【完結】双子座の魔女 ──機動戦士ガンダム 水星の魔女 外伝 作:鉄槻緋色/竜胆藍
バナトから大量に発射されたミサイルを、流石に《ドミニコス》情報部は見逃さなかった。
すわ宇宙と戦争かと思いきや、着弾予測地点は大陸の南方の何も無い平野部。
そこに次々と落下し、大爆発が起きた。
ところがそこで奇妙な現象が観測された。
ミサイル着弾の爆発にしては、それは白くて綺麗な発光だった事。
そして衛星カメラの映像をどれほど見直しても、着弾地点の大地に破壊の跡が無かった事。
それどころか、着弾予測地点の中心にひとが一人発見された。
地上の文庫本の文字すら読み取る衛星カメラは、ヒトの顔貌すら識別してのける。
なぜか爆心地の中心に、ケナンジ・アベリーがいたのだ。
「──以上が、自分が目撃した一部始終であります」
「冗談では……ないようだな」
「自分もまさか、もろとも弾道ミサイルぶち込まれてたとは思いませんでした」
衛星軌道上の強襲揚陸艦の艦長室で。
後ろ手で立つケナンジと、デスクに着くラジャン・ザヒ艦長が同時に頭を抱えた。
「……何か証拠になるものは無いのか」
「バナトのホテルに入る時、荷物を全部奪われたモンで。通信機もなにもかも」
「バナトと貴様の発見地点を結ぶ車輌は特定できるだろう。じき情報部が詳細を上げてくる。だが」
弾道ミサイルの爆心地がなぜ無傷で、そこにいたケナンジが無事だったかは説明できそうにない。
「これも、GUND-ARMの呪いってヤツですか」
ケナンジが、己の右手を見てぼやいた。
救出回収後の精密検査でも、データストームの残滓すら発見されなかった。
医療班には「本当にGUND-ARMに乗ったのか」と疑われる始末だ。
だが、体験した痛みの一部始終の表現は、被験者の記録と一致していた。
「──事変の時に最後に逃した一機が持っていた、バリアを発するシールド。あれが発展強化されたなら、あるいは……」
「事態の全てを説明するには足りるまい。まず事実から数えよう。──ケナンジ。貴様は生きてここにいる。次にGUND-ARMに会った時は、消える前に撃破しろ」
「それならひとつ、お願いがあります」
「言ってみろ」
「俺のベギルベウを、"宇宙戦仕様"にしてください」
────────◆
傭兵仲間のネットワークから「バナトから弾道ミサイル発射」の一報を受けたブランドンと、それを聞かされた《フォスフォロス》一同は一時騒然となった。
「この隠し拠点が、当てずっぽうで狙えるワケがねえ」
言いつつも、弾道ミサイルを追跡するツールをモニターに展開し、推移を見守っていた一同は、マップが示すミサイルの経路から、それが見当違いの方向だと分かり、胸を撫で下ろした。
だがすぐ次の疑問が立ち上がった。
──じゃあ一体なにを狙った爆撃だったのか?
「まさか、先に発見されたエオルを狙って……?」
いやいやまさか、どこかに隠れたモビルスーツ一機にはオーバーキルもいいところ──
ブランドンは冷や汗をかきながら一蹴したが、ヘレネはもはや立てなくなるほど衝撃を受けてしまっていた。
白衣のポケットから取り出した、青い鉱性結晶が封入されたカプセルを両手で握り締め、額に拳が埋まるほど強く、双子の無事を祈り続けた。
──戦禍と殺し合いの世界だとしても、神さま、せめてあの子たちだけは──!
────────◆
「「
──え──?
はっ、と顔を上げると、そこは《フォスフォロス》の隠し拠点のオフィスではなく。
「しけたツラしてんじゃないわよ。ヘレネ」
「──ね、クルティ、ねえ、さん……?」
目の前を蜂蜜色の髪が流れる。
いつの間にかルブリスエオルのコクピットに座っていたヘレネの顔を、逆さまになった姉の顔が上から覗き込んでいた。
「ええええ⁉︎ 」
ヘレネは慌てて立ち上がる。
姉──クルティはヒョイっと引っ込むと、後部シートにふんぞり返った。
「クルティ姉さん⁉︎ どうして⁉︎ 」
振り返って間近に見る姉の姿は、六年前と変わりが無かった。
妖精のような美しさの割に、その表情は傲岸不遜で。
──最期のあの時と同じ、ノーマルスーツを着て。
「ヘレネはいっつも、ツマラナイこと気にし過ぎ」
ケタケタと笑うクルティが、人差し指を向けた。
そちらを振り向くと、メインモニターの向こう、分割ウインドウ越しにこちらを心配そうに見遣る、当時の研究者の同僚らの顔が映し出されていた。
──世界が一時停止したような静止画像で。
「……これは……」
「ヘレネが望んだ奇跡だよ。アタシがうっかり実現しちゃったんだけど、なかなか見せるタイミングが無くってさあ」
コクピットハッチが開き、クルティが上面ハッチから這い出ていく。
ヘレネも、おずおずとコクピットを出てデッキに降り立った。
そのヘレネの目の前に、上段のデッキからクルティが飛び降りてきた。
いつものキャミソールに、デニムパンツのスポーティな格好で。
「ね! お姉ちゃん天才でしょ!」
「だって、あの時に私たちふたりともデータストームに焼かれて⁉︎ 」
妖精の翅みたいに舞い降りる金髪の笑顔の背後から、小柄な人影が飛び出してきた。
「あっ⁉︎ 」
驚く間も無くヘレネの身体をすり抜けていったのは、メルデとシィルだった。
振り返っても、そこは無人の格納庫で、あの双子はどこにもいない。
姉を振り向くと、クルティはヘレネの手元を指さしていた。
「約束を守ってくれるのは、ヘレネの美点だよね」
「でもこれ」
青い鉱性結晶を手のひらにかざした瞬間、景色が吹き飛び、凄まじい加速感がヘレネの精神を突破した。
「あの子らも双子なんだね。アタシらと違って一卵性だけど」
「……ええ。クルティ姉さん。誕生日も近いのよ? 6月18日」
「アタシらの一ヶ月違いじゃん! アタシら5月21日で」
「そう。同じ双子座の生まれ」
ふたりでくすくすと笑い合う。
「ま、そーいう盤上の記号なんざ奇跡の足しになんかならないんだけど」
「クルティ姉さんには、ロマンが足りないと思うわ」
「あるわー! ロマンなんか唸るほどあるわー!」
含み笑いするヘレネの前で、クルティは鉤爪のように五指を立てて地団駄を踏んだ。
「「バイナリー・ディスパージョン」は絆のチカラ! 故にこのルブリスには「エオル」のルーンを刻んだんだよ!」
「……私には絆は無かったのかな」
「いやデータストームがあんなに痛いとは思わなかったから仕方ないわ」
俯いたヘレネのあごを、指先で無理やり前に向かす。
「でもあの時コレを持っててっつったら、ヘレネはちゃんと持っててくれたじゃん!」
「……そうね」
青い鉱性結晶──パーメットニウムの結晶体を手のひらに示す。
「六年後にいるのが視えたからね! パーメットのチカラとお姉ちゃんは間違ってなかったでしょ!」
「でも、私はクルティ姉さんと一緒にいたかった!」
思わず、叫んだ。
「うん。知ってる。でもゴメン。お姉ちゃん研究者だし、ヘレネのためにできる事はこれで全部」
「妹へのプレゼントに、世界まるごと変革できるチカラはやり過ぎだと思うの⁉︎ 」
神妙な顔をしたクルティに対して、ヘレネは伸び上がってツッコんだ。
「そんなん、お姉ちゃんがあげたいからあげたんであって、いらなきゃいらない分は捨てていいよ。もうヘレネにあげた、ヘレネのモノだし」
「……はぁ。わかった。きっと、あの子たちにあげると思うわ」
「そう? まあ好きにしなよ。アタシにはもう終わったものだし──ああでも」
「なに?」
背中を向けたクルティが、上半身だけ振り返って、ヘレネを指差した。
「──後片付けだけ、お願い」
「クルティ姉さんっていっつもそう⁉︎ 」
────────◆
拠点のオフィスのスピーカーから、外にいる見張りの声が響いた。
『飛翔体接近!』
──まさかこちらにも弾道ミサイルが⁉︎ 前兆は⁉︎ いつの間に⁉︎
あまりの急展開にブランドンは「伏せろ!」と叫ぶ事が精一杯。
《フォスフォロス》一同のリアクションを待つ間も無く、拠点の間近から凄まじい衝撃音が響いてきた。
『──エオルです! エオルが戻ってきました!』
続く報告に、今度こそ《フォスフォロス》の全員が喝采をあげた。
ここは山に埋まった半地下の隠し拠点。
その出口へと、ブランドンを始め《フォスフォロス》の全員が駆け出していった。
「本当だ! あいつら!」
ブランドンが叫ぶ。
一ヶ月ぶりに見るエオルは、外装が半壊しており、マスクを覆うシェルユニットも半分溶けて、その下のツインアイの片方を晒していた。
そのエオルの下で潰れている、壊れた何たらロゴリストの事は、どうでもいい。
コクピットハッチを解放したエオルの元に、兵士達がハシゴを担いで駆け寄っていく。
降りてきたメルデとシィルは、取り囲む兵士らにハイタッチし、あるいは小突かれながらこちらにやって来た。
「ヴェこもーん!」
「隊長ー!」
「おう、お前ら!」
駆け寄ってきたメルデとシィルが、同時にブランドンに飛びついた。
「ぐふぅ」
メルデはそのまま肩までよじ登り、シィルは腰の辺りに抱きついた。
まるで巨木にしがみつくコアラ2匹のようだ。
「うわー辛かったよーヴェこもーん! あー!」
「隊長のいけず。甲斐性無し。穀潰しのロクデナシ」
「泣くな! 叫ぶな! 怨嗟を吐くな! 離れろ!」
そんな三人を中心にした騒ぎはしばらく続いた。
「──つまり、お前らのここ一ヶ月の活動を要約すると、バナトから追手を撒いて、南方で潜伏。強盗狩りで生活して、木っ端マフィアを誘き出して、《バノヴィナ》にワタリをつけて、《ヨトゥンヘイム》に参加して、あのロゴリストと対戦して、勝ったところにミサイルが飛んできたから、ここに帰ってきたと」
「そうだよ!」
「とても大変でした」
「HAHAHA! ナイスジョーク!」
「なんでよー!」
ブランドンが手を叩いてわざとらしく笑う。
この拠点のオフィスで今、ヘレネ博士を加えた四人で情報を整理していた。
メルデの抗議を無視して笑ったのち、ブランドンは頭を抱えて深く俯いた。
「……ヘレネ博士。今のハナシで説明できる事はあるか?」
「推測で良ければ」
「あんのか⁉︎ 」
さらっと答えたヘレネに向かって、ブランドンが縦に伸び上がって叫んだ。
「ヴェこもんアレみたい。スプリングスネークの玩具」
「今度びっくり箱に押し込んでみよう」
「オマエラはちょっと静かにしとけ」
シィー、と口元に指を立ててソファに座り直す。
「エオルの
一連のやり取りの間にタブレットを操作していたヘレネは、大型モニターの脇に移動した。
モニターに大陸の広域マップが表示され、赤い点線が不規則に這い回り伸びていった。
「前の拠点の迎撃に出てから南へ移動して、つい最近までこの辺りで生活していたようです」
大陸の南方に移動してから、ほぼ一定の範囲で小移動を繰り返している。
「そして、今日に入ってから特に大きく移動してここ」
「っ! そこは!」
「そう。バナトからの弾道ミサイルの着弾地点です」
エオルの移動経路を示す赤線は、そこで途切れている。
「そして、着弾の時間から間をおかずに、ここに出現して、この拠点に到着しています」
それは、
「博士。ふたつ質問だ。ひとつ、その長距離移動の方法は? 実はログが間違っているんじゃないか? ふたつ、こいつらに教えていないこの拠点になぜ辿り着けた?」
指を二本立てたブランドンに対して、ヘレネはどこか余裕のある笑みを含んで頷いた。
「まずひとつ目の回答。ログに間違いはありません。カメラの映像の風景を照合すれば、明らかになるでしょう。そして、移動方法は……話すと長くなるので、「今のエオルには、ある条件下で瞬間移動が可能だ」とだけ」
「……マジか」
GUND-ARMやヘレネ博士と付き合いの長いブランドンをして、すぐには飲み込めない話だ。
「ふたつ目については……ごめんなさい。コレのせいです」
言って、ヘレネは白衣のポケットから青い鉱性結晶を取り出した。
「あん? そりゃ博士の姉君の形見だろ? ……そう言や、何なんだそれ」
「パーメットニウムの結晶」
言って、ぽいとメルデの手元に放り投げた。
「おっと」
メルデが両掌で受け止めるより先に、空中でシィルが摘み取った。
「ああー! シィルが取ったー!」
「綺麗だよ。ほら」
シィルはあっさりとメルデに渡した。
「……で、なんでそれがあると、ここがわかるんだ?」
「これも話すと長くなるんだけど、ある条件下で、エオルはあれを探知できるようになります」
「ふーん。 ……っ⁉︎ 」
そんなもんか、と分かった気になって、ある事に気付いたブランドンの顔が青くなった。
「……博士、さっきの「ごめん」ってのは……?」
ヘレネは、口元で両手を合わせ、どこか茶目っ気を含んだ苦笑顔で回答した。
「今まで各地で出現した「謎の白い悪魔」は、エオルの分身──と言うか同位体だったみたい」
サングラスを外して天を仰ぎ、眉間を摘むが、どうにもハナシがブランドンの理解を超え、平衡感覚が怪しくなってきた。
「ヴェこもん⁉︎ どうしたの⁉︎ しっかりして!」
「衛生兵! 衛生兵ー!」
「はいはい、医療担当がここにいますよー」
かしましい女三人に取り囲まれ、ブランドンはソファに仰向けに沈み込んでいった。
数日後。
《カテドラル》と《バノヴィナ》間で戦争が勃発した。
《ドミニコス》曰く。「
《バノヴィナ》曰く。「知るか馬鹿」。「文句があるならかかって来い」。
既に《ドミニコス》のモビルスーツ大隊が、フライトシステムに乗って、バナトを囲む空域を取り巻いている。
地上も、バナト市街へ至る道は全て《ドミニコス》によって封鎖され、一般市民も入るも出るも叶わない。
対するバナト内部の《バノヴィナ》に、たいした反応は見られない。
右往左往して混乱しているのは、何も知らない一般市民だ。
「そんじゃあ、おっ始めるとするか」
宙に投影される数々の光景を映すモニターを見上げ、ハイルブロンが犬歯を剥いて拳を打ち合わせた。
「ではボス。自分も出てきます」
「おう! 好きなだけ暴れてきていいぞ!」
背後に控えていた黒き巨漢・サウファが小さく会釈して振り返った。
「……ボスについて来て良かった」
「ディナーまでには帰ってこいよ! 仕事はまだまだあるんだからな!」
つまらないフラグをへし折って部下を送り出す。
「アーレア・ヤクタ・エスト!」
《ラジャー。フェーズドアレイフォートを展開します》
ハイルブロンのコードの詳述に応え、システムが動き出す。
市街の至るところで、"街"が変形を始めた。
高層ビルのほとんどが、壁面をひっくり返して黒いパネルを展開した。
環状道路のアスファルトが次々とスライド展開してその下の黒いパネルを晒す。
バナト市街を囲むように、八本のタワーが次々と生えてきた。
それらは全てシェルユニット。
露わにされたそれらが全て、赤く輝く幾何学ラインを迸らせた。
さらにその赤い稲妻が空中に這い出て、バナト全体を砂嵐のように埋め尽くしてしまった。
「ぎゃあああ⁉︎ 」
「ああッ⁉︎ がああ!」
バナト市内で混乱していた市民が、事情を知らない人々が、ほの輝く赤い擦過傷に全身を蝕まれながら苦悶に喘ぐ。
ただし、その変化は、八本のタワーが囲む境界の内側だけ。
セントラルタワーを中心とした、八角柱型の赤いデータストームフィールドが完成した。
「──さあオマエラぶちかませ!」
『ラジャー』
ハイルブロンの気勢に、サウファが通信で応えた。
赤光に包まれたバナト市街から、金色のモビルスーツが一機、フィールドを越えて上空まで飛び上がってきた。
それは、サウファが駆るGUND-RESS・ロゴリスト・オーラム。
ウロコ状の装甲を展開すると、シェルユニットを赤く発光。両腕のフェーズドアレイキャノンを左右に振り払い、赤き稲妻を発射した。
その射程はデータストームフィールドの境界を軽く飛び越え、フライトシステムで待機していた《ドミニコス》の前線の多くのモビルスーツ部隊を巻き込んだ。
『ぎゃああっ⁉︎ 』
『げえっ⁉︎ 』
僚機の通信に断末魔を残して、次々と墜落していく。
ロゴリスト・オーラムの動きは止まらない。データストームビームを放出したまま、空中でゆっくりと向きを変え始めたのだ。
『ぐあああ⁉︎ 』
辛うじて回避したはずのフライトシステムに乗ったモビルスーツまでもが、さらに何機も巻き込まれて墜落していった。
さすがに一周とはいかず、九十度ほどの回転でデータストームビームの放射を終えたロゴリスト・オーラムがフェーズドアレイキャノンを閉塞した。
『今だ! 攻撃開始!』
フェーズドアレイキャノンの範囲から免れた《ドミニコス》のモビルスーツ部隊が、フライトシステムで前進を開始する。
無数のビームがバナト上空を交錯した。
金色の装甲を閉塞して滞空するロゴリスト・オーラムは、泰然とそれらのビームを受け止め、弾き散らした。
『効いてないぞ⁉︎ 』
『大出力火器! 出せ!』
前線部隊が泡を食っているところに、バナト市街からさらに七機のモビルスーツが飛び上がってきた。
今度は装甲が銀色のGUND-RESS・ロゴリスト・アージェ。
すべてサウファに縁のある傭兵が操縦している。
それらが全身の装甲を展開してシェルユニットを発光し、合計十四門からのデータストームビームを広範囲にばら撒いたのだ。
『ぎゃあああっ⁉︎ 』
またも、今度は逃れようのない赤光の槍衾の前に、バナトを取り囲んでいた《ドミニコス》モビルスーツ部隊の前線チームがほぼ壊滅してしまった。
「……フン。
鼻を鳴らしたサウファが吐き捨てる。
そこに突如、
真上から急降下してきた鋭角のフライトシステム──緊急展開ブースターが、滞空するロゴリスト・アージェの一機を巻き込んで直下のビル群に突き刺さり、間を置かずにサウファのロゴリスト・オーラムにも凄まじい勢いでモビルスーツが激突してきたのだ。
いや、それはもはや自由落下を利用した飛び蹴りだった。
『また会ったな!
「貴様ッ⁉︎ 」
それはケナンジが駆るベギルベウ。その本来の姿である宇宙戦仕様だった。
足首がクローフットに換わり、猛禽の如くロゴリスト・オーラムを掴んでいる。
「
大推力のスラスターを全開にして振り回し、ロゴリスト・オーラムを地上めがけて投げ捨てた。
『ぬううう⁉︎ 』
墜落するロゴリスト・オーラムがスラスターを噴かすが、度重なる真上からの衝撃に抗しきれず、ビルの屋上に飛び込んでいった。
「ザマァみろだ! クソ野郎!」
『あんたもネー』
突然割り込んできた少女の声と共に、滞空するベギルベウの横ツラが蹴り飛ばされた。
『ンがっ⁉︎ 』
──接近警報が無かった⁉︎
混乱するケナンジが、空中で機体を立て直し、センサーを伺う。
遠距離からの不意打ちを避けるために、本来宙間戦用の、バックパックに突き立つ二基のマルチセンサーを持ってきた。
なのになぜか、今の攻撃に反応せず、そこにいるはずのモビルスーツを捉えていない。
「今のは……?」
『全隊に通達! GUND-ARMが出現! 形状一致! バナトの白い悪魔だ!』
本隊の緊急通信にケナンジが目を剥いた。
「なんだと⁉︎ どこにいる!」
慌ててセンサーで探る。
だが、相変わらずGUND-ARMのパーメットリンク識別コードが拾えない。
その時、バナト市街を取り囲む、データストームフィールドを支えているタワーのうち一本が、衝撃に揺れて、そして轟音と共に倒壊していった。
「なんだぁ⁉︎ 」
「そこかよ!」
コントロールルームのハイルブロンが。
コクピットのケナンジが。
倒壊するタワーの根元に、見覚えのあるモビルスーツの姿を認めた。
────────◆
「ごめんね。こんな事、頼める義理じゃないのに」
「いいんだよ博士! クルティから聞いてるし」
「ムーたんの事は任せて」
ラベンダーのノーマルスーツを着込んだメルデとシィルの前で、両掌を合わせたヘレネが深々と頭を下げた。
「おいおい! なんでお前らが
その格納庫の一角に、ブランドンが血相を変えて駆け込んできた。
「俺たちにバナトの戦争は関係ねえ! このまま紛争のない地方に移動するハナシだったろうが!」
「「
ヘレネを回り込んで、メルデがブランドンの前に立ち塞がった。
その隣にシィルも並び立つ。
「隊長。今までお世話になりました。退職金として、エオルを貰っていきますね」
「ええいまたワケの分からん事を」
頭を掻きむしって見上げると、エオルはこれまでと様相を変えていた。
一番の特徴は、顔面を全て覆っていたバイザー型のシェルユニットを排し、従来のルブリス系列のツインアイのフェイスを晒した事だが、新たなシェルユニットを、額と、マスク部分に装着していた。
ボディには、所々にあのロゴリストの装甲が増設され、シルエットが鋭角に、攻撃的に変化していた。
カラーをホワイト一色に刷新した、その姿はまるで。
「──これは、あの時の「謎の白い悪魔」じゃねえか……?」
──次回、最終回。
※GUND-RESS・ロゴリストのデザインのイメージモデルは、A・トール スクリティ です。