トリニティ自治区貴族街。
貴族街とはティーパーティの生徒達が多く住むことからそう呼ばれており、血統によるものではない。
所謂トリニティにおける権力者層が住まう地区であり、ただ金銭があるだけでは住むことが叶わない憧れの対象。
ただどんな輝かしい巣であれ、そこには必ず日の当たらない裏路地があるものだ。決して目立たず、但し通行出来るそんな場所。
それはこの貴族街とて例外ではなく、確かに存在している。
陽光が地区全体に群生するゴシック調の建築物に遮られ、大きな岩を何個も詰め込んだ石床が広がり、慎ましくもされど薄暗く、怖いもの見たさで見に行った夜の学校のような雰囲気を漂わせる。
そんな箇所にサオリによって金色の鎖で縛られた生徒がもがいて、体を必死に動かしていた。
「…そんな目で見るな。睨んだところで何も変わらない」
サオリを視線で殺さんがばかりに、その生徒は睨み付けている。口元を抑えられているため、視線で訴えるしかないのだ。
「それに、君たちが素直に物事を話せさえすればこんなことをしなくて良いが…まぁ、不可能だろう」
「君たちトリニティは虚栄と嘘で出来ていることくらい私は覚えている。神を崇めながらも、その律法を平然と破る。おそらく、その律法を旧いと言ってそもそも悔い改めることすらしない」
「偽りを言うくちびるは主に憎まれ、真実を行う者は彼に喜ばれる」
「聞き覚えがあるのではないか?」
「vanitas vanitatum, et omnia vanitasよりは有名だろう」
「そんな偽りを言うくちびるを信用出来ない以上はこのような手段を取るしかない」
「まぁ、例え真を語るくちびるであっても…私はこうしていたさ」
「だって、手っ取り早いだろう?」
「君の記憶に直接聞いた方がな」
エデン条約に関するトリニティ側の情報をできる限り得なければならない。
前は情報を知っている側の陣営に属していたが、今回は単独でやらなければ黒服に借りを作ることになるだろう。
私はあくまでも対等でなければならない。如何なる隙も晒さず、大人として冷淡で冷静でなければならない。要はサオリではなく、調律者で在れば良いと言うことだ。
捕らえている彼女の頭に手を乗せる。
「前までならあの子の泣き顔が思い浮かんだが…今はもう顔すら覚えていない。運が悪かったな、今の私はもう躊躇わない」
そして、まずは皮膚を『開いた』
彼女は痛みでくぐもった声を出す。
次は、肉を『開いた』
手が沈んでいき、彼女はより激しく踠く。
頭蓋を『開いた』
すでに彼女は動かない。
私の手は脳を掴み、彼女の記憶を『開いた』
エデン条約の詳しい日時、正義実現委員会の配置場所、内部政争の情報、楽しかった思い出、辛かった思い出、そしてこいつがいじめをしていた記憶…。
「見る記憶を選べないのが難点だな…それにしてもトリニティは相変わらずだな」
思わず乾いた笑いが溢れそうになる。
マダムは私達に憎悪を植え付けた。確かに、多くのネガティブキャンペーンはでっち上げだったが嘘じゃなかった点もある。
それがこうまじまじ見せつけられたら笑いたくなるのも仕方がないだろう。
事を終えたその場に残ったのは動かなくなった生徒と笑みを浮かべる調律者。
ここはキヴォトスだが、都市の風景だと言われても違和感がない。
「生き返らせる義理はないが…エデン条約前に騒ぎになったら困る」
W社の整理要員の真似事をして、現状復旧の特異点を使用し、頭部がぐちゃぐちゃだった彼女はみるみる元に戻る。
余分なものが混ざれば体重が増えることになるためこのトリニティ生は不幸そのものだ。
だが、調律者に狙われ命があるのも強運と言えよう。結局は捉え方次第だが、それを彼女が覚えていることはない。
何せ、サオリに出会う一時間前に復旧されるのだから。
迫り来ているエデン条約。すべてを変える起点。
それを調律者が最も理解している。
「ミサキ、ヒヨリ、アツコ、アズサ…待っててくれ、私は必ずそっちに行く」
そう、呟き。
調律者は静かにその場を立ち去った。
はい、なんとか間に合いました。イワシコです。
それと言い訳させてください。サオリの誕生日に小説を投稿しなかったのはアークナイツイベントやってたからじゃなくて、調律者サオリの絵を絵師さんに頼んだからなんです!!
サオリ誕生日回はそれはそれでアリだったんですが、何度書いてもジェナとの百合になる謎現象とワイの小説より調律者サオリの絵を誕生記念で出した方が良いのではという閃きによってこうなりました。
楽しみに待ってくれると幸いです。
感想が今話で100を越えてくれないかなぁ(チラッチラッ)
…あと、ブルアカのあとがきでこの話をして怒られないか怖いけど、します!
特色ラップランドこと『白き狂笑』は11月11日から投稿しようと書き貯めを書いています。20話分を毎日投稿で出してみたいな!
ミルフィーユの作り方も勉強しているので準備万端です。