魔法陣に魔力を流すだけ...あっ。

 

「どうした?」

 

「魔法陣できたのに霧散しちゃった...もう一回」

 

もう一度魔法陣を作り直す。一つ一つ線を描き、細部まで再現する。

 

さっきと同じくらいの時間がかかるも、魔法陣が完成する。あとは魔力を流し込めば発動するが...

 

「ダメだ。魔力を流そうとすると魔法陣が消えちゃう」

 

「ふむ...魔力を流し込む直前までは消えないんだな?」

 

「そうだけど...」

 

「おそらく、魔法陣を描いて保持するのと、魔力操作を同時にできないんだろう。魔力操作に意識を集中した瞬間、魔法陣の意識が持ってかれる。時間もかかっているし、諦めた方が良さそうだな」

 

練習してもどうにもならないのかな?まぁ早めに諦めて次の策を考えたほうが効率はいいんだろうけど。

 

「詠唱するしかないか...」

 

「いや待て。まだ諦めるのは早い」

 

「リヒトが諦めるしかないって言ったんじゃんか」

 

「諦めるのは脳内生成だ。生成と魔力操作を別にするから失敗するんだ。次は筆記の魔法で魔法陣を描いてみろ」

 

「そっか筆記なら線に魔力を既に含んでるから...やってみるか」

 

『筆記』

 

筆記の魔法を発動し、空中に線を描いていく。

 

……あっ、ミスった。もう一回...あっ。

 

「ダメだ、できない」

 

「描けない?間違って覚えているのでは?」

 

「違う。どんな魔法陣かは完璧に覚えてるんだけど、描き出すことができない」

 

「じゃあ一旦この紙に描いてみろ」

 

「…筆記じゃなくてもいいか?」

 

「ああ、何でもいい」

 

ペンを貸してもらい、紙に描いていく。

 

「これでいいか?」

 

「……確かに覚えてるみたいだな。筆記と相性が悪いのか...?」

 

魔法陣はちゃんと描けていたみたいだ。頭で描くのもダメ。筆記で空中に描くのもダメ。もう諦めるしかないか?

 

「ちょっと試したいことがある」

 

そう言ってリヒトは俺が描いた魔法陣の紙を持って俺から離れる。

 

「そこからこの魔法陣を起動してみろ」

 

「起動する?触れてないと魔力は流せないだろ?無理じゃね?」

 

「できる。昨日魔物に触れずに魔力を流し込んだだろう?同じような要領でできるはずだ」

 

「あれはもう触れるギリギリまで手を近づけたからできたんだけど...空気に流すのと、地面とリヒトを伝わせて流すのどっちでやればいいんだ?」

 

「両方やってみろ」

 

「ならまずは空気から...」

 

右手で拳銃のポーズを取り、指先を魔法陣に向ける。そして指先に魔力を集中させる。射出のイメージは霊○。いや、俺なら雷を撃ち出すイメージの方が感覚を掴みやすそうだ。イメージをレー○ガンに変える。

 

「…っ!」

 

指先から魔力の弾が放たれる。しかし魔力は空中で減衰していき、魔法陣に当たる直前に消滅する。

 

「これじゃダメか...なら次だ」

 

必要なのはイメージ。能力も魔法もスキルも魔力操作も、全てイメージが大切だ。どれだけ強固なイメージを保てるかで決まる。もしかしたら、筆記で魔法陣を描けないのは、そんなことできないという考えが俺の奥底にあるからかもしれないな。

 

けれど、これは違う。できるかもしれないと思った。なら、そのイメージを固めろ。祈れ。己の力を信じるのだ。

 

イメージは完了した。全身の魔力を操作し、まずは靴に流す。そこから地面の木に流し込む。木目に沿って流し、今度はリヒトの靴に流す。今度はリヒトの靴から皮膚の表面を通すが、いまいち流れが悪い。やはり生物に流すのは効率が悪いみたいだ。昨日は、砂埃に流したため抵抗されずに済んだ。非生物に流すことにしよう。

 

皮膚からズボンの裾に魔力を移動させる。そして裾と靴の間に線を作ってショートカットにする。そしてズボンから上着に魔力を流し、袖から紙に流す。

 

魔力が魔法陣にたどり着いた。魔法陣が起動する。大気中の水分が手に取るように認識できる。試しに水分を凝縮して、水の球を作ってみた。

 

「まさかできるとは...もう解除していいぞ」

 

言われた通りに魔力操作を解除する。

 

「魔力操作は結構教えてきたつもりだったが...ここまで上達するなんてな。やってみてどうだった?何を思った?」

 

「何を思ったかぁ...なんだろう、自分の体が魔力に乗って外に出ていく感じ?自分という存在が拡張されて、他のものと融合していくような...」

 

魔力操作中、ずっと体がふわふわするような感覚があった。魔力という自分の中の力が外に出てるからだろうか。自分が拡張されていくのは能力使用時にも感じていたが、魔力操作の時はそれ以上に感じた。

 

「なるほど、これなら...できるかもな」

 

「できるって何が?」

 

「悪いが今すぐにやらないといけないことができた。だからちょっと早いが実践を始める」

 

その前に何ができるのか教えて欲しいんだけど...

 

「今回は何の依頼だ?」

 

「いや、依頼じゃない。実践は庭でやる」

 

「庭で?」

 

「ああ、外出るぞ」

 

リヒトに連れられて裏口から庭に出る。

 

「今回はあれと戦ってもらう」

 

「あれって...」

 

リヒトが指差した先にいたのは、紫色の鎧を着て、紫の盾を持ち、サーベルを構えている魔物だった。物理軽減か魔法軽減のどっちなのかは見分けることはできないが、前に戦ったことのある魔物だ。いや、それよりもだ。

 

「なんで聖域内に魔物が?」

 

「捕獲したんだ。転移した魔物に、なんらかの残滓が残っていないかの調査と、魔法軽減の例外を探るためにな」

 

今の口ぶり的に、こいつは魔法軽減の方か。

 

「研究が終わったのでもう用済みになった。始末してくれ」

 

「あいわかった」

 

ダガーを引き抜く。

 

「ああ言い忘れていた。今回、魔法以外での攻撃を禁ずる。盾での防御は認めるが、それで攻撃することは認めない。使っていいのは魔法と魔力操作のまだ」

 

「えっ」

 

魔法軽減持ちに魔法でどう戦えと...

 

「あと、魔法は全てスキルで発動させろ。カスタムでの強化を禁ずる」

 

カスタムも封じられてしまった。威力を上げることすらできないし、どうすれば...

 

「速度操作も禁ずる」

 

俺の勝ち筋がどんどん潰されていく...

 

「あそっか。魔法軽減の例外があるのか。それを教えてくれるんだな?」

 

「捕縛魔法は効いた、ということだけ言っておこう。例外の魔法は戦いながら自分で調べてくれ。頑張れ」

 

「マジかよ...」

 

盾以外の装備を外す。

 

「ああでも雷装は使っていいぞ。どれだけ効くのか試してみたい」

 

よかった許された。爆破のコンボまで封じられたかと思った。

 

「私は奥で作業をしているから、終わったら来い。健闘を祈る」

 

そう言ってリヒトは研究所に戻って行った。

 

「やるっきゃないか...」

 

魔物に向かって歩いていく。魔物は一歩も動かない。よく見ると、足の真下に小さな魔法陣が描かれており、拘束されていることがわかった。

 

そして今、魔法陣が消えて拘束が解かれた。

 

「来る...!」

 

魔物が動き出した。サーベルを構え、切りかかってくる。

 

『水膜』『水噴』

 

水膜を使って靴と地面の間に水の膜を作る。ハイドロプレーニング現象という、タイヤと地面の間に水が入り込み摩擦力が失われる現象と近いことが起こる。そして水噴によって水を噴き出し、それによる推進力で真横に水平移動をしてサーベルを避ける。

 

『光弾』

 

水平移動しながら銃の形にした手から光の弾丸を連射する。背中に何発か命中する。しかし、あまり効果がない。すぐにこちら側に向き直り、走って近づいてくる。

 

「やっぱり効きにくい...!」

 

『土流』

 

滑りながら地面に触れ、魔物の足元を沈める。

 

『火刃』

 

手刀を素振りすると、軌道上に薄い炎の刃が出現する。若干のタイムラグののちに刃が発射され、鎧に命中する。しかし、やはりと言っていいが、傷はつかなかった。

 

『氷柱』

 

氷柱をまずは一発魔物の足元に当てる。沼になっていた地面がほんの少し凍りつき、脱出をさらに妨害する。さらに何発か魔物に撃ち込むも、こっちは盾で防がれた。

 

『水刃』

 

火刃の水バージョン。それを手から水を生み出して作り、首めがけて飛ばす。魔物は今沼に足を取られているため、狙うことは容易だった。しかし、魔物も首を狙われているのはわかっているようで、盾を軌道上に構える。

 

『軌道変更』

 

さっき射出した水刃の軌道を、自ら魔法で逸らす。盾をグルリと回り込んで鎧と兜の隙間に叩き込む。

 

「…これでもダメか」

 

首に刃を叩き込んだのに、魔物の首は飛ばなかった。やはり魔法は効きにくい。ダメージはあるのかもしれないが、ここからだと確認はできない。

 

「じゃあ次は...これだ」

 

『風塵』『風刃』

 

二つの風魔法を発動させる。同音異義語だが、効果は似ている。そして、合わせればコンボ技にもなる。風塵は文字通り、風で地面の塵やほこりを巻き上げる魔法。それによって巻き上がった砂埃を、風刃の魔法による風の刃の中に巻き込み、そのまま風刃を射出する。飛んでいった風刃は魔物の鎧、右肩の辺りに命中する。

 

「やっぱりそうか」

 

魔物の右肩に、微かだが傷がついていた。

 

「物理現象なら傷をつけることができる...!」

 

本来なら、風刃はただ風の刃を飛ばすだけの魔法に過ぎない。風の刃というのがそもそも現実的ではないというツッコミはしないものとするが、これだとあの魔物に傷をつけることなんてできない。風塵によって巻き込んだ砂埃が鎧に傷をつけたのだ。砂埃は魔法で生み出したものではない。よって、魔法軽減は意味をなさない。

 

「じゃあ次はこれだ」

 

『水分操作』

 

さっき魔法陣で発動させた魔法をスキルで発動させる。空気中の水分を凝縮させ、水の球を作り出す。そして水の球に推進力を与え、槍のように突き刺す。水の槍は先ほど傷をつけた右肩に命中し、鎧を破損させる。

 

先ほどの水刃と違うのは、魔法で生み出した水か空気中に含まれていた水かの違いだ。物理的に存在するものならこいつにダメージを与えることができる。

 

「物理現象を引き起こす魔法は...こいつだな」

 

『鎌鼬』

 

鎌鼬。空中に突如起きた真空が人体に触れて起こる事故...という説が出回っているが、空気中に突然人体が裂けるほどの真空が生まれるなんてことは現実には起こり得ない。寒いところで起こるあかぎれの一種という説や、巻き上げられた木の葉や石が起こす裂傷という説が真実に近いらしい。

 

しかし、ここは異世界。現実では起こり得ない出来事でも、魔法で起こすことができる。鎌鼬は空気を操作する魔法だ。それによって真空を生み出し、その副次的効果で相手を傷つける。

 

魔法で行っているのはあくまで真空を作り出すところまで。真空で傷をつけるのは物理現象の範疇なので、魔物に傷を与えることができる。流石に鎧を傷つけるのは難しいので、さっき破壊した右肩部分に真空を生じさせて、切り裂く。

 

「よしよし。あとは...そうだ。魔力操作も使えるんだったな。なら、こうしよう」

 

『水分操作』

 

空気中の水分を集める。地面に染み込んでいる水も集めて、剣の形に形を整える。

 

「そしてっと」

 

魔力操作をして、水の剣の表面と内部に魔力を流す。魔力を流し込んだ水は、まるで固体のように固まった。水分操作を解除しても、形は保っていた。武器の完成だ。

 

空気を剣にすることも考えたが、さっきの魔法陣を起動しようとしたときに、空気は魔力減衰が大きいのはわかっていたので選択肢から外した。水には普通に流せるので、こうした。

 

「これは魔法カテゴリーに入るのかは微妙だけど...まぁ魔法ってことでいいよね」

 

二、三回素振りをして調子を確かめる。うん、良さそうだ。

 

と、その時。魔物がやっと沼から抜け出していた。右肩が傷ついた魔物は左手に持っていた盾を投げ捨て、左手にサーベルを持ち替えた。

 

「防御を捨てたか。魔法しか使えない今の俺相手に盾が意味あるかって言われると微妙だけどな。さぁ、かかってこい」

 

水噴による水平移動で一気に魔物の懐近くまで接近する。

 

『障壁』

 

魔物は迎え撃つために左手のサーベルを振るが、利き手とは違う手のため速度が微妙に遅い。無事に障壁が間に合いサーベルは空中で堰き止められる。

 

「その腕、貰うぞ」

 

障壁を張ったため、左腕は狙えない。右腕を狙って脇の下から水の剣を振る。命中の瞬間、水の剣に流していた魔力を爆発的に増やして切断力を増強する。

 

スパンっと右腕が斬り飛ばされる。魔物がサーベルを手放し、片膝をついて右肩の切断面を押さえる。

 

「そんな痛そうにされるとちょっと困るんだけどなぁ...」

 

反撃が怖いので一応離れておく。

 

「こいつも解除しておくか」

 

魔力操作を止める。水の剣が形を崩し、ただの水となって地面に染み込んでいく。

 

魔力操作は魔力の消費が激しい。聖域内のため回復も早いが、能力で加速をしていないので水の剣を保ち続けていると、消費が回復を上回ってしまうのだ。最後の締めのための魔力を残すために解除した。

 

「さぁ、最後の締めと行こうか」

 

『触手・水』

 

背中から水でできた触手が何本も生えてくる。昨日戦ったトカゲが使っていた魔法だ。その日のうちにリヒトに教えてもらった魔法である。

 

『雷装』

 

体に電流が走る。背中から生えた水の触手にも、電流が流れる。

 

「ちと化け物じみた風貌になるから使うか迷ったけど...」

 

水の触手を振り回し、魔物に叩きつける。触手での攻撃自体にはあまり意味はない。魔法で作り出した水だ。魔法軽減の鎧に弾かれるだけ。

 

けれど、雷装は違う。電流は魔法軽減を無視してある程度のダメージを与えることができる。路面凍結と雷装・矢のコンボで拘束することができたことから、既に知っていたことだ。

 

「触手って人間側が使っていい手段じゃねぇよなやっぱ...すっごい戦いやすいのは間違いないんだけどさ」

 

触手と雷装の同時発動。それによる魔力消費が魔力操作と大差ないのはデメリットだが、複数の敵に、かつ広範囲に攻撃を仕掛けられるのは大きなメリットだ。電流で一時的に痺れさせて、動きを封じることができるのもいい。見た目は完全に悪側だが、積極的に使っていこうかな。強いし。

 

「…触手自体の威力がいまいちわかんねぇな。後で別の魔物に使ってみるか」

 

触手で何度も魔物を叩きつける。そのたびに電流が流れ、体がびくびくと跳ねる。

 

「空へ、ショーターイ!」

 

真下から触手を当て、空に向かって跳ね上げる。

 

「これ空飛べるのかな...やってみよ」

 

触手を地面に叩きつける。すると反動で空中に投げ出される。

 

「おおできたできた。んじゃっ、お前は下な」

 

今度は真上から触手を魔物に叩きつけ、地面に落とす。魔物が勢いよく地面に叩きつけられ、全身の鎧にヒビが入る。

 

「よっと」

 

触手を使って丁寧に着地する。

 

「よし、だいぶ使い方もわかってきたな。もうそろそろ終わらせるか」

 

雷装を解除する。そして触手で再度地面を叩いて空に飛び立つ。

 

「最強の物理現象をお見舞いしてやるぜ」

 

『火の粉』

 

手のひらからほんの小さな火の粉を生み出す。小さな小さな火種だ。それを地上に向かって落とす。

 

水の触手に雷装を流し続けた。触手は電気分解され続けていた。形を崩さなかったのは、常に水が生み出され続けたから。そのせいで本来よりも魔力消費が増えてしまったが、この一発を叩き込むための必要経費だ。

 

「爆ぜろ」

 

火の粉が水素と酸素の塊に接触し、大爆発が起こる。庭の大部分を埋め尽くす爆発は何もかもを吹き飛ばす...はずだった。

 

庭に損傷は一切なかった。なんらかの保護魔法だろうか。一定以上の威力を持った攻撃からの保護とかかな多分。そうでなければ土流で庭を泥沼にすることはできなかっただろう。

 

何もかもを吹き飛ばす爆発は、ただ一つのものだけを吹き飛ばした。跡形もなく消しとばした。まるで最初から存在しなかったかのように、魔物はその姿を消した。

 

「よっと。かなーり威力強かったな。触手がなかったら焼け死んでた」

 

水の触手を全身を囲むように配置していなければ、爆発の余波で死んでいた。思わず速度操作を発動しそうになった。使ったところで回避できるかと聞かれればわからないと言うしかないが、癖のようなものだな。

 

「ほんとこれ使いやすいな。攻撃防御移動全てに使える。もっと練習しよっと」

 

スキルで使っても自由に操作できる、継続発動型の魔法は扱いやすくて助かる。詠唱や魔法陣を使わなくても思った通りの挙動をしてくれるため、発動までに余計に時間をかけなくてもいいのも良い。逆に、単発型は使いにくいんだよな。苦手は克服した方がいいんだろうけど、どうしてもできるやつをもっと上達させたくなってしまう。

 

「っとと、終わったらリヒトのところ行かないと」

 

触手をしまい、研究所の中に戻る。

 

「リヒトー終わったぞー...地下か」

 

一階にはいなかった。多分地下室にいるんだろう。

 

「リヒトー」

 

「終わったか。思ってたよりも遅かったな。色々試していたのか?」

 

「えっ、あ、うん」

 

どうやらリヒトはもっと早く終わると思っていたらしい。確かにさっさと触手だして爆破させていたらすぐに終わったんだろうけど、流石に買い被りすぎだと思うんだよな。雷装があるとはいえ、速度操作を封じられているんだから速攻を仕掛けるのは難しいわけだし。

 

「ってか見てなかったのか?」

 

いつもなら千里眼的な魔法で俺が戦っているところを見ているはずだけど、今回は見ていなかったらしい。でなければ、色々試していたのかなんてこと言うはずがない。見ていたならもっと別の言葉をかけてくるはずだ。

 

「ああ、作業に集中していたからな」

 

何の作業だろう。作業机っぽいやつの上を、背伸びしてリヒトの肩越しにチラリと覗き込んでみる。

 

「これ...本?」

 

「まだ未完成だがな」

 

作業って本を作ることだったのか。ってか何の本だ?

 

「今日はここで解散にする。明日までには完成させるから朝イチで来い」

 

「わかったけど...それってなんです?」

 

「これは...君、カリヤ専用の魔導書だ」

 

この、明日完成するこの魔導書が、俺のこの世界での戦いを大きく変えることになるのを、まだ、リヒトを除いて誰も知らなかった。




ちょっと前の話で書いていた、呪文を考える必要がなくなるってやつの理由が最後に出てきた魔導書ですね。
どんなものなのかは次回のお楽しみに...
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。