前世の俺がすでに転生特典決めてました   作:ダイヤモンドリリー

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8898字。

唐突に二ヶ月経つけど、あまり気にしないでください。


成長と虫と火と

「よーし!今日も一日頑張るぞい!っと」

 

目が覚めて、体を伸ばしたあとに気合を入れる。今日と言っても、まだ夜なので日付は越していないのだが。

 

「さて、今日は何をしようかなー」

 

本をめくって読みながら、思考に耽る。この世界に来てはや二ヶ月。こういう同時平行思考が得意になっている自分がいた。

 

二ヶ月というのは長いようで短い...わけなく普通に長かった。そもそも一日の時間が長いんだし、そりゃそうなんだが。

 

あと、一年はこの世界でも365日らしい。この世界、天動説が本当に起こってる世界だから公転もしていないはずなのに、どうやって一年を決めたのだろうか?そこだけちょっと気になる。

 

「本返したら...道具屋でポーション買って、武器屋で修理してもらってるダガーを回収するか。そして宿戻ってご飯食べてから役所だな」

 

今日の朝の予定を立てていく。依頼によってその後はまちまちなので、予定を立てられるのはここまでだ。

 

「よし、読破っと。返しにいくか」

 

本を鞄に詰めて宿を出る。そしていつものように本を返し、道具屋でポーションを買い、武器屋でダガーを返してもらう。もう村のどこに何があるのかは完全に把握してある。人にぶつかりさえしなければ、多分目を瞑っていても目的地に行けるはずだ。前にやろうとしたら、途中でステラに突撃されてしまったが。

 

「ご飯ー!」

 

そしていつものように朝ごはんを宿で食べる。やっぱ美味い。完全に異世界の料理にも慣れて、細かい味の違いにまで気づけるようになってきたのもあって、食が本当に楽しみになってきている。ただ、木の枝を削って作ったマイ箸を使っているので、周りの目がちょっと気になる時があるのが困り物だ。あんまりジロジロ見ないでほしい。

 

「ごちそうさまでした」

 

朝ご飯を食べ終え、自分の部屋に戻る。そして冒険のための準備を始める。

 

「剣にタガーに弓に盾に鞄にポーションに軟膏に...これで準備大丈夫だよな...?」

 

一応頭の中で忘れ物がないかをもう一度確認する。

 

「あっ、鞭忘れてた。危ない危ない」

 

鞭は異世界に来て一ヶ月が経った時ぐらいに買った物だ。鞭といっても、殺傷力の高い硬鞭ではなく、しなる方の軟鞭だ。しなる軟鞭は速度操作と相性がいいと思ってこっちにしたのだ。熟練した使い手であれば先端の速度は音速を超えるとも言われる鞭。速度操作を併用すれば、まだまだ未熟な俺でも音速を出せるかもしれない。能力が成長すれば、それ以上もありえる。

 

そんなわけで鞭を買ったのだが、たまに持っていくのを忘れる時がある。ダガーと比べて使う機会が少ないことが原因なので、これからはもっと使ってあげないとなと思っていたところだ。まぁ、また忘れてたわけだが。

 

「よし、準備完了!役所行こー!」

 

宿を出て、役所まで歩いていく。

 

「今日は何にしようかな...」

 

一人でやる依頼もいいが、たまにはグループでやる依頼もいいかもしれない。あんまり数は少ないが、人数を要する依頼が出てくる時があるのだ。基本ソロ、たまにステラと二人で依頼を受けるということが多い俺だが、ステラ以外の人と一緒になって戦うということも経験した方がいいだろう。いずれ勇者パーティーに加わるわけだし。

 

「じゃあこれかな」

 

取った紙に書かれていた依頼は、四人でやるものだった。四人で、王都と村を繋ぐ街道に居座っている一体の魔物を倒すという依頼だ。居座っているのは甲冑を着た騎士のような魔物で、街道を通ろうとする人や馬車を襲っているようだ。主に武器を奪うために。弁慶かよ。

 

「すみませーん。この依頼の受理お願いしまーす」

 

「あっ、カリヤさん、おはようございます。その依頼ですか、受理しますね。北の門の前に馬車があるので、そこでお待ちください。他の三人はもう受理されているので、多分集まってると思います」

 

「わかりました」

 

もう集まっているのか。四人揃うまで出発しないらしいけど、俺が受けてなかったらどうするつもりだったんだろ。四人目が来るまでずっと待ってるのかな?

 

そんなことを考えながら役所の外に出て、北に向かう。

 

「北の門の馬車...あれかな?」

 

見つけた。多分あれだろう。

 

「すみませーん...依頼の馬車ってここで合ってます?」

 

「…ああ」

 

「そうだよー」

 

「やっと最後の人が来たな。待ちくたびれたぞ」

 

そりゃ待ちくたびれるよな。ほんとにいつから待ってたんだろ。

 

「揃ったか。出発するぞ」

 

御者がこちらにそう呼びかけてから、馬を走らせる。

 

「……」

 

馬車の中に沈黙の時が流れる。無理もない。全員初対面なのだろう。

 

「…自己紹介をしよう。お互いのことを知らないのに協力なんてできないからな」

 

ハルバードを持った男が場を仕切り始める。

 

「まず俺からだ。俺はキース。見ての通り、ハルバードを使って戦う」

 

「時計回りで行こうかー。私はチュチュ。私も見ての通り、弓使いね」

 

「…俺はギブド。盾を持っているが、少しは魔法も使える」

 

キースにチュチュにギブド...ゼ○伝の敵キャラかよ。

 

「お前は?」

 

やべ、自己紹介しないと。

 

「俺は仮谷。剣にダガーに弓に鞭に盾にある程度の魔法も使える」

 

「…武器を一つに絞ったりしないのか?」

 

「器用貧乏ってやつー?」

 

「器用貧乏言うな。あと、一個だけ特殊な魔法...みたいなのが使えるから説明しておくぞ」

 

速度操作の能力について説明しておく。急に速く動いてびっくりされても困るしな。

 

「…というわけなんだけど、びっくりしないでくれると助かる」

 

「へー。そんな魔法あるんだ」

 

「…初めて聞く」

 

「まぁ、多分俺しか持ってないしな。知らないのも無理はない」

 

「…ちょっと失礼する」

 

「うわっ、何をする!」

 

キースが俺の背後に回り込んできて、襟足を持ち上げる。

 

「神の印...お前、まさか本当に神の使いなのか」

 

「神の使い...?」

 

初めて聞く単語ではなかった。以前、借りた本を読んでいた時そんな話があったのだ。

 

その本曰く、魔王の力が極限まで高まり復活する時、神の使いが現れる。神の使いは特殊な力を持ち、勇者を補佐する。その神のうなじには、特殊な印が刻まれている、と。

 

どういうことだ?

 

『ワシがその印をつけたのじゃ。本来なら、本物の神の使いが既に生まれているはずなんじゃが、そうはならなかった』

 

魂の初期化でか?

 

『そうじゃ。それによって神の使いが現れなくなった。そのせいで勇者パーティーが全滅することになる』

 

なるほど、だから代わりに勇者たちを救う俺にその印をつけたのか。

 

『別につけなくてもよかったんじゃがの。つけた方がなにかと便利じゃからの。これで勇者パーティーにも入りやすくなるじゃろう』

 

確かに。この印がなかったら入るの大変だったかも。神様ナイスファインプレー!

 

「…おーい、どうした?」

 

「あ、ああ。ごめんぼーっとしてた」

 

「戦いの前だぞ。もっと緊張感を持て」

 

「すまない。集中するよ」

 

頬を軽く叩いて集中を取り戻す。

 

「それで神の使いさまー?なんであんな村なんかにいたの?」

 

「仮谷でいいよ。村にいたのは修行のため...かな?」

 

「なんで疑問系なのさ」

 

「ま、まぁいろんなところに行って修行中なんだよ。能力は使えば使うほど強くなるしね」

 

「へー」

 

「話し中失礼するよ。もうすぐ到着だ。気を引き締めてくれよ」

 

御者がこちらに話しかけてくる。

 

「準備はいいか」

 

「…ああ」

 

「問題なーし!」

 

「いつでもいいぞ」

 

馬車が止まる。

 

「外に出てくれ。ここからは徒歩で頼む」

 

「了解しました...行くぞ」

 

馬車から出て、街道を四人で歩く。

 

「作戦はないのか?」

 

一応聞いてみる。馬車の中では、自己紹介と俺の能力のことしか話していない。作戦のことなんて一切話してないんだよな。

 

「そんな物ない。そもそも即席のパーティーだ。お互いの戦力を知り、お互い邪魔をしないようにする。それで十分だ」

 

「そんなもんか...」

 

「弓使いは誤射には気をつけろよ。盾使いはちゃんと俺たちのことを守るんだぞ」

 

「誤射なんてするわけないじゃーん。あとチュチュって呼んでよー」

 

「…心配は要らない」

 

「カリヤは...頑張れ」

 

「おい、なんて言えばいいかわかんないからって適当になんなよ。もっとこう...あるだろ」

 

「見えてきたぞ」

 

「無視すんな」

 

標的が見えてきた。全身を西洋甲冑で身を包んだ魔物だ。この距離的に、魔物の大きさは二、三メートルといったところか。右手には、一メートルくらいの大きさの大剣を持っている。

 

「まぁまぁデカイな」

 

あいつのせいで、貿易や人の行き来に支障が出ている。わざわざあいつを避けるために、街道から外れた道を通ることになっているようだ。そりゃこんな巨体に襲われたらたまったもんじゃないもんな。さっさと倒してしまおう。

 

「この距離なら矢も届くと思うけど...どうする?」

 

「撃ってみよう。まずは牽制だ」

 

「じゃあ撃つよー」

 

「待て、俺もやる」

 

チュチュが弓を構えるので、俺も同じように構える。

 

「……えいっ!」

 

『射撃・矢』

 

チュチュは自力で、俺はスキルを使って矢を放つ。三本の矢は孤を描いて飛んでいき、魔物に命中する。

 

「…三本?」

 

チュチュが一回で二本同時に矢を放った?そんなこともできるのか。

 

「ダメだねー。あんまりダメージ入ってないっぽいわー」

 

「にしても、全くの無反応だな」

 

三本の矢は全て甲冑に当たり、弾かれたようだ。多少の衝撃は伝わっただろうが、ダメージは無に等しいだろう。

 

「こりゃ近づいて甲冑の隙間を攻撃するしかないねー」

 

「だな。近づくぞ」

 

魔物のもとまでゆっくり歩いて移動する。ゆっくりなのは、ほんの少しでもスタミナの消費を抑えるためだ。そしてある程度の距離まで近づいて止まる。

 

「まず俺が先手を取る。加速して奴の膝裏をダガーで斬ってくるよ。そのまま奴の背後に回る。挟み撃ちだ」

 

「了解だ」

 

ダガーを抜き、クラウチングスタートの体勢をとる。

 

「3カウントで行くぞ。3、2、1...Go!」

 

能力を発動し一気に駆け抜ける。秒速20メートルの速さで魔物の股下に滑り込み、そのまま装甲の付いていない膝裏をダガーで斬りつける。

 

「俺に続けェ!」

 

「いくぞ!」

 

「えいやっ!」

 

足を攻撃され、膝から崩れ落ちる魔物の眼にチュチュの放った矢が突き刺さる。そして刺さった矢を引き抜こうと魔物が腕を上げたところを狙い、キースのハルバードが大剣を持っている右腕の脇を斬り裂く。

 

「奴に攻撃の隙を与えるな!」

 

ダガーをしまいロングソードを引き抜く。そして自身を加速させ、勢いよく足の甲冑に叩きつける。甲冑の上から攻撃するために作られたロングソードの本領発揮だ。

 

「来るぞ!」

 

魔物は残った左手で眼に刺さった矢を引き抜くと、右手に持っていた大剣を左手に持ち替えて一気に振り下ろす。

 

「…っ!」

 

振り下ろされた大剣を真正面からギブドが大盾で受け止める。

 

「早く...しろ!」

 

ギブドが少し苦しそうに言い放つ。流石に長時間はもたないはずだ。

 

「今助ける!」

 

加速キックで大剣を弾き飛ばす。

 

「違う!」

 

魔物は再度大剣を振り上げる。ミスった。早くしろってのは早く助けろってことじゃなくて早く倒せってことだったのか。少し考えればわかることだったのに...ソロばっかだったせいで頭が回らなかった。

 

「ヒッ!」

 

魔物の狙いは...チュチュか!

 

「怖い怖い死ぬ!」

 

チュチュは急いで矢を放つも、魔物は止まらない。魔物の振り下ろした大剣が迫る。

 

「間に合わ...「間に合う!」」

 

思考を加速させる。チュチュとの距離およそ6メートル。魔物が振り下ろす大剣がチュチュに到達するまでおよそ0.3秒。俺の最大速度は秒速20メートル。きっと間に合う。

 

自身を加速させチュチュのもとに走る。能力の範囲内に大剣が入った瞬間その速度を減少させ、さらに時間の猶予を得る。そしてチュチュと大剣の間に滑り込み、左腕の盾を斜めに当てて大剣の軌道をそらす。大剣は大きな音を立てながら地面に突き刺さる。

 

「えっ、助かった...?ヒャッ⁉︎」

 

腰が抜けているチュチュを抱き抱える。

 

「チュチュ、お前は離脱だ!弓なんだからもうちょい遠くにいろ!」

 

「えっ?」

 

そのまま三秒ほど走り、そこでチュチュを下ろして魔物のもとに走って戻る。

 

「速っ!」

 

「おいカリヤ!お前がいない三秒の間に奴の足が再生しやがった!」

 

「マジかよ」

 

マジだ。俺が斬った膝裏、チュチュの矢が刺さっていた眼、キースが斬った脇が残らず再生している。こいつ不死身か?

 

「再生にはどれくらいかかった?」

 

「一分もかかってない!」

 

「じゃあ短期決戦しかない!キース!協力だ!こっちに来い!」

 

「…ああ!」

 

キースがこちらにやってくる。

 

「俺から半径1.5メートルの距離から離れるなよ。加速して一気に方をつけるぞ!」

 

「ああ!」

 

自分自身と、キースの速度を加速させる。反応速度も加速させているので、俺の動きにもきちんと着いてこれているようだ。

 

「ハッ!」

 

「ハァッッ!」

 

ダガーとハルバードの高速斬撃が魔物を襲う。膝裏、脇、肘、手首などの甲冑の隙間を的確に狙い、回復の隙を与えずに攻撃を続ける。

 

「首だ!首を狙うぞ!」

 

魔物はあまりの攻撃に崩れ落ち、武器を落とす。さらに崩れ落ちて地面にぶつかった時の衝撃で、ほんの少し頭の甲冑がほんの少しずれた。人体の急所である首が狙える。

 

「ブチ込む!」

 

二人でジャンプして魔物の首の上で武器を構える。そして自分達の速度の加速と同時に、重力加速度の速度も加速させて、通常よりも速く落下し武器を魔物の首に勢いよく叩き込む。

 

「やった...か?」

 

キースがそう呟きながらハルバードを魔物の首から引き抜く。

 

「やったか、とか言うのやめろ。それフラグ...ああもう!」

 

魔物が腕を伸ばして大剣を掴もうとする速度を検知したので、急いでキースの手を引いてその場を離れる。

 

「まだ死んでねぇのかよ...!」

 

「しょうがない。甲冑には火だ。ギブド、火の魔法は使えるか?」

 

「ああ」

 

「じゃああいつの地面に向けて撃つぞ!」

 

ギブドと俺は魔物のいる地面に向かって手を向ける。

 

『火球』

 

俺たちの手から炎の球が現れ、魔物のいる地面に向かって飛んでいく。そのまま何発も火球を放つと、草木が燃えていき、魔物の周囲が熱に包まれる。

 

「よし、火はもう止めだ。あとは...!」

 

火を放つのを止め、地面に手をつく。

 

「土よ、流動しその形を変えよ!」

 

土流を発動し、周囲の地面を流動させて魔物の周辺に高さ一メートルほどの土の壁を作る。

 

「よし、これで蒸し焼きにしてやる。じっくり燃え尽きろ」

 

壁の中、魔物が暴れ回る。振り回される手足が土の壁を壊すも、その度に作り直して魔物の包囲を続ける。

 

「だ、大丈夫そうかなー」

 

安全と見たのか、チュチュがこちらに向かってくる。

 

「まだわからん」

 

「じゃあ矢を撃っておこうかな」

 

チュチュが魔物に向かって矢を放つ。

 

「…あれ?」

 

「どうしたんだ?」

 

「なんか手応えがない」

 

「矢に手応えってあるのか?」

 

「あるよー。でもあるはずの手応えがないんだよー」

 

「なぁカリヤ。魔物いなくなってないか?」

 

「えっ...?あっ、ほんとだ!いねぇ!」

 

おかしい。姿が見えるように土の壁の高さを調整していたというのに、魔物の姿がどこにも見えない。

 

「とりあえず土の壁をどかすぞ」

 

土の壁を土流で液状化させ、消滅させる。それによって火も消えるが、どこにも魔物の姿はなかった。いや、それは正確ではない。魔物が着ていた甲冑だけ残されていた。

 

「甲冑だけ...?」

 

「これは...やばい!全員構えろ!」

 

キースがそう叫ぶ。

 

「軍隊虫だ!」

 

甲冑の中から大量の虫が飛び出してくる。

 

「ピギィッ!虫はいやーっ!」

 

チュチュが錯乱したように矢を連射する。ギブドも慌てて火の魔法を放つ。

 

「なんなんだコイツら!」

 

「軍隊虫だ!一つに固まって別の魔物の姿を真似る魔物だ!」

 

「そんなのまでいんのかよ!ってことはあの甲冑はアイツらのじゃねぇのかよどっから拾ってきたんだ⁉︎」

 

「そんなの知るか!一匹も取り逃すんじゃねぇぞ!」

 

カサカサと大量の虫が周囲を走り回る。近づいてきたのを減速させ、ダガーで斬りつけるが焼け石に水。なかなか数は減らない。

 

「クソ!数が多すぎる!」

 

速さも虫らしく普通に速い。能力で減速させられる俺ならなんとか斬れるが、キースのハルバードはなかなか当たらない。やたら滅多に乱射するだけのチュチュは言わずもがな。ギブドの火は当たることもあるが、ほとんど避けられる。俺一人しかまともに動けていない。このままじゃ全部倒し切るのは無理だ。

 

「…っ!危ない!」

 

ギブドがチュチュの近くに移動する。その瞬間軍隊虫が一気に集まり、巨大なゴーレムのような形を形成してチュチュに向かって勢いよく腕を振り下ろす。ギブドは真正面から受け止めるが、耐えきれず大盾を落としてしまう。その腕からは血が流れていた。

 

「合体した!」

 

「ってかヤベェ!ギブド!」

 

魔物は再度腕を振り下ろす。狙いはギブド。避けることも受け止めることも出来ない。

 

「っ!」

 

「ちょっ⁉︎」

 

ギブドは背後に立っていたチュチュを無事な左腕で突き飛ばす。そして自爆覚悟の火球を生み出し、振り下ろされる腕に向かってぶつけようとする。

 

しかし、腕はギブドに当たることなく、途中で千切れて吹き飛んでいく。

 

「…なに?」

 

ギブドは困惑しながらも、発動していた火球を棒立ちの魔物本体に直撃させる。全ての魔力を注ぎ込んでいたらしきその魔法は、ゴーレムの体を形成していた虫全てを焼き焦がし、燃やし尽くす。

 

「か、勝った!」

 

「まだだよチュチュ。まだ腕が残ってる」

 

千切れた腕がバラバラにほぐれ、元の虫に戻っていく。そこに向かって鞭を片手に走る。能力を使って鞭の速度を加速させ、動こうとする虫全てを叩いていく。

 

『火球』

 

鞭で叩いて動きを封じた虫に向かって火球を撃ち込む。虫たちはなすすべもなく燃えていき、後には灰だけが残る。

 

「これで終わりだ」

 

「そう...みたいだな」

 

全員が武器をしまう。

 

「さっきの腕は...カリヤの鞭か。助かった」

 

ギブドが俺に感謝を伝えてくる。確かに腕を千切り取ったのは俺の鞭だ。もっとも、普通に叩いて妨害しようとしたら千切れてしまっただけなのだが。あの体は虫の集合体なので、虫と虫のつなぎ目にうまい具合に鞭がぶつかったのだろう。

 

「礼はいらないよ。持ちつ持たれつってやつだ。本体を倒したのはお前なんだしな」

 

「そうだよー。私何もできなかったし...」

 

「俺もだ。ほとんど何もできなかったよ」

 

「そう...か」

 

「あっ、そうだ。これ使っとけ」

 

傷を治す軟膏を渡しておく。

 

「助かる」

 

「というか、あんな虫いるんだな。他の魔物を模倣する虫か」

 

「この平原にはいないはずなんだけどな...今思えば、再生しているように見えたのは虫が空いた穴を埋めていただけだったんだな」

 

なるほど。そういう...

 

「ギブド、動けるか?」

 

「ああ、足は怪我していないしな」

 

「じゃあ馬車まで戻るぞ」

 

馬車まで戻る。全員が乗り込むと、村に向かって走り出す。

 

「それにしても、神の使いってすごいな。あの魔法もそうだし、魔力量も桁違いだ」

 

「魔力量...?ああ、そこまで多くないぞ。回復速度が速いおかげで使い切るのが遅いだけさ」

 

「魔法で魔力の回復速度を加速させているのか?そんなことまでできるのか」

 

「やーい、チートチート!」

 

「チート言うな」

 

この程度でチートとか言ってると、能力が成長したあとはどう形容すればいいのかわからなくなるぞ。

 

「とりあえず戻ったら役所で報告だろ?そうしたらみんなはどうするんだ?」

 

「俺は...特訓だな。もっと速くハルバードを触れるようにしないといけないって思ったよ」

 

「私も修行かなー」

 

「チュチュは虫嫌いを克服した方がいいと思う」

 

「それはいや」

 

「そこまでかよ」

 

「それで、ギブドは?」

 

「…まずは診療所に行ってくるよ。ちゃんとした治療を受けてくる」

 

「トリさんのところか。ふっかけられないように気をつけてな」

 

「…ぼったくられるのか?」

 

「冗談だ。普通だから安心しな」

 

そんなふうに楽しく話していると、村に着く。さっきまで命をかけた戦いをしていたとは思えないくらい柔らかい雰囲気だった。

 

「よし、役所に行くか」

 

馬車を降りて役所に向かう。

 

「報告しにきましたー」

 

「あっ、お疲れ様でーす。これ、報酬です」

 

依頼の報酬を受け取る。

 

「よし、これで四等分だな」

 

「えっ、それでいいの?」

 

「いいんだよ別に」

 

「そういうなら受け取っておくが...」

 

「ありがとねー」

 

「助かる」

 

報酬を三人に渡す。

 

「じゃあねー」

 

「また一緒にやることあったら、そんときはよろしくな」

 

「…じゃあな」

 

報酬を受け取った三人は、役所を出て行く。

 

「よし、じゃあ俺も...」

 

「カリヤさん。ちょっといいですか?」

 

受付の人に呼び止められる。

 

「なんです?」

 

「皆さんがくる結構前なんですが、ステラちゃんが来たんですよ」

 

「…それがどうしたんです?」

 

「それでとある依頼を受けていったんですよ。これなんですけど...」

 

紙を見せられる。

 

「えーっとなになに...?木の魔物が西の森に?」

 

「そうなんですよ。普通ならあそこには一種類しか魔物はいないはずなんですけど、なぜかその魔物が現れてしまったんです。それを討伐する依頼なんですが...」

 

「ステラが一人で行ったんですか?」

 

「そうなんです。止めたんですけど、私なら出来るって聞かなくて...」

 

「…様子を見に行ってほしいってことですか?」

 

「そうですそうです。見に行ってくれたら助かります」

 

「わかりました。行ってきますよ」

 

「ありがとうございます。カリヤさん、ステラちゃんと仲良いですし、頼みたかったんですよ」

 

「じゃっ、行ってきます」

 

役所を出る。さて、西の森か。木の魔物ねぇ...トレントかな?

 

「ステラ一人で大丈夫かな...負ける姿は思い浮かばないけど、木に矢って効くのかな?」

 

村を出て、森へと歩く。

 

「魔力は...全快だな。もし戦うことになっても大丈夫だな」

 

まだ戦っている途中だったら加勢しよう。

 

そう思ったその時だった。その光景を目にしたのは。

 

「煙...?燃えてる⁉︎」

 

森からモクモクとグレーの煙が上がっていた。煙に混じって赤い火も見える。

 

「急がないと...ステラが危ない!」

 

能力を発動し、俺は勢いよく走り出した。




キャラの名前で重要キャラか否かがわかるのなんとかしたいな...
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