前世の俺がすでに転生特典決めてました 作:ダイヤモンドリリー
偽ミリフ...?との戦闘回です。
「それって私のこと?」
もう二度と聞こえないはずの声が、俺たちの背後からまた聞こえた。
「……えっ?」
俺もカイも、恐る恐る後ろを振り返る。
その声を拾った耳が信じられなくなった。
そして、今度は目を信じられなくなった。
「なん...で?」
そこには、栗色の髪を持ち、赤青と左右で色の違う靴を履き、腹の部分に穴を開けた服を着た女が立っていた。
その姿は、ミリフそのものだった。
「その腹...!カイ、ミリフを抱えて今すぐ逃げろ」
カイに呼びかける。しかし反応しない。思考が目の前の現状に追いつけていなかった。
「俺が見たのはこいつだ!何かやばい早く逃げろ!」
「……はっ⁉︎わ、わかった!」
カイがミリフを抱えて走り出そうとする。
「あっ、どこ行こうとしてるのさカイ」
ミリフによく似た謎の女はカイに近づき、ミリフを抱えるその手を掴んで引き止める。
「お前...誰だよ!この手を離せ!」
女の手を振り解こうとする。
「私は私だよ?見てわからない?」
けれど女は手を離さない。それどころか握る力を強める。
「お前なんて知らない!早く...離れろ!」
ミリフを抱えているため、カイは女の手を上手く振り払うことができないでいた。
「嫌だなぁ忘れちゃった?ミリフだよ?知らないわけないじゃん」
女がニコッと笑う。だが、その笑顔はどこか歪んだものであり、邪悪に満ちていた。
「カイが抱えてるそれと同じ、ミリフだよ。ふふっ」
「カリヤ!」
「まかせろ。ちょっと離れてもらうぜ」
一瞬で近づき、蹴り上げて女の手を弾き飛ばそうとする。
「おおっと危ない危ない」
しかし俺の蹴りが手に当たる瞬間、女はそれまで力強く握りしめていた手をあっさりと離した。蹴りは空を切る。そして女の手から逃れたカイはそのまま逃げ去っていった。
「やけにあっさりだな。何がしたかったんだ?」
「もう目的は達成したからな。お前がここから逃げるのを許してやる」
口調が変わった⁉︎
「お前...なにもんだ?」
「ミリフだよ。見てわからないのか?」
「確かに見た目はミリフだな。でも、それは見た目だけだ。口調が違う」
「お前はミリフと会ったことないだろう?会ったのはアンデッドの時だけだ。アンデッドになれば人格は変わる。これが本当の内面かもしれない」
「そんな風に言ってる時点で違うってのは丸わかりだ。隠すならもうちょっと上手く隠せよ」
「隠す?ミリフはミリフだろう?どう隠せというんだ」
「チッ、話になんねぇな...その正体、暴かせてもらうぞ」
「わざわざ逃してやろうとしたというのに...さっさと帰った方が身のためだぜ?」
「そんな言葉には惑わされんぞ魔物風情が!」
ダガーを引き抜きながら近づき、そのままの速度で振る。けれど、当たる寸前に避けられた。
「俺の速度に反応できるなんて...なんの魔物だ?」
少なくとも、何かの姿形を真似することができる魔物のはずだ。こいつはミリフの偽物であって断じて本物ではない。本物はアンデッド化していた方であり、カイが逃げる時に抱えていった方。目の前にいるこいつはミリフの姿をコピーした魔物で違いない。
…違いない?いや、それはおかしい。そもそもここまでのコピーができる魔物は本当にいるのか?それに、アンデッドになっていたミリフは俺の蹴りに対応することができていなかった。ただのコピーなら本人の力量を超えることはできないはず。魔素による強化の可能性もあったが、それだったら同条件であるアンデッドも避けれたはず。魔素の強化が原因じゃない。
さらにもう一つ。こいつはミリフの人格以外に別の人格がある。口調の変化が、それを裏付けている。おそらく、ミリフの人格はコピーしたものであり、別人格は本来の人格なのだろう。
しかし、それがおかしい。
普通の魔物にここまでの知性が宿っていること既におかしい。本来の人格が表に出ていることがおかしい。
こいつは、普通の魔物じゃない。
「魔物魔物うるさいな...」
頭を軽く掻く目の前の何か。
そして、こう言った。
「あんな下等生物ごときで俺を測ろうとしてんじゃねぇよ。死にたいのか?」
「……まさか魔族⁉︎」
それなら全て説明がつく。コピー能力は、魔族が必ず一つ持つらしい固有の特殊能力なのだろう。そして、人格を持っているのは魔族なら当然のこと。俺の蹴りを避けたのは魔族の身体能力によるものだ。
「正解だ」
魔族は言う。
「俺は魔族。魔王様に仕える右腕の一人。フロート」
ご丁寧にも名乗りを上げる魔族。
「自己紹介はこれで十分だろう。で、お前はどうする?今なら逃してやってもいいが?」
「逃げる...?舐められたもんだな」
逃げるわけがない。こいつはここで殺す。
「俺は神の使い!仮谷幸希!魔族フロートよ!お前はここで殺す!」
「最後の忠告だ。ここから立ち去り、カイスに戻れ。それが世界のためになる」
「お前が死ぬ方がよっぽど世界のためになるね!」
地面を蹴り、一瞬でフロートとの距離を詰める。そしてダガーを頭めがけて振る。
先ほどと同じようにダガーは避けられた。フロートは頭をほんの少しだけ動かしてダガーを避けたのだ。そう、必要最小限の動きだけだ。首から下は一切動かしていない。
「オラァッ!」
「んぐっ⁉︎」
本命はダガーではなかった。ダガーはあくまで意識を誘導させるための囮。狙いは最初から速度を活かしたタックルだった。
フロートの腹に秒速40メートルのタックルが突き刺さる。フロートは大きく後ろに吹き飛ばされるも、空中で体勢を立て直し着地する。
「…聞いていた通りの速さだな。まさか突進してくるとは思わなかったが...」
「随分と余裕ぶってるみたいだったけど、今のに当たるなんて大したことねぇなお前」
「まっ、俺は肉体派ではないからな...そんな軽口を叩けるのは今のうちだけだと、今から教えてやるよ。忠告はしたからな」
フロートの周囲に水の玉が浮かび出す。
「ミリフの魔法...コピーできるのは姿形だけじゃないんだな」
「コピー...コピーか。ちと違うが訂正はしない。したところで誰にも伝達できないのだから意味がないだろう?」
「ははっ、俺はここで死ぬってか?ミリフの魔法は経験済みだ。そんなので本当に俺を殺せると思ってるなら認識を改めた方がいいぜ?」
「本当にミリフの魔法だけならな」
フロートの周囲に浮いていた水の玉が動き出し、俺の体を貫こうと飛んでくる。
247ページ左下 黒のみ 光弾
水の弾丸を走って避けながら光弾を撃ち込む。
「脳内詠唱にしては魔法の発動が早いな。それが魔導書の効果か」
そう言いながらフロートは水で光弾を弾き飛ばす。
…なぜ魔法図鑑の存在を知っている?さっきも聞いていた通りの速さだとか言っていたし、どこからか俺の情報が魔族に漏れている...?人間の姿を模倣して自分で探ったとすると伝聞っぽい言い方に違和感が生じるし、別の魔族が潜り込んで情報を探っていると見たほうがいいか?
…っとと、そんなこと考えてる暇ないな。攻撃の量が増えてきてる。考え事は後だ。今は避けることと反撃に集中...!
「そこ!」
4566ページ 黒 黄 青 閃光
黄色で細くし、青で速度を上げた閃光を、無数に飛んでくる水の間を狙って射出する。しかし、閃光はフロートの目の前で消滅した。そしてフロートのすぐ目の前の空間にヒビが入る。
「隙を見せれば勝手にそこを狙ってくれる。的確に狙えるのは優秀な証だが...仕組まれたことに気づけないようではまだまだ弱いな」
「解説どーも」
ヒビが入ったということは、氷でガードしたのだろう。あらかじめ壁を張っておいたから、わざと狙えるくらいの隙を作っていたのだ。
けれど、ここで一つの疑問が生まれる。閃光は魔法で作り出したものを貫通する。そして、ミリフの魔法は水を作り出し操作するもの。ミリフの魔法で氷の壁を作ったのなら貫通するはずなのだ。なのに貫通せずに命中した。別の魔法なのか、それとも実は俺が知らないだけで普通に空気中の水分を使えるのか...
「いろいろ試すしかないか」
1061ページ右下 黒のみ 風刃
1323ページ右上 黒のみ 火刃
ダガーを何度も振り、風と火の刃を飛ばす。火の方は途中で水で消されてしまったが、風の方はフロートのすぐ近くまで飛んでいき何かに当たったかのように消える。
「やっぱり氷...なら溶かし尽くす!」
5293ページ 黒のみ 熱操作
フロートの周囲の気温を一気に上昇させる。これで氷は溶けたはず。ついでに飛んでくる水の弾丸も全て蒸発させる。
「水は封じたぜ。死にたくなけりゃ足掻いてみな!」
フロートの近くまで走り、ダガーを振る。
「足掻く?それをするのはお前だ」
ダガーはフロートに命中する直前で動きを止めた。何かに堰き止められたかのようだった。
「なに...⁉︎」
「で、そのまま止まっているのなら殺してやるがどうする?」
「っ!」
魔物が蹴りを放ってきたので、急いで後ろに跳んで避ける。
「いったい何が...何に止められた?」
速度探知のおかげで、氷で身を守ったのではないのはわかった。けれど、それによって逆に謎が深まった。氷でないのなら何でダガーの動きを止めたんだ?何かの魔法?おかしい。速度探知で何も感じ取れなかったのがおかしい。
「魔法なら...!」
4566ページ 黒のみ 閃光
閃光を撃ち込む。熱操作をしているから氷で身を守ることはできない。別の魔法なら閃光を止めることはできない。もしこれが止められたのなら、それが物理現象によるものだと断定することができる。
閃光は、フロートの目の前で消滅した。
決まった。今フロートを守っているのは物理的な何か。魔法で物理現象を誘発し、身を守っているのだ。
「……だめだ考えても攻略法わかんねぇ...」
「諦めろ。俺は殺せない」
「もういいや考えるのはやめやめ。試した方が早え...な!」
一瞬で近づき、右側頭部を狙って蹴りを放つ。
「無駄だ」
しかし、またしても何かに止められる。速度探知には何も異物は引っかからない。
「次!」
左足で地面を蹴り、フロートの周囲にある見えない謎の壁を使って右足を軸に回転し背後に回り込む。そして死角に入った瞬間、ダガーを振る。
「それも無駄だ」
ダガーは見えない何かの表面を滑り外れる。
「……なるほど、わかった」
さっとフロートから離れる。
「わかった、というのはなんだ?勝てないというのがわかったのか?」
「ちげぇよわっかりやすい挑発だな。その壁のことだよ」
「へぇ...聞かせてもらおうか」
「水蒸気だろ」
フロートは何も言わない。
「空気中の水蒸気の分子を集めて固めている。だから速度探知で気づくことが難しかった。空気は常に動いているから多少操作しても違和感になりづらい。考えたな」
まさか気体の水も操作できるとは思わなかったが、これなら説明がつく。
「違うな。お前の能力を模倣させてもらった」
「ダウト。それじゃ説明がつかない」
俺の能力では減速するのに時間がかかる。俺の攻撃は全て一瞬で速度がゼロになった。水蒸気の壁で止められたからだ。速度操作ではこうはいかない。
「それに...これで証明できる」
4970ページ 黒のみ 鎌鼬
フロートの右肩近くの空気を操作する。本来ならそれによって真空が作り出され、皮膚が引き裂かれる。しかし、そうはならなかった。
「鎌鼬の魔法をしてもダメージはないのは、そこに水蒸気を集めて真空を防いだから。速度操作ではこれを回避することはできない」
「……チッ」
当たりだな。俺の能力を模倣したと言っていたのはのは嘘だろう。コピーしているなら既に使っているはず。おそらく、コピーするにも何か条件が必要なんだろう。
「そしてその水蒸気の壁は常に作ってるわけじゃない。永遠に周囲に作っていたら今頃酸欠になっていてもおかしくない。攻撃の位置を見て予測し、攻撃される直前に壁を作る...そうだろ?」
「だが、この壁をお前は突破できない。お前の速度ではまだ足りない」
「雷装を使えばさらに加速できることをお忘れで?」
「それにお前はそこを動くことすらできずに死ぬ」
そうフロートが言った瞬間、四方八方から水蒸気でできた手のようなものが迫ってくる。
「バリアに空気の手ってどこのアン○ェンジだよ...無駄だ。『雷装』!」
雷装を発動し、近づいてきた水蒸気の手を片っ端から電気分解する。
「そもそも水なら電気分解できるんだよなぁ...お前がミリフの魔法で攻撃防御をしている限り、お前は詰んでいる」
「それはどうかな。雷装はスタミナを大きく削るんだろう?逃げに徹してスタミナと魔力を切らしたところを狙えばいい」
「だな。でも、もう一つの方法なら、お前は反応することすらできない」
俺はそう言いながら、一つの魔法を発動した。
「…ぐっ⁉︎」
フロート視点だと、俺の姿が一瞬で消え、その瞬間に側頭部を蹴られたかのように見えただろう。
「転移...だと⁉︎」
少しよろけたフロートは驚きながら俺がいたであろう位置に蹴りを放つ。しかし、俺はすでに離れていてその蹴りが当たることはなかった。
「馬鹿な...ゼロ時間移動はあいつにしか...!」
「そうだな、生命体のゼロ時間移動はお前のお仲間さんにしかできないだろうよ」
人間にゼロ時間移動、テレポートは使えない。けれど、どう見ても今の事象はゼロ時間移動にしか見えないだろうな。
「加速能力じゃない...時間操作か⁉︎」
「んー半分あたりってところかな。でも、わかったところでこれは避けられない!」
7801ページ 黒 青 未来跳躍
魔法図鑑に魔力を流し魔法を発動、0.1秒後にフロートの背後に移動してダガーで背中を斬る。そして再度魔法を発動し、フロートの反撃から逃れる。
「な、なんの魔法だ...⁉︎」
わかるはずもない。常人にはこの魔法の使い方はできないのだから。
今使っている魔法は未来跳躍というものだ。発動すると、少しの間この時空から消失し、少し先の未来に跳ぶことができる。
消失できる時間は、カスタムなしのノーマルの場合1秒。カスタムをすれば、0<X≦3秒と効果時間をいじることができる。
この時空に戻ってきたときの自身の位置は、消失した秒数の間で移動できる距離の中から自由に選ぶことができる。
これだけだと緊急回避として便利すぎる魔法だと思うかもしれないが、当然のようにデメリットが存在する。その一、魔法の発動後、未来に跳ぶ秒数分のチャージが必要になる。1秒なら1秒、3秒なら3秒というような具合だ。その二、転移後、再発動までのクールタイムのようなものが必要になる。これも同じように、転移の秒数によって決まる。
以上の仕様により、一般人がこの魔法を使う時は緊急回避目的のことが多い。魔物から逃げるために3秒の跳躍で遠くまで移動したり、1秒未満の跳躍をして攻撃を避けたりといった感じだ。習得難度に比べて、実用性が薄いということであまり使われることもない魔法となっている。
けれど、俺ならこの魔法を最大限活用することができる。
転移後、消失している秒数で移動できる範囲内に出現することができる。能力を使って秒速40メートルで移動できる俺なら、3秒の跳躍で120メートル移動できる計算だ。逃げるだけならこれでいい。
戦いに利用するなら1秒もいらない。0.1秒で十分だ。俺なら0.1秒でも4メートル移動することができる。0.1秒チャージし、0.1秒間消えて転移する。攻撃しているうちにクールタイムである0.1秒は経っているので、再度発動して転移する。これを繰り返すだけでフロートの反応速度を超えた攻撃をすることができるのだ。
連続で魔法を発動し、フロートの意識の外に転移しては攻撃を繰り返す。何回かは当てずっぽうの水蒸気の盾に防がれてしまうが、その回数を上回る無数の攻撃がフロートの肉体を傷つける。
「くそ...!」
「防御できるわけねぇよなァ!もうそろそろトドメ行くぜェ!」
『雷装・剣』
7801ページ 黒 青 未来跳躍
転移して、フロートの背後に回る。そして二本のダガーを振った。背後に回ることは予想していたみたいで、ダガーは水蒸気の壁に阻まれる。けれど、あらかじめ雷装を付与していたおかげでダガーは壁を突き破り、フロートの両肩に深々と突き刺さる。
「終わりっ!」
7801ページ 黒 青 未来跳躍
反撃をもらう前に転移する。ダガーごと転移しているため、両肩の傷が一気に開く。鮮血が舞う。
「もう腕は動かせないはずだ。チェック、次のお前の手を聞かせてもらおうか」
「次...か。そうだな。この俺じゃお前には勝てないみたいだ」
「投了か。じゃあ一思いに殺してやろう」
魔法図鑑に魔力を流す。
と、その時だった。
フロートの両肩の傷が消えた。
「…なに⁉︎」
変化はそれでは止まらなかった。まず、肩から先が変化していった。女のか細い腕が、細くはあるが男らしい腕に変わる。さらに胸が変わり、腰が変わり、足が変わり...最後に頭が変わった。
その姿は、カイそのものだった。
「なんで...その体を...?」
「ミリフの体はもう使い物にならないんでな。必要なのは魔法適性のみだったから早々に捨てさせてもらった」
「そうじゃねぇ!俺が聞いてんのはどうしてカイの体をコピーできてるのかだ!答えろ!」
「そんなこと、俺が教えると思っているのか?」
「……そうか、さっき触れたのはそのためか!」
フロートがミリフの格好をしてカイに触れていたアレ。もし、触れることがコピーをするための条件だとすれば、そして一定時間触れることも条件ならば、あの時あっさりと手を離したことも説明がつく。十数秒は触れていた。もうコピーが終わっていたから離したのだ。
「ってことはまさか魔法も...!」
「当然だ」
フロートの周囲が一気に凍りつく。カイの熱操作魔法だ。
「マジかよ...めんどくせぇ!」
ミリフの魔法だけでもまぁまぁ大変だったってのに...
「もうお前、魔力尽きかけだろう?」
「っ!」
チッ 流石にバレるか...!
「なんの魔法かはわからなかったが...あれだけの転移をしてまだ魔力が残っているとは考えにくい。限界のはずだ」
「それはお前もじゃないか?あんな長時間の水分操作に、その絶対零度領域の展開。相当魔力を消費しているはずだ」
虚勢を張りながら時間を稼ぐ。俺には速度操作がある。これで魔力回復速度を上げれば、フロートよりも早く回復できるはず。持久戦なら俺の方が有利...!
「魔力切れを狙っているのなら無駄だ。俺が魔力切れを起こすとでも?」
…まさか、魔力の複製?カイの体に変えるときに回復したとか?いや、もしかしたらもう限界で俺を下がらせるために嘘をついているのかも...ん?
「なぁ、お前、なんで俺を殺そうとしないんだ?」
よくよく考えたらおかしい。こうやって普通に話しているのがすでにおかしい。
「なんのことだ?」
「おかしいじゃないか。俺の魔力が少ないことがわかってて、どうして会話をしている?そんな暇があったら熱操作でさっさと俺を殺せばいい」
「そんなことしたらつまらないじゃないか」
「へぇ、じゃあお前が追い詰められていたときに熱操作を使わなかったのも、それじゃつまんないからってか?...お前、何が目的だ」
本当に何が目的なのかわからん。こいつ、何がしたいんだ。俺を殺しに来たわけじゃないのか?
「目的?そんなの達成済みだって最初に言っただろう」
あっ、そういえば確かに...
「俺はお前のお遊びに付き合っているだけに過ぎない。お前が諦めるなら、俺は追うつもりはない」
「……さっきから思ってたがお前、やけに俺を帰したがってるな」
「そりゃそうだ。面白いものが観れるからな」
「…面白いもの?」
「ああ。観てみるか?...そうだな、面白そうだ。よし、観せてやろう」
フロートがこちらに手のひらを向けてくる。
その瞬間、視界が切り替わる。
これは...カイスか?航空写真のように、上から俯瞰でカイスの町が見える。
そして、方角的にはカイスの南側。そこに、カイスへと動く大量の何かの姿があった。
「……はっ⁉︎」
視界が森の中に戻る。
「今のは...まさか魔物⁉︎」
見えたのはおそらく、数えることなんて到底できないほど大群の魔物。数万単位でいそうなほどの規模だった。
「今のがもし本当だったら...いやでも幻覚の可能性も...」
「信じられないみたいだな」
フロートが言う。
「嘘じゃ...ないよな?」
「はいそうですって言えばお前は信じるのか?」
「くっ...どうすれば...!」
信じてカイスに戻るべきか、嘘だとしてフロートと戦うか...
「後悔しない方を選べ。俺はカイスに戻る方をお勧めするがな」
俺は...
「お前の言うことに乗るのは癪だが...帰ることにしよう」
帰ることにした。今からフロートと戦っても勝てるかわからない。もし勝てたとしても、それでカイスの人が全滅していたら意味がない。こいつをここで逃すことで起こる悲劇よりも、今すぐ起こりそうな悲劇を回避した方がいいに決まっている。
「賢明な判断だ。流石神の使い」
くそっ、馬鹿にしてきやがる...
「次お前に会ったら、その時は必ず殺す」
「おお怖い怖い。バッタリ鉢合わせしないように気をつけるとしよう」
そう言ってフロートは歩き去っていった。
「俺も行かないと...頼む、間に合ってくれ...!」
俺も走り出す。カイスへと、全力を尽くして走る。
カイスを滅ぼさせたりなんて、させるもんか。
はい、次回からカイスで魔物対人間の戦争が始まります。
どんな戦いになるのか、楽しみにしていてください。
戦場を描写するのクッソ大変そうだけど、なんとか書いてみせますんで...