前世の俺がすでに転生特典決めてました   作:ダイヤモンドリリー

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8145字。

戦争回7話目です。


全てを蹴散らす防衛装置

「こっから先には進ませない!」

 

ドンっと魔物の兜の上に着地する。

 

「『拘束』!『魔法復唱』!」

 

鎖を召喚し、魔物をガチガチに拘束する。けれど、カスタムができていないため長くは持たない。数十秒ももたないはずだ。

 

「『金属生成』!『流体金属』!」

 

金属生成でインゴット状のタングステン鋼を生成し、流体金属でそれを大剣の形に整形する。

 

「おっも...もう一個!『金属生成』!『製作』!」

 

製作のスキルを使い、同じ大剣をもう一つ作り出す。

 

「『念動』!」

 

作り出した二つの大剣を、魔法を使って動かして宙に浮かせる。

 

「『火装・剣』に『氷装・剣』...っと」

 

それぞれに、火装と氷装を付与する。以前同じ種類の魔物に試した、温度差を使って鎧を砕くのをもう一度やってみるのだ。あの時は魔法を使ってやったが、あの方法だとカスタムを使う必要があるため別のスキルで代用した。

 

「こいつらには勝手に攻撃してもらうとして...俺は転ばせに行くか」

 

大剣たちには兜を攻撃し続けてもらう。俺は一旦魔物から離れ、地面に降りる。

 

「転ばせるなら...これかな。まずは鎖を引っ張って...!」

 

『植物操作』

 

地面に手を触れ、周囲の植物を操り魔物を抑えている鎖を引っ張る。

 

「『筆記』!」

 

動けない魔物の足まで近づき、つま先を登って、そこから脚を駆け上がって脚に幾つもの魔法陣を描く。もう片方の脚にも同じ処置を加えていく。

 

「よし、もうそろそろ...って離れないとやばいな」

 

魔物の進行方向に対して垂直に走り、魔物から距離を取る。

 

その時、パキンっと音がした。魔物を拘束していた鎖が砕け散った音だ。

 

「よし、今だ魔法陣起動!」

 

魔物の脚にしかけた魔法陣を一斉に起動させる。描いたのは暴風の魔法陣。全ての魔法陣から暴風が吹き荒れる。

 

植物操作で目一杯後ろに引っ張っていた鎖が突然外れたことで、ほんの少しだがバランスを崩していた魔物。そのバランスが脚から放たれた暴風によってさらに崩れ、前に倒れ込む。

 

「よっしゃその首貰った!」

 

あらかじめ空に飛び上がっていた俺は魔物の首を睨みつける。微妙だが確かに見える鎧と兜の間にある隙間。その向こうにある中身を、左腰につけているダガーを刀を抜刀するような構えをとって狙う。

 

「『雷装』...『水刃』!」

 

抜刀と共に二つのスキルを同時発動。水の刃を飛ばし、そこに電流を流し込んで特性の遠距離攻撃を放つ。刃は無事に隙間を通り抜けて魔物の首に命中し、少しだが血が飛び出す。

 

俺の使える雷装では、遠距離攻撃は雷装・矢でしか出来なかった。触手・水を使った中距離攻撃はしたことがあったが、ここまでの距離を攻撃するのは初めてだ。水の魔法は俺とつくづく相性がいい。

 

「傷をつけた...行ける!」

 

兜を叩いていた大剣たちを俺の近くに引き寄せる。兜にはあまり傷はついていないみたいだった。あまり脆くもなっていないらしい。鎧や兜を破るのは無理だとわかったので、別の用途でこれらは使う。

 

「刺され!」

 

魔物の上に着地する前に、二つの大剣を動かして兜と鎧の隙間に差し込む。頭を上に向けて首の隙間を隠されるのを防ぐためだ。開いた傷は隠させない。

 

「直接斬り裂いてやらァ!」

 

魔物の背中に触手を使って安全に着地し、触手とダガーをしまいながら首の隙間目掛けて走る。これだけデカい魔物なら、鎧と中身の間にも大きな空間が広がっているはず。人一人入れるくらいの大きさはあるはずだ。鎧なんてガン無視し、中身を直接叩くのだ。

 

『膂力強化』

 

二つの大剣によってなんとか保たれている隙間から中に入る。そのときに突き刺した大剣を引っこ抜き、武器として構える。

 

「オラァッ!」

 

首についている傷を狙い、大剣をブッ刺す。巨大化と魔素の影響で中身の防御力も上がっているようだが、外の鎧ほどではない。膂力強化のおかげもあって、比較的簡単に突き刺せた。

 

「そのまま引き裂かれろ!」

 

ズバッと大剣を横に振り、首を一気に斬り裂く。鮮血が舞った。普通の魔物なら致命傷になるレベルの傷だろうが、このサイズだと下手すりゃ薄皮一枚切れた程度かもしれない。でも、確かに傷はついた。魔素が流出していれば、それを加速させることで弱体化させることができる。この程度の傷でも十分...

 

「…な、魔素が...出ないだと⁉︎」

 

傷はつけた。傷が浅すぎたわけでもない。一瞬だが確かに魔素は出た。けれど、それはほんの一瞬。ほんの少し出たと思ったら、すぐに止まってしまったのだ。

 

「止血した...みたいなことか?厄介だな」

 

こんなこと初めてだ。でも動揺はもうしない。サイズが規格外なのだ。別のことで規格外なことが起こったとしてもなんら不思議ではない。

 

「ならもう一度傷を開かせるまで...!『貫穿』!」

 

その場で少し飛び、頭上の鎧の壁を蹴って勢いをつけながらスキルを使って一気に大剣を突き刺す。

 

「刃が通んない⁉︎」

 

傷がついた部分を狙って突き刺したはずだった。なのに、刃が通らない。何か硬いものに堰き止められたかのようだった。

 

「なんだこれ...まさか魔素の塊か?」

 

魔力はとてつもない濃度で練り上げれば、物質と変わらない性質を表すようになる。そして魔素と聖素も同様の性質を示す。おそらく、体内にある魔素の量がエグすぎて、漏れ出た瞬間に物質化して固まってしまったのだ。聞くところによると、固まった魔力はただでさえどんな攻撃でも効かないとされる障壁よりも防御性能が高いらしいので、今の攻撃が効かなかったのも納得だ。

 

「もしそうだとすると大変だなこれ...一度にもっと大きな傷をつけるしかないな」

 

小さな傷だと魔素が漏れ出た瞬間に固まってしまう。大きな傷ならば、固まりきって傷を塞いでしまう前に魔素を押し出すことができるかもしれない。魔素を出して弱体化させるならこの方法しかないだろう。

 

「もっとバフかけて横一文字に広く浅く切るか」

 

『威力増大』

『研磨』

『斬撃強化』

 

三つのスキルを発動し、大剣二つにバフをかけていく。

 

「二つを...一つに!」

 

『同質融合』

 

同質融合とは、全く同じ二つ以上のものを一つに融合させ、物質としての存在、格をワンランク昇華させる魔法だ。これを使う時は完璧に100%同じものでないといけないが、製作を使って複製したものなので条件は満たしている。バフも同じものを両方にかけた。唯一違うのは火装と氷装だけだが、既に解除しているので問題はない。

 

そして同質融合によって、本来なら物一つにつき一回しかかけることのできないバフが二重にかけられた状態になっている。この大剣を振り、デカい傷を作り出そうという魂胆だ。

 

「最後に...『フルアタック』!」

 

キースが使っていたスキルを発動し、攻撃の態勢をとる。そして大剣に全体重を乗せ、一気に振り抜く。

 

そうしようとしたその時だった。急に地面が傾いた。そのせいで狙いがずれてしまい、水平に放った大剣は空を切った。

 

「こいつ...!」

 

地面が傾いたのは、魔物がうつ伏せの状態から立ち上がろうとしたからだ。そして不幸だったのは、フルアタックを使っていたこと。攻撃に全てのリソースを向けるため、バランスを崩してしまい背中を転がり落ちてしまう。時間的にそろそろ動き出すのはわかっていたはずなのに...と、後悔している暇はないな。

 

「刺され!」

 

完全に立ち上がった魔物の背中に大剣を刺し、なんとか体を支える。

 

「くっ...揺れる...!」

 

咄嗟の行動だったのと、魔物自身の硬さのせいで深く刺さらなかった。それに魔物が歩く時の揺れが合わさり、大剣が少しずつ抜けてしまう。押し込もうとしても、固まった魔素が邪魔して刺さらない。

 

「…一度外に出るか」

 

このままここにいても何もできない。ならば一度外に出て、もう一度転ばせるなりした方が時間稼ぎとしてはいいだろう。

 

「これ、下から出れるよな...?」

 

『物質強化』

 

ダガーに物質強化をかけてから片手で掴んで魔物の背中に刺し、そちらに体重を預けながら大剣を掴む手を離す。そして刺さったダガーに全体重を支えてもらいながらもう一本のダガーを取り出して刺す。

 

一本抜いて少し下に刺し、もう一本を抜いてまた少し下に刺す。それを繰り返すことで、微々たるものだろうが、少しでも傷をつけながら安全に下に降りていく。

 

「よっ、よっ、よっ...おっ、光だ」

 

光が見えた。上半身と下半身の装甲の隙間の部分から差し込んでいるのだろう。

 

「止まったら...今!」

 

少しでも振動が収まったタイミングを見計らって外に飛び出す。

 

「目、目が...まぁ問題ないか」

 

光の入らない真っ黒な場所から急に太陽光で包まれた世界に出たせいで目がやられるが、雷の直撃を受けた時よりかはマシだ。速度探知である程度周囲の状況がわかるのもあるし、視覚がやられてもまだ動ける。

 

「まずは魔物の首にまた飛びついて...っ⁉︎」

 

それに速度探知で気づいた瞬間に横に飛び退く。今のは...サーベルだ。刃の潰れたサーベルだ。

 

「あいつ...完全に俺を潰しにきてやがる⁉︎」

 

どうやら無視しても変わらない、相手するだけ無駄なやつから邪魔者にランクアップしたみたいだ。カイスを潰すにはまず俺を殺したほうがいいと考えたらしい。時間稼ぎとしては最高の出来だが、生き抜くこととしては最悪だ。

 

「くそ、目も見えねぇってのに...!」

 

能力範囲内である3.3メートルに入らないと、攻撃されそうなことにすら気付くことができない。加速のおかげでまだ避けることができているが、いつ避けられない攻撃が来るかわからない。最悪全身を使って押し潰してくる可能性もある。早く目が見えるようになれば...

 

「ってかそうだ追ってくるなら逃げればいいんだ。うまくカイスから離れられれば...って方向わかんねぇし!」

 

考えながらなんとかギリギリで魔物の攻撃を避けていく。このまま俺にヘイトが向くならば、逃げることも選択肢のうちだ。けれど間違ってカイスの方に走ってしまえば、かえって状況が悪くなってしまう。

 

…この状況、前にもあったな。ムカデの巣穴の中だったか。あの時も目が見えない状況だったな。空間に余裕があるからまだ今回の方が楽だけれど。

 

「…そうだ、加速!」

 

思いついたことをすぐに実行する。加速させるのは、視界の回復速度。まだ朧げだけれど、なんとか速度を掴んで加速させる。

 

あの時は完全な暗闇だったからどうしようもなかったが、今回は自分の体の問題。まだなんとかできるラインだ。

 

「よし見えた!って危ねぇ⁉︎」

 

見上げると、魔物が盾を投げつけようとしていた。慌てて避けたおかげで、間一髪当たらずに済んだが、もし見えていないままだったら直撃していただろう。あの速度と大きさだと、3.3メートルに入った段階で詰んでいたはずだ。

 

「ら、ラッキー...?」

 

本当にラッキーなら死にかけることすらないだろうが、苗○誠みたいなタイプの幸運なのだろう。まさに九死に一生だな。

 

「ってかチャンスじゃん盾吹き飛べ!」

 

『重力反転』

 

盾を重力反転で持ち上げて真下に入り込み、一気に加速キックを叩き込む。

 

『浮力増加』

 

盾はすぐに落下することなく、フワーと飛んでいく。

 

「これで盾を剥ぎ取れた!」

 

盾がなかったとしても攻撃は効かないだろうが、これで左右のバランスが崩れるはず。この大きさだと、サーベルと盾、二つがあってやっとバランスが取れるのだ。盾を失えば、必然的にサーベルを両手持ちするしかない。そうなれば威力は上がるだろうが見切りやすくなるはずだ。避けるのも楽になるはず...⁉︎

 

「えっ、ま、マジかよ⁉︎」

 

魔物はサーベルを投げ捨て、飛んでいく盾の方に全速力で駆け出していった。

 

「盾を選ぶの?な、なんで...?」

 

投げ捨てられたサーベルが地面を抉っていくのを横目に見ながら、盾をキャッチする魔物を見る。

 

「そりゃサーベルなんてなくても、ダッシュで突っ込めば壁なんて崩れるだろうけどさ...」

 

というか、走れるんだな。ずっと歩いてたからてっきり走れないもんだと...あれ?やばくね?

 

「ヤッベェこっち走ってきた!」

 

魔物が盾を構えながら全速力でカイスに向かって走り始めた。サーベルは枷だった?なんで走らなかったのかは全くわからないが、とりあえず止めないと!

 

「この速さを止めるには障壁しか...!」

 

『障壁』

『魔法復唱』

 

障壁を、魔物が地面を踏むであろうところを予測して設置していく。カスタムが使えないので、巨大なものを作るのも、空中に設置することもできない。なのでこうやって設置するしかないのだが...

 

「ぜ、全部蹴り壊されてる⁉︎」

 

壊れないはずの障壁が悉く壊されていた。これでは止められない。

 

「くそっ、水で勢いを落とすしか...!」

 

急いで魔物の進行方向に立ち塞がり、空中に跳ぶ。

 

『触手・水』

 

まずは触手で顔面に張り付いて視界を塞ぎ、それから魔力を全て使い切る勢いで水魔法を発動、大量の水をもって魔物の走る勢いを殺す。今の魔力量で、カスタムなしとなるとこれしか方法がない。

 

「成功してくれ...!」

 

魔物がすぐ目の前にまで迫ってくる。あと2秒もすれば、魔物の顔にへばりつくことになる。そこからはもう時の運に身を任せるしかない...

 

その時。

 

『カリヤ避けろ!』

 

頭に聞き覚えのある声が響いた。リヒトの声だ。避ける?どうやって?

 

『未来跳躍』

 

カスタムなしの1秒。それが俺の運命を変えた。

 

魔法の発動から1秒後に、この世界から俺という存在が一時的に消滅した。あと0.001秒も遅ければ、魔物と衝突するところだった。それくらいギリギリだった。

 

そして1秒後に、世界に俺が戻ってくる。魔物から少し離れた地面に転移してきたのだ。

 

「魔物は⁉︎」

 

転移した直後、俺はすぐに魔物の方を見る。すると、なぜリヒトは俺に避けろと言ったのかがわかった。

 

「…は?」

 

魔物は動きを止めていた。一本の太い線のようなものが魔物を貫いていた。あれは...レーザー?

 

「まさか、あれが防衛装置?」

 

そのレーザーの出どころはカイスの壁だった。壁の一部分が開いていて、そこからこのレーザーが飛んできたみたいだった。

 

そして、そのレーザーがゆっくりと消えていった。

 

魔物の体に、どデカい風穴が開いていた。

 

「は?なんだこの威力」

 

あまりの威力に、呆然としてしまう。

 

「…うっわ盾ごと貫通してる...」

 

ちょっと歩いて魔物の正面に回ると、それは見えた。

 

あの盾に攻撃をしたことはないが、きっととてつもない防御性能を兼ね備えていたはずだ。そして、魔物は盾を突き出しながら走っていた。だからあのレーザーは盾に真っ向から当たったはず。なのにいとも容易く盾を貫き、そのままの勢いで鎧をも貫いた。強力な魔法耐性があったはずなのに、だ。

 

おそらくあのレーザーは、魔力の塊のようなものだ。魔力は高密度で練り上げれば物質と同じ性質を示すようになる。物質化したあのレーザーならば、たとえどんなに強い魔法耐性があったとしても無視することができる。いとも容易く撃ち抜ける。

 

「で、でもまぁあの傷なら魔素も固まってないだろうし、加速させて終わりか。魔力足りるかな...」

 

さっきの未来跳躍でまぁまぁな量の魔力を使ってしまった。魔素流出加速中は魔力の回復もできないし、かなりギリギリだ。まぁポーションを飲めば済む話だが。

 

「一応飲んでおくか...ん?」

 

ヒュンッという音がした気がして、思考の中から現実に意識を戻す。

 

「……えっ?」

 

もう一度あのレーザーが飛んできていた。それも一つだけではない。いくつものレーザーが魔物の全身を貫き、蜂の巣にしていた。

 

数秒後には、魔物など元からなかったかのように跡形もなく消滅していた。

 

「ま、マジかよ...」

 

俺の仕事ないなった...

 

『時間稼ぎご苦労だった、カリヤ』

 

あっ、またリヒトの声が聞こえてきた。こっちの声は届くのかな?

 

「聞こえるなら返事してくれリヒト」

 

『なんだ?』

 

聞こえるみたいだ。

 

「あそこまでやる理由あった?一発だけでよかったのに。俺の仕事までとんないでよ」

 

『下手やってお前に死なれちゃ困るんでな。それに、この方が手っ取り早い』

 

「そうだろうけど...さ」

 

『あと、もうカイスに戻ってきていいぞ。戦争は終わりだ』

 

『俯瞰視点』

 

「えっ?まだ魔物残ってるよ?ってか前線崩壊してんじゃん冒険者たちはどうした?」

 

スキルを使って空からの視点で見ると、いつのまにか冒険者たちはいなくなっていて、魔物たちがカイスへと進軍しているのが見えた。戦争の最初のころと比べると数は減っているはいるが、微々たるもの。転移の魔族によって、続々と送り込まれているのだろう。そこまで減ったわけではなかった。

 

『問題ない』

 

リヒトがそう言うと、さっきまでは一つにまとまっていた魔法の砲台が、バラバラに分解されて壁の中に消えていく。そして壁の至る所から小さな砲台が現れ、それぞれ照準を合わせ始めた。

 

『すぐに片付く』

 

蹂躙が始まった。次々と魔物が撃ち抜かれていく。

 

魔法耐性持ちが混ざっていようと、一様に撃ち抜かれる。

 

抵抗も、防御も、逃走も関係ない。

 

全ての魔物に、平等に死が与えられた。

 

「え、えげつねぇ...」

 

どの魔物も、跡形もなく消し飛ばされる。どのような大きさだとしても、その魔物にあったサイズのレーザーが放たれて丸ごと消し飛ばされる。血の一滴も残さず消し飛ばす。

 

「これが...十分の一?信じられねぇな...」

 

この威力、この数、防衛装置の十分の一でここまでの力を発揮できるのだ。単純に考えてこれの十倍の力を本来は使えるんだろ?もうこれで魔王倒せば良くね?

 

『終わったぞ。何をしている早く戻ってこい』

 

そんなことを考えている間に、殲滅が終わっていたみたいだ。リヒトに呼び出される。

 

「あ、ああ。わかった。今そっちに...あっ」

 

『どうした?』

 

「魔力切れちった...」

 

俯瞰視点による魔力消費で、魔力切れを起こしてしまったみたいだ。

 

「しくったな...」

 

『しょうがない。戦いも終わったことだ。ゆっくり歩いて帰るといい』

 

「そうするよ」

 

俺がそう言うと、微かにあった頭の痺れのようなものが無くなった。通信魔法が切れたのだろう。

 

「さて、戻るとしますか」

 

ゆっくりカイスへと歩き始める。ポーションを飲めばすぐに戻ることができるが、リヒトにゆっくり戻れと言われたので、そうすることにしたのだ。

 

「いやーほんと疲れた...だめだ疲れたって言ったら本当にドッと疲れが...」

 

体が重い。スタミナもだいぶ削れているのだろう。一度カイスで魔力回復ついでの休憩をしてから、ずっと走り回って戦っていたからな。速度操作でスタミナ回復速度を上げてなければ、途中で動けなくなっていただろう。

 

「…死体ひとつもないな。死体も消し飛ばしたのか?」

 

主なる戦場であった、前線付近にまでやってきたのだが...あったはずの死体の山がない。血も殆どが消えていた。あの防衛装置のレーザーが地面を抉っていないのを見るに、魔物だけを消し飛ばす類のものなのだろう。

 

「ってことは残ってる血は全部人間のもの?だいぶ少ないな...バフのおかげか?」

 

ざっと見た感じ、大きな血溜まりのようなものは存在していなかった。多分だが、誰も死んでいないと思う。この前線からカイス側に向かっている血痕がほぼないことからもわかる。

 

「誰も死んでない...よかったよかった」

 

俺の目標である味方の死者ゼロは多分達成だ。なお、元々死んでいるアンデッド部隊の損害はカウントしないものとする。

 

「ってかこの感じだと戦後復興もすぐ終わりそうだな」

 

地面のでこぼこを治して、巨大騎士の魔物が投げ飛ばしたサーベルを回収して、サーベルが抉った地面を治して...それくらいで終わりだろう。戦争をしたにしては、あまりにも少ない。この数少ない作業ですら、魔法で一瞬で終わるのだろう。あっ、防衛装置を元の位置に戻す作業もあるな。まぁ元に戻すだけだからすぐに終わるんだろうけど。

 

「…この地面のでこぼこと疲労感しか戦争の痕跡がねぇな。兵どもがもう夢の跡だな」

 

数分前まで戦場だった平原...でこぼこしてるから平原?って感じだが、平原を歩いていく。

 

しばらくすると、門の前で立っている人たちの姿が見えてくる。

 

誰もが、こっちに向かって手を振っていた。俺も手を振り返す。

 

このカイスに、また平和が戻ってきたのだ。




やっと戦争が終わりました。
年末年始に書く内容じゃないわこれ...

というか、本当にあれ防衛装置か?
本編でも書いたけど、あれで魔王滅ぼせよ完全に過剰防衛すぎる。
射程が魔王城に届くまで長かったら物語とっくに終わってるんですよね...

次回は前話でも書いた通り、戦争後のお話になります。
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