前世の俺がすでに転生特典決めてました 作:ダイヤモンドリリー
決勝戦です。
ついにやってきた決勝戦。
戦うのは、音速のアクセルと、不敗の拳のクミリア。
英雄を決める最後の戦い。これに勝てるかどうかで、今後の人生が大きく変わってくる。
熱狂に包まれた会場の中、二人が出てくる。
どれほどの緊張が襲いかかってくるだろうと想像することすらできないが、彼女らの顔には緊張のきの字もない。それよりも、ここまで上り詰めてきた奴と戦えることへの楽しみ、期待が見え隠れしている。
「あんたとは今まで一回も戦ったことなかったよね。なぜか、毎回出場する大会が被らなかったからね」
「何が言いたい?」
「大方、ポイント集めのために私が出てない大会にだけ出た、とかだと思うんだけどさ。ずっと戦いたかったのに避けられててクミさんちょっと落ち込んでたんだよ?」
「仕方ないだろう。一年でポイントを貯めるにはこうするしかなかった。君に負けるだなんてことはこれっぽっちも思ってないがな」
「そういえばあんたも大会で一度も負けたことないんだっけ。私と戦わないで不敗って言われてるのはちょーっとだけ癪に触るところがあるんだよねぇ」
「君を不敗の座から引き摺り下ろしてよかったならいつでも戦ってやったんだがな。誘いがなかったからやらないでおいた」
「えっ、誘ったらやってくれてたの?なんだ誘えばよかったのか〜」
双方試合前から煽り合いを始めたと思ってたら、なんか柔らかく着地した。どうやらクミリアは、本当にアクセルと戦えてなかったことが残念だっただけで、煽るような意図はなかったらしい。
「…まぁいい」
アクセルもあっけに取られて一瞬驚いたような顔をしていたが、すぐに元の調子に戻った。
「この試合で、真の不敗が決まる。全力でやりあおうじゃないか」
「別に不敗にこだわってるわけじやないんだけどねぇ...勝つよ。私が英雄になる」
そこからしばらく、二人の間に沈黙が流れた。
そして、誰が合図するわけでもなく、試合は始まった。
アクセルが走り出したのだ。一瞬でクミリアの目の前に近づき、そのままの勢いで顔面を殴ろうとしていた。
しかし、次の瞬間には、アクセルが吹き飛ばされていた。
普通の人には、アクセルの姿が一瞬消えたと思ったら、クミリアの近くで吹っ飛ばされていた、という風にしか見えなかっただろう。
実際には、アクセルの頭が通るであろう位置にクミリアが拳を先置きしておき、そこにアクセル自ら突き刺さる感じでカウンターがなされていたのだが...普通に考えて、アクセルが拳に気づかないわけない。何かしらの魔法でアクセルに拳が見えないようにしていたかなんかだろう。
「いったー...今の、よく見切れるな」
殴られた部分を軽くさすりながら言うアクセル。
「動体視力の強化なんて普通でしょ」
「私の動きを止めずにカウンターできてることは普通じゃないはずなんだが...」
確かに、ゴモンみたく一切の動きを封じてからのカウンターや、カノウの過去から飛んでくる斬撃で行動に制限をかけてからのカウンターはまだやりやすいけれど、速度を一切落とさせずに殴り返すとか普通におかしい。ってか秒速200メートルで動いてるものを真っ向から殴ったら腕ごと粉砕されそう。なんでクミリアは無事なの?
「そう?まぁ真っ直ぐ来てくれたから楽だったけどね。回り込まれてたら少し面倒だったよ。出来なかったわけじゃないけどね」
「じゃあもっと搦手で行こうか」
再度走り出すアクセル。今度は真正面からの突撃はやめ、速度を生かした撹乱をしていた。フェイントを何度も織り混ぜ、いつ攻撃してくるのかわからないようにしていた。たとえフェイントだとしても、クミリアは反応し続けなければならないため、こうしているだけでもクミリアは消耗していくはずだ。案外、攻撃ではなく消耗させるのが狙いなのかもしれない。消耗し、集中が途切れた瞬間にズドンと重い一撃を叩き込もうとしているのかも。
「あんたの力、てっきり加速と硬化バフの重ねがけだと思ってたんだけどさ」
…集中してなきゃやられるかもしれないってのに、よく喋ろうって思えるな。
「戦ってたらわかった。実際にはちょっと違うよね」
アクセルは答えない。クミリアが隙を晒すのを、クミリアの周りを走り回りながら待っているだけだった。
「身体能力の強化...とかじゃないかな。それか、肉体そのものの強化とか。なーんか、ただの加速バフをかけまくっただけじゃこんな動きできないと思うんだよね」
ただの加速じゃない?まぁ確かに、俺が知ってる加速魔法を全て使っても音速には至れなかった。速度操作を同時に使っても無理だった。音速には、後一歩のところで届かない。俺の知らない加速魔法があるか、加速魔法の適性が異常なほどに高かったから音速にまでたどり着けていると思っていたが、そうか、そもそも別の方法で加速してるかもしれなかったのか。
たとえば、クミリアが準決勝で使った筋肉を増やす魔法。あれは肉体強化にあたるだろう。筋肉量を増やし、地面を蹴る力を増幅することで速く走ることができる。雷装も一種の肉体強化だろう。確かあれは、生体電気を増幅させることで雷を身に受けた状態を再現していたはず。増幅した生体電気を筋肉に流し込み、リミッターを外すことで高速移動を可能にしていた。
「肉体強化ならその硬い体も納得だしね〜何度もゴモンのカウンターを喰らって生きてるの、普通の防御魔法じゃ無理だろうし」
えっ、なに?防御魔法使うよりも、肉体強化した方が耐えられるの?鍛え上げられた筋肉は魔法を凌駕するとかそんな感じ?
「正直、ただの加速の方が楽だったんだけどね。行動読みやすいし、無理なフェイントをかけると速度に振り回されて体壊すし。こりゃ自滅は到底見込めないね」
確かにそうだ。よくよく考えてみれば、ガネルの前に到着したときアクセルは少し手前から減速を始めていた。でも今は、急停止しては再加速を繰り返している。随分と無理な動きだ。ただの加速魔法だとそもそも急停止できないし、脚を壊す。おそらく、肉体そのものを強化しているため無理矢理の急停止ができているのだろう。
そういえば、アクセルはこの力には色々と制約があるとかなんとか言っていたな。普通の加速バフの重ね合わせだったらこんなこと言わないはず。ただ重ね合わせただけなんだから、いつどこでだって同じような速さになれるはずだ。となるとやはりクミリアの言う通り、身体能力や肉体の強化の方がしっくりくる。身体能力そのものの強化とかは結構種類自体が少ない分野だし、誰も知らない固有の魔法とかがあってもなんら不思議じゃない。
「こっちから攻撃しても避けられるだけだろうし、突っ込んできたところをカウンターするくらいしか突破口なさそうかな〜」
「くふっ⁉︎」
「こんな感じにね」
クミリアは目の前に来たアクセルの顔めがけて拳を放とうとした。アクセルも、その攻撃自体は避けたのだ。拳を突き出した以上、後ろがガラ空きになる。ならばそこを突こうとしてクミリアの背後に回った瞬間、突然現れた黒い拳に撃ち抜かれたのだ。
「…それ、対象の軸を変えられるんだな」
殴られた勢いを利用して地面を滑り、クミリアから距離を取るアクセル。
「そうだよ。誰も左右対称だけとは言ってない」
前後対称にもできるのか。結構便利だな。視界がブレるのは面倒だろうけど。
「流石に何回も脳に衝撃を叩きつけたら終わるよね。どれだけ肉体を強化しても、脳までは強化できないはず...だよね?そうだよね?」
「…勝手に期待してな!」
地面をドゴォッと爆音を鳴らして踏みつけるアクセル。大きく地面がへこみ、大量の粉塵が舞った。
3740ページ上 黒のみ 熱視
粉塵のせいで試合がよく見えなくなったので、魔法を発動する。熱視という名前だが、別に好意に見つめてるわけじゃない。言ってみればサーモグラフィーのようなもので、熱探知の一種だ。どっちがアクセルでどっちがクミリアなのかはわかりにくいし、細かい動きもわからないが、とりあえずどんな戦いをしているかくらいはわかるはず。
「目を塞いだってクミさこほっこほっ」
…喋ろうとして粉塵を吸い込んじゃったのかな。めっちゃ咳き込んでる。うん、手前に見えてる方がクミリアか。地面を蹴る前はアクセルが手前にいたから、いつのまにかもう移動していたらしい。アクセルは今、クミリアの右奥あたりで若干腰を落として様子を伺っていた。
準決勝でカノウに靴を破壊され裸足になっていたおかげで、足音も少なくなっていたのもアクセルに味方していた。視界が塞がれている今、頼りになるのは音だが、アクセルは慎重にゆっくり近づいている。咳き込んでいるから音を聞く余裕もないだろうしな。察知するのも大変だろう。
「けほっ、こほっ、ぺっぺっ」
砂を吐き出すような動きをしているのが見える。アクセルはもうすぐ後ろだ。一発殴るチャンスだ。
「とうっ!」
アクセルがいざ拳を振ろうとした瞬間だった。クミリアが突然前へと進んだのだ。びっくりして、アクセルは動きを止める。気づいたわけじゃなさそうだけど...ああ、なるほど。
クミリアは、アクセルが踏みつけたことでへこんだ地面のところに降りていたのだ。もはやクレーターとも言っていいそこの中には、入ろうとすれば多少の音が出るくらいの瓦礫や石ころで溢れていた。裸足のアクセルが足を踏み入れるのは厳しいし、音で気づかれてしまう。奇襲はできない。
アクセルはクレーターに入ることを躊躇していた。だが次の瞬間には、地面に片手をつきながら腰を落として、片手クラウチングスタートのような体勢を取っていた。
そのまま地面を蹴り、空気を引き裂くように前へ走り出しクレーターの上を跳び越そうとする。上を通り越す瞬間に、クミリアに蹴りを叩き込もうという魂胆だろう。
だが、クミリアはまるで見えているかのように絶妙なタイミングで屈み、アクセルの蹴りを回避した。地面を蹴る音や、風の音で気づいた...とかか?
「吹き飛べ〜!」
屈んでいたクミリアが、昇○拳みたく飛び上がりアッパーカットを放つ。その動きで暴風を起こし、辺りを舞っていた粉塵を全て吹き飛ばした。
「目が見えなくても風でわかるよ〜、だから奇襲したって無駄さ」
「まさか穴を利用されるとはな」
「ちょうどいい感じの深さだったからね。カウンターをするにはちょうどいい。まぁ、攻めには向かないけどね」
そう言いながらクミリアはクレーターからジャンプして出てくる。
「おっ、着地狩りする気?」
アクセルがクミリアの着地点に先回りした。多分クミリアなら空中を蹴って移動するくらい難なくできそうだが、それをしたとしてもさらに回り込まれるだけだろう。
「悪いけど対策済みさ!」
クミリアの足裏を軸として、上下反転した分身が現れる。そして足裏をピッタリとあわせてお互いがお互いを蹴り飛ばした。準決勝の時はすり抜けてたけど、触れることもできるんだなぁ...と思っている間に、クミリアは体をくるっと捻って上下を入れ替え、分身が地上で待ち構えていたアクセルに飛び蹴りを叩き込んだ。
「くっ...!」
「面白いでしょ今の!前に着地狩りめっちゃ上手い人と戦ったことあって、練習してたんだよね!」
分身はアクセルに飛び蹴りを叩き込んだ後、グッと抱きついた。少し経つとクミリア本体が重力で落下しだし、分身は引っ張られるように空中に持ち上がった。
「よっと」
分身は空中に引っ張られている途中、アクセルを上へと投げつけた。アクセルが投げ飛ばされた先には、分身と全く同じ動きをしていたクミリア本体がいた。上下反転しているのだから、X軸とZ軸は本体と分身共々一致している。無理矢理空中に持ち上げ、そのまま連携攻撃。これがクミリアの着地狩り対策らしい。
「ほれっ!」
アクセルの頭に肘を叩き込むクミリア。地面に向かって叩き落とされる。衝撃操作の効力もあり、脳が揺さぶられていることだろう。落ちていくアクセルの目は、どことなく焦点があっていなかった。気絶してないだけすごいが。
「もう一発!」
叩き落とされ、地面に落ちていくアクセルの背中に膝が突き刺さる。分身の膝だ。打ち上げられれば本体が、打ち落とされれば分身がそれぞれ襲ってくる。そして数秒もすれば本体と分身が同じ座標に位置し、同時攻撃がくるだろう。アクセルはそれまでの間にこのコンボから逃れなければならない。
「もういっかーい!」
「舐めるな!」
クミリアのサマーソルトキックに、アクセルの頭突きが命中する。頭狙いなのがわかっているのに、わざわざ頭突きするのか...と思ったが、どうやらキックに打ち勝つのが目的なのではなく、横に体をずらすのが目的だったみたいだ。命中のタイミングをずらして衝撃操作から逃れるってのもありそうだが...頭突きによって落下の方向を見事にずらしたアクセルが、地面に激突する。
「おお、そうやって避けるのか!」
面白そうに笑いながら着地するクミリア本体。分身は本体が着地すると同時に消え失せていた。あの高さだと分身が戦いに関与するのも難しそうだし、無駄に魔力を消費してしまうだけだから消したのだろう。
「その感じだと...あと二発くらい頭に叩き込めば気絶してくれそうかな。そろそろこっちからも攻めるぞ〜!」
肩をぐるぐると回しながらクミリアが言う。というか、今までの全部カウンターって認識だったのかよ。さっきの分身との連続攻撃はどう見てもカウンターじゃないだろ...着地狩り対策だからカウンターなの?一度カウンターの定義をゴモンに聞いた方がいいと思う。
「やっと本気を出すのか...!」
「その速度でどれだけ避けられるかな〜」
タップダンスじみた動きを始めるクミリア。どうやら、ミルキーの演奏魔法の再現をもう完全に身につけているらしい。
「いっくよ〜」
アクセルに向けて正拳突きを放つクミリア。すると、何かに殴られたかのようにアクセルが後ろに吹き飛んでいく。
「い、いったい何が...?」
壁に叩きつけられそうになるアクセルだったが、上手く体を捻って壁に足をつけ、蹴ってクミリアの方に向かって跳ぶ。
「もっかい!」
今度は回し蹴りをその場で放つクミリア。それと同時に、空中にいたアクセルが真横に弾き飛ばされていた。
「くっ...空気か!」
喰らう前から少しだけ予想は立てられていたようで、さっきの正拳突きの時よりかは吹き飛びされていなかった。壁に激突することなく、その手前で着地する。
「空気を固めて自身の動きと同期、それで遠隔攻撃か!」
「正解!でも、わかってても避けられないよ!」
「…やばっ⁉︎」
クミリアは両手を前に出し、叩こうとする。その動きを見たアクセルは、急いで斜め前に向かって走る。そして手の形で固まりながら、こちらを押し潰そうとしている空気の壁を蹴って脅威から逃れ、そのままクミリアの背後に回る。
「あらよっと!」
後ろに回り込んだのはクミリアにも見えていたらしく、後ろに回し蹴りを放つ。
「っ...!」
普通の回し蹴りでは当たらない距離だったが、空気で射程か延長されておりアクセルの脇腹に蹴りが突き刺さった。
「近づくのはよかったけど、位置が悪かったね。押さえつけられたのは流石にビックリだけど」
アクセルは脇腹に空気の蹴りを喰らった瞬間、空気の足を掴み取った。それで吹っ飛ばされるのを防ぎ、連動して動いているクミリアの足も封じていた。
「一発叩き込む...!」
クミリアが動くために空気の足を解除したみたいで、アクセルの腕が空を切り交差する。それを見るや否や、アクセルはすぐさまクミリアに近づき、蹴りを土手っ腹に叩き込む。
「くふっ...いい一撃だ!」
アクセルの蹴りを喰らい、空中に弾き飛ばされるクミリア。口からほんの少しだが血が流れる。
「でも言ったよね。近づくのが正解。距離を取れば取るだけ、その分あんたは不利になる!」
両手を地面の方に向け、ゆっくり叩こうとする。さっきよりも動きが遅い。空気と動きが連動しているわけだから、今回は相当大きな空気の手を作っているみたいだとわかる。空気の手が大きすぎて空気抵抗が凄まじいのだ。
「この魔法は、体で私の視界を遮った場所に空気の体を作る魔法!距離が遠ければ遠いほど、大きな手を作れる!」
距離が遠ければ遠いほど、たとえ小さな手だとしても大きな範囲を塞ぐことができる。だから、空気の手も巨大になるのだ。でも、塞いだ視界の大きさになるのなら、手を目の前までもっていって視界を全て塞げばもっと巨大になるんじゃ...
「関節を伸ばし切らないといけないから普段は大きくできないけど、吹っ飛ばしてくれたおかげで全て捉えれた!」
なるほど関節を...だから腕をピンと伸ばして手を出してたのか。それなりの条件はあるってことだな。
「丸ごと押しつぶす!」
手を合わせようとゆっくり両手を近づけていくクミリア。試合場の端まで空気の手ができているため、アクセルの逃げ場は上しかない。そしてあと二秒もすればその手は閉じるだろう。
「それなら...!」
アクセルは地面を蹴り...
横へと駆け出した。
「これでも...喰らいな!」
アクセルは一瞬で近くにあったクレーターまで走ると、そこにあった石ころや砂利を丸ごと握ってクミリアめがけて凄まじい速度で投げた。
「目潰し...⁉︎」
石ころや砂利がクミリアの顔に命中する。空気の手は、クミリアの視界を軸として発動している。目を開けられない状況に追い込めば、空気の手は瓦解するだろう。アクセルはそれを狙ったのだ。
「でも...片目は残ってる!」
右目は砂利が入って開けられなくなった。だが、伸ばした手で砂利が遮られたみたいで、左目ははっきりと開いていた。両目を潰さなければ、空気の手は消えない。まだ、逃れられない。
クミリアの両手が、完全に密着した。
「片目で十分さ。もう自由だ!」
いつのまにか、アクセルはクミリアの包囲網から逃れていた。
「なんで...?」
クミリアが困惑の声を上げている間に、アクセルは自身から見て左にあった空気の手、腕を駆け上る。
「そうか片目で視界がズレたから...!」
右目が開かなくなったことで、クミリアは左目だけでものを見なければならなくなった。その時、両目で見ていたときに中央にあったものが、若干だが右にズレて見える。それによってクミリアの両手が右にズレて見えたため、アクセルはその場から一歩も動かないで脱出できたのだ。
「これで...」
クミリアが魔法を解除するよりも早くアクセルは空気の腕を蹴り、一瞬でクミリアの目の前まで辿り着く。
「終わりだっ!」
空中であまり身動きが取れず、魔法の解除も遅れ、クミリアは咄嗟に動くことができなかった。
アクセルの蹴りが、クミリアの顎に突き刺さる。
そのまま蹴り上げられ、クミリアの首が曲がってはいけない方向に折れ曲がった。
アクセルの勝ちだ
と、誰もがそう思った。
「まだだよ」
誰もが上を見上げる中、下から声が響く。
「まだ終わってない」
そこには、クミリアが立っていた。
「なんで...⁉︎」
アクセルは重力に引かれて落下しながら、下と上を交互に見る。地面にも、空中にも、クミリアがいた。
「そっちは影さ。分身は黒いって先入観あったでしょ」
首がへし折れている分身が、少しずつ黒く染まっていく。
「対称にしか動けないはず...!」
「そうだよ?あんたがそいつを殺したからその制限が無くなっただけ。対称にしか動かないのは変わらないよ」
「それよりも、いつのまに分身と入れ替わっていたんだ!そんな隙はなかったはず...」
「分身自体は、あんたに打ち上げられたときに作って魔法で隠してたんだけど、入れ替わったのは今さっきさ。分身と自身の位置を入れ替える補助魔法があってね。蹴られる直前に入れ替えておいたってわけよ」
…それ、実質的な転移魔法じゃ...まぁ、分身を転移したい位置に移動させるには本体が真反対の位置に移動する必要があるし、人間にはできないとされるゼロ時間転移ではないのか。
「…まぁいい。今度こそ本物の君の首を蹴り折ってやろう」
「あ、多分そんな余裕ないと思うよ」
「……なに?」
「あんたはクミさんの影を殺した。その瞬間から、あんたは影に呪われてる」
影に呪われる...?厨二っぽくて精神的なダメージが俺に...くふっ。
「一応ルール説明しておいてあげるよ。その一、殺されたクミさんの影は、少しずつ動き出してクミさんと一体化しようとする。完全に一体化したら死ぬ。逃げ続ければ死から逃れられるけど、だんだん速くなるからもっても一分くらいで一体化する。この一分が実質的なタイムリミット」
「なるほど、私は何もしなくても一分待てば勝てる、とそういうわけか」
「そんな簡単じゃないんだよね〜。ルールその二、少し経つと、クミさんの影を殺したあなたから影が現れる。その影は全力で君を殺しにかかる。返り討ちにしても問題はない。影を殺したら自分が死んじゃうってことにはならないから安心してね」
「穏やかじゃないな。自分が自分を殺しにくるのか」
「ルール三、クミさんが死んだらあんたの影は消える。逆に、あんたが死んだらクミさんの影が消える。どちらかが死ぬまで影は消えないってわけさ」
「単純明快だな」
「あっ、そうそう。クミさんの影が動き出すのは、あんたの影が完全に生成されてからだからちょーっと待っててね〜」
そうクミリアが言った瞬間、アクセルの足から影がスーッと横に伸びていった。
そしてゆっくり、足先からアクセルの影が生成されていく。
それを見たアクセルは拳を振り上げて...
「降参だ」
そのまま両手を上げた。
「…えっ?なんで⁉︎」
そんなクミリアの驚く声と共に試合が終了し、お互いの傷が治療される。そして影も消えていく。試合が終わったため、発動中の魔法が解除された...?いや、そんな機能なかったはずだしクミリアが自分で解除したのか。ってか、解除できんのかよ。。
「なんで降参しちゃうのさ!楽しいのはこれからだったのに!」
「このままやっても、おそらく私が負ける。だからさ」
「そんなのわかんないじゃん!」
「君の影はただ君を追い続けるだけ。それに対して、私の影は私を攻撃してくる。ただ自分と戦うだけなら、一分の時間稼ぎくらい余裕だ。でも、そこに君の攻撃が加わるとなると、時間稼ぎなんてできない。負け一直線さ」
…あそっか、クミリアも攻撃してくるのか。確かに、二人を対処しながら一分耐えるのは流石のアクセルでも無理そうだ。
「それは...そうだけど」
「負けたのは私。勝ったのは君。これがこの試合の結果だ。おめでとう」
アクセルはクミリアに拍手をすると、そのまま歩いて試合場を後にした。
「…勝つならちゃんと勝ちたかったな...」
完全に勝敗が決まる前に、試合は終わった。
なんとも不完全燃焼気味だったが、アクセルの言う通り、これがこの試合の、この大会の結果だ。
ガネルの英雄になるのは、クミリアだ。
はい、アクセルが負けました。
クミリアが優勝するって予想できた人は、読んでくれた人の中でどれくらいいるのやら...感想で教えてくれてもいいんですよ?
次回は、多分ギルドに行って、後夜祭の描写すると思います。
ギルドってことは...誰が出てくるか、もうお分かりですね?
ご期待ください。