前世の俺がすでに転生特典決めてました   作:ダイヤモンドリリー

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9187字。

戦争回3話目です。

あと、新年あけましておめでとうございます。
新年一発目、お楽しみください。

一回2023年のままにしちゃって予約投稿ミスったのは内緒です。


絶対零度領域

「早速不意打ちじゃい!」

 

自分の背後でフロートに気取られないように作っていた特製クナイを投げる。

 

「叫ぶのが不意打ちになるのか?」

 

クナイはフロートの目の前にできた氷の壁に刺さり、止まった。いや、インジウムが壊れていないところをみるに、空気を凍り付かせてクナイを囲んで止めたのか?やはり熱操作は厄介だな。

 

「クナイは意味ないか...」

 

きっとこれ以上投げても止められるだけだ。おそらく、ジメチル水銀も固体になってしまうだろう。液体、もしくは気体でないと吸収が遅い。毒として、それでは意味がない。

 

「だったら近接一択だ!」

 

ダガーを抜き、一瞬でフロートのもとまで近寄る。そして頭めがけて蹴りを放つ。ダガーは囮だ。

 

「無駄だ」

 

「チッ、やっぱ防がれるよな...!」

 

ミリフの魔法を使っていた時と同じように、見えない壁のようなもので防がれる。

 

「『雷装』!」

 

身体中に電流が流れ出す。身体能力が爆発的に増幅し、同時に周囲に電流を撒き散らす。

 

「ハァッ!!」

 

連続で蹴りを放つ。しかし、どれも防がれる。ダガーも振るが変わらない。

 

「無駄だと言ったはずだが?」

 

やっぱりだ。見えない壁の正体は水蒸気ではなく凍った空気。雷装では分解できない。この方法では突破できない。

 

「別の方法...あれしかないか」

 

雷装を解除し、魔法図鑑に魔力を流す。

 

「ハッ、また転移か?そいつにはもうやられんぞ」

 

「そいつはどうかな」

 

7801ページ 黒 青 未来跳躍

 

魔法発動から0.1秒のチャージののち、効果が発揮される。0.1秒もの間、俺はこの世界から消える。そして俺はフロートの右斜め後ろに転移し、蹴りを放つ。

 

「ほら、無駄だ」

 

蹴りはまたしても見えない空気の壁に止められた。すぐさま転移してその場を離れる。

 

「…なるほど、常に周囲に壁を作ってるのか。呼吸する時だけ一部分を開けてるわけね」

 

速度探知でフロートの周辺を探知したが、特に怪しい動きはなかった。となると、すでに壁を作っていた可能性が高いわけだ。

 

「そうだが...それがわかったところでどうなる」

 

「いやね...ぶち抜けるなその壁、って思っただけさ」

 

7801ページ 黒 青 未来跳躍

 

再度転移をする。今度は背後に転移はしない。最大限の威力を出すために、そして屈辱を与えるために、真正面。フロートの目の前の空中に転移する。

 

フロートが一瞬驚いたような顔をするが、避ける動作は一切取らない。壁は破られないと信じているのだろう。

 

だから、蹴りがモロに側頭部を叩いた。

 

「ぐっ⁉︎」

 

秒速40メートルの蹴りを喰らったフロートが真横に吹き飛んでいく。

 

「はっはー!魔法に防御頼りっきりじゃダメだぜフロートさんよォ!」

 

「くぅ...お前もそうだろうが!」

 

膨大な熱量がフロートから放たれる。当たれば一瞬で皮膚が溶けてしまうほどの熱量だ。

 

「魔法じゃなくて能力だからいいんですー!それに、使えるもんはなんでも使うほうがいいだろ?」

 

そう言いながらフロートを視界から外し、背を向ける。それだけでこの膨大な熱量は逸れていった。

 

「それが魔法石の力か...さっきのと今のから考えるに、正面からの攻撃は避けられないみたいだな」

 

「さっきお前が言ったセリフを使うぜ。それがわかったところでどうなる?」

 

「こうするだけだ」

 

フロートがそう言うと、俺の周りに大量の氷の塊が生成される。一斉に射出して俺を仕留めようって魂胆らしい。

 

「無駄だよ」

 

俺は氷を無視してフロートのもとまで突っ走る。反応が若干遅れたフロートは俺の背中をめがけて氷を射出するが、命中するまでの間に氷は全て溶けた。いや、氷は液体を通り越して気体へと昇華した。昇華した空気は、一気にその体積を増して膨らむ。その勢いをも利用してフロートに突っ込む。

 

「オラァッ!」

 

空気の膨張を利用したドロップキックが、フロートの腹に突き刺さった。

 

「ガハッ...!くそ、なぜ壁が...熱操作の魔法対抗か...?」

 

おぉ悩め悩め。間違った解釈をしてくれる方が助かる。

 

俺が凍った空気の壁を突破できているのは、速度操作のおかげだ。速度操作を使えば熱振動の速さを操作することができ、そうすることで間接的にだが熱を操作することができる。低い温度を高い温度に上げることは容易だ。上限の秒速40メートルまではどんなものでも強制的に上げられるからな。熱振動に秒速の概念があるのかは謎だが。

 

そしてもう一つ理由がある。それはフロートが温度を絶対零度にまで下げきっていないことだ。空気を凍らせるには、マイナス219℃くらいあれば十分だ。この温度なら窒素も酸素も凍り付く。身を守るために下げるのなら、これ以上は魔力の無駄なのだ。フロートは魔力を複製することで無限の魔力を使えると俺は予想しているが、複製するのにも魔力を使用するのだろう。だから、出来るだけ消耗を避けるために極限まで下げることはしていないのだ。

 

絶対零度にさえしなければ、まだなんとかなる。

 

だったはずなのだが...

 

「……やるしかないか」

 

そうフロートが言った瞬間、全てが凍りついた。フロートの周囲3.5メートルの温度が絶対零度にまで下がる。

 

「速度操作による温度の操作なのか、熱操作の魔法なのかはわからんが...これでお前は手出しできないはずだ」

 

チキショウこいつ原理はわかっていないのにゴリ押しで解決しにきやがった。おそらく、能力の範囲よりも大きく絶対零度領域を広げれば安全だと思っているのだろう。経験の薄い俺よりも、カイの技量をコピーしたフロートの方が熱操作の技量は上だ。対抗されても負けないと判断したんだろう。

 

…やられた。

 

どうしようもなくなった。俺はフロートへの攻撃方法を失ってしまった。

 

「ハッ、まさかそんなの広げて縮こまるだなんてな。臆病にも程があるぜ」

 

「口を動かす前に手を動かすといい。突破してみろよ口だけヤロウ」

 

挑発もダメか。さて、どうしたものか...

 

「動かないならこっちから行かせてもらう!」

 

フロートはその場で大量の氷を作り出し、射出してくる。その氷を自分の向きに気をつけながら走って避ける。

 

「逃げてばかりじゃどうしようもないぞ神の使い!この窮地を乗り越えてみせろ!」

 

…こいつ、突破されることを望んでいる...?俺を成長させて、その力をコピーしようって魂胆か?随分と悠長だな。殺そうと思えばすぐにでも殺せるだろうに。

 

けれど、これはチャンスだ。まだ本気で潰しにかかってこないならば、その間に対抗策を考えるまで。あらゆる可能性を絞り出し、全て試すとしよう。

 

まず、フロートを殺すには絶対零度領域の突破が不可欠だ。そして、これは速度操作ではどうにもできない。温度を上げることはできないのだ。

 

今の俺が把握している、速度操作の唯一の弱点。それは、元々の速度がゼロのものの速度は操作できないこと。理由は至って単純。ものが動くには、速さと向きという二つの要素が必要だ。速度操作という名前ではあるが、この能力は速さしか変えることができない。速度ゼロのものは、運動をする向きの情報が存在しない。速さを変えても意味がない。そのため、そもそも能力の対象に取れなくなっているのだ。

 

そして、絶対零度では全ての原子の運動が止まっている。量子力学的には、絶対零度でも零点振動という運動を原子はしているみたいだが、今の俺にはその速度を操作できるほどの力量はない。ギリッギリなんとか探知するので精一杯だ。

 

速度操作では絶対零度領域の突破は不可能。そして熱操作でも不可能だ。これも単純に力不足。カイの力には遠く及ばないため、やっても無意味。一瞬でも温度を上げることができれば速度操作でこじ開けることができるが、その一瞬すらも作り出せない。さっきこっそり試したがまるで効果がなかった。

 

未来跳躍での転移もできない。あれで転移できるのは、消滅している時間で移動可能な位置までだ。絶対零度領域の中に入ることはできない。そのため転移でも不可能だ。

 

さて、簡単に思いつく対処法は全て棄却された。こっからはとりあえず...適当に魔法を試しながら考えよう。同時並行でやるしかない。

 

あくまで平然を装え。窮地に追い込まれていることを気取られるな。そして何よりも、速度操作の弱点だけは知られてはならない。息つく暇もないほどの攻撃を仕掛け、フロートに一切の思考をさせるな。

 

4566ページ 黒のみ 閃光

1323ページ右上 黒のみ 火刃

1061ページ右下 黒のみ 風刃

 

ダガーを振って炎と風の刃を飛ばしながら閃光を放つ。しかし、炎の刃は一瞬でその勢いを無くし消し止められる。風の刃は凍った空気の壁で堰き止められる。閃光も空気の壁でかき消される。これじゃだめだ。

 

27ページ左下 黒のみ 水弾

247ページ左下 黒のみ 光弾

4970ページ 黒のみ 鎌鼬

 

水と光の弾丸を飛ばす。両方とも止められてしまったが、本命は鎌鼬...だったんだが不発。鎌鼬は気体の空気を操作する必要がある。全て凍りついて固体になってしまっているため、不発なのも当然だ。

 

あと使える魔法は...いや待て、ヤケになるな冷静になれ。必ず弱点はあるはずなのだ。適当に撃つよりも、弱点を的確についた魔法を撃つ方が何倍もいい。作戦変更。出来るだけ魔力消費の少ない魔法で牽制しながら考えよう。

 

247ページ左下 黒のみ 光弾

 

光弾を撃ちながら考える。

 

まず、フロートはどうして生きていられる?体温は熱操作で保っているとして、呼吸はどうしているんだ?カイはうまく熱量を調節するとしか言っていなかった。具体的な方法はわからない。酸素だけは凍らせていない?それとも呼吸の瞬間だけ一部分だけ絶対零度を解いているのか?タチ○ナが口を開けた時にUTエリアに穴が開くやつみたいなことなのか?

 

しかし、もし仮にそうだったとしても攻撃することはできない。熱操作は速度操作と同じように、周囲の物質探知をすることができる。呼吸の瞬間にできる穴から毒を流し込んだとしても、毒だけ凍らせて終わりだ。ダガーを投げても同じだ。

 

地味に絶対零度領域の範囲がフロートから3.5メートルなのも痛い。速度操作で温度を保てるのは俺から3.3メートルまで。0.2メートル足りない。その距離を埋める間に凍りついてしまう。穴を狙うのは無理だ。そもそも存在するかどうかもわからないしな。

 

この切り口で考えても埒が開かない。別の方向から考えた方が良さそうだ。次は...そうだな。絶対零度領域を素通りできる方法を探るか。

 

こういうバリア的な能力を無視して攻撃できるやつって何があったかな...光と音とかか?効きそうではある。俺はフロートの姿を見ることができるし、会話もできた。両方とも熱操作の対象外なのだろう。この二つならフロートを攻撃できるだろう。あっ、あと重力も効きそうだな。重力は熱の影響を受けないはずだ...なんだ、意外と弱点多いじゃねぇか。

 

「そろそろお前も飽きてきたろ。望み通り、逃げるのはもうやめだ!」

 

3776ページ下 黒 黄 音撃

1901ページ左上 黒のみ 振動増幅

 

ダガーをしまい、指パッチンをする。音撃と振動増幅を同時発動し、指向性を保ったまま増幅された音の塊をフロートに向けて打ち出す。

 

「ぐっ...!」

 

絶対零度領域では気体は存在しない。そのため気体ではなく固体を通じて音が伝わるようになる。その分、気体を伝わるときよりも威力が落ちているみたいだった。

 

「やっぱり、音なら効くよなァ!もういっちょ行くぞ!」

 

3776ページ下 黒 黄 音撃

1901ページ左上 黒のみ 振動増幅

6972ページ 黒のみ 洗脳操作

 

もう一度指パッチンをして音を出す。さっきの魔法に追加して、洗脳操作の魔法も発動させた。指向性を持った音なら周りを巻き込むことはない。

 

「っ...この俺を...洗脳?んなもんできるわけねぇだろうが!」

 

洗脳は出来なかった。それどころか怒らせてしまったみたいだ。魔族としてのプライドを傷つけてしまったのだろう。その怒りに比例するように、絶対零度領域が広がり、俺を飲み込もうとする。

 

「お怒りか、魔族って器ちっせぇんだな!」

 

これに巻き込まれたら死ぬ。速やかに妨害する必要があるな。

 

5114ページ 黒のみ 思考共有

 

思考速度を加速させて無駄な思考を大量にする。そしてその無駄な思考と、速度探知で得た情報全てをフロートに送りつける。その瞬間、絶対零度領域の拡大が止まった。

 

フロートの頭の出来がどの程度かはわからないが、なんとか邪魔はできたみたいだ。思考加速をしていなければ処理するのが難しいほどの探知の情報量。それに加えて日本語での思考を送りつけたのも、ここまでの効果を出した要因になっている。俺がこの世界の言語を全く理解できないように、この世界の生きとし生けるもの全ても日本語を理解することができない。訳のわからない、言葉なのかすらわからない謎の音に戸惑い、思考がフリーズする。

 

「魔法を解かないのはあっぱれ、と言ったところかな。今のうちに攻撃するか」

 

簡易無量○処みたいなものだが、おそらく本家よりも早く復活してくるだろう。何秒持つのかすらわからない。現実に思考が戻ってくるまでの間に多くの攻撃を叩き込んでおかなくては。

 

「とりあえずまずは重力でも...ん?」

 

左斜め後ろから誰かが近づいてくるのを探知した。右目がない。ナルミさんだ。

 

「どうしてこっちに...魔物は?」

 

「援軍と火力支援のおかげで前線は問題ないです。それで、これはどういう...」

 

「あの魔族、フロートは熱を操る魔法で身を固めている。今は気絶しているような状態だから、目が覚めないうちに絶対零度の空間を無視できる攻撃をしようってところだ」

 

「なるほど...あの、魔族を守ってるあの氷みたいなのを無くせたりはしませんか?私に考えがあるんです」

 

んー...どうしよう。ナルミさんの策がどういったものかわからない。けれど、このまま重力や光、音で攻撃し続けても倒せるとは限らない。

 

「もし魔法を解除させることができたら、何ができる?」

 

「確実に戦闘不能にできます」

 

…考えていてもフロートが目覚めるまでの時間が迫るだけか。

 

「確実と言ったな。そう言ったからには本当に必ずできるんだな?」

 

「はい、できます!」

 

「わかった。その話に乗ろう」

 

鞄を下ろし、中をまさぐって目的のものを探しながら言う。

 

「いいか、絶対零度領域を解除する方法は考えつく中で二つある。一つはフロートに依存する不確定要素の大きいもの。もう一つは確実だけど秒数の制限があるもの。もっとも、秒数に関しては両方変わんないだろうがな」

 

策は二重に弄しておく。一つ目でできれば行幸だが、多分失敗する。

 

「後者は最長でも一秒。これ以上は今後の戦闘に響くから不可能だ。一秒でできるか?」

 

「…できます。十分です。余るくらいですよ」

 

「オッケー。タイミングはそっちで合わせてくれ。こっちで声をかける余裕がない」

 

「わかりました」

 

「じゃあまず一つ目の策だ」

 

714ページ左上 黒のみ 土流

 

目的のものを取り出した俺は地面に手をつき土流を発動する。液状化した土はフロートの絶対零度領域をすっぽりと覆い、凍りつき、張り付いた。

 

アニメで、バリア系の能力を突破するためによく使われるのがこれ。バリアに血だとか土だとかを被せて視界を塞ぎ、一度能力を解除させるのを強制させる方法だ。これで解除した隙を狙われて死んでいるのをよく見る。試す価値はある。多分失敗するだろうが。

 

「フロートが起きるまで待つぞ。あいつが目覚めないとどうしようもない」

 

そう俺が言って10秒ほど経った頃だった。

 

「……な、なんだったんだ今のは...神の使いの...なんだ...?」

 

フロートが起きたみたいだ。

 

「む、視界が塞がれているな...なるほど、そういう魂胆か。お前にしては考えが浅いな!神の使い!」

 

フロートがそう言うと、凍った空気に付着していた土が一斉に消滅する。おそらく、土の熱を操作して気体に昇華させたのだろう。土の沸点が何千度なのかは知らないが、そこまで上げられるとは思っていなかった。下手すりゃ際限なく上げられるのかもしれない。

 

「まぁこうなるってことは薄々気付いていたさ。熱操作は範囲に制限は特にないからな。絶対零度を崩さず土を退かすぐらいできると思ってたさ」

 

「失敗すると分かっていたなら、なぜやった」

 

「まぁ一応ね。成功するかもしれないし。それに...」

 

持っていたポーションの瓶の蓋を開け、中身を一気に飲みほす。

 

「少しは油断してくれると思ってな」

 

ポーションによって魔力が回復する。最大魔力量を超えて回復してしまったため、余剰分が体から漏れ出す。同時にポーションを飲んだため自然回復も止まってしまうが、特に関係はない。すぐにポーション分は使い切るからな。

 

「さぁ、早めに終わらせようか。魔力を無駄にしたくないしね」

 

ポーションの瓶を投げ捨て、俺は持っていた魔法図鑑を背表紙から開き、一枚ページを捲る。

 

「ページ数、9926、9927」

 

俺がそう言うと、フロートが怪訝な目を向ける。

 

「オールカラー、魔法拡散(ディスタブマジック)!」

 

溢れ出す魔力を無理矢理操作し、自分の中の魔力も併せて一気に魔法陣に叩き込む。

 

魔法拡散が発動する。フロートの体を中心として、半径二メートル。発動時間はもって一秒。これが限界。

 

けれど、こんな杜撰な魔法でも、フロートの熱操作は解除された。

 

フロートは一秒で解除されることを知らない。なので、急いで魔法拡散の領域から出ようと試みた。俺から少し離れたところにいるナルミさんに気づかないまま。

 

スパァンッ!

 

ナルミさんの振った鞭が、フロートの顔面を引っ叩いた。

 

「ぐっ...」

 

一瞬よろけるも、フロートはすぐに体勢を整えた。そしてその瞬間、魔法拡散が解除される。

 

「…ハッ、魔法拡散まで使ってこれか。飛んだ魔力の無駄だったな」

 

フロートの周りに絶対零度領域が展開される。

 

「魔力を大量に消費した。二度目の魔法拡散の発動はできない。リスクを犯して、二度と訪れないチャンスをものにできなかったお前の負けだ、神の使い」

 

大量の氷が生成され、こちらに照準が向く。

 

「……なーるほど。よーくわかった」

 

「何がだ?」

 

「お前が一度も仲間を信じたことがないってのがよくわかったよ」

 

俺はナルミさんを信じている。あの鞭の一発は決して無駄ではない。

 

「仲間?さっき会ったばっかりの人間を仲間と呼ぶのか?」

 

「そうだよ。人間ってのは単純だ。一眼あっただけで友達だって奴もいるしな。通じ合えるところがあるなら、誰だって仲間さ」

 

「理解できないな。どうしてそこまで信用できる」

 

「信用?できるできないじゃないだろ。するんだよ。なぁ、ナルミさん」

 

「ええ。無条件で信じてくれたからこそ、この魔法が使える」

 

ナルミさんは右目の眼帯に触れる。

 

「コピーしても人の心はわかんねぇみたいだなフロートさんよォ!」

 

「人の心がわからない魔族にはまず、私の痛みを知ってもらいます!喰らいなさい!」

 

「無駄だ!第一、この防御の前で誰が俺に危害を加えられる!」

 

「今からは無理ですよ。でも、もう攻撃は終わってます」

 

ナルミさんがそう言った瞬間だった。

 

ボロっと、フロートの右目が落ち、地面に落ちた。

 

「な...何が...⁉︎」

 

膝をつき、倒れるフロート。

 

同調魔法(シンクロ)。あなたと私は繋がった。私の傷はあなたにも共有される!」

 

攻撃を一度当てることで発動できる魔法。それが同調魔法なのだろう。無条件で発動できるのなら、絶対零度領域を解除する必要はない。そして、これは俺も知らない魔法だ。俺が知らないということは、リヒトも知らないということ。公表されていない魔法だ。

 

そして、この魔法にはまだ続きがあるはずだ。右目を失っただけで戦闘不能にはならない。まだ、何かがある。

 

「オラオラどうしたフロート。やられて悔しくないのか?反撃してみせろよ」

 

動かないフロートに呼びかける。しかし、反応は返ってこない。

 

「話しても無駄ですよ。理解できませんから」

 

「…どういうこと?」

 

「私の脳は、過去に魔物から受けた攻撃によって傷ついています。言語に関する部分だけですが」

 

「言語...?ならなぜ今話せている?」

 

「外付けの魔道具に魔力を通し続けている間は常人と同じように話したり聞いたりできます。けれど、そこの魔族にはそれがない。魔族は今、何も話せないし、こちらの話したことを理解することすらできません」

 

「なるほど。そりゃ強い」

 

まさか脳の傷まで共有させるとは...スッゴイ欲しい。相打ちに持っていくにはうってつけだ。

 

「デメリットとして、相手の傷も私に共有されますが...鞭なので必要以上に傷をつけることもありません」

 

よく見ると、たしかにナルミさんの顔に擦過傷があった。フロートの顔についた傷と似ていた。

 

「ほんとヤベェなその魔法...さて、トドメを刺すとしよう」

 

脳を物理的に破壊されたショックで動けなくなっているフロートに近づく。

 

けれどその時、フロートは立ち上がった。

 

顔が変わっていた。今までに見たことがない顔だ。

 

「まさかここまで追い詰められるとは...固執しないで早めに始末するべきだったか」

 

「な、なんでまだ話せるの⁉︎」

 

「頭を入れ替えたのか...別のコピーに乗り換えたな」

 

「正解だ。俺以外の魔族なら終わっていただろうな」

 

「お前、どれだけストックを抱えているんだ?」

 

「さぁな。教えるかよ」

 

流石に聞き出せないか。この様子だと、フロートにはコピーの数だけ命があると言ってもいい。非常に面倒だ。

 

「ならもう一度やるだけ...ナルミさん!」

 

「はい!」

 

ナルミさんはもう一度フロートの顔を引っ叩く。

 

「そうはさせない」

 

そう言うと、フロートは自ら左目を抉り取った。そしてさらに、両足をへし折る。

 

「な、何を⁉︎」

 

「こうすればお前はその魔法を使うわけにはいかなくなるだろう?死にたいなら使うといい」

 

「うぅ...」

 

無理だ。流石に使えない。使わせられない。

 

「使わなくていいよナルミさん。それよりもいいのか?自ら逃げ足を潰すなんて」

 

「問題ない。勝手に転移してくれるさ。俺を失うわけにはいかないからな」

 

「随分とまぁ自信があるようだな。負けたやつは用済み...だなんて展開は考えないのか?それと...逃すと思うか?」

 

「お前は俺を追うわけにはいかない。ここを離れるわけにはいかなくなる」

 

「なに...?」

 

「時間稼ぎは終わりだ。せいぜい足掻け」

 

フロートが上を見る。つられて俺も上を見てしまう。

 

そこには、今までにないくらいの大きな空間の歪みがあった。

 

「転移の兆候...!まさかこれに気づかせないために!」

 

急いで前を見る。しかし、フロートの姿は消えていた。

 

やられた。フロートの襲撃は囮。上で行われている転移に気づかせないようにするための陽動だったのだ。

 

そしてこの瞬間、転移は完了する。

 

三体の巨大な魔物たちが、降ってきた。

 

防衛装置移動完了まで、あと10分。




フロートとの戦いで十分しか経ってないのって結構無理があるような...思考速度加速がどの程度なのかによって時間経過の具合も変わるんで、そこら辺がちょっと難しいんですよね...
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