前世の俺がすでに転生特典決めてました 作:ダイヤモンドリリー
トレント戦です。
「ステラ...ステラ!」
森の中を急いで走る。しばらく走っていると、燃えている箇所が多くなっていく。どんどん火の勢いが強くなっていき、熱くなってくる。
『ギャアアアアア!!』
突如、けたたましい叫び声が森の中に響く。
「この声...トレントか⁉︎」
ならその方向にステラもいるはず...!
「ステラ...ステラ!どこだ!ステラ!」
どこだどこだどこだ。どこにステラは...いた!
「ステラ!」
燃える森の中、ステラが息も絶え絶えで木に寄りかかっていた。そのステラに火の手が迫る。
「くっ!『微風』!」
風の魔法を発動し、能力でその風を加速させる。秒速20メートルの風がステラの方に一気に吹き込み、ステラに迫る火をかき消す。
「ステラ!大丈夫か!」
「ごふっごふ...カリヤ...さん?」
「動けるか?さっさと逃げるぞ!」
「だめ...後ろ...!」
背後から迫る何かの速度を検知し、慌ててステラを抱き抱えて横っ飛びをする。
「これは...木の根?トレントか!」
木の根が飛んできた方を見ると、一本の大樹があった。その大樹には邪悪な顔がついており、木の根や枝をブンブンと振り回して周りの木を薙ぎ倒していた。
「下ろして...あいつを...倒さなきゃ...!」
ステラが俺の腕の中で暴れる。放すまいと抵抗するも、ステラは俺の腕から器用に抜けて地面に降りる。
「そんな無茶な...」
「私がやるの!私は...証明してみせるんだから!」
ステラは俺の背後に回ると、俺の背負っている鞄を開けようとする。
「えっちょっ、何を⁉︎」
「ポーション貸して!持ってるでしょ!」
「ま、待てって、今出すから」
鞄を下ろして中からポーションを出すと、ステラはそれをぶんどり一気に中身を飲み干す。
「これでいける...!」
「ちょっと待てって、おい!一人じゃ無理だって!」
トレントの方に駆け出そうとするステラの腕をなんとか掴む。
「邪魔!カリヤさんはそこにいて!私一人でできるんだから!」
ステラが俺の手を振り払おうとしてもがく。けれど、体格差があり抜けることはできない。
「どうして一人でやることに固執する!」
「私一人であいつを倒して!私がお兄ちゃんよりも強いってことを証明するんだ!」
「っ!」
忘れていた。ステラは、兄がコンプレックスなのだ。村一番の弓の使い手である兄を持ち、いつも比べられる。ステラも村で二番とはいえ、その差は大きい。まだ子供だからという理由でみんなから心配されることも、そのコンプレックスに拍車をかけているのだろう。だから、一人でこの魔物を倒してみんなに強いと認めてもらおうとしているのだ。
「…強さより命の方が大切だろうが...!」
「でも!」
「ああもうわかったよ!やれるってんならやってみろよ!」
ステラを掴んでいた手を離す。
「でもな!お前が死にそうになったらお前がなんと言おうと助けるからな!ヤバいと思ったらすぐに助けを呼べ!いいな!!」
「…うん!」
ステラは元気よく頷くと、トレントに向かって走り出す。
「いつでも助けられる距離にいないとな」
ステラが助けを呼ぶまで、俺は静観を決め込むことにした。けれど、常に移動はしておく。一秒で助けに行くことができる距離、20メートル以内にステラが必ずいるように、ステラに合わせて移動する。
「それよりもステラのやつ、魔法なんて使えるのか?使ってるところ見たことないぞ」
ポーションまで飲んだんだ。魔力を使う何かをしていてなければおかしい。
そして、その疑問の解答はすぐに訪れた。
「なんだ...あれ⁉︎」
ステラが弓に矢をつがえた瞬間、矢尻が急に燃え出した。本当に、なんの前触れもなく。
「……っ!」
ステラが燃える矢を放つ。孤を描いて飛んでいったその矢は、トレントに命中した瞬間その火の威力を爆発的に増幅させて燃え上がる。
『ギャアアアア!!』
トレントが悲痛な叫び声を上げる。そして自らの木の根を鞭のように振り回して危害を加えてくるステラを攻撃しようとする。
「危なっ!よっ、ほっ...と。燃えなさい!」
木の根を避け、燃える矢を連射するステラ。その全てが、一発の誤射もなく命中していく。
「…すげぇ」
すごいとしか言いようがない。あそこまで動けるだなんて、俺も知らなかった。
「あっ、またやっちゃった...」
鞭のようにしなりながら迫ってくる木の根を避けながら撃った矢は、トレントのすぐ真横を通って奥の普通の木に刺さる。そして一気に木が燃え上がる。
「あんな一瞬で⁉︎」
辺りをよく見てみると、近くで燃えている木全てに一本の矢が刺さっていた。全てあの火の矢が刺さったせいで燃え出したのだろうか。普通に生えている木って燃えにくいはずなのに...すごい火力だ。
「全然燃えない...!」
けれど、トレントはなかなか燃えない。火力が足りないのか、それとも表面が燃え尽くしてしまって中にまで燃え移らないだけなのか。どちらなのかはわからないが、すでに表面が丸焦げになっているトレントをこれ以上燃やすことがステラにはできなかった。
「あと三発...これで倒せなきゃ私は...!」
ステラの持つ矢はあと三つ。これで仕留め切ると言わんばかりに、矢を引く手がほんの少し力んでいた。
「撃ち切ったら助けに入るか」
いつでも突入する用意を済ませ、ステラを見守る。
一射目、トレントの顔だったところに命中する。しかし、延焼はあまりしない。
二射目、トレントの振り回す枝に弾かれ、地面に当たり燃え上がる。
「これで最後...あれ、あれ⁉︎」
矢をつがえるが、火がつかない。
「まさか...魔力切れ...うぐっ⁉︎」
いつのまにか迫っていた木の根に、動揺していたステラは気づくことができず絡め取られてしまう。
「ぐぅ...熱っ...かはっ⁉︎」
燃える木の根はステラを締め上げ続ける。早く助けなければ!
「カリ...ヤ...助け...」
「っ!」
『水弾』
まずは水弾で木の根の火を消し止める。そのまま一秒でステラのもとに辿り着き、ダガーで木の根を切り裂いてステラを解放させる。
「ステラ!」
ステラが落下する速度を減速させ、先に地面に降りてステラを受け止める。
「話せるか!なんでもいい!何かしゃべってくれ!」
「……あつ...い」
よかった生きてる。でも全身を燃える木の根で締め付けられたせいで、服のあちらこちらが燃えて穴が開き、そこから火傷しているのが見えた。全身火傷はまずい。早く医者に診てもらわなければ死んでしまうかもしれない。
「クソ!逃げるぞ!」
ステラを抱えたまま、能力全開で村まで走る。トレントも俺の速さにはついていけず、木の根も届かない。
「村まで3分...耐えてくれよステラ」
秒速20メートルで走り、すぐに森を抜ける。加速していたとしても、村に着くまでには時間がかかる。なんとももどかしい。もっと速ければ...!
「カリヤ...お兄ちゃ...」
「そうだもっとしゃべれ!意識だけは手放すなよ!」
「私...頑張った...よね?」
「ちょっと待て喋れとは言ったけどそういうのはやめろ!それ死ぬやつだから!死なないようなセリフ吐け!」
「変なこと言ってる...やっぱカリヤさんって変だね」
「変って言うな。よーしステラ、治ったら説教だ覚悟しとけよ」
常に話しかけて、意識を手放させないようにしながら走る。ようやく村まで辿り着き、診療所まで走る。
「トリさん!居るよな居るって言ってくれ!」
診療所の扉を勢いよく開けて中に入る。
「そう怒鳴るな。なんだよいったい...っ⁉︎」
「ステラを頼む」
「ちょっと待て!ステラに何が起こったんだ!」
「説明は全部後だ。次ここに来た時に必ず説明する。だからトリさんはステラの治療を頼む」
「次ここに来た時...ってお前はどこに行くんだ!」
「どこに?そんなの決まってる。ステラをこんなんにした奴をぶっ潰しに行くんだよ」
それだけ言い残し、俺は診療所を出た。
「これは...俺の罪でもあるしな」
ステラの言うことなんて気にせず、最初から加勢していればよかったんだ。そうすれば、ステラはこんな傷を受けなくて済んだのかもしれなかった。
「俺があいつをぶっ潰す。ステラに代わって...!」
あの森に向かって、ゆっくり歩いて移動する。今も燃え続けているあの森へ。能力を使わず、自分の足で歩く。万全の力でトレントを殺すために。魔力を全て回復させることのためだけに能力を使う。
「どうすればあいつを殺せる?考えろ。あいつを最速で殺して最速で戻ってこれる方法はなんだ?」
森に着くまでの長い時間を使い、トレントの殺し方を考える。
「………そうだ。これなら...行ける。絶対殺せる。なら、ゆっくりしてる暇ない」
魔力はもうすでに全快だ。俺の考えている方法なら、魔力切れを起こす前に殺せるはず。だから、能力を使って全速力で森まで走る。
「着いた...トレントはどこだ!」
森まですぐに辿り着く。そのまま燃える森の中を走り、トレントを探す。
「あの場所は...あそこか!」
森の中で一番燃えているところを目指して走ると、簡単にトレントのいる場所を見つけられた。トレントは俺を見ると、全身を使って押し潰してこようとする。
「当たるわけねぇだろそんなの」
トレント本体の動きは遅い。こんなの、能力を使うまでもなく簡単に避けることができた。
「テメェに宣言するぞ。絶対に斬り倒す。覚悟は...しなくていいや。後悔だけしてろ。死んでも悔やみ続けてろ。まぁ、そんなことできる知能もなさそうだけどなw」
トレントが『キエエエェェェ!!!』という叫び声を上げながら木の根を振るってくる。
「へぇ、煽ってるってのはわかるんだ。っと、あれはどこだ...?」
トレントの攻撃を避けながら、俺はとあるものを探していた。
「あれは...あった!」
俺は目的のものを見つけると、能力を発動しながらそれを掴み取る。
「やっぱり、掴めるよな」
掴んだのは、今もなお燃え続けている矢だった。
「ほんと便利な能力だな」
熱とは、その物を構成している分子の運動の激しさによるものだ。運動しているということは、少なからず速さを持っているというわけで、速さを持っているなら能力でそれを操作できるのも道理。この速度操作の能力は、熱量操作もできるのだ。今はまだそんなに操作することはできないが、温度を少しの間一定に保つくらいはできる。そうして能力を使い、燃える矢を火の中から安全に掴み取ったのだ。
「まずはこれでやってやるよ。ステラの力、くらいな」
燃える矢を弓につがえ、弦を引っ張り、手を離す。燃える矢が飛んでいき、トレントに命中する。
「これで...できるよな。ああ、そうだよな。スキルってのは過去の経験の再現だ。できなきゃ逆におかしいよな」
俺は普通の矢を取り出し弓につがえる。
「スキル名は...『火装・矢』」
スキルの宣言と共に、矢尻が燃え出す。
「燃えろ」
火矢を放つ。しかし、トレントの振るった木の枝に弾かれてしまう。『ギャハハハ』とトレントが笑う。
「へっ、矢なんてもう見切ったってか?せいぜいそのまま笑ってろ」
もう一度矢をつがえ、スキルを発動して燃やす。そのまま限界まで弦を引っ張り、手を離す。トレントは俺が矢を放った瞬間木の枝を振るい、飛んでくる矢を弾き飛ばそうとする。
「無理だよ。お前じゃ追えない」
能力で弦の速度を速めたおかげでトレントの予測より速く矢は飛んでいき、命中して燃え上がる。
「さて、次は弾けるかな?」
矢をつがえ、スキルで燃やしてから弦を引っ張る。そして、能力を発動しながら手を離す。トレントは俺が手を離した瞬間に木の枝を振るって矢を弾こうとしたが、木の枝は空を切り、その直後に飛んできた火矢を受けてしまう。
今度は弦ではなく矢自身を加速させたのだ。当然のことだが能力の範囲外に出た瞬間、矢の速度は元に戻る。その特性を活かしてトレントの木の枝を空振りさせたのだ。
「んーやっぱ矢じゃこれ以上は無理か。もっと内側を焼くには...これだな」
手頃な燃えている木を見繕い、ダガーを持つ。そして能力で熱に耐性をつけてから、ダガーで大きめの木の枝を切り落とし、木の表面を切り取る。
「これで...できたら嬉しいな」
ダガーで木の枝を整形させてからダガーをしまい、先程切り取った木の枝と木の皮を手に持つ。
「さぁ来い!」
トレントが俺に向かって木の根を振るう。それを木の皮でなんとか逸らし、木の枝で斬りつける。燃えていて直ぐにも崩れそうだったので、今ので木の皮も木の枝も壊れてしまったがこれで目的は達成だ。
「経験完了」
ダガーを抜いて構える。
「『火装・剣』『火装・盾』」
手に持っているダガーと、左腕に装着している金属の盾が燃え上がる。
「やっぱ燃えない物でもスキルなら再現できるんだな。矢尻が木じゃないのに普通に燃えた時点でわかってたことだけど」
金属が普通に燃えているのを見て一瞬びっくりしたが、すぐに戦いに意識を集中させる。
「準備完了だ。足掻くだけ足掻いてみな。お前がどれだけ長く生きられるのか、お前の寿命、自分で掴み取ってみろ」
能力を発動して秒速20メートルでトレントのもとまで走り、すれ違いざま斬りつける。トレントの体にズバッと傷が入ったので、火球を発動して傷口に叩き込み燃やす。
「よしいい感じ」
振られる木の枝や木の根を走って避け、転がって避け、燃える盾を押しつけて逸らしたりしながらダガーで斬る。
「いい加減うざったいな。剪定してやんよ。初めてだから全部刈り取っても文句言うなよ!」
まずは機動力を奪うために、高速で動きながら木の根を斬り飛ばしていく。そのままの勢いで木の枝も斬り落とし、攻撃能力も削ぎ落としていく。
「あとは幹を...うわっと」
背後から迫る速度を検知し、横っ飛びで回避する。
「根っこ...?斬りそびれたわけでもないし、再生でもしたのか?」
トレントの根元を見てみると、斬り飛ばしたはずの切り口から根っこが再生していた。さっき斬った木の枝も同じように再生している。
「再生するのか...あの切り傷は治ってないってことは、焼けば再生しなさそうだな」
幹につけたダガーの傷は治っていなかった。表面の焦げ跡も治っていないところを見ると、やはり焼いていれば再生しないのだろう。ヒュドラみたいだ。
「じゃあじっくり燃やすか。燃えっろ燃えろー!」
ダガーで斬っては切り口を焼く。
「こんくらいでいっか。そろそろ終わらせよう」
ダガーを構える。秒速20メートルで走り、大木を切り倒すときの受け口状に一気に斬り飛ばす。しかし、斬った側から再生し始める。
「させねぇよ!」
燃えている盾を腕から引き抜き、フリスビーのように投げ飛ばす。飛んでいった盾は先程作った切り口に突き刺さる。
「内側から燃えな!!」
トレントに刺さった盾はそのまま燃え続け、内側から幹を焼け焦がす。
「オラオラもっと燃えろォ!」
刺さっている盾を思い切り蹴り付け、さらにめり込ませる。
「テメェはこれでお終いだ!」
最後にもう一度盾を蹴り付けてから、盾の刺さっている方の反対に回り、燃えるダガーで連続で斬りつける。
何度も、何度も。
燃えるダガーで切り口を焼きながら、何度も何度も斬る。
トレントはもう抵抗することも、叫ぶこともできなくなっていた。ただただ斬られるだけだった。
「最後の...一撃ィィ!」
ダガーからロングソードに持ち替え、能力と火装・剣を使い、燃えるロングソードを大きく振りかぶり、最大限の速度を持ってトレントに叩き込む。
大木が、トレントが倒れた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
呼吸するたび、肺が痛い。長時間の激しい戦いのせいで息が荒いのもあるが、燃えて熱く熱された空気を肺に入れているため、呼吸のたびに肺が痛むのだ。
「とりあえず...盾を回収しないとな...」
切り倒したトレントの近くに落ちている盾を拾い上げようとする。
「あっっつ!金属クソあちぃ!」
あまりの熱さに思わず飛び退いてしまう。しょうがないので、水弾を一度ぶつけて冷やしてから能力を使ってなんとか拾い上げる。
「あとは帰るだけ...あっ、これどうしようかな」
普通に森が火事になっているけど、どうやって始末をつけようか。水弾じゃいくらやっても消えないだろうし。
「放置するしかないか...ん?これって...」
顔に何かが落ちてくる。
「あ、雨だー!」
雨来た!これで勝つる!
そんなことを思ってたら、意外と雨が強かった。土砂降りだ。傘なんて持っているわけなく、ずぶ濡れになる。
「まぁいっか。これで火も消えるし...あれ?」
一部分だけ燃え続けているところがあった。近くの木に一箇所ずつぐらいはある。
「これ...矢か。すげぇな。雨が降っても燃え続けるのか」
木や地面に刺さっている矢は雨の中燃え続けていた。引き抜いてみると火は消えたので、刺さっている間はずっと燃え続けるのだろう。とりあえず刺さっている矢を全部引き抜いた。
「よし、帰ろう。帰ったらステラに説教だ」
そう思いすぐに村に向かって走ろうとしたが、止める。
「…ダメだ。スタミナ切れかかってる。森を出るまでは歩くしかないな」
仕方なく歩き始める。戦いでとてつもなく体力を消費してしまっている。無傷ではあるが、戦っている最中のほとんどを走っていたせいでものすごく疲れてしまったのだ。スタミナの減少速度を減速させていなければ、何度スタミナが切れていたかわからない。
「疲れた...」
森の外までゆっくり歩いて出る。
「こっからは走るか。生きててくれよステラ。今から行くからな」
スタミナもまあまあ回復した。これなら村までは走れるだろう。能力を使い、全速力で村まで駆け抜ける。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ...!」
心臓の鼓動が速くなる。能力ではなく生理現象として速くなった心臓は、吸い込んだ酸素を血液を通して全身に行き渡らせる。俺は能力でさらに心臓の鼓動を速め、血流速度を加速させて走る。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、っ!ぶふっ⁉︎」
急に能力が切れる。雨が降っているのもあり、足がもつれてしまい地面を勢いよく転がってしまう。魔力切れだ。
「でも...間に合った...!」
「だ、大丈夫かカリヤ!」
倒れた場所はちょうど村の門の前。心配したヨイがこちらに駆け寄ってくる。
「大丈夫...です。ちょっと転んだだけですから」
「ちょっとどころじゃないと思うぞ。泥だらけだし...けど、まぁカリヤが言うならそうなんだろう。お帰り」
「ただいま...ってそんなこと言ってる暇ねぇ!ステラのところに行かねぇと!」
残り少ないスタミナを振り絞り、俺は診療所まで自力で走る。スタミナが尽きかけているため何度も足を取られ転びそうになるが、それを根気で耐えて走り続ける。
「ステラ!」
診療所の扉を勢いよく開けて中に入る。
「…もう少し丁寧に開けてくれないか?扉がいつ壊れるかわからん」
「ステラの容体はどうなった!」
「無視か...まぁいい。ステラならそこだよ。ぐっすり寝ている。あと、あまり騒ぐなよ。もう少し落ち着け。起きても知らんぞ」
「あ、あぁ。そうだな。無事ならいいんだ...落ち着かないとな」
なんとか意識を落ち着かせてから、トリさんの指差した方に移動する。パーテーションを退けてみると、そこにはすやすやと寝息を立てているステラの姿があった。
「全身の火傷や、骨のヒビはほぼ完璧に治してある。あくまでもほぼ、だけどな」
「ヒビなんて入ってたのか...ほぼ?」
「まだ治りかけだ。すぐに激しい動きをすれば傷が開くかもしれない」
「どれくらいの間動けなくなる?」
「明日いっぱいはやめておいた方がいいだろう」
「そうか...」
結構長いなと思ってしまったが、明日いっぱいで完治するのって元の地球じゃ考えられないよな。この世界の常識に毒されている気がする。
「そういえば治療費はどうなった。いくら取るんだ?」
「その話か...それならこれでいい」
「えっと...これ、あの依頼の報酬と同じ額じゃねぇか」
トリさんの出した請求書と、トレント討伐の依頼完了の報酬の額が一致していた。
「…まぁいい。そんなんでいいなら喜んで払うさ。命を救ってもらったわけだしな。まぁ払うのを決めるのはステラだけど」
多分ステラなら払うと思う。
「それで君はこれから何をするんだい?依頼の報告か?」
「それはステラが起きてから一緒に行くよ」
「そうか。それだったら...」
「ステラのそばに居てやってくれってか?言われなくてもわかってるよ、んなもん。やるつもりだったし」
「…いや、魔力もポーションも使い切ってしまったから、ポーションを買いにお使いをさせようとしたんだが...」
「えっ、ちょっ」
「そばに居たいなら居てやれ。ステラも喜ぶ」
「ちょまっ」
「留守は頼んだぞ」
「待って行かないで!弁明を...ダメだ叫んだらステラが起きる...!」
めっっっっちゃ恥ずかしい!ライム読みみたいな感じで予測して先読みしようと思ったら失敗した!悶える!悶え死ぬ!
「はぁぁぁやめときゃよかったぁぁぁ」
ステラのそばで悶える俺。
「もう絶対にしないぞ...!」
ゆっくり時間をかけて精神を落ち着かせていく。思いっきり脛をつねって無理矢理落ち着かせたってのが正しいが。
「ステラ寝てるよな...もし起きてて今のバッチリ聞かれてたら俺死ぬ自信あるぞ」
狸寝入りでもなく普通に寝ているのを確認する。
「よし、寝てるな...いつ起きるのかな?起きたら役所に行ってそれから...いや、起きてから考えよう。あまり連れ回すのも良くないだろうし」
ステラはぐっすりと寝ている。この様子じゃ、あと数時間くらいは寝ていそうだ。
「ステラ...まだかな...」
何もせず待つという行為が眠気を呼んできた。スタミナが切れかけるほどの激しい戦闘をしたことによる疲労もあって、少しの間船を漕いだのち、俺は熟睡してしまったのだった。
スキルって...便利だね。
ちなみに、今使える力の魔力消費量を大体で比較すると、
速度検知<<速度操作<<<<<火装系≦微風=マナ検知<<<水弾<<土流<火球
くらいです。適当だけど。