前世の俺がすでに転生特典決めてました   作:ダイヤモンドリリー

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8492字。

巨大化魔物との戦闘です。


巨大騎士と、加速する二人

「おぉ...毎度毎度思うけど、でっかいね」

 

「だよな、それは俺も思う」

 

巨大化した魔物を、少し離れた場所の物陰から観察しながら話す。

 

「んじゃ、とりあえずクミリアを加速させて殴るぞ」

 

「作戦が雑!あれ?十二分にサポートするからみたいなこと言ってなかったっけ?サポートってそれだけ?」

 

「とりあえずつったろ?速度操作だけでどの程度威力が出るのか試したいのさ」

 

「それにしてもだよ!こう、なんか...ちゃんとした作戦はないの?なんかそういうの考えるの得意そうじゃんカリヤ!」

 

「いやー褒められると照れるな」

 

「そういうのはいらないから」

 

急に真顔になって言うのやめろボケたんだからそこはちゃんとツッコミしろ。

 

「俺、そこまで作戦考えるの得意じゃないっていうか、立てた作戦大体不測の事態に陥って無に帰すからさ。戦いながら相手の情報を収集して、うまく弱点をついていくのが性に合ってるんだよね」

 

「確かにクミさんも、どちらかと言えばまずは突撃して、アドリブで動く方が得意だけどさ。それでも最低限の作戦というか方向性は考えてからやるよ!」

 

「それは俺も同じだ。俺がサポートをして、クミリアが突っ込む。これが作戦」

 

「だからそれが雑なんだって...」

 

「まぁクミリアは好きなように動いてくれればいい。何が足りないのかを考えて適宜バフをかけるのは俺の仕事だ。難しいことは考えず、ただあいつを倒すことだけを考えてくれればいい」

 

「とても不安だ...」

 

「大丈夫大丈夫。速度操作をクミリアに使う以上、俺はクミリアの近くにずっといるわけだから何かが起こってもすぐに対応できる。本気でやばくなったらさっさと魔法使って始末しちゃうからさ。とりあえず行こうぜ」

 

「…うん、もう何を言っても意味ないってのは十二分にわかった。で、いつ飛び出せばいい?」

 

「そっちの判断でいつでも飛び出していい。攻撃する箇所とか、攻撃を避ける方向とかも勝手に決めて構わない。俺は後ろを追いかけるだけだからな」

 

反応速度の加速があるから、クミリアが急に方向転換したとしてもすぐに追いつけるだろう。

 

「わかったじゃあすぐに行くよっ!」

 

物陰から飛び出すクミリア。俺もその後ろについていく。

 

「おおっ!これがカリヤの力か!思ってたよりもすごい!」

 

興奮してんのかわかんないけど語彙力低下してんぞ大丈夫か?まぁやる気出たみたいだからいいけど...ってか、なんかクミリア速いな。少しずつ引き離される...そうか、クミリア自身のバフがあるから微妙に速度に差があるのか。

 

88ページ左上 黒のみ 俊敏

 

自分にバフをかけてさらに加速し、クミリアより少し速いくらいの速度になる。それで離れていた距離を詰め、再び二メートル後ろの位置に着く。

 

「そろそろ見つかるぞ。攻撃に注意だ」

 

魔物がこちらを向き、サーベルを振り上げる。

 

「わかってるよ。ほらこっちだ!」

 

クミリアは、サーベルが振り下ろされるのを見てから左に走って避ける。

 

「よーいしょっと!」

 

地面に突き刺さったサーベルが土を巻き上げるが、そんなものには目もくれずクミリアは拳をサーベルに叩きつける。

 

バキンッ!

 

「うおっ、ヒビ入った...」

 

サーベルもかなりの大きさだが、まさかそれに拳一つでヒビを入れるとは思わなかった。

 

「これ、速度操作だけでよくね?バフ要らなそうだな...」

 

「この剣は他よりも脆いからいけるけど、他の部位は無理!この様子だと鎧も兜も貫けないよ!」

 

そう言いながらも、クミリアは次に行動を移している。魔物の腕に飛び乗り、そのまま駆け上がっていく。

 

「あっ、貫く必要はないぞ」

 

「それはなんでだい?」

 

「このまま登ればわかるぞ」

 

腕を駆け上がり、肩の上まで移動する。

 

「あんときよりはちと狭いが...巨大化してるおかげで、鎧と兜の隙間が広くなってるんだ。この隙間から中身に攻撃すれば、鎧を貫く必要はないだろ?」

 

「まぁ中身も物理耐性あるけど...確かに鎧よりは脆い。これならいけるね」

 

クミリアが拳をグッと握り締めながら言う。

 

「たしか、大きな傷をつければいいんだったよね?」

 

「そうだ。一気にやってやれ」

 

「そーれっ!」

 

ドゴォッ!!グジャァッ!!!

 

うわエッグ。すっごい音したぞ拳で出せる音じゃねぇ...

 

「硬ったぁ...まぁまぁバフかけたつもりだったんだけどなぁ。ちょっとしか傷つけられなかった」

 

音だけだったのか...

 

「じゃあこっちでバフを...」

 

っと、その前にアレやっておかないと。

 

3780ページ上 黒のみ 筆記

 

筆記魔法で魔法陣を魔物の中身に描き込む。

 

「筆記魔法?なんでだ?」

 

「いざとなったときにコイツで瞬時にトドメをさせるようにな」

 

「なるほど。さぁ早くバフを...っ!」

 

魔物が体を振り回して、俺たちを肩から振り落としてくる。

 

「面倒な...ってまずっ⁉︎」

 

身構えるのがクミリアよりも遅れてしまったせいで、より遠くに弾き飛ばされてしまった。クミリアが速度操作の範囲外に出てしまう。

 

「クミリアっ!」

 

魔物はサーベルから手を離し、近くにいるクミリアに殴りかかろうとしていた。

 

4014ページ 黒 青 障壁

 

「キャッ...チ!」

 

空中設置した障壁を蹴って移動し、クミリアを掴んで緊急回避する。

 

「すまんミスった!」

 

「もうさっきの魔法陣使えばいいんじゃない?」

 

「今使ってもまだ倒せない。あれはトドメ用だし、もう少し小さくしないと倒しきれんぞ」

 

「じゃあもっと傷をつけないといけないわけだ」

 

「うん」

 

クミリアを抱えて走りながら話し続ける。

 

「そろそろ下ろして?」

 

「おけ」

 

クミリアを下ろす。

 

「じゃあこれ借りるね」

 

「えっ?ちょっ⁉︎」

 

ポーチぶん取られた⁉︎

 

「おまっ、何してくれてんだ!」

 

「魔法図鑑使わせてもらうねー」

 

「それ使って何を...ってまさか!」

 

「行ってきます!」

 

「一人で行くんじゃねぇ!」

 

クミリアが全力疾走を発動し、超高速で移動し始める。

 

「そこで普通に魔法で攻撃しようって発想にならないのはなんでなんだ...?」

 

魔法図鑑を盗られたときは、てっきりさっさと魔法で倒そうとしたのかと思ったが、別にそんなことはなかった。一応物理で倒そうとはしてくれるんだな...

 

「ただ、いよいよちゃんとサポートしてやらないとダメそうだな」

 

全力疾走を使えば、クミリアは一、二分でバテてしまう。それまでに倒しきれなかったらまずい。少なくとも、あの魔法陣でトドメを刺せるくらいのサイズにはしておきたい。

 

2007ページ下 黒 赤 拘束

5000ページ 黒のみ 魔法復唱

 

とりあえず大量の鎖で魔物の体をがんじがらめに拘束する。魔物に抵抗されて時間をロスするのはいけない。今は一分一秒が惜しい。

 

ドゴォッ!バキィッ!!バッキヤァッッ!!!

 

おお、ちょくちょくヤッベェ音聞こえてくるな。なんとか目で追えるけど、具体的にどんな攻撃をやってるのかまではわからん。

 

「俺からもバフをかけられればよかったんだけど...あれだけ速いとかけるの無理だしな。どうしよ」

 

威力増加系の魔法をかけてサポートしたかったのだが、速すぎて狙いを定めることができずバフをかけることができない。せめて全力疾走を使う前に言ってくれたら、ちゃんとバフをかけてやることができたというのに...こうなりゃできるサポートは魔物へのデバフや妨害くらいしかない。

 

「とりまその盾邪魔だから奪わせてもらうよ!」

 

『略奪』

 

魔法図鑑がないので、スキルで略奪を発動する。魔物の思考なんて読めないが、今魔物が手に持っているのは盾だけだから、何か特別な魔法を持ってたりしなければ盾を奪えるはず...

 

「よし略奪成功...ってあっぶね!」

 

盗んだ盾が俺の真上に転移してきたせいで、危うく押し潰されるところだった。ギリギリで回避に成功したが、普通に死にかけた...

 

「よーしこのあとは...」

 

「ねぇ、ちょっと手伝って欲しいんだけど」

 

「うわびっくりした。なんだ?」

 

俺の横にクミリアがいつのまにか立っていた。一旦全力疾走は解除したみたいだ。

 

「だーいぶ傷をつけてきたんだけど、もう少しやりたいんだよね。あの鎧を剥がせたりしない?」

 

「うーん...オーケーやってみる」

 

ロングソードを引っこ抜き、構える。

 

『色彩剣装 原色・赤』

 

「あっ、それカノウのじゃん」

 

「そ。こいつには防御無視の力があるから、これなら鎧も...」

 

一瞬で拘束されている魔物のすぐそばまで近づく。

 

「切れるってね!」

 

鎧を切り付け、そのまま剥ぎ取る。

 

「行けクミリア!一発ぶち込め!」

 

後ろにいるクミリアの方を見ながら叫ぶ。

 

「一発ぅ...?百回は殴るね!」

 

クミリアが拳に青い炎を纏わせる。目に見えるのはそれだけだが、他にも幾つものバフをかけているに違いない。

 

「全力疾走!最高速度だ!」

 

フッ、とクミリアの姿が消える。狙いは魔物の胸。鎧のない、生身の部分。風穴を開けるために、超高速で突っ込む。

 

「せいっ!」

 

ドグシャァッ!!

 

ものすごい音と共に、魔物の体が吹き飛んでいく。あまりの威力に、鎖が耐えきれなかったようだ。

 

「一回しか殴れなかったな...」

 

フワッと俺の隣に着地するクミリア。殴った右拳が少し変な方向に曲がっていた。こちらも威力に耐えきれなかったらしい。

 

「今回復する」

 

「しなくても平気だよ。これくらいなら少しすれば治る」

 

「それならいいが...いや、俺がやる方が早いな」

 

『再生』

 

クミリアに魔法をかけ、回復速度加速で折れていた右拳を即座に治す。

 

「ありがとう。さっ、いい感じに傷つけてきたからあとは頼むよ」

 

少し離れたところで魔物が倒れている。ここからでは傷の具合が見えないが、動けていないのを見るにさっきのクミリアの攻撃は相当な痛手となったらしい。

 

「わかった。行ってくる」

 

魔物の方へ走り出す。

 

そうしようとしたその時だった。

 

「んな⁉︎」

 

突然魔物が立ち上がり、地面を踏みつける。土煙が辺りに舞い散り、視界を奪う。

 

「再生したのか...?何が起こったってんだ...」

 

土煙が口の中に入らないように口を手で押さえながら、とりあえずクミリアの近くに移動する。これで何が起こっても速度探知で対応できるはず...

 

「よいしょっと」

 

クミリアが拳を振り上げると、一気に土煙が吹き飛ばされる。空気の腕を使って振り払ったのだろう。

 

「これで見えるはず...は?」

 

「デカく...なってるね」

 

魔物がさっきよりも一回りデカくなっていた。

 

「まさか魔族がこの近くにいる...?」

 

周囲を見渡す。魔物が巨大化したのだから、それを実行した魔族がどこかにいるはず。上か...?ダメだ見つからない。

 

「こうなりゃ探知魔法で探すしか...!」

 

「何をしてるの?今はあの魔物を倒さないと!」

 

「この近くにあいつを巨大化させた魔族がいるはずだ!ちょっと探してくるからあいつの妨害を...マジかよ」

 

周囲に結界のようなものが貼られた。

 

この感覚には覚えがある。

 

俺も一度だけ使ったことがある魔法。

 

これは...魔法拡散だ。

 

「これも魔族の妨害かよ...どんだけこいつを残したいんだか」

 

「どうするの?魔法使えないわけだけど...一旦逃げる?」

 

「それでもいいが...魔法拡散の結界の中でも、速度操作が使えると言ったらどうする?」

 

「…いいね、面白そうだ」

 

ニヤリとクミリアが笑う。

 

「行こうか!」

 

クミリアが先に走り出した。その速度を加速させ、俺もついていく。

 

「傷は治ってるが、鎧はそのままだ。サーベルも盾も持ってない。腕だけ気をつけろ!」

 

「あんな腕当たるわけないでしょ!ちゃんとついてきてよね!」

 

「俺も攻撃に参加する!雷装も使えるんでな、感電には気をつけろよ!」

 

ダガーを取り出しながら、クミリアに続いて跳んで魔物の腕に飛び移る。さらなる巨大化によって動きが遅くなっていたため、さっきよりも飛び移りやすかった。

 

「いくよ!せー...のっ!」

 

「オラァッ!」

 

二人同時に跳び、拳とダガーの斬撃をほぼ同タイミングで叩き込む。

 

『雷装・剣』

 

剣から電流を放ち、魔物に流し込む。

 

「俺に近づきすぎるな!俺はここでやるからクミリアはそこで攻撃し続けろ!」

 

「了解!」

 

雷装に巻き込まないように、かつ速度操作の範囲内にクミリアが入るような距離を保ち、ダガーを刺し込んで体をぶら下がる。

 

「オラオラオラオラァッ!」

 

電流を流しながら、蹴りを何度も叩き込む。秒速53メートルの蹴りだ。これだけでも相当な威力だ。この巨体でも、相当なダメージになる。

 

「そしてこいつで...!」

 

何度も蹴ったため、魔物の身体に抉れた傷ができた。そこに足を引っ掛けて、足場を確保する。

 

「オラァッ!」

 

足場ができたため、先ほどまで支えとして使っていたダガーを引き抜いて何度も魔物の身体を切り裂く。ダガーでは深く傷をつけることができない。だからその代わりに、数と広さで火力を出していく。

 

「よし、この傷なら...!クミリア!そっちはどうだ!」

 

「速度探知で見えてるでしょ!順調だよ!」

 

「オーケー!加速させる!」

 

速度操作で傷からの魔素の流出速度を最大まで加速させる。

 

「攻撃を続けて!また魔素を注入されてもすぐ出せるように傷を広くしろ!」

 

「今やってるよ!」

 

加速させながらも攻撃は止めない。何度も何度も傷をつけ、魔物の体内に溜まっている魔素を引き摺り出していく。

 

「小さくなって来てる!このままやるよ!」

 

魔物のサイズが少しずつだが小さくなってきた。それに合わせて傷の大きさも少し小さくなってしまったので、大きさを保ち続けるためにダガーを振り続ける。

 

「ってクソッ、足場が...!」

 

足場としていた傷が小さくなってしまい、足場として使えなくなってしまう。

 

「上だクミリア!首を狙うぞ!」

 

ダガーを支えにして上へと登る。

 

「さっきよりもまだデカい今なら!鎧と兜の隙間に入れる!内側から直接叩く!」

 

「それ小さくなったら潰されない?大丈夫なの?」

 

「問題ない!策ならある!」

 

「信じるよその言葉!」

 

二人で肩の上まで登り、さっき言ったように兜の中へと入り込む。

 

「クミリア!全力で俺の足を攻撃しろ!」

 

「…なるほど、そういうことね!」

 

『反撃流』

 

原初の魔法。それはあくまで自然現象の一種と言っても過言ではない。なおかつ、反撃流はほほ体術と言っても差し支えないものであり、魔法を魔力までに戻すことで無効化する魔法拡散の効果に影響されない...数少ない魔法!

 

「オラァッッ!!」

 

クミリアの全力の攻撃を連続で喰らった俺は、その威力を利用して兜に超強力な攻撃を叩き込む。そのおかげで兜の一部分が砕け散り、ある程度小さくなっても通れるくらいの大きさの隙間が生まれた。

 

「退路確保!一斉攻撃用意!」

 

「一斉って言っても二人だけだけどね!」

 

「黙れ行くぞ!」

 

俺とクミリア両方とも最大まで加速させる。

 

まずは俺。ダガー二本を使い、魔物の首に斜め十字の傷をつける。

 

次はクミリア。俺がつけた十字の傷の中心に二発の打撃を加え、抉れさせる。そしてすぐさまその傷に手を突っ込み、皮と肉を引っ張って傷を大きく広げる。

 

「これでヨシ!俺は索敵と魔素流出加速に集中するから、クミリアはさらに傷を広げるか離脱してくれ」

 

「わかった。このまま殴り続けてるね」

 

そういうとクミリアは傷に拳を叩き込む。一発一発当たるたびに、魔素がドバッと出てくる。この感じだと、一、二分でだいぶ小さくできるだろう。そのころにはもう魔物も死ぬはずだ。

 

「んー...あと五十秒くらいで兜の外出ないとダメそうだなこれ」

 

「兜もうちょい砕いとく?」

 

「いや、外からでも届くから問題ない」

 

そこからしばらく加速を続ける。思った通り、五十秒ほどで限界が来たので兜の外に出て加速を続ける。

 

「だいぶ小さくなってきたねー」

 

「そうだな」

 

最初に見たときの半分以下の大きさになってきた。このままいけば、あと三十秒くらいで終わりそうだ。

 

「…まぁ、このまま上手くいくとは思ってないけどな」

 

必ず妨害は来る。さらなる巨大化か、それとも...

 

「やっぱそうくるよな!」

 

「えっ...透けてる⁉︎」

 

魔物の体が透け始め、俺たちは落下し始める。

 

「魔族の転移だ。転移開始の時点で、俺たちは一切の干渉が出来なくなる」

 

転移することを読んでいた俺は、落下速度を減速させてゆっくりと着地する。そして着地と同時に魔法拡散の結界も消えた。もう必要ないからだろう。

 

「どうするの?逃げられちゃうけど...」

 

「問題ない」

 

ヒュンッ、と魔物の体が完全に消滅する。

 

「あのとき描いた魔法陣には、攻撃機能の他に発信機の機能もつけてある」

 

「準備がいいね...もしかして、最初から読んでた?」

 

「さらに巨大化するとは思ってなかったが、転移は前にもあったからな。一度やられたら、ちゃんと対策はするさ」

 

魔法拡散を律儀に解除してくれたおかげで、発信機の効果を起動することができる。いや〜助かるわ。

 

「魔物はあっちの方にいる。そこは多分、魔族が安心して転移させられるところ。つまり...奴らの拠点だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔法拡散まで使ったのに攻撃するとは思ってませんでしたが...なんとか転移が間に合ってよかったです」

 

「私が巨大化させたおかげだね!」

 

赤い髪の二人の女が、傷ついた巨大魔物を前にしながら話す。

 

「まぁ、否定はしません。姉さんがさらに巨大化させていなかったら、転移する間も無く殺されていたでしょうから」

 

「でしょでしょ?もっと褒めてもいいんだよ?」

 

「ですが...あそこで私が魔法拡散を使っていなかったらどうするつもりだったんですか。巨大化させても魔法で一瞬で倒されてしまいますし、探知魔法で私たちの位置までバレてしまうところでしたよ。神の使いには私たちの顔が割れているんですから...その時が来るまでは隠密行動、誰にも正体がバレてしまってはいけないということを忘れないでください姉さん」

 

「キネットちゃんは厳しいなぁ...って、こんなこと話してる場合じゃなくない?早くこの子の傷を治さないとじゃん」

 

「…確かにそうでした。説教は後にすべきでしたね...姉さんにそれを言われるとはなんたる不覚...!」

 

「そこまで言う?ひどくない...?」

 

二人は魔物についていた傷を一つずつ治していく。胸の刺し傷や殴打痕、首につけられた十字の傷などなど、他にも細かい鎧の傷なども綺麗に治していく。

 

「今のサイズでこの傷ってことはさ、最初はもっと大きな傷だったってわけだよね...?」

 

「ですね。たった二人でここまでやるとは...最優先で警戒すべき相手はもちろん神の使いでしょうが、あのガネルの英雄クミリアも十分警戒すべきですね」

 

「そうだね〜...ねぇキネット」

 

「なんですか?姉さん」

 

「この魔法陣ってキネットが描いたやつ?」

 

「……姉さん今すぐ逃げますよ」

 

「なんで?」

 

「その魔法陣でこの場所を特定されました。この魔物は捨てます」

 

「…わかった。早く転移させて」

 

「ええ、姉さんだけ先に飛ばします。私は残って重要なものだけ回収してから飛ぶので」

 

「わかった。気をつけてねキネット」

 

片方が消える。

 

「姉さんじゃありませんから。バレないように、ちゃんと姿は隠してやるので」

 

もう一人も消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この洞窟が魔族の拠点...」

 

「まぁ数あるうちの一つだろうが、このタイミングで一つ潰せるのはデカいな。撤収されていないことを願いたいけど...」

 

二人で中に入る。洞窟の中には明かりが設置されていたが、そこまで明るくもないため遠くまでは見通せなかった。

 

「もう少し先に魔物がいるはず...いた。しかも、ここが最深部か」

 

魔物の姿が見えた。傷は治っているみたいだが、動く様子はない。死んではいない...ようだな。

 

「とりあえず始末するか」

 

魔法陣を起動し、魔物の首を吹き飛ばす。

 

「何か残ってるものは...ないか。やっぱ、魔法陣に気づかれて撤収されてたか」

 

俺たちが移動を始めてから、まだ数分しか経っていない。その少ない時間のうちに、魔物の傷を治し、全ての情報を消し去って逃げ果せるとは...かなりやるな。

 

「……」

 

「どうした?クミリア」

 

なんか、何もない空間を見つめてるけど...

 

「……やっぱりそこにいるね。隠れても無駄だよ!」

 

クミリアが拳を突き出すと、空気の腕が伸びて洞窟の壁を殴りつける。

 

「魔族いるよ!」

 

「了解!」

 

魔族を追い詰めるために、まずは近づく。姿が見えなくとも、速度探知の範囲内に入れてしまえば位置がわかる。体格などもわかるため、もし成功すれば大きな情報を得ることができる。

 

「そこか...!」

 

クミリアが殴りつけた場所の付近を走り回り、探知していく。

 

「もっと左!あっちの方!」

 

「くそっ、こいつ邪魔クセェ!」

 

魔物が邪魔で直線的に追うことができない。気配を読んで位置を探知できるクミリアの指示を受けながら移動するが、どうやら飛行しているらしい魔族を捉えることができない。

 

「まずい、外に逃げられる...!」

 

「させないよ!」

 

クミリアが腕を伸ばし、自らの視界から洞窟の通り道を塞ぐ。これにより空気の壁ができ、外へと出ることができなくなった。

 

「そこ!そのまま前!」

 

「チェックだ魔族野郎!」

 

その姿を捉えんと、秒速53メートルで接近する。

 

が、しかし...

 

「い、いねぇ...?」

 

「気配が消えた...転移で逃げられた?」

 

結局、魔族の姿を捉えることは叶わなかった。




魔法拡散って意外と弱点多いんですよね。
速度操作は貫通するし、状況の再現である雷装も使えるし。

ちなみに、原初の魔法全てが魔法拡散を無視できるわけではありません。
体術の領域である反撃流や、音により身体が最適化されることで強化するミルキーの音楽など、一部のものだけが魔法拡散の影響を受けずに済みます。

全てに共通するのが、厳密には魔法ではないこと、魔力を魔法という形にしていないことですかね。
魔法を魔力に戻すのが魔法拡散なので、魔法でないと無効化できない、魔力そのものの運用はできてしまうという弱点があります。

他にも、一瞬だけなら魔法を発動できるので、めっちゃ肉薄して一瞬で魔法をぶつけるなんてこともできなくはなかったり...
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