『AGP換装した金剛改二と長門型艤装を身に着けた戦艦・加賀がハチャメチャに暴れる話』泉浜鎮守府航海日誌 ダイヤモンド・フォートレス 作:沖野潤一
「加賀、次の本部会議いつだっけ」
「再来週、木曜日です」
執務室で端末と格闘しながら、オレはどうでもいい質問を加賀に投げた。
当の加賀は包帯が痛々しいが、執務には支障のない程度に回復している。いつもの日常とは言い難いものの、少なくともつかの間の平和は戻ったと言っていい。
タブレット端末で承認作業を進めつつ、思い出したように加賀。
「午後は私、葛城の訓練に付き合うので席を外します」
「熱心だねぇ」
「物覚えがいいのは感心するけれど、成長速度が早すぎて、少し心配です」
後輩と呼べる存在が出来て以来、加賀の新たな一面を発見した。厳しいながら面倒見が良いことは知っていたが、後輩の成長を眺める時の、どこか誇らしいような顔。
あんな顔をするのだなと言ったら、五年前にあなたが通った道だと返された。
納得したような、していないような。
一連の騒動は未だ収束していない。結局深海棲艦の動きだけが目立ったが、トリガーとなったウイルス騒ぎの首謀者は逃亡中。噂では似た姿形の土左衛門だけ
いずれにせよ、予断を許さない状態ではある。あるが、少なくとも深海棲艦と短絡的に手を結ぼうなどという連中の数は減ることだろう。一件落着といかないのが難しい。
もう駄目だと思ったあの時、駆けつけてくれた提督たちには大きな借りができた。
いずれ精神的に返す、と逃げてはいる。しかし、なにを置いても返さなくてはいけない恩だ。これもまた、繋がりだと思ってありがたく思っておこう。
青葉、葛城、そして
元々呉鎮の管轄ではあるので、あちこち出張しながらコラム係は続けるそうだ。オレも読み物として楽しみにしていたので、これは反対する理由がない。
もちろん、『黒猫の加賀』も健在だ。
「それにしても加賀、猫に『はっぴー』ちゃんはどうなんだ。どっちかというと犬向きの名前じゃないのか」
「――呉にひとりで寂しかったので」
あなたの名前を一文字借りました、と加賀。ぐうの音も出ない。
さて、午後の仕事に向けてひと休み、と思った時。
「加賀、金剛はどこ行った? 午後はあいつに頼んだんじゃないのか」
「秘書艦は龍田にお願いしてあります。金剛は別の用事が」
「別の用事?」
「日本の地図に不慣れなようだから、迎えに行かせたの」
壁に掛かった、艦名の書かれた真新しい木札。
「――ああ、そうか」
「そう」
■ ■ ■
「ええっと……あれ、えっと……ここで合ってるよね……?」
ニポンの地理は、さっぱり分からない。誰の顔を見ても同じに見えるし、どこの景色を見ても似たりよったり。
どうしてこんなところに、ひとりで来させられたのだろうか。
クレの基地から出て30分は経っている。
「うう、やっぱりチンジュフの人に案内してもらえば良かった……」
これはなにかの博物館だろうか。ムツの主砲? 対面に
あ、泣きそう。
どこか、誰か、私を知ってるひとは――いるわけがない。
ここは異国で、ジャパンで、クレだから。外国
そう思った時だった。
「ヘイ、こっちデース!
私を呼ぶ声。これは英語……混じりで英語じゃないけど、それでも分かる。
「あ、あのぅ、私」
「
聞いたこともない声。一度も会ったことのない顔。なのに聞き覚えがある。知ってる。
その艦娘は、私を見て本当に嬉しそうに笑って、手を差し出してきた。
「
「え、えっと」
恐る恐る、その手を握る。
暖かい。そして、とっても
このひとたちとなら、きっとやっていける。なぜだか私はそう思った。
「それはそうと、ここ呉の街だからネ。鎮守府まで一緒にクルーズするデース!」
その声に、まるで吸い寄せられるように。
私は涙を拭いて、一歩を踏み出した。
(続)