前世の俺がすでに転生特典決めてました   作:ダイヤモンドリリー

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8313字。

今回もいつも通りの依頼回...とはならないのはサブタイトルで分かってますよね。


盗品探して穴の中

「よーし今日も依頼行きますか」

 

昨日の依頼でレストの持つ盾の力は大体理解した。予想以上にカウンター寄りだったが、攻撃力特化の魔物相手ならその力を利用して反射で勝てるし、耐久特化の魔物なら普通の盾として使うだけでも攻撃を耐えることができる。物理魔法も関係ないし、スタミナや魔力の補給もできるとなれば単独行動もできなくはない。かなーり有能だ。

 

レスト以外には触れることすらできない不可触状態だから壊れることもないし、魔物や魔族に奪われる心配もない。どこかに置き忘れたり落としたりなど、自分で無くしさえしなければ何の問題もないはずだ。

 

「フラグ...な訳ないよな」

 

もしかして俺、絶賛フラグ建築中?どうせならもっとフラグ乱立させて逆に折ってやろうかな...

 

「っとと、もうギルド到着か。相も変わらず近いな」

 

少し歩くだけですぐにギルドに着いた。宿から近いのほんと便利だな。

 

「ってかまだレストいないな。時間まで待つか...」

 

約束していた時間まで待ってみる。まさかサボろうってことするわけないだろうが...

 

「こねぇ」

 

こねぇぞオイ。本当にサボろうとしてる?それとも寝坊?かなり疲れてたみたいだし、ぐっすり寝てるとかならサボりとかよりもまだ許せるけど...

 

「確認しに行くか」

 

3810ページ下 黒のみ 監視視点

 

一応入れ違いになる可能性を考えて片目の視点をこの場所に固定しておく。もう片方の目は開けても問題ないけど、両目でそれぞれ見てる場所が違うと少し酔いそうになるのでもう片方の目も閉じておく。周囲の様子は速度探知でできるので問題はない。

 

レストの家まで目を閉じながら歩く。昨日、疲れて動けないと言って聞かないレストをお米様抱っこで家まで送り届けたので、家の位置はわかっている。最短距離を進んでいるけどレストとはすれ違っていないし、ギルドにいるわけでもない。ここまで来てまだ会えていないとなると、レストが変に遠回りをしてギルドに行こうとしていたりしなければ、まだ家にいるんだと思う。

 

「レストの家ついたな...流石にもう監視切っていいか」

 

魔法を解除して目を開く。

 

「インターホンないの面倒だな...ノックするか」

 

レストの家のドアを軽く叩く。

 

「すみませーん。レストさんいますかー」

 

親が出てくるかもしれないので、一応さん付けしておく。時間的にもう店の方に行ってそうだけど。

 

「…なんかバタバタしてんな」

 

どったんばったんと焦りながら階段を降りてるような音が聞こえてきた。ドア薄いな。

 

「カ、カリヤ!」

 

バンッとレストの焦る気持ちがそのまま扉を開ける勢いに変換されていた。危なかったが、速度探知で扉の向こうの様子がある程度わかっていたので避けることができた。

 

「そんな焦るだなんて珍しい。寝坊なら怒らないぞ。疲れてたのはわかってるしな」

 

「ね、寝坊してたわけじゃ...」

 

「じゃあなに?サボろうとしてたのに家凸されてびっくりした?」

 

「そうじゃなくて...こっち来て!」

 

「うわわっ」

 

引っ張られて無理矢理家の中に引き摺り込まれる。

 

「なにさ、どうしたの?」

 

「誰かに聞かれたくないからこの家全体に防音魔法かけてお願い」

 

「お、おう」

 

いつにも増して真剣ですごい剣幕なので若干押されてしまう。聞かれたくない話ってなんだろう...っとと、その前に言われた通りに魔法かけないと。

 

3778ページ上 黒 橙 無響

 

魔法を家全体に付与する。無響室のように、音を響かせなくする魔法だ。これなら音が家の外に漏れる心配はない。家の中に盗聴魔法でも仕掛けられてたら話は別だけど、ざっと見た感じ外に情報を送っているような魔力の流れは感じないし問題ないだろう。

 

「んで、聞かれたくない話ってのはなんだ?」

 

「口で説明するよりも見たほうが早いからこっち来て」

 

「おう」

 

いつもののんびりさは何処へやら、レストは俺を急かしてくる。レストがここまで焦るとなると...原因はなんとなく想像がついた。

 

階段を登り、突き当たりの部屋の前までやってくる。

 

「ここが僕の部屋。入って」

 

「…鍵をこじ開けた跡があるな」

 

見えないくらい小さな傷だけど、引っ掻いたような跡があった。速度探知で細かい溝までお見通しだ。

 

「話が早いね。これを見てよ」

 

レストが扉を開ける。見えてくる部屋の内装は...見事に荒れていた。

 

「こりゃまたすごい寝相で...って、んなわけないよな。盗みに入られたか?」

 

棚は全て開けられ、家具は壁から離れたところに移動させられていた。何かを物色した痕跡だ。壁に穴が空いていたり、ところどころ床板が引っぺがされていたりしているのをみるに、そこまでして盗らなければならないものがあったのだろう。あるわけないであろうところも探すなんて、どれだけ細かいんだ。

 

「うん。僕が寝ている間に荒らされたみたい。起きたときにはもうこうだった」

 

「ベッドまで動かされてるけど、なんで起きないんだよ。流石に気づくだろ」

 

「多分魔法かなんかで眠らされたんだと思う。普段は夜に何回か目が覚めちゃったりするのに、今日はそれがなかったから」

 

「なるほど、夜中の犯行か...盗まれたのはなんだ?把握してるか?」

 

「うん。カリヤが来るまでに確認した。盗られたのは一つだけ」

 

「……盾だな?」

 

コクリと頷くレスト。

 

「やっぱりか。レストの焦りようでなんとなく予想はついてたけどさ...犯人に心当たりはあるか?」

 

一応聞いてみる。盾を奪う必要があるやつは限られているが、レスト以外には触れられないのだから使うことはできない。盗んだやつはそれを知らないはずがない。盗めたということは、対策をしてきたという何よりの証拠だ。つまり、使えないのを承知で、かつ盗むことでメリットが生じるやつが犯人となる。

 

「実行犯かどうかはわからないけど...ルードは絶対関わってると思う」

 

「ルードが?」

 

確かに、犯人候補の一人ではある。レストが代々英雄が受け継いできた盾を紛失したことで信用を落とせば、ルードが代わりに英雄になれるかもしれない。盗んだ盾をさも取り返してきたかのように持って来れば、信用も得られる。所有権を渡してもらえば、それで英雄になれる。動機としては十分だ。

 

試験の時にはそんなことするやつのようには見えなかったが、1日しか会ってないしな。あまり深くまでルードのことを知っているわけではない。同じガルム出身で、盾使いとしてある程度交流のあったレストの方がよく知っているだろう。だから名前を挙げた。

 

「どうしてそう思う?」

 

「カリヤは知らないかもしれないけど、ルードの家には少し黒い噂があるんだ」

 

「黒い噂?ルードの家が、他の町との貿易を取りまとめてる元締めってのは知ってるけど」

 

「それに反発してた人も、この町には何人かいたんだ。自由にやらせろーって。でも、それを口にした人は、数日後には変わってしまった。人が変わったみたいに、文句を一切言わなくなる」

 

「脅されたか...それとも、洗脳でもされたか?」

 

「どっちなのかはわからないけど、その人に何かしたのは確実だね」

 

「でも、流石にそんなすぐにやったら関連性を疑われて捜査されるだろ?なのに捕まってないのはどういうことだ?」

 

「どの事例でも、ルードの家の人全員にアリバイがあったからね」

 

「…毎回全員にアリバイがあるってのがもう変じゃねぇか...つまり、ルードは誰かに命令してやらせたってことだな?」

 

実行犯かどうかはわからない、とレストが言ったのはこのためだろう。

 

「多分そう。その線でも操作されたみたいだけど、実行犯を捕らえられなくて立件できないみたい」

 

「なるほどね...ってか、なんでレストはそんなに捜査事情に詳しいわけ?」

 

「ほら、僕の家飲食店やってるでしょ?」

 

「うん」

 

「前に手伝いしてたことあったんだけど、そのときに警察の人から聞いた」

 

「守秘義務どうなってんだよ...」

 

…情報を得れたことだし、まぁいいや。ポロポロ話してくれた警官と、その話をきちんと覚えてくれていたレストに感謝だ。

 

「ルード以外に心当たりはないか?怪しいけど、他にもいるんだったら調べないとだし」

 

「うーん...他にはいないかな」

 

「じゃあとりあえずルード黒幕説を正しいものとして動くか」

 

「だね」

 

「んじゃまずどんな奴が盗んでいったのか確認するか」

 

「…ん?」

 

えーっとあの魔法はどのページだったっけ...

 

「ちょっと待って。確認ってどういうこと?」

 

「なにって...魔法で過去を見るんだよ。犯人が何人なのか、どんな容姿なのかは確認しておいた方が楽だろ?」

 

6903ページ 黒のみ 逆行視点

 

一度目を閉じて、また開く。すると、視界が逆行しだす。少し横を見ると、後ろ向きに歩きながら部屋の外に出て行くレストと俺の姿が見え、扉が閉まる。

 

この魔法は、視点は現在の視界に準拠し、見える景色だけがどんどん過去に遡っていくというものだ。これを使えば、当時その場に俺がいなくとも、その時の状況を見ることができる。

 

しばらくすると扉が急に開き、そこからすごい速度でバック走をしてきたレストが入り込んできて扉を閉める。随分と急いで部屋を飛び出していったのがよくわかった。

 

部屋に入ってきたレストは部屋の至る所を探し始める。なくなった盾を探しているのだろう。そして最後に、天井に取り付けられている円盤状のライトと天井の間にある隙間を見る。それが終わると、ベッドの横に移動して辺りをキョロキョロしてから眠りについた。

 

全てが逆再生なので少し分かりにくいが、今のでレストが起きてからの動きが大体わかった。

 

「盾はそのライトの上に置いてたのか?」

 

「うん。そこなら誰にも見つからないかと思って。誰にも触れないはずだからやらなくてもいいかと思ったけど、一応やってたんだ」

 

「でも盗られたと...ちゃんと隠してたのは偉いぞ」

 

ぼんやりとしてはいるが、戦闘センスといい頭は切れるらしい。

 

「犯行は夜中だったよな?ちょっと加速させるか」

 

しばらく映像が変わらないので能力で加速させる。1秒分視界を巻き戻すには同じく1秒かかる。本来ならこのままだと何時間もかかってしまうが、俺なら数分で目的の時間まで辿り着ける。

 

「おっ、来た」

 

扉が開き、男が後ろ向きに3人入ってきた。

 

「犯人は3人」

 

「おぉ、すごい」

 

男たちの手にはロープがあり、それに盾がつながっていた。

 

「ロープで盾を括り付けてる?生物は触れたら勢いよく弾かれるけど、非生物は触れられないだけだからうまく取り付ければ移動することはできるのか」

 

それこそ、適当な袋にでも入れてしまえば簡単に持ち運ぶことができてしまう。地面からも常に少し浮いているから、触れずに中に入れることもできるだろう。意外とザルだ。

 

「そ、そんな...」

 

「しゃーない。今気づけただけよかったさ。取り返したら何か対策法を考えよう」

 

意識を逆行視点に戻す。

 

男たちは盾を天井のライトの上に戻すと、剥がれた床板を戻し始め、穴の空いている壁を棒で殴りつけて直したりしていた。逆再生だと少し面白いな。荒らされた部屋を直していってくれてるように見える。

 

今度は家具を元の位置に戻し始めた。レストの寝ているベッドも元の位置に戻される。そして次に男たちはそれぞれ開いている棚の前に立つ。すると勝手に辺りに散らかっているものが男たちの手に向かって飛んでいき、男たちはそれらを中に戻していく。全部しまい終わると男たちは棚を閉じる。

 

それらが全て終わると、男のうち一人が寝ているレストに近づき手をかざした。手をかざす前は身動きひとつしていなかったレストだが、かざした後は少し寝相が出始める。やっぱり何かしら魔法をかけられていたみたいだな。

 

レストへの処置が終わると、男たちは部屋の外に出ていった。俺も部屋を出て男たちを観察しようとすると、ちょうどピッキングをして鍵を閉めてるところだった。

 

「これでどうやって盗みに入ってきたのかはわかったな」

 

逆行視点を解除する。いやーTE○ETみたいで楽しかった。

 

「そのまま追えないの?」

 

「できなくはないけど、それをやっても過去にいた場所につくだけだからね。今潜伏してる場所が同じとは限らない」

 

「さっきの魔法を使って今泥棒がいる場所を探すことはできないの?途中で元の時間の流れに戻せば...」

 

「できないんだよねそれ。逆行しかできなくて、一時停止できないから解除するしかないんだ」

 

もしさらに逆再生することができたなら、逆行視点で部屋に入ってきたところで逆再生して今いる場所を追うことができただろうけど、それはできない。

 

「とりあえず犯人の顔と人数はわかったから、色々魔法を使いながら地道に盾と犯人を探していくか...」

 

「ん?盾の位置ならわかるよ?」

 

「………へ?」

 

今、なんて言った?

 

「ちょっっっとごめん。盾の位置わかるって言った?」

 

「うん」

 

「……なして?」

 

「盾の所有権は僕にある。だからかもしれないけど、なんか盾がどこにあるのかなんとなくわかるんだよね」

 

「…じゃあ今までの苦労はなんだったんだ?」

 

わざわざ魔法使って犯人特定したりした意味は?

 

「そこに犯人がいるかもしれないんでしょ?ただ取り返すだけだと今後も盗まれるかもしれないから、犯人全員ちゃんと捕まえておく必要があると思って」

 

「まぁそれはそうだけど...まぁいっか。どうせ犯人が何人か調べる必要あったしね」

 

そう思うことにした。先に言ってくれればいいのにとは思うが、心の中で留めておく。

 

「よし、じゃあその場所に連れてってくれ。どこに盾はあるんだ?」

 

「多分ガルムの外」

 

「マジか...じゃあ前に使ってた盾持ってくれ。行くぞ」

 

レストに、前に使っていた盾を持たせて家を出る。

 

「おや、レストじゃないか」

 

家の前に、ルードがいた。

 

「…っ、どうしてここに?」

 

レストが恐る恐る聞く。

 

「ちょうど毎朝の会合が終わったところでね。家に戻るところだったんだ。君たちはこれから依頼でも受けにいくところかい?」

 

「ああ」

 

気取られないようにしたら、ぶっきらぼう気味な返答になってしまった。

 

「…前の盾じゃないか。あの盾はどうしたんだ?」

 

「っ!」

 

レストの額に汗が出始める。

 

「ああ、これからあの盾を使っていくことになるからね。最後にお別れとしてつかうことにしたんだよ」

 

一応考えていた嘘をつく。このために前に使っていた盾をレストに持たせたのだ。

 

「なるほど。では頑張ってくれ」

 

そう言ってルードは歩き去っていった。

 

「……どう思う?」

 

「こりゃ確実に様子を伺いに待ち伏せしてたな。嘘考えておいてよかったぜ」

 

まさかこんな早く使うことになるとは思ってなかったがな。

 

「よし、盗人野郎から取り返しに行くぞ」

 

「盾はこっち。南の方だよ」

 

「おけ」

 

俺たちは南方向に歩き出し、南の門からガルムの外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なぁ、まだなのか?」

 

「うん。まだまだ先だね」

 

ガルムを出てからかれこれ数十分歩いたが、まだ盾のある位置には辿り着けない。

 

「本当にこの先にあるのか?」

 

「うん。この先にずーっと行ったところだね」

 

「移動中ってわけでもないんだよな?」

 

「そうだよ」

 

このまま南に進んだ先には王都とカリスがある。けれど、夜中に盗んですぐに馬車で移動し始めたとしても、時間的にまだ王都にはつかないはずだ。おそらく、王都に盾はない。途中でどこかに隠した可能性が高い。ここから真南にあって、誰にも拾われる危険性がない場所というと...

 

「なぁレスト。盾があるのって、もしかしたらここじゃないか?」

 

鞄から地図を取り出して、ある一点を指差す。

 

「ここかぁ...距離も合ってるかも。なんとなくだけど」

 

「じゃあとりあえずすぐ近くまで走ろう。加速させるからついてきてくれ」

 

「えー走るの?」

 

「盾取り返すんだろ。嫌なら俺が担いでやるから」

 

「揺れて気持ち悪くなるから自分で走る」

 

「オーケー」

 

自分とレストの速度を加速させ、秒速42メートルで走る。秒数にして約900秒。およそ15分をノンストップ休みなしで走り切る。スタミナ減少速度減速をすることで、なんとかレストのスタミナ切れと同時に目的地にたどり着けた。

 

「もう無理疲れた...」

 

ドサリとレストが地面に勢いよく倒れ込む。

 

「大丈夫かー?」

 

「無理...むりぃ...いっぽもうごけない...」

 

「あの盾があればスタミナを分けられたんだけどな」

 

「本来は...そんな使い方...するものじゃない...」

 

「そんな疲れてるなら無理して喋んなくていいよ。ゆっくり休んでな。盾は俺が取ってくるから」

 

「うん...」

 

レストはゴロンと半回転して仰向けになり、四肢を投げ出し脱力する。

 

「よし、じゃあ盾取ってくるか」

 

レストが魔物に襲われないかちょっと不安だが、まぁ多分大丈夫だろう。少ししたら自衛できるくらいのスタミナは戻っているはずだ。

 

「よしって言えるほど簡単でもないんだがな...」

 

俺は、盾が落ちている穴の奥底を覗き込んだ。いや、それは確かに穴なのだが、普通の人が想像するような大きさの穴ではなかった。穴には螺旋状、渦巻きのような形の下まで降りる用の坂があり、段々のようになっていて遮られてしまい底を見ることはできなかった。

 

「まさか本当にここにあるだなんてな...外れて欲しかったぜ」

 

この穴は、前にニトラスに教えてもらった、シレンの穴とかいうやつだ。100のダンジョンを兼ね備えた人工ダンジョン。古代の人が作り出した勇者パーティーのための修練場だ。

 

「そりゃこんなところに誰も近づくわけないんだから、隠し場所にはうってつけなんだろうけどさ...」

 

盾はこのシレンの穴の最奥、底に落ちている。レストにしか触れられない盾を、なんとかして持ち出して回収しなければならない。

 

「運ぶのは適当に袋にでも入れればいいか」

 

ロープで巻き付ければ、触れられなくても動かせるということは逆行視点で既に確認済みだ。適当な袋、それか鞄にでも入れてしまえば簡単に持ち運べてしまう。盗まれた時の手法を利用させてもらうとしよう。

 

「んじゃとりあえず、一旦穴の中に入ってみるか」

 

俺は歩いてシレンの穴の縁に立つ。本来なら王都側の方にある、坂の入り口から下っていくのだろうが、それだと結構な距離を歩かなければならないので少し面倒だ。

 

さらに、この穴に入った瞬間、100あるダンジョンが起動する。そのダンジョンの入り口である横穴からは、最初は魔物は出てこない。けれど、ダンジョンを攻略せずに坂を下ってしまうと、自身より上にある横穴から魔物が出てくるようになってしまうらしい。普通に坂を下っていけば、帰る頃には大量の魔物が坂を埋め尽くしていることだろう。そのせいもあって、普通に坂を下る方法は取れない。

 

じゃあどうするかというと...

 

「あーいきゃんふらーい!」

 

勢いよく地面を蹴り、俺は穴の中心へと飛び込んだ。

 

穴の底まで一瞬で下り、盾を回収、すぐさま坂を登るか跳躍を使って穴から脱出する。これが一番早いだろう。

 

「速度操作発動ぅ!」

 

一瞬で下りるために速度操作を発動し、穴の中心近くにたどり着いた瞬間に落下速度を加速させる。落下速度がほぼない状態で加速させたので、底に近づいたときに能力を解除すれば安全な速度で着地することができる。着地のことを考えずに加速させるほど馬鹿ではない。

 

「これならすぐに...ってなんだこれ」

 

俺は確かに最大まで加速させたはずだ。なのに、今の秒速は39メートル。少し遅くなっている。

 

「少しずつ速度が落ちてる...?なんだこれデバフの一種か?いやでもそんなわけ...」

 

30、28、25、19とどんどん落下速度が落ちていく。この能力は、全速力で走りながら加速を全開にした時の速度、今でいう秒速42メートルを最低保証として保証されている。たとえ速度が限りなく0に近いものだったとしても、この秒速42メートルまでは必ず加速させることができる。ありとあらゆるデバフがかかっていても同様だ。

 

けれど、その最低保証の速度を下回り続けている。能力で元の秒速42メートルまで加速させようとしても、速度は減り続けるのみだ。

 

「神の力に干渉してる...⁉︎」

 

やがて、俺の体は完全に静止した。穴の底まではまだ数十メートルある。なんとかして行こうとするも、体はピクリとも動かない。

 

そして気がついたときには、俺は穴に飛び込む直前の位置に立っていた。

 

「これは...対策を考える必要があるな」

 

もう一度やっても、同じように元の位置まで戻されるだけだろう。

 

「普通に下りるしかない...か?」

 

少し考える。普通に下りて帰りが面倒になる方法と、無理矢理さっきの仕掛けを突破して回収する方法の、どっちが手間がかからないか。

 

「よし決めた」

 

決心する。

 

「何回かためして穴を探すか」

 

俺はもう一度飛び込むことにしたのだった。




はい、盾取られました。
果たして黒幕は誰なんでしょうかねぇ...
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