前世の俺がすでに転生特典決めてました   作:ダイヤモンドリリー

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8218字。

まだまだ続くよ戦争回。
でも多分、次回には終わりそうかな?


近似能力、魔素暴走

「まずは接近...!」

 

ダガーを持ちながら正体不明の魔物に近づく。

 

「…んん?」

 

ある程度近づいた瞬間、微妙な違和感が俺を襲った。そして、すぐにその原因を理解する。

 

「なるほど、減速能力か」

 

こいつの能力は、魔法を弾くなんてものじゃない。ある一定距離内に入ったものの速度を一瞬でゼロまで減速させる。これがやつの能力。

 

「スートに突っ込ませなくてよかったな...俺には無意味だ!」

 

こいつの減速は、ただ速度を落とすだけのもの。シレンの穴のように、絶対的な速度を減速させてくるようなものでは断じてない。それなら、速度が減った側から即座に加速することで最高速度を保つことができる。

 

「さーて、お前の能力、まさかこれだけってこたぁねぇよな?」

 

すれ違いざまに魔物の脚を切り裂く。

 

「出し惜しみしてんなら、それは間違いだぜ。さっさと全て曝け出して情報くれや!」

 

1203ページ左下 黒のみ 水刃

 

魔物に十分近づいてからダガーを振り、水の刃を何本か飛ばす。

 

「うん、魔法への耐性は特になし...でも、ここまで近づいたなら普通に切ったほうが早いわな」

 

速度操作で加速したため、魔法は普通に飛んで命中した。正直に言ってあんまやる意味を感じられなかったので、普通に攻撃することにした。

 

「ほんと、反撃してこねぇな。ってかピクリとも動かねぇし...まさか自分も減速してて動けないとか、そんな馬鹿みたいなことはないよな...?」

 

今まで戦ってきた巨大化魔物の中に、体内に溜まった魔素が悪影響を及ぼしているなんてことが起きていた個体は一体もいなかった。だから無意識のうちにその可能性を除外してしまっていたが、少しは考慮してもいいかもしれない。

 

「ま、やることは変わんないんだけど...な!」

 

動かない魔物の肩に飛び乗る。いつもの巨大魔物と比べるとちょっと小さいため、バランスを崩しそうになるがなんとか耐えながらダガーを構える。

 

「ここ乗っても動かないのか。警戒しようと思ってたけど、ここまでなら流石に緩めてもいいか...よっ」

 

首にザクッと二本ダガーを突き刺す。結構簡単に刺さった。脚を切った時にも思ってはいたが、だいぶ皮膚が柔らかい。魔素の影響がほぼほぼ減速の力に吸われていて、肉体の強化に使われていないのだろう。

 

「こりゃ、減速の対応さえできれば楽勝だな。ダガー引っこ抜いてこのまま加速すれば終わり...ん?」

 

今までは止めていなかった空気も止めてきたな。周囲の空気は俺が加速させているから呼吸には困らないけれど、なんでこんなタイミングでそんなことをやってきたんだ?ある程度のダメージを負ったら行動変わる感じか?ゲームかよ。

 

「まぁいいや。とりあえずトドメを刺そう」

 

ダガーを引っこ抜き、魔素を漏出させる。

 

「…やっぱり、魔素も減速させてくるかそうですか」

 

魔素が飛び出す速度が魔物によって減速される。まぁ加速できるから問題ないんだけど、微妙に抵抗してくるのがちょっとイラつく。

 

「どうせ減速させても変わんないんだからさ、何もせず死んでくれればいいのに」

 

ついでにコイツ、出血速度を減速させて傷口を塞ごうとしている。これも加速させてるから傷が塞がることはないけど、なんでこんな無駄に抵抗してくるんだ...

 

「…もうちょい傷増やしとくか」

 

ザクザクッとダガーを魔物の首に抜き差しし、魔素の飛び出す傷を広げていく。

 

「サイズがあんま変わんないせいで、どれくらいかかるかわからないな...ってか、首切り落とした方が早いか?」

 

この手の巨大化魔物を相手するときは、いつも縮小する速度を見て倒すのにどれくらい時間がかかるのかを予測している。けれど今回は能力特化であり、弱体化の実感が湧きづらい。おそらく、こいつの能力の弱体化は減速の度合いの減少と、効果範囲の縮小だろう。減速度合いの方はどうなろうと俺にはほぼ関係ないし、範囲はここまで肉薄していると縮小していてもわからない。

 

というわけで、このまま魔素を放出させ続けて勝ちをもぎ取るよりも、このサイズなのだからぐるっと回りながら首を切り落とす方が早いような気がしてきたわけだ。うん、多分絶対そっちの方がいい。

 

「よし、行こう...oh...」

 

しくった。空気を止めてきたのはそういうことか。急いでさっきまで立っていた位置まで正確に戻る。

 

「そうだよ忘れてた速度操作じゃゼロになった速度を加速させることはできないんだった...!」

 

フロートがカイの熱操作を操り、絶対零度の領域を作ってきた時と似たような状況だ。速度操作の弱点である、完全なゼロ速度。速度に必要な向きの情報がないために加速ができないこの状況。

 

今回は、魔物の減速により空気が完全に静止している。俺の周囲4.5メートルの空気は加速させているから止まっていないが、そこより外は全て止まってしまっている。俺はこの半径4.5メートルから出られなくなったわけだ。

 

そして、俺が急いで元の位置に正確に戻ったのは、ただでさえ狭い行動可能範囲を狭めないためだ。すぐに減速し切ることはないが、この半径4.5メートルの箱庭の端に長時間いてしまうと、反対側の能力範囲から外れた部分の空気が止まってしまう。動きをミスすれば、どんどん動ける場所が減っていく。

 

範囲が狭まれば、空気が減り、酸素が減る。呼吸も苦しくなる。魔法で酸素を作ることもできるが、それを続けると今度は気圧が上昇してしまう。気圧上昇による体の影響は大きいわけではないが、ないわけでもない。結構苦しい。

 

「くそ...ほんと、戦ってるのが俺でよかったよ...!」

 

少しでも傷を広げるため、ダガーで首を引き裂き続ける。

 

「はぁ、はぁ...微妙に息苦しい...なんか気分悪くなってきた...」

 

おそらくだが、酸素不足のせいではない。これは、魔素の濃度が異常なほどに高いからだ。魔素濃度は魔物の調子に大きく作用するが、その量があまりにも多すぎると人間に悪影響を及ぼすようになる。

 

「さっさと...死んどけよお前...!」

 

魔素が飽和する、ってことがなかっただけ幸運だった。飽和せず、際限なく空気中に流れ続けてくれるおかげで、俺の生存の目が残っている。

 

「もっと...大きく!」

 

9902、9903ページ 次元収納

『色彩剣装 原色・赤』

『色彩剣装 原色・緑』

 

次元の狭間から刀だけを引き抜き、空間を引き裂きながら魔物の首を斬り裂く。

 

「こうなりゃヤケだよちきしょう...!」

 

7349ページ 黒のみ 気体生成

 

空間の裂け目に、数少ない空気と大量の魔素が流れ込んでいく。それと同時に、魔法によって酸素と窒素を生成し、酸欠や酸素中毒を防いでいく。

 

「というか、防御無視でも止まった空気切れねぇのかよ...!」

 

魔物を切るついでに、剣を伸ばして横の空気の壁を切っていたのだが全くの無意味だった。刺さりすらしない。傷ひとつつかず弾かれるしまいだ。

 

「…ん?変だな」

 

止まった空気が切れない。これはわかる。当然と言っていい。

 

ならば、なぜ止まった魔物が切れている?魔素による能力の暴走によって自らもその対象になってしまい、自ら動きを止めているものだと思っていたが、そもそもその前提が違っていたのか?確かに、暴走してるとしたら空気を止めるのはもっと前からやっていたはず。ある程度の意思がある?意志を持って能力を使っているのか?

 

魔物は減速の効果を受けていない。そう考えることにする。ならなぜ動かないんだという問題が浮上してくるが、まるっきり無視する。こいつを倒すために、自分にとっていい情報だけを信じることにする。

 

「ってことは...まだそこは止まってないってことだよな!」

 

『色彩剣装 原色・赤』

 

空間の裂け目が時間経過によって消滅する。俺は色彩剣装の光を赤だけに変え、刀を魔物の傷に突き刺す。

 

「体内は止まってない!回り込むことはできないけど...内側から切り飛ばすことはできる!」

 

広げた傷口から首の中に入り、そのまま回転切りじみたことをする。もともと柔らかかったのもあるが、赤の光によっていとも容易く魔物の首が内側から切り裂かれ、完全に胴体から切断される。

 

「よいしょっ...と。脱出完了」

 

首の中から這い出て、外に出る。空気が止まってるおかげで、魔物の頭も固定されたみたいで潰されずに済んだ。よかったよかった...ん?

 

「あれ?減速が解けてない...?」

 

首は完全に胴体から離れてるわけで、もう生きているわけない。魔法が解けるのにタイムラグがあるからなのか、それとも...

 

「まさか...死の概念を減速させてる?」

 

自らの死を、死までの時間を、減速させゼロにすることで無理矢理命を繋ぎ止めている。信じ難い話...と、誰もが思うだろう。けれど、速度操作を扱う俺には、これが可能だと直感的に察知する。

 

この魔物の力は速度操作と非常に似ている。減速だけに限るが、俺にできることはこいつにもできるだろう。もっとも、今の俺に死までの速度を減速させるなんてことできないが。いつか、能力が成長し切った後にできるであろうことは全てできると思った方が良さそうだ。

 

「くそ、出られねぇ...このまま魔素が出尽くすのを待つしかないかな」

 

そう呟いたその瞬間。

 

急に目の前が真っ暗に染まる。目は開いているのに、まるで何も見えない。

 

「ぐっ...マジかよこいつ...!!」

 

頭を抱えてしゃがみ込む。能力の発動に集中しなければならなくなってしまった。

 

「光を...止めやがった...!」

 

魔物が光を減速させて、完全に止めてしまった。そのせいで光が届かず真っ暗になってしまった。

 

そして、光の速度を止められるほどの減速に、対抗するので手一杯になってしまう。加速は一瞬なので押し負けることはほぼないが、少しでも気を抜いてしまったら一瞬でゼロに止められてしまう。

 

なので、しゃがんで縮こまることで能力の範囲をギリギリまで狭め、首の傷が入る位置に移動する。そして加速を一部解除し、制御しなければならない場所を極力減らしていく。能力の負担を減らす。

 

「これで...耐えれば...いや、無理⁉︎」

 

これじゃ間に合わない。魔素が抜けきって減速が解除されるよりも前に、酸欠になるか減速に押し負けて動きを止められてしまう。

 

「こうなったら...魔法拡散を...!」

 

魔法拡散で無理矢理突破するしか、もう道はない。

 

「でもそのためには魔力を回復させないと...使う魔法は二つか...いけるか?」

 

魔力回復用のポーションにアクセスするための次元収納。そして魔力を回復させた後の本命の魔法拡散。この窮地から脱するには二つ魔法を使う必要がある。だが、次元収納はまだしも、魔法拡散を使うにはそれなりに集中する必要がある。それで速度操作が疎かになり減速の影響を受けてしまえば一巻の終わりだ。

 

「…やらないよりはマシ!やってやらぁ!」

 

もし失敗しても、まだ希望はある。減速の影響を受けても、本当に死ぬのかどうかはわかっていない。案外、コールドスリープみたいな感じで生命活動ごと止めてもらえて生き残れるかもしれない。その可能性を考え、この命を賭けたギャンブルをする覚悟を決める。

 

そして少しでも成功の可能性を上げるために、魔素の加速を解除し、自分と周囲の最低限の空気だけを加速させる。

 

「よっしゃまずは次元収納を...ふぇぇ?」

 

意気込んだその瞬間、なぜか全ての減速が解除されて周りの速度が全て元に戻った。空気が動き出したことにより、支えられていた魔物の体が倒れ始め、肩に乗っていた俺はバランスを崩して地面に落ちてしまう。

 

「痛た...なんで減速が...?」

 

「その様子だと、結構やばかったみたいだな」

 

「その声は...ワンナか!ってことは略奪⁉︎そっか略奪なら...!」

 

略奪を使い、魔物の減速能力を奪う。確かに、あの場では最速の解決方法だし、そもそも最初から使っていれば相手に何もさせずに勝てたのかも。俺は速度操作を持ってるため、略奪を使っても盗めなかったかもしれない。けれど、試す価値はあったな。

 

「次能力特化と会ったら、絶対最初に略奪使ってやる...!」

 

「…ホントに、助けて正解だったみたいだね...それじゃあ、私はそろそろ行くよ。頑張るんだなカリヤ!」

 

「おう、ワンナも頑張りな」

 

ワンナが、誰のかはわからないが加速魔法を使いながら走っていく。

 

「ワンナはなんかもう...安心するな。あいつもあいつで、能力特化の巨大化魔物なら倒せるポテンシャル持ってるよな」

 

十分間という制約はあるものの、複数の魔物や人から魔法やスキルを奪い、己のものとして行使することのできるワンナ。相手が一発屋であるほど強く出れるわけだし、状況によっては俺やクミリアよりも強くなれるだろう。

 

「途中から見えなくなっていたが...何が起こったんだ?」

 

スートがそう言いながらこちらに向かって降りてくる。

 

「奴の減速能力が光も止めるほどになって苦戦してな...というか、いつのまに雨降り出したんだ?」

 

今更になって気づいたのだが、この世界では珍しい雨が降っていた。

 

「一、二分前からだ。少し面倒だが、戦闘には支障ない」

 

「俺は結構支障あるんだよな...」

 

速度探知に雨が引っかかってしまうせいで、少し気が散ってしまうのだ。ミュラーの罠の線ほどではないが、数が多く、入れ替わり立ち替わりでやってくる雨はなかなかに苦手だったりする。

 

「ってかやばい。魔素に当てられた。かなりき゛も゛ち゛わ゛る゛い゛...ううっぷ」

 

ワンナにああ言った直後だが、思ったよりも酷い。普通にキツい。このまんまだと戦闘キツい...

 

「…大丈夫じゃなさそうだな。あとは俺たちでもなんとかなるはずだ。意外とこの町の人たちも強いみたいだしな」

 

スートが仲間を強いと言うだなんて...ちょっと目を離したうちに成長しすぎじゃない?

 

「そりゃ冒険者の町だしな...悪い、俺は一旦ガネルに戻る。戻ってくるまで耐えてくれ...」

 

「全部殲滅してやる。戻ってくる前に終わらせてやるさ」

 

その声を聞いてから、俺はガネルに向かって走り出す。

 

「ううやっぱ気持ち悪いぃ!風が気持ちいいけど気分が死んでるっ!」

 

こんなにも辛いものなのかと、なんとも形容し難い気持ち悪さをなんとか抑えながら走る。聖素だけで包まれているガネルにさえ戻れれば、すぐに回復できるだろう。

 

「……ってかいやだほんとミュラーの線邪魔クセェ!」

 

ジャンプしてミュラーの線の領域から逃れる。この気分で、そしてこの雨が降ってる状況で線の情報全てを頭にぶち込まれたら、色々とおかしくなってしまいそうだった。

 

「ほんと速度探知切れるようにしてほしい...よし離脱!」

 

ガネルの門を高速で駆け抜け、聖域へと入場する。

 

「生き返るぅ〜!聖域ってマジで人間に百利しかもたらさないよな」

 

ほぼ一瞬で、あんなに悪かった気分が回復する。

 

「ついでに魔力回復させてくか...やべぇ疲れた」

 

一時的に戦場を離れたからか、気が抜けて疲れがどっと押し寄せてくる。思考の加速のしすぎもあって、頭の疲労もかなりひどい。正直言ってもう寝てしまいたい。

 

「あの...大丈夫...ですか?」

 

門の近くの壁に寄りかかっていると、女の人が近づいてくる。戦闘員という感じではなさそうだけど...まさか魔族じゃないよな?抵抗できるほどの余力ないぞ...あっ、魔力回復してる。ちゃんと人だこの人。

 

「しばらく休めばな...あなたはこんなところで何を?見たところ戦闘員とは思えないんだが」

 

「私は回復要員なんです...そ、そこで転がってる人たちが私の同僚で...」

 

「…なんで全員ぶっ倒れてんだ?」

 

「緊急時なので早急に回復させる必要があって...少々手荒な方法になってしまうんです...じ、時間がないので失礼しますね」

 

「えっ、手荒ってなに?何する気...っ⁉︎」

 

女の人が俺の手をギュッと握り込んだかと思えば、そのまま力なく倒れ込む。

 

「こうして...疲労を肩代わりするんです...」

 

「手荒ってそれ意味違くね⁉︎ってか大丈夫なのかあんた!」

 

「猛烈に眠いですけど...これが私たちの仕事ですから...スヤァ...」

 

「ね、寝た...マジかよこんな無理矢理な回復ってありかよ...」

 

緊急時ならこんなこと平気でやらせる世界なのかこの世界は...

 

「……この人のためにも、頑張らないとな」

 

疲労を全て肩代わりしてくれたおかげで、スタミナが完全回復している。いくら動いてもなんら問題ないと思えるくらいだ。この人に、肩代わりしてよかったと思わせられるくらいの活躍をしないと申し訳ない。

 

「というか、名前くらい聞いておきたかったな...」

 

門の前まで戻ってくる。

 

「気分良し、スタミナ良し、魔力はそこそこ...もっかい行ってくるか!」

 

体を動かして動きを確かめる。これならいける。

 

「調子乗ってきたァ!『雷装』ゥ!」

 

ズバァン!と身体中に電流が流れ始める。

 

「よっしゃ行くぜェ!」

 

戦場を勢いよく駆け抜けていく。疲労が抜けたことで、思考がクリアになっている。ミュラーの罠の線が気にも止まらない。そのまま素通りできている。

 

「目指すは最前線!クミリア、ワンナ、スートいずれかとの合流!待ってろよ魔物!全員吹っ飛ばしてやらァ!」

 

ミュラーの線の領域を超えると、魔物が行く手を塞ぎ始めた。

 

「こんなんで邪魔してるつもりかァ?電気に耐性つけてから来やがれ!」

 

目の前に立ち塞がる魔物に思い切り拳を叩きつけ、丸ごと前に吹き飛ばして再度殴り飛ばす。何度も続ければいずれ魔物は弾け飛び、消えていく。

 

「ホント調子いいなァ...今ならこんなことだってできるんじゃね⁉︎」

 

少し先にも魔物がいるのが見えた。なので、俺は頭の中で思い描いた動きをそのまま現実に投影する。

 

雷装で作り出した電気エネルギーを、ほぼ丸ごと、動きに影響しない程度に右の拳に集める。そして、その拳を前に向かって振り抜く。

 

瞬間、拳から超高圧の電流が溢れ出す。それには、前へと進みながら降った拳の勢いがそのまま乗っており、加速もあって超高速で前方へと飛んでいく。そして今もなお空から降り注いでいる雨を乗り継いでいき、電流が魔物に被弾する。

 

「っしゃあ成功!!」

 

雷装では空気中に電流を流すことができない。電圧が足りないからだ。けれど、水になら流せる。いつもなら雷装を雨に流して横方向にいる魔物に当てるだなんてこと、到底できるはずもないが、疲労の肩代わりによってスタミナが全回復し、頭も冴えきっている今ならば、極度の集中状態、いわゆるゾーンへと入ることでそれが可能となった。

 

実際には、雷装の電流に魔力を流し込むことで、水から水へと飛び移りやすくして成功率を上げていたりと、集中だけが成功した理由ではないのだが、魔力も空中を流れづらいもの。上がった成功率も、数パーミル程度のものだろう。多分、次できるのはいつになるかわからないレベルだ。

 

「そしてドーンっ!」

 

99ページ右上 黒のみ 火球

 

雷装で遠距離攻撃した魔物たちを素通りしてから後ろに向かって火球を放つ。すると、先の攻撃によって電気分解された水素と酸素に着火し、小規模な爆発が起こって魔物が吹き飛んでいく。

 

「はははっ!いけるいける!ハイになってらァ!肩代わりだけじゃなくてそういう効果もあったっつーことなのかなァ!」

 

それとも、急激に疲労から解放されたことによって脳がバグっているのか...どちらにせよ、副作用がありそうなのには間違いないが、戦えるのならなんだっていい。ネガティブなこと考えなくて済むのはありがたい。

 

「お前らも...吹っ飛びやがれ!」

 

少し先にあった水溜まりに向かってジャンプ。これまた拳に電気を集めてから水溜まりに拳を叩き込んで電流を周囲に撒き散らす。

 

「っしゃオラァ!そろそろ最前線!」

 

結構考えなしに中央を突っ切ってきたが、おそらくこの辺りにいるはず...いると思いたい。

 

「あー...暴れ回ってりゃあっちから見つけてくれるか。よっしゃもっと暴れんぜェ!」

 

電流を纏った拳を振り上げ、真上へと電流を雨を伝って流し込む。雷が下から上に向かって登ったかのように光って見えただろう。これで目印になったはず...

 

「……あー...敵も呼んじまったか?」

 

急に周囲の魔素の量が増えたかと思えば、超巨大な魔物がすぐそばに転移してきた。カイスでの戦争で最後に出てきた魔物と同じくらいの大きさだ。

 

「こいつが切り札ってわけか...いいぜ、ぶっ潰してやらァ!」

 

全身に電流を纏い、俺は思い切り叫んだ。




あの減速の魔物ができたことって、本編でも書いたとおり、カリヤ君の速度操作が強化されたらできることなんですよね。
光を止めたり、死を止めたりとかなんでもできるようになるとかいう完全にチート。
しかもそれが、能力適用範囲の拡大が進めば世界中全てにそれができるようになるわけでして...これ、次世代の魔王になっちゃったりしない?
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