ゲマトリアに入って以降、私は多くを知り、多くを得た。絶望と自責に溺れていたあの頃と比べて、今は極めて気分が良い。指の間から物事がすり抜けるのではなく、しっかりと掴む、その感覚が脳内を駆け回り成長を実感させる。
もはや、ベアトリーチェや頭の命令にただ従うだけの駒という役に私は収まらず、自身の意志を他者に反映させることができる主人公の役を得た。それに足るほどの自主性を私は手にしたからこそ、考える。
エデン条約にどう介入し、どう変えるのか。
力で全てをねじ伏せるだけでは、何も変わらない。それは都市の慣習のなかでは、極めてスタンダードで、分かりやすく、愚かだ。
単なる力の支配は、長続きせず、矛盾して自壊する。かの煙戦争の舞台がまさしく、その象徴だ。エネルギー資源という力で暴虐を尽くしたがばかりに、旧L社のような代案が出れば、皆がそこに飛び付いて、前の支配者を転覆する。
だから、私はA社のやり方をしよう。
規則と力による支配を。
鳥のように安心して帰れるような巣の設立を。
自由に羽ばたける権利を。
そして、それを包む大きな翼を。
そのような場所を、トリニティにもマダムにも怯える必要がなく、安心して日に当たれる楽園を彼女達のために作る。
妹が幸福で過ごせるようにする。
それが姉の勤めというものだ。
そのためにも、目の前に居る彼女を支配しなければならない。
カヤ防衛室長は自分のしてきたことを振り返って、何も悪いことをしていないことを改めて認識した。なのに…何故、このような仕打ちを受けているのかが疑問でしかない。
「そ、それで防衛室長の私に何のようですか。調律者」
巷に噂のキヴォトスの敵。その大層な呼ばれかたの割には信者も多く居て、今キヴォトスに大きな影響を与えている不穏分子だ。
その彼女が、今その怪しい光を内包している瞳で見つめてきている。
居るはずの護衛は何をしている?
いつから連邦生徒会はそんな簡単に侵入されるようになったのだ。こんな真っ昼間に。
「そう、急ぐな。私は今日は時間がかなりある」
「私は仕事があるんですが…」
なんなんだこの人は、驚くほどに感情を読み取れない。彼女が今浮かべている笑みは、果たして本当に笑っているだろうか。嬉しそうな声質の裏には何があるのか…。この時点で、格の違いを知った。ただ、彼女がその場に居るだけで。
「何、恐れなくて良い。楽にしてくれ、別にとって食おうとはしていない」
瞬きをして、視界が黒に染まったその一瞬で彼女は防衛資料を良く乗せる作業机に座り、鼻と鼻がぶつかるほどの至近距離で覗き込んで来ていた。
「えっ…」
驚いている間に、私の目が彼女という情報を必死に脳へと送る。その白い肌、繊細な唇、こちらの驚きを見た故に溢した笑み、全てが新しかった。
「大丈夫、私は君の頑張りを否定しない。キヴォトスの安全のためにFOXを動かしていることも、いろいろな手段に手を染めたことも」
思わず、どこでそれを知ったのだと叫ぼうとしたが、それを見透かしたのか先に彼女のひんやりとした手が過労動によって熱を帯びている左頰を沿うように撫で、くすぐったさで身をよじる。
「立派だ、不安も多くあるだろうに。君は超人足らんとしている。」
今まで誰も評価してくれなかったことを、彼女は言ってのけた。
「連邦生徒会長が消えて大変だっただろう。キヴォトスの治安は日々悪化し、学園は好き勝手に暴れ、連邦生徒会はただの後始末屋として軽んじらている。その中で、君は良く戦っていた。だが、方法が良くない」
諭すように、優しく撫で続けながら、その瞳で私を縛っている。
「なら、どうすれば良いんですか…」
「それは簡単だ。絶対的な力を背景に規則を作り、それを周知させること。『先入観が知覚の全過程を深く支配する』という言葉のように、規則を破れないという先入観を浸透させれば、自然と防衛室が求める安定したキヴォトスに至れる。今までは、投げる賽も絶対的な力が欠けていたから出来ていなかった。だがな、今は私が居る」
ぶれることの無い彼女の圧倒的な自信は、まるで思い描いた超人のようで、ただただ感動してしまった。連邦生徒会長ではない、超人の答えが目の前にある。そう、手が届くのだ。
「カヤ、私の目になれ。君と私で、賽を投げよう」
差し伸べられた彼女の手を取れば、多くの法を破ることになるだろう。だが、答えは自ずと出てくる。
「まあ、原則なんて知ったことではありませんね!」
そう言って、私はその今では温かく感じる手を強く握った。
皆さん、日間ランキングに載りました!
ありがとうございます!!
それで嬉しくなって、今話を書いちゃいました!
次も載るように、頑張りますので皆さんもどうかお付き合いください!!!!!!