『AGP換装した金剛改二と長門型艤装を身に着けた戦艦・加賀がハチャメチャに暴れる話』泉浜鎮守府航海日誌 ダイヤモンド・フォートレス   作:沖野潤一

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『戦艦(ダイヤモンド)は砕けない』

一.

 

『艤装、降下用固定具の安全装置解除。泉浜第二艦隊、降下開始まで2分30秒』

 管制員の通告は、降下前の窮屈さから私を多少救ってくれた。この輸送機は艦娘向けに調整されているものの、艤装の型や降下装備によってはかなり窮屈になる。この点は改善要望を出しておこう。きっと、これからも長い付き合いになるのだから。

 眼下の戦場では、高空からでは火花としか見えない爆発と火線が散っている。

 黒々とした深海棲艦の波を、けし粒のような希望が押し留める。射程距離のぎりぎりに位置する護衛艦が一隻。よいまちづきだろう。既に敵機の攻撃を受けているようだ。

 深海棲艦の武装に対して、既存の護衛艦では対抗できない。装甲など飴細工に等しい。機動力を犠牲にした増設バルジがあるだろうが、このままでは()()のも数分だろう。

 急がなくてはいけない。

「ファルコン(ワン)より管制室。海域の状態が想定より急を要する。降下の許可を」

『管制よりファルコン1。確認した。降下を許可する』

「飛行甲板は三枚とも後続に先行して投下を。デコイもお願い――許可、ありがとう」

『管制より了解――真田を頼んだぞ、空の女神』

 お決まりの『幸運を祈る』ではなく、そう言われて苦笑した。お決まりで返しておく。

()()()()()

 その条件は私にとって()()()()()()に過ぎない。私の作戦目標は、もっと先にある。

 艤装の動作を最終確認。先日以来久しぶりに背負った、あまり愛着はない艤装。だが、相応にしっくりと馴染む()()に、運命の悪戯を感じた。

 大丈夫、やれる。

「葛城。飛ばした艦戦、ありったけを護衛艦の直掩に付けて頂戴」

「そんな、私だけで!? あんなに敵機がたくさんいるんですよ!?」

「あなたが抑えるのよ。私のは全て第一艦隊の防空に回すから、余力はないわ。大丈夫、あなたの力を信じなさい――葛城なら、あなたの翼なら、やれるわ」

「――っ、分かりました。あの子たちなら、きっと」

「降下しない分、慎重になさい。この機を狙わせないように」

「了解です!」

 まだ飛び始めたばかりの雛鳥のようでいて、もう一人前の横顔を見せる。面白い後輩ができたものだ。鍛え甲斐もありそうで、柄にもなく心が躍る。

「か、加賀さん。自分で本当に大丈夫なんですかぁ」

「あなたは撮影係兼・砲雷戦力よ。なるべく私から離れないで、カバーをお願い」

「簡単に言ってくれますよねホント……ゆーちゃんは姿が見えないし」

「あの子はもう先行してるわ。さっき降りたけれど、見ていなかったの」

「えええ」

「彼女は私が呉に着任した時からずっと事情を知っていたの。黙っていて悪かったわ」

「――いえ、逆に燃えて来ました。そうまでして隠し通したダブルフェイス、不肖青葉がばっちり取材させて頂きます! ――だいじょうぶかなぁ……」

 第二艦隊とは名ばかりの少人数だが、今の第一艦隊――ひいては泉浜鎮守府にとって、力強い援軍になれるはず。いずれにせよ、手遅れになる前に行かなくては。

(それにしても――)

 空挺降下とは。目の前で開き始めた降下ハッチを眺めて、私は静かに息を吐いた。心は穏やかで、焦りも恐怖もない。ただ、自分の使命を果たすだけ――いや、少し違うか。

 いつだったか、あの人と飛んだ空を思い出す。青く白く、どこまでも続く空。

 そしてこの空は、私を救うため、一年前にあの人が飛んだ空。

 こうして、また空を舞う日が来るとは思ってもみなかった。本来私たち空母にとって、空は護るもの。自分がそこで舞い踊る場所ではない。

 だけれど。

 空を知ったことで、私は前に進めた。空を知ることで、空と接する地の暖かさを、海の柔らかさを、優しさを知った。

 あまねく全てを守れるのは、私たち空母だけ――それはまさに、誇るべきことだった。

泉浜十一番艦試型(IZM-011-X)()()()()()()・加賀」

 だから私は。

「――抜錨ッ」

 ふたたび空へと、その身を躍らせた。

 

 

二.

 

 目の前で、目標(Hotel)が爆散した。

 状況が飲み込ない。今の砲撃は明らかに大口径の主砲だった。それが彼女に降り注いだかと思った次の瞬間、戦況は一変していた。

 ――()()()()()()

 敵がそれを察知した時には遅かった。

「金剛さん! ()なのです!」

 電の声が弾む。回避航行の合間に見上げた。なにかが凄まじい速度で降りてくる。

「あれは――空挺降下!?」

 シルエットは明らかに長門型戦艦だ。特徴的な、大きく広がる艤装の主砲支持アーム。しかし、この雰囲気はよく見知っている――そして。

『なにをしているの、金剛! 十時方向、目標J!』

「ッ! 防楯効果(Sheld-Effect)、全開ッ!」

 叱咤の声は()()()。反射的に防楯で砲撃を防ぐ。その間にも降下中の加賀を砲撃が襲う――なぜ、加賀が戦艦で現れたのか? いったいどうやってここに?

 それらすべてを蹴散らすように、加賀は()()した。

 爆発的な衝撃で上がる水柱。勢いに押された大波が周囲の敵艦を、敵機を跳ね飛ばし、飛び散った海水が滝のように降り注ぐ。

 ――加賀だ。

 まるで海霧のような中に――()()()()()が立っていた。姉妹艦の土佐、そして八八艦隊計画と共に幻と消えた戦艦が。

 彼女はここに現れた理由を、たったひと言で告げた。

「ここは、通行止めよ」

 瞬間、敵の砲撃が降り注いだ。悲鳴を上げる暇もなく、弾着の炎と煙が加賀を覆う。

「――っ加賀!」

 思わず名を呼ぶが、弾着の爆発、衝撃、黒煙に押し流されて消えた。ただ見つめることしか出来ない私と第一艦隊。

 がこん、と音がした。

 それが主砲の仰角調整だと気付いた瞬間――周囲の敵艦が消し飛んだ。四十一(センチ)砲の一斉射撃、四基八門の圧倒的な火力が、敵を薙いだ。

 そして煙の中から、加賀が現れた。()()()

 周囲の敵艦を()()の奥から睨み付けた加賀。

「通行止めと言ったでしょう。他を当たりなさい――私は、第一艦隊ほど甘くはないわ」

「あなたも普段は第一艦隊デショ加賀」

 咳払いする加賀。よく見れば、彼女の周囲を()()が飛んでいる。しかも三枚。手の弓と合わせて考えると空母としての能力も健在らしい。つまり、()()()()()()か。

()()()()って冗談(Joke)デショ」

「いいから、離脱を。これ以上は私も()が持たないわ」

(Shield)?」

 なるほど、少し前から夕張たちが作っていたのがコレか。飛行甲板兼、盾兼、対空砲。加賀たち空母にとっては攻防一体の装備。道理で鎮守府予算が消えていくわけだ。

「ぷぎゃっ」

 そうこう言っているうちにもう一人落ちてきた。なにやらコンテナを抱えている艦娘。

「青葉、全員に補給を。()を一枚回すから、防御は任せて早急に」

「加賀さん人使いめっちゃ荒いですね!? 知ってましたけど!」

 加賀の主砲が放たれ、活路を切り開く。その間にも飛行甲板が防壁を張り、私の盾とで第一艦隊への攻撃を受け流す。

 主砲弾のカートリッジを受け取って、私は上目に尋ねた。

「Hey加賀、どうしてに戦艦(Battleship)へ艦種変更したのデス?」

 加賀は無言で砲を指向、斉射した。

 見たところ、加賀はまだ戦艦に()()()()()()()らしい。仰角調整や主砲の指向、それに各種動作のぎこちなさが見える。それでも、畑違いの艦としては十分驚く練度だ。

 私がそれを知ったと見えて、加賀はぽつり。

「航空母艦の私ひとりで、敵包囲網を蹴散らすことは難しいもの。必要なのは突破力――その点で、長門型戦艦の攻撃力に勝るものは無いわ」

 そう言い放つ加賀の冷静な横顔が、なにより頼りになる。私は前を向いた。体が軽い。背負っていた重圧を、加賀が半分引き受けてくれたからか。

「ちょっぴり弱気になってたデース。ありがとう(Thank you)、加賀」

 私の礼に、加賀は声だけで微笑んだ。

「あなたには借りがあるもの。大きな借りが、ね」

 ()()()の隣は譲らないけれど、と加賀。

 喉から手が出るほど欲しかったもう一人の戦艦と、武器弾薬の補給。それが手に入ったいま、私たちはまだまだ戦える。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 敵の数は数十倍。多くの姫・鬼級も健在だ。なのに、この安心感はなんだろう。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「よいまちづきも、いまごろは支援能力の復旧を目指しているはずよ」

「あっ――」

 そう言えば、加賀はまるで護衛艦(テートク)を気にしていなかった。敵機の脅威が去ったと取れる加賀の言葉に、私は問うた。

「敵機を倒したノ? 加賀の烈風デス?」

「私の弟子候補よ。いまは彼女に任せましょう」

 そう言う加賀の横顔は、今まで見たことのない表情だった。

 加賀が呉で過ごしていた時間は一体どんなものだろう。帰ってから話を聞くのが今から楽しみで、私は思わず微笑んだ。

 そう。私はもう、帰ってからのことを考える余裕があるのだ。

「――泉浜、もっと賑やかになりそうデス。楽しみネ」

「きっと、そうなるわ」

 そう言って私は、一度深呼吸をした。帰ることを考えるなら、当然、この海で片付けていかねばならない問題がある。

 護衛棲水鬼。彼女を、止める。

「決着を付けなくてはね」

 全てを察してくれている加賀の言葉に、私は無言で頷いた。

 

 

三.

 

垂直発射装置(VLS)、あと5分で修復作業完了』

 護衛艦よいまちづきでは、必死の復旧作業が続いていた。あいにく対空機銃は根元から吹き飛んでいたため、煙幕用誘導弾の発射装置に限定している。それもいくつかのセルに破損が認められており、使えるようになるのは片手の指で足りるだろう。

 それでも、第一艦隊の助けになるなら。

「艦長。レーダーの復旧は?」

「機能は復旧済み、あとは深海雲の切れ目待ちです。アンテナが機銃掃射でやられた時はどうなることかと思いましたがね」

「ああ――葛城のおかげで間一髪だ」

「呉鎮守府の所属でしたか、彼女は」

「一応。青葉たちと一緒に、まとめて引き取る予定になっている」

「待望の航空戦力というわけですね。それにしても、見事な援護だった」

「加賀が指導したらしいから、それくらいは当然こなしてくれるだろうとは」

「さすが、ご夫婦の信頼関係は揺るぎない」

 目を奪われた護衛艦は機能半減どころではない。葛城の艦戦が間に合っていなかったらと思うとぞっとする。

 加賀の参戦直後、よいまちづきは再び深海雲の範囲へ入ってしまっている。ある程度の状況はモニタできているが、早く金剛たちとの連携を取り戻さなくてはいけない。

 含みのある目線で艦長が問う。

「加賀が鎮守府を長期間留守にしていたのは、(おとり)と戦力分散を兼ねた緊急避難と聞いていましたが……スカウトマンでもあったわけですか」

「たまたまだ。せっかくだから、ウチで預かることにしただけだよ」

「真田提督、雨の中で捨て猫拾うタイプでしょう」

「拾わずに傘を差して、一緒に晴れを待つタイプだった」

「あなた、そういうマンガみたいなの普通にやりそうですね」

 二人でひとしきり笑って、それから気持ちを切り替える。ここからが正念場だ。

 泉浜第一艦隊は、第二艦隊・加賀と青葉の加入によって息を吹き返した。燃料も弾薬も満足な補給とは言い難い。恐らく継続戦闘は一時間が限界だろう。

 それでも、不在だった加賀の帰還による士気の回復は大きい。

 それを見越したのだろう、艦長からの意見具申。

「本部の支援艦隊は待っていられません。作戦第三段階の実施と合わせて、敵艦隊の主力――姫・鬼級を叩くべきです。提督」

 ここで勝負を決めに行くという艦長の提案は、リスクも大きい。加賀の加入で火力面の心配は減ったが、それでも敵側には圧倒的な数という武器がある。

 飽和攻撃に出てこないのは、あくまでも()()()を見据えているから。そういう意味では今ここで敵に全力を出させてしまうのも、立派な防衛作戦の範疇と言えなくもない。

 泉浜の戦力は、増えたと言っても両手の指で足りる数。勝負に出ていいかは微妙だ。

「艦長――艦隊支援向けの装備は今、どうなってる?」

「誘導弾、煙幕発射装置、ダミー類……慎重にやっても、15分程度で使い切る量です」

「いや、本当に……すっからかんだな」

「元々持ち出せたのが最低限でしたからね」

「欲を言えば、通常弾頭も使えたら良かったが……今さらだな」

 あと二時間の戦いを戦い抜くにはあまりに不足。出撃した時から分かっていたこととは言っても、手数と搦め手で工夫するしかない人間がこれではどうしようもない。

 他の鎮守府で無事だった戦力、物資は呉の本部が管理し、この後の出撃に備えている。彼らがたどり着くまでの絶対防衛ラインを死守する目的を、果たして達成できるのか。

 こればかりは物理的な問題。ないものをひねり出すことはできない――そこまで考えて気付いた。()()()ものが。

「上部甲板作業員へ、こちら真田。撃てなかったミサイル発射セルのうち、()()()()()なものはないか、至急確認してくれ」

『上部甲板、了解!』

 たった一発でもいい。その一発が金剛たちの力になる。

「確認は慎重に頼む。少しでも使えそうなものがあったら逐一報告をしてくれ」

 その時、観測員が叫んだ。

「報告! レーダー機能および通信復旧! 第一艦隊とコンタクト……よし!」

「モニターに出してくれ。金剛たちは無事か?」

 沈黙していたモニタが復活し、艦娘たちの位置、そして敵艦の配置が表示され始めた。第一艦隊の全員が健在。モニタできているバイタル値も至って正常。少なくとも、みんな無事に戦闘継続できていることに胸をなで下ろした。

 そして、第二艦隊の三人が新たに表示される。

 コール音に、慌てて作業のため外していたヘッドセットを付けた。

「金剛。こちら真田。状況はどうか」

『第一艦隊金剛より、テートクへ。現在、敵包囲網を抜けて応戦中。加賀も一緒デース』

 警戒陣で敵の先頭を押さえつつある泉浜艦隊が見てとれた。しかし、大量にいる敵艦はさして数が減っている気配がない。カウントしても、減らせたのは四分の一程度だろう。

「ああ、モニタできてる。姫級はずいぶん相手したようだが、敵艦の数はさほど減らせていないらしいな――だが、よく耐えてくれた」

どういたしまして(Sure.)

 戦闘中にあれこれ話している余裕はない。それに通信がまた切れてしまう危険もある。急いでこの後の連携について伝えなくては。

 ――その前に。

「加賀」

『なに』

「頼んだぞ」

『ええ』

 これくらいは許されるだろう。これでオレたちは充分。続きは、帰ってからだ。

『ん! ん! ――Hey、テートク。イチャついてもいいケド』

「タイミングが大事なんだ。それで金剛、このあとの作戦についてだが――」

 突っ込みを混ぜっ返し、作戦を伝えようとした。それを金剛が再び遮る。

『第一艦隊、金剛より意見具申デース。テートク。第一艦隊――っていうか私はこれから目標Y、護衛棲水鬼と接触……いいえ、戦闘して撃破するデース』

「なんだって?」

 さらりとそう口にした金剛に、こちらが一瞬戸惑った。

 なにしろYはこの海域の最大戦力。オレたち泉浜艦隊は、彼女を仕留めるより敵全体の足止めや撃破を優先していた。ゆえに、ここまで牽制にとどめていた金剛が自分からそう言い出すとは思ってもいない。

「なにか策があってのことでないなら、意見具申は却下するが」

 元々そのつもりだったことを敢えて隠した強い言葉にも、金剛は即答した。

ダメ(No.)。彼女はここで、私が沈めマース』

 金剛の言葉には、いつになく強い意志がある。だから、恐らくそうだろうと思っていたことについて念を押す。

()()()()()()()()ということか」

()()デス』

 だとしたら、今のオレたちにそれを止める権利はない。

 かつての戦艦金剛となんらかの縁があり、それで護衛棲水鬼は金剛を執拗に狙っている。だから瀬戸内海でもここでも、真っ先に金剛を落としに来た。これで、話の筋が通った。

 故に、決着を付けたいという金剛の言葉は、それ自体に意味がある。

「――分かった。電を連れていけ。もうすぐ()()()()()。タイミングはその後だ」

『戦況が? じゃあテートク、第三段階がスタート――』

「まだだ。だが、必ず来る。だからお前は、慎重に行動してくれ」

『了解ネ――Hey加賀、ふたりでちょっぴり暴れるデース!』

「バカ! 消耗は避けろ!」

『幸一さ――提督。どのみち目標Yが出てくるまでは敵艦を押さえる必要があるわ。私がなるべく前に出ます。通信終わり』

「こら加賀! お前まで……くそっ、切れた!」

 思い通りにならないことは、提督をやっていればいくらでもある。

「――真田提督。しっかり手綱は握っていて下さいよ」

 しかし、周囲から降り注ぐ()()生暖かい目線だけは、いつまで経っても慣れない。

 ため息ひとつ。ヘッドセットを机に投げ捨てて、上部甲板の復旧作業を手伝うために、一歩を踏み出した。

 

    ■    ■    ■

 

「全主砲、斉射」

 先頭に立つ加賀の淡々とした声の数秒後、前方の敵集団が消えた。

 泉浜には存在しなかった、長門型戦艦――四十一(センチ)砲の持つ威力に、私も第一艦隊も、そして()()()、呆気にとられていた。思わず声を掛ける。

「どーしたデスか、加賀」

「あなたたちは、いつもこんなものを振り回していたの」

 ()()()()()の照準を合わせつつ、加賀が呆れたような声を出した。

「口径がとっても大きい(Large)デスから、それに合わせて威力が上がるのは当然デース」

「そう」

 デカいものは強い。至極単純(シンプル)で分かりやすい理屈だ。

「こうして威力を肌で感じると――」

「気分が高揚するデショ」

「ええ――とっても。知らなかったわ」

 確かに、自分で撃つのと他人が撃っているそばにいるのはまた違う。

 私も負けていられない。

「第一艦隊、補給は万全デスかー!? 万全ネ、オッケイ!」

「オイ! 摩耶と鳥海が機銃弾込めてるだろーが!」

「問題ないわ。しばらくは私の烈風部隊が直掩を務めます」

「そういうこっちゃねーだろ! っつーか加賀さんもそのナリでよく弓引けんな!?」

「よく気付いたわね。実は、艤装を付けた状態の一番の課題がそれ」

「加賀さん、とっても射撃姿勢が取り辛そうなのです」

 敵艦に主砲弾を撃ちながら。砲弾を斬り落としながら。錨で殴りつけながら。カメラで録画しながら。加賀を中心に泉浜艦隊がまとまっていく。

 こうしていると、加賀の存在が泉浜にとっていかに大切だったかよく分かる。

 だからこそ。なおのこと負けていられないと、私は叫ぶ。

「泉浜第一、第二艦隊、砲雷撃戦よぉーい! 最大戦速で敵の先頭を押さえるデース!」

「了解!」

 私の号令に、数足らずの連合艦隊が船足を上げる。

 先頭を行く加賀。左舷前方に敵艦の群れを見る。北を目指す彼らの鼻先に、戦艦加賀が問答無用の一撃を放った。

 四十一(センチ)砲、四基八門――一斉射。

 装填された徹甲弾が駆逐艦、軽巡、重巡たちの横っ面に突き刺さる。

 遅れて爆発。そんなことはお構いなしに、私と加賀は敵艦の群れを目指す。

「金剛、合わせるわ。十時の敵集団、潰します」

了解(Roger)!」

 加賀の頭上を、数機の雷撃機が抜けていく。懸架された魚雷が切り離され、先頭を進む駆逐ロ級、ニ級、ナ級へと突っ込んでいく。

 敵駆逐艦たちは止まらない。

 彼らの目的はもっと先にある。だから誰がどう傷付こうが、前進こそが大事なのだ。

 そんな彼らのことを、(ふね)である私たちには否定できない。過去が私たちに否定させてはくれない。でも――。

 彼らを止めることが、私たちの存在意義でもある。だから。

「全砲門――撃て(Fire)ェ!」

 私は叫ぶ。沈め、鎮めるために。

 先頭の駆逐集団が消し飛ぶ。爆発と煙を裂いて、後方から重巡、戦艦たちが現れた。

 戦艦はタ級。ル級たちより華奢で、しかしはるかに強敵だ。

「装填、急いで……!」

 先ほどからの()()だ。ついつい、私ひとりで戦っている気になってしまう。私の焦りが伝わったのだろう、こつんと艤装を叩かれて我に返った。

 私には頼れる相棒がいた――加賀が眼鏡(電探)の位置を直す。

「主砲、一番二番斉射――金剛」

なに(What's)?」

()()()()()()()()

 加賀の飛行甲板が飛来して、彼女の左右へ展開。彼女を護る。もう一枚は後方でけん制射撃を続けていた。まったくもって無茶苦茶な装備だ。

 加賀と二人で最大戦速。敵集団へと突っ込む。前方からの砲撃は私の防楯効果、後方を加賀の飛行甲板(Shield-Funnel)がそれぞれ防御。

 ついに無視できなくなったのか、タ級のうち三隻だけがこちらへ向かってくる。

「フフン、お客様がご来店デェス。三名様、ご案内!」

「当店は火器の持ち込みをご遠慮頂いているわ。ご退場願いましょう」

お冷(Water)はセルフサービスとなってマース!」

 偶然の波を捕まえて、私は宙を舞った。左ロールしながら一番主砲を放つ。至近弾。

 私の砲撃でぐらついたタ級の一隻を、加賀の砲弾が貫いた。

 歯がみするタ級たち。()()()()()()()()()()

「敵機直上、急降下――あなたたちは、よく知っているでしょう」

 加賀の彗星が急降下爆撃を仕掛けている。切り離された爆弾が正確に一隻へと殺到。

()()()

 そして、(ふね)がひとになったことで、()を見上げるという動作が隙になる。

 現代の戦いは、三次元なのだから。

撃て(Fire)ェ!」

 横から出てきた重巡が犠牲になった。躊躇なく味方を助けられるのは強い。彼女たちがそれを覚悟してやっているのか、それとも本能なのか、それは分からない。

 分からないが、悲しい。

「三番四番、斉射――一番、タ級をロック。続けて二番」

 だから私たちは戦う。悲しいからといって、それを感じる心を止めてはいけないのだ。そう思うことが大事。悲しみを受け止められなければ、私たちは深海棲艦たちと同じ。

 同航、至近距離。

「暴れ足りないので、少し殴ります」

なんですって(Pardon)!?」

 加賀、面舵一杯。波を滑り下り、そして飛んだ。

 あまりの動きに、予想すらしていなかったのだろう。タ級が慌てて主砲を放った。

 しかし加賀の飛行甲板は抜けない。恐らく、深海棲艦の技術――特殊な防壁を一時的に張っているのだろう。そうする間に、加賀はもうタ級の眼前にいた。

「邪魔よ。寝ていなさい」

 加賀の拳がタ級の頭を揺らす。ド直球の右ストレートが炸裂したタ級は、追撃の主砲を食らって沈黙した。

 そんな加賀の背後に敵の重巡が数隻迫る――が、私はそれを見逃さない。この連中には主砲弾を使うまでも――いや、あとのことを考えると()()()()

「そこデェス! 『インドラ・改』、防楯効果(Shield-Effect)――発動ッ!」

 雷神(インドラ)が宙を舞う。

 防御障壁を纏わせた両舷バルジによる物理攻撃。突如割って入られた形の彼女たちには防ぐ手立ても、それを押し返すだけの膂力(りよりよく)もない。腕をへし折り、武装を粉々にして、雷神の盾が深海棲艦をなぎ払う。

 着水と同時に、主砲一番二番を一斉射。隙を突こうとした最後のタ級を狙う。

 私と加賀を止めたいのなら、姫級をダースで揃えてもらわなくては。

「それにしても、あなたたちの苦労が分かった気がするわ」

「デショ」

 タ級の集団を蹴散らしても、その他大勢の深海棲艦は止まらない。少しずつ数を減らすことしかできず、限りある砲弾、燃料でそれが果たせるのか――。

 私と加賀は、その考えを振り払うように砲を向ける。

「主砲一番、続けて二番、徹甲弾装填――三番四番は通常弾頭」

 ふと、私は加賀に問いかけた。

「Hey加賀、指示が細かいのはクセ?」

「淡々と口にしているほうが落ち着くの」

「それも分かるケド……もっと砲撃の威力を上げる方法がありマース」

「砲撃の威力は砲弾の種類に依存するでしょう――まぁ、聞きましょう」

 せっかく戦艦になって、共に肩を並べて戦えるのだ。この機会を逃す手はない。

 私と加賀の異口同音。さあ、深海棲艦たち、食らうがいい(Eat this)

 

「――バァァァァアアニング……ラァァァヴッ!!」

 

 

四.

 

「艦長、真田提督! 来ました! 第三段階、編隊を組んで戦闘海域に近付く! 接触までおよそ五分!」

 観測員の声が弾む。もたらされた報告は、オレたちが待ちに待っていた仕上げの一押し――作戦の第三段階が開始された知らせだった。

「第一艦隊にマーカーを上げさせろ! なるべく正確に、敵艦隊を狙わせるんだ」

「龍田より入電、発煙筒枯渇のため、照明弾で代用するとのこと。許可しますか」

「許可しろ。攻撃部隊にも伝達」

 司令所が慌ただしく動き出す。この期を逃しては、本作戦の勝利はない。第一艦隊には歩調を合わせてもらう必要がある。

 前線で暴れ回る金剛を呼び出す。

「聞こえたな、金剛。このあとすぐ、敵集団を対象にした()()が始まる」

『空襲!? それじゃあ』

「ああ。第三段階――基地航空隊による航空支援攻撃だ」

『ワオ!』

 かつてトラックや大陸などで活躍した彼らの力を、もう一度借りる。そのための防衛。そのための海域閉鎖。泉浜でなくとも、空を押さえられる戦力があればいい――。

 基地航空隊システムは以前から研究が続けられていた。先日ようやく復活の目処が立ち、沖縄近辺で先行導入されていたものだ。

 今回偶然にも難を逃れた北大東島基地には、一式陸攻の大部隊が配置されている。その力を借りない手はない。

 泉浜艦隊は敵の真っただ中にいる。このままでは空襲に巻き込まれるが――。

「加賀とお前とでみんなを護って退避、残存艦艇の排除は加賀に任せて、目標Yの撃破を目指せ。作戦を許可する」

『! ……了解デース』

 この攻撃で数を一気に減らし、敵戦力の(かなめ)である護衛棲水鬼を倒す。泉浜が力尽きる前にそれができれば、あとは駆けつけてくる味方艦隊に全てを預けられる――。

 ――ちり、と頭の隅でなにかが焼けるような感覚があった。

 ここまでの集団が、空襲を警戒していないなんてことがあるだろうか?

 人間側の一部と共謀して特海の戦力を削ぎ、計画を乗っ取るような形で襲撃を仕掛けてきた連中が、こと航空戦力においてのみ手を抜いている、そんなことが?

「! 新たな敵艦隊を確認!」

 その疑念は、果たしてすぐに確信へと繋がることになる。観測員が叫んだ。

「まずい」

 オレのこぼした独り言に、艦長が立ち上がる。

「敵艦隊の構成は割り出せるか!?」

「検知不可。ですが――」

 その先が予想できてしまう。これはオレたちの油断だ。

「敵艦載機の編隊を確認……これは、恐らく空母機動部隊です」

 敵の先遣隊は空母戦力を出し惜しみしていたわけじゃない。もともと大して編成に組み込んでいなかっただけだ。

 本命の空母機動部隊を、奴らは温存していた。

 観測員の絶望的な報告は続く。

「敵空母から発艦した編隊、基地航空隊への接触コースです! 直掩の零戦部隊が迎撃に向かう模様……ですが」

「多勢に無勢だ。蜂の巣にされるぞ……!」

 しかし航空戦力は他にない。よいまちづきの直掩部隊では間に合わず、数も足りない。

 ただでさえ何もできないオレたちは、黙って光点でしかない戦闘を見守るのみ。

 基地航空隊の編隊、もっとも先頭にいた部隊が敵主力艦隊と接触した。ぽつりぽつりと敵艦を示すサインが消えていくなか、空母機動部隊の敵機が航空隊へと襲いかかる。

 敵の足が早い。せめてあと少し、空爆が早ければ――。

 艦長はただ黙ってモニタを見つめている。

「敵艦載機、第二波が基地航空隊と接触します!」

 空爆前の基地航空隊の横っ腹に襲いかかる様を想像して、オレは拳を握りしめた。

 北大東島からの航空支援を前提として組んでいた作戦が、崩れようとしている。しかし打つ手はない。出来ることは祈るのみ。一隻でも多くの敵艦を沈めて、そして金剛たちを支援してくれと。

 空爆を耐えている金剛たちは、たとえ航空攻撃が空振りだったとしても、笑って敵へと立ち向かうだろう。艦娘の強さは折れないことにある。一度抱いた無念を希望へと変えて舞い戻ってきた彼女たちの強さ。

 オレたちが折れてなるものか、と歯を食いしばった。

「基地航空隊の航空攻撃、第三波まで終了しました」

 効果測定が始まる。当初300隻いた敵艦は、金剛たちの手で50隻以上数を減らしている。

 予定では半数以上、できれば二桁まで基地航空隊によって倒せているはずだった。

「――測定終了。泉浜第一、第二艦隊は健在です。一旦敵集団を抜けた模様」

「敵艦の残存数を報告せよ」

 観測員に艦長が促した。

「はっ……敵残存数、およそ200隻。基地航空隊の被害状況は不明」

 わずかな間、指揮所を沈黙が満たした。

 

    ■    ■    ■

 

 私たち第一艦隊の目に映ったのは、絶望的な情景だった。

なんてこと(Oh my god)……」

 為す術なく敵機に次々と落とされていく航空隊。数少ない零戦たちが陸攻を守るために飛び回り、そして敵戦闘機の機銃で撃ち抜かれる。

 敵集団を抜け、防楯を解除する。

「――これ、ちょーっとマズくないデス?」

「ちょっと、ではないわね」

 航空隊を守るために、必死で烈風を上げていた加賀の奮戦も空しく、陸攻の多くは攻撃すらさせてもらえなかった。腹に爆弾を抱えたまま海へと没していくもの、空中で派手にその身を散らすもの。

 いずれにせよ、泉浜艦隊の立てていた作戦は現時点でほぼ崩壊したに等しい。

 かと言って敵は待ってくれない。

「とにかく、数を減らすしかないデース……!」

 焦るな。勝機はまだある。あるはずだ。

 まるでこちらの窮地を見て取ったように、敵の集団がこちらへ向かって来る。今度は、航空機も惜しみなく投入。()()()()()()()()

 いよいよ正念場。今日はいつだって正念場だったが、やれることを全てやってしまったこのあとは、私たちがなんとかするしかない。

 私は連合艦隊旗艦として、第一、第二艦隊へと呼びかけた。船足を上げつつ、既に砲雷撃戦距離に入った敵艦を睨み付ける。

「Hey摩耶、鳥海! あなたたちのお仕事、よろしくデース!」

「言われなくてもォ!」

「任せて下さい。落とします」

 天龍が対艦刀を、龍田が薙刀を、青葉がカメラを構える。

「……なんか締まらねぇなぁ」

「そんなこと言われても! コレが青葉の武器ですから!」

「まぁまぁ天龍ちゃん。気にしなくてもいいじゃない」

 二人が敵を見据えて、得物を構えた。

「――これからふたりで、とてもお見せできない映像にしちゃうんだから」

「それもそうか」

「ひぃッ。大人しくウェアラブルカメラに任せて、主砲にします主砲!」

 電が主砲の給弾カートリッジを交換した。

「金剛さん。お供するのです」

「そうこなくっちゃネ」

 戦端が開かれる。

 私と加賀の主砲が敵を散らす。砲撃が止んだ間隙を突いて吶喊する天龍、龍田。

 摩耶と鳥海、そして青葉が突っ込んだふたりを援護し、加賀の飛行甲板(Shield-Funnel)が、そして私の『インドラ・改』が砲弾を防ぐ。空を加賀と、まだ見ぬ葛城の艦載機が守る――。

 今できる最大の布陣がこれだ。

 まだだ。状況はまだ挽回できる。今は悪くとも、タイミングさえ合わせれば――。

 私は周囲を見回し、状況を見ることに必死になっていた。

 それが、致命的な油断だったとも知らずに。

「――金剛っ」

 加賀の声と同時、私は強く跳ね飛ばされる。加賀に押されたと気付いたのは数秒後。

 私が目を開けると、そこには。

「ぐっ……ぅ」

「加賀ッ!」

 加賀の左舷艤装がねじ切られている。

「大丈夫、加賀!?」

「心配、ないわ……」

 主機と彼女自身は無事だったのか、気丈に回避航行で砲撃をかわす加賀。そしてそれを追い回す憎らしい影。間違いない。

 私は咄嗟に主砲で狙い撃つ。回避。機銃と副砲で牽制、波で飛び、蹴りを見舞う。

 私の全力を、()()()は受け止めた。

「アハハァ」

 ケタケタと耳に触る笑い声。一番会いたくて、会いたくなかった相手がそこにいた。

 護衛棲水鬼。

「沈メルッテ言ッタヨネェ……!」

 状況は――最悪だ。

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