前世の俺がすでに転生特典決めてました   作:ダイヤモンドリリー

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8660字。

準々決勝第二試合です。


反撃流、アクセラレーション

「さぁ来い、アクセル。全て受け切ってみせよう」

 

第二試合が始まった。さっそくゴモンがアクセルに挑発をする。

 

「君、確かカウンター型だよね?なら、わざわざこっちから攻撃してやる義理はないな」

 

構えを取って待ち構えるゴモンに対して、アクセルはゆっくりゴモンの周りを歩くだけだった。攻撃しようという意志は感じ取れない。

 

「そっちから攻めてきな」

 

「ならん。我は受けるのみ。一撃には一撃を。先に手を出すなど言語道断!」

 

「そんなのじゃこの先戦ってけないだろうな。試合形式なら問題ないが、実戦だとこうはいかない」

 

ゆっくりゴモンの周りを歩きながらアクセルは言う。

 

「魔物も学習する。動かない君のことなど放っておいて、別の人間を襲いに行くだろう。君には誰も守れない」

 

「我はただ耐え忍ぶのみ。たとえ味方がやられようと、我以外の全てが死のうとも、我は決して我からは動かない。それが反撃流。我が道場の掟なり」

 

なかなかヤバめの発言が飛び出したが...コロコロと信念が変わるよりかはマシ...か?

 

「自分勝手な掟だな。自分だけ生き残ればそれでいい、か。カイスであった魔物の侵攻がここでまた起こったとしても、君は攻撃されるまで何もしないんだろうな」

 

「他人を見殺しにするな...と言う気か?」

 

「そこまで言う気はない。ただ、どう思うか聞きたいだけさ。助けてくれと周りの人間が叫ぶなか、自らの信条のために動かず全てを見捨てるその時、どう思うのかをな」

 

「死にたくなければ、我が道場に入門すれば良い。我が道場の門は来るものを拒まない」

 

「…面白いこと言うね、君」

 

アクセルの目に、少しだけだが敵意が見えた。ゴモンの発言が気に食わなかったのだろう。

 

「君のことが嫌いになった。だから徹底的に潰してあげよう。君の最も得意とする戦法を、真正面から捻り潰し、君の信条全てを否定しよう」

 

両手の指抜きグローブをピンと引っ張り、拳をグッと握り締める。

 

「やっとか。待たせおって...」

 

「まずは...軽く小手調べだ」

 

さっきの会話中に、ゴモンの背後に回っていたアクセルがそう言った瞬間、一気に走り出してゴモンの後頭部に正拳突きを放った。

 

だが、ただ正拳突きを放ったわけではない。フェイントを二回も入れてタイミングをずらしていた。ゴモンの背後から走り出したアクセルは、すぐ隣を一度そのまま走り抜けた。そしてすぐに方向転換、真正面から殴るフリをして地面を蹴り、ゴモンの上を飛び越えて反転しながら後頭部を殴ったのだ。

 

一見無駄な行動のように思える。反射神経などの加速をしている俺だから一連の動きを全て見切れたが、観客にはほとんどそのまま殴ったように見えていただろう。

 

だが、目の前で対峙しているゴモンの目には、少なくとも正面で方向転換してこちらに走ってくるところだけは見えたはずだ。背後から来ると思って待ち構えていたら前に移動された。『真正面から捻り潰す』という、アクセルの言葉も布石だったのだろう。前から来るのだと確信し、意識を前に向けた瞬間に再度後ろに回られる。こうして二度もタイミングをずらされれば、カウンターがもし任意発動ならば発動することすらできないだろう。

 

「案外こんなものか」

 

ゴモンは、超高速で後頭部を殴られたというのにびくともしていなかった。

 

「体が...動かない...?」

 

地面を蹴って跳んでいたため、アクセルは空中からゴモンを殴りつけていた。そう、空中から。だというのに、アクセルの身体は一切動いていなかった。重力に引かれて地面に落ちることもない。右手がゴモンの後頭部に触れたまま、完全に静止していた。

 

「反撃の時間だ」

 

ドゴォッととてつもない音が立ったと思ったら、ゴモンの足元の地面に巨大なヒビが入っていた。ゴモンは片足を上げ、そのヒビ割れた地面に一気に叩きつけながら後ろに向き直り、拳を突き出す。そのときにはもうアクセルの拳はゴモンの後頭部から離れて動けるようになっていたが、放たれたゴモンの拳を避けることができず腹にモロに喰らってしまう。

 

「んぐうっ⁉︎」

 

アクセルは、のっそりと放たれたゴモンの拳の、その見た目の威力とは裏腹に、とてつもない勢いで斜め上へと吹き飛ばされていく。

 

「痛いねえ君の拳!面白い力だ!嫌いなままだけどな!」

 

アクセルは笑いながら体勢を立て直し、着地する。追撃が来ないのがわかっているためか、すぐに構えを取ることはせず無防備なままだ。

 

「硬いな。鋼鉄でも殴った気分だ」

 

「その体感はズレてるから直した方がいい。君の拳なら鋼鉄でも突き破れるだろう。まぁ、鋼鉄が能動的に君に攻撃を仕掛けることはないだろうがな。反撃しか君はしないのだろう?なのに鋼鉄を殴ったことがあるのかい?」

 

「鎧なぞ何度もぶち抜いている」

 

「ああそうか、鎧があったか。私がつけないから存在を忘れていたよ」

 

あの勢いで吹っ飛ぶほどの突きを喰らっても笑いながら話せられるのは、おそらく体にかけられたバフのおかげだろう。相当強い防護バフだ。ここまでの性能でないと音速に体が耐えられないだろうし、納得だ。

 

…そういえばさっきの走り、明らかに音速以下だったな。目測だから合っている保証はないが、大体秒速200メートルくらいといったところか。手加減をしているのか、それともここまでくると速度を上げても下げてもあまり変わらないから温存しているだけなのか...どうなのかはわからないが、確かに速度は落ちていた。

 

「手加減するのはいいけど、それで負けるのだけはやめてくれよ?アクセル...」

 

ボソッと呟く...えっ、アクセルこっち見た?聞こえたの?ってか試合に集中しろ。

 

「じゃあ次...行ってみようか!」

 

一瞬でアクセルはゴモンのもとまで移動し、そのままの勢いで蹴りを足に叩き込んだ。速度はさっきと変わらない。

 

そして、アクセルの動きが完全に止まったのも変わらなかった。

 

「やっぱり動けない...どんな魔法だい?」

 

「教えると思っているのか?...滑稽だな!」

 

ゴモンがアクセルの顔面に掌底を叩き込んだ。その次の瞬間には、アクセルは勢いよく地面を転がりながら吹き飛んでいっていた。最初に喰らった拳の時よりも、その勢いは数段上。威力も数倍以上だろう。

 

「痛い痛い!」

 

ニコッといい笑顔をしながらアクセルは壁に激突。その後も笑顔は崩れない。

 

「でも、今のでだいたいわかった」

 

壁から抜け出し、構えを取るアクセル。

 

「君の力、受けた衝撃をものに流し込むタイプのものだろう。違うかい?」

 

「……」

 

ゴモンは無言で構えを取り続ける。

 

「上半身で受けた攻撃は、足から地面に。下半身で受けた攻撃は、手から外に流す。そして、流し終えるまで触れた物体はいかなる動作をも取ることができない。動こうとした分のエネルギーも、吸収されるって感じだろう」

 

おお、たったの2回喰らっただけでもうそこまでわかったのか。速度に任せた脳筋プレイじゃなくて、ちゃんと頭も使ってるんだな。

 

確かに、最初にアクセルが殴ったとき、ゴモンの足元の地面に大きなヒビが入っていた。殴ったエネルギーがそのまま地面に流れ込んだのだろう。そして、地面を蹴りつけたその威力を腕に乗せ、アクセルに流し込んだ。上は下に、下は上に流れている。

 

「それがわかったところで、どうなるというのだ?」

 

「自分の技を見抜かれた人間って、いつも同じようなことを言うよな」

 

「…だが、この反撃流は無敵なり。いくら攻撃しようと...こうなるだけだ」

 

ゴモンが話している最中に、アクセルは首と膝の両方に拳を叩き込んでいた。話してる最中もお構いなしか。まぁ試合中に呑気に話してるのが本来おかしいことなんだが。

 

「上半身と下半身、同時に攻撃してもダメなんだな」

 

「そうだ。昔はこれでやられたが...今は違う」

 

ゴモンからすれば、とてもちょうどいい位置にアクセルの頭があったのだろう。膝と肘を、それぞれ顔面と後頭部に同時に叩き込んだ。アクセルの叩き込んだ威力が、そのままアクセル自身に返っていく。

 

「いったー...流石に効いたよ今のは」

 

…面白いといった感じでアクセルが笑ってる。なんで今の喰らって死なないの?流石に傷ついたみたいで鼻から血が垂れていたけれど、そんなので済んでいるのがおかしい。仮にも、アクセルの超高速攻撃2回分の威力の攻撃だぞ?ある程度の防御バフがあるとはいえ、耐え切れるわけないと思うんだが...

 

「…今のを喰らっても平然としていられるのか。凄まじい防御魔法だ」

 

「これ、魔法使ってないと言ったら君はどんな反応をするのかな」

 

「馬鹿言え。それとも、頭を殴られておかしくなったか?」

 

「なら、これから3回だけ君に攻撃をする。それで君に勝つ。君の頭をおかしくしてやろう」

 

「3回...だと?」

 

「それで君を倒せなければ、私の負けでいい。降参でもなんでもしてやろう。このまま戦い続けても、決着なんてつかないだろうしな。どうだい?」

 

まぁ確かに、このまま戦い続けてもゴモンはアクセルを倒せない。アクセルの攻撃の威力を利用してもそれほど大きな傷をつけられていないのだから、決定打がないと言っても過言ではない。自ら能動的に攻撃を仕掛けることはしないみたいだし、このままだといつまで経っても試合が終わることはない。

 

けれど、それはアクセルには当てはまらない。このまま何度も何度も攻撃を仕掛け、少しずつゴモンの魔法の隙を探し出せば、いつかはゴモンを打ち倒せるかもしれないのだ。試合時間に制限はない。たとえどんなにゆっくりでも、少しずつ前に進む選択肢がある。

 

だというのに、アクセルはその優位を自ら捨てようとしている。ゴモンにとってメリットしかない。アクセルには百害あって一利なし。なぜそんなことを?

 

「…なぜそんな提案をする。貴様にはなんの得もないだろう」

 

ゴモンも同じようなことを思ったようで、アクセルに問い質していた。

 

「ないからやるのさ。そんなことを聞く理由がわからないな」

 

「人は合理で動くもの。得無しでは動けまい」

 

「君はそうかもしれないけど、私は違う。人間は合理で動く?違うね。どんなに非合理的でも、人間は動ける。仲間を守るために身を挺して庇えるのも同じさ」

 

アクセルはゴモンを睨みつけながら言う。

 

「それに...分の悪い賭けだからこそ燃えるのさ!」

 

アクセルが一瞬でゴモンのすぐ近くまで接近した。だが、即座に攻撃することはなかった。

 

「む?」

 

「男ってさ...ここ、弱点なんだろ?」

 

音速の蹴りが、ゴモンの股間に突き刺さった。

 

…ひ、ヒィッ⁉︎な、なんてことしてんだアクセル!こっちもヒュンッてなったわ!今度戦うときに、あらかじめ禁止にしておかないと...ゾッとする。

 

「ヴッ...!!!」

 

ゴモンが一歩後退りする...あれ?ゴモンの魔法が発動していない?

 

と思ったが、ゴモンの手のひらから何かが飛び出し、空気が押し出された。一部だけちゃんと発動していた。さっきまでと違ったのは、ゴモンが明らかに痛がっていたことと、アクセルがゴモンに触れたあとも普通に動けていたこと。何が違ってこうなったのだろう?金的のせい?

 

「君、衝撃は受け流せるけど、痛みは普通に受けてるんだろ。ただ我慢していただけ。一撃で意識を吹っ飛ばすほどの威力を持った攻撃を仕掛ければ、魔法があろうがぶちのめせる」

 

…なるほど、確かにそれなら説明はつく。衝撃は全て受け流しているため、怪我はしていない。けれど痛みはある。金的を喰らったらどんなに肉体を鍛え上げていても流石に悶絶するだろう。構えも崩れる。

 

「ぐ、ぬぅ...だが、耐え切ったぞ。さぁ、あと2回だ。全て耐え切ってやる...」

 

痛がりながらも、ゴモンは再度構えを取る。あの速度の金的を喰らってまだ動けるってすごいな...普通なら気絶するぞ。そのままショック死してもなんらおかしくない。そもそも、痛みは普通に受けるってことは、金的以外の攻撃は顔色ひとつ変えずに耐え切ったってことだよな?もはや恐怖さえ覚えてくるぞ。

 

「また金的を狙おうとしているなら無駄だ。我は二度目の痛みに屈することはない」

 

「へぇ、ということはさっきのには屈したんだ」

 

「……」

 

黙っちゃった。

 

「あと、同じ攻撃を2回するほど私も馬鹿じゃない。面白くないしね。どうせなら、君の魔法を全部無効化してやりたい」

 

そんなことを言いながら、アクセルは再度ゴモンのすぐそばまで近づく。

 

「君の魔法、片足が上がると硬直が解除される、そうだろう?」

 

「…そうだ」

 

言われてみると、確かにそうかもしれない。最初のときも、3度目のときも、いずれもゴモンが足を上げて攻撃に移ろうとしたタイミングで動けるようになっていた。さっきの金的のときも、一歩後退りしていたから普通に動けていたのだろう。

 

「そしてもう一つ。両足が上がると魔法の発動自体ができなくなる。これはあくまで推測でしかないけれど、おそらくあっているはずだ。君は今までずっと、どんな時でも片足は地面につけていたからな」

 

「そうだ。だが、改めて言おう。それがわかったところでどうなるのだ。我をこの大地から引き剥がすことは不可能。あと二撃耐えるだけで我の勝利だ」

 

ゴモンの言っていることも正しい。両足を地面につけているこの状況では、触れるだけで硬直が発動してしまう。引っ張り上げることはできない。蹴り飛ばして空に吹き飛ばすことも、衝撃を受け流されてしまうためできない。両足を地から浮かすことは不可能。たとえ片足だけだとしても、ゴモンが能動的にやってくれない限りできない。

 

唯一の方法としては、ゴモンが反撃のために片足を上げて硬直が解けた瞬間に、なんとかもう片方の足を持ち上げる、というのが考えられるが実行不可能。ゴモンの勝利条件はあと2回攻撃を耐えること。反撃をする必要がないのだ。足を動かすわけがない。

 

「大地から引き剥がすことは不可能...か。普通ならできないだろうな。だが、私にはできる」

 

アクセルが片足を大きく上げた。

 

「もっとも、引き剥がすんじゃなく...へこませる、だがな!」

 

超高速でアクセルは地面を蹴りつけた。その勢いは凄まじく、元々ヒビが入っていたのもあってか地面は粉々に粉砕された。試合場の床に、へこみができたのだ。

 

「くぅっ...⁉︎」

 

へこみができたことにより、ほんの一瞬ではあったがゴモンの両足が地面から離れた。

 

「2回目!」

 

「かはっっ......!!」

 

アクセルの蹴りがゴモンの腹部に突き刺さり、ゴモンは空中に投げ出される。両足が離れていたことでゴモンの魔法も発動せず、口から血が吐き出される。ここで初めてゴモンに傷がついた。そして、その傷はあまりにも大きすぎた。

 

「おいおい...ガチかよ...」

 

空中に投げ出されたゴモン。その背中から、何かが飛び出していた。

 

それは、折れた背骨だった。それは、内臓だった。それは、胃液だった。

 

アクセルの超高速攻撃は、ゴモンの体を内側から破裂させ、ありとあらゆる体内物質を傷口から漏洩させていた。

 

複雑骨折もとい、解放骨折。それだけでももう死にかねない傷だというのに、内臓が分離し、胃液が傷口をグズグズに溶かしていた。これが試合でなければ、戦争であれば、ほぼ100%死んでいる。

 

「我の...反撃流を、打ち破る、とは...み、見事...なり...」

 

喋ることすら、息をすることすら辛いだろうに、ゴモンは吹っ飛ばされながらもアクセルを称賛していた。

 

「遠いし声ちっさいから何言ってんのか聞こえないけどさ、まだ試合は終わってないよ!」

 

アクセルはへこんだ地面を蹴って空中に飛び出す。

 

「それに、最後の3発目が残ってる!」

 

試合は終わっていない。確かにそうだ。ゴモンの傷が治っていないということは、まだ試合が続いているということ。

 

だがしかし、こんな傷を負えば、ゴモンが地面に激突するだけで試合は終わる。アクセルはただ待っているだけでも、勝てる。だというのに、アクセルはトドメの一撃をかますためにゴモンの上まで跳び、拳を構えた。

 

「3発目!!」

 

アクセルの全力の一撃が、ゴモンの胸部に突き刺さり、誰の目にも追えないほどのスピードで地面に墜落、激突する。

 

その衝撃で地面はさらに砕け散り、土煙が撒き散らされて試合場を埋め尽くされた。ゴモンとアクセルの姿が見えなくなる。

 

誰がどう見てもアクセルの勝ち。けれど、万が一にもアクセルの攻撃を耐え切り、ゴモンが勝っているというほぼありえない可能性を見て、期待する者も少ないがいた。

 

そして、土煙が晴れた。そこで見えたのは、トンッと地面に着地するアクセルの姿と、さっきまでの傷はどこへやら、全ての傷が完治して地面に転がっていたゴモンの姿だった。

 

傷が治っている、ということはつまり...

 

「私の勝ちだ」

 

グッと拳を天に突き上げ、勝利宣言をアクセルはした。

 

ドッと沸き起こる大歓声。じっと待ち構える静のゴモンと、超高速で動く動のアクセル。静と動、対極の戦いが観客の心に刺さったのだろう。ほぼ無敵の魔法を使うゴモンからダイナミックに勝ちをもぎ取った、というのも面白みに拍車をかけていたのかもしれない。

 

けれど。

 

「うう...気持ち悪い...」

 

口の中に苦い味がする。背中から骨が突き出ている、ゴモンのあんな傷を見て、吐き気を催した。吐く、とまではいかなかったが、気分が悪いことに変わりはない。

 

異世界に来てから、いや、元の地球でもあんな大怪我を負った人を見たことがない。骨を直接見たのも初めてだ。多少の流血くらいなら見慣れてきたものの、死の寸前までの大怪我はまだ見慣れない。慣れたくもないが。

 

なんで周りの観客たちはこんなにはしゃいでられるのだろうと不思議に思ったが、おそらく吹き飛ばされる速度が速すぎて目で追えていなかったのだろう。傷を視認できていないから、あそこまでの惨劇が起こっていたことに気づいていない。だから楽しめる。

 

「全部見えるってのも考えものだな...」

 

障壁の魔法を解除して、下に降りる。第二試合と第三試合の間には少しだけだが休憩の時間が用意されているので、一度外に出て空気を吸いたいと思ったからだ。荒れた地面を、闘技場の魔法の効果で直せられるギリギリのラインまで人力で直す必要があるらしく、休憩時間も伸びていた。トイレとかも済ませておこう。

 

気絶しているゴモンが担架で運ばれていくのを横目に見ながら階段を降り、施設内を歩いて出口から闘技場の外に出る。ちょうど心地いいくらいの暖かさの風が吹き、気分を癒してくれた。

 

「そうだ。一応魔力も回復しておこう」

 

深呼吸をして外の空気を吸いながら魔力も回復させる。決勝まで魔力は持つだろうが、一応念のためだ。

 

「すぅー...はぁー...アクセルと戦うのが怖くなってきたぜ...」

 

「私がなんだって?」

 

「…お前気配も消せるのな」

 

誰かがそーっと後ろから近づいてきてるというのは速度探知で分かっていたが、まさかアクセルだったとは。

 

「ってかなんでここにいるんだよアクセル。試合終わったばっかだろ?」

 

「終わったからこそだ。闘技場の中だと魔力が回復できないだろう?」

 

「ああ、なるほど...回復速度上げてやろうか?」

 

「問題ない。あまり魔力は使ってないしな」

 

「あんなに加速してそんなに使ってないとか燃費良すぎんだろ」

 

燃費良すぎて引くわ。それだけ加速魔法に適性があるってことなのかな...?まぁやらなくていいって本人が言うならならいいか。他人の魔力回復速度は、意識を集中させないと認識することもできないし、今まで簡単なふうにやってきたけれどそれなりに面倒だしな。

 

「それはそうと...いい試合だったよ。ああやって突破するとは思ってなかった。まぁ、結構なオーバーキル気味だったがな...できればああいう光景は見たくない」

 

「ああいう光景?...そうか、君なら周りの人を助けることなんて容易だしな。見慣れないのも当然か」

 

「できれば見慣れたくない」

 

「そうは言っていられないさ。魔王軍との戦争になれば、手を限界まで伸ばしても届かない奴らなんて大勢いる。早めに覚悟は決めといた方がいい」

 

「それでも、だ。それに、そうならないために俺はここにいる」

 

俺がここにいるのは、勇者たちが死ぬという狂ってしまった運命を変えるため。このままでは死んでしまう多くの人の命を救うために俺はいる。だから、慣れたくない。一度死んだ身としても、死に慣れるなんてことになりたくないのだ。

 

「そうか...なら、今よりもっと速くならないとな」

 

「ああ、お前と戦うときまでには、少なくともああはならないくらいには速くなってやる...あっ、そうだ。今のうちに言っておかないと」

 

「なんだい?」

 

「金的禁止な。相手が相手だったからまだマシだったけど、あれやられたら普通に死ぬ。男としても人間としてもな」

 

「…そんなに痛いのかい?」

 

「痛いというか位置が悪いというか...とにかく、絶対だぞ。いいな?」

 

「ああ、わかったよ。やらないでおく。一撃で終わったら面白くないしな」

 

「あっ、でも手加減はするなよ。ちゃんと最高速度の音速で来てくれ。さっきみたいに手を抜いたら許さんからな」

 

「…バレてたか」

 

「そりゃな。能力範囲外でも、目測で速度はなんとなくわかる」

 

「手を抜いているわけじゃないんだ。この力には色々と制約があってね」

 

「そうなのか...って話してたらもうこんな時間か。人と話してると時間の進みって早いよな...」

 

「…そうだな」

 

「じゃあなアクセル。闘技場戻るわ。準決勝も頑張れよ」

 

「ああ、もちろんだ」

 

俺はアクセルをその場に残し、闘技場に戻った。




カリヤもそうですけど、あまりにも速すぎると苦戦させることが難しくなるんですよね...8000字以上をいつも目標にしてますが、相手がゴモンじゃなければ初撃で終わってしまうので、めっちゃ悩みました。
3日ペースの投稿なのに、この話は4日かかりましたし。

もしかしたら次回、第三試合と第四試合を一話にまとめてやるかも...?
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