『AGP換装した金剛改二と長門型艤装を身に着けた戦艦・加賀がハチャメチャに暴れる話』泉浜鎮守府航海日誌 ダイヤモンド・フォートレス 作:沖野潤一
「第一艦隊、金剛よりCP。団体様を視認したデース。送れ」
そう言った金剛の、目の前に広がるのは大海原。風は強く、波はうねり、曇天は今にも泣き出しそうだ。
空を眺めて、金剛はひとつ、息を吐く。
『CPより第一艦隊。深海雲による電波障害のため、敵艦隊の規模確認できず。電探及び目視にて確認、報告せよ。送れ』
分かっていたこととは言え、護衛艦よいまちづきからの報告は金剛、そして第一艦隊を落ち込ませた。ざっと水平線を眺めて、カチューシャに意識を集中する。
「だいたい、50ぐらいネ」
『50隻のおおまかな構成は――』
「――ソーリィ、50
馬鹿げた規模だった。通常、艦娘は六隻程度の構成で艦隊を編成する。深海棲艦もそれはおおよそ共通しているらしい。
300対6。それが、この海域における彼我の戦力差だった。
「テートク。敵の陣形が分かったらとっても嬉しいんだケド」
指揮所ではなく、金剛は敢えて彼女の指揮官に問いかけた。既に
『――よし、偵察用ドローンを一機潰して情報収集する。少し待て』
制空権のない海域に対して飛ばすには高級過ぎる装備品だが、艦娘側の装備は戦闘力に全振りしてある。人間側でなんとかするしかない。通信が切れて、少しの沈黙が流れる。
金剛は大きく伸びをした。その肩を、摩耶が叩く。
「対空は、あたしと鳥海に任せとけ。主力に指一本触れさせやしないぜ――ま、あたしらだって主力のうちってのが、なんつーか悲しい話だけどさ」
第二次改装が間に合った摩耶と鳥海。ふたりとも、鈍く輝いた新たな艤装のチェックに余念がない。対空機銃類の大幅増設、電探性能の向上など、絶対に敵の戦闘機を墜とすという気合いと自信に満ち溢れていた。
天龍と龍田は、じっと空を見上げている。
「なぁ、龍田」
「なぁに」
「俺たちの第二次改装の話、ホントかな」
「うふふ。またその話? 天龍ちゃん、よっぽど――そういえばあの人も珍しく喜んでたわね。非公式の情報だけどって」
「軽巡エースの俺らが改装受けたら、どんぐらい強くなるのか楽しみでしょうがないぜ。そう思うだろ。二刀流とか、主砲の搭載数増えたりとかさ」
「そうねぇ。私はどんな服になるのかが気になるかな。可愛いといいんだけど」
龍田も天龍も、笑いながら。
「改装を受けられるように頑張りましょ、ね?」
「――ああ」
改装が間に合っていたら、という、
「ヘーイ、電。足元はどう?」
唇を硬く結んだ電は、他の第一艦隊メンバーに背を向けて、じっと海面を見つめている。水中探信儀の能力を限界まで高め、少なくとも会敵までの間、敵潜の奇襲を防いでいる。
「ソナーに感なし。念のため、あとで近接信管設定の爆雷を撒くのです」
「オッケー。やっちゃって下サーイ」
やることはやった――とは言っても、それはあくまで現場のレベルでしかない。今回の事態を防ぐため、果たして自分たちはベストを尽くせていただろうか。
金剛は少しの間考えて、そしてやめた。
『こちらよいまちづき。敵艦隊は輪形陣に近い陣形、毎時35ktでこちらに接近している』
「とってもお急ぎなのネ」
『大雑把ではあるが、敵艦隊の構成も把握できている。『姫』もしくは『鬼』級を中心に、戦艦棲鬼級を多数確認。それに――』
「
『アタリだ。支援艦隊の出撃も予定通り、繰り上がる見込みもなし。少なくとも数時間、お前たちだけで敵艦隊を食い止めてもらうことになる――せめて、隼鷹か赤城の艦載機が飛ばせていれば良かったんだが……すまない』
「テートクらしくないじゃない。弱気はノーなんだから」
ハの字まゆ毛で摩耶が鼻を鳴らした。
「さすがの提督も、コトが起こる前にあんだけ頑張った結果がコレじゃ、がっかりもするだろ。いくら泉浜の規模が小さいって言ってもさ、三艦隊は組めるウチで動かせた艦娘がたったの六人だぜ」
「むしろ、六人も出撃できたのは凄いことじゃナイ? だって、あちこちにある鎮守府の中で、艦隊が組めたのは私たちだけなんだカラ」
『無駄口はいい。風のせいか敵機はまだ出てないが、いつ上空を抑えられるか分からん。そうなったら摩耶たちが頼りだ。なんとか凌いでくれ』
「へいへい、了解――」
不意に摩耶の視線が鋭さを増した。
「――来るぞ!」
敵艦の発砲炎が、遠く波間に瞬く。
「ヘイ! 全員私の後ろに!」
金剛が両手を広げた。
「総員、
言葉と共に、金剛の艤装――左右に張り出したバルジ状のパーツが、まるで盾のように前面で組み合わさる。打ち合わされ、波間に鳴り響く金属音。
直後、横殴りの雨がごとく、砲弾が降り注いだ。
『金剛ッ、無事か』
金剛は応えない。この防壁は彼女によって力場を維持している。集中力が切れた瞬間に防壁はただの金属板に戻り、たちまち第一艦隊は全滅するだろう。
「鳥海、アタシたちの出番だ。3、2、1……今ッ!」
晴れない弾着の煙。立ちこめたベールを切り裂いて、摩耶、鳥海が左右に飛び出した。小手調べとばかりに飛来した敵機。敏感に反応したふたりの艤装から、機銃が弾丸を吐き出して、艦隊の頭上をカバーする。相手からすればお遊びにすぎない攻撃でも、第一艦隊六人にとっては致命傷になり得る。
「天龍ちゃん。魚雷は温存ね。まずは数を減らしましょう」
「上等だ、行くぞ龍田ァ!」
天龍が対艦刀を抜いて波を蹴り、龍田が薙刀を振り回す。
その背後で、着弾の煙を切り裂き、女が立っていた。
金剛だ。
「さあ、パーティータイム、行っちゃいマス」
直撃に耐えた
「泉浜第一艦隊、全艦――」
金剛がそこまで口にした瞬間、波間から飛び出してきた影がいた。
咄嗟に右舷側バルジで防御。攻撃を受け流す。目の前を過ぎる影と目が合う。
――やっぱり、あなたネ。
深海棲艦は目線を受け止めてにやりと笑う。
金剛は同時に、合わせた目で相手の言いたいことも分かってしまった。
――バカナ ヤツラダ。
そうだろう。既に金剛は一度彼女に敗れている。まして、今回の戦いは圧倒的な戦力の差がある。本来なら戦闘になるかどうかすら怪しいものだ。護衛棲水姫と呼ばれる彼女が泉浜第一艦隊を、金剛を、人間をあざ笑うのも無理はない。
だが。
「第一艦隊、
金剛はそう叫び、笑った。
私たちは諦めていない。いや、絶対に勝ってみせる。
金剛は、その自信を笑顔に変え、そして護衛棲水姫を睨み付けた。
「――行くデース!」
金剛の主砲が光を放つ。摩耶が、鳥海が、天龍が、龍田が、電が波を蹴る。
薄暗い護衛艦の戦闘指揮所、モニタを見上げて、真田が唇を噛む。
「持ちこたえろよ、みんな……!」
彼我戦力差50倍の、絶望的な戦いが始まろうとしていた。普通ならばそれは戦いというレベルですらない。ただの一方的な虐殺。
しかし、泉浜鎮守府の誰もが信じていた。戦って、勝つと。
嵐が、すぐそこまで、迫っていた。