【完結】双子座の魔女 ──機動戦士ガンダム 水星の魔女 外伝   作:鉄槻緋色/竜胆藍

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第2話 無貌の悪魔

 

「昨日の《ヨトゥンヘイム》の結果は、『ボック騎士団』の勝利となった」

 

 キッチンフロアの大型モニターに表示されたデータを、親指でさしてブランドンが言った。

 フロアにはメルデとシィルの双子のほか、へレネ博士と、作業服姿数名がめいめいテーブルについている。

 それと、タクティカルジャケットを纏い、武装したメンバーが数名、壁際に立っていた。

 

「勝利、と言っても、あのミサイルの絨毯爆撃の中で運良く生き残ったのが、なんたら騎士団のひとりだった、ってだけでな」

 

 言いながら、ブランドンがサングラスを上げて手元の携帯端末を操作する。

 大型モニターの映像が変わった。

 

「あの後のバナト側のモビルスーツ回収部隊の手際が早いのなんのって、もうあっという間に木っ端微塵になったモビルスーツの残骸をぜんぶ持って行きやがった。だから、こっちの調査じゃほとんど分かる事は無かったが」

「結局あんだけミサイルをバラ撒いても、白いヤツの欠片ひとつ見つからなかったんだ」

 

 頬杖をついて聞いていたメルデが口を挟んだ。

 

「だからドンからの予定変更の連絡も無く、このままエオルを出撃させられるわけだけど」

 

 続いてシィルも似たような姿勢で滔々と語る。

 

「それはつまり、あのミサイルをぜんぶ避けたか、爆発を無効化するテクノロジーを持った何者かが逃げ延びていて、どこの誰の差金か、敵か敵じゃないかもわからないまま、もしかしたら気紛れにこっちにも襲いかかって来るかもしれない、という事だね」

「おう、ぜんぶ言わないでくれ俺の仕事なんだ」

 

 ブランドンが、どこか気落ちした調子で呻いた。

 

「ごめんなさい戦闘顧問。賢すぎて」

「どんまいヴェこもん!」

 

 しれっと応えたシィルとメルデの言葉に、ブランドンは静かに天を仰いだ。

 

 

 数日後。

 予定の時刻、指定の場所に、モビルスーツ専用運搬トレーラーが停車した。

 

『カメラのドローンが見えるかい?』

 

 このトレーラーの運転手から、荷台のコンテナ内のエオルのコクピットに通信が入る。

 

「見えるよ!」

「近くでこっちを見てるのが5つ」

 

 メルデは何か操作した訳ではないが、シィルが正しく数を答えると、全周型モニターに映る外の景色の各所にアイコンが五個出現した。

 

『運営からの指示に寄れば、時間になったら、なるべく派手に、カッコよく登場してほしいそうだ』

「そんな事言って、荷台からジャンプするなって、いつも怒るじゃん!」

 

 運転手の指示に、メルデが文句を言う。

 

『だーから、なるべくでいいってよ』

「わかったなるべく派手に出てみる」

 

 シィルが冷淡に口早に応えた。

 通信機越しに運転手の息を呑む音が聴こえた気がしたが、双子は無視した。

 インターフェースにカウントダウンが表示された。

 

 夕暮れ時のバナトのスタジアムは早くもあらゆる照明が煌びやかに内外を彩り上げていた。

 《ヨトゥンヘイム》は今日も盛況であった。

 メインスクリーンにはMS運搬用トレーラーが映されており、MCが「あれは噂の白い悪魔かどうか」などと煽り立てていた。

 その時、トレーラーのコンテナが左右に展開を始めた。

 天板が開き切るのを待たずに、中から鋭いものが斜めに射出され、観客がどよめいた。

 それは、実体剣のような巨大なアンカー。

 そのアンカーがワイヤーを引きずって飛翔し、廃ビルの高所の外壁に突き刺さった。

 続いてコンテナ後部から帯状のものが弧を描いて飛び出して、地面に突き立った。

 それは無数のくさび形の部品をワイヤーで繋いだものに見えた。

 観客が訝しむ暇もなく、空中のワイヤーと地上の帯状がピンと張ると、コンテナの中からモビルスーツが引っ張られるように後ろ向きに飛び出してきた。

 同時に高所のアンカーと地面の楔を引き抜いて、巻き取られるように急速に縮んで背中に、腰に装着される。

 着地は、それと同時だった。

 すっくと姿勢を起こしたそのモビルスーツは、人体に限りなく近いバランスの体躯だった。

 バックパックの中央には、そそり立つアンカーブレード。

 腰背部には、先ほどのくさび形の部品が一直線に結束して構成された直剣が、尻尾のように設置されている。

 そしてその左右にはウェポンマウントが一基ずつ。

 ボディはホワイトとラベンダーのツートンカラー、上半身の各所に配置された黒色半透明のプレート。

 額には、シルクモスの触覚を思わせる幅広のブレードアンテナ。

 そして、顔は、半球状の黒いバイザーに頭頂まで覆われていた。

 

『所属不明! 《無貌の白い悪魔》の登場だァーーッッ!』

 

「ウチの名前は出さないでくれるんだねー」

『最低限の約定さ』

 

 メルデにブランドンの声が通信で応えた。

『運営との遣り取りは俺がやる。そっちに通信は行かないだろうが、一応メットのバイザーはスモークにしとけよ』

「もうしてます」

『いい子だ』

 

 シィルの返答にブランドンが応えた。

 

「ねー相手はあ? ぜんぜん情報くれないじゃん」

「もうここまで来たら教える気無かったんだよ。ほらご覧」

 

 振り返ったメルデにシィルが告げると、メインモニターの一画に小さなウインドウが開き、スタジアムで表示されているであろうメインスクリーンの内容が表示された。

 

『"無貌の白い悪魔"に挑むのは! チーム「ホワイトウッドステークス」だあ!』

「ダッッッッッさ⁉︎ 」

 

 MCのアナウンスにメルデが悲鳴を上げる。

 

「「白木の杭」って本気で悪魔退治ごっこのつもり?」

「そうでもないよ」

 

 モニターのウインドウが切り替わり、荒野に並び立つ対戦相手のモビルスーツの群れが映った。

 

「あぁ、そういう」

「グラスレー社のハインドリー。わりと最近のやつ」

 

 シィルの言葉に続いて次々とメインモニターにウインドウが開かれ、該当モビルスーツの情報が表示されていく。

 

『参ったな。しかも「ハインドリー・イーゲル」って武器試験機だ。あんなにいっぱいスパイク担いで来やがって』

「ビームが効かないって思われたんでしょ?」

 

 ブランドンの指摘の通り、騎士の甲冑めいたデザインのその敵モビルスーツ──ハインドリーは、右腕にビームハンドガンと合体した電磁式射出装置を装備しており、そこに自身の全高に並ぶほどの長い杭を一本装填していた。

 さらに、バックパック左方のマウントにも五本もスパイクを担いでいた。

 

 ──それはまさに片翼の堕天使──

 

 スタジアムのMCの紹介を聞いてメルデが大爆笑する。

 その上、空いた左手にも一本同じ杭を握っていた。

 これで一機につき計七本、スパイクを持っている事になる。

 

「うわぁ。しかも、それが十機……」

 

 笑い過ぎて滲んだ涙を拭いながら、メルデはわざとらしくぼやいた

 シィルには分かる。全く同じ感想だ。

 今のメルデの驚嘆は「バカじゃないの」というニュアンスだ。

 

 

『戦闘開始だ。始めてくれ』

「ラジャー!」

「行くよメルデ」

 ブランドンからの通信を合図に、メルデはペダルを踏んでルブリスエオルを前進させた。

 目の前に広がるゴーストタウンの、半壊して朽ちた高層ビル群へ、のしのしと進入してゆく。

 モビルスーツの全高を以てしても迷路のようなビル街である。視野は非常に悪い。

 データ受信の音が鳴るや、メインモニターの光景に十個ほどのアイコンが現れ、インターフェースにこの戦場の簡易マップと、敵機を示すアイコンが表示された。

 続いて敵機を示すアイコンに「A-1」から次々と番号が割り振られてゆく。

 それら十個のアイコンが、大まかに三つの集団に分かれてゴーストタウンへの進行を開始したようだ。

 ただし、うち一個が真っ直ぐの進路で急速進行している。

 ──向こうには、こちらの位置がわからないはずだが……?

 

「メルデ、そろそろ」

「そうだね。始めよう」

 

 シィルの合図に、メルデはグリップレバーを握り直した。

 シィルも手元の棒状を握り込むが、それは操作レバーでも何でも無く、ただの手すりである。

 その代わり、シィルの両手首からケーブルが伸び、操縦機構に繋がっていた。

 

「「パーメットスコア、ツー!」」

 

 ふたりの声が唱和した。

 その途端、エオルの上半身にあった黒色半透明のパネル──シェルユニットの内部に赤い光条がノイズのように幾重にも迸り、無貌のフェイスバイザーにも光条が上下に走ると、まるで紋様のような配置を描き出した。

 すると、それまでAIの自律制御で一定の動作で歩いていたエオルの歩調が、突然リズムを崩してまるで子供の散歩のような歩き方に変わった。

 両腕の振り方までぞんざいになり、全体的にまるでヒトの着ぐるみかのような有機的な動作へと変化したのだ。

 

──突出してきた敵機は、斥候だ。

──こちらを探し出して仲間へ位置を知らせる役目。

 

 テレパシーなどというオカルトめいたものでは無く、二人とも同時に同じ思考を閃いた。

 

 メルデの操縦で、エオルが先行してくる敵機の方角へと向きを変えて走り出した。

 マップによれば、そこに程よい高さのビルがあった。

 そのビルの至近にまで駆け寄ると、スラスターと併せて跳躍し、半ばほどの高さの壁の突起に片足をかけた。

 それと同時に、エオルのバックパック中央の突起──アンカーブレードが上を向いて、射出された。

 飛翔するアンカーブレードはワイヤーを引きずって隣のビルの上層階の壁に突き刺さる。

 かけた足を蹴り跳躍するのに連動して、アンカーのワイヤーを巻き取りながら上昇してゆく。

 その時、目標のビルの屋上に、先行してきた敵機がスラスターを吹かして飛び乗ってきた。

 ──想定通りに。

 

「せっ」

 

 メルデの声と共にアンカーを引き抜いたエオルが、上昇した勢いのままその敵機──ハインドリー・イーゲルの「A-4」にドロップキックを見舞った。

 首を急角度に捻じ曲げられたハインドリーが、慣性的にゆっくりと体勢を崩していくと、やがてビルの向こうへ落下していった。

 スラスターで姿勢を整えてその屋上に着地すると、敵モビルスーツが地面に激突する轟音を聞きながら、エオルは後方に跳躍してビルを降り地上に着地した。

 

──この辺に敵機が集結してくる。

──少ないところから仕掛けよう。

 

 綿密な打ち合わせなど無い。

 メルデとシィルは産まれてからずっと一緒で、思う事も感じる事も、まったく同じくして生きてきたのだ。

 

 他の敵機は三機でひと組みの三小隊でこのゴーストタウンに広く展開していた。

 その中でも最も離れた位置にいた小隊めがけてエオルが駆け出した。

 走り幅跳びの要領で大股三歩ほど跳ねると、最後に大きく跳躍してくるりと背を向けた。

 同時にバックパックからアンカーブレードが射出され、遠くの高層ビルの外壁に突き刺さると、それにぶら下がって振り子の要領で大きく身を振り、弧の頂点でアンカーを引き抜いて勢いのまま宙を舞った。

 やがて迫る地面に、エオルは全身の関節を柔軟に駆使して静かに着地した。

 今の一連の動作で、エオルは街の数区画分の距離を移動していた。

 

──振動センサーにもかからない長距離移動。

──敵チームの裏か側面を強襲する。

 

 マップによれば、ここの区間の向こう側の通りに三機いた。

 ただ、その周辺は建物が低く、メインモニターでも敵機の頭が見え隠れしている。

 エオルは身を低くして駆け出した。

 腰背部の直剣が、節ごとに結束を緩めて帯状に伸びていく。

 だがそれは重力によって垂れ下がる事なく、真っ直ぐに後方へ伸張した。

 それはまるで獣脚類の恐竜の如く。長大な尻尾で重心バランスを取り、低い姿勢のままの疾走を可能としている。

 しかし、さすがにモビルスーツの足音は消しきれず。目標の三機のハインドリーがこちらに気付き転身する。

 

「このまま!」

 

 メルデが吠え、一番近いハインドリー「A-3」に向かって鋭く跳躍した。

 空中で、膝蹴りの姿勢に移行する。

 なお、ルブリスエオルの膝部分には、ニーガードを被ったスラスターノズルが設置されている。

 そのスラスターノズルから、光が迸って結束し、ビームサーベルとなった。

 ただし、サーベルと言うには短過ぎるそれは「ビームトーチ」と呼ぶべき代物だったが。

 いずれにしても、エオルの跳び膝蹴りビームトーチは過たずハインドリー「A-3」の胸板のど真ん中を貫いた。

 仰向けに倒れる敵機の向こうで、ハインドリー「A-1」と「A-2」が右手の銃器をこちらに向けた。

 

「あっちの武器の情報は?」

「取れてる。もう入れた」

 

 メルデとシィルが短く遣り取りする。

 

──敵機のスパイクと電磁式射出装置の形状を解析。

──長大なスパイクの、先端と後端が同時に見えている場合、エオルには当たらない。

 

 ふたりは同時に敵の武器の弱点を見切り、シィルがその特性をAIに入力していたのだ。

 エオルが両手を背後へ回し、腰背部左右のウェポンマウントのグリップを掴むと、それを引き抜いた。

 真正面に構えたそれは、二丁の拳銃に見えた。

 デザートイーグルを太く長くしたような形状の、エオル専用のビームハンドガンである。

 敵機二機それぞれに向かって二発ずつ発射。

 それは敵機左腕の円形のシールドに容易く防がれる。

 被射撃警報(アラート)。敵機は、電磁式射出機からスパイクを撃ち出しながらビームハンドガンを放ってきた。

 超高速で射出されるスパイクの予測軌道はAIが算出している。それによれば、エオルには当たらないが、エオルの左右を通過してゆく。

 すなわち、こちらの回避する場所を狭めてのビームハンドガンの攻撃だ。

 

──守るよ。

 

 ふたりは直感的にそれらの攻撃を察知した。

 敵機のビームが弾けて四散する。

 エオルの前に、アンカーブレードと、尻尾の帯状──フレキシブルダガーが回り込んで射線を塞ぎビームを防御したのだ。

 アンカーブレードの刃部分と、フレキシブルダガーのワイヤーで繋がれた刀身が、ビームサーベルと同じ青い輝きに包まれている。

 そしてアンカーブレードを繋ぐワイヤーと、伸びたフレキシブルダガーは落ちる事なく、スラスターの噴射も無く宙に留まり、まるで蛇のようにのたうつと、意志あるものの如く鋭くしなり。

 敵の動揺など見えやしないが、アンカーブレードが棒立ちの敵機「A-2」の胸郭に深々と突き刺さった。

 同時にエオルが駆け出し、メルデのトリガーでビームハンドガンを三点射、敵機「A-1」にヒットする。

 どれもグリーンの装甲を叩くに終わったが、そこでエオルが素早く回転しながらしゃがみ込んだ。

 恐らく敵機からはエオルが消えたように見えただろう。

 そして遅れて振り回されてきたフレキシブルダガーが敵機「A-1」の両脚を横薙ぎに切断した。

 転倒してゆく敵機「A-1」の直上に跳躍したエオルが、再び宙で身を捩る。

 鋭いスピンで振り切ったフレキシブルダガーが、刃の列が怒涛のように斬りかかり、倒れた敵機を袈裟懸けに両断した。

 

 

『ホワイトウッドステークス、四機目がダウーン!』

 その光景は、その戦闘機動は、数日前に現れた白い乱入者とは似ても似つかなかったが、それでも多勢に対して臆する事なく、単騎で果敢に翻弄する闘いは、確かにスタジアムの観客を沸かせていた。




ガンダムルブリスエオル
https://gumpla.jp/hg/1434839
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【挿絵表示】

ガンダム ルブリス エオル front

【挿絵表示】

ガンダム ルブリス エオル rear
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