場所、D社の巣。天気、曇り。時刻、夜。
調律者となって早一年経過する頃となった。今思い返しても戸惑いばかりの職場だ。
まず、『規則』を破った者を確実に殺すという単純だが、残忍な業務そして都市における立ち位置。全てが異質だった。
確かに、アリウスに居た頃は殺しも想定しては居た…だが、ここでは当たり前でしかない。
屠るか、屠られるか、という二元論が法であるかのように弱さは排他される。
私もそれに流され、気づかないうちに人を殺した。
この場所はおかしい、だってそれが当然と思えてきてしまう…まるで病のように私を変えていく。これ以上、ここに居ていいのだろうか?
なぁ、先生ふらっと急に迎えに来てくれよ。
そしたら、私は…
「…」
ジェナの呆れた目線が遮られる。
「すまない、考え事をしていた」
「それは自明の理だ、サオリ。さっさと任務に戻るぞ」
D社の巣に現れたという規則違反者になぜか、調律者を二人送る事態。
きっと、強敵に違いないと先程までの考えを改め、調律者としての思考に戻す。
それから、無言で歩みを進めていく。
巣を通っていくと、モーセの海割りのように自然と人並みが私を避け、その恐怖に染まった目をこちらへと向けてくる。
(慣れないな…)
憎まれるのは既にエデン条約の際に経験していたが、恐れられる機会というのはまず無い。
ベアトリーチェはこれを毎日感じていたのか。そりゃ、あそこまで傲慢になるわけだ。納得がいく。
「それで対象まであとどれくらいなんだ?徒歩で行くということは、近いのだろう」
「目の前に居る」
そこには爪に囲まれ、縮こまっている幼女が一人。
その街灯の光で照らされた足元にはおそらくD社の社員であっただろう男女が二人息もなく横たわっている。
「おかぁさん、おきてよ。ねぇってば、悪い人がいるよ」
「ぱぱ、悪い人をいないいないしてよぉ…」
涙がポタポタと空虚な地面にこぼれ落ち、鮮血に混ざる。幼女が流す涙で薄められないほどの赤が、サオリ達の方まで流れている。
「なぁ、ジェナ。もう対象が死んでいないか?」
銃を作った、または保持しただろう夫婦はそうして地面に横たわっているのだ。なら「何故、調律者を二人も?」
「それはお前の新人研修を終わらせるためだ。サオリ、お前は大人や化け物連中なら迷い無く殺すことが出来る。しかし、お前は子供等が居る地帯では彼らに攻撃が波及することを恐れて、任務をたびたび諦めることが確認されている」
「そりゃ、当然だ?子供が居るんだぞ?」
思わず疑念を呈する。
「それが良くない。お前は調律者だ、規則違反者をどんな理由であれ殺さなくてはならない。だから、今回の新人研修を行う」
「サオリ、目の前の違反者を殺せ」
「ま、まて。彼女は違反しようがないだろう?」
「いや、先程銃を"持った"ことが確認された。つまり、保持したことになる」
「繰り返す、サオリ。違反者を殺せ」
目の前の幼女を見る。
彼女は今、親を失い、泣きながら都市の理不尽さに恐怖しているのに殺せと?
冗談じゃない。
彼女は子供だ、どんな罪であれ許される機会を与えられるべきなんだ。先生ならそうする。
「すまない、ジェナ。この子を殺すのではなく、見逃せないだろうか?
彼女はまだ子供なんだ、きっと手に持った銃も詳しく理解すら出来ていない…だから今回は」
「言うと思った」
私の声を遮るように、ジェナが声をあげる。
そして、笑みを私に見せつける。
「お前が彼女を殺さない場合は彼女を掃除屋のエサにする」
「ジェナ!!」
「そう叫んでも変わらない。これは頭の決定だ、サオリ」
「選べ」
「何故なんだ…何故…」
自然と手が酷く震え、視界がぼやける。
どのみち死ぬなら私が手を下す必要がないという考えもよぎるが、掃除屋に生きたまま食われる少女が脳裏に思い浮かび、すぐにその考えを放棄した。
「先生、どうすれば…どうすればいいんだ」
彼女のためにも痛み無く殺した方がいい。だが、子供を殺していいのか?
先生があれほど守ろうとした子供を…私が…
「許さなくていい、君の名前すら知らないのにこんなことをする私なんて…」
彼女がこちらをその顔で見つめ
「お姉ちゃん、なんで泣いてるの?」
逆にこちらを心配している時に私は彼女を柱で潰した。
彼女だったもので辺りが汚れ、もはや夫婦だったものすらも見えない。
「ぁ…私はなんてことを…ゆるしてくれ。お願いだ、先生…」
そして、後悔の念が内蔵を駆け巡り、決壊した。
「あぁぁあ!!!!」
頭を抱えて、その場で跪いて、絶叫した。
一人の少女が都市の夜の中、自身の身の苦しさを吐き出す。
それをジェナは満足そうに見ている。
だって、
一人殺したのに、二人目を殺せないなんてことはないだろう?
「おめでとう、これでお前も完成された。」
サオリを持ち上げ、ジェナはそう呟いた。
皆さん、お元気ですか?
私は学校という名の監獄に戻されたので最近疲れが酷いです。(聞いてない)
さて、調律者サオリの週1投稿を何とか守りました!
過去最高連載継続記録更新中です!(一作目が連載出来てないので当たり前)
ストーリーを進めようとしましたが、ここで一つ回想が思い付いたので入れさせて貰いました。
本編はもう少し待って!何でもしますから!!(何でもするとは言ってない)