前世の俺がすでに転生特典決めてました   作:ダイヤモンドリリー

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9063字。

本格的な戦いは次回からです。
今回は導入になります。

あと、ひさびさにサブタイではっちゃけました。


戦争開始の宣言をしろ仮谷!

「間に合ってくれよ...!」

 

カイスに向かって走る。

 

急がないと大変なことになる。魔物の大群は南から進軍していた。おそらく魔族が転移させたのだろう。基本的に魔物は北に行くほど強くなり、数が多くなる。魔王城に近ければ近いほど魔素の量が増えるからだ。南から来ることなどほとんどない。

 

そのため、王都より北にある町は全て、防御機構を北側に置く傾向がある。南から進軍をされると、その防御機能が意味をなさなくなってしまうのだ。南から来ている時点で、随分とイレギュラーな事態に押し込まれてしまっている。劣勢になることは確定。下手しなくても町が攻め落とされる危険性大!

 

「でも、このままじゃ魔力無くなるし...一旦回復させないと...」

 

フロートとの戦闘で魔力を既にだいぶ使ってしまっている。自身の加速による魔力消費よりも、加速させた魔力回復の方が上回っているので、少しずつ魔力は回復してはいるが、もう一度戦闘するには心許なすぎる。

 

「回復させるには聖域が一番...カイスの中で回復させる?やばくなったら加勢できるし、そうするか」

 

カイスの中に戻り魔力を回復させればすぐに戦闘に移ることができる。その辺の聖域で休むよりも効率的なはずだ。

 

「何はともあれ、まずはカイスに着かないと何もできない...ん?あれは...」

 

走っていると、誰かを背負って歩いている人の姿が見えた。その特徴から導き出される人物は...

 

「カイ!」

 

ミリフの遺体を背負って歩くカイの近くまで走り、立ち止まる。

 

「カリヤ⁉︎あいつ倒したのか⁉︎」

 

「悪い時間がないんだちゃんと捕まっててくれ」

 

837ページ右上 黒のみ 膂力強化

837ページ左下 黒のみ 脚力強化

 

魔法を使って筋力を強化し、カイを抱える。

 

「えっ、ちょ⁉︎」

 

「走るぞ」

 

再度、カイスに向かって走り始める。

 

「か、帰してくれるのは嬉しいが、なぜそこまで急いでいるんだ?時間がないとはいったい...」

 

「カイスに数万単位で魔物が押し寄せてる。急いで戻ってなんとかしないといけない」

 

「魔物が⁉︎...いやでも防衛装置があれば数万なんて余裕なはずだ。アレは本来数百数千万...下手すりゃ数億までなる魔王軍の侵攻に備えたものだ。俺たちが戻ってもやることなんてないぞ」

 

「南から進軍されてる」

 

「……マジか」

 

「急いで戻って魔力回復したら加勢するぞ」

 

「でも僕たちが加わったところでどうにかできるのか?」

 

「カイの熱操作はハッキリ言ってすごい。うまく立ち回れば大きな戦力になるはずだ。そんな心配してる暇あるならどうやって戦うか考えておきな!」

 

カイスが近づいてくる。まだ外壁のせいで魔物の姿は見えない。けれど、あと一分もすれば外壁の角にたどり着く。そこまで行けば見えるはずだ。

 

戦闘音は聞こえない。まだ様子見をしているのか、それとも、やっぱりフロートに見せられたのは偽物の映像で本当は魔物なんていないのか...

 

「まぁ、そんなわけないよな」

 

角を曲がる少し前から見えていた。地上と空を埋め尽くす、夥しい量の魔物たち。歩みは遅いが、着実にこちらに近づいてきていた。

 

「うわ、こっちも随分と多く集めてきたな。冒険者だけじゃないなこれ。魔法使える住民全員駆り出されてるんじゃないか?」

 

角を曲がると、壁に隠れて見えていなかった人間側の軍勢が見えてくる。フレンドリーファイアを防ぐためか、魔法使いたちはお互いに離れており大きく広がっていた。先頭には剣などの物理的な得物を持った冒険者たちが立っており、戦闘開始の指示を待っているようだった。

 

「こんなかを突っ切る気か?」

 

「上を抜ける。跳ぶからしっかり捕まってな」

 

72ページ右下 黒のみ 跳躍

 

跳躍の魔法を発動して地面を一気に踏み込む。足に返ってくる反作用が何倍にも増幅され、斜め上に吹き飛ぶように跳ぶ。

 

「ぉぉぉおおお高い高い怖いぃ!」

 

「口閉じろ舌噛むぞ」

 

周囲の人の視線を感じながらカイスの門の前に着地する。そして門の中に滑り込む。

 

「ふいぃぃ...なんとかもったな魔力。危ない危ない」

 

カイとミリフという初期の想定から外れたお荷物...というとアレだが、能力をかける対象が増えたため魔力を多く使ってしまった。膂力強化や脚力強化もあったので、あと少ししたら魔力切れになるところだった。

 

「よいしょっと...いやー重かった。流石に二人分はキチィや」

 

カイを下ろす。

 

「こっからどうすんだ?」

 

「とりあえず魔力の回復だな。俺はこの辺で回復しながら待ってるから、カイはミリフを安全なところに置いてからここまで戻ってきてくれ。お前の魔力も回復させる」

 

「わかった。待っていてくれ」

 

カイはミリフを抱えて走っていった。

 

「よし、あとはカイが戻ってくるのを待つだけだな」

 

門の近くの壁に寄りかかって座り込む。

 

「…ってかまだ戦い始まんねぇんだな。どう言う状況だ?」

 

急いで戻ってきたため、まだいまいち状況を掴めきれていない。戦いに参加するにしても、まずは何かしらの情報が欲しいところだが...」

 

「…カリヤじゃないか。いないと思ったらこんなところにいたんだな」

 

「ん?...リヒトじゃん!」

 

リヒトが俺を見つけ、近寄ってくる。

 

「こんな時にどこで何をしていたんだ」

 

「ちょっと外で色々やっててな...状況を聞かせてくれ。俺も魔力を回復したら戦う」

 

「わかった。まず何から話せばいい?経緯か、敵の戦力か...」

 

「経緯から頼む。あいつらはいつ現れた?」

 

「ワシがカイスについてすぐだったから、一時間近く前じゃな。段階を踏んで少しずつ転移してきた」

 

「…その声、ニトラス⁉︎」

 

いつのまにか真横にニトラスが立っていた。なんで音もなく近寄ってきてるの?音消して歩くの癖になってんのか?

 

「この距離でそんな大きな声で驚かれると耳が...」

 

「ご、ごめん...んで、一時間前か。俺とカイが森に向かい始めてすぐくらいかな?」

 

多分外壁の角を曲がったときくらいだろう。秒速40メートルで走っていると、前以外は流れが速くてあまり見えないし、音も聞こえづらくなる。背後で魔物が転移してきても気づかない。

 

「じゃあ次。転移してきたのはどれくらいだ?概算でいいから数と種類は教えてくれ」

 

「さっきニトラスが言った通り、少しずつ転移してきているから今はどうかわからんが、最後に確認した時はミリオン越え。300万はいるだろうな」

 

「種類は?」

 

「種類までは数えてない。ただ、一つ言えることはある」

 

「そのほとんどが魔法耐性持ちだ」

 

「……マジか」

 

魔族も馬鹿じゃない。魔法都市を攻め落とすなら、当然耐性持ちを使うだろう。多分だが、カイス周辺に耐性持ちの魔物を放っていたのは有用性を確かめるためだったんだろうな。使えるとわかったから大々的に送り込んできたのだ。

 

「魔法耐性持ちと戦えるだけの戦力はあるのか?ある程度物理要員がいるのはさっき見たけど、あんなんじゃ足りないだろ?他の町から援軍を呼んだりしてるのか?」

 

「ああ、足りないだろうな。そもそも数で負けている。まともに戦っていれば負けは必須だ。援軍もない」

 

「援軍はなし...ってことはまともじゃない戦い方があると、そういうわけだな?」

 

援軍を呼べないのか呼んでいないのかは分からないが、到底負けることを考えていない話し方から、そう判断した。

 

「ああ、そもそもワシたちの勝利条件は奴らの全滅ではない」

 

「それはそうだろうな。奴らは転移してくるんだから、全滅って概念自体がほぼない。全滅するときは魔族が諦めるか、この世界から魔物が消えるときだ」

 

「そういう意味ではない。ワシらの勝利条件は一時間もの間、時間を稼ぐことじゃ」

 

「時間稼ぎ?援軍が来る時間ではないし...何かあるのか?」

 

一時間後に何があるんだろう。誰かすっごい魔法使いの特大魔法の詠唱時間とか?...流石にありえないか。

 

「この町の防衛機構のほぼ全てが北に集中しているのは知っているな?」

 

「ああ」

 

「その一部を南に移すのにかかる時間だ。今整備士たちが全身全霊をかけて防衛機構の十分の一を転移させる準備をしている」

 

「なるほど。でも十分の一?足りるのか?」

 

「元々数億を迎え撃つためのものだ。十分足りる」

 

「それもそうか」

 

300万くらいなら十分の一でも片付けられるってすごいなこの町...ってあれ?

 

「防衛機構って魔法だよな?魔法耐性持ちにどれだけ効くんだ?」

 

「問題ない。たとえ耐性持ちだとしても問答無用で消し飛ばせる」

 

「すっご」

 

なんかそれだけで魔王倒せそうな性能してるけど...射程距離を絞って威力を出してたりするのかね?

 

「なるほどなるほど、大体戦況が読めてきた。でも不思議だな。あくまで時間稼ぎが目的だからってのもあるだろうけど、どうしてまだ攻撃しないんだ?数は減らしておいた方がいいだろ?」

 

あまりにも近づかれ過ぎれば対処が追いつかなくなる。遠いうちから少しずつ減らしていったほうがいいと思うんだが...

 

「考えてもみろ。この距離だと魔法は威力の減衰を起こしてしまう。それだと耐性持ちには効果は薄い」

 

「じゃあ前に出ればいいんじゃないか?魔力回復地点から離れるのはちょっと危険だけど、魔物たちが近づいてきたら下がればいいわけだし」

 

「前に出るのはダメじゃ」

 

「なんで?」

 

「いつ、どこに魔物が転移してくるかわからない。もし前に出て、後ろに転移してきたとしたらどうなる」

 

「あー...挟み撃ちになっちゃうのか」

 

戦場において挟み撃ちはできるだけ避けたい。ちょっと考えが浅かったな。それに、町を守らないといけないのにその町から離れてどうすんだって話だ。もし後ろに転移してきて、そのまま中に入られる可能性もあるし、前に出る作戦は絶対に取ってはいけないな。

 

「じゃあ戦闘開始の目安を教えてくれ。どれくらいまで近づいたら始めるんだ」

 

「だいたい十分後だな。俺が仕掛けた拘束系の罠がある場所を魔物が通ったら開始だ」

 

「ふむふむ...その罠があるところってどの辺?」

 

「旗が置いてある。その奥だ」

 

「なるほど...ちょーっと行ってくる」

 

門から出てカイスの外に出る。

 

72ページ右下 黒のみ 跳躍

 

跳躍を使って地面を蹴り、待機している人たちの上を飛び越える。そして着地し、そのまま平野を走り抜ける。

 

「アレが旗か」

 

少し先に、地面の草の補色である赤色の旗が刺してあった。あの奥に罠が仕掛けられているらしい。

 

「んじゃこの辺にっと」

 

『氷装・矢』『雷装・矢』

 

二本矢を取り出し、同じ場所に突き刺す。氷装で凍った地面が雷装ですぐに電気分解される。

 

「このままだと流れちゃうから...っと」

 

3099ページ下 黒のみ 延性付与

 

小瓶を取り出して魔法を付与する。そして中に息を吹き込んで風船のように膨らませる。

 

2810ページ上 黒のみ 物質固定

 

そうして膨らませた小瓶を二本の矢を覆うように被せ、魔法で地面と固定する。すると、電気分解によって生じた水素と酸素が小瓶を押し広げ、さらに膨らんでいく。けれど破れない。そのまま膨らんでいく。

 

「準備完了っと。戻るか」

 

今度はカイスに向かって走る。またしても跳躍で人々を飛び越え、門の中に入る。

 

「たっだいまー」

 

戻ったら、リヒトとニトラスの他にカイがいた。ミリフを置いて戻ってきたのだろう。

 

「何をしに行っていたんだ?」

 

「ちょっと下準備をね。よし、魔力回復させるぞカイ」

 

「おう」

 

能力を使い、俺とカイの魔力回復速度を加速させる。

 

「…カイと知り合いだったんじゃな、リヒト」

 

「色々あってな。付き合いは今日からだけど...ってニトラス、カイのこと知ってるのか?」

 

「ああ。弟子...みたいなもんじゃな」

 

「へー、そうだったのか」

 

そういえば二人とも一芸特化だな。一つの魔法を極めたいのなら、閃光を極めて代名詞にもなったニトラスに師事をこうのは当然だろう。ミリフに知られずに成長できたのも、それのおかげなんだろうな。

 

「ニトラスさんにはお世話になったよ。二週間くらいだったけど、だいぶ強くなれた」

 

「ワシはほとんど何もしておらん。専門は閃光じゃし、それ以外のことはリヒトの方が詳しいじゃろう。カイの持つ元々の適性と努力が実った結果じゃ」

 

「いやでもニトラスさんがいなかったら俺は」

 

「いやいやワシは何も」

 

謙遜合戦が始まった。こういう時お互いに凄いよねでいいと思うんだけど...こりゃしばらく続きそうだな。放っておこう。

 

「どうだ、時間までに回復は間に合いそうか?」

 

リヒトが聞いてくる。

 

「ん?...どうだろ。二人分やってるから、もしかしたら満タンにはならないかもしれない」

 

「そうか...まぁ問題はないだろう。尽きかけたらここまで戻ってきて回復すれば良い」

 

「その間カイスの守りはどうする?」

 

「…カリヤ一人で守るわけじゃないんだぞ?お前が後ろに下がったらすぐに負けるわけじゃない」

 

「そりゃそうだけどさ。他のみんなも回復のためにカイスに戻ったりするだろ?タイミングは見計らった方がいいよな?」

 

人が減ってる時に俺が抜けたら、残ってる人たちはだいぶキツくなるだろう。早いうちから戻って、魔力を回復して戦線復帰した方がいいと思う。

 

「確かに、お前は速度操作ですぐに行って帰ってができる。可能ならば戦況をよく見て、魔力にまだ少し余裕がある時でも戻っていいだろう」

 

「だよな」

 

「でも、人がいないときに戻ってくれてもいいんだぞ。お前の能力で加速させられれば、周りの復帰も早まる。お前より魔力が多いやつはそこまでいないはず。入れ替わり立ち替わりで能力圏内に入り、どんどん回復させていくのも手だ」

 

「あー、そういう考えもあるのか。考えつかなかった」

 

ダメだ頭が凝り固まってるな...自分の力量、何ができるのか、戦いの前にしっかり考えておかないとまずそうだ。いざって時に判断ミスしたくはない。

 

「わかった。魔力残量と戦況を見てうまい具合にやってみるよ。アドリブでなんとかしてみせるさ」

 

この世界に来てから数ヶ月経つが、行き当たりばったりでもなんとかやってきているしな。これからもなんとかなるだろう。多分。たとえフロートみたいな魔族が来たとしても...いや、流石にそこまでの状況は想定したくないな。来たら考えよう。

 

「………今どの辺まで来てる?時間あるかな?」

 

「まだ時間はあるが...どうした?」

 

「よくよく考えたら朝から何も食べてないんだよな俺。腹減った」

 

朝から動き続けていたためエネルギー不足気味だ。なんか思考がうまくまとまらなくなってきてる。要領を得てない。ご飯食べてエネルギーを蓄えないと。

 

「鞄に何かあったっけ...いや、入ってなかったな。どうしよ」

 

保存食がないのは鞄を買い替えて中身を移し替えてる時に見た気がする。

 

「今から食べると動けなくなるぞ?」

 

「それは大丈夫。速度操作ですぐに消化させれるし。今は何よりもご飯が食べたい。腹が減っては戦はできぬ...」

 

「じゃあワシが補給のところから適当に持ってくるとしよう。そこで待っておれ」

 

「助かるニトラス」

 

今俺が動こうとするとカイも動かないといけないしな。場所もわからないし、助かる。

 

「あっそうだ。リヒト、カイの傷を治してやってくれない?俺が魔法かけたけど、あんま練習してないしちゃんと治せてるか不安だ」

 

やれることはやっておかないとな。カイは結構な戦力だ。傷が開いて途中で倒れられたら困る。できれば誰にも死んでほしくはない。目指すは死者ゼロ人だ。戦争でそれを達成するのは難しいとわかっているが、目指すのはタダだ。やるだけやってみたい。

 

「了解した。傷を受けたのはどこだ」

 

「えっと、この辺とこの辺...あとここもだったかな。一番酷かったのは右肩だったはず」

 

「ちょっと診させてもらうぞ。じっとしていてくれ」

 

リヒトがカイの体を診る。その間にニトラスが駆け足で戻ってきた。

 

「ほれ、持ってきたぞ」

 

「ありがとうニトラス。いただきまーす」

 

持ってきてもらったパンを食べる。正直に言って味はちょっと微妙だが、支給品みたいだし仕方ないんだろうな。

 

「んぐんぐもぐもぐ...エネルギー充填完了っと」

 

パパッと食べ終わる。もうすぐ戦いが始まるし、あまり悠長に食べてはいられない。

 

「怪我は問題なさそうだ。これなら私がかける必要もなさそうだ」

 

リヒトの診断も終わったみたいだ。ちゃんと治っててよかった。

 

「ありがとうございますリヒトさん」

 

ぺこりとリヒトに礼をするカイ。

 

「あっ、魔力全回復した。ありがとうカリヤ。行ってくる」

 

おそらくリヒトかニトラスに既に配置を言われていたんだろう。回復が終わったカイは駆け足でその場を離れ、門を出ていった。

 

「俺への礼、リヒトへのと比べてちょっとおざなりなのはなんで?」

 

「さぁな。もうそろそろ時間だ。私たちも行くぞ」

 

「ん?もうそんな時間なのか...」

 

まだ魔力は全快とはいかない。せめて門が出るまでは加速させておこうかな。

 

「…どこへ行こうとしてるんだ?」

 

「えっ?」

 

なんか門を出ようとしたら引き止められた。なんで?

 

「っとそうか。まだ言ってなかったな」

 

「え待ってなんの話?」

 

「これからお前には抵抗軍のリーダーになってもらう」

 

「???」

 

おかしいなまだエネルギー足りてないのかな聞き間違えたかな?...そんなわけないか。

 

「……どういうこと?」

 

「お前は神の使いだ。そんなお前がリーダーならば軍の士気も向上するだろう」

 

「そう?」

 

「そうだ。というわけでこれから壁の上に登る。そこで呼びかけてもらうぞ」

 

「おっ、おう...」

 

これから俺演説するの?クリーククリーク言っておけばいけるかな...真面目にどうしよ。

 

「こっちだ。着いてこい」

 

リヒトとニトラスの後ろについていく。

 

「壁の上って言ってたけど...どうやって登るんだ?」

 

「壁の中に階段がある」

 

「壁の中にはどうやって入るんだ?トンネル効果でも使うのか?」

 

「…それが何かはわからないが、入り口はここだ」

 

ここ、と言われたが壁からは距離がある。しかし、速度探知のおかげで見えない階段があるのがわかった。空気を固めて作られたものみたいだ。

 

「この階段の先に入り口があるのか?」

 

「能力でわかるのか...その通りだ、この先にある」

 

空気の階段を登る。これまた速度操作のおかげでわかったが、階段の頂上の先にある壁は見せかけの偽物であり、普通に通り抜けることができた。壁の中は通路が広がっており、階段もあった。さらに階段を登る。

 

「あっそうだ忘れていた。カリヤ、これを持っておけ」

 

階段を登りながら演説の原稿をうんうんと考えていると、リヒトから何かを渡される。これは...石?魔法石か?

 

「なにこれ?」

 

「飛んできた魔法を逸らす魔法が込められた石だ。味方の魔法に当たることを避けるためのものだ」

 

「そんなものがあるのか...回数制限とかあるか?」

 

こんなのがあるなら普通に出回っていてもおかしくないけど。ハッキリ言って強すぎる。

 

「その石に込められた魔力が尽きれば使えなくなる。だが、少なくともこの戦闘中に尽きることはないだろう。一時間は持つはずだ」

 

「なるほど...他のみんなも持ってるんだよな?フレンドリーファイアを気にしなくてもいいのは楽だな」

 

これで心置きなく魔法が使えるな。

 

「持ってはおるが、正面から飛んでくる魔法は逸らせない。過信は禁物じゃ」

 

「なるほど...わかった」

 

と、その時。蛍光灯のようなものの明かりしかなかった階段に自然光が入り込む。先頭を歩いていたリヒトが壁の上に出るハッチを開けたのだ。

 

「さぁ行ってこいカリヤ。お前の言葉で士気を高めてこい」

 

「……おう」

 

階段を登り切り、壁の上に出る。微妙に肌寒い風が吹き込んでくる。

 

「こうしてみるとすっごい人の数だなやっぱり...魔物も多いねぇ」

 

上から戦場となる地を俯瞰する。魔物の軍勢は赤い旗のすぐ後ろにまで迫ってきていた。

 

「そろそろ呼びかけますか...」

 

1640ページ左下 黒 青 拡声

 

「あーあーマイクチェックマイクチェック!ワンツーワンツー!It is fine today!」

 

うん、ちゃんと声大きくなってるな。みんなびっくりしてこっち見てる。

 

「皆のものーよく聞け!俺は神の使いの仮谷幸希というものだ!」

 

何事だと視線が集中する。やがて神の使いという単語に気がついたものが現れ、ざわつき出す。

 

「俺はこの戦争に勝つ気でここに立っている!まさかこの中に負けるかもしれないだなんて考えがある奴はいねぇよなァ!」

 

オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!という雄叫びが聞こえてくる。主に軍勢の先頭にいる冒険者たちのものだ。ここまで届く声って普通にすごいな。

 

「いいか!俺がここにいる限り、この戦争に俺らが負ける可能性は億に一つもありゃしねェ!敗北の二文字は存在しない!」

 

ざわざわしだす...なんかさっきと反応ちがうな。なんか変なこと言ったか?

 

「…どうやったら敗北が二文字になるんじゃ?」

 

…階段の方からニトラスの呟きが聞こえた。うん、たしかにこの世界じゃ二文字じゃ済まないよな。ついつい日本語の感じで言ってしまった...

 

「兎にも角にもだ!この戦争に敗北は存在しない!必ず勝つ!そのための火蓋を切って落とそうじゃないか!」

 

弓矢を取り出す。

 

「リヒト、罠を起動してくれ」

 

拡声を一旦切り、リヒトに頼む。

 

「了解だ」

 

罠が起動し、魔物の進軍が止まる。この距離だと何が起こっているのかはわからないが、複数の魔法を重ね合わせて脱出しにくくなってるみたいだ。

 

「見てろよお前ら!これが...開戦の狼煙だ!」

 

『火装・矢』

 

2241ページ上 黒 黄 射程延長付与 

 

「こうやって使うために設置したんじゃないけど...置いておいて正解だったな」

 

弓を目一杯引き絞り、火矢を放つ。狙いは赤い旗、その手前にある俺が仕掛けた細工。

 

「ここ!」

 

固定の魔法を解除する。それにより圧力に負けて膨らんだ小瓶が吹き飛んでいく。そしてその中に溜まっていた膨大な量の水素と酸素に火矢が近づき...

 

どうなるかは明白だった。

 

大音量、大火力の水素爆発が起き、空気と地面を大きく揺らす。近くにいた魔物の多くは弾け飛び、炎に焼かれた。

 

大量の水が生み出され、一時的に雨が降り込む。真空に近くなった爆心地に向かって一気に風が吹き込む。

 

その風によって視界が開けてくる。平原の炎が消え、煙も晴れてくる。

 

そこにあったのは、多くの魔物の死体だ。

 

けれど、全体の百分の一にも満たない数しか殺れていない。

 

でもそれでいい。

 

これはただの合図だ。

 

「行くぞ!人間の力を無謀なる魔物らに見せてやろうじゃないか!」

 

地面を蹴り、戦場へと飛び出す。

 

下に見えるのは前進する冒険者たちと、後方から飛んでいく無数の魔法。

 

人間対魔物の戦争が、今始まった。




戦争の描写で3、4話はいきたいけど、自分の力量的にできるか不安だ...
これまで以上に拙い文になると思いますが、読んでくださると嬉しいです。

…カリヤくんトイレいつしてるんだろ。描写してないからトイレしてるかわからんなこれ。いっそのことこの世界の人間は排泄しないって設定を生やしてみてもいいかもしれない()
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