暗雲が漂い続け、一筋の光さえ入らぬ空。
 どうか、どうかお願いです。この胸の冷たさを、どうか癒してください。
 もう助けて欲しいと、救って欲しいとは言いません。
 だから、どうか私に話し相手を──

「そういう事はそこで転がってる同胞たち (見張り番)の骨見てから言……、グギュるを!?」
「──すぐ壊れちゃうもの」

 囚われの王女は、余りにも強すぎた!!

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大昔に書いた短編作品が出て来たので、供養で投稿致します。


第1話

 暗雲が漂い続け、一筋の光さえ入らぬ空。

 冷たい石畳は年月もあるのだろうが、夥しい血痕から独特の臭気を漂わせる。

 嗚呼、暗い。嗚呼、冷たい。

 暗い暗い世界の中、豪奢なドレスを纏う少女は、胸に吹きすさぶ冷たさだけは温められない。

 どうか、どうかお願いです。この胸の冷たさを、どうか癒してください。

 もう助けて欲しいと、救って欲しいとは言いません。

 だから、どうか私に話し相手を───

 

「そういう事はそこで転がってる同胞たち (見張り番)の骨見てから言……、グギュるを!?」

「──すぐ壊れちゃうもの」

 

 囚われの王女は、余りにも強すぎた!!

 

 

──最強プリンセスは獄中暮らし──

 

 

 始まりは、在り来りなものだった。

 平和な王国、何処にでもありふれた、笑顔で満たされた幸せな土地に、既に文献さえ掠れ消えかけた魔王が復活し、王国は壊滅した。

 そして、全てを終わらせた魔王は言った。

 

『いつの日か、私を再び倒そうとするものが現れるだろう』

 

 それは魔と人を創った神々が定めた運命。あらゆる有象無象を、万象の悉くを支配する魔王でさえ避けられぬ事象。

 だからだろう、魔王はそれを受け入れている。そして、そうあれかしと生まれ、生きる魔王は言った。

 

『故に王女よ、お前に死なずの呪いをかけよう。私の行いを、私の全てをお前には見届けて貰う。いつの日か強き人間が私を討つとしても、私が神々が定めた運命を覆すとしても。

 人と魔のどちらかが勝利するとしても、お前はそれを語り継いで貰う』

 

 身勝手なことだ。理不尽なことだ。けれど、それを王女は受け入れた。

 物心つくより、王女の人生は他者の思惑の中にあった。それが悠久の時を生き、絶大な力を持った魔王の手に渡ったというだけ。

 ならばそこに、己という人生がないという事実に、一体何の違いがあるというのだろう?

 淡白な王女の反応を、魔王は笑いもしなければ不満も抱かなかった。

 受け入れるならばそれで良し。反駁するならばそれも一興。

 世界の全てが呑まれていない以上、王女が拒むなら代わりを充てがえばそれで済むのだから。

 

 それが始まり。そして、その在り来たり(テンプレート)が崩されることは、この時どちらも考えてはいなかった。

 

 

     ◇

 

 

 最初の一年は悲嘆に暮れた。

 二年目は慣れから惰眠を貪った。

 三年目はクソニートが爆誕した!

 そして十年目、遂に王女らしくなくなった!!

 

「飽きました」

 

 は? と獄卒の代わりを勤めるスケルトンが首をカタカタと向けた。

 正直、話しかけられるとは思わなかったというのがある。

 なにせ王女は不老不死。食事も睡眠も必要ない、ある意味一部の上位魔族に近しい性質を持った存在だ。

 そんな王女を見張るとするならば、同じく不老不死たるアンデットか、或いは強大な竜族などが適任だが、魔族とて暇ではない、

 結果、下級だが不老不死という点から低位のスケルトンがその任に当たっていた。

 が。派遣された時の王女といえば、隅で蹲っているだけの、物言わぬ人形のような存在だったのだ。

 いやまぁ、二年目からは結構自堕落に生きていたような気もするが、それはさておき。

 

「話し相手になってください」

 

 いや自分骨なんで。スケルトンに声帯とかないんで。

 カタカタ音を鳴らしても意思疎通は不可能。同族ならばいざ知らず、生憎と今の王女様は肉付きが良すぎる。

 もうちっとほっそりしてから発言してくれよニート生活がたたって脳にまで脂肪がついたんじゃねーの?

 

「…………」

 

 王女がめっちゃ睨んでいる!!?

 いいや落ち着けスケルトン。なに食わぬ顔で、白骨に相応しいポーカーフェイスで切り抜けるんだスケルトン。口笛とか吹きながら誤魔化すんだスケルト……あ。骨だから声帯とかねぇんだった。

 

「…………」

「…………」

 

 女の勘は、鋭い。ちょっと来い。そう指でアッピルする王女に、スケルトンは逆らわない方がいいと本能から近づき……

 

 生まれて初めて暴力を振るおうとした王女に完勝した。

 

 YOU WIN!!

 

 高らかなファンファーレとともに、生まれて (生まれて?)初めてレベルアップを果たしたスケルトンは天に骨製の槍を掲げ持った!!

 そりゃあ、白魚の手でビンダかまそうとしたところで、骸骨に効く訳ねーのである。

 魔力で大量生産され、レベル1のスライムにさえ唾吐いてクソ雑魚ナメクジ扱いされるスケルトンは勝利というものの酒を生涯初めて味わった!

 

 ねえどんな気持ち? スライムにさえ負けるスケルトンに負けるってどんな気持ち?

 

 そして酔っ払って調子ぶっこいた! 見た目十代前半の王女の頭に足を乗っけるという小物臭全開でへべれけに酔っ払っていた!

 王女はこの日、生まれて初めて人生のレールから外れようと決意する。

 

 この……憎っくき骨野郎を必ずや文字通り粉骨砕身してくれると!!

 

 意味が違うとか突っ込んでは行けない。王女はかしこさが足りないのだ。

 

 

     ◇

 

 

 復活の呪文も冒険の書も教会もいらねえ。何故なら王女は不老不死。死んだ瞬間には復活する彼女は、最初の十回ぐらいはスケルトンに突撃した。無策でだ! 余計な戦術など小物のすること! 当たって砕けろの精神だ!

 そんで全部負けた。当たり前である。

 王女は自分のかしこさがレベル1冒険者より低いことを呪った。

 

 次からはそこら辺にあるものを武器として使うことを覚えた。

 王女はかしこさが小数点レベルで上がった!

 しかし意味はない。惨敗である。

 スケルトンは王女のレベルが低いので、これ以降レベルアップはしなかったが、増上慢も甚だしいレベルでウザくなった。

 王女は涙と砂の味を覚えた! 気力は十分だ!

 

 取り敢えず死ななくても傷は時間が経てば回復するのを知った。

 あとなんか不老不死に回ってる魔王の魔力をコントロールしようとも考えた。かしこさが足りないので思いつくのに三十年ぐらいかかった。普通の人間ならBBA認定を受けてしまうところだが、見た目は変わらない。

 ただしスケルトンにはクッソ煽られる。クタバレ骨野郎! と苛立ちを今日も壁に叩きつける。

 拳という苛立ちをだ! 小さい頃、近衛兵 (職業:モンク)の大きな手は、どんなに痛くても岩を叩き続けることで強くなったというのを四十年ぶりに思い出して実践した。

 泣きたいぐらい痛かったが、既に死に慣れている王女には屁でもない。

 壁を骨野郎と思って打つべし、打つべし、打つべしィ!!

 

 王女 (職業:王女)はモンクとしての適性は0。しかし、転職の神殿は甘えとばかりに拳を鍛え続けた。王女は強い、王女は泣かない、王女は折れない!!

 

 そして百年目! 王女は勝った!!

 

 YOU WIN!!

 

「ねえどんな気持ち? 余裕ぶっこいて王女を足蹴にしてくれやがったのはどんな気持ち?」

 

 レベルアップのファンファーレと共に勝利の美酒に酔いしれた王女。スケルトンの返事はない。ただの屍のようだ。いやまぁ、最初から生きてなんかいなかった訳だが。

 

 

     ◇

 

 

 同胞ぉ……!? 翌日、仲間が消えたことを察知した別の階のスケルトンが無残にも粉骨砕身されたスケルトンを発見した。くどいようだが、意味が違うだろとか突っ込んではいけない。

 そして、牢の中にいたはずの王女は逃げ……てはいなかった。

 だって行くとこねえし、牢獄の周囲は毒沼だしで碌なもんじゃねえのである。脱出しようにも外界は既に高レベルモンスターで溢れていた。勇者の出番は遠い。

 結果、鍵が開いてても牢でニートライフエンジョイ中なう。

 新しい趣味は亡きスケルトンの槍でお絵かきだ。既に床が埋まってしまったので次は壁にトライ予定だ。

 

 許さん、許さんぞきさまぁ!!

 

 ガチギレするスケルトンが仲間を集めた。王女は負けた。

 

 YOU LOSE!!

 

 勝利の美酒は一日だけだった。王女は決めた。必ずや奴らを全滅させてくれる、と。

 

 

     ◇

 

 

 拳だけではダメだ。複数相手では四方を囲まれても同時に相手ができなくてはダメだ!! 膝を、肘を、骨野郎を一撃で粉砕すべく打つべし、打つべし、打つべしィ!!

 

 スケルトンは十年ぐらいで壊滅した。

 なんかドラゴンとか出てきた。どうやら外で見張ってた奴らしい。

 やはりゴミが増えたからと窓の外に骨を放り投げたのが不味かったらしい。王女は罰として上手に焼かれた。

 当然すぐ復活した。次からはこのトカゲ野郎が見張りも兼任するっぽい。

 

「あんま調子こいてんじゃねーぞ」とも話しかけられた。どうやら喋れるらしい。しかし今欲しているのは話し相手ではない。このトカゲを殺す手段だ!!

 

 

     ◇

 

 

 全身は既に余すとこなく鍛えた。やはり必要なのは耐性だ。火属性の耐性を得るには、アイテム以外だと魔法を習得するか、死に慣れて耐性を付けるかだ。当然王女には一番最後の手段しかない。

 こんがり焼かれまくって復活するたびに肌が黒くなってる気がするが気にしない。今時肌の焼けた王女とか珍しくもない。時代は褐色肌だ! 萌えポイントだ! それ以上にこのトカゲ野郎をミンチにするのが最優先だ!

 

 くたばれトカゲ野郎!! 炎の耐性は百パーセントだ!!

 分厚いウロコの鎧? こちとら既にモンクでもないのにモンクを極めている! 鍛え方が違うわ鍛え方がァ!!

 

 YOU WIN!! 

 

 二百年ぶりのファンファーレに勝鬨を上げる王女。レベルも一気にふた桁だ! やはりクソ雑魚ナメクジスケルトンとは勝利の味が違う!!

 なんか勇者のフラグとか冒険譚の一幕とか大事なものが一気に壊れた気がするが気にしてはダメだ!!

 

 ついでに数百年ぶりの食事も楽しんだ。生肉とかワイルドにも程があるが骨からかぶりついた。女を捨てきった食事風景にはグールもドン引き間違いなしである。

 伝説では高位のドラゴンの血を浴びると不死身になるとか聴いた記憶があるが、既に不老不死なので意味はない。ドレスが汚れまくったが気にせず心臓をモシャモシャ頂く。

 

 

     ◇

 

 

 なんか牢を滅茶苦茶怖い城に移された。ついでに牢は魔王城だった。

 勇者が来たのに王女を見捨てたと勘違いされた。

 なので通り道に牢を作って四天王とか配置しちゃってた。

 

 当然王女は腕試しに殴りかかった。牢を開けるには特別な鍵とか必要な筈だが、殴ったら壊れるから問題ない。

 異種格闘技がもはや趣味の領域に達していた。最新のトレンドはサブミッションだ。人型なら行ける行け……ダメだった。各下のトカゲ如きに勝った程度で息巻いていた己の浅はかさを王女は呪った。

 取り敢えず門番も増やされた。こいつらが冒頭で骨にされてた奴らだ。肉は王女のおやつにされた。食べ残しはいけないと幼い頃のしつけを覚えていた王女は内臓から脳みそまで綺麗に平らげた。

 王女が魔物と入れ替わってんじゃねーの? と()()()()囁かれた。

 

「あれ?」

 

 魔王、人生で初めての誤算を経験する。

 

 

     ◇

 

 

 魔王城に居を移して五十年。取り敢えず雑魚共は綺麗に胃袋に収まった。例外はゴースト系だが、魔王城の宝箱にあった武器をぶん投げてぶっ殺した。

 王女のちからは既にカンストしていた!!

 

「暇」

 

 もう門番も居なくなった。正直、獄中にいても仕方ない気がしてきた。

 ニートというものは娯楽があるから楽しいのだ。魔物という玩具兼食料が消えてしまっては暇で仕方ない。ストレスを溜め込むとか美肌が保てないじゃないかどうしてくれんだよ魔王と八つ当たりに壁とか殴ったら一撃で粉砕した。風が冷たい。

 

「……私はなんということを」

 

 せっかくの居心地のいい空間を自分から壊すだなんて! これではニート生活もできないじゃないか!?

 早急に、そう、早急に対策を……待て、そういえば四天王の一人が、壁一面が埋まるぐらいでかい盾とか持ってなかったか?

 

「……」

 

 ガタッと立ち上がる王女。次の目標(えもの)は決まった。

 

 

     ◇

 

 

 ずるずると盾とか引き摺る王女。なんか床とか高そうな絨毯とかひどく傷ついてるが知ったことじゃない。それよりも安眠ポイントの確保が最優先だ。

 魔王城の牢は確かに黴臭いが、ベッドは広いし質が良いのだ。手放すとか冗談じゃない。

 

「……まさか、王女こそが勇者の生まれ変わりだったとはな」

 

 この四天王の目を持ってしても見抜けなんだと嘆息されたが、問題はそこじゃあない。

 マイベットが、惰眠を貪りつつゴロゴロして、たまに魔物(おやつ)を齧れる唯一の癒しスポットが、異空間で何もない大部屋にビフォーアフター!? 何ということをしてくれたのでしょう!?

 

「第一の四天王を破ったようだが、既に残る我らは合体し、更なる力を得た。王女、否、勇者よ!! 貴様を滅ぼさせて貰おう!!」

 

 王女は拳を構えた。嗚呼、忘れていたぞこの感覚。初めてクソ雑魚骨野郎に足蹴にされた、あの日以来の憎悪を!!

 野郎ぶっ殺してやらァ──……!!

 

 

     ◇

 

 

 一体いつから、四天王を倒せばニート安住の地(ベッド)が戻ってくると錯覚してしまったのだろう?

 もうここには何もない、ぺんぺん草も生えないぐらい破壊の爪痕を遺してしまったこの場所に、ベッドが無事な訳ないのだ。

 絶望、悲嘆。この日、王女は忘れていた涙の熱さを思い出した。

 この胸を締め付ける熱を、失うことの痛みを。

 

「私は、どうしたらいいの?」

 

 

     ◇

 

 

 そして、孤独な王女は最後の場所へたどり着いた。

 魔王の間。

 勇者のみが開けると神々が定めたその門に、王女は手を触れ──

 

 ──開かないから殴ってぶっ壊した。

 

「!?」

 

 違う、そうじゃない。魔王はそういうシチュエーションは無いんじゃねえの? 来訪者たる勇者(予定では)を、やや引いた顔つきで見やり。

 

「私は、どうして……」

 

 悲嘆に暮れながら歩く王女に、言葉を失った。

 何が悲しいのか、何を憂うのか。思いつくことは多いものの、魔王は何も語らず王女を見やった。

 扉を破壊されたことも、既に魔王の頭にはない。

 この王女を、こんな風にしてしまったのは自分だ。

 誰とも関われず、誰とも交われず、孤独なまま、自分の都合で壊してしまった。悠久の時を生き、この世界のどんな人間より齢を重ねた彼女を、魔王は決して研鑽を積んだ存在には見れなかった。

 そこには、あの日攫ったままの、自分が犯した、小さな存在が大きな罪として立っていた。

 

「教えて……私は、どこに居たらいいの?」

 

 魔王は、声を出せない。

 もう、この王女は人として在れない。かといって、魔にもなれはしない。彼女は全てを見届けるものとして、どちらからも拒まれて生きるしかないのだ。

 

「────」

 

 魔王は、生まれて初めて『後悔』というものを、魔でありながら『良心』というものを覚えてしまった。

 許してくれと、済まなかったと謝ることは許されない。

 王は、王であるが故に己の全てに責任を持たねばならないから。

 それが、王として課せられた唯一の枷にして法なのだから。

 だから。謝罪ではなく、行動で示そう。

 ゆらりと、魔王は玉座より立ち上がる。闇を固化したマントが揺れる。絶望を与え、しかし目を引きつけて離さぬ王笏が床に音を響かせる。

 あらゆる存在を殺す呪われた手が、不老不死の王女の涙を静かに掬った。

 

「我が元に留まれ、王女よ」

「……!!」

 

 王女は顔を上げる。それは信じられないという顔で、こんな結末は、考えていなかったという想いで。

 

「いいの、ですか?」

「構わぬ」

「私は、貴方たちとは違う……貴方たちに、色んな酷いことを考えて、して」

「お前の全てを許そう」

「本当に……本当に、私がしてきた全てを許してくれるのですか?」

「二言はない」

「私に……、居場所をくれますか?」

「ここが──お前の居場所だ」

 

 永遠に、たとえいつの日かこの身が滅ぼされるとしても。

 それだけは、未来永劫変わらせはしない。

 

 

     ◇

 

 

「……って、配下がいねぇ!?」

「え? 全部許してくれるんですよね?」

 

 王女、魔王のベッドでニートライフ継続なう。

 

「こ、この王女風情がぁ!?」

「おこらないでくださいよ~? ほら、ベッド広いですし、一緒に寝るのは許してあげますから?」

「せめて寝ながら食うな! テーブルで食え!!」

 

 ドタドタと、魔王と王女は今日も騒がしく、しかし笑顔で過ごしている。

 

「ねえ、魔王?」

「……なんだ、王女」

「お話が出来るって、良いですね」

 

 王女は笑う。誰の人生のレールに引き摺られるのでもなく、心から、自分と愛しい魔王に。

 今日もきっと、世界の果ての大きな城で。

 


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