調律者サオリ   作:イワシコ農相

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今日書いた子がかわいいので初投稿です。
あと感想ください(乞食)


第九話『旅の案内人、悪辣に微笑みて』

連邦生徒会から手配された装甲車から降りて歩くこと数分、トリニティ自治区とブラックマーケットのサビヌス区の間の検問所の前にたどり着き、目線を検問所の入口に移す。

そこでは無数の長蛇の列を十字架の横棒を一つ足したような大剣を持ち『2』と刻印された青いジャケットを着ているフィクサーたちが案内している様をまじまじと見せつけられる。

 

空から差し込む光は列を構成する生徒たちの汚れた服装、傷ついた肌などを照らす。彼女たちはいわば、不良児。理由あって反抗した者から、社会から弾かれ非行しか手段がなかった者、純粋な悪童…みんな等しくニヒル協会が設立を宣言した『協会区』への移住を希望していた。そんな彼女らを見ながら…先生は上がっていた気分が少し落ち込んでしまう。

 

今日は表向きには防衛室から引き継いだ調律者の捜査であるが、本当は単純にフィクサーと向きあうために足を運んでいる。調律者に対して失敗を犯してしまったからこそ、手から滑り落ちてしまう生徒をなるべく減らしたいのだ。学校に通うのではなく、便利屋(フィクサー)という職業に専念するのが…正しい子供の姿であってはならない。

 

"それで、あの子はどこかな?シャーレの依頼を引き受けてくれるところはあそこしか無かったし…やっぱり、嫌われてるのかな"

 

 

「は!?なんでだよ、おかしいじゃねぇか!」

 

そんなことを思っているとフィクサー用の入口で、三人のスケバンと一人の少女が向き合っている。スケバンたちは声を上げながら、その少女に怒りをあらわにしている。

 

「…ですから、依頼はすでに完了しました。あなたが立っているのはサビヌス区で、私は依頼に書かれている通りに君たちをサビヌス区に案内しました」

 

「何円払ったと思ってるんだ!依頼にはサビヌス区の案内って書かれてただろうが!こんな屁理屈がまかり通ると思うなよ…なぁ、こんな契約不履行なんて!」

 

「え?何?貴女達との取引に私の不履行があるって?あは、何を言ってるんですか。ほら、こちらの約欣を確認してください。」

 

これですよ、これと言いながらスケバンの持っている契約書を指差す。気が遠くなるほどの文字数の中にある一つの項目に沿って説明する。

 

「ここにはこの契約を締結した時、これらは必ず履行されなければならない。ただし、条項3条とこの条項の解釈は乙、つまりエラですねが行うこととします。という言葉がありますよね?」

 

「この解釈で私は既に履行したと解釈しました。この解釈すれば履行したと行ってもよいと『私は解釈する』のでこの契約はしっかり履行されていますよ」

 

幼子に言い聞かせるように、優しい声で告げる。これが当たり前で、変えられない現実であると。

 

 

「私は確かに、あなた達を『サビヌス区』に『案内』し、『依頼完了』と判断したと解釈しただけですよ」

 

「こんな屁理屈…私達が納得するわけがないだろう!」

 

 

「あぁ、屁理屈?貴女達、今更何言ってるんですか。この協会での暗黙のルールはよく知ってますよね?」

 

「これからはこういうときは契約事務所を通さないと。この底辺様?」

 

ニヤリと嗤う。その少女は眼の前のスケバンを嘲笑ったのだ。顔がはちきれんばかりに横に広げたゲスいその笑みは見た者に戦慄を感じさせるだろう。

 

「次からはちゃあんとしてくださいね?」

 

ウィンクを一つして、掴みかかってくるスケバンをひょいっと避けて

 

「この女郎!」

 

「助けて!検問を越えようとしている人が居る!」

 

外の世界を知らない少女のような声を張り上げた。

 

その掛け声とともにぞろぞろと長蛇の列に居たフィクサー達がスケバンを問答無用で蹴飛ばし、そのまま検問所の中へと拘束して引きずっていった。ジタバタと暴れても、無駄ですぐさまに地面に叩きつけられて気絶させられてしまう。

 

「ふふ、ほら入れたじゃないですか」

 

その一部始終を見て…呆けないほうがおかしいだろう。かのカイザー理事の手腕に類似した舌戦を目の前で繰り広げられ、あまつさえ完勝してしまっているのだから。

 

「あら?もしかして、先生ですか?」

 

"あっ…うん"

 

「あは…見ちゃいましたか。でも、先生あの光景は普通のことなので気にしないでくださいね?決して私がおかしいわけじゃないんですよ」

 

あちゃーと言いながらその銀色の長髪を手でかく、灰色の執事服と髪が競合することなくむしろ引き立て合い、自分より数センチは高いであろう身長も相まってとても様だが…さっき勝ち誇ったときに見せたあのゲスい笑顔が頭から離れない。

 

「ま、切り替えましょう。では、契約書を提示します問題なければサインを…」

 

(即契約書にサインする)

 

「まぁ、契約事務所を通してから…って、ええ!?」

 

人間でない何かを見る目で、一度見、二度見、そして三度見。エラの顔には驚愕と呆れ、その両方がしっかりと感じ取れるような達観した笑いが出ていた。

 

「もしかして、はぁ…」

 

「まったく分かってないですね?さっき見てたんですから、契約事務所通せってわかるはずですが…馬鹿じゃないんですか?」

 

"大丈夫、エラがひどいことしないってわかってるから"

 

目が完全に馬鹿を見る目に変わってしまっている。

 

「あのですね…」

 

「私はアナタの生徒じゃないんですよ。連邦生徒会なのに法律まで知らないんですか?」

 

"みんなかわいい生徒だよ、肩書がなにであれ"

 

「…私はアナタの大切な従者であり、フィクサーです。この関係はその紙切れが有効な場合に限り成り立ってるんです」

 

「ゆめゆめ寝首をかかれぬよう。私達バトラーは契約者の盾であり、フィクサーなんです。わかりましたか?」

 

お嬢様(マドモアゼル)

 

検問所のフィクサーにエラは登録証のようなものを見せて、そのまま協会区の中へと連れて行ってくれた。まわりにあるビルなどはD.U.のそれと大差なく、天を引っ掻くほど高く伸びている。まちなかに掲げられているシンボルはカイザーのタコを塗りつぶす『0(ニヒル)』が堂々と存在感を示し、この街の支配者がカイザーではなくニヒル協会へと変わったのだと実感させてくれた。

 

「ああ、あれが気になるんですか?ニヒル協会の紋章ですよ。制定理由は…確か、『協会に仇なす者に等しい虚無を』だった気がします。なかなかに怖いですよねぇ、まぁ私はお世話になってるんですけど」

 

"なるほど…協会って何個もあるの?さっきは服装が違うフィクサーが居たから?"

 

「一個しかありませんよ。それにしても本当に何も知らないんですね。」

 

 

「仕方ありません、バトラーとして教えましょう。あれはニヒル協会のツヴァイ課の本部フィクサーです。仕事は今アナタにしているような要人警護や検問管理などの治安維持を担っています」

 

"なるほど…課によってやることが違うんだね?なら、エラはツヴァイ課の本部フィクサーになるのかな"

 

「はぁ…先が思いやられますね。エラはニヒル協会ツヴァイ課蛟事務所の代表の二級フィクサーです。この事務所はノルマを課されるかわりに依頼をかなり自由に選べるようになったりとフィクサーにとっては目指すべきものです。本部でぬくぬくすることもできますが…そんなの怠惰の極みです」

 

確かに、街中を歩いているフィクサー達は単純な黒服(ニヒル本部)から金色の修道服(ディエーチ課)おとぎ話の決闘服(センク課)真っ白なスーツ(ハナ課)と服装が一切統一されていない。鮮やかな色彩は街を彩るが、それがフィクサーという暴力を伴う仕事であることこそがこの協会区を象徴しているのかもしれない。

 

「それとお嬢様、さっきは聞き逃すことにしましたが、他のフィクサーに生徒どうのこうのは言わないほうがいいです。私達フィクサーは無個性で、埋没した…はは、それこそ這い上がれないようなド底辺からニヒル協会によって救われたもの達の集まりです。生徒として居たときに地獄を味わった者ばかりで、今ようやく生徒で居ることを捨てて人生を謳歌してるんですよ」

 

貴方達(連邦生徒会)が拾ってくれなかったんですから…仕方ないことですけど。あーでもあの見てくれが良い方(不知火カヤ防衛室長)は良いことしてくれたんで感謝はしてますよ」

 

不甲斐ない。先生の頭を過る感情は自身に対する悔しさにほかならない。なぜ、自分はもっと早く彼女たちに会わなかったのか自責と自問が堂々巡りをしているところをエラの一声で遮られる。

 

「まぁ、そこまで自分を責めないでくださいよ。それはそれ、これはこれです。もう全部遅い、悔いたってしかたないですよ。気楽にいきましょう、気楽に」

 

"…"

 

「せっかく綺麗なんですからそんな顔はやめてください。私が誘拐しているように見えるじゃないですか。ほら、笑顔笑顔」

 

"…"

 

「じゃぁ、豆知識を教えます。はい、この空気終わり!」

 

パチンと柏手を打って、エラは自分の目を指す。

 

「この目と同じ赤色をしているフィクサーには気をつけてください」

 

「100%強化施術を受けてますからね」

 

「当然…私もね」

 

吸い込まれるようなルビー色の瞳がどこか危ない光で輝いたように見えた。

 

 




【ニヒル協会における事務所】
ニヒル協会は事務所の設立に際して6級以上の構成員を最低一人有し、ハナ課に所属するフィクサー管理事務所の認可と本部の追認という条件を出し、その条件を達成しないと事務所の設立は認められません。事務所はその業務から12個ある課に振り分けられ、その課の代表の認可を受け正式に活動が可能となります。課に所属する事務所は課が均一に設けるノルマを達成している限り、自由な活動が認められ、本部フィクサーのような平均業務ではなくフィクサーとして一攫千金を狙うなどフィクサードリームを突き進むことが出来ます。
しかし、ノルマが二ヶ月間未達成の場合は課はその事務所に対して物品の押収、仕事の割り振り、罰金などを課すことが出来、さらに二ヶ月間ノルマが未達成の場合はその事務所に対して解体処置を取ることができます。解体処置が取れた場合はそこに居たフィクサーは本部に戻るか、他の事務所に移籍するかを選択出来ます。
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