月に照らされるビルの屋上で、埃と汚れがワルツを踊る中、足を縁からぶら下げながら、ベトンで塗装された冷涼な床に座り込んでいた。
「…私が人を殺したのがいけなかったのか?」
「いや、間違ってない。そうじゃなければ、あそこでは生きていけない」
先生からの拒絶を受け、逃げるように場を退散したが、どうしても自問自答を繰り返してしまう。
「私はどこを間違ったのだ?」と。
先生のあの言い方からするとまるで殺しを悪いことのように言っていた。だが、はたして生き残るために殺すのは駄目なのか?
「間違ってない。間違ってないんだ」
「そもそも、規則を破るのが悪いんだ。それさえしなければ私が手を下すまでもないのに」
他の人に殺されるかもしれないが…それは私の知ったことではない。死んだ方が悪い。
「そもそも私に
あの時のことを思い返せば、その事は明瞭でしかない。
ブラックマーケットでバイトをしていると思ったら、あの底の見えない川で溺れていたのだ。必死に這い出てみたら、黒い森が眼前に一つの自治区ほどの規模で延々と広がっている。
一瞬で既知から未知へと放り込まれ、知っていたものがすべて無意味だとわかったときにどう思えば良いのだ。そこで、自ずと選択肢を見つけられるものなのか?
また、vanitas vanitatum, et omnia vanitas…虚しい、ああ虚しい。なんで全てはこれほど虚しいのだと言えば良いのか?
「先生は居なかったではないか。その選択肢を与えてくれなかったじゃないか」
拳を強く握りしめ、一瞬溢れた激情を無機質にコントロールする。
戦いの際に現れる酔狂を抑えこむのとまったく同じように。
「そこでジェナが来たんだったな」
黒い森で彷徨い、襲い来る怪物を屠殺していると彼女が来たのだ。
曰く、頭は私を調律者として迎え入れたいと。
曰く、調律者になれば私の規則違反を見逃すと。
曰く、断れば死ぬと。
要約すればそうなる長話をただたんたんとしてくる。
常に顔にドヤ顔を張り付け、こちらをあの笑みで見てくる彼女は最後に「これは
この時点で私は都市を受け入れたのだと思う。
いや、あの世界に行ってからか。人形の怪物を殺しても一切の忌避感が無かったのだから。
「なんだ、やはり私は間違ってないではないか」
思わず笑みがこぼれる。
「あそこでは必然だった。太陽に昼の光を消せと頼んでも、必然である以上はそれは輝き続ける。白夜と黒昼の時はそうじゃないが、あれは極端な例に過ぎない。」
「先生は私に黒昼の真似事をしろとでも言いたいのか。はっきり言って無理だ。」
「待てよ。そもそもあの先生は私のことを知らなかった。つまり、まだエデン条約より時が前と見るべきだろう…が、はたしてあれは私の知る先生なのか?」
「先生なら私の話を聞かずに突き放したりしないはずだ。先生なら救ってくれるはずだ。先生なら…先生なら…この私を受け入れてくれるはずだ」
「なのに」
「拒絶をした」
夜空に溶けそうな彼女の黒いヘイローはこのときに最も輝いていた。
「あれは先生じゃない…少なくとも、私の知る世界の先生では無い。おそらく、特異点の運用を間違えて平行世界に行ってしまったのだろう」
「紫の涙の真似事をしてしまったわけだな」
それに先生は…いや、あれは言っていたじゃないか。
"私は君の先生ではない。なりたくもない"
「ああ苦しみよ、お前は決して私から離れなかったゆえ私はついにお前を尊敬するまでに至った」
「あいつが言っていたことは正しかったな。苦しみはどうやら、本当に離してくれないらしい」
会いたかった先生に会えず、先生の
「あぁ、ジェナ。君はどこまでも都市の人間で、そして正しかったな。君の忠告を聞けば良かった…」
筆がめちゃくちゃ進んだので今日投稿しちゃいました。
書き貯め…?知らない子ですね。
UAが10000を達成したら記念回を書くつもりです。
お楽しみに!