前世の俺がすでに転生特典決めてました   作:ダイヤモンドリリー

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8694字。

半分戦闘、半分会話パートです。


他者の魔法の否定

魔法拡散(ディスタブマジック)

 

それは、周囲に大規模な結界を貼ることで発動する魔法。

 

その結界内では、魔法拡散を発動した術者以外の魔法はたちまち魔力に戻されてしまう、対魔法使い専用魔法。

 

魔法使いがこれを喰らえば、ほぼ100%負ける。

 

死にたくなければ、全速力で逃げろ。

 

99ページ右上 黒のみ 火球

 

火球の魔法陣を発動し、手のひらに炎の球を作り出す。けれど、すぐに魔力の塊になって霧散してしまった。

 

「分解される...か」

 

「逃げるぞ神の使い!」

 

青年が叫ぶ。

 

「いや、お前だけで逃げろ」

 

「何言ってんだ!そいつはじきに死ぬ!放っておいて逃げんぞ!」

 

「ダメだ。奴は死なない。もう再生してやがる」

 

魔物は再生をすでに完了していた。ローブは傷ついたままだが、中身の肉体は完璧に治っていた。魔素の流出も止まっているみたいだ。

 

「なら尚更逃げねぇとヤベェだろ!残っても殺せるわけねぇ!」

 

「ここで殺さないと、さらに犠牲者が増えるかもしれない。それはあんたも嫌だろ?」

 

「…っ!」

 

「もうこいつは一般人の手に負えない。奴は俺が殺す。いいな?」

 

「……ああ、わかったよ」

 

「まぁほんとにやばいと思ったら逃げるからさ。少なくともお前が逃げるくらいの時間は稼いでやる。さっさと行け」

 

「死ぬなよ」

 

「死なねぇよ。お前こそそこらの雑魚敵に襲われて死ぬとかはやめてくれよ?」

 

ダガーを引き抜き、構える。

 

「行け!走れ!」

 

青年と俺は、真反対に向かって走り出す。そして魔物めがけてダガーを振る。魔法を撃とうとしていた魔物は俺が振ったダガーを避けたため狙いが逸れ、あらぬ方向に魔法が飛んでいく。

 

「避けた...やっぱ物質透過は使えねぇみたいだな!」

 

ダガーの切っ先を向ける。

 

「さっきは時間稼ぎがなんだか言ったがよォ、別に殺しちまっても構わねぇってなァ!」

 

ダガーを何度も振る。その度に魔物は身を捩り、なんとかといった感じで避けていく。

 

「チッ、ちょこまかと...」

 

傷が治るまでの間に結構な量の魔素が流出したみたいで、魔物のサイズが結構小さくなっていた。けれどそのせいで身軽になり、木と木の間を上手く抜けて避けている。

 

「って危ねぇ!」

 

魔物の杖が光ったかと思った瞬間、不可視の風の刃が俺の腹めがけて飛んできた。なんとか後ろに跳ぶことで避けることができたが、あとほんの少し刃が速ければ俺の体は上下に真っ二つにされていたことだろう。

 

「魔法の威力が上がってる...魔素のせいか」

 

明らかに魔法の質が上がっている。傷が完全に再生していることといい、魔法拡散が使えてることといい、急に使える魔法も多くなっている。全て、周囲に流出した魔素のせいだろう。

 

魔素は体内に含んでいるだけでも十分な強化になるが、周囲に漏れ出した魔素に触れる方がより強化される魔物もいるのだろう。少し前に戦った幼虫がいい例だろう。体内に溜まっていた魔素が外に出たことで初めて蛹までの速度が加速し、蛹に変化した。同じように、周囲の魔素によってサポートを受けているのだろう。

 

「こっちは使えないってのにお前だけ使えるってずりぃよな...」

 

鞄を肩から下ろし、放り捨てる。魔法を使えないのなら、魔法図鑑もいらない。戦いの邪魔になるだけだ。

 

「でも、前に戻っただけだ。悪いけど、俺はこっちの方が得意なんでなァ!」

 

地面を蹴り、能力をフル活用して秒速40メートルで魔物に近づきダガーを十字に振る。ズバッと魔物の体が斬り裂かれる。

 

「なぜかは知らんが能力は封じられねぇみたいだなァ!」

 

魔力を使ってはいるが、厳密には魔法ではないからなのか。能力は魔法拡散の効果を受けないみたいだった。

 

周囲の木々を足場にして縦横無尽に跳び回り、すれ違いざまに魔物を斬りつけていく。

 

『雷装・剣』

 

「もう一つ!物理的に起こったことを再現したスキルは分解できない!」

 

電流が魔物に流れ込む。雨で濡れているのもあって、ロスなく身体中を痺れさせる。

 

全てのスキルを使えるわけではない。実際に火をつけて体得した火装シリーズや、雷を受けたことで得た雷装シリーズなどは問題なく使える。しかし、フレアに氷結付与をかけてくれたおかげで得た氷装シリーズは使えない。魔法の効果で手に入れたものだからだ。氷装・矢も、魔法の力で手に入れたステラの矢を借りたことで得たので使えない。あくまで使えるのは物理のみ。

 

けれど、雷装を使えるのなら十分だ。

 

「焼け焦げろ!」

 

秒速40メートルの速度で電流を纏ったダガーを振る。電流が弾け、切断面を焦がす。

 

だが、すぐさま再生が始まり、傷が埋まる。

 

「再生早いな。ならもっと速く、再生速度を上回るまで!『雷装』!」

 

身体中に電流が走る。速度が更に加速する。

 

「まだ...まだ!」

 

魔力を全身に流し、身体能力を強化してさらに加速をする。魔力操作は魔法拡散の効果を受けない。魔法を魔力に戻すのだから、純粋な魔力は干渉を受けないのは当然だ。

 

さらなる加速によって速度は既に秒速70メートル。時速に換算すると252キロメートル。新幹線の平均速度並みの速さだ。流石にここまでの加速は初めてだが、思考速度や反射神経の速度も上昇させてなんとか体に脳を追いつかせる。

 

「っ、ミスった...!」

 

速度を生かして魔物が魔法を撃つ前に叩く。そうしてきたが、一瞬撃たせる隙を作ってしまった。超広範囲の魔法が発動し、俺を飲み込まんと光の奔流が迫る。

 

「まずは解析!」

 

バックステップをしてまずは魔法から距離をとり、どんな魔法か確認する。光が周囲の木を飲み込み、通り抜けていく。すると、木はみるみるうちに腐り始めた。

 

「腐敗か!」

 

触れたら腐敗する。当たったら死は逃れられないだろう。効果範囲はわからない。全力で離れれば避けること自体は簡単だ。けれど、そうすれば魔物を取り逃してしまうかもしれない。こいつは今、この場で倒しておきたい。

 

「なら、前に進むのみ!」

 

物を腐食させる光が迫ってくる。周囲3.3メートルにまで近づいてくる。

 

「減速!」

 

能力の範囲内に入った腐食の光を片っ端から減速させる。

 

「そして...ここだ!」

 

減速させたことで、減速されていない箇所との間に亀裂が生じる。そのズレが時間が経つにつれてどんどん大きくなっていき、やがて人一人分通れるくらいの隙間ができ、その隙間を通って光を避ける。

 

「それも見えてるよ」

 

回避した先に大量の弾幕が張られていたが、速度探知で全て見えていた。自分に近づいてくる弾は減速させ、移動先にある弾は加速させて逃げ道を確保する。

 

「俺にこの手の弾幕は通用しねぇんだよ!」

 

加減速をうまく使えば、存在しなかったはずの逃げ道を作り出し、不可能弾幕でさえも突破することができる。たとえ全方向から隙間のない攻撃が飛んできたとしても、避けることができるだろう。

 

「ってなわけで今度は俺のターンだ!もうお前のターンは回ってこないから覚悟しろよ!」

 

ダガーを振り、全身を斬り裂く。

 

「この速度じゃもう再生も追いつかねぇみたいだな!」

 

若干だが、再生の速度を上回るようになってきた。どんどん傷が増えていき、魔素が漏れ出していく。

 

「もうそろそろお前も限界だろ!お前の中の魔力が減っているのが手に取るようにわかるぜ!」

 

今、この場のマナ比率は魔素の方が極端に多い。そのため、魔物の魔力回復速度は、俺が聖域に入っているときの回復速度と同じくらいにまで速くなっている。本来なら魔力が減ることはない。

 

けれど、魔法拡散を発動していたり、ダガーでつけられた傷を常時再生し続けていたりと魔力消費が激しくなっていて、そこに速度操作での回復速度減速と、魔素が漏れていることが原因である魔力総量の減少が重なり、みるみるうちに魔力が減っていた。速度探知で、魔力の流れが乱れているのも確認した。間違いはない。

 

「終わりだ!」

 

二本のダガーが走り、スパンっと魔物の体を上下に両断する。

 

今までのように再生が始まる。上半身を起点にして肉が盛り上がるようにして下半身が生成されていく。

 

しかし、途中で再生が止まる。傷は塞がってはいるが、元々あったはずの足が消失していた。

 

「やっと魔力使い切ってくれたか...じゃあな」

 

首を落とし、その命を絶つ。

 

「はぁーーー...疲れた。最近魔法ばっかでちゃんと動いてなかったからな。こりゃ久しぶりに筋肉痛なりそうだ」

 

軽く整理体操をして体を伸ばす。

 

「肉弾戦の感覚取り戻さないとなぁ...何度も足滑りそうになったし」

 

雨と水素爆発で生まれた大量の水が草の表面についており、たまに足を滑らしそうになった。途中からは腐食のおかげで草がなくなり走りやすくはなったからよかったが、もう少しフットワークの強化はしたほうがいいだろう。能力を使いこなすには、機動力は必要不可欠だ。

 

「それにしてもまさか魔法拡散を使ってくるなんて...心臓バクバクだよ死にそう」

 

魔素を流出させて弱体化させるのは、巨大化した魔物に対してはベストと言える戦い方なのだが、こうも二連続で悪い状況に発展するとなると安易にやってはいけないのかもしれないと考えてしまう。縮小させた方が戦いやすいのはもっともなんだが、時と場合によるなこれ。相手によって変えた方がいいかもしれない。特に魔法使いを相手取るときには気をつけないとだな。

 

「魔法拡散...やっぱ強いな。俺も使えるようになりたーい」

 

魔法拡散も魔法図鑑に載っている。魔力さえあれば使えるようにはなるだろう。もっとも、9928ページあるうちの9926、9927ページの見開きに描かれている魔法陣なので、実質リヒトの知っている魔法の中でもっとも難しい魔法ということであり、体得までの道のりはものすごく険しいのだが。

 

発動自体は今の魔力量でも可能ではある。しかし、今発動すると範囲はとても小さく、さらにものの十秒程度で魔力が切れてしまう。実践では使えない。まぁそもそも、自分以外の人が魔法を使えなくってしまうため勇者御一行に加入したら使い所がなくなりそうだけど。

 

ちなみに9928ページに描かれている魔法陣は魔法図鑑を魔道具たらしめているものであり、大量の保護魔法や魔力の効率化、ページ数の増加を可能にするようなさまざまな魔法陣が描かれている。戦いに使うような魔法陣はひとつも描かれていない、唯一のページだ。

 

「そのためにはもっと魔力量を増やさないと...今回も魔力ギリギリだったしな」

 

戦闘中さんざんイキって虚勢を張り続けていたが、魔力はあと少しで切れるところだった。正直に言って結構危なかった。あと十数秒もすれば無くなっていただろう。能力に雷装に魔力操作を同時に使っていたから当然なのだが、あと少し違えば死んでいたのは俺だっただろうな。

 

「もっと修行しないとな...よし、そろそろ外に出るか」

 

森の外に向かって足を踏み出そうとする。

 

「っとと、忘れてた。鞄回収しないと」

 

戦闘中に鞄を放り投げていたのを急に思い出した。回収するために放り捨てたところまで歩く。

 

「…待てよ?まさか腐食してたりしないよな。ちょっと怖いぞ」

 

腐食の光がどれだけ広がっていったのか確認していない。もし鞄のところまで光が届いていたとしたら...魔法図鑑は保護魔法がかかっているから腐食していないだろうが、それ以外のものは腐敗しているかもしれない。

 

「無事であってくれよ...!」

 

腐敗して、草も木も全て朽ち果てた森の中を歩く。

 

「あった!」

 

鞄を見つけた。地面の草を見ると、ちょうど腐敗の境目に鞄が落ちているみたいだった。

 

「よかった無事で...あっ、無事じゃねぇ」

 

背負おうとして持ち手を掴んだら、ボロッと崩れ落ちた。他にも、肩にかけるショルダーハーネス部分も腐敗しており、使い物にならなくなっていた。

 

「マジかぁ...結構気に入っていたのに...買い換えるしかないか」

 

鞄を両手で抱える。持ち手も肩掛けも腐敗してしまったので仕方ないのだが、両手が塞がるのはちょっと怖い。魔法を使えばいいだけだが、今魔力が枯渇しかけているのであまり頼っていられないのも事実。魔物に出会わないようにリアルラックに頼るほかないな。

 

「帰るか」

 

本当はもう二、三個魔物を倒しに回りたかったのだが、鞄がこれではちょっと厳しいのでカイスに帰ることにした。お昼ご飯にちょうどいい時間だしな。お腹空いたし食べておきたい。

 

「カイスの方角は...あっちだな」

 

腐敗によって開けた空を見て太陽の位置を確認、今の時刻と合わせて方角を把握する。

 

「さーて行きますか...って誰だあいつ」

 

カイスのある方角を向くと、木々の間に女の姿が見えた。暗かったのと、俯いていたのもあって顔はよく見えなかった。かろうじて見えたのは、栗色の髪と、なぜか腹部分に穴の空いた服と、赤青と左右で色の違う靴だった。

 

というか、なんでこんなところにいるんだ?今さっきまで戦闘をしていて魔法が飛び交っていたはずだ。魔法拡散の結界もあったはず。直接魔法が飛んでくることはなくとも、音くらいは聞こえてもおかしくない。それなのに、なんでこんなところに女一人で歩いているんだ?

 

「おーいちょっとそこのあんた!一体そこでなにを...っていない?」

 

声をかけながら近づくも、木の影に入って一瞬姿が見えなくなってから姿を消してしまった。どこを探しても見つからなかった。

 

「どこ行った?探知の魔法を...ダメだな。魔力足りないや」

 

探知の魔法を使おうとしたが、魔力が足りなくて断念する。

 

「ってか何を気にしてるんだ俺は...もうあの魔物は殺したんだから誰がいようと関係ないじゃんか。普通の魔物くらいならここに来るやつなら平気で殺せるだろうし、わざわざ気にかける必要ないな。まったくこれだからお節介ってやつは...」

 

他人を気にしすぎるのは癖だ。それが良いか悪いかはわからないが、自分の都合を無視して周りを優先しすぎるのはダメだろう。他人に踏み込みすぎて自分の心がやられるのは避けたい。

 

「気にしない気にしない...」

 

心配する気持ちをなんとか押しとどめ、カイスに向かって歩き始める。後ろ髪を引かれるが、「気にしない気にしない」というふうに呪文を繰り返し唱えて自己暗示をかけていく。実際に魔法で暗示をかけた方が早いだろうが、副作用が怖いのでやらないでおく。

 

「ある程度魔力回復したら走るか」

 

振り切った俺は後ろを振り返らず歩き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リアルラック最高!」

 

魔物に一回も襲われずにカイスまで帰ることができた。途中から秒速40メートルで走ったのもあるが、ほとんど遭遇することすらなかったので運が良かったのだろう。

 

「ギルド行く前に鞄買うか」

 

このまま荷物抱えたままなのも面倒だ。適当な店に寄って、似たような鞄を買う。

 

「中身は無事でほんと助かったぜ...」

 

鞄の中身を新しく買った方に移す。前の鞄は店員に渡した。腐食していない部分を切り取って再利用するらしい。リサイクルの意識高いっすね異世界。

 

「よし、ギルド行こっと」

 

新しい鞄を背負い、ギルドまで歩く。数分で辿り着き、中に入る。

 

「おっ、来た来た。こっち来てこっちー!」

 

椅子に座っているサーマルが手を振りながら呼んでくる。

 

「あんた受付の仕事ほっぽり出して何やってんだよ。またサボりか?」

 

そう言いながら机を挟んで向かい側の椅子に座る。

 

「違うって。カイスまで戻ってくるのを見たから、他の人に押しつ...頼んで代わってもらったんだよ」

 

「今押し付けたって言おうとしただろおい」

 

「ほんとだもん!この依頼は私の担当になってるからある程度の融通は効くって上司言ったし!」

 

「そうなのか...ほんとに?」

 

「信用ないなぁ...あっ、鞄変えた?」

 

「よく気づいたな。結構似てるの買ってきたのに」

 

「そりゃ見てたし」

 

「そうじゃん。驚いたのに損した」

 

やっぱサーマルはサーマルだな。言わなければ俺も気づかなかったのに、馬鹿正直に言うところが本当にもう...ね。

 

「んで、今回倒したのは二体だけなのね?」

 

「そ、意外と強くて時間かかっちゃったんだよね。鞄壊れちゃったし、ちょうどいい時間だったから一度戻ってきたんだ」

 

「ってことはまた行くわけ?」

 

「ああ、お昼ご飯食べてから行くつもり。あと残ってる魔物は三体だから、今日のうちに二体殺して、明日最後の一体を殺しに行こっかなって」

 

「なるほどねー。というかあのローブの奴凄かったね。まさか魔法拡散を使えるだなんて」

 

「あーそれ俺も思った。魔素の影響ってやばいな。予想外の状況が何度も起こる」

 

「魔素は魔物の原動力みたいなものだからね。魔物の種類にもよるけど、体内に溜まってるときよりも周囲に充満しているときの方が強化されやすいみたいだし」

 

「巨大化だけでも面倒だってのに...なんとかなんないもんかねぇ?」

 

「さぁ?とりあえず魔法使う系の魔物は使える魔法が一気に増えるみたいだから気をつけたらいいんじゃない?物理系の魔物は身体能力強化だと思うけど、その速度を操る力があれば問題ないでしょ?」

 

「まぁそうだけどさ。できる限り面倒事は減らしたいんだよ」

 

「あっ、それ私もわかる」

 

「お前の言う面倒事って普通の仕事だろ。面倒くさがんなし」

 

「まーた私のことディスる...」

 

「なんかマナ自体を操作することができる魔法とかないものかねぇ...魔素を流出した側から周囲に散らせられるような魔法が欲しい」

 

「あそっか。出てきた魔素を全部散らせちゃえば強化されないのか...速度操作でできたりしないの?」

 

「んー厳しいかな。吹き出す速度を加速させても、能力範囲外に出たら元の速度に戻っちゃうからあんまり意味ないんだよね。そこまで遠くまで散らせないんだよ」

 

「へー。じゃあもう無理じゃない?マナを直接操作する魔法って聞いたことないし」

 

「魔素を聖素に変えたりとかは...」

 

「それは勇者にしか出来ないやつだね」

 

「あっ、勇者なら出来るんだ」

 

「そうそう。勇者しか使えない聖剣の機能の中にそんなのがあるって聞いたことがあってね」

 

「へーそんなのが...って話込んじゃったけどお前そろそろ仕事戻ったほうがいいんじゃないか?流石にこれ以上は怒られる気が...」

 

「…確かに。じゃあねー行ってくる」

 

バッと立ち上がり、サーマルが受付の方に戻っていった。

 

「報告終わりー!ご飯食べに行くか」

 

俺も立ち上がる。そしてギルドから出ようとしたその時だった。一人の男がギルドの扉を開け、中に入ってきた。

 

「あっ、あんときの魔法使い!」

 

その男は俺が逃した青年だった。

 

「先に逃げた僕より早く帰ってきてる...あの魔物は倒せたのか?それとも時間だけ稼いで逃げてきたのか?」

 

「ギリギリだったけどちゃんと殺してきたよ」

 

「そうか...ありがとう、ミリフの仇を取ってくれて」

 

「いいよ感謝なんてしなくても。こっちも依頼であいつを倒さなきゃいけなかったからさ。協力してくれて助かったよ」

 

「こっちも感謝なんていらない。神の使いと一緒に戦えて光栄さ。ミリフも一緒なら良かったんだけどな...」

 

「…なぁ、ちょっと聞いていいか?」

 

「なんだ?」

 

「なんであそこにいたのかってのは依頼があったからだろうから聞かないでおくが...さっきから言っているミリフというのは名前的に女の人か?」

 

「そうだが...それが?」

 

「そのミリフって人、まさか髪の色は栗色で、左右で色の違う靴を履いていたりしないよな?」

 

「…どうしてそれを?」

 

「ついでに聞くが死因は腹を貫かれたからとかじゃないよな?」

 

「だからなぜそれを知っている?」

 

「…見たんだよ。あの森から出ようとした時に、さっき言った特徴の女の人が歩いてるのをさ」

 

「え...生きて、た?いや、でも僕は確かに水が腹を突き破るのを...」

 

頭を押さえながら呟く青年。

 

「おい、そこの坊主」

 

急に近くにいた男が声をかけてきた。

 

「まさかあんた死体の処理をしなかったのか?」

 

「なんでそんなこと...それに魔物に襲われててそんなことしてる暇なんて...」

 

「ルーキーか...じゃあそいつが見たやつはアンデッドだ。もう生きていない」

 

「アン...デッド?」

 

「それすら知らないのか...いいか、アンデッドってのはなぁ...」

 

男は懇切丁寧に説明してくれた。

 

人間は死後、周囲の魔素を吸収するようになるらしい。そしてその魔素の量が一定量を超えると動く死体、アンデッドになるそうだ。アンデッドが生まれるのを防ぐため、この世界では死人が出た場合、魔素の存在しない聖域に移動させるか、心臓を破壊しなければならないことになっているようだ。心臓が壊れればアンデッドの活動も止まるらしい。

 

「わかったか?」

 

「はい...」

 

「処理は自分でやるんだな。知り合いが人を傷つけるのなんて嫌だろ」

 

そう言い残して男はその場を離れていった。

 

「…どうするんだ?」

 

「決まってる...ミリフが人を傷つけるなんてことさせない。止めてくる」

 

青年がギルドを出ようとする。

 

「一人で行く気か?」

 

「ああ、これは僕が招いた問題だ。僕だけで蹴りをつける」

 

「あそこまで行くのにどれくらい時間がかかると思ってるんだ?」

 

「相当かかるだろうね。でも、行くしかない」

 

ふむ、決意は相当なものみたいだ。

 

「そうやって聞いてくるってことは、まさか僕について行こうとしているのか?」

 

「そうだが?」

 

「どうしてさも当然かのように言えるんだ...」

 

「俺がいればあの森まで数分で行ける。早く着けたほうがいいだろ?」

 

「…いいのか?」

 

「いいってことよ。早速行くぞ。ミリフをちゃんと天国に送り届けてやろうぜ」

 

「……てんごくってなんだ?」

 

「おおぅカルチャーショック」

 

この世界には天国はないんだなと新たな発見をしながら、俺と青年はギルドを出て、森へと向かった。




最近サブタイトルめんどくさくなってきて、初期の頃のはっちゃけ具合からは想像できないくらい真面目になってきてる...もうそろそろハジケないと(使命感)
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