防衛室長の教育は予想より良く進んだと言える。
ジェナが私に教えたように、頭のなんたるかを身に付けさせ、翼の手法を、都市の住民が持つべき
私の目になる者だ、隠し事はなしだろう?
幸い、調律者というのは脳がむき出しになっていても平然と生きれるものだ。
連邦生徒会防衛室長不知火カヤは、百聞は一見にしかずという言葉を改めて学んだ気がした。
調律者がもともとキヴォトスの住民だったことには驚いたが、それよりも都市という存在と連邦生徒会の非力さを思い知った。屍が積み上げらた場所の横を市民が平然と通っていく様、翼がその利益を守るために行った行為の数々、キヴォトスには居ない化物が殺戮を嬉々として繰り広げる光景、そして一人の異世界からの来訪者が最悪の方法で苦しみ壊れていく悲劇を。
すべて、脳に直接埋め込まれ、見ることを拒否できず鮮明に焼き付いてしまった。だが、アリウスに居たときの記憶より、圧倒的に都市に居た際の記憶が安易に思い出せるのだ。
「ふふ…これが都市の法、都市という世界。そして、都市の超人、調律者と言うものですか」
笑みが絶えず漏れ出そうなのを必死にせき止める。だってこれほどの地獄に居ても目の前に居る調律者、いやサオリはまだ諦めていない。これを超人と言わずしてなんと言えよう。彼女の10年間を見たからこそ、自身が超人に至る方法と結果を知った。
超人とは、正気ではそもそも到達できない領域であること、苦なく実現できないこと、そして壊れている者を指すこと。
だからこそ、己を超人とするカヤはサオリを哀れむことは一切しない。
細められた目から見える瞳に浮かぶのは畏敬のみ、抑えきれずに上へと上がった表情筋が、その興奮を隠しきれていない。
「では、あなたの思い描く単一の翼による巣のために、どこの方法を使いましょうか。R社のようにヴァルキューレを再構成するのも捨てきれませんね…いや、煙戦争時のG社のように生体兵も…」
ぶつぶつと口ずさみながら、得た知識を元に様々なプランを考えていく。
カヤが落ち着くのを待って、口を開く。
「いや、もっと簡単な方法がある」
カヤこうも悩んでいるのは、現防衛室では自由に動けないからだ。
ヴァルキューレでは学園間の問題に介入できず、各学園の自治権が邪魔をする。それでは、防衛室が計画の中枢を担えない。だからこそ、焦っているのだろう。
「それは…?」
「フィクサー協会を作り、それを防衛室が動かすことでヴァルキューレを越える実動力を得る」
「しかし、防衛室が他の民間団体に金銭を提供して、動かしたとなれば…カイザーならまだしも、新興の組織となれば発覚しやすいじゃないですか」
「だから、防衛室はあくまでも学籍の無い生徒達に仕事を与える協会の活動に感銘を受けて、寄付をするだけで良い」
「協会が学籍の無い生徒が金銭や居場所を得ることでヘルメット団になったりすることを防いで、治安に貢献しているとな」
「なるほど、それならば防衛室の慈善事業のひとつに出来ますね。それに、フィクサーとなる生徒達はFOXに訓練させれば良い」
「SRTの基準に合わせて、級分けを行って競争を刺激、フィクサーの戦力としての質を向上させる。良いアイデアです、サオリ」
スポンジのように知識を吸収していったカヤは説明しなくても、意図に気づいてくれるためかなりやりやすい。
「サオリか…『目』である君、カヤにならそう呼ばれても構わないと言ったが…すっかりそう呼ぶようになったな」
「だって、仕方ないでしょう。失敗するにしても、成功するにしても一心同体なんですから!名前くらい呼びますよ…私の
教え過ぎたのかも知れないと少し後悔しそうになる。
「それで…協会はハナ協会ですか、それとも別の名を?」
「ああ、決めている」
「素晴らしい!よりにもよって
「ああ、ニヒル協会は私が裏で指示を出して動かすことで連邦生徒会に気づかれることなく、巣の設立の準備を進める。防衛室が翼となり、私という特異点を以て、アリウスの悲劇を繰り返さない場所を作る」
「ふふ…では、早速書類を作りますね」
カヤが新しく出した書類に、ニヒル協会への寄付プログラムと書き、承認の判子を押した。
この日、始点であり終点でもある0の名を冠したニヒル協会がDUに事務所を設立し、正式に承認された。
調律者の支援があるという噂を聞いた信者や単に居場所を求めていた生徒達は次々とフィクサーになり、登録を行う。
防衛室は慈善事業の成功でその権威を上げ、着々と計画を進行させていく。決着はエデン条約だ、しかしそれまでは準備が要る。
その準備をカヤが怠ることはない、だってカヤは己を超人としているのだから。
三回の書き直しの末になんとか投稿できました。
まだ、感想を返しきれていないのに投稿しましたが、すべてちゃんと返信するので気長にお待ちください!
それでは、また次話で会いましょう!!
--追記-
フィクサー側の生徒視点需要あります?