二週間ぐらい投稿頻度ゲキ落ちするかも。
11.はじめての反抗期
2012年──春頃。
その日は恵が通う学校の入学式だった。
恵──ミミとナナも──はそれぞれ小学4年生へと進級。
津美紀も5年生へ進級し、それぞれ見た目も随分と大人びてきた。
甚爾も30代に突入しており、20代の半端に落ち着いた雰囲気は何処へやら、いつの間にか大人の貫禄を醸し出している。
まぁ、尤も───。
「恵!こっちだこっち!スマイルだ!全力スマイルだ!ウィンクでもいい!キメ顔でもいい!というかキメ顔の方がレアだから寧ろ撮らせてくれ!というかこっち向いてくれ!!頼む!!!」
モデルカメラマンの素人ですらしない注文の多さと声量のデカさ。しかも持っているのは一式150万は越える一眼レフなのだから、気合いの入り様が異次元レベルである。
実際、警備員に両腕を四人掛かりで引っ張られてもなおピクリとも動かず連写しているのだから、最早親バカとかそういう域を越えている。というかコレ最早親バカじゃねぇだろ呪霊だろ。
「伏黒さんは親バカ過ぎて困るよね」
「傑も似たようなもんでしょ?」
「私は親バカじゃないし、だとしてもアレと一緒にしないでくれよ。というか、そもそも君だって人のこと言える立場じゃないだろう?」
「そう?友人の子供の入学式って行くものじゃない?」
「行くものじゃないと思うが…」
ミミとナナの晴れ舞台を見に来た夏油と、その連れ添いの家入。
夏油は昨日家電屋で買った安物のカメラで、見慣れた四人を一人ずつ撮り最後に全体を幾つか撮る。
逆に家入は写真も撮らずただじっくりと四人の姿を目に焼き付ける。
三者三様の撮方見方をする中、入学式はそのまま幕を下ろした。
夏油達とは挨拶も程々に帰宅する。
一緒に昼飯ぐらいは食べてもいいか…と思っていたが、家入がいるとなると支払いはこちら持ちになりそうな気がしたので辞退した。
「父さん。毎回言ってるけど、あまり騒がしくしないでよ」
「父さんも悪いとは思ってるんだが…恵が大きくなっていくのを実感する度に…こう、込み上げて…うぅ…」
今日で十回目になる男泣きに、流石の恵も引いてしまう。
昔はカッコいいという印象を抱いていたものだが、歳を重ねるにつれそれが幻想であることに気付かされた。
まあ実の父だし、尊敬していないことは無いが、昔に比べれば随分と色褪せたものだ。
「それと、父さんは俺だけじゃなくて津美紀のことも構ってよ」
「え!?いいよ恵、私のことは気にしなくても…見てるだけで満足だし」
「津美紀もこう言ってるぞ?」
「そういう問題じゃ…、ハア…」
恵は何となくだが、津美紀が甚爾に向けている感情の正体に気付いている。
甚爾は言わずもがなだが、津美紀のことも姉として慕っている身としては、それが実らないまでも──現実的に言えば実ってほしくはないが──親子らしくもっと仲良くしてほしいと思っている。
だというのに甚爾は津美紀の一方的な感情に気付いている素振りは無く、津美紀も今の関係で十分満足している様子。
しかもそれが二、三年もこの状態を保ち続けているので、そろそろ恵もこの関係の改善は諦めようと思い始めている。
「…それよりも俺、早く帰れたから術式の練習したい」
「今からか?」
「うん。だって父さん教えられないもん」
「それ、はそうだが…」
甚爾は反転術式を覚えさせる(語弊あり)ことはできるが、そもそも呪力が無いので呪力操作のコツやらを教えることが出来ない。
改めて、自分のこの強靭な肉体が恨めしく思う。
「…ちなみに誰に教えてもらうんだ?夏油か?灰原か?」
「え?五条さんだけど…」
「五条?!あいつにか!?」
思わず大きな声を出してしまったが、本人のスペックを考えると別に指南枠としては悪くはない。
個人的には式神と同じ要領の夏油の方が適任、と思わなくもないが、呪力操作の一点に限って言えば高専どころが全国規模で見てもで並び立つ者は──説明音痴の家入は除く──一人としていないだろう。
ただ問題なのは本人の性格。チャランポランで不真面目なクソガキ、そのくせいっちょ前に武も権も力を持っているので恵に無茶をさせる可能性がある。私情を抜きにしても任せたくはない。
その点夏油と灰原は適切な育成行程を組むことができるだろう。灰原は少し感情論に委ねすぎることもあるが…他のメンツと比べればまだマシな方だ。
例えば七海は説明こそ上手ではあるものの、領域対策や反転術式等の技量不足、また対子供へのコミュニケーションが足りていないため適任とは言えない。他で言うと、あの説明音痴は論外として、直哉は育成役としては十分だが恵を任せるとなると少々不安が残る。
甚爾個人の総評で言えば、夏油≧灰原>五条直哉>七海>(超えられない壁)>家入といった具合だ。
「…大丈夫だろうな…」
「大丈夫だよ。五条さん優しいし」
「嘘だろ!?」
「ほんとだよ!」
まあよく考えてみれば、恵をどうこうしようとした時点で甚爾からの怒りは買うわけで、そんな目に見える地雷を踏み抜く馬鹿を五条はしないだろう。メリットがあるならいざ知らず、どこをどう取ってもデメリットにしか直結しないのだから猶更だ。
「…分かった。ただ気を付けるんだぞ?毎回言っているが、任務に危険はつきも──」
「分かってるってば」
「そ、そうか…ならいいんだ」
「…フン!」
ソッポを向いてさっさと自分の部屋へ向かう恵。
身支度を済ませると、そのまま甚爾に見向きもせずに玄関から走り去っていった。
「……」
「お父さん、私もミミちゃんたちの家に遊びに行っても…」
「…ああ、いいぞ。ただ帰りはあまり遅くなるなよ」
「はーい。……」
がっくしと肩を落とした甚爾に目を引かれながらも、津美紀も玄関から飛び出して行った。
「──ハァァァァァァァーーー…………」
誰もいない伏黒家でクソデカ溜め息を吐くと、両手でパチンと鳴る程の勢いで顔を覆った。
──ここ最近、恵からの当たりが強い。
昔の恵はもっと優しい子だった──いや、今でも勿論優しいし十分可愛いし心から愛してはいるが……正直小三の卒業間際から何かと怒られている気がする。その落ち度は当然甚爾にあるので当然文句を言うつもりはないのだが、それにしてもココ数日は特にその判定が厳しい。
入学式での一件のようなものであれば怒られても納得はできるのだが、例えば学校での様子や友達との関係を聞くだけでも怒られるのは、流石の甚爾でも少し思うところがある。プライベートな質問とはいえ家族なのだからそれぐらい答えてほしい。
「もしかしてイジメられてストレスが…!いや、恵に限ってそんなことは無いか。…だが万が一問題を抱えているなら…!いや、それこそ俺には話しにくいか。なら五条達に頼めば…」
色々策は出てくるが、そもそもイジメられているという確証もないのに探りを入れるのは子を信じていない証拠になるのではないか?という疑問が浮かんでしまう。もしイジメも何も無くて、恵から失望でもされてみろ。甚爾のハートどころ脳すら木っ端微塵に砕ける自信がある。
「…反抗期…?」
無くはないが即決するには証拠不十分。
そもそも反抗期自体具体的にどういうものかよく分かっていない。甚爾の子供の頃は反抗するという意識さえ無かったので、自らの経験もない。
経験がありそうなのは五条──こいつに関しては年がら年中みたいなものだが──や直哉辺りな気がするが、仮に反抗期の対処法を聞いたところであの二人は「放っておけばよくね?」というオチになることが確定している。
もっとこう──子育て経験が豊富そうな者の方が有益な情報が聞けそうなものだが……生憎電話帳でそれらしい人物は───
「……お?」
かなり下にスクロールした所で、懐かしい名前にカーソルが合った。
「久しぶりだな。今度は六年ぶりか?」
『お前から電話が掛かってくるなんて、こりゃ明日は画鋲が降るな』
電話の相手は孔。六年前甚爾の相談に乗ってくれた以来であり、それ以降連絡は全く取り合っていなかった。
元々そういう間柄だったのですっかり慣れていたが、よく考えれば礼の一つや二つしても良かったのではと今さら反省する。尤もする気は全くないが。
『それで、用件は?もし仕事が欲しいってんならそりゃ無理な話だぞ?なんせ俺は今バカンス中だ』
「道理で波の音が聞こえるわけだ」
耳を澄ませば砂浜に打ち付ける波の音が聞こえる。それと微かに人の声も………
「…嫁と娘も一緒にか?」
『残念、ペットも同伴だ』
「こりゃ一本取られたな」
流石にビーチにまでペットを連れてきているとは考えにくい。恐らくホテルの部屋にでも待機させているのだろう。
というかスルーしているが、電話から漏れる微細な音なら嫁と娘の存在を探ったこと自体が普通におかしいのだが……孔も孔で感覚が狂っているのだろう。
「…雑談もそこそこに本題に入るが、実はお前に聞きたいことがあってな」
『聞きたいこと?』
「……恵が反抗期なんだ」
『…………ハァ?』
凄いな最新の携帯電話は。声を聞いただけで肩を落として呆れた顔をする孔の姿を幻視できた。なんて音質だ。
「まぁ待てよ」
『大して面白そうな話でも無さそうだが?』
「いや、俺にとっては結構重大な問題なんだよ」
渋々という形で聞いてくれることになった孔へ、コトの次第を話していく。
一部始終全て話し尽くすのに4分程掛かったが、これでもコンパクトに簡潔に纏めたつもりだ。
『まぁ、事情は分かった。つまりアレだろ?要は恵が最近のお前を突っぱねてるんだろ?』
「そうだ」
『お前が極度の親バカで呆れたって線を除けば、確かに反抗期かもな』
「そうか。それで、その直し方というか、軽減の仕方を知らないか?」
『親バカのほうか?』
「反抗期の方だ」
すると孔が幾つか心当たりがありそうな唸り声を上げる。
『反抗期ってのは親が甘やかしすぎた結果ってのが多々あるからな。例えば…お前から厳しく当たってみるのはどうだ?』
「改善されるのかソレ?」
『改善できるかは怪しいな。だが恵にちゃんとした上下の関係を分からせられればその分効果は狙える。例えば怒鳴ったり──』
「なんだテメェ殺されてぇのか?」
『んなわけねぇだろ馬鹿言うな』
まぁ冗談抜きにあまり率先して選びたくはない択だ。
怒鳴ったところで反抗する意思は消えない。あくまで抑圧するだけだ。ちょっとしたことで押さえていた感情が爆発することもある。あとは何よりも、甚爾がそれを涙なしで演じ切れる自信がない。
『ソレ以外は…もう機嫌取りか別の何かに集中させるか…』
「それで解決するならとっくに解決してるだろうよ」
『だな……まぁ、いいじゃねぇか反抗期ぐらいよ。もう暫くしか味わえねぇんだぜ?』
確かにその通りではある。
楽しいか楽しくないかで言えば断然楽しくないが、思い出の一つとしては悪くはない。
「まぁ、それもいいか………ん?」
『どうした?』
玄関からガタン!と勢いよく扉を開く音が聞こえる。視線を送れば、そこには先程出掛けたばかりの津美紀の姿があった。
呼吸を荒げ肩で大きく息をし、額には汗がべったりと付いている。
「お父さん!」
「津美紀?どうしたそんな───
「恵が……恵が……!!
津美紀は息を整えながら、なんとか平静を保とうする。
一体何を言うつもりなんだ?
恵に関する──なにか、悪いニュースでもあったのか。
その瞬間、心臓がドクンと浮く。自身の第六感とも言うべき機関から、危険信号が全身へビリビリと走る。
止めろ。
何も言わないでくれ。
頼むから。
恵を危険に晒さないでくれ。
しかし、現実は非情だった。
───誘拐された!!!」
その瞬間
甚爾は呼吸を忘れた。
様々な感情が入り交じる。
絶望─。怒り─。悲しみ─。不安─。驚愕─。怨み─。喜び─。
だが────何よりも、どの感情よりも濃く深く強く。
大気をも歪ませる黒い感情が、甚爾を中心に迸る。
「あ゛?」
小1「僕パパ大好き!」
甚爾「俺も愛してるぞォ゙!」
小2「僕はパパのことが大好きです!」
甚爾「俺も愛してるぞォ!!」
小3「僕はパパのことをそんけーしてます!」
甚爾「俺も愛してるぞォ!!!」
小4「俺は父さんのことを…まぁ、尊敬してます」
甚爾「俺も愛してるぞォ!!!!」
灰原の術式が固まりだしたところで直哉の領域の名前と反転の性能を考えなきゃいけなくて鬱。
誤字報告ありがとうございます。