調律者サオリ   作:イワシコ農相

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当小説初の4000文字越えなので初投稿です。



第十話『旅の末に、よく知りなさいと君は言う』

"強化施術…"

 

名前からして物騒で、どこかと嫌悪感の催す非倫理的な響きに顔を顰める。一般的に施術と聞けば、医療行為だが…キヴォトスの人達は神秘のおかげで施術が必要になるほど怪我を負うことはない。まして、『強化』と表記しているのだから、人体改造の部類になってくるのではないかと心配になってくる。

 

「ええ、強化施術ですよ。体を少しいじって簡単にパワーアップ!誰もが夢見る魔法の技術で、カネさえ積めば手が届くものです」

 

簡単にパワーアップするかわりに何を犠牲に?

 

施術は手術で肉体をいじる形式と最も値が高い神秘をいじるの2つに分かれ、当然後者の方が強くなると説明してくるが…この子は何を嬉々として語っているのだ?

 

「強化施術しないで戦うバカな人も居ますけど、あんまり出世は出来ませんねぇ」

 

 

"いじらないで強くなれたりしないの?だって、体をいじるのは…"

 

青春を謳歌すべき子供達が自分の身体を施術して消えない痕を重んじて受け入れ、そのまま武器を持つのを先生としてどうすれば…アビドスを助けられたから思い上がっていたのか?

ただでさえ白い先生の肌から色が抜けていくように、気が引いていく。積み重ねてきた砂の城が自重に耐えきれずにひび割れる。先生として、自分は…

 

「あは、そうですねぇ〜出来ないこともないですけど非効率的なんですよ。それにそういう子はフィクサー協会じゃなくて学校に行きますし、本当にフィクサーのための施術なんですよ。実際、フィクサー登録していないと受けられませんし」

 

顔色が悪いのを見越してか、エラが話を切り出す。そこにはやれやれといった呆れではなく、さも当然の反応であると受け入れ、それに応じる寄り添い的な感情を感じ取れた。

 

「まぁ、『外郭』の倫理じゃあまり受け付けられないのはわかるんですけど、ここを歩くなら慣れないと駄目ですよ」

 

 

"『外郭』?"

 

知らない言葉がまた出てくる。彼女と話すたびに無知を突きつけられ、怠ってきた情報収集の数々が脳裏に過る。

 

 

「ええ、協会区じゃないところを指す言葉です。主にここ協会区でフィクサー業を営む人達の用語なので、D.Uなどに居るフィクサーには通じないんじゃないですかね」

 

"倫理的におかしい自覚はあるんだ…‥……"

 

知らないならまだしも、『知って』それを行っているなら…どう教えても聞き入れてくれるわけがない。タバコや酒ならまだしも施術を…どう止めれば良いんだ。

 

「そりゃ、ネイルじゃなくて強化施術にお金を費やす人の方が多いですから当然というか…それでもやることに意味がありますからね。いつマーケットガードが攻めてくるか分かったものじゃないですし、あの木偶の坊たち(カイザーコーポレーション)が協会に弓をひこうとしているなら『虚無』にしてやらないといけませんから。もう一回言いますけど、慣れてください。そういうものだと受け入れるんです、簡単でしょう?」

 

"そういうもの…か…出来れば、やってほしくないけど…必要だからやるんだよね?だったら、そう言う資格はないね…"

 

「分かってきたじゃないですか、お嬢様」

 

エラは満足したように頷き、そのまま大通りの一角を指出す。

 

「うんうん、分かったなら紹介しておきますよ」

 

それはビルの一角にある巨大パネルで、都会でよく見るような3D型のもの。本来は動くアニメーション、飲食店のロゴや時報が映るがここでは広告を垂れ流しにしているようだ。

 

「フィクサーの皆さん、注目!遂に協会本部の許可を得て、この商品を紹介できることを嬉しく思う!新たな強化施術である神秘施術を安く、安全に、確実に!提供できる。既存の神秘施術が高すぎて遠慮しているフィクサーにこそ受けてもらいたい!お待ちしておりますよ!」

 

白衣を着て満面の笑みで、マシンガントークを行っているその少女はさっき話に出てきていた強化施術を宣伝し、他のフィクサーに勧めている。やっぱり、ここじゃ当たり前なんだなと考えつつ…先ほどからすれ違った赤目の子供の数を思い出そうとするも多すぎてわからずにぎょっとする。

 

「あれは…トレス課の『人体工房』ですね…相変わらずと言いますか…強化施術に狂っていますね。工房の中では異質で、強化施術しかやらないのにノルマを達成し続けているヤバい所です」

 

「うちの事務所のフィクサーのデリーも人体工房の施術を受けに行ったけど予約で満員だったから、適当なところで済ませちゃったと聞きましたし…本当、頭さえイカれてなければ良い施術屋なんですけどね。まぁ、金をケチると痛い目は見ますが」

 

"痛い目?"

 

「ええ、協会がもたらす技術はいわば、おもちゃ箱から無造作に落ちてくるおもちゃのように私達フィクサーにもたらされています。ですけど、私達はその中から選ぶだけじゃなくて、改良したり、発展させたりしました」

 

「しかし、そのおもちゃを扱えるほどの素養が無かったり、選べるお金がなかったりするとさっきの広告に飛びつく事になっちゃいます。だって、あれはどう考えても実験台募集じゃないですか」

 

やはり、危ないじゃないか!止めなければ!

 

思わず飛び出そうになるのを、エラはしっかりと後ろから羽交い締めにすることで止めてくる。身長も彼女の方が大きく、力も到底敵わない。だが、いくら言う資格がないといって実験を見過ごすようであれば、自分が先生として名乗ることがなくなる。初めてやる先生という役割だが、それでも先生というものは見失ってはいけない気がするんだ。

 

"なら止めないと!だって、実験台になって…いくら、必要でも騙されるのは"

 

「お嬢様、みんなうっすら気づいていますから落ち着いてください。それでもリターンがあるかもしれないからやるんです。高い賭けであっても、金を多く払わずに強さを得られる手段ですし」

 

わかりましたか?と言われて観念する。たとえここで飛び出せたとしても、知らない街で、知らないルールがある場所では何もなせない。それを自覚するが、胸の中に潜む恐れはどうしても消えない。何故、ここまで強化施術やフィクサーを聞くと嫌悪感を、調律者と聞くと畏怖を感じるのだろうか?形容できない不安は広がるばかりで、まるで自分がこの言葉を『知りたくない』と拒絶しているようにすら思えてくる。

 

「それに、あんまりひどいことはされませんよ。協会のタブーがありますから。」

 

そう言いながら羽交い締めされた状況から開放され、背に籠もっていた熱が冷たい外気にさらされて少しヒヤリとする。

 

「人を殺してはならない

人に似た機械を作ってはならない

人を人でない何かに変えてならない

人に似た人でない生命を人と認めてはならない」

 

「などから構成される人倫規定から、協会本部内の写真や動画撮影を禁じるタブー、企業の設立を禁じるタブー、午前3時13分から午前4時34分の間区全体で外出してはいけないタブーと本当にいろいろあって、さっき言った人倫規定のおかげで実験台にされても無事なことが多いんです」

 

"タブーを破っちゃったら、破った子はどうなるの?"

 

「問答無用で『不純物』認定からの放逐、別名は不純物への暫定処置に関するニヒル協会本部決定です。まぁ…フィクサー登録取り消しのうえで、協会区からの追放と永久的な立ち入り禁止処置と思ってください。まぁ、それ以外はゆるゆるなので破るほうがおかしいと思いますけど」

 

フィクサーにとっては死刑宣告に等しい。得た家と友達などをすべて失うことなのだから。

 

"なるほど…そういう子ならシャーレで保護しないと。だって、大人として見過ごせないもの"

 

「名案ですねぇ。タブーを破る恩知らずをそっちで面倒見てくれるなら協会も喜びますよ」

 

「まぁ、これらのタブーがあっても調律者はガン無視なんだろうね」

 

調律者の名前が出てきて動悸が激しくなってくる。今、一番会いたい生徒で、会わないといけない子。もしあの角からばったりと出会ったら、まずは何を言うべきか?ごめんさい、久しぶり、今日は天気がいいですね…無数にある会話デッキもまったく使えない。いや、まずは彼女の名前を聞いて、はじめましてをするべきだろう。

 

"調律者って協会区に出てくるんだ…会えたりしないかな…"

 

 

だが、会いたい。まず、会わなければならない。そこから彼女を生徒としてちゃんと見て話し合うんだ。拒絶されても、殴られても、彼女の先生であらなければならない。それが、何も考えずに突き放した自分にできる唯一のことだ。

 

「なんですか、その目…お嬢様、もしかしてそっち?(恋愛対象が?)

 

覚悟を決めているところで、耳でそう囁いてくるエラに対して思春期真っ盛りの少女のような声を上げてしまう。緑色の自分の目も軽い涙で濡れているのだろうか。その不意打ちは正直言ってずるい。

 

"ち、ち、違いますよ!ただ、彼女が心配で…"

 

「心配ねぇ…キヴォトスの敵にかける言葉じゃないですね…」

 

そう、その通り。

 

"……"

 

だからこそ、認めるのだ。

 

 

"私が間違ってた"

 

 

「お嬢様?」

 

"私がもっと正しく在れて、彼女を理解出来ていたら、あの子をしっかりと見てやれれば…彼女が人を殺すのを止められたかもしれない。だからこそ、正しく在れない一人の大人として彼女に会わないといけない"

 

吹く横風によって揺れる先生の赤い髪はどこかと幻想的で、ようやく彼女がしっかりとその場に立っていることを示す。先生は救世主ではなく、一人の人間であると。そして、君を子供として見ていると。故に、手を差し伸べるのではなく、まずは対等に話し合い向き合うと。

 

 

「お嬢様が何を抱えてるかは詮索しませんが、そこまで悔いることができるなら向き合えばと思いますよ。目を反らしちゃった人から墜ちていきますからね」

 

 

「加えて、お嬢様の恋の成就を居ない神に祈っておきますよ」

 

"だから、そういうのじゃないって!"

 

「あは!」

 

何度もからかうエラと必死に否定する先生。一見すれば、微笑ましい青春の1ページ。

ただ一つ、乗っている船が異なることを除いて。

 

 




トレス課の『人体工房』

人の体を最も強い武器として見立て、施術を行う工房。
金銭をケチらずに支払えば問題じゃないが、あまり金を出すのを渋ると知らないうちに体にBluetooth機能が付いているなんてことがあるかもしれない。
代表はイカれ女で有名な三級フィクサーのウィトルウィウス(長いのでウィルとよく呼ばれる)

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