前世の俺がすでに転生特典決めてました   作:ダイヤモンドリリー

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8129字。

戦争回6話目です。


巨大な騎士と矮小な人間

「な、なんじゃこれは!」

 

後ろからニトラスがやってきて、目の前の光景に驚く。目の前に立っている、超巨大な魔物に驚く。

 

「転移の兆候はなかったはず...!」

 

転移の兆候...確かに、転移する前に現れる空間の歪みがなかったな...

 

「ってそんなこと考えてる暇ねぇ⁉︎」

 

魔物がゆっくりとサーベルを持った腕を振り上げた。ひとたびそれを振り下ろしてしまえば、カイスを守る壁は一溜まりもない。魔法の防護すら貫通してしまうだろう。それほどまでにこいつの中の魔素、並びに魔力が多い。

 

なんとかして、攻撃をやめさせなければ。なんとかして、この場から遠ざけなければ。多くの人が死ぬ。あっさりと蹂躙されてしまう。

 

「そうは...させない!」

 

7002ページ 黒のみ 金属生成

4000ページ 黒のみ 流体金属

2810ページ上 黒のみ 物質固定

 

金属を生成、流体化させて一気に動かし、魔物の腕に絡ませる。そして腕と金属、金属と地面を固定して魔物の動きを一時的に止める。さらにサーベルに金属を纏わり付かせ、刃を潰す。

 

「…くっそ、なんて馬鹿力だ...!」

 

金属で腕を固定させたというのに、魔物は無理矢理腕を動かそうとする。そのせいで、わざわざ硬い金属を選んだというのに少しずつ伸びてしまう。このままいけばやがて金属は耐えきれず切れ、腕が自由に動かせるようになってしまう。刃は潰したとはいえ、あの大きさのサーベルを振れば十分鈍器として使えてしまう。こんなその場しのぎではダメだ。

 

2007ページ下 黒 赤 拘束

5000ページ 黒のみ 魔法復唱

 

けれどまずは時間稼ぎ。このデカブツを退かすには準備が必要だ。これで足りるかはわからないが...なんとか間に合わせよう。

 

「魔力...足りてくれよ」

 

一本ポーションを飲む。だが少しだけだ。次に使う魔法分の魔力だけを狙って回復させる。

 

1799ページ左上 黒 青 路面凍結

 

地面に手を触れる。魔物の足元から遠く向こう、前方の地面まで一気に凍らせる。

 

「よし、あとは...」

 

魔物の股下を通り、少し前に出る。

 

1640ページ左下 黒 青 拡声

 

「みんなーっ!その氷から離れろー!」

 

遠くにいる冒険者に呼びかける。頼む...届いてくれ!

 

「早く逃げろー!巻き込まれるぞーー!」

 

……思いが届いたのか、冒険者たちは急いで氷から離れていく。前線に穴が開き、魔物たちが雪崩れ込んでくるが問題はない。

 

「次!」

 

5701ページ 黒のみ 重力反転

 

魔物のいる位置の重力を反転させる。重力に引っ張られて魔物の体が浮くが、拘束魔法の鎖で引き留められて空まで飛んでいくことはない。それに、浮いたと言ってもせいぜい十数センチほど。けれど、これで十分だ。

 

1527ページ左上 黒のみ 水膜

 

魔物の足の裏に水の膜を張る。するとハイドロプレーニング現象が起き、ただでさえ氷で滑るところがさらに滑りやすくなる。

 

「ニトラス!こいつを動かす!こいつの手足に閃光を当てて押し出すことはできないか!」

 

氷の上を滑って魔物の正面に戻る。そしてニトラスに問いかける。

 

「わかった。いつでも撃てるぞ」

 

「タイミングはそっちで合わせてくれ!俺は魔法の制御に集中する!」

 

まず、魔物の体を抑えていた拘束の魔法を解除させる。既にボロボロだった鎖が消滅する。さらに重力反転の魔法も解除する。

 

二つの魔法の解除により、魔物が地面に着地する。しかし動けない。地面は凍っており、足の裏には水が張っている。魔物は大きくなり、自重も増している。一度倒れれば、起き上がるのは困難。それがわかっているため、迂闊には動かない。

 

そしてしばらくたち、意を決して魔物が動き出す。サーベルを持つ腕を振り上げた。このまま振り下ろし、壁を破壊するつもりだ。振ってそのあと倒れようと構わない。この体なら前に倒れるだけでも十分な攻撃になるはず。そう思ったのだろう。

 

「俺は...それを待っていた!」

 

サーベルを持つ腕を上げる。それはつまり、重心が上に移動したということだ。動かすならば、今が好機。

 

72ページ右下 黒のみ 跳躍

 

地面を蹴り、魔物に飛びかかる。そして首元にある鎧の出っぱりに片手を引っ掛ける。

 

「水噴!暴風ゥ!」

 

1749ページ右上 黒のみ 水噴

4447ページ 黒のみ 暴風

 

魔物の足裏から水が噴射され、後ろに向けた俺の手からは暴風が吹き荒れる。それにより、魔物の巨大な体が少しずつ後ろに動く。がしかし、魔物も抵抗してくる。動いたのは一瞬だけだった。これだけじゃ足りない。

 

「閃光!」

 

特殊なカスタムがされた閃光がニトラスの声とともに放たれる。魔物の両手両足に命中し、魔物の体を押し出す。魔法耐性があっても、ノックバックまでは防げないらしい。やっと魔物が後ろに動き始める。

 

「加速...全開!吹き飛べ!!」

 

魔物の運動方向が確定する。それにより能力の効果対象に適用され、速度を操作できるようになった。

 

魔物の体が、秒速40メートルで後ろに吹き飛んでいく。俺でしか魔物の移動はなし得なかった。神の使いとして、初めて誰にもできないことを成し遂げた。

 

一度動き出したらもう止まらない。暴風、水噴の魔法はもういらないためすぐに解除しておく。能力が秒速40メートルという速度を保証しているため、何があっても減速することはない。そのまま凍った地面を破壊しながら滑っていく。

 

やがて前線付近までたどり着く。そこを通り抜ける時、さっき前線から飛び出してきた魔物たちは、滑っていく魔物の足にまるで羽虫のようにことごとく蹴散らされ死んでいった。この大質量が高速道路の車以上の速度で衝突すればそりゃそうなる。前線より奥の魔物も、通り道に立っていたものは残らず蹴散らされていった。

 

「終点だ!そのまますっ転べ!」

 

そろそろ地面の氷が途切れるころだ。そこにたどり着く前に俺は鎧から手を離し、地面に降りる。

 

本来なら慣性が働きそのまま魔物は滑り続けるだろうが、能力で無理矢理作り出した速度であるため、俺が離れれば速度は一瞬で操作する前のものに戻る。一瞬で魔物の体が止まる。

 

しかし、氷に接地している足は水膜が残っているのもあり、他の部位と比べてほんの少しだが止まるのが遅かった。そのため、滑って魔物は前に倒れて顔面を地面に叩きつけた。その衝撃で轟音が鳴り、地面が震えて土煙が舞う。もはや全身が凶器。もし少しでも巻き込まれようものなら、一瞬で圧死するだろう。

 

「よし!とりあえず引き剥がしは成功!」

 

水膜を解除し、一旦全力で後ろに下がる。この土煙の中じゃ見通しが効かない。いずれ魔物は立ち上がる。そしてカイスに向かって歩き出すはずだ。気づかないうちに近づいてきていて、足で踏み潰されるのを回避するために下がるのだ。

 

「この間に対抗策とか考えておくか...」

 

土煙が晴れるまでの間に、考え事を済ませておくとしよう。

 

まず、対抗策の前に一つ考えたいことがある。なぜ魔物は転移の兆候である空間の歪みなしに転移することができたのかについてだ。空間が歪む時と、歪まない時。その差はなんだ...?

 

……そういえば、転移は魔素のある場所にしかできないなんて仮説を前にリヒトが立てていたな。もしそれが正しいとするなら...

 

魔素の量...か?もし魔素が転移に必要だと仮定すると、色々なことが説明できそうな気がする。

 

まず、転移には飛ばすものに準じた魔素が必要。これは飛ばすものの数、大きさ、質量によって決まる。大きい魔物なら、その分多くの魔素を必要とする。

 

そして転移したい場所に必要量の魔素が足りない場合、周囲から魔素を供給してもらい時間をかけて転移を完了させる。その時に起こるのが、空間の歪み。三体の巨大な魔物が転移してくる時、俺が転移の兆候に気づかないようにフロートが時間稼ぎをしていた。魔素が足りないくて時間がかかるから、わざわざフロートが出て時間稼ぎをする必要があったのだ。

 

さらに、さっきの転移が一瞬だったのは、三体の巨大な魔物から漏れ出た魔素が辺りに残っていたから。三体の魔物の位置に違和感があったのは、わざと倒させて魔素を出してもらう必要があったから。真ん中がいち早く倒されれば、左右に戦力が均等に移動する。残る二体も倒されやすくなるわけだ。鳥が真ん中だったことの説明もできた。

 

あっ、魔素を使うの合ってるかもしれない。今思い出したが、転移してくる前、門の前は魔素が多いため魔力の回復がほとんどできない状態になっていた。しかし、魔物が転移してきて俺とニトラスが門の外に出た時は、魔力の回復が普通に行われていたような気がする。

 

その空間に存在している魔素と、転移させたいものを入れ替える。それが転移の正体だろうか。

 

……ついでにもう一つ分かったことがある。もう二ヶ月以上も前のことだが、チュチュやキース、ギブドと馬車の護衛をした時にも魔物が転移してきたことがあった。あの時、3人は突然何もないところから魔物が現れたと言っていた。つまり、空間の歪みを見ていないということだ。

 

あの時転移してきた魔物は、今考えるとそこまで大きなものではなかったが、あの位置にある魔素の量では多分足りない。一瞬で転移させるために、何らかしらの工作がされているはずだ。おそらく、魔物に魔素を注ぎ込んでいる、転移の魔族とは別の魔族がその空間の魔素を増やしたのだ。

 

少なくとも、この戦争には三体の魔族が関わっている。一体はコピーの使い手フロート。もう一体は魔素を利用した転移の魔族。最後に、魔素を増やすことのできる魔族。元からある魔素を操っているのか、無から生み出しているのかはわからないが、そこは今はあまり関係ないだろう。

 

そして、ここで二つの疑問が出てくる。一つ目は、あんだけデカいこの魔物が、なぜレーダーを見たときに映らなかったのか。二つ目は、なぜわざわざ三体の魔物を倒して魔素を出すなんてことをしたのか。

 

一つ目は一応説明はできる。三体の魔物が転移してきた直後にレーダーを見たが、その時はまだこの魔物はデカくなっていなかった。あの後に巨大化させられて、転移してきたというものだ。まぁ三体が転移してきたという事実を確認するために見たから、それに集中しすぎて見落とした可能性もないわけじゃない。

 

二つ目は説明できない。情報が少ないし、考えても無駄かもしれない。気まぐれで、攻撃もできて準備も同時にできるからやっちゃおうってな感じでやられてたらどうしようもない。

 

けれど、こんなことも考えられる。カイスの中、もしくは今戦っている人間の中に、魔素を増やせる魔族がいるという可能性だ。誰かに紛れているため、魔素を直接増やして転移しやすくすることができなかった。

 

もちろん、別の場所でこの魔物をデカくさせてましたとかだったらこの仮説は成り立たない。それにこの仮説が正しいとすると、俺はレーダーに写っていたこの魔物の反応を見落としたということになる。が、この仮説はカイスの防衛装置の移動が妨害されていることの説明もできる。妨害工作をしていたから、魔素を増やすことができなかったと考えることができる。

 

フロートと転移の魔族は妨害工作をすることができない。フロートは自らの目と足を傷つけて戦線離脱したはずだし、時間的に妨害工作が行われている最中に転移の魔族は俺にちょっかいをかけてきた。この二体の可能性は消せる。よって残る可能性は魔素増幅の魔族か、未知の魔族Xに限られる。

 

…とまぁ色々考えてきたが、以上のことは全て仮定に仮定を重ねて出た推測に過ぎない。証拠もあまりない。ただの妄想と言われればそれまで。前提が一つでも崩れれば、芋づる式に全て瓦解する。

 

けれど、ここまで物事に説明をつけることができたのだ。一旦、真だということにしておこう。

 

「……あー考え疲れた。甘いもん食いてぇ...」

 

思考速度の加速は思っているよりもエネルギーを使う。ちゃんとご飯を食べられたわけでもないし、空腹と糖分不足がやばい。エネルギー消費速度操作とかできるようにならないかな...まだそういう複雑な速度操作はできないんだよな。できたらもっと楽になるのに...

 

「って、そんなこと言ってる場合じゃないか」

 

考えるのは終わりだ。土煙は晴れ、魔物が起き上がった。

 

体を動かす時が来た。

 

「足止め、させてもらうよ」

 

魔物がカイスに向かって歩き出した。俺は進行方向に立ち塞がる。

 

「…見向きもしない...か、俺なんてちっさな虫くらいにしか見えてないんだろうな」

 

魔物はサーベルを振ることなく、歩き続ける。そもそも俺のことが見えていないのか、それとも戦うに値しないと放置しているのかはわからない。

 

「まぁお前からしたらなんでもちっちゃく見えるんだろうけどさ...」

 

4571ページ 黒のみ 触手・水

 

水の触手を生成、地面をぶっ叩いて反動で上に吹っ飛ぶ。

 

「目の前を飛べば流石に無視できねぇよなァ!」

 

魔物の目の前に飛び、触手を顔面に叩きつける。そして二本の触手で鎧を掴んで空中に止まる。

 

「どう?俺、邪魔だろ?」

 

魔物の目の前にいられちゃ邪魔だと思ったのか、排除行動を開始する。サーベルを持つ腕を動かし、俺を払おうとする。

 

「おおっと危ない」

 

グイッと触手を引き寄せ、魔物のすぐそばまで移動する。あの大きさ、質量では、人が目の前の羽虫を振り払おうとする動作だけでも致命傷になりかねない。速度が遅いため埴輪の弾幕よりかは避けやすいが、あっちはまだ一発くらいなら当たってもいい程度の威力だったから危険度的にはこっちの方がやばい。

 

「でも、近づけば怖くない」

 

大きくなると威力は出るが、その分機動力が落ちる。そして、その力ゆえに自滅の危険がある行動は取れないはず。完全に引っ付けば体を動かす衝撃で振り払われてしまうが、水の触手で掴めばある程度の衝撃を吸収できる。付かず離れずの距離を維持する。

 

「さーて、なにで攻撃しようか」

 

魔法耐性持ちに効くのは、主に物理攻撃か、物理現象を引き起こす魔法だ。しかし、魔素の影響で普通に鎧の防御力も上がっているだろう。物理攻撃は効かない気がする。突破するには、さっきの条件の中かつ威力の高い魔法を使うしかない。

 

「一旦まずは...うおっと、こいつ無視して進む気か」

 

どうせ何もできないと高を括られたか。魔物は俺を無視して再度歩き始めた。

 

「考えてる暇ねぇな。適当にぶっぱして効いたら連発すりゃいっか」

 

3776ページ下 黒 黄 音撃

 

指パッチンをして音の塊を飛ばす。この魔法がやっているのは音の増幅と指向性の付与。自分で作り出した音を元にして撃ち込んでいるため、魔法耐性には引っかからないはず...だったが、あまり効いているようには見えなかった。

 

「これじゃダメか」

 

7713ページ 黒のみ 重力操作

 

今度は重力。生み出した重力は魔法耐性に抵触しそうなので、元からある重力を操作して押し潰しにかかる。

 

ペコっと鎧の一部がヘコむ。が、それまで。それ以上の変化は起きない。

 

「これで威力不足か..」

 

魔法を解除する。これ以上やっても効果は見込めないし、魔力の無駄だ。さっさと別の魔法を考える。

 

「目を潰せば止まるか?やってみるか」

 

1603ページ右下 黒のみ 光源設置

 

魔物の両目の前に、光の放出点を設置する。本来なら洞窟などで光源を作り出す松明代わりとなる魔法なのだが、今回は目潰し用として使った。

 

「おぉう暴れるねぇ」

 

流石に目を潰されれば堪えるみたいだ。魔物は両手で顔を押さえようとして...って危ねぇ⁉︎

 

「油断してた...これ、俺が危ねぇな」

 

触手を使ってグルリと魔物の背後に回り込むことで回避することはできた。足止めもできている。でも、このままやり続けるのは危険な気がする。ヤケを起こしてこの場で暴れ回られれば手をつけられなくなる。死んで時間を稼ぐ気は毛頭ない。そうなる前に魔法を解除する。すると、魔物は顔を押さえるのをやめ、少し顔を横に振ったのち歩き始めた。

 

「うまい具合に時間稼ぎできる魔法...あったかな」

 

俺がやりたいのは、無駄に危険を冒すことなく時間を稼ぐこと。こいつを殺すことではない。時間を稼ぎさえすれば、防衛装置移動完了までの時間に間に合えさえすれば俺たちの勝ちなのだ。何が起こっても、俺たちの勝利条件は変わらない。

 

防衛装置なら魔法耐性持ちでも消し飛ばせるとリヒトは言った。俺はその言葉を信じ、こいつを足止めし続ける。カイスには辿り着かせない。前線で戦う冒険者たちのもとまでも辿り着かせない。もし足止めしきれなかったなら、魔力の全てを使ってでもまた後ろに弾き飛ばす。死なない程度に、できる限りの足止めを遂行するのだ。

 

「とりあえず『雷装』!」

 

水の触手を通して電流を魔物に流し込む。鎧は金属だから、特に抵抗もなく流れるはずだ。

 

「止まれ...止まんねぇ⁉︎」

 

い、威力が足りない!体の大きさに対して、電流の威力が少なすぎる!完全に出力不足だ!

 

「マジかよ...!」

 

今まで、雷装が効かないという経験をしたことがなかった。そのため、雷装は比較的切ることの多い奥の手的な立ち位置にあった。切れば勝てる。そこまで行かずとも、確実に形勢逆転することができる。そんな切り札だった。俺にしか使えないというのも、その自信に拍車をかけていた。

 

それが敗れたことで、ものすごく動揺してしまう。一瞬頭が思考停止してしまう。幸い攻撃されることはなかったが、冷静な思考が奪われる。

 

「雷装が効かないなんてどうすれば...だ、ダメだ集中しないと⁉︎」

 

一瞬だが魔法の制御を手放しそうになっていた。危なかった。触手・水を解除しかけた。

 

「くっそ頭回んねぇ...ヤベェ魔法の発動が...!」

 

俺が魔法を使う時は、まず速度探知で魔法図鑑の位置を特定し、さらに使いたい魔法が描かれているページを見つけ、そこにピンポイントで魔力を流すという三つの工程が必要だ。

 

魔法図鑑の位置を特定するのは簡単だ。しかし、その後の工程は並外れて難しい。糖分、エネルギー不足のせいでただでさえ頭が回っていなかったというのに、雷装が効かなかったことによる動揺が合わさり、いつも行っていた手順を踏むことが難しくなる。

 

あれ、あれ?こんなに難しかったっけ。熱操作が乗ってるのは何ページだった?どこだよどこにあるんだ。いやそれよりもまず触手・水を発動し直さないと触手の制御が...あっ。

 

魔法の制御を手放しかけたことで、水を生成し続ける部分の効果が停止していたみたいだ。そして、雷装を切るのを忘れていた。この二つが重なってしまい、水の触手全てが電気分解されてしまった。体を支えていたものがなくなってしまい、俺は重力に従い地面へと落下していく。

 

「ヤッベェ死ぬ⁉︎」

 

な、何か魔法使わないと死ぬやばいやばいどうしようこういう時何の魔法使えばというかページ思い出せないどこにあったっけ魔力流さないと能力じゃ間に合わない待って───

 

「しょ、『触手・水』!」

 

ドンっと音がする。重いものが落ちた音。地面を打ち砕いた音だ。

 

「い、いきて...る?生きてる⁉︎」

 

いつのまにか水の触手が生えており、それが落下の衝撃を抑えてくれたみたいだった。

 

「…そうか、スキルだ」

 

間一髪、触手・水のスキルが発動していたみたいだ。魔力を魔法図鑑に上手く流し込むことができず、焦って叫んでしまっていたがそれがスキル発動のトリガーになったらしい。これがなかったら本当に死ぬところだった。

 

「ってかそうじゃん。スキルで魔法使えばいいんだ。魔法図鑑にこだわりすぎてたな」

 

カスタムが使えなくなるが、魔法の発動までの速度は魔法図鑑を使った時よりも若干だが早くなる。魔力を流す工程がなくなるからだ。さらにスキルならば、これまた若干だが威力が上がる。魔法図鑑でカスタム無しの魔法を撃つくらいなら、スキルで発動させた方が得になる。魔力のロスも少ない。動揺して普段通りに魔法を使えないのなら、こっちの方が何倍もいい。

 

「はぁー...頭回ってないし凝り固まってたな。反省反省っと」

 

意識を切り替えよう。少しは冷静になれ。焦るのはいいが、思考だけは捨てるな。

 

「……よしっ!」

 

頬を軽く叩き、仄かな痛みを持って目の前の戦いに集中させる。

 

「初心に帰って...行きますか!時間稼ぎ!」

 

触手を地面に叩きつけて、俺はもう一度魔物に飛びかかった。




最初戦争回を書き始めたときは、どうせ3、4話くらいで終わるんだろうなと思ってましたが、意外と長く続いていて自分でもびっくりしてます。
まぁ無駄を突き詰めれば一話分くらい削れる部分があるとは思うんですけど、回りくどい説明と状況描写、長い思考パートもこの作品の醍醐味だと思って飲み込んでください。

多分次回で戦争自体はラスト、次次回でその後の描写になるんじゃないかなーと思ってます。
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