『AGP換装した金剛改二と長門型艤装を身に着けた戦艦・加賀がハチャメチャに暴れる話』泉浜鎮守府航海日誌 ダイヤモンド・フォートレス 作:沖野潤一
一.
「
傷付いた加賀を庇い、主砲を放つ。護衛棲水鬼はぎらぎらと輝く瞳、光りの尾だけ残し姿を消した。きっとまた出てくる。
私のミスだ。
摩耶と鳥海がカバーに入る。青葉が慌てて加賀を支えに回り、私は突破口を空けるのに全力を注いだ。加賀のぶん、火力が足りない。
「龍田ァ! 魚雷は!?」
「使っちゃう。電ちゃん、ちょおっと手を貸してくれる?」
「了解なのです!」
態勢の立て直しに必要な隙を、艦隊全員で稼ぐ。阿吽の呼吸で動く艦娘たち。わずかにできたスペースを使って、傷付いた加賀をフォローする。
「金剛、大丈夫……まだ戦えるわ」
気丈な加賀の言葉とは裏腹に、左舷側艤装の被害は深刻だった。第三第四主砲は砲身がねじ切れ、火薬庫に火が回りかけている。
加賀も気付いたのだろう。左舷側の艤装をジョイント部からまるごとパージした。航行時のバランスに影響が出そうだ。そんなことより。
「
攻撃を盾で防ぐ。合間を縫って、加賀も生きている主砲を放った。この状況を打開する術が見えない。どうすれば。
私の動揺を肌で感じたのだろう。加賀が首を振った。
「あなたは泉浜を守る盾であり、この国を……人々を守る
「でも……!」
「どのみち、戦艦の私では役者が不足しているもの。いずれこうなる可能性はあったわ」
それより、と加賀は前を向く。
「あれを倒すのでしょう。策はあるの」
この強さこそが、加賀を加賀たらしめている所以。
ああ、
両の頬を一度強く叩く。それで、スイッチが入った。
「一度捕まえさえすれば、絶対に倒して見せマース」
私は自分を鼓舞するわけでもなく、強がるでもなく、ごく自然にそう断言した。
絶対に倒す。私になら、それができると。
「そう」
一度目を閉じた加賀が、ゆっくりと瞼を開く。
「加賀ちゃん」
龍田が加賀に、ただひと言声を掛けた。
「大丈夫。やれるわ」
「うん。じゃあ、仕方ないわね」
ふたりの間に、たったそれだけ交わされた言葉。その意味するところを理解できたのはきっとふたりだけ――いえ、きっとテートクも。
いずれにせよ、私は私の勝負をする。
――私は要塞だ。金剛石で出来た、ダイヤモンド・フォートレス。
これはある意味で運命なのだろう。かつて同じ海で違う国同士が戦い、片方が沈んで、もう片方が生き残った。時を経て今、違う海で私たちは再び対峙している。
決着を付けろと、海が言っている気がした。
その時、私たちを呼ぶ声がする。護衛艦よいまちづきからのコールだ。
「金剛デース。テートク、大丈夫ナノ?」
『ああ――こちらよいまちづき、真田だ。泉浜第一艦隊、第二艦隊へ』
深海雲の切れ目から通信しているのだろう。雑音混じりのテートクの声は、いつになく張り詰めているように聞こえる。
そしてそれは、勘違いではなかった。
『――よく聞いてくれ。これからよいまちづきは、復旧できた装備と物資を全て使用した支援行動に移る。タイミング、座標、全てを綿密に指示するから、それをお前たち全員で生かして戦ってくれ。これが、最後の支援になる』
最後の支援、という単語に不吉なニュアンスを感じて、私は息を飲んだ。
作戦目標時間まで、残り一時間半――。
二.
『
提督向けの臨時イスに座っているのも落ち着かず、何度目になるのか、モニタの表示を確認した。
護衛艦よいまちづきは、傷だらけの見た目に反して活気に溢れていた。
支援用途のミサイルも残りわずか、対空機銃は爆撃によって根元から吹き飛び、主砲に至っては破壊によって甲板に穴が開いている。
格納庫に残っていた物資は残らず使い切る。少しでも軽くすることで、この後の船足を上げる狙いもあった。
いずれにせよ、直接金剛たちを支援できるのはこれが最後になる。
『上部甲板レールガン、輸送弾頭の装填完了。退避まで1分下さい!』
もうあまり時間はない。第一艦隊の戦力がこれ以上削られる前に、少しでも敵艦の数を減らさなくては。立ち上がった艦長と目が合い、無言で頷く。ここからは彼の仕事だ。
「よいまちづき、機関始動。誘導煙幕弾による支援行動の後、上部甲板のレールガンにて目標Yの戦闘能力を奪う。総員、配置につけ!」
発射セルに搭載された、残りわずか八発の誘導弾。しかも、直接攻撃能力のない煙幕。唯一残された戦う力がこれだ。
しかし、隊員の誰一人としてそれを悲観してはいない。艦娘を信じ、艦娘と共に戦う。海を救い、この国と生きる人々を救うため、必要なことをするだけだ。
一発、また一発と発射セルから誘導弾が飛び出していく。
「敵空母機動部隊、加賀の航空隊と接触!」
先ほど傷付いたとの知らせが入った加賀。砲雷戦力の低下は航空戦力でカバーする。
「加賀航空隊、損耗率20%――上空より新たな航空隊! これは、葛城のものと推定!」
慣れない戦闘航空母艦として戦う加賀も、本来のキャパシティを越えて艦載機を扱おうとしている葛城も、全力を尽くしてくれている。
そんな時だった。
『提督。こちら加賀――許可をお願いします』
秘匿回線で直接呼びかけてきた加賀に、オレは短く答えた。
なんの許可かは、もう言うまでもない。深海棲艦化した加賀の右半身、能力制御艤装で押さえ込んでいる力を解放させろという話だ。一年以上前、一度沈んだ際の後遺症。
加賀は一応自身でそれを制御できているが、戦闘となれば話は別。危険を伴う。
「戦闘は5分間に限定しろ。それ以上は許可できない」
『決まった時間でどうこうできるものではないわ。でも、覚えておきます』
指揮官のような声で、指揮官のような言葉で『頼む、無理はするな』と伝えることしかできない。それほどまでに、今の状況は厳しい。
さて。
たった一発だけ、一矢報いることのできる可能性を、よいまちづきは有している。
オレが先ほど加賀に許可を出したのは、これを一番有効に活用できるのが彼女だと判断したからだ。金剛や電では難しい。他の艦娘では問題外。
加賀だから出来る。人外どころか艦娘の枠からも外れた能力でのみ実現できること。
「加賀。目標Yの出現と同時に仕掛けてくれ。大丈夫――
『了解。見失わないで頂戴』
「常にモニタしている。よいまちづきの全力、お前に預けたぞ」
そこまで言ってから、艦長――そして
「艦長。ホールインワン、狙わせてもらうぞ。……発射シークエンスを済ませて、加賀の合図と同時に発射。できるな?」
砲術長が、無言で頷いた。
■ ■ ■
「全主砲――
襲いかかってくる護衛棲水鬼に、私は
残弾数を確認。大丈夫、まだ撃てる。
「当タラナイヨォ? ソロソロ弾切レダロ? アハハ」
嘲笑を受け流す。笑うがいい。そうしてくれたほうが、こちらもやりやすい。
真っ向から見据える私の態度が気にくわなかったのか。
「ハ……ツマラナイ」
時折放たれる摩耶たちの砲撃を躱しつつ、艦載機を差し向ける。しかし、防空巡洋艦の意地と面子、ハリネズミのような機銃の雨には有効な手とはならない。
そうだ、もっと焦れ。焦れて焦れて、そして――。
護衛棲水鬼。
ここまで幾度も殴り合って
だとしたら、ここで私がやることなど決まりきっている。
こちらの必死の牽制に、ようやくその気になってくれたらしい。護衛棲水鬼が、最後の一線を踏み越えてきた。私と、電と、そして加賀の間合い――必殺の間合いへと。
今が、勝負の時。全主砲に砲弾を送り込み、目線も交わさずふたりと息を合わせる。
「
主砲一番二番、一斉射。命中、および至近弾。
護衛棲水鬼が私に目線をやると同時。
「Hey――
「ッ……!」
「――キサマガ、ソレヲ――ソノ名ヲ口ニスルノカ……!」
怒りに燃えた護衛棲水鬼が叫び、あざ笑う。
「アア、ソウサ! アノ日、アノ海デ! 水底ニ沈メラレタ、オ返シサ……!」
あなたたちは、そして私たちも――同じでしょう。
私はその言葉を口にする代わり、
あからさまな隙を、しかし彼女は狙ってくる。私は
そして、加賀が動いた。
「提督。北緯27度23分50秒、東経132度47分54.5秒――今!」
加賀が右半身の封印を解いた。溢れ出す蒼い炎。封じられた深海棲艦の力を、限定的に解除。しかし、攻撃に使うのではない。
そのわずか数秒後、加賀に音速の矢が突き刺さる。通常なら減速させて届ける
「いい狙いだったわ――提督」
時間が止まったように、加賀の腕がゆっくりと、護衛棲水鬼に向けて振り下ろされる。輸送弾に詰められているのは、艦娘の使う爆雷がありったけ。
「どうぞ、召し上がれ……!」
「ナ、ニ……!」
有り余る加賀の膂力で投げ付けられた爆雷へと、加賀の四十一
崩れ落ちるように加賀がよろめき、青葉がその手を引く。
「ガ、アァアア! オ前ラァァアア!」
我を忘れた護衛棲水鬼。加賀へと力任せに襲いかかる。
そして――
「この瞬間を、待っていたのです……!」
最後の油断を突いた電の錨鎖が、護衛棲水鬼を捉えた。
「ウ、コノ……!」
恐らく数秒だけの猶予。姫級の膂力なら、この程度の拘束を解くのは容易い。
「キサマァァァア!」
想定よりも衰弱が
まるでそれに答えるかのように、護衛棲水鬼へ
加賀がぽつりと呟く。
「――いいタイミングよ、ゆーちゃん」
ぐらり、と揺れる護衛棲水鬼――ああ、
「『インドラ・改』
左右に大きく開いた防楯バルジが勢いよく正面で合わさる。
ちょうどその動きは、私の目前にいた護衛棲水鬼を
「ガァアアア……!」
耳の奥に残る護衛棲水鬼の悲鳴。
ぎりぎりと不快な音と共に、金属が軋む。怒りで歪んだ護衛棲水鬼の顔は、今にも私を食い殺しかねない勢いだ。無理もない。
防楯バルジで拘束した彼女は、必死に逃れようとしている。
そして、彼女はついに、私を
「
そう、彼女は恐らく、サマール沖で倒した艦のひとり――確か空母、ガンビア・ベイ。
一部の深海棲艦は、
――だからきっと彼女は、私を執拗に狙ってきていたのではないか。だから私を水底に引き込みたかったのではないか。
そうすることでしか、抱いた怒りも悲しみも晴れないと
「
今の私には、
だって、たくさんの
もういいのだ、と伝えるために、私は一式徹甲弾を手に取る。
「オマエハ、必ズ……私ガ……!」
その先に続く言葉を聞いてやることはできない。
左手でそっと、彼女の腹部に徹甲弾を押し当て、拳を握った。電が背後で守りに入る。
「私、ずっとあなたに言いたいことがあったデス」
「ナン、ダト……」
深呼吸。伝えるのは
「あなたの怒りと悲しみ、私が全部、
指を一本握り込むたびに、ありったけの想いを込める。空は青いこと。太陽がまぶしいこと。海は静かで、そして優しいこと。ついでに、テートクがとっても素敵なこと。
握った拳は、私の燃えさかる愛を込めた一撃。
いやだ、と首を振る護衛棲水鬼。そうは行かない。あなたには、
「イヤ、イヤダ……ヤメロ……!」
だから。
「だから――また会いまショ。今度はふたりとも、
この一撃は、私たちみんなの一撃。
一式徹甲弾にありったけの力を込めて、私はすべてをぶち込んだ。金剛式近接格闘術、参ノ型。拳で叩き込んだ砲弾による、圧倒的な破壊が周囲を覆い尽くす。
視界が白く染まる。それでも目は閉じない。怯える彼女の瞳を、最後まで見届ける。
きぃん、と耳鳴りがする。
「――イイノ?」
私は、もちろんだ、と手を差し出した。
視界が晴れた時。
「鎮守府で、待ってるデース……ガンビー」
目の前にはもう、誰もいなかった。
■ ■ ■
「護衛棲水鬼の反応消失!」
観測員の声。静かに――指揮所の全員が息を吐いた。
「これで、約20隻いた姫・鬼級を始めとする目標、全て撃沈しました」
「そうか」
しかし、犠牲は大きい。泉浜第一、第二艦隊は全力を出し尽くした。燃料も弾薬も底を尽き、満身創痍。残っているのは拳だけだが、それも時間の問題だろう。
敵艦はまだ100隻以上残っている。
よいまちづきも無事ではない。支援物資は使い果たし、武装は全て破壊された。機関が無事なのは不幸中の幸い――かどうかは微妙なところだ。
さて、オレたちは、彼女たちを迎えに行かなくては。
「艦長、護衛艦が単艦で戦闘海域に突っ込んで、金剛たちを回収し、そのあとに離脱――なんて出来ると思うか?」
「無理でしょうね」
「でも、やっちゃうだろ?」
「やりますか」
「ああ、頼む」
よいまちづきの機関が、力強く咆吼した。
自分たちの最後の航海になるかも知れないと予感していても、全員の表情はさっぱりとしていた。やれるだけのことをやり、少なくとも戦術目標は達成したのだから。
対特殊海棲生物海上防衛隊に、艦娘を見捨てるという選択肢はない。オレたちの使命は艦娘と共に生きることなのだから。
艦長が静かに命じた。
「よいまちづき、進路そのまま。目標、作戦海域の泉浜第一および第二艦隊」
少しでも軽くと武装を使い切ったのも幸いした。仮に攻撃を受けても、火薬に火が回ることはない。ダメージコントロールがしやすくなる。
モニターを見ると、金剛たちは敵に追われている。
「金剛、聞こえるか。これからお前たちを迎えに行く。少しだけ待ってろ」
予想される進路へ先回りすれば、艦娘の全力でもなんとか捕まえられるだろう。後方のドライドックを解放すると足が遅くなるので、回収は慎重に。
ふと、先ほどの呼びかけに金剛が答えなかったことに気付いた。
「金剛。こちらよいまちづき、真田だ。応答しろ」
なるべく感情を抑えて金剛を呼ぶ。まさか、轟沈――そう思った時だった。
金剛の、呆気にとられたような声が聞こえた。
『空から、誰か降って来るデース』
「降って来る……だって?」
突如、レーダーに反応が現れる。それも、ひとつやふたつではない。観測員もカウントするのを諦める。まるで雨が降った地面のように、モニタへ光点が増えていく。
ようやく観測員が表示を読み取って、呟いた。
「真田提督――これは、味方です。ですが――」
指揮所にいる誰も、その表示を信じられないでいた。
本部からの支援艦隊が到着したとは思えない。それでも確かに、この海域へ艦娘が来ている。数は増えて……すぐに両手の指で足りなくなる。
事態を掴みきれないオレが、立ち上がった時。
まだ通信が安定しないのだろう、ざざ、と雑音混じりに、しかし透き通った声が響く。
『護衛艦よいまちづき、聞こえるか』
聞き覚えのある声だった。その声は通信士がなにか言う前に、まるで待ちきれなかったかのように、本題を口にした。
『こちら
気合いの声と同時に、敵を示すマーカーが一瞬で数個消え失せる。
「連合艦隊……? しかし、先ほど金剛が空挺降下と……まさか」
艦長の言う通り、ひとつだけ可能性がある。加賀たちと同じく、空挺降下支援部隊――『隼』の飛行艇。あれなら敵にも味方にも関知されず、ここまで来られる。
だが、問題はその
加賀と旧知の仲である長門が駆けつけてくれたのは分かる。だが、識別信号を見る限り一貫性のない艦娘たちで構成された、この連合艦隊はなんなのだ。
その
『おう真田。こちら岩国鎮守府、
声の主は、幾度も命を救われたことのある腐れ縁、
「桂! お前、どうして……本部側に招集されてただろ!」
泉浜以外の鎮守府は元々、艤装の汚染で戦力となる艦娘が少なく、本部がひとまとめにして再編、あとから出撃してくる手はずになっていた。本隊となる彼らが、今ここにいる理由が分からず、オレたちは混乱する。
そんな泉浜の面々に、桂はどこか呆れたように言った。
『
「どういうことだ……?」
確かに、桂が連れてくるとしたら彼のパートナーである赤城だ。戦場には来ているようだが――長門を始めとして、艦隊を構成する艦娘たちはまったく一貫性がない。
駆逐艦、戦艦、重巡、空母――いや、待て。
まさか。
その可能性に気付いた次の瞬間、大勢の声が横から通信に割り込んで来た。
それでようやく理解した。いったい誰が、オレたちを助けに来てくれたのかを。
『やっほー! 真田君生きてるー? おっぱい揉む? もう揉んどけ! いいから!』
――揉まない。逆セクハラをするな。
『ああもう――自分らだけで背負いこまんといて下さい、真田さん。俺らもいます』
――君にそう言ってもらえると、なんだか救われる気がするよ。
『おちおち温泉にも入ってられないじゃないの。本土の人たち、ちょっと頼むよー?』
――すみません、わざわざ。今度おごりますから。
彼らは、
『コラ。来月、長門との約束あんの忘れてねェか? すっぽかしは無しだ』
「――あぁ、すっかり忘れてたよ」
『血の気が余ってるんだ。泉浜はしばらく後ろに下がってろ。また連絡する』
大勢の艦娘たちが、散り散りになった深海棲艦たちを沈めていく。彼女たちはきっと、何故こうなったのか理解ができていないに違いない。
ひとが、ひとであるが故に。
泉浜の出撃のことをどこかで聞いたのかも知れない。実は裏から密かに監視されていたのかも知れない。或いは、なんとなく察していたか。
力を貸してくれる人たちとの繋がりを、こんな形で実感できるとは思っていなかった。
持つべきものは友人――ということか。
艦長に肩を叩かれて、オレはいつの間にか椅子に座り込んでいたことに気付く。
「真田提督。顔、洗っておいたほうがいいでしょうな」
「ああ。でも、もう少し……このままで」
泉浜があれほど苦戦していた戦場が嘘のようだった。艦娘たちが駆け巡り、深海棲艦を沈め、鎮めていく。荒っぽい鎮魂の儀式は、神に奉納する神楽にも似ていた。
それから一時間も経たずして、北大東島付近を北上していた敵艦隊は、掃討された。
■ ■ ■
『第一、第二艦隊の収容完了』
「深海汚染が進む前に、加賀の修復を最優先。高速修復材の投与は慎重に」
『了解。他の艦娘はトリアージの上で修復に回します』
格納庫の整備班とやり取りをする横で、観測員が大きく息を吐いた。
「残存敵艦隊、確認できず――当海域における深海雲の消失を確認」
これを勝利と呼んでいいのかは分からない。
これからもっと困難な戦いが待っている。システム再構築、そして恐らく鎮守府解体を伴う組織の立て直しや再編など。どれほどのやり直しになるのか見当もつかない。
それでも、今は……。
「さあ、帰ろう。オレたちの鎮守府へ」
よいまちづきは静かに海を走る。
格納庫では整備員たちが汗を流し、簡易ドックでは艦娘たちがドラム缶風呂に浸かる。甲板では被害箇所の復旧作業が、そして厨房では牛すじカレーが煮込まれていた。艦娘と乗組員たちが談笑し、艦長は操舵手を労っている。
そうして、よいまちづきは――