【完結】双子座の魔女 ──機動戦士ガンダム 水星の魔女 外伝   作:鉄槻緋色/竜胆藍

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第10話 ソラに唾するは、

 

 あてがわれた高級ホテルの部屋から出て、エレベーターホールへ歩く。

 そのケナンジの前に、浅黒い肌の巨漢が静かに立ち塞がった。

 それは見上げる程の上背。

 漆黒のスーツを内側から筋肉で圧し上げている無表情の丸メガネは、ドミニコスのエース・ケナンジをして若干ヒかせる威様だ。

 

「ぉおっと。ええと」

「サウファです。ミスター・アベリー」

 

 思い出した。初めてこの街に降りた時に現れた高級車の運転手だ。

 自己紹介をして、何やらぼそぼそ喋っていた気がするが、たいして聞いていなかった。

 

「どちらへお出かけで」

 

 その巨漢が、小型拳銃を持った手を腹の前で組んで、口元だけを動かして問うてきた。

 

「お部屋からは出ないよう、お願いしたはずですが」

 

 そう言えば、そんな事を言っていた気もする。

 

「──いやあ、せっかく地球に降りてきたんだから、店でおねえちゃんと一杯やろうかと思ってよ」

 

 もちろん、GUND-RESSロゴリストを奪って、対戦相手の居場所を聞き出して、夜中に急襲するつもりだったのだが。

 

「酒なら、部屋の備え付けのバーカウンターにひと揃いあります。申し付けてくだされば私が御用意致しますが」

「いや堅い堅い! アンタもこんな深夜まで仕事すること無いだろう? ……どうだよ、一緒におねえちゃんトコ、よ!」

 

 ヘラヘラと笑って、遠巻きにそぉっと伸ばした片手で、サウファの肘をちょんと叩く。

 サウファは無反応。

 

「……ここには、()()()()()()()しかいませんよ。ミスター」

「ハハ、いや俺はそんなの気にしないぜ? 楽しくやろうや」

「ク◯でも喰ってろ、お登り野郎(スペーシアン)

 

 サウファのこめかみに筋が脈打ち、全身から肉の軋む音が聞こえた。

 熱気を帯びた怒りを滾らせて、サウファがひとことずつ区切るように言う。

 

「さっさと、部屋へ、戻れ。テストパイロットなら俺でも務まる」

 

 サウファが両手をだらりと下げたのを見て、ケナンジは口笛を吹いた。

 両の手のひらを上へ向け、肩を竦めて振り返った。

 

「はいはいわかりましたよ──喰らえわりゃあああ!」

 

 振り返る勢いで一回転しパンチを繰り出す。

 ケナンジの拳は過たずサウファの鼻面をメガネごとぶっ潰し黒の巨体を吹き飛ばした。

 

──やってやったぜクソ野郎! 俺はドミニコスのエース様だぞ!

 

 喝采の拳を突き上げた時には、ケナンジはホテルの自室の床の上でノビていた。

 

「…………はれ?」

 

 間抜けに開いた口から、何かが転げ落ちた。

 欠けた奥歯だった。

 頭がガンガンと痛み、頬があり得ないほど大きく腫れあがっていた。

 

 

────────◆

 

「GUNDフォーマットを用いてデータストームで敵パイロットを焼く、と言うのは、《カテドラル》的にダブルスタンダードに当たりませんか……?」

 

 MS賭け試合のあと、ケナンジは通信越しにラジャン・ザヒ艦長に問いかけた。

 

『それについては、統括代表の判断待ちだな』

 

 その音声に、カン、カッ、と雑音が混ざったように聴こえた。

 ──「この通話は盗聴されている」のサインだ。

 

(そりゃあ、敵地で敵機の中だもんな)

『ともあれテストパイロットをする分には、なんら問題はない。()()()()()()()()()()()()()

「ラジャー」

 

 すなわち、可能ならばこのGUND-RESSロゴリストでケリをつけろ──

 

 

────────◆

 

 《バノヴィナ》とハナシができる下部組織との連絡手段を得たメルデとシィルは、巨大トレーラーに乗って別方面の街へ来ていた。

 ──《ヨトゥンヘイム》に参加できれば、《フォスフォロス》のみんなに自分達の所在を伝える事ができる。対戦者がエオルだと分かれば、《バノヴィナ》のボスが《ドミニコス》の哨戒範囲外に対戦場所を用意するはずだ──

 あくまでその下部組織とは通信越しでの会話のみで(エオルでアジト前に押し掛けて、AI にカンペを喋らせた)、あちらから「是非おもてなしさせて欲しい」などと言われたが無視してきた。

 巨大トレーラーを、目標の街から離れた丘陵の陰に停め、コンテナの中のクロスカントリー車輌に乗り換え、メルデの運転で街へ入る。

 他所と同じく、外周の廃墟を無人街と誤認させる土塁として、都市の中心部分で暮らすタイプの街だ。

 特に人が多い区画を流していると、屋根にシンボルを立てた施設の敷地で、何やら人々が賑やかにしているのを見かけてメルデは車を停めた。

 

「なんだろあれ」

「行ってみよう」

 

 車から降りて、その施設の垣根越しに眺め遣る。

 華やかな衣装の男女のペアを中心に、老若男女がその二人を祝福しているようだ。

 手作りの飾り付けが敷地を取り囲み、手作りのご馳走がテーブルいっぱいに並んでいる。

 

「おお、見ない顔だね、越してきたばかりかな?」

 

 こちらの様子に気づいた老爺が、にこやかに手を振って近寄ってきた。

 

「良かったら、一緒に祝福してやってくれ! 若いやつの結婚式なんだ! ご馳走もあるぞう」

「えー! いいの⁉︎ 」

 

 メルデとシィルが顔を見合わせた。

 

「やったー! おじゃましまーす」

「はっは……んん?」

 

 メルデが両手をあげてはしゃぐのを見て、こちらに目線を移した老爺の、その表情が途端に険しく変化した事にシィルは気づいた。

 

(──いけない!)

 

 シィルが手を伸ばすが、老爺がメルデの肩を押し止める方が早かった。

 

「え? なに?」

「すまんな。お嬢ちゃんたちは双子だね? ──()()()は、駄目だ」

 

 メルデが、何を言われたのか分からないような半笑いの顔のまま、小指を痙攣させた。

 激昂直前の癖だ。シィルにも分かる。──まったく同じ癖を持っていたから。

 

「────!!!」

 

 絶叫したメルデとシィルが同時に老爺に飛びかかり、全く同時にメルデとシィルがお互いの胸倉を掴み、全く同時に後ろに投げ捨て──ようとして腕力差でメルデだけ投げ飛ばされて、掴まれていたシィルもひっくり返った。

 

「────!!!」

 

 それでも髪を振り乱し、掴んだ土を、小枝を手当たり次第に投げ散らかすメルデにシィルが抱きつき、メルデの後ろ襟を掴んで乗ってきた車の方へと引きずっていった。

 ──歯を食いしばって。

 

「────!!!」

 

 クロスカントリーの後部ドアを開けて、片腕でメルデをシートに投げ込んだ。

 

「ッッ! 離してシィルッッ! あいつッッゆるさないッッ! あいつがッッ」

「──っ⁉︎ 」

 

 暴れ回るメルデの両手を掴み返し、蹴り回す足を腹で、膝で受け止め、絶叫する顔を額で押さえつけた。

 

──どうして、私だけ──

(……両腕のぶん、血の気が薄くなったのかな)

 

 詮無いことを思いながら、メルデが落ち着くまでシィルは冷静に、辛抱強く耐え続けた。

 

 

「──ごめんね。シィル」

「許さない。今度は私が先にキレるからメルデが抑えてよね」

「いやそれムリじゃん」

 

 戻ってきた超巨大トレーラーの内部、運転室下部にある薄暗い寝室で。

 一枚の毛布にふたりで包まっていた。

 

「……ねえ、メルデ。どこに行ってみたい?」

「なにそれ。行くなら隊長のとこに帰りたい」

「そうじゃなくて──ほら、ラピスガーデンとか」

「あー。あれキレイで楽しそうだよねー。じゃあさ、カコガワウェルネスパークとか」

「それこそ何よ。極東の田舎の訓練施設じゃない」

「軌道エレベーター乗ってみたいー。宇宙に快適に行けるんだよ」

「あれってエレベーターって言うのかな」

「シィルは?」

「学校」

「えー? 今さらタメの子らで集るのー?」

「アスティカシア高等専門学園なんて楽しそうじゃない?」

「あー! 広くて、大っきくて、学校でバトれるなんて面白そう!」

「それでね──」

「うん──」

 

 微睡のお喋りはとめどなく。

 同じ顔が額をくっつけ合ってくすくす笑う。

 やがて緩慢な囁きは穏やかな寝息へと変わっていった。

 

 

『さぁ悪趣味な野郎どもお待ちかね! 今夜のメイン・イベントはこのカードだ!』

 

 MCのゴキゲンな煽りと共に、スタジアムのメインスクリーンに二体のモビルスーツが派手なエフェクトで表示された。

 

『流星の如く現れた「白い悪魔」! GUND-ARM・()()()()()()!』

「……もしかしてエオルのこと言ってる?」

「名前教えてないもの」

「相っ変わらずセンス悪ーい」

 

 《ヨトゥンヘイム》の勝手なネーミングに、メルデもシィルもげんなりと溜め息を吐いた。

 

『対するは、悪魔にも比類するスピードスター! 我らがニューヒーロー! GUND-RESS・ロゴリスト!』

 

 続いて表示されたのは、まるで青いセンザンコウのようなモビルスーツ。

 丸く膨らんだ肩や腰に比して腕脚が細く、両腕に棺型のユニットを装備していた。

 

「ガンドレスだって。何それ」

「──検索にもかからない。どっかの新型じゃない?」

『ではあの、始めてください』

 

 渡りをつけてくれたマフィア組織の人間が、おずおずと通信してきた。

 

《──承知した》

 

 AI に適当に返答させ、メルデとシィルはエオルを前進させた。

 

「じゃあ行くよシィル!」

「行こう、メルデ」

「パーメットスコア・ツー!」

 

 認証コードを同時にコールして、エオルの胸と肩と、顔面のシェルユニットを赤く輝かせ、戦場へと疾走していった。

 

 

「──フィックスリリース!」

 

 ケナンジが認証コードを詳述した。

 コールに応じて、GUND-RESS・ロゴリストの青銅の装甲が全てスライド展開し、全身のシェルユニットを赤く輝かせた。

 ──特別強固な訳でもない。速攻でカタをつける。

 両腕のフェーズドアレイキャノンを展開し、変貌したロゴリストが大地を疾駆する。

 なお、戦場は起伏が激しい丘陵地帯。

 ケナンジも、ロゴリストごとトレーラートラックに閉じ込められてここまで長時間運ばれたため、ここが大陸のどこかは分からない。

 待機中にマップを展開してみたが、この野郎、最大広域にしても戦闘フィールドしか表示しやがらない。

 「現地企業」はケナンジを外界から完全に遮断するつもりらしい。

 

(あとは、"上"から《ドミニコス》が追跡してくれてるかどうか)

 

 大地を行き来する無数のトレーラートラックを逐一チェックできるかは、情報部の腕を信じるしか無いが。

 

(まあ少なくとも、あの白いGUND-ARMを破壊する事を止めるやつはいねえだろう)

 

 ──邪魔する者はいません。存分に。

 あのクソ忌々しいアーシアン(サウファ)が言っていた。

 つまり、どう言う訳か、あのザウォート・フェザーは今回はお留守らしい。

 ケナンジは、ロゴリストに跳躍を繰り返させ、丘陵地帯を進攻していった。

 程なく、アラートが敵機の存在を示した。

 目視ではメインモニターに敵機の姿は見えない。

 ケナンジは丘を降りて、ロゴリストが敵機からは丘の陰に隠れるように迂回して移動した。

 

(奴の武装に変わりが無いなら、射程は大差ないだろう。一撃で決めてやる)

 

 一応の公平性か、対戦相手が「あのGUND-ARMである事」以外の情報はケナンジにも伏せられていた。

 このロゴリストの「フェーズドアレイキャノン」は、火炎や電光のように、爆ぜながら直進してゆき、敵機の一部にでも掠りさえすれば敵パイロットを焼く事ができる。

 つまり、広義的に「超大口径火器」と言える。

 例え出会い頭に相討ちになったとしても、敵の必殺は絶対だ。

 

(思えば長い腐れ縁だったが、それもこれでオシマイだ!)

 

 センサーによれば、敵機の反応も迫ってきている。

 これは一対一(タイマン)であり、互いにセンサーを持つ以上、会敵までたいして時間はかからない。

 そこの丘を飛び出せば、もうケリが着く。

 姿勢を低くしてダッシュし、鋭く身を翻して跳躍した。

 

「いたぁ!」

 

 同様に丘の上を飛び出してきたGUND-ARMをモニターの中央に捉えた。

 右腕武装のレティクルが敵機をロックした。

 ケナンジは迷わずトリガーを引いた。

 

 

────────◆

 

──どれだけ罵倒、侮蔑をしても、受け取られなければ、それは貴方のもの──

 

 

────────◆

 

「ぎゃあああああああ⁉︎ 」

 突如右腕が爆発し、ケナンジが絶叫した。

 あまりの突然の激痛に、現状を正しく捉えられない。

 機体が転倒したかのような衝撃に振り回されながら、ケナンジは慌ててハーネスを外し、ヘルメットを脱ぎ捨ててノーマルスーツの前を開け、右袖を引っこ抜いた。

 

「っはー!っはー!っはー!」

 

 インナーを引き裂いて、右腕をあらわにする。

 ──そこは全て、仄輝く真っ赤なミミズ腫れに覆われていた。

 

(……データストーム、だと……⁉︎ )

 

 まるで腕ごと爆発したかのような衝撃だった。

 今でも深刻な衝撃が身体を這い回り、激痛に喘ぐ。

 見える範囲では肩まで赤く染まり、胸は無事。

 首や顔までは自分では確認できない。

 だが激痛は右腕を中心にほぼ全身を蝕んでいる。

 

「んな、っなんだこれはッッ!!!」

 

 それもただの激痛ではない。

 まるで心臓と脳を掴まれたような異物感と不快感。

 全力疾走直後か窒息寸前に「突然」なったかのような呼吸不全に襲われている。

 

「っはー!っはー!っはー!」

 

 息が、うまく、できない!

 キツく目を瞑り、呼吸を整えようと喘ぐ。

 無意識に左手がインナーの鳩尾辺りを握っていた。

 

「くそっ! くそっ! っはあっ!」

 

 現状も頭から吹き飛び、悪罵を吐きながら空気を貪っていたその時、コクピットを大きな衝撃が襲った。

 

(……ヤベ、戦闘中……)

 

 どうにか目を開けると、恐らく仰向けに倒れたこのロゴリストに、敵GUND-ARMが覆い被さっていた。

 

(ちくしょう⁉︎ ……ここで、死ぬのか……⁉︎ )

 

 敵GUND-ARMのマニピュレーターが五指を広げて迫り、モニターを覆うと、コクピット全体が軋み出した。

 やがてメキメキと異音を立てて、コクピットハッチが引き剥がされる。

 

「っはー!っはー!っはー!」

 

 敵GUND-ARMは引き剥がしたコクピットハッチをポイと投げ捨てると、改めて今度は人差し指を伸ばし、ケナンジの股下から伸びるコンソールを器用に押し下げてどかすと、今度はその指先から精密作業用アームが伸びて、ケナンジのノーマルスーツの襟首を掴んだ。

 やがて引き上げられ、機外にひっぱり出されると、敵GUND-ARMは丁寧にケナンジを持ち運び、やや離れた地面にケナンジを横たえた。

 

「っはー!っはー!っはー?」

 

 敵の意図が分からない。

 このGUND-ARMのMS賭博での戦績では、概ね敵チームを皆殺しにしていたはずだ。

 改めて空になったロゴリストを見下ろした敵GUND-ARMは。

 その拳をロゴリストのコクピットに突き込んだ。

 

 

「……あばよ。白い悪魔と、魔女狩りのエース」

 

 言って、気怠げに頬杖をついたハイルブロンが、思考トリガーで"それ"のスイッチを入れた。

 バナトの外れで、チェス盤のような巨大ユニットが蠢き、各マス目から蓋ごと吹き飛ばしながら弾道ミサイルが次々と飛び上がっていった。

 

 ──《ヨトゥンヘイム》の配信は、実はひとつ前の対戦で終了している。つまり、白い悪魔とロゴリストの戦いを見ている者は、世界でハイルブロンひとりだけ──

 

 燃焼終了したユニットを切り離し、成層圏に至ったミサイル弾頭郡はやがて、その穂先の向きを転じ、次々と地上めがけて殺到していく。

 その目標地点は、バナトから遥か南、広大な丘陵地帯の、その中央。

 倒れるモビルスーツと、それにまたがるモビルスーツ。

 

 

────────◆

 

 パーメットスコアに「ツー」があるのだから、3以降もあるのだろう。

 「ワン」も聞いた事が無いが、まあ、あるだろう。

 パーメットスコア2で出来る事は、モビルスーツを自らのもうひとつの身体のように動かせる事だと言う。

 特に「バイナリーディスパージョン」理論を前提にした複座式のエオルには、「もうひとりの両腕」として「アンカーブレード」と「フレキシブルダガー」が装備されていた。

 メルデとシィルは、双子のコンビネーションで、その都度どちらがどの腕を使うのかを直感的に切り替えて操っていた。

 ──それが誰にでも当たり前にできる事かどうかは、前例も比較も無いので分からない。

 パーメットスコア3は、本体から完全に切り離されたユニット、ドローン兵器を自らの手足のように操れると言う。

 アンカーブレードはドローンでは無い。アンカーブレード自体にも推力偏向ノズルは着いているが、穂先を持ち上げているのはワイヤーに編み込まれた擬似筋繊維である。

 パーメットスコア4は、機体のパーメットリンクをフル回転させて、全スペックが底上げされるのだそうだ。

 そして、スコア5は──スコア6は──7は──8は。9は。10は──

 

 何しろ時間感覚が曖昧で、それどころか、メルデがメルデで、シィルがシィルなのかも、だんだん分からなくなってきた。

 でも、問題ないの。メルデはシィルを守りたい。シィルはメルデを守りたい。

 シィルの腕の喪失はメルデにも我が身の如くに感じるし、目の前にいる自分の腕が生身だろうとGUNDだろうと目の前の自分が大切な者なのは変わりないから。

 初めてGUND-ARM・ルブリスエオルに乗ってから、メルデとシィルには何もかも分かっていた。

 パーメットリンクの深層感応には「誰かを思い遣る大切な思いを抱いた時」の脳内物質の配分の分泌と、脳神経パルスの形質が必要だ。

 それさえ適合すれば、「データストーム」やら言う「神経を通る情報の圧力、抵抗」などの物理的齟齬は起こり得ない。

 本質の階梯が異なるのだから。

 

 

────────◆

 

 倒れるケナンジの目の前で、ロゴリストの胸に拳を突き込んだ敵GUND-ARMが、その胸と肩と、顔面を覆うシェルユニットから白光を放ち始めた。

 同時に、倒れるロゴリストの全身のシェルユニットも同様に白く輝き出した。

 いや、余りにも眩ゆ過ぎて分かりにくいが、光の三原色とやらで言う「あらゆる色が混ざる故の白さ」と言うべきか。

 なぜなら、角度によっては虹色にも見えるうねりがあったから。

 ──そう、光がうねり、渦を巻いているようだ。

 それは、チカラある光なのか──

 

「っっ──⁉︎ 」

 

 光量が増し、もはや視神経が痛むほど。

 思わず腕で目元を覆ったその時。

 枕元にロケランをしこたまぶち込まれたような轟音が連発した。

 だがやがて、そんな視聴覚の痛みが、右腕の痛みが、全身を翻弄する衝撃が、全てぬるま湯に流されたように癒やされてゆく。

 感覚の加速感に見舞われ、平衡が失われる──

 

「──はっっ⁉︎ 」

 

 ふと、ケナンジが微睡みから覚醒したような心地でまぶたを瞬くと、辺りの光景が一変していた。

 

 ──敵GUND-ARMも、ロゴリストも無くなっていた。

 見下ろした右腕が、赤みも痛みも無くして、元通りの表皮になっていた。

 夕暮れの紫光に染まる丘陵地帯のただ中にひとり、間抜けに腰を抜かしていた。

 




※この作品はフィクションです。実在の施設、団体などとは関係ありません。
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