前世の俺がすでに転生特典決めてました 作:ダイヤモンドリリー
カリヤくんは今回あまり活躍しません。
「着いたぞ」
カイスから出た俺たちは森までぶっ通しで走ってきた。
「はぁ...はぁ...つ、疲れた...」
青年は息が完全に切れていた。動けているからスタミナは無くなっていないだろう。
「な、なんで君は...はぁ、そんな平然と...してられるんだ?」
「いつもやってることだからかな。慣れだよ慣れ」
だいぶスタミナも増えてきたしな。スタミナ減少速度を減速させれば十数分間全力ダッシュしても問題ないくらいにはなってきている。
「というかあんたのスタミナが少ないだけじゃないか?もう少し動けた方がいいと思う」
「数分間...走り続けられるなら...十分だろ...」
「一応言っておくけどスタミナ減る速度を減速させてこれだから、もしやってなかったら途中で倒れてたと思うぞ」
「嘘だろ...」
「まぁ帰りは俺が背負って帰るよ。安心しな」
「それならいいが...」
「息整ったら中入るぞ」
青年の息が整うのを待ち、森の中に入る。
「出来るだけ早く来たけど...もう移動してる可能性あるんだよな」
アンデッドは脳がやられていなければ、普通の人間と遜色ない思考をすることができ、自由に動き回ることができる。この森から出ていてもおかしくはない。
「森の外に出ていたら厄介だな...町に入られたら終わりだし、なんとかして探さないと」
アンデッドは聖域にも普通に入ってくる。それに加えて、適当な布でも漁って傷を隠してしまえば普通の人間と見分けがつかなくなるため、そうなる前になんとか見つけ出さないといけない。町に潜伏されたら、いつどんな騒ぎが起こされるかわかったものではない。
「どうやって探そうか...あんたが呼び掛ければ近づいてきたりしないかな?」
「来るかもしれないが...大声出せば他の魔物も来るだろうな。やるわけにはいかない」
「そうだよなぁ...探知で探すしかないか。とりあえず森の中心に行こう」
二人で森の中を歩く。
「トドメは任せていいよな?」
歩きながら青年に聞く。
「ああ、僕の手で終わらせるよ」
「迷うなよ。何があっても、何が起こっても」
「今更迷うつもりはない。僕がもう少し強ければミリフも死なせずに済んだんだ」
「あー...自分のせいで死んだって思うのはやめておきな。死んだのはあの魔物のせいじゃねぇか。ひいてはあいつを巨大化させた魔族のせいだ。あまり背負い込み過ぎるといつか潰れるぞ」
「…そんなふうに簡単に割り切れたらいいんだけどな」
「まぁずっと引きずるのも悪いわけじゃない。死んだ人の無念を背負っていける覚悟があるなら、それでも俺はいいと思うよ」
「……君、無責任にものを言うね」
「無責任でいいだろ。決めるのはお前なんだから。俺じゃない」
まだ俺高校生だし。大人みたいに全ての言動に責任なんて取れない。
「俺の話なんて聞き流してくれても構わない。選択肢を列挙してるだけだしな。あくまで選ぶのはお前。自分で考えて、自分で選ぶのが一番いいんだ。人の意見になんて流される必要はない」
「…そうだな」
「今、人の意見に流されなくてもいいっていう人の意見に同意したわけだけどそれについてどう思う?」
「じゃあどうすればよかったんだよ」
「さぁ?自分で考えな」
うまい具合に緊張をほぐすことができただろうか。かなーり適当にしゃべっていたけれどなんとかなった気がする。
「もうそろそろ腐敗の場所までつくはず...あっ、そうだ聞きたいことあったんだった。聞いていい?」
「なんだ?」
「名前なに?」
「…そういえば名乗ってなかったな。忘れていた」
「基本お前って呼べば意思疎通できたからな...なんか熟年夫婦みたいで嫌だけど」
「嫌な例え方するな...俺の名前は「カイ」...えっ?」
目の前にいる青年、カイの名前を呼ぶ女の声。カイの後ろに女の姿が見える。
「この声は...!」
「やっほ、カイ」
カイが振り返る。
「ミリ...フ?」
そこには、栗色の髪を持ち、赤青と左右で違う色の靴を履き、服と土手っ腹に穴を開けた女が立っていた。
「久しぶり、だね。半日も経ってないけど。待ってたよ」
「その腹...やっぱり...」
「ああ、これ?うん、私死んじゃったみたい」
「…自分で何を言っているのかわかっているのか?」
「わかってるよ。私、アンデッドになっちゃったんでしょ?」
なんてことないようにミリフが言う。記憶は受け継いでいるのか。
「…僕のこと、恨んでいるか?」
「どうしてそんなこと聞くの?」
「だって僕のせいで君は...」
「そうだね。でも私はカイのこと恨んでないよ?」
「そう...なのか?」
「うん。だって私が死んだのはあの魔物のせいでしょ?それに、こうやってアンデッドとして生き返れたしね。恨んではないよ」
ここまでなんの澱みもなく言葉を紡いでいるミリフ。そこに、言い知れぬ恐怖を感じた。
「おい、カイ。やらないといけないこと、忘れてはいないか?」
「いや、ちゃんと覚えてる...なぁミリフ、僕はこれから君のことを...」
「ねぇ、その前に一つ、やりたいことがあるんだ。生き返ったらしたかったことがね」
「…なんだ?」
「私、カイのこと好きだったんだ」
「っ⁉︎」
カイが驚いたような動作をとる。そんなカイとは裏腹に、俺は冷静になってダガーに手を伸ばしていた。すぐにでも行動に移せるように、速度探知も発動して警戒をする。
「ずっとずーっと一緒にいるんだと思ってた。どこに行くにしてもずっと一緒で、一緒に戦って、一緒に暮らして...」
「ミリフ...」
「これからもずっと一緒だよ。カイ」
「えっ?」
「え、じゃねぇしっかりしろ!」
惚けているカイの脇腹を蹴り、横に跳ね飛ばす。そしてさっきまでカイが立っていた場所を高圧の水のレーザーが突き抜ける。
「なんで邪魔するの?君は誰?」
「俺はカリヤ、神の使いだ。あんたを殺した魔物を殺した男さ」
「へー、そうなんだ。邪魔しないで。これは私とカイの問題なんだから」
「ミリフ...なんで...」
「なんとなくどう返答されるか予想はつくが...一応聞いておく。どうしてカイを殺そうとした?」
「えっ?だって...」
首を傾げ、顎に指を当てながら言う。さも当然のように。
「殺せばアンデッドとしてずっと一緒に生きていけるでしょ?」
「っ...」
「やっぱそうか...」
「私間違ったこと言った?」
「さぁな。俺は間違ってると思うが...間違ってるかはこいつが決めることだ」
カイを親指で指差す。
「どうする?一度死んでずっと二人で生きていくか、それを拒むか。お前はどうしたい」
カイに聞く。二人がそうしたいならそうすればいい。人に害をなすなら断るべきだろうけど。
「僕は...」
「カイなら私を選んでくれるよね?」
「一つ...聞いていいか」
「なに?」
「僕がアンデッドになったら、ミリフは僕と何がしたい?」
「ん?んーっとねぇ...ちょっと待って考えるね」
ミリフは考え込む。そして顔を上げた。
「カイス、滅ぼしちゃお?」
「っ...そんなことできない」
「えっ、どうして?私たちならきっとなんだってできるよ?」
「そういうことじゃない!できるできないの話をしてるんじゃないんだ!」
「じゃあどういうこと?」
「そんなことやりたくない!」
「私とでも?」
「そうだ!」
「そっかぁ...それじゃあ仕方ないね」
ニコッと笑顔を向けてくる。
「死んだらやりたくなるよ、きっとね!」
ミリフの周辺に水の玉が浮き出す。そしてそれが槍のような形状に伸び、カイの体を貫かんとする。
「くっ!」
転がるようにしてなんとか避けたカイ。しかし、何度も水の槍は襲いかかってくる。
「なんで避けるの!一回で死ねないと辛いだけだよ!」
「僕は君の仲間にはならない!君はもう...ミリフじゃない!」
「よく言った。やっと覚悟が決まったようだな」
水の槍をダガーで弾き飛ばし、魔物に回し蹴りをして吹き飛ばす。
「ほらいくぞカイ。狂った偽物を止めるんだ」
「ああ。これ以上、僕の中の思い出は汚させない」
「いてて...酷いなぁ。私女の子だよ?」
「それ以前に魔物だろ」
「ひどーい。でも、こんな体でもカイは私のこと好きでいてくれるって信じてるよ?」
「確かにミリフのことは好きだった」
「じゃあ両思い⁉︎」
「でもそれは今のお前じゃない!もう喋らないでくれ!」
「…そんな酷いことカイが言うわけない...そっか、おかしくなっちゃったんだねカイ!今元に戻してあげるよ!」
言ってることがメチャクチャだ。これがアンデッド化の影響だな。
アンデッドになった場合、その人間の人格は大きく歪む。その歪み方はさまざまで、好きだったものが嫌いになり、憎んでいたものを愛すようになる人格の反転が起こったり、思いが突き抜けすぎて暴走するケースもあるみたいだ。今回は後者だろう。好きが突き抜けて、その相手と一生過ごすために殺そうとしているのだ。
ちなみに、どのパターンだったとしても、善悪が反転しているのは共通しているようだ。やることなすことが全て、最終的には悪とされていることに帰着する。その人の人格を捻じ曲げ、魔物にしてしまう。それがアンデッドという現象だ。
魔物が周囲に大量の水を生成し、歪んだ愛情と共に飛ばしてくる。
「悪い!トドメだけじゃなく、最初から最後まで任せてもらえないか!」
カイが水を避けながら俺に言ってくる。
「わかった。二人の戦いだ、好きにするといい」
「ありがとう!」
「だが、お前が死にそうになったら迷わず介入させてもらう。それでもいいよな?」
「ああ!そうしてくれ!」
カイが杖を構え、魔法を発動させる。熱を操り、大量の炎を放つ。
「どうして抵抗するのさ!私と一緒に行こうよ!」
「……」
「ダンマリ?沈黙は了承ってことでいいの?」
「……」
カイは答えない。こいつはもうミリフじゃない。答える必要もない。そう思っているのだろう。強いて言うのなら、この攻撃自体が返答だろう。ついていく気はないと、そう言っているのだ。
水と炎。炎は水を蒸発させ、水は炎を消火する。元々相棒同士だった魔物とカイが殺し合う。本来なら互いに助け合っていたはずの二人が、片や終わらせるために、片やまた始めるために殺しあう。
「私がいないとカイは輝けない!私の水がなければ炎は誰かを巻き込むし、氷も使えない!カイはまた誰かを殺しちゃってもいいの⁉︎」
「っ⁉︎」
魔物の言葉でカイの動きが一瞬鈍る。そして魔物はその一瞬を見逃さない。水の槍がカイの右肩を貫く。
「ア゛ァッッッッ!」
「私がいないとカイはいつも危なっかしいんだから...ほら、一緒に行こ?」
「ぃっっっっつぅ...!」
「すぐアンデッドにしてあげるからね!私とカイならなんでもできちゃう!終わったらカイスを滅ぼしにいこー?」
周囲に浮いている水が一つに纏まる。魔物が手を水の玉にかざす。凝縮、圧縮された水が一点から放出されカイに向かって飛ぶ。
「もう...僕は変わったんだ」
水はカイのもとまで辿り着けなかった。超低温の冷気によって凍りついたのだ。
「ずっとミリフに頼っていたあの頃とは違う...僕は君から卒業する!お前を殺して!過去から決別する!」
「私から決別...?また変なこと言ってる...カイは私がいないと何もできないでしょ?私から離れて何をするっていうの!頭おかしくなっちゃった⁉︎」
「おかしいのはお前だアンデッド。その体でこれ以上喋るな」
「おかしいのはカイだよ!もう...私だって変わったんだよ?変わった私を見てよ!」
「……氷が⁉︎」
凍りついていた水が動き出し、再度カイを貫こうとする。すぐさま杖を振って氷を弾きながら炎を出し、その爆発的な燃焼を推進力にして後方に飛ぶ。
「なぜ氷を...ミリフは液体の水しか生み出せず、操作することもできなかったはずだ」
「変わったって言ったでしょ?カイもアンデッドになれば今まで以上に強くなれるよ!」
おそらく、水を操るという魔法が周囲の魔素によって強化されているのだろう。今までは液体だけだったのが、固体である氷をも操作できるようになったのだ。
「アンデッド化の影響...魔素で強化されているのか。いいなそれ。確かにアンデッドになるのも良さそうだよな」
「でしょでしょ!」
魔物が周囲に氷を生み出す。作り出した水を分子レベルで操作し、氷にしたのだろう。カイをアンデッドにするために、嬉々として氷を作っている。
「だったら早く死んで「もし僕がアンデッドになったお前がいらないくらい強くなれるだろうね」…え?」
「どっちみちお前はいらないんだよ!」
杖を振る。カイの周囲に氷が生成される。空気中の水分を凍らせているのだろう。
「お前はいらない!さっさと死んで消えろ!」
「私が...いらない?...ふふ、ふふふふふふ!」
不気味に笑う魔物。
「なら今のカイはもっともーっといらない!殺して私の大好きなカイにしてあげる!」
「なんだ...?氷の制御が⁉︎」
「馬鹿だよねぇカイ!今カイが凍らせた氷は、私が作り出した水をカイが蒸発させたもの!主導権は私にある!」
カイの氷を操る力は熱操作による間接的なもの。それに対して魔物は、水を操る魔法によって直接氷を動かしている。互いに氷を動かそうとした場合、どちらが勝つかは明白だろう。魔物が作り出した水なら尚更だ。
カイの周辺に浮いていた氷が軒並み向きを変える。鋭い先端がカイに向く。
「死ね...死ね!」
氷が動き出す
…はずだった。
「死なないよ。少なくとも、お前を殺すまではな」
「なんで...なんで⁉︎どうして動かないの⁉︎」
氷は一切動かなかった。
「絶対零度」
「…えっ?」
カイが溢した声に魔物が反応する。
「地面も空気すらも凍りつく、静止した世界」
「なんで...カイはそんな力持ってなかったはず⁉︎」
「ミリフには内緒で頑張ってたんだよ。色々とね。ほら、僕が変わったってところ見ててよ」
空気すらも凍りついた絶対零度の空間を、カイは一人なんてことないかのように歩く。原子レベルでの僅かな振動以外の全てを止めたおかげで動かなくなった氷を砕きながら魔物に近づく。
「や、やめてよカイ...」
「なにを、やめてほしいんだい?」
「ち、近寄らないで...!」
「どうして?君は僕と一緒に過ごしたいんじゃなかったかい?ほら、どうして離れるのさ。両思いなんだし、ハグでもしようじゃないか」
「私凍っちゃう!」
「その心配はない。君の体を傷つけることは最初からしないつもりだったからな。僕の体と同じように、この世界に入っても生きられるように熱量を調整する。ほら、問題ないだろう?」
「問題だらけだよ!やっぱりカイなんかおかしい!」
魔物は恐怖からか水や氷を乱射する。しかし、水も氷も全てカイの作り出した世界に衝突した瞬間凍りつき、動きを止める。
「おかしいのはお前だろう?さっきと今じゃ言ってることがてんで違う」
「いや...嫌!」
魔物がカイの世界に入った。けれど凍らない。カイの裁量で、簡単には死なせてくれない。
「もう終わらせよう」
「やめて死にたくない!」
「死ぬ?変なこと言うね。もう死んでるのに」
カイが杖を振る。
「くっ...ぐぅぅぅっっっ!し、心臓が...燃える⁉︎」
「なに痛がっているんだ。お前は死体の魔物。すでに痛覚なんて存在しないだろう?今更演技して逃げられると思うな」
「熱い...熱い!!」
「動くな。消えろ」
杖を握るカイの手が強くなった瞬間、魔物は地面に倒れ込む。心臓を焼き尽くされたのだろう。全身に魔素を回すために必要な心臓がなくなれば、アンデッド化は維持できなくなる。時間が経てば、いずれ動かなくなるはずだ。
「あ、はは...私...また死んじゃうんだ...」
魔物が最後の力を振り絞るように、カイに手を伸ばす。
「動くなと言ったはずだ...これ以上、僕にその体を傷つけさせないでくれ...!」
「ねぇ、カイ...私のこと、忘れないでくれる?」
「ああ、忘れるもんか。ミリフという人間がいたこと、一緒に過ごした時間、僕は永遠に忘れない」
カイが魔物の手を握る。
「そっかぁ...ありがとうね」
その時だった。カイの周囲で凍りついていたもの全てが元の状態に溶けて戻る。膨大なる魔力消費によって魔力が尽きたのだろう。
「言質は取ったよ...
魔物がそう言い放つ。
そして数秒経ち、魔物の顔がみるみるうちに驚愕の顔に歪み出す。
「な、なんで...⁉︎もう魔力は切れてるはず...!」
「確かにカイの魔力は切れてるな。でも、まだ俺がいる」
カイの真後ろに、水の玉が浮かんでいた。それは今にも動き出しそうであったが、何かに邪魔されたかのように動かない。まぁ、俺のせいなんだけど。初速が遅かったおかげで、減速が余裕で追いついた。
「アンデッドになれば永遠に生きれて、永遠に覚えてもらえるってか?往生際悪すぎんだろ」
『雷装』
「ほれっ!」
水の玉に電流を纏った手刀を当て、電気分解をする。水が水で無くなってしまえば、操作することはできない。
「俺がここにいる限り、お前にカイは殺せない。さっさと諦めるんだな」
「諦められるわけない!私はもう死ぬ...でも、カイはまだ死ねる...!死んで、永遠に生きられるようになれる!永遠に私を覚えていてくれる!」
「そんなもん、アンデッドにならなくてもできるだろ」
「…え?」
「ねぇミリフ。僕のこと、信じられない?本当に僕が君のことを忘れると思っているの?」
「そ、それは...」
「僕は君が死んでも永遠に忘れない。たとえ生まれ変わっても君のことを思い、探し当ててみせる。だから、信じてくれ」
思いが強まるのと同じように、カイの魔物を握る手が強くなる。
「……うん」
「もう限界だろう。安らかに眠ってくれ」
「あはは...確かに。流石に、もう限界...」
上げていた手がカイの手から滑り落ち、ドサっと地面に落ちる。
「じゃあね...カイ...次の人生でも、一緒に過ごそうね...」
「ああ、待っててくれ。俺もいつか、そこに行くよ」
そうカイが言うと、魔物はニコッと笑う。
そして、ミリフに戻った。
魔物は動かなくなり、アンデッドからただの遺体へと戻った。
「終わったな」
「ああ...終わった」
ミリフの遺体の前に跪きながらいう。
「そして始まった。僕と...ミリフ、二人の思いを背負った人生が始まるんだ」
「…だな」
「あっ、そうそう。助けてくれてありがとうな」
立ち上がり、こちらを向いてカイが言う。
「もう少し警戒してほしかったけどな。流石に罠だってわかるでしょうに」
「死にそうになったら助けるって言ってただろ?」
「それでも会って一日も経ってない奴に背中を預けられるもんかねぇ...んで、これからどうする?」
「決まってる。ミリフをカイスまで運ぶ」
「わかった。運ぶならその肩の傷を治さないとな」
5092ページ 黒のみ 再生
再生の魔法で肩の傷を癒す。速度操作で自然治癒の速度も向上させ、肩以外にできていた小さな傷も治していく。
「よし、これでいいだろ...あっ、ミリフの腹の傷も一旦埋めたほうがいいよな」
アンデッド化が解けたことで、腹の穴から血が垂れ始めていた。遺体を運ぶにしても、傷口は塞いでおかないと汚れて面倒だろう。魔法を使えば一時的に傷を塞ぎ、防腐処理するくらいはできるはずだ。
「……ってあれ?」
何か変だ。おかしい。とてつもなく大きな違和感を感じた。
けれど、何が違和感に繋がっているのかわからない。
「なんだ?何が変なんだ...?」
違和感が思考を支配する。
「どうしたんだ?傷を塞ぐんじゃなかったのか?」
「…っ、ああすまない。ちょっと考え事してた。今傷を...あっ!」
今気がついた。なんで忘れてたんだ?どうして、最初に見た時点で気づくことができなかった?
「どうした?」
「俺が見たの...ミリフじゃない...」
「えっ?」
「俺が見た女は腹に穴は空いていなかった!俺が見たのはミリフじゃない!」
「…なんだって?でも君が言った特徴は完全にミリフのそれだっただろ」
「そうだけど違うとしか言いようがない!俺が見たのは...誰だ⁉︎」
「それって私のこと?」
もう二度と聞こえないはずの声が、俺たちの背後からまた聞こえた。
なんで普段の戦闘シーンよりもミリフのヤンデレっぽいセリフが飛び出すシーンの方が筆が進むんですかね...
異世界バトルものとしてこれはどうなんだ?